戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー   作:風花

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 サブタイトルを変更しました。
 予定と話がだいぶ違っていき、結果、サブタイトルの意味が無くなってきてしまいました。
 それに伴って、前書きに書かれているテキストも変更します。
 ご理解の程よろしくお願いします。


Fine7 昏迷の心達Ⅴ

『デートするべきです』

 

 数時間前、ヴァンは唐突に響に携帯端末越しに怒られた。

 単刀直入すぎる言葉に一瞬だけ呆けてしまったが、すぐに言葉を返す。

 

「いきなりだな。喧嘩打ってると見ていいか(オーケー)?」

『いやいやいや。むしろお二人の仲を心配してあげているんですよ、私と未来は。おーけー?』

「……続けてみろ」

 

 どうでもいい理由だったら通話を切ればいい。

 そう判断してヴァンは響を促した。

 

『ヴァンさん。最近クリスちゃんと二人でいるみたいだけど、出掛けてはいないみたいじゃないですか。それじゃあ、ダメダメですよ一緒にいるだけじゃ。適度なデート、それが大事なんです!』

「……経験上の言葉か?」

『いえすあいどぅー』

 

 ここぞとばかりに響は調子に乗る。

 英語の発音がなってないのは響らしい。

 

『それに』

「ん?」

『クリスちゃんに聞いたんですけど、昨日出掛けようとしてすぐ部屋に戻っちゃったそうじゃないですか。クリスちゃん、平気そうな顔してますけど、きっと寂しがってますよ』

「……」

 

 耳が痛い、とはこの事だろう。

 ここ最近はエクスカリバーの事ばかり調べたりしてクリスに構っていない。むしろ食事の準備や飲み物を出してくれるなど世話になりっぱなしだった。

 クリスは何も言ってないが、確かに響の言う通り寂しがっているかもしれない。

 

「まさかお前に注意されるとはな。だが、感謝する立花。そうだな、デートぐらい誘わないとな」

『そうですよ! かく言う私も今から未来とデートですけど。そうだ、ヴァンさんとクリスちゃんも一緒にダブルデートしませんか!?』

「だが断る」

『即答だった!』

「……お前はどうなんだ立花。嫌味のつもりで言うつもりじゃないが、音無日向の事はまだ迷っているんだろう?」

『たはは……それはこれから恋する乙女である私の陽だまり、未来にアドバイスしていただいてから、すっきりはっきりさせようかと……』

「そうか」

 

 スピーカー越しに「響、まだ準備できないの?」と声が聞こえた。

 恐らく未来だろう。出掛ける前らしく、冗談ではなく本気でダブルデートは狙っていたようだ。

 

「待たせてるみたいだな、もう切るぞ。助言は改めて感謝する」

『いえいえ! それじゃあクリスちゃんと楽しんでくださいね!』

 

 切れる通話。

 携帯端末をしまうとヴァンは吐息を漏らし――

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

「――とまあ、そんな理由だ」

「理由はどうあれ、ヴァンに誘われるのは嬉しいけど……どっか納得いかねぇな」

 

 自分を誘って出掛けたヴァンに、理由を問い詰めたクリスは頭を掻く。

 久し振りにヴァンからデートに誘ってくれたのは素直に嬉しい。しかし、誘わせる要因が響辺りにある事がクリスにはちょっと面白くなかった。

 とは云え、要因は響だろう。しかし、原因を究明すれば響や未来に現状を話したクリス本人にあるのだが、それは言わぬが花、と云うものかもしれない。

 

「まぁいいか。そんでヴァン。どこに連れて行ってくれるんだ?」

「あー……」

「……」

「……」

「……考えてないのかよっ」

 

 渾身のツッコミにヴァンは素直に「すまない」と頭を下げた。

 

「一応出掛ける前にどこへ行こうか考えてみたんだが、どうにもクリスが楽しめそうな場所が思いつかなくてな……」

「ちなみに聞くけど、候補として浮かんで却下した案は?」

「ふらわー。本屋。楽器屋。CDショップ。その他リディアンや二課と色々」

「分かった分かった。ヴァンはあんま外に出ないもんな」

 

 ヴァンに悪気なんてない。

 いきなり日常に帰ってこれた自分達には趣味と言える趣味はない。

 例えば、シンフォギア奏者として定期的に給金として渡されたお金がある。響の場合それらはだいたい食費で消え、翼の場合乗り捨て用のバイクを買っているだろう。もちろん共に勝手な想像だ。

 ちなみに奏と鏡華は特に何も買ってないらしい。

 どうでもいい閑話だが。

 ではクリスとヴァンはどうだったか。二人が相談して買ったのは――両親のための仏壇だったりする。

 それ以降は生活費として消えてるが大した金額ではない。溜まっている一方だ。

 

「しっかし、そうするとどうすっかなー」

「必需品は買ったばかりだしな」

「……」

 

 クリスは空を仰いでしばらく熟考。

 一分程して、よしと呟いて、

 

「前あいつらが話してた、ゲーセンってところ行ってみようぜ」

 

 そう提案してみた。

 良い案が思い浮かばなかったヴァンは反対する事もなく頷いた。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 前々からゲームセンター、略してゲーセンにクリスは来たいと思っていた。

 店内や筐体から流れるBGMの音量に顔を顰めるヴァンとは対照的に、クリスは物珍しそうに見回していた。

 

「少しうるさくないか? クリス」

「そうか? あたしにはちょうどいいくらいだけどな」

 

 確かにクリスは戦闘中は銃撃の音を一番近くで聞いている。

 大音量は慣れているのかもしれないが、大きな音を聞き続けていると将来耳を悪くすると聞いた事があった。

 ガセかどうかは分からなかったがちょっと心配なヴァン。

 どんどん奥へ進むクリスを追い掛ける。

 

「おっ、これって銃を使ったゲームだよな。やってみようぜヴァン」

 

 ガンシューティングを見つけ、早速筐体に硬貨を投入するクリス。

 ヴァンもワンテンポ遅れて硬貨を入れてコントローラーであろう原色一色の銃を持つ。

 ルールをしっかり見てゲームスタート。

 

「む……」

 

 やはりと言うべきか、本物の銃のように反動や重量はない。操作スイッチも引き金だけと云うシンプルさ。

 ただちょっと狙い通りに当てるのが難しい。

 

(どうやってモニターとリンクさせているんだ? ちょっとズレるな)

 

 ヴァンが悪戦苦闘してる中、クリスは一発二発撃つと、

 

「……よし分かった」

 

 ある程度理解して頷いた。

 瞬間、BGMから三発の銃声が聞こえた。

 狙い違わずに敵キャラに命中して倒れるアクションを起こした。

 

「……凄いなクリス。流石はいつも銃を扱ってるだけある」

「まあな。これぐらいおもちゃだよ、おもちゃ」

 

 楽しそうに言って、敵キャラに撃ち込んでいく。

 しばらく画面に向かって撃ち続け、ヴァンは第二ステージの中盤でゲームオーバーになり、一人になったクリスは最終ステージでゲームオーバーになって終わった。

 

「あー、悔しい! 自分でよけらんねぇのが難しいんだな」

「俺に銃は似合わない事が改めて分かった」

「ははっ、何発も当たってなかったよな」

「放っとけ」

 

 不貞腐れたようにそっぽを向くヴァン。

 その方向に数人の男が集まって、ボクシングのグローブを付けた男を見ていた。

 グローブを付けた男は大きく振りかぶると、筐体に設置されていたミット(?)を思い切り殴った。

 するとモニターに数字が表示される。測定器みたいなものだろうか。

 

「クリス。あれ、やってみないか?」

 

 やっていた集団が離れて、ヴァンが指を差す。

 近寄ってみると、クリスはヴァンにやってみたら、と言ったのでヴァンが挑戦する事に。

 

「ぷっ……ははは! 似合わねーぜヴァン!」

 

 グローブを付けたヴァンを見てクリスが笑う。

 ヴァンは溜め息を漏らしながら、起き上がったミットを睨む。

 コツがあるかどうか分からない。分からないならただ殴ればいいだろう。

 息を整え、ゆっくりと腕を振りかぶり、

 

  ―打ッ

 

 筐体からの合図と共に拳を打ち込んだ。

 意外と大きな打撃音に、周りで別のゲームをしていた客が振り向く。

 

「ふぅ……これって、ストレス発散になるかも――なっ!」

 

  ―打ッ!

 

 二回目は若干日頃溜まったストレスの鬱憤を晴らすように叩き込む。

 また大きい打撃音に更に客が振り向く。

 

「ヴァン。あたしもやっていいか?」

「ああ構わない。日頃の恨みとか込めて打つとかなり気持ち良いぞ」

 

 ヴァンはグローブを外してクリスに渡す。

 ちょっとぶかぶかのグローブを付けて、クリスも殴った。

 女の子にしてはかなり良い音で殴った事だけは確かだ。

 

「……おっ、どうやらハイスコアが出たみたいだな」

 

 三発の合計はこの筐体の二位の記録を塗り替えたらしく、名前を入力する事を要求された。

 クリスは五文字まで入力できるのを見て、少し考えてから、ちゃっかり『夜宙クリス』と入力して決定ボタンを押す。

 

「……クリス」

「べっ、別にいいだろ! たかがゲームの中の記録なんだし!」

「別に構わないが……それにしても、一位は誰なん――」

 

 自分達より好成績を記録した相手が気になり、ヴァンは一位の記録を見た。

 数十程度の違いだが上の記録を出したゲームプレイヤーとして入力された名前は、

 

「遠見奏――クリスと同じ事する奴が他にいたとはな」

「つか、どう見てもあいつだろ」

 

 どんな風に想像しても笑ったままミットを殴っている光景しか浮かばない。

 ヴァンとクリスは顔を見合わせて苦笑した。

 その後、ヴァンとクリスは様々なゲームを楽しんだ。

 クレーンゲーム、音ゲー、格ゲー、レーシングゲーム――

 どれも初めての事ばかりで時間を忘れて楽しんでいた。

 楽しんで、楽しんで――昔のように遊んだ。

 

 数時間後、二人に出動要請の連絡が入る。

 東京スカイタワーにノイズが出現したらしい。

 遊びを切り上げたヴァンとクリスは、すぐに飛んできたヘリに乗り、現場へと急行した。

 こんな平和な時間を何度でも作るために――

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 ヴァン達をけしかけた本人である響は、未来と二人でデートに来ていた。

 場所は少し遠出して東京スカイタワー。その内部にある水族館である。

 そこでキャッキャッウフフと周りが微笑ましく、あるいは砂糖を吐きながら見ている中で、楽しくデートをしている――訳ではなかった。

 響は独りでぼーっと眼の前を泳ぐ魚の群れを見つめている。

 出掛ける直前までは楽しみにしていた。否、楽しもうとしていた。

 それでも頭を埋め尽くすのは様々な問題。

 

(死……それは誰にでも訪れる最期。ノイズと戦うって事は自分から死に近付いていく……はずだったんだけど、それがいつの間にか遠い事だと錯覚するようになってた。普通の人とは違って私はノイズと戦う事が出来る。きっと自分でも気付かない内に、戦える自分は大丈夫って考えてたんだろうな……)

 

 ノイズとは特異災害の総称。

 自然災害と同類の指定を受けた対象が現れた場合、人類は逃げる、隠れるしか対抗手段はなかった。

 響もシンフォギアを知るまでは逃げ回っていた。

 だけど、いつしか逃げるのではなく立ち向かっていくようになっていった。

 自分はノイズを倒せる。ノイズを倒せば困っている人を助けられる。なら戦うべきだ。

 

(戦える私が戦えなくなったら、私を必要としてくれる人なんているのかな……)

 

 もしこれが少し前の響だったら、こんな風に考える訳ないだろう。

 ――ノイズを倒せないなら、戦わない。戦えないのなら別に私が出来る事を探せばいい。

 前向きにそう考えていただろう。

 しかし、今の響は視野狭窄(しやきょうさく)に陥っていた。この数ヶ月の間に、響は戦士として染まりきってしまっていたのだ。

 故に今の響には自らの問い掛けに答える事が出来ないでいた。

 

(必要と云えば……ひゅー君に対する私の想いもそうか)

「――。……き」

(私のこの想い。幼馴染みとして好きなのか、それとも――)

「……えいっ」

「うわひゃーっ!?」

 

 ピトッと頬に何かが当てられる感触。感想、とても冷たい。

 刹那の内に反射で叫んでしまう。

 響を見つめ返していた魚は口をぱくぱくさせながら離れていき、周りのお客が何事かと振り向いていた。

 振り返ると、未来が冷えた缶ジュースを差し出していた。

 

「大きな声を出さないで、響」

「だ、だだ、だって、そんな事されたら誰だって大声出すよー」

 

 差し出されていた缶ジュースを受け取りながら言い訳する。

 とは云え、せっかくのデートなのだ。ぼーっとされていたら、いたずらしたくもなるだろう。

 あたふたした後に謝った響と一緒に見晴らしの良い展望台まで昇り、空いていたベンチに座る。

 

「さて、響がデートの最中に落ち込んでいたので、本当は喫茶店でするはずだった恋愛相談をここでしようと思います」

「なんと云う公開処刑!?」

 

 驚いて声を上げる響だが、未来は取り付く暇も与えない。

 スチャッと掛けていない眼鏡の縁を上げる仕草をして口を開いた。

 

「じゃあ響。まずは状況説明をして」

「あぁ、もう後には戻れない。呪われてるのかな私……」

「主人公補正と云う点でなら呪われてるね」

「主人公補正……?」

「気にしない気にしない。右から左へ受け流して、はい、スピーチ、スタート」

 

 この無駄の少ないスルースキル。

 とにかく話を進めようとする無理矢理感。

 ――未来が遠見先生に何となく似てきた気がする……。

 響は言わずにそう思った。代わりに逃げられないと判断し、ジュースで喉を潤してから口を開いた。

 

「ひゅー君に対する私の感情が友情なのか恋なのか、分かりません!」

「うん。確かに響の状況説明だけど、それに至った経緯の状況説明じゃないね。じゃなくて、どうしてそんな風に悩む事になったのか、説明して」

 

 あ、そっちか、と響は改めて説明するために口を開いた。

 とは云え、状況だけならば未来だって見ていたはずである。

 四人分の絶唱のダメージをその身に受けて動けなくなっていた時、日向が絶唱を唱ってからした告白とキス。

 それから響は悩むようになったので、原因は明らかに日向からの告白とキスしかない。

 

(多分、日向は必要だったからキスしたんだろうけど……そこで告白までしちゃ駄目だと思う)

「師匠が私の傷の説明をして皆が病室を出てから、ヴァンさんが教えてくれたんだ。ひゅー君は私の事が好きなんだろうって。私、全然気付けなかった」

「まあ、日向が響を好きなのって蒸発する前からだったから。響が気付けなくても無理はない、かな?」

「え、ひゅー君、昔から私の事好きだったの!?」

 

 驚く響を前に、未来は無言で眼を逸らして頷いた。

 

「うわー……ものすごぉく罪悪感」

「それは仕方ないよ。気付く気付かないは人それぞれだし。――それより、響は日向の事、理屈とか丸っと投げ飛ばして、どう思ってるの?」

「投げ飛ばすって……。えっと、恋とか抜きにすれば、ひゅー君の事は好きだよ。一緒に遊んでいた幼馴染みの仲だし」

 

 好意自体はある、と響は即答する。

 こう云う返答を、未来はある程度予想していたので次へ進んだ。

 

「仮に、だよ。仮に日向が蒸発する事なくあれからもずっと一緒にいたらどうなってたか、とか考えた事ある? もしくは今すぐに想像できる?」

「いなくなる事なく、か……」

 

 今度は即答はせず、考え込む響。

 いなくならないのならきっとあれからもずっと一緒にいただろう。思い出したくないライブ襲撃の後の事はまったく想像できないが、それを抜きにすれば、中学卒業後は進路は違っても友達でいたはず。

 

「遊ぶ時間は減っちゃうけど、それでも友達のままだったと思うよ」

「だろうね。……それで卒業前後に告白したんだろうな、日向の事だから」

 

 ぼそっと呟いた未来。日向の場合、鏡華と違い(決して悪い意味ではない)、大事な事はハッキリとしておきたい性格だ。告白しても響に意味が通じるかは分からないが。

 また、幸か不幸か、響の耳に未来の言葉が届く事はなかった。

 

「と云うかね、未来」

「うん?」

「恋する乙女って、どんな感じなのかな?」

「……」

 

 そう云えば、そうだった。

 未来の隣に座る未来の太陽である親友、立花響の最大にして最悪の弱点。

 それすなわち――女子力の低さだ。

 暴露する時に効果音を入れても問題ないくらいである。

 昔からスレンダーな身体の割に胸は平均より大きく、出るとこは出て引っ込む所は引っ込んでいる。謂わばボンキュッボンを地できている響。

 食事だって好きな物、特に炭水化物である白米を多く食べている。

 にも関わらず、本人の身体や精神はその自覚がこれっぽっちもない。

 

「また胸が大きくなってる。ブラ買い直すの面倒だよー」

「未来、帰りにふらわー寄って行こうよっ」

「ダイエット? 大丈夫だよ。太ってないから」

 

 などなど――正直、響相手じゃなかったら、キレていたかもしれない程の体質だ。

 後々に困らないように、時々少女漫画とかを貸したり、オシャレさせたりしているが、成果は上がってない。

 

(無意識なら、アイドルにも負けないぐらいのオシャレするんだけどなぁ……)

「……未来?」

「日向と会話したり、会ったりして、ドキドキとかしない? 響」

「あー、うーん……ドキドキってわけじゃないけど……あのね、未来」

「うん」

「ひゅー君にキスされた感触が――忘れられないんだ」

「……」

「未来とおはようのキスをした時とは違う、何て言うかな、思い出すとすごくはっきり思い出せるんだ。それで、思い出す度に頬が熱くなって、胸が締め付けられるみたいに痛むんだよ」

 

 一番重要な気持ちをさらっとぶっちゃけられてしまった。

 響の表情を一番近くで見てしまった。これには何もかも固まってしまう未来。

 ――どうしよう。どうしようっ。

 思わず、思考中の頭が焦りを見せ始め、表には出さず内情だけ狼狽してしまう。

 

(まさか、響の女子力がここまで残念だったなんて――!)

 

 うわぁ、うわぁ、と意識上の未来が頭を抱える。当然、そんな動揺も狼狽も響には一切これっぽっちも、片鱗の一欠片も見せはしない。

 何で気付かないのだろうか。鏡などで自分の顔を見ながら考えた事はなかったのだろうか。いや、考えよう。せめて相談とかする前に、自問自答とかするとかして自分だけで色々と悩んでほしかった。いやいや、別に響を責めている訳じゃない。響は私の太陽、一番の親友。響の行動とか性格とかは響以上に知っているはず。故に響が気付かない事なんて百どころか二百も三百も承知の上だ。いやいやいや、だけど、それにしたって、

 

(そんな顔して言う台詞じゃないよ、響――!?)

 

 そんな、熱に浮かされたような表情(かお)で言うものではない。

 響の表情はまさしく、恋する女の子そのものだった。

 

(どうしよう。教えるべき? それとも、それとなく言って自分で気付かせる?)

 

 むむむ、むむむ、と悩み続ける未来。

 ここまで掛かった時間は、脳内時間で数分間。現実時間でコンマ五秒も掛かっていない。

 そして最終的に、

 

「……あのね、響」

「うん? どしたの? 未来」

「それってさ、絶対に――」

 

 言わなかったら間違いなく気付かないであろう響のために指摘しようとして、

 

  ―爆ッ!

  ―轟ッ!

 

 何かが爆発する轟音が、

 デートを、

 響の気持ちの答えを、

 それら全ての事象を中断させた。


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