ネギ・スプリングフィールドがこの麻帆良学園に来てはや一週間。
今の内に暗殺した方がいいんじゃないかと過激な思考に陥っている私がいた。
「おい、何だその顔は」
「なんですか急に?」
今日も学園の監視網をすり抜けてエヴァの家で実戦練習を始めようとした時、エヴァにそういわれました。
「目が澱んでいるぞ。まるでゾンビだ」
私がどうしてそうなっているのか分かっているはずのエヴァがそんな事を言うと言うことは私の顔は随分とひどい事になっているみたい。
「……137回」
「うん?」
「ネギ・スプリングフィールドがこの学園に来てから使った魔法の回数です」
「一週間ぐらいでそれなら少ない方じゃないのか?」
確かにこの学園にいる魔法使いが一週間で使う魔法の回数としては少ない方です。ただし、
「後処理していない回数も同じでもですか」
「なん……だと……」
普通の魔法使いなら夜間の警備の時ならばともかく日常で魔法を使うなら必ず一般人に魔法を知られないようにするのが常識なのですがあの少年は違うのです。
ごく普通に日常生活で魔法を使いそれの後処理をしていないのです。
「そんな事していたらすぐに魔法がばれてオコジョの刑だぞ」
「普通の魔法使いの子供ならそうですね」
「……英雄の子、か」
そう、あの少年は魔法世界の英雄、ナギ・スプリングフィールドの息子だから特別扱いされているのです。本当にくだらない。
「彼の後処理専用の魔法使いもいますから本当にいい身分ですね」
「ここの魔法使いたちはナギの事をある種崇拝しているがそこまでか……」
ナギ・スプリングフィールドはかつて魔法世界であった大戦を終わらせた英雄として語られていますが、それはあくまで結果として戦争を終わらせただけであってその過程で何十何百何千と人を殺したのは変わりません。
「だから、魔法使いは嫌いなんです」
「……そう、か」
そう、だから私は魔法使いが嫌いだ。
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「ここが桜通りかぁ。夜だけど綺麗な所だな」
僕は今、深夜の桜通りに来ている。
この学園に来て一週間がたったけど先生として一生懸命がんばってるけどやっぱり初めての事がいっぱいでなかなかうまく行かない事や失敗することもある。
でも立派な魔法使いになるためにがんばらないと。
そんな僕が何でこの桜通りに来ているのかというと今日僕のカバンの中にいつの間にか一通の手紙が入っていてその中にはこう書かれていた。
『今日の深夜、桜通りにて待つ。一人で来なければ貴様が持つ秘密をばらす』
僕の持つ秘密と言われたら魔法の事だ。一体誰がこんな手紙を入れたのかは分からないけどもしこの手紙に書かれている事が本当だったら僕が魔法使いだって事がばれてしまう。そうなったら僕はオコジョの刑になっちゃう!!
だから深夜の桜通りにひとりで来たんだ。
「それにしても一体どこにいるんだろう?暗くてよく見えないのに……」
「ちゃんと一人で来た様じゃないか、ぼうや」
「エ、エヴァンジェリンさんと茶々丸さん?どうしてここに?」
「ククク……分からないのか?」
クスクスと笑うエヴァンジェリンさんを見て僕は思いつく。でもまさかそんな事って……
「あの手紙はまさか貴女が書いたんですか?」
「その通りさ。あの手紙は私が書いたんだよ」
「じゃあ、まさか貴女も」
「坊やが思っている通り、私も魔法使いだ……ただし『悪』のな」
僕は驚きで声が出ませんでした。僕の卒業課題として受け持ったクラスの生徒の一人が僕と同じ魔法使いでしかも悪の魔法使いだったかなんて。
「悪の魔法使いって、そんな魔法は正しい事に使わないといけないのに」
「正しい事、か……くだらん、くだらんなぼうや。いかにも世の中の事を知らない子供が言うような言葉だ」
「こ、子供って貴女も子供じゃないですか!!」
「見た目は確かに子供だ。だが少なくとも魔法使いとしては私は大人だよ」
ニヤニヤと笑い僕を見下すような視線で語るエヴァンジェリンさんに反論しよう口を開くが、それよりも先にエヴァンジェリンさんが話を切り出した。
「私が魔法をどう使おうと私の勝手だがまあいい。それよりもなぜ私が態々こんな手間のかかる事をしてぼうやを呼んだか分かるか?」
「……いえ」
「なに、話としては簡単な事だ。ぼうや、私と決闘しろ」
「……え?決闘って戦うって事ですか?」
「そうさぼうや。魔法使いとしての決闘だ。無論タダではない。ぼうやが私に勝ったら褒美をやろう」
「褒美?」
「……ナギ・スプリングフィールドの情報だ」
「!!」
僕の父さんの情報!?
「父さんの情報って、一体どんなことなんですか!!」
「戦ってもいないぼうやに教えるわけ無いだろう?情報が欲しいなら私と戦って勝つことだな」
「なら、戦います。戦って貴女に勝って父さんの情報を貰います」
「クク……では私と決闘すると言うことでいいんだな?」
「いいです!!」
この時の僕はまだ知らなかったんだ。父さんの情報と言う言葉に踊らされてエヴェンジェリンさんの決闘と言う言葉の意味も、魔法使い同士が戦うと言うことも、そしてこれから起きるすべての事が一人の少女によって仕組まれていると言うことも。
「では、戦いの日は次の大停電の日だ。それまでしっかりと準備をしておくんだな。行くぞ茶々丸」
「はい、マスター。ではネギ先生失礼します」
それだけ言ってエヴァンジェリンさんと茶々丸さんは僕の横を歩いて通りすぎていった。その姿を僕は睨み付けながら見ていた。僕の心の中は不自然なほどの強烈な【憎しみ】と【怒り】で埋め尽くされていたから。
もしこの時の顔を見ることが出来たならきっと僕は驚いただろう。
僕の顔はまるで殺人鬼のように歪んでいたんだから。
「ああ、言い忘れていたがこの事は誰にも言うんじゃないぞ。誰かにばらしたらナギの情報は教えんからな」
「分かっています!!誰にも言いません」
「いい返事だ。それと最後にもう一つ。決闘でぼうやが負けたら……」
「負けたら?」
「ぼうやの血を貰おう」
「血、ってなんで僕の血を?」
「何簡単なことだよ」
エヴァンジェリンさんは顔だけをこちらに向けて言った。
「私が吸血鬼だからだよ」