戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー   作:風花

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この手が描くのは、天駆ける空への路。
小さく、儚き、言の葉を、
二人で奏で、調べ、空へと羽撃く双つ翼と成す。

Fine1 其れは終わりの名

終わりによって、満ち足りた日々は終わりを告げた。
辿り着きし理想郷は――再び、遥か彼方の理想郷へ舞い戻る。


Fine1 其れは終わりの名Ⅰ

 月の欠片が地球に“落とされてから”三ヶ月が経った。

 いや――“欠片を少女達の歌が破壊してから”三ヶ月が経った、と云うべきか。

 ルナアタックと呼ばれるようになったあの一件によって、世界情勢は大きく変わった。

 

 元々、水面下で囁かれていた対ノイズ兵器であるシンフォギアシステム。

 それが月の欠片を破壊すると云う盛大な花火によって、存在が露見された。

 数年前より、非合法な暗躍を行ってきた米国政府は、露見した途端日本を激しく非難し、国際世論を一気に煽ったのにも関わらず、日米安全保障条約に盛り込まれている“相互協力”を名目に掌を返して協力を強調した。

 また、非難は国外だけに収まらず国内からも生まれた。政府野党や市民団体を中心に“憲法違反”と叩かれるようになったのだ。

 このままでは批判の大合唱に変わってしまう事を恐れた日本国政府は、米国政府の要求を受け入れ、国際的平和活用を大々的にアピールせざるを得なくなった。

 同時に、ロシアと中国もこの機に乗じて露中共同声明を発表。

 ――日本が技術独占し、更に聖遺物から得られる利益を独占するなど、あってはならない――

 厚顔なコメントは、別方向へ波紋を拡大させつつあった。

 

 そんな状況の中、一部の者から英雄と称される存在となったシンフォギアを纏う者達――奏者達は以前と変わらぬ生活を送っていた。

 以前、と云ってもルナアタック後一ヶ月ぐらいの話も含まれるが。

 

 ルナアタックから三ヶ月。

 ノイズの脅威は尽きる事はなく、人と人との闘争はその身を潜めていた静寂で平和な三ヶ月。

 されど平和とは、次の闘争の準備期間でしかない。

 静寂と平和は破られ――再び、奏者はその身を闘争に置く事になる。

 終わりが始まりを告げる刻。

 語るべき物語の第二楽章が――幕を上げる。

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

 ガタンガタン、と音を立てて闇夜を列車が駆ける。

 その列車を追い掛ける影が複数。人ではない。かと云って機械や兵器の類いではない。

 では何か――特異災害認定された、“人が人を殺すために造られた”化物。名称はノイズ。

 ノイズは人を殺すためにだけに特化された存在で、人間だけを襲う。

 だが今回、ノイズは列車を襲っていた。一応、列車の内部には複数の人間はいたが、それでもノイズが“人間以外”を襲うのはありえなかった。

 

(操っている奴がいる、と考えるのが定石(セオリー)だが――)

 

 冷静に状況を観察する騎士。彼が握る黄金の剣は内部に侵入してきたノイズだけを斬り捨てていく。

 だが――騎士は語尾にそう付けた。

 そう、“だが”なのだ。

 ノイズを操る事が可能なのは、三か月前、月の欠片を“人力で引っ張った彼女”が所有していた完全聖遺物・サクリストS――ソロモンの杖だけ。

 そのソロモンの杖は現在騎士や仲間の護衛のもと、この列車によって山口県、岩国の米軍基地に移送している。使われる事など皆無だ。

 

(……荒事(ライオット)になりそうだ)

 

 車両内に侵入したノイズを全て片付け、星剣を担ぐ。後ろを見れば、腰を抜かしたのか壁に凭れ掛かってソロモンの杖を保管したケースを抱えた護衛対象と雇い主の部下がいた。

 

「ノイズは駆逐した。そろそろ立て、Dr.ウェル」

「は、はは……すみません」

「オペレーター。バックアップは取ったか」

「ええ。ヴァン君が時間を稼いでくれたおかげでなんとか」

「ふん。今回はあちら側も随分と(マネー)を振り込んできたからな。それに見合う働きはするさ」

 

 マントをたなびかせ背を向ける夜宙ヴァン。

 すると、背後の扉から二人の少女が戻ってきた。

 

「大変です! 凄い数のノイズが追ってきてます!」

 

 亜麻色の髪をした少女の名は立花響。

 隣を歩くのは、雪音クリス。

 共にヴァンの仲間であり(ヴァンはクリス以外を仲間とは認めてないが)、今回の護衛任務に就いた“戦士”だった。

 

「分かっている。今も十匹そこらを始末した所だ」

「怪我ないか? ヴァン」

問題ない(ノープロブレム)。雑魚に遅れなど取らん。――それより、オペレーター。まだギア装着の許可は下りないのか」

 

 ヴァンは傭兵もどきと自称しており、政府の命令を一切聞いていないが、ヴァンが護ると誓った少女は日本国所属の奏者であり、シンフォギアを装着するには彼らからの許可が下りないといけなかった。

 

「ちょうど下りた所よ。二人共、迎え撃って頂戴!」

「了解です!」「おう!」

 

 響とクリスは頷き、聖詠を歌う。瞬間、彼女達の服が一変し、防護服が着装される。

 ガングニールとイチイバル。それが彼女達が扱う聖遺物の銘。

 ヴァンは背を向けながら、

 

「気を付けていけ。クリス。立花響」

 

 そう言った。

 

「おう! ヴァンも気を付けろよ」

「クリスちゃんには指一本触れさせません!」

「くく、それは心強い」

「だからヴァンさん! いい加減名字か名前、どっちかで呼んでください!」

 

 今、必要な催促かどうかは微妙だった。

 しかし、響は三か月も経ったんだからそろそろフルネームは勘弁して欲しかった。

 とは云っても友里や藤尭など、オペレーターと名前すら呼ばれない人もいるので“信用”はされているようだ。

 

「お前が、クリスだけでなく俺にとっても信頼に足る人間になったらな」

「むむむ……! クリスちゃんの保護者だけあって手強い! でも、諦めませんよっ」

「ああ。尤も、俺は未だにクリスの友だと認めてないが」

「保護者だけあって父親面も完璧にこなしてきた!?」

 

 響のツッコミにヴァンは喉の奥で薄く笑う。

 最初からヴァンの考えが分かっているのか、クリスは苦笑を浮かべているだけだった。

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

 最後尾車両でクリスと響がノイズを迎撃してくれるのを爆音で感じ、ヴァンは友里とウェル博士を護衛しつつ少数のノイズを斬り伏せていく。

 車両を進んでいる間、ノイズに殺されたのか炭が床に散らばっているのを何度も目撃した。

 だが、ヴァンはそれ以外に不穏な空気を感じ取っていた。

 

「オペレーター」

 

 速度を落とし、友里の隣まで下がる。

 

「少し部屋で隠れていろ」

「どうしたの?」

「ちょっとな……」

 

 部屋のロックを解除し、その中に友里とウェル博士を押し込む。

 扉を閉め、ロックを施し、ヴァンは車両を出た。そのまま屋上へ昇る。

 

「ふん、塵芥が。だが、この空気は……」

 

 ――まあ、いいか。

 そう呟いて剣を天に掲げる。刹那、空に具現化されていく剣と云う剣。

 振り下ろすと同時に剣群が射出される。

 

  ――天降る(シュテル・)星光の煌めき(ザ・シューティングスター)――

 

  ―疾ッ!

  ―斬ッ!

  ―撃ッ!

  ―爆ッ!

 

 次々とノイズを射抜いていく。

 剣群を搔い潜ってヴァンを貫こうとするノイズ。だがヴァンは、そんな単調な攻撃に不敵な笑みを浮かべた。

 舞うように紙一重に躱し、屋根に突き刺さる直前に剣舞で両断する――まるで踊るような動き。

 だが、数が多い。防衛人数が三人に対して、あちらは百数、数百の塵芥。

 

「塵も積もればゴミとなる、だな。面倒だ――っと」

 

 呟くと同時に屋根を抉り車内に入る。刹那に列車はトンネルに入った。

 ヴァンはロックを解除し部屋にいた友里とウェル博士を出した。

 

「二人の状況は?」

「現在、ノイズを統率してる大型ノイズと交戦中です!」

「そうか……クリスと立花響なら任せてもいいだろう。俺達はこのまま先頭車両へ行くぞ」

 

 言ってから――自分の手で友里とウェル博士を制した。

 なるほど、とやっと自分が感じた空気の正体を知りヴァンは口を開く。

 

「出てこい、暗殺者(アサシン)

 

 声は虚空に発せられ、静かに溶けていく。

 だが確実に届いているはずだ。

 

「気配を消しているのだろうが――存在を消しきれてないぞ」

「――――」

 

 そして――隠れる場所のない車両の中に。

 溶け出すように現れる黒装束の人間。

 ヴァンは手振りで友里とウェル博士を後ろに下がらせる。

 手が隠れる程の黒装束の袖から見える白い篭手に隠れた手。握られているのは白い短剣。

 

  ――仄白く小さき剣――

 

 それを見て、ヴァンは防護服の一部を解除。篭手と脛当て以外を外し、あろう事かエクスカリバーを友里に渡す。

 

「ヴァン君!?」

「短剣相手に長剣は不利だ。オペレーター、誰にも星剣を触れさせるなよ」

 

 改造した私服の裾から短剣を取り出すヴァン。

 逆手で持ち、構える。

 それが会戦の合図だったのか、黒装束は床を蹴った。

 

  ―突ッ!

 

 繰り出してくる刺突を、掬い上げるような切り上げの一閃で防ぐ。間髪入れず腕の動きに合わせて跳び、斜めに蹴りを打ち込む。

 黒装束は空いている腕で蹴りを防ぐ。押し返し、短剣を奔らせる。

 押し返しに合わせて自ら跳んだヴァンは急所を狙う剣閃を躱し、持ち替えた短剣で突きを放ち返す。

 

「ッ――」

「……拍子抜けだな」

 

 一言呟き、ヴァンは“本気”を出した。

 父から数年に渡り身体に叩き込まれた、己ではなく親しき者を守るための護身術ならぬ――護親術。

 短剣を手足のように操り、黒装束を追いつめていく。

 

  ―戟ッ!

 

 防戦一方に回っていた短剣を執拗に攻め、ついに黒装束の手から吹き飛ばす。

 取りにいけない距離に落ちる。万が一取りにいけたとしても、その前に首に添えた短剣が閃く。

 

「甘い。長剣と同じ使い方で短剣を扱えると思うな」

「…………」

「まあいい。まずは貴様の正体――!」

 

 添えた短剣で黒装束を切り捨てようと腕に力を込めた。

 その瞬間だった。

 背後――車両の外から爆音が聞こえた。

 クリスと響がいるだろう最後尾とはかなりの距離がある。

 まさか何かあったのか――そう考え思考が刹那でも黒装束からズレた。

 黒装束は首が切れるのも構わず後ろに跳び、車両の扉から逃走を図った。

 ヴァンは後悔するよりも早く短剣を投擲しようとしたが、

 

「なっ……」

 

 閉まる扉の隙間から見えたのは。

 次の車両ではなく――高速で移動する車両から“飛び降りる”黒装束の姿だった。

 慌てて追い掛ける。

 扉を蹴り跳ばして見れば――もう、黒装束の姿はなかった。

 高速で走る列車から飛び降りる。普通は自殺と考えるべきだろうが、不思議とそんな事はありえないと思ってしまう。

 チカッと眩い光に眼を細める。山の谷間から朝日が昇るのが見えた。

 その朝日を見つめ――ヴァンはありえないと思ってしまった理由が分かった気がした。

 それはきっと――

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 特殊な蛍光が施されたハンコを所定の位置に押すのを確認。

 これで移送護衛任務は終了となった。

 担当の者と握手を交わす友里の後ろで響とクリス、ヴァンは控えていた。

 だが、どうにもヴァンは機嫌が悪い。まるで米国兵士の視線からクリスと響を隠すように立ち、腕を組んで瞑目している。

 響がクリスに顔を寄せ小声で訊ねる。

 

「クリスちゃんクリスちゃん。ヴァンさん、えっらい機嫌が悪そうだけど、何かあったの?」

「大人が多いからだ。ヴァンの大人嫌いはあたし以上の筋金入りなんだよ」

「ほへぇ……師匠や緒川さんと結構話せてると思ってたんだけど」

「俺は信用も信頼も出来ない大人が嫌いなだけだ。特に兵士って奴は反吐が出る」

 

 聞こえていたのか、まったく動かず、普通の声量で言った。

 慌てたのはむしろ響とクリスだ。当然のようにヴァンの言葉は担当の後ろに控えている兵士に聞こえていたであろう。視線がヴァンに集まるのを、まるで自分に向けられている気分になり首を竦める。

 

「この眼で確かめさせてもらいましたよ。あなた方が英雄であるとね」

 

 そんな中、平然と一歩近付いてヴァン達に賞賛を贈る大人がいた。

 温厚そうな物腰の、ヴァン達や友里と共にいたウェル博士だ。

 

「いやー、普段誰も褒めてくれないから、もっと遠慮なく褒めてください! むしろ褒めちぎってください! ささ、りぴーとあふたみー?」

「調子に乗るな」「調子に乗るな、馬鹿」

 

  ―打

 

 相も変わらない響の頭にヴァンとクリスの声と手刀が叩き込まれる。クリスからはそれに加えて馬鹿と云う暴言を頂戴した。

 

「あだっ! 痛いよぉ、クリスちゃ~ん。ヴァンさ~ん」

「そう云う態度だから褒められねぇんだろうが」

「世界がこんな状況だからこそ僕たちは英雄を求めている。そう! 誰からも信奉される英雄の姿をっ!」

 

 ウェル博士の英雄と云う言葉に取り憑かれたような発言。その眼に映るヴァン達の姿は、まるで英雄のように神聖化されているのだろうか。

 目の前の男の本性を垣間見たような気がしたヴァンは背筋に嫌な汗が伝うのをはっきりと感じた。

 

「ッ、御託はそれだけか!」

 

 叫び、自分の中に生まれた恐怖を追い出しつつクリスをウェル博士の視線から隠すように目の前に立った。

 

「貴様が妄想(デリューション)をいくら語ろうと構わん。だが、その妄想(デリューション)に俺達を巻き込むな! こいつらが英雄だと? はっ、笑えんな。こいつらは“たまたま”この力を手にしてし、戦う事を強制されてしまった“被害者”だ。そこを間違えるな!」

「……では、君はどうなんですか? 君の言葉通りなら、君は違うように聞こえますが?」

 

 また穏やかな表情を浮かべたウェル博士が問い掛ける。

 ヴァンは自分が被害者だとは思っていなかった。クリスを守るために力を欲したのだ。クリスのように漠然とした願いで奏者になったわけではない。

 ふっと笑ったヴァンをクリスは心配そうに見つめる。

 

「当然――俺は、俺の意思で力を欲した。だが俺は英雄じゃない。俺は――ただの騎士(ナイト)だ」

「……今はそう云う事にしておきましょうか」

 

 クスリとウェル博士も微笑を浮かべ、胸に手を置いた。

 

「このソロモンの杖は、僕が必ず役立てて見せますよ」

「ふつつかなソロモンの杖ですが、どうぞよろしくお願いします!」

「……頼んだからな」

「……ふん」

 

 ソロモンの杖――引いてはそれを扱っていた側のクリスとヴァンは少し迷ったが、そう願った。

 もう二度とその聖遺物が悪用されない事を祈って。

 

 その場から立ち去る時、ヴァンは担当だった武官に呼び止められた。クリス達を先に行かせ、武官に向き直り英語で会話する。

 

「何の用だ」

「夜宙ヴァン。いや、ヴァン・ヨゾラ・エインズワース」

「だから、何だ」

「祖国に戻ってきたまえ。君は本来、こちら側の人間だろう」

「何を言っている? 俺は貴様らの人間では――」

「君は闇に生きる側、だと言ったのだ。我々と同じ――歴史の闇に潜む側の、な」

 

 目の前の武官の言葉を聞き、ようやく納得出来た。

 何故、今回の任務に自分宛に依頼料が振り込まれていたのか。

 要は――元々フィーネの配下であり、かつ完全聖遺物所有者である夜宙ヴァンを日本から――クリスから奪いたいだけである。

 まあ、奪うとは少し偏見があるかもしれないが。ヴァンにしてみれば奪うで合っているだろう。

 

「断る――とでも言えば?」

「君の情報を全世界へ流そう。同時に、君が守ろうとする少女の情報も共に」

「そうか。――まあ、貴様の言う通り俺は闇に生きる人間だ。陽だまりなど俺には眩し過ぎる場所かもしれん」

「では――」

「だが、貴様の国に属する気はない」

 

 バッサリと命令に近い誘いを両断する。

 

「俺は今の場所が気に入っている。それに、米国は嫌いなんでな」

「そうか。いや、残念だ。だが、これでよかったのかもしれない。これで、君の名前は世界中へ広まるのだから」

 

 後ろで組んでいた腕を挙げ、指を鳴らす構えを取る。

 だが、その音が鳴らされる事はなかった。

 

「ああ、そうだ。貴様らに贈り物だ」

 

 鳴る前にヴァンがポケットから何かを武官へと放り投げた。

 放物線を描いて鳴らそうと挙げた手の中に収まったそれを武官は見た。

 

「USBメモリ……?」

「ネーム『ジャン・テイラー』、『エドワード・レイエス』。認証コード――」

 

 複雑な数字と英語の番号を羅列していく。

 途端に武官の顔がサッと蒼褪めた。

 

「き、貴様。何故それを……ッ!」

「そのメモリーにはこれまで貴様らが日本に対して行ってきた事を記録してある。当然、闇に隠さなくてはいけない後ろめたい事も全てな」

「答えろ! 何故貴様が特務兵の暗証コードを知っている!!」

「正義の味方――だそうだ」

 

 明後日の方角を向いて、ヴァンはまったく別の回答を漏らした。

 

「あいつらは本気で正義の味方になりたかったらしい。弱気を助け強気を挫く、物語の中のヒーローみたいに」

「何を言っている……?」

「その夢を俺は永遠に叶えられなくしてしまった。なら、あいつらに対してせめての事はしなくては面と向かってあの世で会えない」

 

 武官に視線を合わせる。

 ひどく冷たい視線に、ヴァンの人生の倍ぐらい軍人として生きてきた武官がわずかに恐怖した。

 ――これが、こんなガキに、私が恐怖するだと……!

 

「分かっているとは思うがそれはコピーだ。それをお偉い奴らと一緒に見て、その後で俺の情報を公表するかどうか決めるといい」

「――――」

「ではこれで。――ああ、最後に一つだけ。俺の外国の血は――英国のものだ。勘違い野郎」

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 手続きを済ませ、米軍基地の敷地より出る響達。

 これで今回の任務は本当に完了した。後はどこへ行こうと自由だが――

 

「この時間なら、翼さんと奏さんのステージに間に合いそうだっ!」

「だな」

 

 既に目的地は決まっていた。

 東京で行われる風鳴翼、天羽奏のユニット『ツヴァイウィング』と孤高の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴのライブステージ。

 以前より大ファンの響はもちろん、夢が歌で世界を救う事であるクリスも最高峰の歌は是非とも聞いておきたかった。

 

「三人が頑張ったから、司令が東京までヘリを飛ばしてくれるそうよ」

「……元からその予定だったけどな」

 

 弦十郎の伝言に、ヴァンはぼそりと自分にだけ聞こえるように呟く。

 だいたい、今いる山口は本州の最西端に位置するのだ。今から東京まで、しかもライブが始まるまでに到着するには、ヘリや聖母の盾の空路か、遠見鏡華の“瞬間移動もどき”のいずれしかない。

 

「マジっすかぁっ!」

 

 だが、それに気付かない響は眼を輝かせて喜んでいた。

 気付かせる前に教えて、それしか方法がない事を隠す。なかなか手の込んだ悪戯である。

 もちろん弦十郎に悪気はないだろう。

 ――さっさとヘリポートに行くぞ。

 そう言おうと口を開いた瞬間、

 

  ―爆ッ!

 

 突然の爆音。

 驚き、振り返れば――爆炎に包まれた基地とノイズが見えた。

 

「マジっすかぁっ!?」

「マジだ!」

「マジだな!」

 

 ヴァンとクリスも驚きつつも防護服を纏い駆け出す。

 人はマジだけで意思疎通が取れる事にもヴァンは驚いていたが、そんな事今はどうでもいい。

 ――これはギリギリだな。

 溜め息を隠し、ヴァンは手近で兵士を襲おうとしたノイズを星剣の炭と化えるのだった。


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