せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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前回の更新で「子どもが出来た」と言いました。3か月後にはなんと二人目が生まれます。時間の流れというものは恐ろしい(震え)

※魔術回路などについての解釈が間違ってるかもしれません。その時は「そういう世界線なんだ」とご理解くだされ。僕の宇宙では音が出るんだよ(ジョージ・ルーカス感)。


2ー19 ウェイバー君はFate/zeroの真の主役

‡ウェイバーサイド‡

 

 

 その夜。月はないが星はある夜。忍び入る寒気を防ごうと誰もがコートの襟をキツく締める夜。どこかでアホ毛のサーヴァントがコロッケに舌鼓を打つ夜。混乱極める第四次聖杯戦争の情勢は、本来の史実(・・・・・)とは極めて対照的な流れと言えた。

 

 本来の世界線において、この晩には主に2つのことが起きた。ギルガメッシュによって貪婪たる歪欲に目覚めた言峰綺礼は遠坂時臣に対して謀反を起こし、アゾット剣にて時臣を殺害。マスターの枷を外れたギルガメッシュと再契約をする。また、ライダーはセイバーの駆る超高性能バイクとカーチェイスを繰り広げ、激闘の果てに愛機『神威の車輪(ゴルディアスホイール)』と持ち前の魔力の大半を失うこととなる。特に魔力の大部分の喪失は殊の外手痛く、後の“冬木大橋決戦”にまで多大な尾を引くこととなる運命であった。

 だが、イレギュラーによって物語を大きく歪められたこの世界線では事情が異なった。少なくとも後者については生じる気配すら無かった。何にも増して、キャスターが召喚した巨大怪魔を葬るための大乱闘も発生していない。これらの出来事が生じなかったことは───『征服王』イスカンダルが宝具と魔力を失うことなく完全な状態を保持し続けているという驚くべき事実は───この物語の最終戦局に大いなる番狂わせを巻き起こすキッカケとなろうとしていた。

 

 ……否。番狂わせの最大の要因は、宝具を破壊されなかったことでも、魔力を失わなかったことでもない。一人の少年の覚醒が、全ての流れを変えるのだ。世界に変革をもたらすのはいつだって若者なのだから。

 

 

 

 

 

『どうだ、ウェイバー』

「……ああ。少しずつだけど、高まってる(・・・・・)と思う」

 

 霊体(アストラル)となったライダーの問いかけに、ウェイバーは眉間に皺のない閉眼で静かに応える。聖杯戦争初日にライダーを召喚した深い森林の中心にて───彼は、東洋における精神集中の姿勢『座禅(・・)』を組んでいた。

 

「召喚魔法陣がまだ解れてないのは幸いだった。無理に霊体化させてしまって悪いけど、ここは魔力の回復に専念しててくれ」

『なぁに。他ならぬ我が王(マスター)の言うことだ。異存はない。それに……なにか心算を閃いたのであろう?』

 

 霊体化して見えないはずなのに、片眉を上げてイタズラっぽく笑うライダーの姿が目に浮かぶようだった。ついこの間まで“ボウズ”と引っ叩かれていたライダーから信頼を伴って敬われることに未だ慣れないウェイバーは、言いようのないくすぐったさを覚えて微笑む。敢えて問いかけに明言はせず、唇の端をわずかに吊り上げて格好をつけるだけに留めた。

 

奥の手(・・・)は、僕の座禅(ザゼン)が上手く行ったらの話さ」

 

 そう言って、下っ腹のへその裏、専門用語で言うところの“丹田”で、人体を駆動させる不可視のエネルギーとされる“気”を練りあげることに集中する。

 インド古来の生命学(アーユルヴェーダ)において、“気”とは即ち生命エネルギー(プラーナ)を意味する。己の内側にて普段は乱雑にうねるだけの“気”を、丁寧な呼吸法(ヤーマ)によって整え、練り上げ、より高次なものへと活性化させる。高位格の仏道僧(ハイ・ブッディ・モンク)はこれにより自分と向き合い、悟入(ごにゅう)を目指して魂を研ぎ澄ませる。自らの心の深奥を覗き込み、己の根源を介して宇宙の真理を理解し、過去も未来も見通す神秘の目を体得するのだ。また、ヨガ・マスターはこのプラーナを自在に操ることで全身の細胞を意志の完全なる支配下に置き、通常の人間には不可能な肉体のコントロールを可能とする。どちらも、人間の限界のさらに向こう側の戸口に指先を掛ける手段である。(いわん)や、生命エネルギー───魔力を操ることに長けた魔術師がこれを行えば、その効果は絶大である。

 

(まさか、魔力の質を高めるためにこんな方法があったなんて)

 

 確実に練り上げられていく己の魔力を実感し、ウェイバーは内なる高揚を味わい噛みしめる。魔力が腹の底で整然と回転し、不純物が払い落とされ、純粋なエネルギーへと昇華していく。一回転するたびに熱量は上がり、光が増していく感覚に胸が熱くなる。時間の前後すら無意味化していく透明な感覚のなか、魔力が赤熱し、白熱し、灼熱する。魔力の強さとは“量”ではなく“質”なのだという確信を実際に肌で感じる。

 

 なぜ、生まれも育ちも由緒正しき大英帝国(イングランド)出身のウェイバーが東洋文化の代表とも言える座禅を組んでいるのか?その答えこそ、彼の成長(・・)の証左だった。時計塔の魔術師としての排他的矜持に固執していたかつての彼であれば、「誰が主婦の暇潰し(ホットヨガ)の真似事などするものか」と唾棄して一考にもしなかっただろう。鼻で一笑に付して見向きもしなかっただろう。しかし、今、彼は真摯な心持ちで、教えられたまま忠実に座禅を組み、禅の思想に沿って瞑想に取り組んでいる。間桐雁夜(バーサーカーのマスター)に追いつくためと不要なプライドを切り捨てて他者に教えを請うことを良しとしたウェイバーが、「精神統一の良い方法を知らないか」と居候先の老翁に恥を忍んで尋ね、そして快く伝授されたものだった。

 

 そも、ベルベット家は新興魔術師の家系である。なにせ、魔術師となったのはたった三世代前、祖母の代からなのだ。畢竟、魔術師社会のヒエラルキーのなかで自家のアドバンテージを客観的に示す魔術回路(マジックサーキット)の本数は誰よりも少なく、受け継ぐべき魔術刻印に至っては存在すらしなかった。代を重ねながら少しずつ増やしていくそれらは、歴の浅いベルベット家においては───しかも魔術に本気で取り組んだのはウェイバーの代で初めてという始末───まったくお粗末としか言いようがないものだった。

 魔術回路の本数はそのまま“魔力保有量”を意味し、魔術刻印の緻密さは“コンピュータの性能”を意味する。莫大なエネルギーを流し込んで複雑なコンピュータプログラムを動かす(ドライブする)ことで初めて高度な演算(まじゅつ)を行使できる。どちらが欠けても強力な魔術師足り得ない。例えるなら、高性能のコンピュータがあっても0.5ワットの電力しかなければ精々が豆電球を点けられるだけであるし、コンピュータを動かせるだけの160ワットの電力を持っていても手元に豆電球しかなければ無用の長物であることと理屈は同じだ。だから、魔術師の家系では代々を通じて魔術回路(でんりょく)を増やすことに苦心し、複雑怪奇な魔術刻印(コンピュータ)を子々孫々に継承して発展させることに心血を注いでいるのだ。

 

(僕にはそのどちらも無い)

 

 心中に平坦な呟きが広がり、どこにも引っかかることなく吸い込まれて消える。引け目や負い目を背負わない、事実のみを受け入れた冷静な声音だった。

 両方を持たないウェイバーには、時計塔での生活は屈辱の日々でしか無かった。早世した親の遺産を余さず売り払って苦労して足を踏み入れたのに、明くる日も明くる日もただならぬ劣等感に苛まれていた。

 

 

「半端者め。お前などに魔術は無理だ」

「素人が魔術を極めるなど不可能だ」

 

 

 同年代から公然と放たれる無遠慮な侮辱は彼のプライドをズタズタに斬り苛んだ。その鬱憤から目を逸らすためにウェイバーは子犬のように弱々しい虚勢を張っていた。自分には本当は知られざる才能があるのだ、評価されないのは周囲の無理解のせいだ、となんの実績もないのに喚いていた。

 

(今思えば、なんて子どもっぽかったんだろう)

 

 自分でも驚くほどあっさりと過去の己を評価する。ほんの数日前まで、ウェイバーは他人から自分の出自のことを指摘されると理性より先に恥辱の感情を前面に出して反発していた。感情的で、衝動的で、未熟だった。聖杯戦争に参加するという大博打に打って出たのも、元はと言えばロード・エルメロイから出自の劣等を馬鹿にされたことへの意趣返しに起因する。

 

(本当に子どもっぽい───でも、後悔は無い)

 

 何本目かわからない高価な栄養ドリンクを一息に飲み干すと、袖口でグイと乱暴に口元を拭う。

 今の彼は、魔術の技術(テクニック)は決して魔力量や魔術刻印だけに左右されないという本質を理解していた。何にも増して、弱み(・・)強み(・・)へ変換出来ることを学んでいた。

 

(やりようはある。バーサーカーの(・・・・・・・)マスターのように(・・・・・・・)!)

 

 今のウェイバーには素晴らしい手本がいた。バーサーカーのマスターだ。名も知らぬその謎のマスターは、時計塔で5本の指に入るかという天才魔術師ロード・エルメロイをたちどころに易易と撃破してみせ、ランサーに鮮やかな死に花を咲かせる小粋な演出までしてみせた。さらには闇の世界に身を落としていたアサシンを一蹴し、彼に本来の情熱を取り戻させた。切嗣や時臣のような情報網を持たないウェイバーには年齢も姿も知る由もないが、暗闇のなかで鋭い笑みを浮かべるシルエットは容易に想像できた。

 

(彼は弱みを強みに変える術を知っていたんだ)

 

 聖杯戦争による被害を防ぐためにバーサーカーというハンデを自ら請け負ったのに、弱み(ハンデ)にすらなっていないほどの手腕には舌を巻くしか無い。本来、バーサーカーのクラスは理性を失うかわりにその他のステータスを強化して召喚されるものだ。“理性を失う”と一言で言っても、それが強力無比なサーヴァントであればマスターが背負うことになるリスクは計り知れない。躾をされておらず見境なく暴れる狂犬病のピットブルを手元に置いておくよりは、多少戦闘力が落ちたとしても従順に躾けられた純血のシェパードの方が都合が良いに違いない。しかし、バーサーカーのマスターにはピットブル(バーサーカー)を完璧に御する自信と実力があった。失われた理性をマスターが補うことで、今時戦争では向かうところ敵無しとなった。彼は弱みを単なる劣後とは捉えなかった。見事に強みへと変えてみせた。

 

(そうだ。そして僕には、何も持たない(・・・・・・)という強み(・・・・・)がある!)

 

 この発想の転換は、持たざる者であるウェイバーならではだった。

 魔術回路とは魔力の流れ道であり、生命エネルギーのバイパスである。言わば“パイプ”だ。パイプを増やせばキャパシティも増えるのは道理だ。アーチボルト家のような家格高い家系は歴代を通じてこの手法に腐心している。代を重ねて魔術刻印が理想に近づけば近づくほど、保有する魔術刻印に吸われる必須魔力量が比例して増えていくからだ。ウェイバーはここに逆転の要素を掴んだ。彼らのような貴種の魔術師はコンピュータと発電機(モーター)を常に身のうちに抱えているのも同じだ。コンピュータが高性能になればなるほど必要な電力は増える。それに比例して発電機も大きくしなければならないのは自明の理だ。

 

僕は違う(・・・・)

 

 しかし。しかし、ウェイバーはこの法則に縛られない。何故なら、彼は魔術刻印(コンピュータ)を持っていないのだから。従って、彼の発電機は負荷ゼロの身軽なままなのである。時計塔であれば、魔術刻印が無いということは言い訳のしようもなく不利になる弱みだが、この聖杯戦争においてはまったく条件が異なる。

 

(これは『英霊』という人類の手に余るほど強力な『礼装武器』を使う戦いだ。英霊相手に魔術刻印は無意味だ。むしろ魔力を無駄に消費することにしかならない。魔術刻印を持っていない僕は()()()()!)

 

 魔術刻印は自身の肉体と魂と深く結びついた不可分の融合物であり、心臓(エンジン)がもう一つ増えたようなものだ。当然、魔術刻印の維持だけでも魔力は消費され続ける。コンピュータは待機状態でも電力を消費するし、走らせなくてもエンジンはガソリンを燃やし続ける。だが、ウェイバーにはその余計な負担が無い。ロスすることなく持てる全てを英霊に傾注することが出来る。

 自らの劣後を直視出来るようになった今では、劣等感を刺激されるばかりだった出自の弱点がとても優越的なもののように思えた。

 

(しかも、僕は好きなだけ武器(・・)に弾をこめまくることが出来る)

 

 そもそも、人間には魔力を貯蓄する便利な器官は無い。魔術回路はあくまで魔力を発電(・・)するのみに過ぎない。特別に調整されたホムンクルスならまだしも、普通の魔術師は魔力をプールするバッテリーのようなものは持ち得ない。だが、高位精霊に等しいサーヴァントは事情が異なる。彼らは魔力をエネルギーとして駆動するが、同時にその肉体は霊格(コア)を包み込む魔力分子で構成されている。そのため、ほぼ天井知らずに魔力を溜めておくことが出来るのだ。注げば注ぐほどその肉体は高密度の魔力の塊となる。これは質量が増大するに等しい。普通の拳が鋼鉄に置き換われば比類なき一撃となることと同じだ。魔力を溜め込めば溜め込むほどサーヴァントは果てなく強くなるのだ。

 

(だからこそ、僕がやるべきことは単純明快だ───ひたすら良い魔力を作る(・・・・・・・・・・・)

 

 これこそ、ウェイバーが高級な栄養ドリンクを次々と飲み下しながら座禅を組み、己の魔力の質を高めんと苦心している理由である。魔術回路の本数は一朝一夕では増やせない。だが、魔術回路の稼働効率(・・・・)を上げることは出来る。己の矮小なモーターを限界までチューンアップし、燃え尽きる寸前まで回転を上げる。

 目指すはただ一つ、『サーヴァントの最大強化』のみ。

 

(小手先には頼らない。ただ僕の持てる全てを、切り札『大英霊アレキサンダー』に懸ける!!)

 

 他の勢力は多くの時間と労力を湯水の如く犠牲にし、ありとあらゆる手を尽くしてライバルの裏をかこうと苦心惨憺していることだろう。ウェイバーにとってはそれは付け込む隙となり、逆転の鍵となる。彼らがご苦労にも無駄な時間と無駄な労力の消尽に躍起になってくれている間に、ウェイバーの切り札の威力は加速度的に増していく。右往左往する敵は、自分を虎視眈々と狙っている弓矢を引き絞る腕にどんどん力が掛けられていくことを知りもしないのだ。

 

(ありがとう、お爺さん)

 

 この思考実験を現実のものとすべく悩んでいたウェイバーに、日本に帰化して長い老翁は、積み重ねた東洋的思考の含蓄のなかで、強くなろうと足掻く若者が求めているであろう方法を、その年の功で的確に教えてくれたのだ。

 

「───っ」

 

 馴れない方法による魔力昇華のせいで微かな目眩を覚えたウェイバーは、さっそく覚えたばかりのプラーナを駆使して意識の混濁を流れる水のようにいなし、精神の安定を難なく取り戻す。

 

『ふぅむ。なかなか、東方の果ての果ての妙技も捨てたものではないようだな。マケドニアでも取り入れればよかったなぁ』

 

 傍目にもそのプラーナ捌きは見事な出来栄えで、ライダーは思わず感嘆に呻いて胸の前で腕を組んだ。

 

(なんともまあ、“男子三日会わざれば云々“と言うが、物の見事に化けるものだ。この小僧、案外、将来は大層な傑物になるやもしれぬな)

 

 人類最高峰の傑物たるイスカンダルからしても、今のウェイバーには言い知れぬ可能性が透かし見えていた。少年は、知勇ともに成長を遂げようとしていた。ただ事態を受動的に受け入れ、自棄(やけ)気味に対処していくだけだった過去のウェイバー・ベルベットはもういない。ここにいるのは、目標とした背中に向かって飽くことなき熱情を燃やし、力強く確実に一歩一歩を踏み出さんとする男だ。

 

軍事(いくさ)の素養は取るに足らんが、こと理解力と洞察力に掛けてはエウリピデスのように優れておる)

 

 考察を得意とした古代アテナイの学究的詩人をウェイバーに重ね、ライダーは我知らず突き出した顎を摘む。その横顔からは、稚拙な少年だった頃の面影はものの見事に剥がれ落ち、たくましい益荒男(ますらお)の凄みが見え隠れし始めていた。

 

(こやつめ、いったい何を思いついたのやら───)

「予感がするんだ」

『む?予感?』

 

 原始に近い自然の闇に囲まれながらもなんら恐怖を感じていない声音で、ウェイバーは唐突に紡ぐ。

 

「僕たちが次に戦うのは───いいや、最後に戦うのは(・・・・・・・)、きっとアーチャーだ。そこで僕たちの戦いの決着がつく。そんな予感がするんだ」

 

 この発言には、さしものライダーも度肝を抜かれて押し黙る他なかった。およそほとんどのことで動揺しない彼を驚愕せしめたのは、その台詞の内容ではなく。

 

『……相手は半神だというのに、ずいぶんとまた剛毅な口ぶりではないか』

 

 内容ではなく、まるで淡々と事実を語るだけのような、落ち着き払って平坦な口調に驚いたのだった。

 人類史において最強クラスのカリスマである征服王(ライダー)は、自らの王道と英雄王の覇道は同線上にあり、故にどちらも譲ることは出来ないことを理解していた。両者は真正面からぶつかり合う運命であると第六感で確信していた。おそらくは英雄王(あいて)も同じように知覚しているであろうことも。

 

『曲がりなりにも、ありゃあ本物の神だ。余もゼウスの息子だなどと嘯いて箔をつけたもんだが、あっちは正真正銘だぞ』

 

 英雄王ギルガメッシュ。古代ウルクを収めし人類最古の王。傲岸不遜にして唯我独尊。傍若無人にして万夫不当。この世の全てを手中に収めた世界最大最強の戦士。全ての英霊の元祖。神と人間の間に生まれし、正真正銘の神の化身。そんな相手と剣を交えようというのだ。肝っ玉が服を着て歩いているようなライダーですら、アーチャーとの戦いを思い浮かべれば思わず生唾を呑み込み顎に力が入る。もしかしたら───絶対無敵を自負する『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』ですら押し負けるのではないか、と。

 しかし。

 

「ライダー、『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』はあと何回発動することが出来る?」

『むん?そうさな、今の余の魔力の状態なら一度(ひとたび)………いや、そなたの魔力の補給がかなり良くなってきておるから二度(ふたたび)だろうな。あと丸一日そなたが魔力の生産に専念すれば、三度(みたび)といったところか』

「そうか。じゃあ、令呪も3画全てを使う。令呪1画で2回分と考えて、9回。そして僕も限界を超えて死ぬ気で魔力を生み出す。これでギリギリ10回分にはなる。してみせる。そして、()()()()()()()()使()()

『……マスター。そなた、何を視ている(・・・・)?』

 

 ウェイバーがスッと静かに目を開く。確信に満ちた物言いには臆した風は微塵も無かった。むしろ、一種幻妙な───常人には見えない未来(もの)見通す(みる)者特有のカリスマ性すら滲んで見えた。それはまさに、かつて未だ見ぬ『絶対到達不可能点(オケアノス)』を目指した男の双眸と瓜二つだった。

 それを目にしたライダーの感情が瞬間的にマグマのように昂ぶり、熊のような背筋にゾクゾクとした武者震い(かんげき)が走り回る。

 

「正直、勝てる気はしないよ。相手は半分神様。こっちは猿の進化系だ。きっと宝具の威力も桁違いに違いない。傍からすれは“絶対に無理だ”と思われるに違いない。本当に、勝てる気なんて無い。けどな。なんの根拠もないんだけど───」

 

 ニヤリと深く鋭い笑みを浮かべ、ウェイバーは握り拳を大きく振るうと天に向かって豪胆に衝き上げる。それは、成長した少年(にんげん)から神世への挑戦状。

 

「負ける気は、まったくしないんだ!!」




ティロロロロ~~ン♪

【聖杯より通知がありました】

【ウェイバー・ベルベットが覚醒しました】

【ウェイバーのマスターレベルが上限値に達しました】

【おめでとうございます!実績が解除されました!】

【運命変更値が更新されました】

【宝具『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』が限界突破(アップデート)されました】

【宝具『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)全軍全弾解放(フルバースト)』が実装されました】

【宝具ランクが『対軍宝具』から『対()宝具』へ向上しました】

【宝具レベルが英雄王ギルガメッシュ『乖離剣エア』と同格となりました】

【宝具開放まで待機中です。幸運を………】

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