戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー   作:風花

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 遅くなって申し訳ありません。
 前回の投稿後、実習や書類作成などで時間を取られ、今日まで出せませんでした。
 これからも投稿のペースは落ちると思いますが、完結はさせるので、よろしくお願いします。

 *11月6日
 「白竜の騎士王」のルビを“グイン・アーサー”から“アルビオン・アーサー”に変更しました。


Fine7 昏迷の心達Ⅵ

 ふぅーっ、とマリアは長い溜め息を吐いて、ここに来るまでに被っていたヘアピースを外した。小さく畳んで、ナスターシャが座る車椅子に備わった収納スペースに納める。同様にサングラスやマフラーも収納した。

 

「……暑かったわ」

「お疲れ様」

「どうして、日向は変装しないでいいのかしら」

「僕は人前に出てないし、素人程度なら《園境もどき》使えば欺けるだろうし」

「暑さを同様に味わって欲しかっただけよ。気にしないで」

「了解」

 

 乗っていたエレベーターが止まり、目的の階に到着する。

 日向を先頭にして歩いてく。その中で、マリアは三日前にフロンティア上空に行った時の事を思い出していた。

 フィーネと名乗り上げたマリア達の計画は、

 ネフィリムの覚醒。ネフィリムを成長させる。フロンティアを動かす。

 簡略化すれば、以上の三つが計画達成の重要事項だった。

 ネフィリムの覚醒は二課の奏者三人による絶唱によって成功。成長にはF.I.S.から離叛する際に持ち出した聖遺物の欠片、そして融合症例第一号(立花 響)の腕を食べた事で急激な成長を見せた。途中、腕を食べられた意趣返しなのか、融合症例第一号に肉体を消滅させられたが、ウェルによって必要な心臓は回収できたので、まあよしと云うべきだろう。

 三つ目のフロンティアを動かす。これが一番重要だった。フロンティアを動かすのに必要なのはネフィリムの心臓だが、隠されているフロンティアを出現させるためには、ヘリに搭載されている神獣鏡(シェンショウジン)の聖遺物由来のエネルギーを中和する力が必要なのだ。

 そして三日前、機械で増幅した神獣鏡の力で封印を解いた。

 解いた――はずだった。

 放たれたエネルギーは確かに照射された。しかし、起きたのは気泡が浮かび上がるだけ。それ以上の成果はなかった。

 

(マムは何故、あれを見せたの?)

 

 一緒に見ていたウェルは当然のように怒り狂っていた。

 

 ――あなたは知っていたのか!? ――

 ――知った上で見せたのか!? 今のフィーネでは、フロンティアの封印解放するにほど遠いという事実を知らしめるためにッ!

 

 ウェルの事は好きにはなれないが、先日の彼の言葉に間違いはない。

 ナスターシャはどうして意味もない事を知らしめたのだろうか。

 マリアにはナスターシャの真意が分からなかった。

 

「マム。ここまで来たんだ、そろそろ教えてくれないかな?」

 

 それは日向も同じだった。

 前を向き進みながら、ナスターシャに問うた。

 

「……今の私達では世界は救えません」

「マム!? 何を言うの!」

「私達がしてきた事はテロリストの真似事に過ぎません。真に成すべき事は月がもたらす災厄の被害を如何に抑えるか。違いますか?」

「……」

 

 ナスターシャの言葉にマリアは言葉を失う。

 日向は黙って、目的地である会議室の扉を開いた。

 開いて、視界に映った光景に呟いた。

 

「それが……目の前の奴らが、マムの答えってわけ?」

 

 え、と、マリアが顔を上げた。

 会議室には先客がいた。黒服に身を包みサングラスを掛けた男達が。

 両腕を腰で構えて臨戦の体勢を日向は取っている。

 

「マム、これは……!」

「二人共、私の後ろにいなさい。平和のための対話を始めましょう」

 

 ナスターシャの言葉に、今度こそマリアと日向は怪訝そうな表情を浮かべた。

 もう――何が何だか、何もかもが分からなかった。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 風が吹く。心地良い風だった。

 それでも、この身が感じるのは痛み。そして――“回想”。

 巡る。巡る。

 始まりからの映像が、頭の中をぐるぐる――繰り替え(ダ・カーポ)し続ける。

 始まって、また始まって――何度“始まった”のか、もう数えていない。

 ただ、始まりは何度も見聞したが、何故か終わりだけ見当たらない。仮に始まりを一として、途中を二、終わりを三――と云った風に区切りを付けるなら、毎回必ず二で終わってしまう。

 始まりがあるのなら終わりは必ず存在する。それは森羅万象、有象無象に共通して言える事だ。

 この身だって始まりはあった。どれほどの年月が経過するかは分からないが、終わりは存在すると思っている。

 考えられるとすれば、終わりがなかったのか。或いは終わりだけ消されたのか。

 はたまた――“見る資格がないのか”。

 それを知る術は持っていない。

 だから、今は耐えるしかなかった。

 

「……ん」

 

 微睡(まどろ)みそうになる思考を繋ぎ止めて、気になった方角を見つめる。

 なんとなく気になった方向。いつもの如く突然その空間に現れるノイズ。見えるのは直線上からわずかに上下のみなので、飛行型が現れた事は確認できても地上に現れたかは確認できない。

 対処するか、と動こうとして、ふと気付く。

 現時点でノイズが現れるのはソロモンの杖を使用した時のみ。そしてそれを持っているのはウェル。更に彼のこれまでの行動から推測するに、ノイズを操作するためには比較的近い距離にいなくてはならない。

 これらから導き出される答えは――

 

「この下にいる可能性が高い、か」

 

 正直に云えば、あまり姿を見せたくない。

 ノイズが現れたなら、彼女達と鉢合わせしてしまうかもしれないのだ。

 ただ――それらを考慮した上でウェルを、F.I.S.を探そうと思う。

 探す価値がある、そう判断してその場から――“スカイタワーの展望台外部”から飛び降りた。

 同時にノイズが内部へと侵入していく。

 慎重に盾を足場として中を覗き込む。部屋にいたのは黒服の男が複数人とマリア、日向、そして恐らくは仲間であろう初老の女性。

 既に黒服の三人がノイズに炭化させられていた。

 続いて現れた人型のノイズ。それらが残った黒服の男を狙って歩みを始め、

 

  ―破ッ!

 

 鏡華は窓ガラスを蹴破って中に突入した。

 即座にカリバーンでノイズを一刀両断に斬り捨てる。

 

「……人が死ぬとこはあんま見たくないんだよ」

 

 けど、と鏡華は言葉を続けながらカリバーンを振るう。

 キンッと甲高い音が響く。視線の先には拳銃を構えた黒服の男。

 

「それが命の恩人に対する感謝の仕方ってなら、米国はクズだな」

 

 英語で返して踏み込んだ。

 黒服の男は発砲を続ける。それを躱す――事なく身体で受け止め、何事もなく剣から槍へ、カリバーンからロンへ武器を変更して、くるりと一閃する。

 一閃した穂先は拳銃の底を叩き弾き飛ばす。そのまま石突き――穂先とは逆の柄先――を腹部へ減り込ませた。

 

「このっ、化物め!」

「人間だよ、これでもな」

 

 近くにいた男も発砲するが、今の鏡華は痛みを感じても倒れも死にもしない。

 槍を手放し、瞬動で懐へ潜り込み拳の一撃を見舞った。

 ずるりと倒れる男。

 興味をなくしたように投げ捨てた鏡華は視線をズラし、

 

「迷惑だったか? マリアさんに音無くんや」

 

 薄く笑みを浮かべて言った。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 突如現れた遠見鏡華。

 その出現に驚いて、マリアはわずかに反応が遅れてから警戒する。

 何もしないと判断し、日向が生身だが臨戦態勢を取っている事を見て防護服を纏う。

 

「警戒すんな……とは言っても無駄か」

 

 くく、と喉の奥で笑うと、鏡華は足元に放置した槍を消して両手を挙げた。

 何も持ってない、とでもアピールしたいのだろうか。

 ただ、それよりもマリアは、鏡華の笑い方がオッシアに似ていると場違いにも思ってしまった。

 

「時間もねぇし、単刀直入に問う。俺と取引しないか?」

「取引……だと?」

「俺はマリアさん達がここから逃げる手助けをする。マリアさん達は俺とオッシアを会わせる。これだけさ」

「オッシア、と……?」

 

 取引の内容にマリアは脳内にハテナマークを浮かべた。

 恐らく、米国からは回収部隊の他に、刺客として以前ヘリを襲った奴らと同じ部隊が控えているはずだ。逃げ出すにはその部隊と交戦する事が確実となるはず。彼もそれぐらいは考えているはずだ。なのに、その対価がオッシアと会わせる。たったそれだけ。

 どう考えても採算が合わない。

 

「駄目。最悪、あなたの仲間に連絡する可能性があるわ」

「じゃあ、携帯壊すわ」

「は?」

 

 そう言うと、携帯端末を取り出す鏡華。そのまま空中に放り投げ、

 

  ―撃ッ!

 

 両拳で挟むように殴り、携帯端末を壊した。

 呆気に取られるマリア。

 

「もったいない……」

「仕方ないだろ、音無くん。マリアさんが連絡するって警戒してんだし」

「うん、まあ……」

 

 それでも、もったいないなぁ、と云う視線で砕けた破片を見下ろす日向。

 

「これでいいかな?」

「え、あ、ええと……」

「構いません。その取引を受けましょうマリア」

 

 驚いて答えられなかったマリアの代わりに答えたのはナスターシャだった。

 マリアは更に驚いて振り返る。

 

「ただし、あなたには対面後、捕虜としてしばらく拘束させてもらいますが、それでも取引しますか?」

「ああいいよ。俺の肉体を調査、検査、解剖、その他色々しないなら、煮るなり焼くなりしてくれ」

「分かりました。マリア、日向。彼と協力して敵勢力を無効果、待ち伏せを避けるために上から脱出します」

 

 指示を出され、マリアは不承不承応じてナスターシャを担ぐ。

 日向は鏡華の横に並び、マリアの前に立つ。

 

「まさか血塗れで別れて、すぐに再会するとは思いませんでした」

「同感。一ヶ月経ってないけど大丈夫なのかい?」

「長時間の使用は無理な程度までは回復しました」

「そりゃすごい回復力だ」

 

 素直な感想を述べた鏡華。眼を閉じて防護服――と云うより全身鎧を身に纏う。

 

  ――凶り汚れ果てる理想――

 

 顔を含めて全身を隠した鏡華は、

 

「うし、行くか」

 

 散歩に行くぐらい気軽な口調で、部屋を出た。

 部屋の外には、既に武装した米国の軍人が銃を構えて待機している。

 人が出てきた瞬間、発砲してくる。

 

「準備がいいこって」

 

  ――護れと謳え聖母の加護――

 

 多数展開したプライウェンが全てを防ぎ、明後日の方角へ跳弾していく。

 軍人はそれでも発砲を止めない。

 目の前の鏡華だけに集中している間に、鏡華は軍人達の背後にロンを形成。

 

  ――貫き穿つ螺旋棘――

 

 狙いを定めて射出。背後からの奇襲に、軍人達が気付いた時には四肢を貫かれた後だった。

 地面に縫い付け意識を刈り取ってからロンを消し、手にしている機関銃とポーチを漁り予備の弾丸をアヴァロンの中に突っ込む。

 

「んじゃま、蹴散らすとしますかね」

 

 ガシャンと鎧を鳴らしながら、鏡華はゆったりと歩みを再開する。両手にカリバーンを握りながら。

 

「……味方にしてよかったね?」

「味方かどうかは分からないわね。でも、一応同感って言っておくわ日向」

「二人共、お喋りはそこまでです。背後に注意しつつ彼に付いて行ってください」

 

 ナスターシャの言葉に頷いた日向とマリアは顔を見合わせて頷き、先行する鏡華を追った。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 いくつもの爆発音に人々は驚き、外を見て恐怖した。

 

「ノ、ノイズだっ!」

 

 誰かが叫んだ声を聞いた者は全員、一目散に非常階段へと駆け出していく。

 非常口は未来の後ろにある。

 人々は未来と向かい合う形で通り過ぎている。しかし、響だけは逆方向に駆け出そうとしていた。

 慌てて響の腕を掴む。

 

「待って! どこ行くの!?」

「未来……でも行かなきゃ!」

「行かせない! この手を離したら響は戦いに行くんでしょ。私は響を戦わせたくない! 鏡華さんのように遠くに行ってほしくないの!!」

 

 未来の言葉に、響は言葉に詰まった。

 胸のガングニールの一件を未来には教えた、と弦十郎から伝えられていた。

 分かっている。日向の事を相談する直前まで、響自身も悩んでいた。

 その時、階上から少年の泣き声が聞こえてきた。

 母親とはぐれてしまったのか、泣きながら非常階段とは逆方向へ歩いていく。

 それを見て、聞いて、響は“戦う”事に迷いを見せても“人助け”をする事に迷う事はしなかった。

 

「胸のガングニールを使わなければ大丈夫なんだ! このままあの子を、困っている人を見過ごすなんて私にはできないよ! 未来」

「響……」

 

 今度は未来が何も言えなくなる番だった。

 いくら未来でも、響の人助けを止める事はできない。

 手を離した響は少年の許へ走って行く。

 独りにしておけない未来は、その後に続いて走る。

 歩く速度が遅かった少年にすぐに追いついた二人は、あやしながら少年の歩幅で非常階段へと連れてくる。ちょうど最後の確認をしていた職員が三人を見つけ、すぐに少年を抱き上げながら非常階段で下りて行く。

 少年を連れながら辺りを見たが、少年以外に逃げ後れた人はいなかった。残りは自分達だけだろう。

 顔を見合わせ、笑みを浮かべる響と未来。

 二人も批難するために非常階段へ歩き出し、

 

  ―割ッ!

  ―壊ッ!

 

 何かを割る音と壊す音が真上から聞こえた。

 

「危ないっ!」

 

 同時に未来が響を押し倒す。

 いや、同時ではなかった。割る音と壊す音が聞こえる前に、

 

  ―鈴ッ

 

 未来には鈴の音が確かに聞こえ、反射的に響を守るために動いていた。

 立っていた場所に崩れてくる天井だった瓦礫。

 反射が結果的に響と自分を助けたのだ。

 

「ッ……ありがとう未来」

「うぅん。……あのね、響――」

 

 周りの瓦礫を見て、響は笑ってお礼を言う。

 もし未来が押し倒さなければ、二人共瓦礫の下敷きになっていただろう。

 出口は塞がってしまった。

 だからなのか、未来は想いを伝えようと口を開きかけ、

 

  ―崩

 

 ――どうして、なのだろうか。

 どうして、大切な事を伝えたい時はいつも伝えられないのだろうか。

 

  ―鈴ッ

 

「響ッ!!」

 

 響と未来を引き離すかのように床にヒビが入り、響の方だけ崩れていく。

 崩壊の衝撃で、響が外へ――数百メートルも上空へ投げ出される。

 未来は振動する中で必死に手を突き出して――

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 銃撃の音がやけにハッキリと聞こえた。

 背後を振り返る。投げ出すように倒れる一般人が二人。左胸と首から、それぞれ多量の血が流れている。

 助けられるかどうか――否、間に合わない。彼らは助けられない。

 ――冷たいな、俺も。

 冷静に判断を下す自分に呆れる鏡華。

 視線を兵士に向ける。その時、既にその場にいた兵士はマリアのガングニールによって崩れ落ちていた。

 ガングニールの穂先とマリアの頬には飛び散った血が付着している。

 

「全ては、フィーネを背負い切れなかった私の責任だ……ッ」

「マリア……」

 

 マリアの呟きに、ナスターシャは声を掛ける事ができなかった。

 日向は兵士の出現を警戒している。まだ後ろには生きている一般人が数人いるのだ。

 

「左通路から数人来ます! 遠見先輩、守れますか?」

「ああ。もう銃弾は通さない」

 

 ガシャンと鎧を鳴らし、兵士達を待つ。

 鎧の音に一般人は短い悲鳴を上げていたが、気になどしてられない。

 プライウェンを多数具現して、一般人の前とマリア、ナスターシャの前に展開する。

 

「……来ますっ」

 

 日向の合図と共に通路から兵士が飛び出し、機関銃を構えて撃つ。

 鏡華へと当たる弾丸は鎧に弾かれ、一般人へと向かう弾丸もプライウェンに防がれた。

 

  ―疾ッ

 

 弾丸の嵐を瞬動で躱して、日向は兵士の懐へ迫り、

 

  ――瞬浸――

 

 ぽんっとそれぞれの身体の一部に、瞬動で駆け抜けながら拳を押し当てる。

 

  ―撃ッ

 

  ―撃撃撃撃ッ!

 

 それだけで兵士の身体が“爆ぜた”。

 ある兵士は胸が。ある兵士は背中が。頭が。腕が。足が――

 たった一撃、拳を押し当てただけで兵士の身体は、殴られたかのように弾けた。

 《鎧通し》とも云われる《浸透勁》を使った極技。衝撃を伝導させる事によって、どこからでも好きな部位に衝撃を打ち込む事ができるのだ。

 

「ひ……ッ!」

「ッ、狼狽えるな! 今の内に逃げろッ!」

 

 兵士が倒れるのを見て、また悲鳴を上げる一般人。

 それを見てマリアが困惑したまま一喝。強い口調で命令する。

 

「後悔してるのか? マリアさん」

 

 逃げ出した一般人が通路の角に消えて行くのを見ながら、鏡華が訊ねる。

 

「後悔なんて……!」

「だが今の言葉、まるで自分に言っているようだった」

「ッ……確かに、私に向けて言った言葉だ。だけど、もう迷わない! 一気に駆け抜ける!」

「……そうかい。ならば行こう」

 

  ――貫き穿つ螺旋棘――

 

  ―撃ッ!

 

 数本のロンで天井を貫く。穴が空いた天井へ、鎧を解いて跳び上がる鏡華。

 途中でプライウェンを足場にした連続跳躍で上の階に着地する。

 瓦礫だらけだが、崩れた物を見る限り展望台だと分かった。

 

「――鏡華、さん……?」

 

 辺りを見回していた時、声が聞こえた。確かに自分の名前を呼ぶ声だった。

 もう一度辺りを見る。火の手が上がり、逃げ場などない崖のようになってしまった場所に、彼女はいた。

 

「未来……?」

 

 何故ここに、と思わずにはいられなかった。

 だが、そんな事を話している暇なんてない。

 同じように跳び上がってきたマリアと日向も未来を見つける。

 

「未来ちゃん……!」

「ッ、ここから逃げるぞ! 悪いがこの子も連れてく!」

 

 有無を言わせない声を出し、鏡華はプライウェンを三人分具現化する。未来を抱きかかえプライウェンに乗る。マリアとナスターシャ、日向も乗った事を確認して、階下で起こった爆発に紛れてスカイタワーから飛び出した。

 

「鏡華さん……」

「ごめん。本当なら立花の許に送るべきなんだろうけど、そんな事をしてる場合じゃないんだ」

 

 その代わりに、と、携帯端末を出してもらい、それをスカイタワーに近い、街を流れる川目掛けて落とした。

 

「壊れたらごめん。後は二課に見つけてもらうのを期待しよう」

「はい……。鏡華さん、これからどこへ行くんですか?」

「間に合うといいんだけど……どうしても“奴に”言いたい事があるんでね」

 

 最初の呟きは小さすぎて、未来には届かなかった。

 だけど未来には、鏡華が今にも壊れてしまいそうに見えた。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 マリアと日向、ナスターシャが戻ってきたのは、日が落ちる前だった。

 調と切歌、オッシア、ウェルが出迎えた。

 三人は盾のような物に乗って戻ってきた。――予想外の人物を連れて。

 

「遠見、鏡華」

「な、なんでお前が付いてきているんデスか!?」

 

 二人の驚きに誰も答えない。

 マリアと日向は返答に困り、ナスターシャは答えず。

 荒い息をこぼす鏡華は、未来にその場にいるように言って、

 

「やっと会えたよ、この野郎」

 

  ―疾ッ!

 

 日向とオッシア以外が気付かない速度でオッシアに接近し、いつの間にか具現化していたカリバーンを振るった。

 

「オッシア!」

 

 調が叫んだ時には、既にオッシアの頭部を隠していたフードが斬られた後だった。

 フードが風に飛ばされ、オッシアの顔が露わになって、ナスターシャを除くフィーネの面々は絶句した。

 露わになったオッシアの顔は、鏡華と瓜二つだったからだ。

 周りで驚いているマリア達など気付かず、鏡華はふらふらとしながら言う。

 

「俺は、間違ったとは思ってねぇ。自分の、この、せん……たくは、絶対に……」

「御託はそれだけか?」

 

 オッシアは冷たく言い放つ。

 それをどう受けたのか、鏡華はにやりと笑い――地面に崩れ落ちた。

 

「鏡華さん!?」

 

 未来が叫び、駆け寄ろうとしたが、それをオッシアの言葉が止めた。

 

「もう目覚めているんだろう? さっさと起きろ――赫竜の騎士王(ウェルシュ・アーサー)

「――――」

 

 オッシアの言葉に、鏡華の身体が起き上がる。

 鏡華さん、と声を掛けようとして、そして未来は口を閉ざす。

 目の前で起き上がっているのは紛れもない遠見鏡華だ。それは間違いない。

 なのに、どうして“他人に見える”のだろうか。

 起き上がった鏡華は周りを見渡し、最後にオッシアを見て、

 

「なるほどな。貴様が一枚噛んでいたと云う訳か。白竜の騎士王(アルビオン・アーサー)

 

 鏡華の顔で、鏡華の声で――鏡華ではない雰囲気を出して、口を開いた。


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