私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第1章・自由時間2時限目

「舞園ってやっぱりスゲーよな、オーラ感じるぜ!」

「やだぁ…そんな事ないですよ」

「いやいや、マジだって!さすが超高校級の“アイドル”て感じのオーラだよ」

「アハハ、何ですかそれ」

「ハハハ、改めて考えるとなんだろうな、それ。まあ、超絶カワイイってことかな」

 

私達は気絶した苗木を運び、苗木の個室を目指して寄宿エリアに移動していた。

 

さて、ここで質問です。

気絶している苗木を除いて“私達”は何人いるでしょうか?

 

「桑田君もスゴイじゃないですか。この前、新聞に載ってましたよね」

「マジ!アレ見たのか。いや~スゲー恥ずかしいぜ。あんなの忘れてよ。舞園だって、

この前、Mステでグラサンとトークしてたじゃん!何気に口説かれてなかった?アハハ」

「も~冗談は止めて下さい」

 

「…。」

 

答えは3人でーす。

黒木智子ちゃんもいますよーん☆HAHAHAHAHAHAハハハハ…ハハ。

 

チャラ男こと桑ナントカ君は、私に対して一切話しかけず、鼻息を荒くしながら、舞園さんに話し続ける。完全なる無視である。

某学園ホラー人気小説において呪いを回避するために一人の生徒を「いないもの」として、クラス内でその存在を徹底的に無視されるという設定がある。そう、今の私のように。

桑ナントカ君はきっと、あの世界でも完璧に「いないもの」に対処することが出来るに違いない。私が保証しよう。

まあ、実際に私が本当に「いないもの」なら、チャラ男に対しては、執拗に嫌がらせを続けてやるがな…だって、見えないんでしょ?

時折、舞園さんが、チャラ男と話しながら、気の毒そうに私のことをチラチラと見ている。

舞園さんと私が、優ちゃんのような関係(まあ、唯一の友達か)だったら、某伝説の漫画の悪役のように「貴様…見ているな!」とか。

「お前、さっき私のこと、チラチラ見てただろう!」など某動画サイトのマニア向けのネタを提供してあげるところだけど、そんなことはできるはずがない。

相手は超高校級の“アイドル”舞園さやか。

本来なら私が話しかけることなど決してできない存在。

その彼女に、名前を呼んでもらえただけで、一生の思い出となるレベルだ。

ギャグをかますなんて、とんでもない。死んでしまいます。

だから、飢えた野獣のような目でチャラ男が彼女に話し続ける気持ちも正直わからないでもない。端正な顔立ちに均整のとれた体。その白い肌はまるで人形のようだ。

本当に同じ人間だろうか…?そう思ってしまうほど彼女は美しい。

だからこそ、超高校級の“アイドル”と呼ばれているのだろう。

ああ、それに、もはや名前すら完全に失念したこのチャラ男も実は凄い奴らしい。

超高校級の“野球選手”だったかな?

おそらく、5年後くらいにテレビカメラの前で対談番組が組まれてもおかしくない二人の出会いだ。悔しいが、私などが会話に入れるわけがない。

もしかしたら、これがきっかけとなり、この二人はカップルになるかもしれない。

まあ、でもこのチャラ男だとあまり応援する気にならんな…失敗しろ。

 

「でも、俺ぜんぜん野球とか好きじゃないんだよ。練習とかも超嫌いだし。俺様、天才だからそんなもの必要ないしさ。それでも160キロとか投げれるから、高校じゃ敵なし。正直つまらないから野球はもう辞めるつもりなんだよね」

「凄いですね…。じゃあ、次は何を目指すのですか?」

 

チャラ男の自慢話に、舞園さんは苦笑しながらも付き合う。

きっと彼女も私と同じで野球のことをあまり知らないようだ。

とにかく話を合わせようとしているのがよくわかる。

それに気づかないとは本当にアホな男だな…チャラ男は。

 

「次?うーん、そうだな。あ、ミュージシャン!俺、ミュージシャンになるわ!派手だし、華やかだし、俺にピッタリだと思わない?」

 

「え…ええ、そうですね…」

 

(ん…?)

 

ほんの一瞬だった。

おそらく、それをチャラ男は欠片も気づかなかったと思う。

私にしても、もし会話に参加していたなら気づかなかったかもしれない。

しかし、私は現在「いないもの」だ。

ただ、ひたすら彼女達の会話を聞くことに集中できる立場にいた。

そして私は、話すことは苦手だか、聞くことや察することに関しては、短い人生をかけてそのスキルを磨いてきた自負がある。

スキルと立場。全ての条件が揃ったことで私は感じることができた。

 

ほんの一瞬の雰囲気の変化を。

それは明るい彼女からは想像もつかない迸るような冷気。

 

(何か虎の尾を踏んだか、チャラ男…ざまぁ)

 

「きっと、なれますよ。頑張って下さいね」

 

しかし、次の瞬間には、元通りの笑顔をみせる舞園さん。

どうやら女優の素質も抜群のようだ。

 

「おう!舞園に応援されると、ますますやる気でちゃうぜ!どう?ミュージシャン同士、今度お茶でも一緒に…」

「いいですね。食堂でお茶しましょう、みんなと一緒に」

「お、おう…」

 

彼女の変化に気づかずにチャラ男はもはや無駄ともいえる努力を続けている…合掌。

私が、心の中でチャラ男の冥福を祈っていると、いつの間にか私達は寄宿エリアに着いてしまったことに気づく。

 

「ここが個室か…あれ、俺の名前!ここ、俺の部屋じゃね!?」

「私の名前が書かれてますね。ここは私の部屋でしょうか?」

 

(じゃあ、この部屋は私の部屋になるのかな?)

 

どうやら、個室の前には、その部屋の主の名前がプレートで書かれているようだ。

プレートには私のドット絵と共に「クロキ」とカタカナで書いてある。

くそ…ドット絵がちょっとカワイイじゃないか。微妙な気分だ。

 

「苗木君の個室はここのようですね」

 

苗木の部屋は舞園さんの部屋の隣みたいだ。

 

「じゃあ、黒木さん、よろしくお願いします」

 

「は、ふぁい…!」

 

私は頭の中では、江戸時代のヤクザの用心棒さながらの余裕を持ち、だが、現実では、どもりながら舞園さんに返答した後、私は己が使命に取り掛かかった。

 

ギィイ…

 

わずか数秒後。

その小さな音と共に私の役目は終了した。

私の役目は、苗木を運ぶ二人のために、ドアを開くこと…ただそれだけだった。

 

ドアを開けるとそこには雪国が…なんてこともあるはずはなく、そこには相変わらず殺風景なだけの世界が小さくと収まっていた。

 

壁に打ち付けられた鉄板のような物と監視カメラは部屋の中にも健在のようだ。

机とベッドとテーブルとタンスにゴミ箱。他に目を引くものといえば、壁に取り付けたモニターとあちらに見えるドア…おそらく、浴槽か何かだろうか。あと、あちらの方に何やら金ピカの日本刀のようなものが置かれていた。趣味悪いな。

 

「あのベッドに苗木君を寝かせましょう」

 

舞園さん達は部屋の中央に位置するベッドに苗木を寝せる。

苗木は起きる様子こそ見せないが、特に異常はないように見える。

 

「よし、みんなの所に戻ろうぜ、舞園」

 

まあ、確かにこれで私達の任務は終了だ。

 

桑ナントカ君の言葉に内心で頷きながら、私は苗木の部屋から出ようとした時だった。

 

「私は、もうしばらく苗木君を診ています。皆さんは先に戻ってください」

 

「え…!」

 

私とチャラ男は同時に声を上げてしまった。

 

(か、看病…?超高校級の“アイドル”の舞園さんに看病をしてもらえる…?)

 

私は、スヤスヤと眠っている苗木を凝視する。

 

苗木誠―――超高校級の“幸運”

 

ただの抽選のみで希望ヶ峰学園の入学を手に入れた男。くじ引き野郎。ラッキーマン。

とにかく、私とって憎むべき敵だった。それは全て奴のスキル“幸運”が原因であった。

しかし、そのスキル“幸運”は私達がこの事件に巻き込まれたことにより、疑惑を持たれることになる。そして、大和田君に殴られ、ボロ雑巾のように苗木が床に寝そべったことにより、その疑惑は決定的になった。苗木は幸運ではなく、“不運”であったと。

その結果により、私は苗木に対する敵対政策の解除を決定した。

いわゆる冷戦の終結。雪解けというやつだ。それどころか、ちょっと話したいな、とか思ってしまった。クラスメートとして接してやってもいいと思ってしまった。

 

 

だけど…だけど…苗木、お前は…

 

 

(やっぱり、“幸運”じゃないか~~~~~ッ!!)

 

 

騙したな!よくも騙してくれたなアアアアア~~~ッ!

アイドルに看病してもらえるなんて普通の人間は一生ないぞ!

お前、やっぱり“幸運”じゃないか!

この超高校級の集まりの中、同じ凡人が現れたことに喜んだ私に謝れ!手をついて謝れ!

くそ…やっぱり、お前は私の敵だ。

 

さっき、“話してやってもいい”と言ったな…あれは嘘だ。

 

心の中で某コマンドーの敵役のセリフを言いながら、ほんのちょっぴり涙目になりながら、私はチャラ男と一緒に苗木の部屋を出た。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

「チッ…!」

 

部屋を出た瞬間、私と桑ナントカ君は同時に舌打ちして、直後、顔を見合わせた。

どうやら、桑ナントカ君も苗木の幸運にイラついたようだ。なにやら二人の間に今、微妙に連帯感みたいなものが生まれている気がする。

みんなのところに戻るまで無言なのもアレなので、ちょっと話してみようかな。

アレ…?ところでこの人のフルネーム、何だっけ?

私は基本、ムカつく奴の名前を覚えないようにしている。というか、話すことがないので忘れてしまうといった方が正解か。

とにかく、私は彼のことをチャラ男と言ったり、桑ナントカ君と言ったりしていた。

桑ナントカ君…日系フランス人みたいな名前だな。

クワ・ナントカ君…おお、東南アジアの人みたいだ。やっべ、遊んでる場合じゃない。

桑…の後の感じがどうしても思い出せない。桑原?桑本?ダメだ…!出てこない。

 

「あ、あの、桑…さんは、ゆ、有名な、そ、そのや、や野球選手なんですよね…?」

 

桑さん…とか結局、親しい職場の同僚みたいな言い方で彼に質問してしまった。

 

「え、マジ!喪女ちゃんも、あの新聞見たの!?いや~恥ずかしいな!」

 

予想外。

桑さんは私の質問にすごい勢いで食いついてきた。

 

「坊主とか超ダサかったでしょ!でも試合だからしょうがないんだよね~」

 

それから、彼は野球の自慢話を始めた。

中学時代においては3年連続全国制覇でエースで四番。

高校おいては、もちろん夏の甲子園で優勝。エースで四番。

球速は高校生でありながら、160キロ超。

すでにプロ野球だけでなくメジャーリーグからもスカウトが来ているという。

予想以上にすごい奴だ。まさに超高校級だ。

 

「だけど、簡単過ぎるんだよね、野球。もう辞めて俺もこれからは、舞園みたいな国民的なミュージシャン目指すからさ、喪女ちゃんも応援してくれよな!」

「う、うん…」

 

これは私の想像だけど、きっと彼にとっては、野球がゲームで言うところのイージーモードなのではないだろうか?野球があまりにも簡単過ぎるのだ。

そんなものに確かに価値や愛着を持つのは難しい。

私だって、簡単なゲームを延々と続けることには耐えられそうにない。

だけど、彼は、野球以外のことも軽く考えてはいないだろうか。

彼の才能は他のスポーツでは発揮できないかもしれない。

音楽では、まったく発揮できないかもしれない。

だけど、彼はそんなことを微塵も考えていない。

ああ、だから舞園さんは怒ったのかもしれない。話してみて彼女の気持ちが少しわかった。

 

「チームメートとは才能が違い過ぎてさ…あんまり上手くいってなかったな。それも野球に見切りをつけようとした理由の1つかな」

 

桁外れの才能が周りとの確執を生む。

彼の傲慢な性格も加わり、チームメートとの不仲は簡単に想像できた。

彼もこの学園に来るまでいろいろあったみたいだな。

 

「でさ、喪女ちゃん。話変わるんだけど、君って霧切さんと話したことある?」

「え…!?」

 

桑さんの唐突な質問に私は声を上げた。

 

「い、いえ…な、ないです」

「そっかあ、残念だな。ほら、彼女すげーカワイイじゃん。ちょっとでも彼女のこと知りたくてさ。この学園の女子で特にカワイイ子といったら、アイドルの舞園に、ギャルの江ノ島、そして、霧切さんじゃね?どんな人か知りたいじゃん!」

 

桑さんは、若干鼻息を荒くしながら話す。

どうやら、彼の中では学園におけるカワイイ子ランキングが作成されており、霧切さんはトップ3に入るようだ。

 

(霧切響子さんか…)

 

銀髪で透き通るような瞳にすらりとした太ももをしたクールな女の子。

確かに、彼女はアイドルグループにいても何ら不思議ではないルックスだ。

でも、言葉少なく、いつも一人でいるような印象を持つ“謎”の超高校級。

彼女は一体何者なのだろう…?

私の経験上、彼女は間違いなくボッチであることは疑う余地はない。

そして、あの手袋…もしや中二病?

しかし、彼女だけは、モノクマが爆発するのを見抜いていた(そのおかげで私は死にかけたのだけど)。考えれば、考えるほど、彼女はミステリアスに見えてくる。

だけど、私はそれ以上の想像を放棄する。

現段階における彼女についての情報はあまりにも少なすぎる。そして私にとって、彼女は友達でもないし、今後、接点があるとは考えづらい。考えるだけ無駄というやつだ。

 

しかし、桑さん…お前、ランキングとかつけてるってことは、“喪女ちゃん”とか明らかに名前を覚える気はない私はそのランキングの中でも下の方ってことだよね…?

死にたいの?私に校則⑥を実行させたいの?

 

(もう、コイツは桑ナントカでいいや…)

 

 

私は、廊下を歩きながら、チャラ男のフルネームを思い出すことを放棄した。

 

 





廊下を歩くだけで丸々1話・・・順調、まったくもって順調だ!
ギャグと伏線作り・・・わかる人にはわかるのです!

朗報!自由時間がまた増えたよ(震え声)

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