戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー 作:風花
だけど、それでも私の陽だまりは優しき雨を降り注ぐ。
全てを曝け出した気持ちはひどく心地良い。
Fine3 泡沫で儚い、故に貴き場所
想いを伝える事が出来るなら、それならきっと大丈夫。
この世界が遺した意味、答えは既に、得ているのだから。
遠見鏡華は目の前に立つマリア・カデンツァヴナ・イヴなど視界になかった。
その下に、《阻む物無し騎士の路》を発動し海上に立っている自分と同じように海上に立つ“黒装束の男”を凝視していた。
彼を見るだけで――否、彼がいるだけで頭痛がしてきた。眩暈がしてくる。腹の奥からふつふつと吐き気がこみ上げてくる。
はっきり言って――嫌悪感しか生まれてこない。
何故、ここまで初対面の相手を嫌悪するか、自分自身でも疑問だった。
「誰だ?」
「風鳴翼は初めてだな。一応、自己紹介しとく。オッシアだ」
「オッシア……代わりの名を持つ者……」
抱かれたまま翼は呟く。
「翼……海に立てる?」
「……短い間だけならば可能だ」
「そうか。なら……」
しかし、そんな疑問はどうでもよかった。遥か彼方へ投げ捨てるのも悪くない。
何故なら――
「――――」
黒装束――オッシアが海上を走る。
同時に翼をマリアへと向けてお姫様抱っこの姿勢のまま、投擲した。
オッシアは自分の頭上を越える翼に見向きもせずに鏡華へ迫る。
彼に疑問を持つなんてどうでもいい。何故なら――
「――せやぁっ!」
――疑問さえも嫌悪するほど、彼の存在が気に喰わないだけだ!
―拳ッ!
―撃ッ!
―破ッ!
―轟ッ!
合わせたわけでもないのにまったく同時に放たれた拳がぶつかり、水面を盛大に揺らす。
「拳を交える事がッ!」「言葉を交える事がッ!」
互いに拳を弾き、ぶつけ――言葉を交わし、吐き散らし、
世界が狭まり目の前の敵以外見えていない鏡華とオッシアは、
「ただ
同じ言葉を叫び、拳を、蹴りを、額をぶつけ合う。
鏡華とオッシアが逢ったのはこれが初めて――なのに、二人はまるで過去からの因縁でもあるかのようにナニかをぶつける。
「おいコラ。そんな黒装飾で隠してないで、顔を晒したらどうだ、うん?」
「はっ、誰が貴様の指図で晒すものか。三人も女を囲ってすっかり王様気分だな」
「好きな女が三人もいて悪いかっ」
「ああ、悪いねっ!」
オッシアの拳が鏡華の頬を捉える。
地面を転がるように海上を転がる鏡華だが、すぐに起き上がった。
鏡華の代わりか、入れ替わるように奏が橋から転移してオッシアへガングニールを振るう。
縦横無尽の連撃を、オッシアは受け止める事なく躱し続ける。
「どうした? あたし達の男を吹き飛ばしたように、あたしも吹き飛ばしてみろよ」
「女とは戦わん――なんて信条など持ち合わせていないが、君とやるつもりはないな。……天羽奏」
心底嫌そうな声音で「君は風鳴翼と共闘でもしていろ」と続けると、袈裟に振ったガングニールを掴み、翼とマリアが戦っている場所に放り投げる。
投げた瞬間、無理な体勢からオッシアは海を踏み抜き、こちらに向かっていた鏡華の一撃に自分の一撃をぶつけた。
「さあ――気に喰わん奴同士、仲良く殺し合おうか?」
「上等だ。ぜってぇ、その黒装束引っ剝がしてやる」
不敵な笑みを見せて、オッシアと鏡華の
〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
鏡華の投擲で飛んだ翼はブーストを用い、体勢を簡単に修正してマリアへと迫る。
渾身の一刀。しかし、ガングニールの柄を足場にしているはずのマリアはあっさり躱す。
「甘く見ないでもらおうか!」
――蒼ノ一閃――
ー煌ッ!
ー斬ッ!
蒼の刃を振り向きざまに放つ。
マントを展開して防いだマリアは謎の生物が入ったケージを頭上に投げ、そのまま後ろに跳び、浮上した二課の潜水艦に跳び乗った。浮いていたガングニールは自我を持つようにマリアの手に収まる。
ケージはいつの間にかなくなっていた。
「甘くなど見ていない!」
続けて翼が接近し振るう大剣と化した天ノ羽々斬をガングニールで防ぐ。弾き飛ばし、
「だからこうしてっ! 私は全力で戦っているっ!」
歌を紡ぎながら今度はマリアが駆ける。大振りに構えたガングニールをあらん限りで翼に叩き付ける。慣性に片腕で逆らい、下段から逆袈裟に振るう。
全てを防ぎきった翼。
『船体に損傷! このままで潜航に支障が出ますっ!』
『翼! マリアを払うんだ!』
通信機越しに届く内部の状況。
翼は船体に傷を付けないよう極力注意していたが、マリアにそんな事は関係ない。大振りに振り回すガングニールが、マントが、船体を傷付けていた。
天ノ羽々斬をしまうと、逆立ちして脚部のアームを展開。
――逆羅刹――
余裕そうに不敵な笑みを浮かべるマリアに向かって逆立ちし回転して立ち向かう。
しかし、弾き飛ばされるだけだった翼の一撃は、逆に力を増してマリアの一撃とも渡り合えるようになった。
「勝機ッ!」
「ふざけるなっ!」
一撃を与えるために、逆立ちの状態から起き上がろうとする翼。
だがその瞬間、足に激痛が走りその場で足を抑えてしまう。
ケージを掴もうとした瞬間にもらった一撃が、今になって痛み出したのだ。
「マイ、ターンッ!」
お返しとばかりに、マリアは叫び突撃する。
回避は間に合わないと悟った翼は天ノ羽々斬を出すが、
「でぇぇりゃぁぁああッ!!」
その前に、飛んできた奏がマリアのガングニールを自分のガングニールの一撃で相殺した。
色が異なるが、しかし同一のガングニール同士が火花を散らし合う。
「ッ、天羽奏……!」
「このっ、手が握る想いは! 幻でも夢でもなくっ!」
歌を叫びながらガングニールを振るう奏。
歌を口ずさむごとに力を増していく奏に、マリアも負けじと歌を歌いより雄々しくガングニールを振るった。
荒々しく、他の行動を知らないかのようにガングニールをぶつけ合う。一撃がぶつかる度に辺りに暴風が巻き起こる。
「――っはあッ!」
「くっ――はぁっ、はぁっ...」
最後の一合で衝撃が二人を襲い、距離を強制的に開かせた。
奏は吐き出し続けていた酸素を大きく吐き出して、ゆっくりと整え始める。一方、マリアは肩で荒く息を吐いていた。
「……その辺にしとけよ。戦ってみて分かった、これ以上マリアは戦っちゃ駄目だ」
「知ったような事をっ」
「知ってるよ。知ってるから言うんだ。――LiNKERを使った時限式は、もうそろそろ制限時間のはずなんだから」
奏の指摘にマリアは息を呑む。それは奏の後ろで見守っていた翼も同じだった。
LiNKERは適合係数の低い人間でも聖遺物を使用する可能性を高められる制御薬だ。当然のように反動もあり、引き上げれば引き上げる程人体への負荷も大きくなる諸刃の剣である。
過去に使用した経験のある奏だからこそLiNKERの利便性と恐ろしさの両面を身に染みて分かっていた。
「……貴様が――必要としなくなった貴様がっ、諭すように言うなっ!」
吠え叫び、ガングニールの矛先を奏へ向ける。
ガシャンと変形を見せ、ライブの時に見せた砲撃を放つ体勢を取るマリア。矛先にエネルギーが充填されていき光の槍と成っていく。
「奏ッ!」
「言うさ、何度でも! あたしは、あたしみたいに自分を犠牲にしてほしくないだけなんだっ」
奏も気持ちを叫びガングニールを構える。
ガングニールの矛先をマリアへ合わせつつ持つ手を目一杯引き絞り、重心を低くする。
そして――
――HORIZON†SPEAR――
―煌ッ!
―裂ッ!
―波ッ!
漆黒の槍から放たれる一条の閃光。
前回、ノイズに放ったのより一回りも大きかった。
だが、奏は一歩も引かないーー否、前へと出る!
――ASSAULT∞ANGRIFF――
―輝ッ!
足を止め、突進撃の一撃を穂先に集中させる。
自分を呑み込む前に、放たれた閃光へ槍を突き立てた。交差した場所から閃光は四散され、奏はもちろん、翼と潜水艦にも当たらず周りへ拡散されていく。
閃光が全て放たれ――槍を持った手をだらりと下げて荒い息をつく。
「奏ッ、大丈夫!?」
「大丈夫――だけど、腕が痺れた。暫くは振れないな」
「奏はいつも無茶をする……!」
「返す言葉もないね。それより、マリアは……?」
翼に肩を貸されながら立ち上がり、爆風を見る。
そこにはガングニールを構えるマリア――はいなかった。
いつの間にか――本当に、一体いつからいたのか、上空には大型ヘリが飛んでおり、そこから垂れたフックロープにマリアを担いだオッシアが掴んでいた。
ウェルを担いだ切歌と調を担いだまったく初見の奏者らしき者も。ウェルの手にはソロモンの杖が。
そして、六人を収容した大型ヘリは突然姿を眩ますのだった。
〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
再び、時間はマリアが登場した時まで遡る。
ウェルの口から放たれた驚愕の真実は一瞬でもヴァン達の思考を止める事になった。
「嘘ですよ。だって……了子さんはあの時……」
「リインカネーション……」
ポツリとクリスが初めて聞く単語を呟く。
え、と聞き返す響にヴァンが説明を引き継ぐように呟いた。
「フィーネの刻印を刻まれた遺伝子を持つ人間の魂を器とした
「じゃあ、アーティストだったマリアさんは……!」
「さて、それは自分も知りたいところですね」
海上ではマリアと翼が戦いを始めたと同時に鏡華と黒装飾が戦いを始めていた。だが、まるでそれは戦いではなく、ただの殴り合いに見えた。
黒装飾が鏡華を殴り飛ばす。瞬間、
「あんにゃろっ!」
奏が飛び出し、《遥か彼方の理想郷・応用編》で距離を詰めていた。ガングニールを振るっていたが、しかしすぐに穂先を掴まれ翼がいる場所へ放り投げられた。黒装束はすぐに鏡華と拳を交える。
「ちっ、さっさと加勢する――躱せっ!」
言葉の最中で、空を切る音にヴァンは反射的に叫んでいた。
疑う事なく、クリスと響はその場から離れる。思わずウェルを放置した事――これだけは後で悔やむ事になる。
「なんとぉっ! イガリマァッ!」
――α式 百輪廻――
さらにどこからか現れた大鎌を持った奏者ーー切歌が歌いながら大鎌をフルスイングしてきた。
響を見れば、空から飛来してくる丸鋸を体術で破壊している。
反対にクリスは未だギアの出力が上がらず思うように身体が動かせない状態。それに加え、片手はソロモンの杖で塞がっている。
ヴァンはすぐさまクリスと切歌の間に滑り込みながら歌を口ずさみ、大鎌と自分の間に唱壁を展開させた。しかし、急拵えで展開したためか、すぐに亀裂が入り唱壁は砕け散る。
「ッ――!」
クリスと共にバックステップで下がる。切歌は上段から追撃を仕掛けてき、ヴァンは腕を交差させて防ぐ。
そんな受け身姿勢のヴァンを見て、切歌は叫んだ。
「またデスか! いい加減にするデス! あたし達を舐めているって事デスかっ!?」
「ッ――そんな、訳ないだろう! 俺は――ジャンとエドとの約束を違える訳にはいかないんだっ!!」
ヴァンの叫びに、今度こそ切歌の動きが止まった。
「な、何であたしの名前だけじゃなくてあの人達の名前を知っているんデスか……?」
「ヴァン……?」
「一体、誰なんデスか! お前は!? 名乗るデスッ!」
大鎌を突き付けられ、ヴァンは腕を下ろして答えた。
「――エインズワース」
しかし、それは「夜宙ヴァン」でも「ヴァン・ヨゾラ・エインズワース」でもなく、
エインズワース――ただそれだけだった。
だが、切歌は衝撃を受けたように眼を見開いた。
「そんな……まさか……お前があの、エインズワースなんデスか……?」
「もう暫く隠すつもりだったが――まあ、そうだ。暁切歌、
「ッ――!」
「ッ……一体、どう云う事だよヴァン!」
「俺とあいつらは知り合いだったと云う事だ」
ヴァンは切歌から眼を離さず答えた。
――悪いが、説明は帰ってからな。
クリスにそう続けたヴァン。
「過去に俺は二人と約束したんだ。お前達とは、レセプターチルドレンだったお前達とは戦わないでくれ、と」
「だから、どうだってんデスか! 第一、あの人達を殺したのはエインズワース! お前だって聞いたデス!!」
「ああそうだ。俺は、二人を手に掛けた。この手で斬った感触は未だ忘れられない」
――だからこそ。
拳を握り締めたヴァンはキッと切歌を見やる。
「俺はあいつらとの約束を守らなきゃいけないんだ! だから、俺はお前達と戦うわけにはいかないんだ、Morn!」
「ッ――何なんデスか。お前は、一体――あの人達の何なんデスかッ!!」
大鎌を握り締め、駆け出す切歌。
ヴァンも拳を握り締め直し、防御の構えを取って叫んだ。
「俺の数少ない――信頼出来る友だっ!!」
その――ヴァンの警戒が全て切歌に、クリスの視線がヴァンと切歌だけに注がれていた刹那だった。
一陣の風が吹いた。瞬間、
――双掌寸勁打――
「がっ――っ!?」
「……な……」
ヴァンの真横に全身鎧を纏った人間がいた。その手はヴァンの脇腹に添えられ、ただ触れていただけなのにヴァンは吹き飛んだ。
呆けてしまったクリスも例外ではない。謎の全身鎧に足払いを掛けられ、体勢を崩した瞬間に腹部に手を添えられた。
添えた――クリスにはそう見えた。なのに、添えた瞬間、凄まじい衝撃を腹部に受けたのだ。
吹き飛ばされ、ソロモンの杖も衝撃で思わず手を離してしまっていた。
「クリスちゃん! ヴァンさん!」
「かっ――はっ――はぁっ」
「ッ――、ッ――!」
響が慌てて駆け寄ってくるのを感じながら、ヴァンは乱れた息で咳き込む。真横を見て眼を見開いた。クリスが息をする事さえ困難な状態で吐血していたのだ。
それだけで怒りが沸き立つ。だが身体は動いてくれない。だからヴァンは全身鎧の奏者をあらん限りの殺気を籠めて睨んだ。
向けていない切歌がビクッと身体を震わせるのに、奏者だけは怯える様子もなくソロモンの杖を拾い上げ、ウェルに投げ渡した。
「時間ぴったりの帰還です。彼だけでは全てに手を回せなかったので助かりました。……ま、少し遊び足りない気分ですが」
眼鏡のズレを直しながらウェルは呟く。
彼の周りに調と切歌、全身鎧の奏者が集まる。
「ッ――何なんだよ、あの全身鎧の一撃は……!」
「クリスちゃん、喋っちゃ駄目だよ! ヴァンさんも無理に動こうとしないで!」
「くそっ――たれが……!」
「ッ――」
クリスを担ぎながら、響は調達に問う。
――何のために戦っているのか、と。
「正義では守れないモノを守るために」
答えたのは調。それだけ言うと、全身鎧の片腕に飛び乗る。切歌はウェルを抱え、大型ヘリから垂れるフックロープを跳んで掴んだ。
マリアと黒装束もいつの間にか掴まっており、鏡華、翼、奏の三人は膝をついて見ているだけだった。
「…………」
全身鎧はチラリと響を一瞥すると、何も発する事なく同様に跳びフックロープに捕まる。
「逃がす、かよ――!」
「あっ、クリスちゃん!?」
無理矢理響から離れると、痛む身体を無視して武装を展開させる。イチイバルの形状を固定型狙撃銃として設置、衝撃で身体が吹き飛ばないように腰回りのパーツがスタンドのように背後で固定する。ヘッドパーツもだいぶ変化しスコープの役割を果たす。
――RED HOT BLAZE――
「ソロモンの杖を、返しやがれ……!」
スコープで狙いを定める。照準をエンジン以外に合わせ、トリガーを引こうとする。
すると、現れた時と同様に忽然と姿を眩ませた。
「なん、だと……」
突然消えた大型ヘリに、驚愕を露わにする。
結局、二課でも姿を消したフィーネの足取りを追う事は不可能だった。
潜水艦に集まり武装を解いた六人は意気消沈した様子で座り込む。
「おい、
「空路を間違ってオーストラリアに行っちまってたんだよ」
「何でそこでオーストラリアまで行く。途中の海上で気付け、たわけ」
「雲の上だから分かんなかった」
「一度、雲の上から落下して死んでこい」
「気が向いたらな」
共にダメージを受けており、些細な口喧嘩でやめる鏡華とヴァン。
「ッ――は、くぅ……っ」
「大丈夫!? クリスちゃん! もしかしてさっきの一撃が……」
「心配、いらねーよ。ギアのバックファイアがまだ残ってるだけだ」
冷や汗を垂らして呻くクリスだが、響の心配する声に大丈夫だ、と返す。
誰から見ても痩せ我慢にしか見えなかったが。
「無事かっ、お前ら!」
ハッチから弦十郎が出てくる。
船体の状況などを友里や藤尭辺りに丸投げして奏者である鏡華達を心配してやってくる辺り、彼らしい。
それぞれに声を返したり腕を挙げたりする。
「風鳴弦十郎。クリスを医療室へ運べ。全身鎧の奴、間違いなくお前の好きな中国拳法を使ってたぞ」
「ああ、見ていた。あれは《寸勁》の一種だ。鏡華、奏。疲れている所悪いが、一番怪我の浅いお前達が“二人を”運んでくれ」
「うーっす」
「あいよー」
疲れたように間延びした返事を返した鏡華と奏。立ち上がると弦十郎の指示通り、鏡華はヴァンを引きずり、奏はクリスを持ち上げた。
「なっ……何故俺まで……」
「見ていた、と言っただろうヴァン。お前だってその一撃に加えて《架拳》も喰らっていたんだ。恐らく、ヒビくらい入っているだろう」
「あんな一撃、何て事――ッ!」
喋っている途中で、鏡華が軽くヴァンの脇腹に掌底を当ててみた。するとヴァンは呻き、顔を顰める。
「子供が我慢するな。たまには大人に頼っとけ」
「……ちっ」
舌打ちを打ったヴァンはそれ以上抵抗する事なく、鏡華の肩に腕を回して自分の足で歩く。
「珍しいな。クリスが反抗しないなんて」
「うっせー……正直、抵抗する体力も痛みが奪ってんだよ。これがなけりゃヴァンみたいに自分で歩くっての」
「そうかい」
奏は笑みを見せ、翼に一言言ってハッチを飛び降りた。
後に残ったのは響と翼、弦十郎の三人。
ポツリと響が呟く。
「了子さんと喩え全部分かり合えなくても……せめては通じ合えたと思っていました。なのに……」
「一度通じないからと言ってヘコんでいるタマか? 通じないなら通じ合うまでぶつかってみろ! 言葉より強い
動揺すらしてない、気持ち良い程清々しい言葉ではっきり言ってくる弦十郎。
相変わらず鏡華と同じで何を言っているのか、はっきりと分からない。だけど、何を伝えようとしているかは分かった――つもりだ。
だから、
「言っている事、全然分かりません! でも――やってみますっ!」
相も変わらず、響はそう言うのだった。