刻の涙   作:へんたいにーと

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第四話

中尉の戦死を悲しむ間もなく、ジェリドと曹長はランチに詰められた。当然昼食になったわけではない。脱出艇にもなる小型の宇宙船で、ティターンズの旗艦であるアレキサンドリアに召集されたのだ。ランチにはMP(憲兵)が乗っており、これがただの召集ではない事を物語っていた。せまい機内の中でMPに監視されながら輸送されていく中、ジェリドは思い出したように煙草を燻らせたくなった。太郎が憑依する前のジェリドは喫煙家ではないため、太郎の記憶がジェリドの脳に作用した結果である。宇宙世紀当初は宇宙空間に置いての空気の重要性から、煙草は地球以外では全面的に禁止されていたが、電子煙草はその限りではなく喫煙家は一定数存在した。さらに近年、科学技術の進歩と共にフィルターや空気清浄設備が進化し、本物の煙草の規制も緩和されていった。

今でも喫煙家の人口は少ないが、周りから隔離された喫煙スペースがコロニーやグラナダ、宇宙船などにも取り入れられ社会に受け入れられていた。もちろん地球のように公園で青空のもと一服と言った事は不可能だが、屋外でも喫煙ボックスの中でなら吸うことが許されていた。閑話休題。

 

ジェリドが曹長に話しかけると、曹長は泣きながらこちらを睨んだ。どうやらジェリドは先の戦闘で完全に嫌われたようだった。

気まずい雰囲気の船内にかすかな衝撃が伝わった。ランチがアレキサンドリアに着艦したのである。

 

 

◆アレキサンドリア―ブリッジ

 

ヘルメットを取ると、二人は入室した。

 

「ジェリドメサ中尉、エイダ・カールソン曹長入ります!」

 

ジェリドは大声で自分達の到着を知らせた。ランチの中で曹長の名前と、戦死した中尉の名前は聞いておいた。中尉の名前も聞かずに永遠の別れになった事は、ジェリドの中で大きなしこりになっていたのだった。

 

(名前を聞くのも苦労したがな)

 

ジェリドの一歩後ろに立っている曹長と戦死した中尉はどうやら仲が良かったようだった。

 

(やれやれ、こちらもご立腹のようだ)

 

ブリッジではバスク・オム大佐が指揮シートに座り、バスクの腰巾着であるジャマイカン・ダニンガン少佐が傍に控え待っていた。

二人とも大変ご立腹のようである。バスクなど、そのスキンヘッドの頭に大きな青筋がいくつも浮かんでいた。

 

(まったく卑猥な野郎だ)

 

ジェリドはそう一瞬思ったが、すぐに居直った。

 

「ご用向きは」

 

「用件など決まっておる!貴様の二度にわたる失態と、ガンダムマークⅡをエゥーゴに奪われた件だ!」

 

ジャマイカンが怒鳴り散らす。その剣幕にこちらに背を向けていた数名のオペレーターが思わず振り返った。

そのオペレーターの視線をバスクが軽く手で払って仕事に集中させると、ジェリドに戦闘の詳細を尋ねてきた。

 

「口頭でいいから今説明したまえ」

 

「はッ 先ほどの戦闘で僚機としてパミル・アデス中尉とエイダ・カールソン曹長をハイザックにて出撃させました。エゥーゴが開けたものと思われる穴をコロニー外で発見。二つに戦力を裂き待ち伏せし、敵が出てきたところを十字砲火、その後包囲殲滅する予定でしたが、これを見破られ、敵モビルスーツと交戦中に自分の機体は被弾。中破しました。さらには、敵艦からの艦砲射撃によりパミル・アデス中尉が撃墜され戦死。敵の追跡を断念しました。」

 

「……戦力の集中は戦いの基本だ。少ない戦力を更に分散させるなど、もってのほかである。貴様の無能が中尉を殺したのだ!」

バスクがジェリドに詰め寄り顔面を思い切り殴り飛ばした。

 

「ぐぅっ」

 

低重力化にあるジェリドは、衝撃から靴のマグネットがはずれ、床から浮いて弾き飛ばされた。宙空に赤い水玉が描かれる。

ジャマイカンとエイダが冷ややかな目で自分を見ているのがジェリドの視界に映った。

バスクはそのまま宙空を漂うジェリドを叩き落すと、ジェリドの怪我をしてい頬を思い切り踏みつけて床に固定した。

 

「ぎぃっ」

 

ジェリドは自分の処遇をバスクに踏まれたまま聞き届けることとなった。

 

 

「ティターンズに弱者は不要である……が、即応出来たのは貴様達だけだった事もあり今回だけは不問とする。しかし中尉、貴様は本部ビルを半壊させた罰で半年間の基本給与30%カット、3ヶ月間の外泊禁止。その後沙汰あるまで……独房での謹慎処分とする。先ほどの戦闘は報告書にまとめて曹長、君が提出するように。以上」

 

「……はッ」

曹長の返事を聞き届けると、バスクはようやくジェリドから足を離した。

ジャマイカンが退出しろと顎でしゃくる。

二人が退出しかけた時、バスクはジェリドの後ろにいた曹長にちらりと目をやると、少し驚いた風に小声で独白した。

 

「女か」

 

 ブリッジを出るとジェリドはすぐにMPに医務室へと連れていかれた。曹長と別れの挨拶をする間もなく急きたてられ、治療を受けるとすぐに独房に放れる。

怪我の内容は全身打撲と肋骨のひび以外は大したことはなく、ジェリド自身も驚いていた。

懲罰服に着替えさせられ、制服や持ち物はすべて没収された。独房といっても宇宙戦艦の独房なので格段に汚いということはない。無機質なアスファルトの壁に覆われている箱のような部屋。トイレと洗面台があるだけで他は何もない。ここでできることと言えば冷や飯を食って床で寝るだけだ。空調は完備されているため特に風邪をひくこともないだろう。

 

 ジェリドは独房入りをむしろ好ましく思った。任務や事務に追われることもなく、ゆっくりと考える時間は今の時期しかないだろうし、先ほどのバスクが言っていたことも道理に適っていた。罰を受けている方が気が楽だった。

 

 ジェリドがMPに聞いたところ、アレキサンドリアは一旦グリプスに向かっているらしい。となると、アーガマは史実通り姿をくらましたという事だ。

つまり、追撃隊はルナツーに駐留している地球連邦軍であるサラミス級の戦艦ボスニアが行うだろう。

今からこちらで追撃するよりは、ルナツーから追撃隊を出した方が追いつく確率は高いということか。ボスニア所属のモビルスーツ隊と言えばライラ・ミラ・ライラ大尉率いるガルバルディ隊が有名だ。そうひとりごちると、ジェリドはゴロリと寝っ転がった。

 

 ジェリドはこの後カミーユが両親を失い、エマが脱走する事案を思い出していた。

ライラ隊の活躍によりアーガマは捕捉され、メインエンジンを損傷する。速度が出ないアーガマはグリプスから追撃に来たティターンズ艦隊を振り切ることができない。

そんな時バスク大佐は取引を持ち出す。カミーユとガンダムマークⅡをこちらに受け渡せ。さもなくばカミーユの両親を殺害すると。

実際にカミーユの母はカミーユの目の前で殺されてしまった。

不利な状況のアーガマはメインエンジン修復の時間を稼ぐため交渉を飲む。

その判断はエマ・シーン中尉という人間がティターンズを裏切るに違いないというクワトロ・バジーナ大尉の強い押しが働いたためでもある。

かくしてクワトロは賭けに勝った。人質などという卑劣な手を使うティターンズのやり方に辟易したエマは、カミーユとカミーユの父を連れガンダムマークⅡ3機を手土産にエゥーゴへと逃亡したのである。

その後カミーユの父、フランクリン・ビダン大尉はクワトロ大尉の赤いリックディアスを強奪し、ティターンズへと戻ろうとする。

しかし、行き違いから乱戦となりフランクリン大尉は戦死する……というのが数日後から始まるカミーユの悲劇であり、エゥーゴとの戦闘の始まりである。

 

(ライラ・ミラ・ライラ、どんな人だろうか)

 

ジェリドはエマ・シーンの美貌を思い出し、ライラを想像した。エマ中尉はアニメよりも美しかった、ちょっと怖かったけどそれもまた一興である。

劇中、ジェリドにとってライラの存在は非常に大きい。ライラが長生きしてればジェリドは良い男になったであろうと言われるくらいに。

しかしライラはあまりにもあっけなく序盤で死んでしまう。今やジェリドは劇中のジェリドではなく太郎としての精神を持っている。ライラの存在が必要不可欠かどうかは分からなかったが、ジェリドには死んでしまうのは惜しい気がした。

 

(助けられるものなら助けたいが)

 

しかしジェリドはグリーンオアシス外でのクワトロとの戦闘を思い出し、ニュータイプをオールドタイプである自分が倒すのは不可能に近いと感じていた。

ライラとの戦闘時のカミーユはすでにニュータイプとしての片鱗を見せている。助けられるのか微妙なところであった。

 

 何れはエゥーゴに降るのが上策であろうと考えるが、エゥーゴに先ほど強襲されたためジェリドの中での心象はすこぶる良くなかった。今はまだティターンズのままでいようとジェリドは決めたのだった。

詰まるところ、ジェリドに大義はない。ただ自分にとって住みやすい陣営を選ぶに過ぎず、目の前で死んでいく人々を助けられる範囲で助けたいと思うエゴを持つ小物であった。

 

ジェリドがうとうととしていると艦内に第二種戦闘配置を知らせる警報が響き渡った。

 

(ボスニアがアーガマを捕捉したな)

 

のんびりとそんな事を考えながらジェリドはもうひと眠りしようと考えた。

絶賛独房入りのジェリドには関係のないことである。戦闘に出させてくれと騒げば特例として出撃させてくれるかもしれないが、ジェリドにはその気がなかった。

 

(俺が出てったところでカミーユの母を殺して余計な恨みを買うだけだ)

 

自分が出ていかなくてもだれかがその代わりをやるだろう。ジェリドはわざわざ自分の手で無抵抗な人間を殺したくはなかった。未来を知っているというアドバンテージから、出撃することでもしかすれば人を一人救えるかもしれないというのは、ジェリドにもわかっていた。その策も考えつかないわけではない。だが、実行に移す気は毛頭なかった。まだティターンズ陣営にいようと考えたジェリドは余計なリスクを背負いたくなかったのである。

しかしそうは問屋がおろしてくれなかった。独房に近づく複数の足音に、ジェリドは嫌なものを感じていた。

 

◆ブリーフィングルーム

 

「いいな。ジェリド分隊の命令書は後続のカプセルが視界に入ったら開くのだ。エ

マ・シーン中尉の交渉は15分間が限度だ。わかったか」

 

オレンジ色の作戦ボードを背にし、ジャマイカンは手を後ろで組みながら淡々と説明を終えた。

 

 ジェリドは今、ブリーフィングルームにいる。先ほどの足音はジャマイカンとMPのものだった。

 

「中尉、不甲斐ない貴様に、この私が特別に挽回のチャンスをやろうじゃないか」

 

「ジャマイカン少佐……」

 

(俺にカミーユの母を撃たせる気か)

 

何とかその言葉をのみこんで黙ったジェリドをジャマイカンは感銘を受けて沈黙したものと取った。

 

「何、怪我をした貴様にも十分にこなせる任務だ。着替えてからブリーフィングルームに来い」

 

 

猫なで声で命令するジャマイカンにジェリドは心底から嫌悪し、吐き気を覚えた。

 

 

 

作戦内容はジェリドが独房の中で思い出したものと変わらず、人質作戦であると思われたが、表向きはエマ中尉による交渉となっている。

 

「そのカプセルというのは強力な爆弾でしょうか?」

 

エマがジャマイカンへと質問する。

 

「そんなところだ」

 

下種な笑みを浮かべながら答えたジャマイカンに、エマは納得したようで質問を終えるとブリーフィングルームにいる部下たちへ締めの言葉を述べた。

 

「では、初めてハイザックに搭乗する者もいると思うが高度の訓練と思え!今回の作戦はあくまでもマークⅡを取り戻す交渉である」

 

ジェリドはその凛々しくも美しいエマに滑稽なものを感じていた。彼女はこれからすぐ裏切ることになるからだ。

エマはちらりとジェリドを見やると、その擦り傷と打撲でひどい顔を見て少し眉をひそめたが、その瞳は好意的なものであるとジェリドは感じた。

 

 

「作戦時は別のものに小隊長をやってもらうから、そのつもりで。以上解散」

 

最後に思い出したようにジャマイカンが連絡事項を述べて解散となった。

 

作戦開始は30分後だ。各自準備をしにそれぞれの方向へと散って行く中、エイダ・カールソン曹長はジェリドについてきた。

 

「中尉!独房入りではなかったのですか」

 

あれほどの怒りを買った者が数時間で出てきたのだ。流石に不審に思ったようだった

 

「俺の分隊に配属されたようだな。よろしく頼む」

ジェリドちらりとエイダを見ると質問に答えぬまま、無重力空間のため通路の壁に備わっている自動グリップを掴み、進んでいく。

 

「中尉!答えてください!」

 

 赤毛のショートカットのともすれば小柄な少年にも見えるエイダは、眉を怒らせて追ってきた。ジェリドは彼女がアレキサンドリアへ行く途中のランチで、パミル・アデス中尉は私をかばったため戦死したという事を涙し、こちらを睨みながら話していたのを思い出した。

 

(正義感の強いタイプか。おおよそ俺が裏で何か手をまわして出てきたとでも思っているんだろう)

 

エイダもグリップを掴み追って来たため、ジェリドは一瞬考えて言葉を選びながら答えた。

 

「カプセルは強力な爆弾だ。カプセルが到着するまで俺は命令書を開いてはいけない事になっている。つまり、捨て駒だ。そのカプセルを抱いてアーガマへ突貫するのか、爆弾の威力圏内で俺が爆発させるのかは知らないが、俺が生きて帰ることはないだろう」

 

いくら憎いとはいえ、同じティターンズであるジェリドにそんな命令を出したジャマイカンにエイダは唖然とし、言葉もない。

ブリッジでもジェリドを睨んでいたエイダにジャマイカンが目をつけたのだ。ジェリドを単騎ではなくエイダと分隊を組ませることで、逃亡を阻止する狙いがあった。そして万が一ジェリドが撃墜されれば、代わりにエイダに撃たせる事で保険としての役目ももたせてあった。

 

「中尉の事はすまないと思っている。貴様も俺と共に死ぬ必要はない。カプセルを視認したら戦線から離脱しない程度に離れていろ」

まだ何かあるかと問われたエイダは、敬礼すると思いつめた様子で格納庫へと向かっていた。

 

 エイダ・カールソン曹長は配属されてからずっとパミル・アデス中尉の部下であった。もっとも信頼し、秘かに淡い恋心を抱いていた上官の死に対し、作戦を立てたジェリドへ怒りをぶつけてしまっていたのはある種当然といた。しかし彼女も軍人であったし、作戦事態も無茶なものではなかった事も実際に作戦に従事して理解している。ただ感情のやり場がなかったのだ。正義感の強い彼女はブリッジでの過度な鉄拳制裁を普段なら黙って見ていなかっただろう。しかし、辛く当っていたジェリドが死にゆく事を知り、彼女の心はジェリドに対する罪悪感とパミル中尉の死に対する悲しみとで綯い交ぜになってしまっていた。

 

(さてと……危険だが、接触するなら今しかない)

 

そんな感情の機微に当然気づかないジェリドは、エイダが見えなくなるとすぐさま自室へ向かった。

収納スペースの一番下に入れてある大きめのアタッシュケースを掘り返すと、今度はノーマルスーツルームへと向かい、一着のノーマルスーツをアタッシュケースに詰め込み、ビダン夫妻の元へと移動した。

 

 ビダン夫妻が居住ブロックにある飲食可能なルームにいることは既につかんでいた。あとはノーマルスーツを収納したアタッシュケースを手渡すだけだ。

ジェリドは通路に仕掛けられている監視カメラになるべく映らないように移動した。

目的の部屋に入ると、フランクリン大尉はいるもののヒルダ中尉がいない。

 

「なんだね君は」

 

フランクリン・ビダン大尉は眉をひそめた。突然顔面あざだらけの男が入室してきたのだ、いぶかしみもする。しかしジェリドは意に返した様子もなくずけずけと質問した。

 

「ヒルダ中尉はどうされました?」

 

フランクリンは一瞬戸惑ったが、すぐに嫌そうな顔で答えた。

 

「妻ならトイレに行った」

 

「そうですか。後ほどまた参ります」

 

(なるほど、そう言えば愛人の事を指摘されて頬を叩く描写があったな。大方トイレで泣いているか化粧でも直してるんだろう)

 

そのまま敬礼し部屋を去ると、ジェリドは近くにある女性用トイレへ戸惑うことなく飛び込んだ。

水場では見当たらないが、個室を見ていくと一つだけ使用中になっていた。

 

(くそ、時間がないんだ!)

 

ジェリドは心のなかで毒づくと、その使用中の個室をノックした。

 

「ヒルダ中尉!入ってますか!」

 

「な、なんですかあなたは!ここは女子トイレですよ!」

 

すでに女盛りを終えている女が、女子という言葉を使うことに対し若干の苛立ちを覚えながらもジェリドは続けた。

 

「今開けないのでしたらこちらから蹴破りますよ!開けてください!」

 

ヒルダは小さな悲鳴を上げたが観念したようで衣類をがあわただしく着る音が聞こえ、すぐに扉を開けた。

 

「あ、あなたは、!」

 

何なんですか!とヒルダが続ける前に太郎は彼女を個室へと再び押し込み、壁に手をつかせて、ドアのカギをロックした。

 

「ら、乱暴者!」

 

叫ぶヒルダの口を手でふさぎ、暴れるヒルダを押さえたため、後ろから抱き締めているような形になってしまった。ジェリドは自分の股間部をヒルダの意外にも弾力のある尻に押しつけてしまい、一瞬たじろいだがすぐにまくしたてた。

 

「時間がないんだ!これから言うことをよく聞かないとあんたは死ぬことになるぞ!」

 

耳元で囁くようにしかし語気を強めて話すその剣幕にヒルダは怯え、完全にジェリドにレイプされると思い込んでいた。

 

「詳しいことは言えないがあんたはこれからスーツを着用せずにカプセルへ入れられる。その時にこのケースを持っていけ」

 

ジェリドはヒルダ中尉の口から手を離し、少し離れると、アタッシュケースの中身を見せた。

 

「ノーマルスーツだ。メットもある。良いか、だれが何と言おうと何をされようとこのアタッシュケースを持っていくんだ」

 

「あ、あなたは何を言っているのですか」

 

ヒルダは困惑し、まともに頭が働いていなかった。今まさにスカートを破られ、嫌がる自分に強引にペニスを突き立てようとしていたに違いないこの若い士官は何を言っているのだろうか。

 

「おそらく材質調査の名目でカプセルに入れられるはずだ。それを逆手にとって調査用の器具が入っているとでも言えばいい。このケースを手放したらあんたに未来はない」

 

「いいな。殴られても蹴られても、気が狂ったように見せてそのケースを離すんじゃないぞ。宇宙に射出されたらケースからノーマルスーツを取り出して着替えるんだ。そのあとは……エゥーゴへと渡ると良い」

 

「エゥーゴって、一体あなたは何でこんなことを……」

 

「俺はあんたの入ったカプセルを撃つように命令されている!もう時間がない。このことは他言するな、フランクリン大尉にも言うんじゃない。ケースは絶対に離すんじゃないぞ!」

 

ジェリドはそう言うと、呆然としているヒルダを残しその場を後にした。

ヒルダはジェリドが出て言った瞬間緊張が解け、ほうっと震えながらため息をついた。

そしてうっすらと湿り気を帯びていた自らのショーツに気づき、年甲斐もなく赤くなるのであった。

 

 


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