刻の涙   作:へんたいにーと

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第三話

宇宙港

 

宇宙港のロビーには民間、軍問わず怪我人であふれていた。連邦本部ビルがジェリドの墜落事故に重なり戦闘の余波を受けており、機能が十分に働いているとは言えなかったからだ。

怪我人は応急処置を受けた後、地下ブロックの避難所に移されていくだろう。この惨状を横目で見ながら、太郎ことジェリドはあけ放たれている扉からロビーへとよろよろと入ると、手近にいる民間人の手当てをしている忙しそうな衛生兵の肩を叩いた。

 

「悪いが、先に俺を診てくれ」

 

肩越しに話しかけるが、衛生兵はジェリドの方を振り返らず民間人の娘の足に刺さったガラス片をピンセットで抜きながら答えた。

 

「すいません。この娘が終わりましたらすぐに診ますから」

 

「貴様」

 

集中している衛生兵を振り向かせるためにジェリドが肩をぐいと引っ張る。そのせいで手元が狂ったのか傷口に深くピンセットが入ってしまい。娘が悲鳴を上げた。

 

「なんなんだあんた!」

 

苛立ち振り向いた衛生兵が見たのは全身血と煤塗れのジェリドだった。顔は特にひどく、地面に投げ出されたときに擦りむいたのだろう頬は、赤黒く変色していた。衛生兵はしばし呆然とした後すぐにサーっと血の気が引いていくのを感じ顔面蒼白となった。衛生兵は連邦軍の上等兵でティターンズの中尉であるジェリドとは天と地ほどの差がある。

さらには相手はあの悪名高きパイロット、ジェリド・メサである。下手すればこの場で病院送りにされてもおかしくない状況であった。

 

「中尉でしたかッ!申し訳ありません!すぐに診ます!」

 

衛生兵は打ん殴られる(ぶんなぐられる)と思い身構えながらそう述べたがジェリドの方は応と一言頷くとどかりとその場に座り込み、パイロットスーツの上半身を脱いだ。

 

「ここは痛いですか?ではこちらは? 肋骨にひびが入ってるかも知れませんね」

 

衛生兵はまずアルコールで浸したガーゼでジェリドの頬をぬぐった後、傷口を清潔にしながら触診を行っていった。

乗車中のジープが爆発し、あれだけの衝撃をジェリドは受けていたにも関わらず、見た目ほど深刻なダメージを負っていないのは、一重にパイロットスーツの技術力の賜物だった。

 

 治療をさせている間、ジェリドはチラと衛生兵が今まで診ていた民間人の女子へ目をやりギョッとした。黒髪の少し肩の部分にクセがある独特の髪型、きりっと上がった眉に黒い瞳がこちらを凝視している。

いや、何も睨まれてすくみあがったわけではない。ジェリドが驚いたのは彼女に見覚えがあったからだった。

 

(こいつ、ファ・ユイリィじゃないか)ジェリドは目を伏せた。

 

ファ・ユイリィ、カミーユのガールフレンドで後にブライトのテンプテーションでエゥーゴのアーガマへと渡り、喧嘩しながらもカミーユを支え続けた気丈な女の子だ。

パイロットとしてはそれほどの活躍は見せていないが、メタスで終盤まで生き残るほどの腕はあり、地味にカミーユの窮地を幾度も救っている。

つまりはティターンズに所属する人間にとって敵になることが明確な人物と言えた。

 

(……どうする。ここで殺すなり拉致なりしてバスク大佐へと引き渡せば、カミーユの精神的支柱の一つを砕く事が出来る。ファの存在はアーガマにとってもカミーユにとってもでかい)

 

ひやりとジェリドの頬に汗が伝う。先ほどから顔面血だらけで眉間に皺を寄せうつむきながら自分を見てくるティターンズ兵に、ファは恐怖のあまり手足が震え、目じりに涙をためていたが意を決して話しかけた。

 

「あ、あの……なんでしょうか……?」

 

その掛けられた一言でジェリドの思考は中断され、そして自分が考えていた事のくだらなさに一人苦笑することとなった。

 

(17歳の女子高校生を殺すとか拉致するとか、何を考えているんだばかばかしい。どうせ殺すならクワトロのロリペド野郎とかそっちだろうが)

「いや」

ジェリドは手を軽く振ってため息をひとつつくと、もう一度ファをよく見た。

 黄色いタートルネックのシャツの上に赤いノー・スリーブのジャケットを羽織っている。下は黒のミニスカートに黄色の靴下、茶色の皮靴だ。

両足の膝小僧は転んだのか擦りむけていて、その肉厚な太ももにはガラスの破片が刺さり流血していたが、幸いなことに上半身は多少すすけた程度のように見えた。

 

(JKのむっちり太ももにガラス片が刺さっているだと?――バカな)

 

「一応聞くが他に手すきの衛生兵はいないのか?」

 

ジェリドの頭に包帯を巻く作業に入っていた衛生兵にジェリドは苛立ちながら問うた。

 

「ご覧の通りのあり様で、皆手一杯です」

 

衛生兵は手を止めず自嘲気味に答えた。

ジェリドはしばらくファの太ももを見ていたが、やがておもむろにわきに置いてあった医療キットの中からピンセットを取り出すと、ファを手招きした。

 

「足を出せ」

 

未だ心身的ダメージから復活していないジェリドは、アルコールで顔を拭かれ血濡れ状態ではないものの、依然顔は青白く無表情であった。半裸の生気を失った顔の軍人に足を出すように言われたファは、ヒッと息をのんだが、結局ためらいながらも足を差し出すことにした。

ジェリドは意外にも器用な手つきでガラス片を抜いていった。しかしその動きはどこか機械的で、ためらいと言うものがなく、ファはガラス片を抜かれるたびに痛みによる悲鳴を噛み殺していた。

 

ジェリドが何故こんな行動をとっているのかジェリド自身、分かっていない。しかし、クワトロを追撃しなければならない事は頭ではわかっていても、やはり恐怖と言うものがついて回るし、目の前に怪我人がいて、自分の方に治療を優先させている以上、多少なりとも手助けしたいというあまい太郎としての心が、今回こういった行動を取らせていた。

 

「足をどうしたんだ」

 

ジェリドの視線はふとももの患部に向いており、その呟くような問いにファは自身へ聞かれているものだとは思わなかった。

 

「転んだのか」

 

更なる問いかけにより自分に話しかけている事を確認したファは、緊張からスカートの端を片手できゅっと掴みながら答えた。

 

「幼馴染の家に行ったんです。そしたら、急にモビルスーツが降ってきて……爆発が」

 

(確かロベルトとジムの戦闘に巻き込まれてカミーユの家は全壊したんだったな)

 

「そうか。それは辛いことを聞いた。無事だといいが」

 

眼に涙を浮かべて話すファの姿にジェリドは気休め程度に慰めた。カミーユが無事な事は知っているがそれを彼女に話す事はためらわれた。現時点でジェリドが知らないはずの情報だからである。

 

「中尉、一応の手当ては終わりましたがレントゲンを撮る必要があります。ご案内いたします」

無事を伝えようか迷っていたジェリドだったが、衛生兵の手当ての終了の報告と共に立ち去ることを決めた。

 

「いや、ここまでで良い」

 

「しかし!」

 

「お前はこのまま彼女を診てやってくれ。最優先だ」

 

なおも渋る衛生兵にピンセットを押し付けるとジェリドは痛む肋骨を押さえながら立ち去った。

 

モビルスーツデッキ

 

道中、ロッカールームに寄り予備スーツとメットに着替えていたジェリドに一度強い揺れが襲い、一時停電状態になった。モビルスーツが近くで爆発した衝撃のせいだ。

通路もロッカールームも非常灯のみで薄暗かったのだが、MSデッキの中は電気系統が別のようで人工灯の強烈な明かりが灯っていた。ジェリドは無重力状態のモビルスーツデッキへと降り立った。

 

「ジェリド中尉はこの機体になれていないでしょう!」

 

ジェリドが一機のMSに乗り込もうとすると、この機体の担当整備員が血相を変えて跳んできた。

 

「俺はティターンズだ。エゥーゴの奴らと戦争するのが俺の仕事だろうが!」

 

ティターンズだ!などと言っているジェリドではあったが彼の怒りは例の二人の兵を目の前で殺された事や、コロニー内部で行われた破壊行動、宇宙港の惨状に対するものだった。

兵士を殺されて憤るのは士官として分かる事だが、地球至上主義のティターンズである彼がコロニー

内に対する行動で怒るのはやはり太郎の心が原因だった。

 

正規の命令によって出動するわけではないジェリドは整備員を強引に説得し、ティターンズカラーである緑色のハイザックへと乗り込むと、すばやくOSを立ち上げた。

 

「現場の判断ってやつだ」

 

そう呟きながらハイザックに火を入れると、整備員が下がったのを確認してコックピットを閉じ、外部スピーカーで呼びかけた。

 

「そこの2機、ついてこい」

 

同じくティターンズカラーのハイザック2機へ指示を出す。

 

「了解、しかしジェリド中尉にはマークⅡがあるのでは」

 

モニターにはウィンドウで区切られ通話相手の顔が映される。相手は二人ともジェリドの勝手知ったるティターンズ軍人だ。

 

「あれは奪われた。時間がない。管制官!」

 

管制官へと無線を飛ばすと、現場にいる左官が判断したようで出撃許可が下りた。

 

「許可する!」

 

すぐに警報が鳴り、デッキから整備員が退避して行く。

 

「行くぞ」

 

ジェリドの足は極度の緊張で震えていた。太ももを思い切り拳で叩き深呼吸する。ずきりと肋骨が痛んだ。

 

(シミュレーターだってやってるんだ。俺は十分に力をつけているはずだ!ビビるな太郎!)

 

地球でのジオン残党狩り以外で実戦経験のないジェリドは、宇宙での初の実戦に体が自然と強張っているのを感じていた。

 

 

 

宇宙港の軍用カタパルトから射出されていくハイザック3機。

急激なGが体をシートへと埋没させていく。痛む傷に早くもジェリドは額に脂汗を浮かべていた。

射出されたジェリドはコロニーの外壁を観察し、すぐに穴のあいている個所を見つけることができた。

その付近に陣取り、ついてきた二機へハイザックの手を伸ばすと接触回線を開いた。

 

「よし、聞こえているな。連中がマークⅡを奪取し、内部の友軍がそれを止められなかった場合、連中が開けたあの穴から出てくると思われる」

 

穴のアップの写真と座標を共有ファイルにいれて説明する。

 

「そこを叩き、マークⅡを取り戻す。いいな?」

 

「了解です」

 

「了解、しかしジェリド中尉はこの機体にはなれていないはずだ。無理はするな」

 

同じ中尉階級のパイロットが注意を促した。

 

「了解だ。中尉の言うとおり俺はこの機体に慣れていない。俺はここでアンブッシュする。曹長は俺と射線がかち合わないように十字砲火を行え。中尉は俺と曹長の援護を。中尉の配置は曹長と同じポジション――ここがいいだろう。その後は臨機応変に頼む」

 

ブリーフィング画面に即席の配置図を出して座標と図解で解説し、共有する。

 

 ジェリドは宇宙港に来るまでに即興の策を講じていた。待ち伏せて挟撃するというありふれた手法だが、ジェリドはこの作戦が通用するのではと感じていた。

それは、劇中でクワトロ機がトリモチ弾を穴にむかって射出したことからくるものだ。わざわざ脱出する前にトリモチ弾を放ったのだ。穴は小さく、出られる方向も限

られてくる。最後に出てくるのはカミーユ機であることも覚えていた。3番目に脱出したアポリーは2号機を担ぎながらのため、ろくな迎撃はできないはずだった。

 

 つまり、クワトロ機とロベルト機が脱出した後に出てきた相手に撃ちこみまくれば、うまくいけばクワトロの放ったトリモチに何れの機かが引っかかる可能性があると言うことだ。

しかしジェリドはひとつ忘れていた事があった。それはクワトロが劇中で脱出前に部下に言った、「外には待ち伏せがいる」という核心的な一言。

クワトロはシャアとして戦った一年戦争時の豊富な経験、類まれなるニュータイプの勘からアンブッシュの危険性を十分に理解していたのだった。

 

 

「俺が銃撃したら合図だ。それまでは決して撃つなよ」

 

僚機は各々了解した旨をジェリドに伝えると、指定のポイントへと移って行った。

 

 スペースコロニーの外壁に張り付くようにしてジェリドのハイザックが一点を見つめている。そのモノアイの先にはモビルスーツ2機分程度の、コロニーの大きさの比率で言えば小さな、しかしコロニー内に住む人間からすると致命的な大穴が開いていた。コロニー内から次々と人やエレカや崩れた建築物の瓦礫など、大小さまざまな物体が無差別に宇宙に吸いだされ、デブリとなって行く。

 

 このグリーンノア1一帯に新しくできてしまった小デブリ群を回収するのにはそれ相応の費用と期間がかかる。グリーンオアシスや他のサイドとの貿易が滞ることで、物資不足による商品の値上げや撤去費用としての重税が、グリーンノアに住む人々を圧迫することとなるのはほぼ間違いがなかった。

 

 しかしそれはある意味でエゥーゴにとって行幸かもしれない。スペースノイドの解放を掲げるエゥーゴによってもたらされたこの惨状だが、スペースノイドの大多数はティターンズを悪とする見方を変える事はない。エゥーゴの軍事的行動こそが自分たちスペースノイドの地球人に対する思いであり正義と考えているのだ。

重税もインフレも正義のための軍事活動の代償としてエゥーゴを庇護し、しかし溜まったストレスと怒りをティターンズに向け、彼らはエゥーゴの支援を続けていく。ティターンズがそのスペースノイドを軽視する主義主張を変えるまで。

 

 

 宇宙空間では真空のため音が存在しない。ミノフスキー粒子はすでに戦闘濃度まで厚みを増しているため、二手に別れたジェリド達は連絡する術を持たなかった。ジェリドは孤独と戦いながら音もなく流されていくデブリを見る破目になった。

 

 ジェリドの額に汗が滲む。初めての実戦、相手はあの赤い彗星と一年戦争を生き伸びた歴戦のジオン兵だ。カミーユだって歴代最高のニュータイプとなる少年だ。今はまだ戦力と考えなくても良いかもしれないが、こちらが劣勢であるのは目に見えていた。

弱気になったジェリドの脳内には先ほど爆散したジムⅡの光景が甦り、思わず体が震えた。

 

 

 

その時、望遠でのぞいていたモニターが、コロニーの穴からクワトロ大尉の乗る赤い機体が飛び出してきたのを映した。

 

「来やがった!」

 

ジェリドは息をのむ。

穴からは相当な距離がある。このミノフスキー濃度ならレーダーでは気取られないはずだったが、レバーを握る手に力がこもり、パイロットスーツと握りこまれた操縦桿の接触がゴム質な音を響かせる。

 

 赤いリックディアスは、穴から出てきたかと思うとすぐさまジェリドへとビームピストルの銃口を向けていた。ジェリドは当初立てた、クワトロとロベルトの前衛をやり過ごした後、すぐにアポリー機へと銃撃すると言う、孫子の渡河における作戦を参考にした待ち伏せ作戦を捨てさった。クワトロ側からは見えるはずの無い自分が何故かばれていたからだ。

 

「何でばれたんだ!」

 

ジェリドはコロニーの外壁を蹴って躍り出ながら片腕でマシンガンを乱射する。

先ほどまで銃撃していたポイントにクワトロ機の放った桃色の閃光が通り過ぎていくのを全天周モニターのためジェリドは目撃することができた。

 

ハイザックのザクマシンガン改から弾き出される銃弾は3~4発の割合で曳光弾を含んでおり、赤いラインを描いてジェリドにその軌跡を教えてくれるが、ジェリドに弾着を確認する余裕はなかった。

 

クワトロはアポジモーターの微調整で悠々と回避すると、スラスターを噴かせ直線的にジェリドに接近してきた。

 

「アラート!」

 

ロックオンされたジェリドはフットペダルをべた踏みし、スラスターを最大にアフターバーナーで吹かして機体を上昇させると、クワトロを穴から遠ざけようと躍起になった。ジェリドがクワトロを引きつけられればその分中尉と曹長の仕事が楽になるからである。

最大出力での機動のため、コックピット内はひどく振動し、ビリビリと甲高い音が鳴っている。

 

「速過ぎる!」

 

小刻みに旋回し、ロックを振り払おうとするが警告音は依然成り続けたままだ。

 

急激なプラスGにより、パイロットスーツは自動的に身体を締め上げ、着用者がブラックアウトしないよう血流の流れを制御していた。その痛みに耐えながら必死に操縦するジェリドの目はレッドアウトにより眼球が真っ赤に染まっていた。

 

 クワトロの放つピンクのビームが脇をかすめる。クワトロの反応速度に思わず舌を巻くジェリドだったが、軌道修正され当てられる前に回避運動をとり、二機の待機ポイントに一瞬目をやると、すでに銃撃戦が始まっていた。

ジェリドがクワトロに張り付かれている間に後続機が穴から飛び出してきていたのだ。

 

 ジェリドは作戦がうまくいかなかったことに対し舌打ちすると、中尉と曹長の動きに合わせながら、自分も敵機の後ろに回り込むにはどうすればいいか悩んだ。

 

 

しかし、クワトロ機は突然ジェリドへの追撃を止め、信号弾を放った。

母艦であるアーガマへ、メガ粒子の艦砲射撃を要請する信号弾だ。

その一瞬の隙を見計らって、ジェリドはAMBACを使いハイザックの足をまるで回し蹴りように回転させ、反転し狙い撃った。銃撃による機体にかかる衝撃は優秀なソフトウェアにより腕部で軽減され、ほとんど感じない。

 

「そこだ!」

 

しかしクワトロはこれを予測していたように同じくAMBACを使い、宙返りしながらジェリドに二連射した。応射されたビームピストルの一発がジェリドのハイザックの右脚部に命中し、右足が爆散する結果をもたらした。

 

「ぐわあああ!こっちが当たらずになんであっちが当たるんだ!」

 

 回避行動中に喰らったハイザックはバランスを崩し、白煙を上げ、スピンしながら飛んでいく。オートバランサーが脚部の損傷によりうまく働いていないのだ。ジェリドは戦闘速度を維持したまま、アポジモーターを小刻みに吹かせて姿勢制御を取り戻し、ダメージコントロールを行う。

 

しかしその時、信号弾を視認したアーガマから無数の艦砲射撃が三機のハイザックへ雨のように降り注いだ。

 

「しまったメガ粒子砲か!うぉお!うぉおおお!」

 

ジェリドは光の槍が何本も降り注いでくるように感じた。恐怖のため叫び声をあげながらも、モビルスーツをビームの合間に滑り込ませるが、薄いメガ粒子にさらされて装甲板がチリチリと削れていく振動が伝わる。ジェリド機の後方で閃光がして中尉の機体が爆散した。

 

「中尉っ!こんなはずじゃ……こんな!」

 

太郎は思い切りコンソールを叩きながら叫んだ。

 

「くそぉおおおお!!」

 

作戦は完全に失敗し、ジェリドは曹長と共にコロニーへと撤退した。

 

ジェリドのハイザックは片足が消失しているため、曹長のハイザックが支えながら帰還することとなった。デッキには巨大なネットが張られており二機のハイザックをキャッチした。すぐさま隔壁が閉じられ、整備員が駆けよってくるのを目にしたジェリドは、心労から来るあまりの頭痛にヘルメットを脱ぎ捨てこめかみを押さえた。

 

かくしてガンダムマークIIを二機奪われ、軍事施設を目撃され、軍人、民間人両方の死傷者を出したグリーンノア1襲撃事件は、ティターンズ陣営の完全なる敗北で第一幕を閉じたのだった。


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