私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

6 / 66
第1章・自由時間3時限目

苗木を個室まで送った私とチャラ男がみんなの所に戻ると、みんなはすでに次の行動の方針を決めていた。

 

「よし、それでは各自、この建物から脱出できそうな箇所を見つけよう!集合は食堂に7時とする。では、解散!」

 

超高校級の“風紀委員”である石丸君が、すでに仕切り始めているのが、少々ウザイが余計な話し合いが省かれたのは正直、助かる。

 

「じゃあ、私と一緒に探そう!さくらちゃん」

「うむ」

 

朝日奈さんと大神さんが一緒に食堂から出て行き、後は、各自が単独で移動し始める。

食堂にひとり、取り残された私は、とりあえず、どう行動しようか思案する。

 

(…自分の個室にでも行ってみようかな)

 

苗木を運んで行った時に見つけた「クロキ」というネームプレートとドット絵が貼られていた部屋。あれがきっと私の個室に違いない。ちょっと、部屋で休んでから調査に出かけよう。RPGではそれが王道だ。ひとり納得しながら、私は、自分の個室に向かった。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

「ふーん、苗木の部屋とあまり変わらないな…」

 

それがドアを開けた時の第一印象だった。

窓の部分はやはり鉄板で塞がれており、部屋の中央にベッドがあるという基本構造は苗木の部屋と相違ない。机の上にはメモ帳が置かれており、テーブルにはこの部屋の専用キーがあった。違いといえば、タンスが大きいくらいかな。中をあけて見ると、下着やらパジャマやら就寝に必要な備え一式が入っており、どうぞ泊まってくださいとアピールしている。

 

「ふう…」

 

私は、とりあえずベッドに座ると、そのまま重力の任せるままに、横に上半身を倒した。

シルクの感触が冷たくて気持ちいい。ここに来るまでまさに、嵐と落雷の中を疾走していたといっても過言ではない。それほどに私の精神は疲弊していた。

だからこそ、訪れたこの一人きりの時間。この静寂は、何物にも代え難かった。

ん?集団の中でも一人だろ?とか呟いた奴、ちょっと表にでようか。

 

「ん?なんだろう、アレは…?」

 

今までのことを考えながら、呆けていると、壁に何かが貼り付いていることに気がつく。疲れて重い身体をベッドから起こし、壁に近づくと、壁には一枚の紙が貼り付いていた。

 

 

「モノクマ学園長からのお知らせ」

 

 

第一文を見て、私は、ウッ…と呻いた。

それは、モノクマからの手紙だった。

この一人きりの空間により現実逃避を行っていた私の精神は、クマ野郎の駄文により、瞬く間に現実に引き戻された。あのクマ野郎…モノクマを操る何者かによって、私は今、監禁状態にあるのだ。再び焦燥感が襲ってくる。私は、イライラしながらもその手紙を読むことにした。何か重要なことが書いてあるかもしれない。最初の下りはシャワーの注意書きだったが、夜時間には水が出ない、ということさえ覚えておけば、あとはどうでもいいものだった。そのまま、読み進めていくと「プレゼント」という単語が目に入ってきた。

 

 

…最後に、ささやかなプレゼントを用意してあります。

女子生徒には女子らしく“裁縫セット”を、男子生徒には男子らしく“工具セット”をご用意しました。裁縫セットには人体急所マップも付いているので、女子のみなさんは、針で一突きするのが効果的です。男子の工具セットを使用する場合は、頭部への殴打が有効かと思われます。

ドントシンクだ!フィールだ!!レッツエンジョイだ!!

 

 

「…フン」

 

最後の一文にムカつき、私は手紙をクシャクシャに丸め、ゴミ箱に捨てた。

とりあえず、さっきの手紙に書かれていた「プレゼント」を確認するため、私は机の引き出しをあけた。そこには、透明のビニールで包装された裁縫セットがあった。

私は包装を破り、裁縫セットをあける。包装は破れば、二度と元に戻すことができない仕様だ。この裁縫セットが何かの限定品なら、これだけでネットオークションでの価値はだだ下がりとなるだろう。まあ、持ち帰りはしないがな。

 

「シュッ!シュッ!ハッ!とりゃ!」

 

針取り出した私は、まるでボクシングのように針を連打する。

裁縫セットの中にあった人体急所マップがあれば、具体的な人体のイメージを構築できる。

とりあえず、チャラ男と大和田、苗木をターゲットとして的確にその急所を突きまくる。

 

「アホらしい…」

 

そのことに気がつくのにおよそ数分を要した。

こんなもので人が殺せるはずもない。まあ、毒でもあれば別だが、そんなものはないし、探す気も起きない。なにより、本気で殺害を考えるなら、こんなものは使わないし、また人を殺すなんて冗談ではない。

つまり、この数分はまったくの無駄だ。まあ、運動したと考えて諦めよう。

ちょうど、汗をかいたこともあり、私はシャワーを浴びることにした。

 

「ここには監視カメラはないみたいだな…」

 

シャワー室の隅々を調べる。

ここには、部屋と違って監視カメラはないみたいだ。

ドアをロックできるようだ。そういえば、あの手紙にそんなことも書いていたな。

私は、水とお湯がでることを確認し、シャワーを浴びることにした。

シャワー室には、シャンプーとボディソープが備えつけられており、とりあえずそれを使うことにした。普段使っているお気に入りではないのが残念だが、贅沢はいってられない。モノクマの爆発に巻き込まれて、煤だらけになった頭を早く洗いたかった。

時間にして、30分ほど入っただろうか、部屋には監視カメラがあるので、シャワー室で着替え、私は部屋に戻った。

 

え、なんでパジャマに着替えてるんだ!?って…それは、その…あれだよ。そう、RPGでいうところの宿屋の休息だよ。いやだな、もちろん、調査に行くよ!でも、まだ、時計は13時を回ったばかり、集合の19時にはまで6時間も余裕がある。ちょっと、小一時間ほど休憩しても大丈夫じゃないかな?うん!大丈夫だ!

 

 

「起きたら本気を出す…!」

 

その言葉を最後に私は、瞼を閉じ、束の間の眠りについた。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

午後7時―――

 

私は食堂に向かって真っ青になりながら、走っていた。

“起きたら本気を出す”そう誓いながら、束の間の休息から目を覚ました私が見たのは

針が6時50分を示した時計だった。私は慌てて飛び起き、制服を取ると、シャワー室に駆け込んだ。部屋では着替えが監視カメラで見られてしまう。着替えるなら、ここしかない。

私は、誓いを果たすように本気で全力で着替え、部屋を飛び出した。

食堂ではすでにみんなが集まり、誰かが見つけた脱出口に、今まさに出かけようとしているかもしれない。こんな所にモノクマを操るサイコ野郎と二人きりなど冗談ではない。

私は、中学校のリレー以来の全力を出し、食堂に滑り込んだ。

 

食堂には、すでに大半の新入生が集まっていた。

気絶していた苗木も目を覚ましてここにいた。なにやら、舞園さんと親しげに話している。

私の後にすぐ、腐川さんと十神君が入ってきた。私が最後ではないらしい。

 

「よし、全員揃ったようだな!では、さっそく会議を始めようと思う!!

お互い、調査の成果を披露し合い、情報を共有化しようではないか!

一刻も早く、ここから脱出する為にッ!!」

 

私達が席につくと待ってましたとばかりに石丸君が仕切りだした。

これも風紀委員としての性なのだろうか。

 

「ちょっと、待って…!」

「何事だッ!?」

 

だが、会議の開始は江ノ島さんの発言によっていきなり頓挫した。

出鼻を挫かれた石丸君は、若干イラつきながら江ノ島さんに理由を尋ねた。

 

 

「彼女がいないんだけど。えーっと、あの…なんていったけ?あの銀髪の彼女…」

 

銀髪の彼女という言葉を聞き、私は周りを見渡す。

確かに、彼女はいなかった。銀髪の彼女―――霧切響子さんが。

 

(フッ…)

 

私は心の中で鼻で笑ってしまった。

彼女もぼっちだとは思っていたが、まさかここまでだとは思わなかった。

友達と行動すれば、未然に防げるが、一人だと集合時間を忘れてしまう。

ぼっちが陥りやすいパターンの一つだ。

彼女は早くもそのパターンに陥ってしまったようだ。今頃、ひとりで調査を続行しているのだろう。その姿を想像すると、かわいそうだと思う反面、つい笑いが込み上げてしまった。

 

 

「何…ッ!確かにそうだ!霧切君と黒木君がいないぞッ!!」

 

 

ガッ――――

 

私は石丸のその発言に、頬杖を外し、机の上に頭を打ちつけた。

 

「おのれ、霧切君と黒木君め…初日から遅刻か。遅刻しているにも関わらず遅刻の旨を伝えないとは、遅刻者としての根性がなっておらんぞ!」

 

メチャクチャなことをいいながら、石丸は握りこぶしを固める。

 

いや、いるだろ、お前!黒木さんは君の右斜め前にいますよ…!

 

「あの…黒木さんはここにいますけど…」

 

隣の席の舞園さんが、気の毒そうにチラチラ見ながらフォローしてくれた。

 

ありがとう…!チラチラ見てくれて本当にありがとう!

 

「え…?アッ!?」

 

石丸は私を見て驚いた。いや、まさに本気で驚いていた。

いや何と言うかアレだ。景色に溶け込むカメレオンを発見したみたいに本気で驚いていた。

 

「す、すまん、黒木君。全然気づかなかった。いや、本当に申し訳ない」

「は、はい…」

 

石丸はわざわざ立ち上がり、教科書の手本のような完璧なお辞儀を私に示した。

彼が考えた最大の誠意なのだろう。

だが、この場合は嘘でも“冗談だよ!テヘへ”と言ってくれた方がまだ救われる。

これでは、その可能性は完全になくなり、私の存在は完全に無視されていたという

事実だけが残る。全員がそのことを察し、また石丸の謝罪を見て、場になんとも言えない残念な空気がたちこめる。やめて~これ以上、私を晒し者にしないで~。

 

「と、とにかく時間となった。

これより、第1回希望ヶ峰学園定例報告会の開催を宣言する…!」

 

再び席についた石丸君は、改めて報告会の開催を宣言した。心なしかテンションが下がっているのは気のせいではないだろう。

 

「苗木君、じゃあ、まずは手分けして調査したみんなの報告を聞くとしましょうか。ふふ、なんだか今の私って、本当に苗木君の助手みたいですね。頼りない助手ですけど、精一杯頑張るんで、よろしくお願いします」

「うん、こちらこそ、よろしく!」

 

(え、何そのフラグ…!?)

 

報告会の冒頭において、私の傍らで行われたその会話を聞き、私は絶句した。

わずか数時間でなにやら妙なことになっているようだ。

先ほどから気にはなってはいたが、苗木と舞園さんの仲が急激な速さで進展しているみたいだ。すでに普通の友達、いや、それ以上の関係にさえ見えてくる。

先ほどの“助手”という言葉から、どうやら彼女達はペアで行動しているようだ。

アイドルと二人きりで行動って…何その幸運。

それも超高校級の“幸運”のなせる業なのだろうか。苗木誠…恐ろしい子。

私がそんなことを考えている間に報告会は進む。

 

「俺が調べたのは、俺達を閉じ込めた犯人についての手掛かりだ。だが、これといった発見はなかった。以上だ」

 

「僕は寄宿舎エリアを調べていたのだが、世紀の大発見を成し遂げたぞ!寄宿舎には全員分の個室が存在したのだ!!」

 

「あの部屋は完全防音みたいよ。あたしと不二咲とで確認してみたんだけど」

 

「隣の部屋で大声出しても全然聞こえなかったよぉ…」

 

十神君は何の成果も得られなかったことを悪びれることなく堂々と発言した。

石丸君は個室を発見したようだ。直後、全員が“知ってる”とツッコミを入れたのは言うまでもない。江ノ島さんと不二咲さんは、部屋の内部を調査したみたいだ。

 

「私達は学校エリアの方を調べたんだ。どこかに、外との連絡手段はないかなーって!

だけど、何も見つからなかった…ゴメン」

 

「玄関ホールに戻ってあの入り口の鉄の塊をなんとか出来ねぇかと試してみたんだけどよ。

いくら机や椅子をぶっ叩いても駄目だった。まるで鉄みてーな硬さだったぜ」

 

「次は我か。学校と寄宿舎の廊下に2階へと続く階段を見つけた。シャッターが閉じていて入れぬが、現状で入れぬ2階より上の階には、まだ可能性があるということにもなる。

脱出口がある可能性がな」

 

朝日奈さんと大神さんの報告だ。

外への連絡手段はなく。現状では1階しか移動することができない。マジ…?

でも、階段はあるらしい。あとで私の調べてみようかな。

大和田君は、あの入り口の鉄の塊の破壊に挑戦したようだ。彼らしいと言えば彼らしい選択だ。でも破壊できなかったようだ。だって“鉄”そのものだし…

 

「だって、学園内をかけずり回って調査するなんて、わたくしのイメージじゃありませんもの」

 

「だって…誰も誘おうとしなかったでしょ…一緒に行こうって…言ってくれなかったでしょ…!」

 

セレスさんは、本当に何もしなかったようだ。スゴイなもう完全にキャラが立ち始めてる。

腐川さんの言葉は、なぜか胸に響いた。なぜだろう…。

そして、山田君、葉隠君、苗木、舞園さんの順に発言を終え、とうとう私の順番が回ってきた。順番が近づくに従い、私の顔は青くなっていく。

まさか“ずっと、寝てました…!”なんて正直に言えるはずもない。なんとか誤魔化そう。

 

「あ、あああの、その、わ、わわ私は、そ、そその…」

「いいんだ…黒木君。もう…大丈夫だから。では、次、桑田君!」

 

私の発言はジャスト2秒で終わった。誤魔化す必要すらなかった。

何の期待もされていなかった。むしろ、気遣われてしまった。

石丸君の慈愛に満ちた笑みが逆に胸を締め付ける。

やめて~そういう優しさはやめて~

 

「全滅だよ。全滅。どの鉄板もビクともしねーでやんの」

 

桑ナントカ君は、鉄板を調べたようだが、全滅らしい。

本当に使えない奴だ。才能とやらは何処に行った?工具セットで外してこいや。

まあ、冗談はさておき、非常にマズイ状況だ。

 

「ヤバいよ…。有益な情報が何にもないじゃん。

ヤバいヤバいヤバいヤバい…マジでヤバいって…どーすんのよ、みんな!」

「どこにも…逃げ場なんかないよ。この学校…本当に封鎖されているんだよ…!」

 

江ノ島さんが頭を抱え、不二咲さんが涙ぐむ。

そうなのだ。誰も脱出について有益な情報を得ることが出来ていないのだ。

わかったといえば、この建物は私達の移動範囲とこの建物がいかに脱出困難かということくらいだろうか。6時間もかけてなんて様だ。我ながら情けなくなってくる。

痛ッ…!なんだろう?頭の中で誰かに殴られたような…?

 

「おいおい、落ち着けって…!オレまでビビッてくるっつーの」

「いや、その女のいう通りだ…マジで何とかしねーとよ」

 

チャラ男は完全にビビッている。

大和田君も額に血管を浮かべながら、頬に汗を流している。

 

不安が不安を呼び、場が混沌とし始めた中…その声は響いた。

 

 

―――ずいぶん、騒がしいわね。

 

 

「余裕があるの?それとも現実を受け入れていないだけ…?」

 

まるで遅れてきた主人公のように、彼女が…霧切さんが姿を現した。

 

(…ハッ!?)

 

私は、一瞬、彼女に見とれてしまった。

銀髪を靡かせる彼女の美しさにではない。その存在感に圧倒されたのだ。

それは、私以外のみんなも同じようだ。場は一気に落ち着きを取り戻し、

みなは彼女に視線を送る。

私が同じように、登場してもこうはならないだろう。

石丸君に気づいてもらえるかすら怪しい。

だが、彼女には、某ジョジョでいうところの“凄み”がある。

その存在を無視するのは困難であると言える。

くそ…ただの遅れてきたぼっちの分際で…!

 

「霧切君!今まで何をやっていたんだ!とっくに会議は始まっているんだぞ!」

 

普通なら、彼女に話しかける勇気が持てず、不問となるだろうが、そうはならなかった。

超高校級の“風紀委員”の石丸君が彼女を指差しながら糾弾する。

結構、迫力があるな。私も遅れていたら、こうなっていたのか…危ない、危ない。

しかし、霧切さんは、まるでそれを無視するように歩き出し、テーブルの中央に行くと

一枚の紙を置いた。

 

「え…?それは…?」

「希望ヶ峰学園の案内図らしいわよ」

 

その紙について尋ねる苗木に対して霧切さんは、とてつもなく重要なことをさらりと答えた。

 

希望ヶ峰学園の…案内図って…!?

 

彼女の発言に対して、私達は即、テーブルに集まり、その紙を見つめる。

 

「ちょっと、待って…!この紙に何の意味があるわけ?」

「この見取り図を見る限りだと…今、私達がいる建物は、希望ヶ峰学園の構造とまったく同じみたいよ」

 

江ノ島さんの質問に、霧切さんは、簡潔に推論を述べる。

 

「つまり、ここは正真正銘…希望ヶ峰学園って事?」

「構造だけはね…でも、色々と妙な改築は入っているみたいよ」

「改築…?」

「詳しいことはわからないわ。手に入れた見取り図は、1階の分だけだったから」

 

苗木は私達がもっとも気になっていることを口にした。

そうなのだ。

モノクマの登場から、私達は、希望ヶ峰学園の敷地から誘拐されて、別の場所に拉致監禁されているという推理の下で行動を開始した。

だが、この見取り図の発見により、その推理が根底から覆る可能性が生まれた。

彼女は、苗木の質問に対して、断定することは避けた。

この慎重さは彼女の性格の特徴なのかもしれない。

 

「でも、本当に希望ヶ峰学園だったんだ。他の場所に連れ去られた訳じゃなかったんだ」

 

不二咲さんがほっとしたように胸を撫で下ろした。

違う…安心するのはまだ早いよ…!

 

「…んなバカな事あるかよ。こんな所が、国の将来を担うエリートを育てる学園だ?」

 

(お前が言っちゃってるのかよ、それ!?)

 

大和田君の発言に私は驚愕した。

お前、それはギャグで言ってると理解してるよね…?

 

「あんた…何、さっきから笑ってんのよ?」

 

見るとセレスさんが口元を押さえ、さも可笑しそうに笑い、それを腐川さんが怪訝な顔で見ていた。

 

「うふふふ…よかったですわね。みなさんで手分けして調査した甲斐があったようですわ」

「あ、あんた話聞いてた?ど、どこに調査の意味があったのよ…!

逃げ道も見つからず、犯人の正体も…不明のままで…」

 

セレスさんの言葉に腐川さんは、金切り声を上げる。

それに対して、セレスさんは、優雅に微笑した後、次の言葉を放った。

 

「あら、調査したおかげで判明したじゃないですか…」

 

 

――――逃げ場のない密室に閉じ込められたというのがまぎれもない事実だということが

 

 

(ウ…ッ!)

 

私だけではく、全員が沈黙し、彼女を見つめた。

大きな瞳を開き、静かに、だが、響くような彼女の声は場を完全に支配した。

格闘家や野生の獣が発するプレッシャーとはまた質が異なるプレッシャー。

彼女の才能である超高校級の“ギャンブラー”の一端を垣間見た気がする。

 

「…そこで、私から提案があるのですが」

 

そう言って、彼女はニッコリと笑った。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

キーン、コーン…カーン、コーン

 

「えー校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより“夜時間”になります。

間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりまーす。

ではでは、いい夢を。おやすみなさい」

 

「ヒッ…!」

 

夜10時―――

 

突如、部屋のモニターに映ったクマ野郎に私は驚きの声を上げ、枕にしがみつく。

あとでわかったのだが、これは毎日、放送される録画だった。

クマの分際で片手でワインを回しているのが、なんとも憎らしい。

夜時間という言葉を聞き、私はさきほどのセレスさんの提案を思い出す。

 

「この夜時間に関してなのですが…もう一つルールを追加した方がよろしくありませんか?」

 

そう言って彼女は新しいルールを提案した。そのルールとは…

 

「夜時間の出歩きは禁止…以上です」

 

これをセレス・ルールとでも呼ぶことにしよう。

このルールは賛成多数をもって可決された。

夜になったら、誰かが殺しに来るかもしれない…そんな疑心暗鬼を抱いたまま夜を重ねていけば、すぐに憔悴し切ってしまう。その防止策として、夜時間に行動の制限を加えるというわけだ。彼女の意見には、説得力があった。

唯一の難点といえば、これには校則と違って強制力がないという点か。

他人を信頼できないからこそのルールなのに、それを他人の善意に頼ることしかできないのはなんとも皮肉なことだと思う。

まあ、警察が、はやく黒幕?を捕まえてくれることを祈ろう。

 

「しかし、カメラはなぁ…」

 

私は、ベッドの上で、天井からぶら下がっているカメラを見つめる。

これでは、家にいた時のように、ズボラな生活ができないではないか。

Hなお姉さんがお金を稼ぐために、自分の部屋をネットで公開するというものがある

というが今、まさにその状態だ。

 

(まさか…黒幕の真の狙いはこれなんじゃないだろうな…?)

 

私がいうのもアレだが、私達、新入生女子は、指折りの美人ぞろいだ。

モノクマを操る黒幕の真の狙いは、私達のHな姿を録画することにあり、

殺人だの殺し合いだのというのは、それを隠すためのカモフラージュなのでは?

そうであるならば、まず狙われるのは、舞園さん、江ノ島さん、霧切さんのトップ3。

次に私。その後に、不二咲さん、朝日奈さん、セレスさん達が続き、最下位争いは、大神さんか腐川さんというところか…。

―――痛ッ!!何 !?頭がすごく痛い…!頭の中に、“思い上がるな!”とか“分をわきまえろ!”とか“視ねえええええ”とか何か男達の罵声のようなものが響いてくる。

 

(ウッゥゥ…)

 

私はシーツを頭から被り、耳を塞ぐ。

頭痛と罵声の幻聴は30分ほど続き、その後は部屋を静寂が支配した。

その静寂の中、私は夢の世界に落ちて行く。

 

こうして、やっと、私の短い人生の中でも、指折りとなるであろう最悪の一日は終わりを告げた。

 




8500字超えました。
すごく疲れましたが、このまま投稿しますw
誤字脱字は、後で見つかり次第修正します。

今回もギャグに終始しましたが、字数でご容赦下さい。
話の調整がすでに作者の想定を超えています。
よくも悪くも書いてみなければ分かりません。

次回はシリアス80%で、3000字ちょっとでまとめます(たぶん)
自由時間も残り2時間(たぶん)・・・気長に頑張ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。