せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ! 作:主(ぬし)
※魔術回路などについての解釈が間違ってるかもしれません。その時は「そういう世界線なんだ」とご理解くだされ。僕の宇宙では音が出るんだよ(ジョージ・ルーカス感)。
‡ウェイバーサイド‡
その夜。月はないが星はある夜。忍び入る寒気を防ごうと誰もがコートの襟をキツく締める夜。どこかでアホ毛のサーヴァントがコロッケに舌鼓を打つ夜。混乱極める第四次聖杯戦争の情勢は、
本来の世界線において、この晩には主に2つのことが起きた。ギルガメッシュによって貪婪たる歪欲に目覚めた言峰綺礼は遠坂時臣に対して謀反を起こし、アゾット剣にて時臣を殺害。マスターの枷を外れたギルガメッシュと再契約をする。また、ライダーはセイバーの駆る超高性能バイクとカーチェイスを繰り広げ、激闘の果てに愛機『
だが、イレギュラーによって物語を大きく歪められたこの世界線では事情が異なった。少なくとも後者については生じる気配すら無かった。何にも増して、キャスターが召喚した巨大怪魔を葬るための大乱闘も発生していない。これらの出来事が生じなかったことは───『征服王』イスカンダルが宝具と魔力を失うことなく完全な状態を保持し続けているという驚くべき事実は───この物語の最終戦局に大いなる番狂わせを巻き起こすキッカケとなろうとしていた。
……否。番狂わせの最大の要因は、宝具を破壊されなかったことでも、魔力を失わなかったことでもない。一人の少年の覚醒が、全ての流れを変えるのだ。世界に変革をもたらすのはいつだって若者なのだから。
『どうだ、ウェイバー』
「……ああ。少しずつだけど、
「召喚魔法陣がまだ解れてないのは幸いだった。無理に霊体化させてしまって悪いけど、ここは魔力の回復に専念しててくれ」
『なぁに。他ならぬ
霊体化して見えないはずなのに、片眉を上げてイタズラっぽく笑うライダーの姿が目に浮かぶようだった。ついこの間まで“ボウズ”と引っ叩かれていたライダーから信頼を伴って敬われることに未だ慣れないウェイバーは、言いようのないくすぐったさを覚えて微笑む。敢えて問いかけに明言はせず、唇の端をわずかに吊り上げて格好をつけるだけに留めた。
「
そう言って、下っ腹のへその裏、専門用語で言うところの“丹田”で、人体を駆動させる不可視のエネルギーとされる“気”を練りあげることに集中する。
インド古来の
(まさか、魔力の質を高めるためにこんな方法があったなんて)
確実に練り上げられていく己の魔力を実感し、ウェイバーは内なる高揚を味わい噛みしめる。魔力が腹の底で整然と回転し、不純物が払い落とされ、純粋なエネルギーへと昇華していく。一回転するたびに熱量は上がり、光が増していく感覚に胸が熱くなる。時間の前後すら無意味化していく透明な感覚のなか、魔力が赤熱し、白熱し、灼熱する。魔力の強さとは“量”ではなく“質”なのだという確信を実際に肌で感じる。
なぜ、生まれも育ちも由緒正しき
そも、ベルベット家は新興魔術師の家系である。なにせ、魔術師となったのはたった三世代前、祖母の代からなのだ。畢竟、魔術師社会のヒエラルキーのなかで自家のアドバンテージを客観的に示す
魔術回路の本数はそのまま“魔力保有量”を意味し、魔術刻印の緻密さは“コンピュータの性能”を意味する。莫大なエネルギーを流し込んで複雑なコンピュータプログラムを
(僕にはそのどちらも無い)
心中に平坦な呟きが広がり、どこにも引っかかることなく吸い込まれて消える。引け目や負い目を背負わない、事実のみを受け入れた冷静な声音だった。
両方を持たないウェイバーには、時計塔での生活は屈辱の日々でしか無かった。早世した親の遺産を余さず売り払って苦労して足を踏み入れたのに、明くる日も明くる日もただならぬ劣等感に苛まれていた。
「半端者め。お前などに魔術は無理だ」
「素人が魔術を極めるなど不可能だ」
同年代から公然と放たれる無遠慮な侮辱は彼のプライドをズタズタに斬り苛んだ。その鬱憤から目を逸らすためにウェイバーは子犬のように弱々しい虚勢を張っていた。自分には本当は知られざる才能があるのだ、評価されないのは周囲の無理解のせいだ、となんの実績もないのに喚いていた。
(今思えば、なんて子どもっぽかったんだろう)
自分でも驚くほどあっさりと過去の己を評価する。ほんの数日前まで、ウェイバーは他人から自分の出自のことを指摘されると理性より先に恥辱の感情を前面に出して反発していた。感情的で、衝動的で、未熟だった。聖杯戦争に参加するという大博打に打って出たのも、元はと言えばロード・エルメロイから出自の劣等を馬鹿にされたことへの意趣返しに起因する。
(本当に子どもっぽい───でも、後悔は無い)
何本目かわからない高価な栄養ドリンクを一息に飲み干すと、袖口でグイと乱暴に口元を拭う。
今の彼は、魔術の
(やりようはある。
今のウェイバーには素晴らしい手本がいた。バーサーカーのマスターだ。名も知らぬその謎のマスターは、時計塔で5本の指に入るかという天才魔術師ロード・エルメロイをたちどころに易易と撃破してみせ、ランサーに鮮やかな死に花を咲かせる小粋な演出までしてみせた。さらには闇の世界に身を落としていたアサシンを一蹴し、彼に本来の情熱を取り戻させた。切嗣や時臣のような情報網を持たないウェイバーには年齢も姿も知る由もないが、暗闇のなかで鋭い笑みを浮かべるシルエットは容易に想像できた。
(彼は弱みを強みに変える術を知っていたんだ)
聖杯戦争による被害を防ぐためにバーサーカーというハンデを自ら請け負ったのに、
(そうだ。そして僕には、
この発想の転換は、持たざる者であるウェイバーならではだった。
魔術回路とは魔力の流れ道であり、生命エネルギーのバイパスである。言わば“パイプ”だ。パイプを増やせばキャパシティも増えるのは道理だ。アーチボルト家のような家格高い家系は歴代を通じてこの手法に腐心している。代を重ねて魔術刻印が理想に近づけば近づくほど、保有する魔術刻印に吸われる必須魔力量が比例して増えていくからだ。ウェイバーはここに逆転の要素を掴んだ。彼らのような貴種の魔術師はコンピュータと
(
しかし。しかし、ウェイバーはこの法則に縛られない。何故なら、彼は
(これは『英霊』という人類の手に余るほど強力な『礼装武器』を使う戦いだ。英霊相手に魔術刻印は無意味だ。むしろ魔力を無駄に消費することにしかならない。魔術刻印を持っていない僕は
魔術刻印は自身の肉体と魂と深く結びついた不可分の融合物であり、
自らの劣後を直視出来るようになった今では、劣等感を刺激されるばかりだった出自の弱点がとても優越的なもののように思えた。
(しかも、僕は好きなだけ
そもそも、人間には魔力を貯蓄する便利な器官は無い。魔術回路はあくまで魔力を
(だからこそ、僕がやるべきことは単純明快だ───
これこそ、ウェイバーが高級な栄養ドリンクを次々と飲み下しながら座禅を組み、己の魔力の質を高めんと苦心している理由である。魔術回路の本数は一朝一夕では増やせない。だが、魔術回路の
目指すはただ一つ、『サーヴァントの最大強化』のみ。
(小手先には頼らない。ただ僕の持てる全てを、切り札『大英霊アレキサンダー』に懸ける!!)
他の勢力は多くの時間と労力を湯水の如く犠牲にし、ありとあらゆる手を尽くしてライバルの裏をかこうと苦心惨憺していることだろう。ウェイバーにとってはそれは付け込む隙となり、逆転の鍵となる。彼らがご苦労にも無駄な時間と無駄な労力の消尽に躍起になってくれている間に、ウェイバーの切り札の威力は加速度的に増していく。右往左往する敵は、自分を虎視眈々と狙っている弓矢を引き絞る腕にどんどん力が掛けられていくことを知りもしないのだ。
(ありがとう、お爺さん)
この思考実験を現実のものとすべく悩んでいたウェイバーに、日本に帰化して長い老翁は、積み重ねた東洋的思考の含蓄のなかで、強くなろうと足掻く若者が求めているであろう方法を、その年の功で的確に教えてくれたのだ。
「───っ」
馴れない方法による魔力昇華のせいで微かな目眩を覚えたウェイバーは、さっそく覚えたばかりのプラーナを駆使して意識の混濁を流れる水のようにいなし、精神の安定を難なく取り戻す。
『ふぅむ。なかなか、東方の果ての果ての妙技も捨てたものではないようだな。マケドニアでも取り入れればよかったなぁ』
傍目にもそのプラーナ捌きは見事な出来栄えで、ライダーは思わず感嘆に呻いて胸の前で腕を組んだ。
(なんともまあ、“男子三日会わざれば云々“と言うが、物の見事に化けるものだ。この小僧、案外、将来は大層な傑物になるやもしれぬな)
人類最高峰の傑物たるイスカンダルからしても、今のウェイバーには言い知れぬ可能性が透かし見えていた。少年は、知勇ともに成長を遂げようとしていた。ただ事態を受動的に受け入れ、
(
考察を得意とした古代アテナイの学究的詩人をウェイバーに重ね、ライダーは我知らず突き出した顎を摘む。その横顔からは、稚拙な少年だった頃の面影はものの見事に剥がれ落ち、たくましい
(こやつめ、いったい何を思いついたのやら───)
「予感がするんだ」
『む?予感?』
原始に近い自然の闇に囲まれながらもなんら恐怖を感じていない声音で、ウェイバーは唐突に紡ぐ。
「僕たちが次に戦うのは───いいや、
この発言には、さしものライダーも度肝を抜かれて押し黙る他なかった。およそほとんどのことで動揺しない彼を驚愕せしめたのは、その台詞の内容ではなく。
『……相手は半神だというのに、ずいぶんとまた剛毅な口ぶりではないか』
内容ではなく、まるで淡々と事実を語るだけのような、落ち着き払って平坦な口調に驚いたのだった。
人類史において最強クラスのカリスマである
『曲がりなりにも、ありゃあ本物の神だ。余もゼウスの息子だなどと嘯いて箔をつけたもんだが、あっちは正真正銘だぞ』
英雄王ギルガメッシュ。古代ウルクを収めし人類最古の王。傲岸不遜にして唯我独尊。傍若無人にして万夫不当。この世の全てを手中に収めた世界最大最強の戦士。全ての英霊の元祖。神と人間の間に生まれし、正真正銘の神の化身。そんな相手と剣を交えようというのだ。肝っ玉が服を着て歩いているようなライダーですら、アーチャーとの戦いを思い浮かべれば思わず生唾を呑み込み顎に力が入る。もしかしたら───絶対無敵を自負する『
しかし。
「ライダー、『
『むん?そうさな、今の余の魔力の状態なら
「そうか。じゃあ、令呪も3画全てを使う。令呪1画で2回分と考えて、9回。そして僕も限界を超えて死ぬ気で魔力を生み出す。これでギリギリ10回分にはなる。してみせる。そして、
『……マスター。そなた、何を
ウェイバーがスッと静かに目を開く。確信に満ちた物言いには臆した風は微塵も無かった。むしろ、一種幻妙な───常人には見えない
それを目にしたライダーの感情が瞬間的にマグマのように昂ぶり、熊のような背筋にゾクゾクとした
「正直、勝てる気はしないよ。相手は半分神様。こっちは猿の進化系だ。きっと宝具の威力も桁違いに違いない。傍からすれは“絶対に無理だ”と思われるに違いない。本当に、勝てる気なんて無い。けどな。なんの根拠もないんだけど───」
ニヤリと深く鋭い笑みを浮かべ、ウェイバーは握り拳を大きく振るうと天に向かって豪胆に衝き上げる。それは、成長した
「負ける気は、まったくしないんだ!!」
ティロロロロ~~ン♪
【聖杯より通知がありました】
【ウェイバー・ベルベットが覚醒しました】
【ウェイバーのマスターレベルが上限値に達しました】
【おめでとうございます!実績が解除されました!】
【運命変更値が更新されました】
【宝具『
【宝具『
【宝具ランクが『対軍宝具』から『対
【宝具レベルが英雄王ギルガメッシュ『乖離剣エア』と同格となりました】
【宝具開放まで待機中です。幸運を………】