私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第3章 新世紀銀河伝説再び! 装甲勇者を大地に立て! (非)日常/非日常編
新世紀銀河伝説再び! 装甲勇者を大地に立て! 前編①


「う・・・アぐぅ」

 

 

全身を大縄で縛られ、体の自由を奪われてどれくらいの時が経ったのだろう。

とりわけ、胸の縄がきつく絡みつき、私は苦痛で呻き声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 『誰・・・?』

 『え、ここにきて新キャラ!?』

 『盛るのもいい加減にしろよ!!完全に別キャラじゃねーか!』

 『誰だよ、この巨乳美少女は!?せめて面影くらい残せよ!』

 『この期に及んでどんだけ図太いんだよ!!』

 

 

 

 

 

体力の限界に来ているのだろうか?

何やら罵声めいた幻聴が聞こえてくるが、失礼な話だ。

私は私だ。

私以外の何者でもない。

 

 

「ククク、いい様だな、黒木智子」

 

 

私のあられもない姿を見上げながら、私をこのような目に合わせた

張本人である十神白夜は、ヤツ特有の傲慢な笑みを浮かべた。

 

「俺が認めた3人の敵。

苗木誠、霧切響子、黒木智子・・・その中で、最も警戒すべきはやはりキサマだ!」

 

十神は私を指差し、睨みつけた。

 

「ククク、だからキサマは選ばれたのだ、黒木智子よ」

 

十神の表情に再び、余裕が戻る。

 

「障害があるなら、力ずくで排除すればいい。

だからこそ、この犯行の犠牲者にキサマを選んだのだ」

 

「う・・・ぐぅ」

 

なんでもいい。

何か言い返そうと思っても、わずかばかり体を揺らすことしかできない。

それはただ、脱出不可能な状況を確認する行為に終わった。

 

「光栄に思うがいい!キサマの死をもって、俺の完全犯罪は成立する!

トリックは完璧だ!たとえ、苗木誠だろうが、霧切響子だろうが、これを見破れるはずがない!

このゲームに勝利するのはこの俺だ!ククク、クハハハハ―――――」

 

十神は勝ちを確信し、盛大な笑い声を上げた。

なんだかんだで優秀なコイツがここまでの確信を持つなら、

そのトリックは、本当に、苗木君も、霧切さんすら解けないものかもしれない。

このままでは、私だけでなく、みんなも殺されてしまう・・・!

だけど、今の私には何もできない。

勝ち誇る十神をただ恨めしそうに睨む続けた。

 

「・・・しかし、残念だよ、黒木智子よ。キサマのような美しい女を殺さねばならぬとは。

このような状況にならなければ、

キサマを正妻として十神家に迎えていたものを・・・運命とは残酷なものだな」

 

十神は勝手なことをいいながら、額に手を当てる。

 

まったく本当に自分勝手な男だ。

今から殺そうとする相手に、美しいとか・・・妻にしたい・・・とか。

そんな腐川がジェノサイダーになって襲ってきそうなセリフをぬけぬけと・・・

べ、別に、ちょっと嬉しい///なんて少しも思ってないんだからね!

 

「まだ、殺害実行まで時間があるな・・・」

「え・・・?」

 

そう言って、私を見つめる十神の様子が一変する。

その視線はヤツ特有の見下すような視線ではなく、

私の全身を舐めまわすかのようなネットリとイヤらしく・・・

十神は殺害対象ではなく、別の対象として私を見ていた。

 

「ククク、喜べ、黒木智子よ」

「い、嫌!こ、こないで!」

 

これから行われることを察し、私は悲鳴を上げた。

恐怖と緊張と羞恥と・・・様々な感情が混ざり合い、私の胸の鼓動は高まっていく。

顔が熱い。

 

い、嫌・・・殺されるだけじゃなく、そ、そんなことまで・・・!

 

 

「天国に行く前に、この世の天国を味わわせてやろう!」

 

 

満面の笑みを浮かべ、十神はチャックを下ろした――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶはッ―――――」

 

 

チャックが開いた瞬間、そこから光が溢れ出して・・・

そこから記憶が無いのは、その先のことはなかった・・・ということだろう。

 

「ハアハアハア」

 

体が熱い。全身がぐっしょり汗に濡れていた。

我ながらとんでもない夢を見てしまった。

 

「夢・・・そうか・・・夢だったのか」

 

私は薄暗い自室を見渡す。

いつもと変わらぬその光景は、

先ほどのことが夢であったことを実感するには十分だった。

 

ああ、そうか・・・あれは、夢だったのか。

 

「クソ、惜しい!」

 

その現実を前に私は頭を抱える。

 

 

だって・・・

 

 

「あと少しで――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  殺してもらえたのに――――

  

 

 

 

 

 

 

 

時刻は・・・もう夜時間を過ぎただろうか。

 

ほんの少しドアを開け、

廊下に誰もいないことを確認した後、私は足音を殺し、廊下に出る。

 

目指すは厨房。

そこには、水や何か夕食の残りものがあるはずだ。

それを手に入れるために、私は歩を進める。

夜、人目を盗み、食材を貪る・・・まるでゴキブリのそれだ。

いや、ゴキブリそのものだ。

いやいや、それはゴキブリに失礼だ。

もう、私はゴキブリほどの価値もないのだから・・・。

 

「・・・ん?」

 

誰かの足音に振り向く。

 

「チッ!黒木智子!!」

 

見ると、十神白夜がこちらに向かって全力で駆けてくる。

その状況を前に、私はただ茫然と立ち尽くしていた。

 

意外だった。

 

十神がまさかこんな直接的な方法で私を狙ってくるなんて。

手紙か何かで誘い出すとか、いろいろと予想はしていたが、やられた。

まさか、単純に私が部屋から出た直後を狙って襲ってくるなんて・・・

いや、それこそヤツの戦略だったのだ。

こんな馬鹿丸出しの方法をあの十神白夜が選ぶはずがない・・・

そんな心理を十神は逆手にとったのだ。

恐ろしいヤツ・・・完全にやられた。

私にあがらう方法はない。

あの夢は正夢だったのだ。

 

「私の負けだ・・・さあ、好きにするがいい」

 

観念した私は、十神を迎え入れるかのように手を広げて――――

 

 

「キサマ!余計なことを言うんじゃないぞ!」

「へ・・・?」

 

十神は私に目もくれず、2Fの方に走っていった。

私は馬鹿丸出しに手を広げたまま、廊下に立ち尽くしていた。

その直後、別の人物が私の視界に入ってきた。

“ソイツ”を見た瞬間、私は、先ほどの十神のセリフの意味を理解した。

人ならざる速度で走ってきたソイツは、私の眼前で急ブレーキをかけた。

 

「チビッ子、久しぶり~~☆」

 

ジェノサイダー翔。

 

超高校級の“殺人鬼”はキメ顔でそう言った。

 

久しぶり・・・まあ、確かに裁判以来かな。

 

「あれ、十神様、どこ?もしかして見失っちゃたわけ?」

 

ジェノサイダーは盛大に首をかしげた。

 

「十神・・・様?何それ?」

「ん・・・?」

 

私の呟きにジェノサイダーは首をこちらに向けた。

 

真夜中の誰もいない廊下で最凶の殺人鬼と二人きり。

そんな致死率100%の状況の中、

こんな間の抜けたことを口にするとは、

私はやはりどこか感覚的にもおかしくなってるのだろう。

そんな私に対してジェノサイダーがとった行動は、

凶器を持つのではなく、狂喜の笑みだった。

 

「そうよ!十神様!マイダーリンのことよ!」

 

殺人鬼は顔を赤らめながら、よりわけのわからないことを言い始めた。

つーか怖えよ!

何、殺人鬼の分際でモジモジしてんだよ!

 

「そこまで聞きたいなら教えてあげるわ!

アタシがどうしてダーリンを愛してしまったのかを!」

 

聞かれてもいないのに殺人鬼は語り出した。

 

「裁判が終わった後、私の頭の中は、ダーリンのことで一杯だったわ。

勝ち誇ってたのに、まーくんに論破され、うろたえるダーリン。

誰も聞いていないのに宣戦布告して、笑い続けるダーリン」

 

どこもいいとこねーじゃねーか!っていうか、あの宣戦布告、誰も聞いてなかったのか・・・。

 

「気づいた時には、アタシは彼に夢中になっていた。そう・・・殺人の欲求を忘れるほどに!」

 

ジェノサイダーは変なポーズを決めながら、説明を続けた。

よくわからんが、ジェノのヤツは十神に惚れて、結果、殺人をしなくなった・・・でいいのかな?

 

「アタシは悩んだわ、どうしてダーリンのことをここまで愛してしまったのか。

そして理解したの・・・!」

 

いよいよ話は核心へと辿り着いたようだ。

興味はあるか?といえば、まあ微妙だけど、ここまで聞いた以上、

聞かずにはいられないのも事実。一体、どんな理由が・・・

 

「よくよく考えたら、私と根暗の趣味は完全に一致してるのよね。ムカつくけど。

根暗があんだけ惚れてるのなら、そりゃ、私も同じくらい惚れるわけ・・・当たり前よね」

 

余りにも淡々と語る姿にズッコケそうになった。

ま、まあ、言われてみるとそうなんだろうけど、もっとこう・・・なんというかさぁ・・・。

 

「というわけで、私と根暗は手を結ぶことにしたの!

私が休んでいる時は、根暗が。根暗が休んでる時は、私がダーリンを追いかけると」

 

「はあ・・・?」

 

いよいよわけがわからなくなってきた。

交代って・・・それって一体、どういう原理で・・・

 

「チビッ子、アタシのことを心配してるのね、言わなくても顔に書いてあるわ」

 

何を勘違いしたのか、

ジェノサイダーは私の顔の前で人差し指を“チッチ”という感じで振った。

まあ、確かに、別な意味で心配しているのだけれども。

 

「アタシは、根暗とは別な筋肉を使って動いてるの!

だから、2人で交代を続ければ、アタシ達は24時間、動けるのよ!」

 

「うわぁ・・・!」

 

つい声が出てしまった。

何それ、怖い・・・!

腐川とジェノサイダーが手を握り、グルグル廻る姿が脳裏に浮かぶ。

悪夢の永久機関がここに誕生した・・・!

十神がなぜあれほど必死な顔だったのか、今なら理解できる。

 

「ダーリン、凄いのよ!寮の廊下10周した時のタイムが昨日よりも上がってるの!

おかげで見失なっちゃったじゃない!」

 

ストップウォッチを見ながら、ジェノサイダーはハシャぐ。

この狭い廊下で何をやってんだろ・・・このバカどもは。

 

私がため息をつこうとした瞬間だった。

 

「さ~て、チビッ子。ダーリンはどこにいったのかな~?言わなきゃ・・・わかってるわね」

 

いつの間にか背後に回った殺人鬼の指が優しく私の首に触れた。

 

「2Fに逃げましたぁああ~~~恐らく図書室あたりに隠れてますぅうううう!!!」

 

 

 

十神を売る・・・!

 

 

 

それに一瞬の迷いもなかった。

 

「サンキュー☆チビッ子!」

 

ジェノサイダーは意気揚々と2Fへと駆けて行った。

 

その姿を茫然と見送った私は、後になって、己が失敗を理解した。

 

 

 

 

 

あのまま黙っていたら・・・もしかして、殺してもらえたのでは・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

1歩1歩、亀のように歩を進める。

ヨタヨタと体を揺らしながら歩くその姿はさながら幽鬼のようだろう。

この前、外に出たのはいつだったろう。

もう日にちの感覚はなかった。

ただ、飢餓に耐え切れなくなったら、夜時間にゴキブリのごとく這い出す・・・

それを何度繰り返しただろう。

 

・・・どうでもいいや。

 

 

私のことなど・・・どうでもいいのだ。

 

 

 

「・・・ね」

 

声が・・・聞こえてくる。

 

「死ね・・・!死んでしまえ!」

 

憎悪に満ちた声が聞こえてくる。

 

「この期に及んで、まだ生きるつもりなの・・・?」

 

私を嘲る声が。

 

「お願いだから死んでよ!さあ、はやく!」

 

私の死を心の底から願う声が。

 

「この罪人が!死んで地獄に落ちろ!」

 

歩く度、絶え間なく、その声は頭の中で鳴り響く。

 

「お前のせいで、みんな死んだ!全部お前のせいだ!」

 

 

私の声が―――

 

 

「大和田君が処刑されたのも、

石丸君が壊れたのも、ちーちゃんが死んだのも、全部お前のせいだ!」

 

私を呪う私の声が聞こえてくる。

 

 

「お前が殺した。全部・・・お前が悪い!

そうだ!お前が悪いんだ!全部お前のせいだ!お前は生きてちゃいけないんだ!」

 

 

その言葉は・・・あの時、私が大和田君に向かって叫んだ言葉。

それが今、私に戻ってきた。

 

そうです・・・私です。

 

みんなを殺したのは私です。私なんです。

 

あの時、蜘蛛の糸を・・・

 

みんなの希望を断ち切ったのは・・・私。

 

地獄に落ちたのは・・・私だったんだ。

 

 

「死ね!死ね!いつまで生き恥を晒すつもりだ!」

 

 

・・・本当に・・・その通りだ。

 

 

私は・・・なぜ、生きているのだろう・・・。

 

 

 

 

どうして・・・生き延びてしまったんだろう。

 

 

 

 

 

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……………………

 

 

……………

 

 

 

「・・・木さん」

 

 

・・・え?

 

 

「黒木さん、気がついたんだね!」

 

「苗・・・木君?」

 

 

淡い夢を見ていた。

ちーちゃんと遊んでいる夢。

果たすことができなかったあの約束を叶えることができた・・・幸せで儚い夢。

 

だが、夢は夢でしかない。夢はいつか醒める。

現実に帰還した私を待っていたのは、

知らない天井と心配そうに私を見つめる苗木君だった。

 

苗木君とは・・・その時、どんな話をしただろうか。

いや、話などしてはいない。

現実に戻ったことを知った私は、すぐに俯き、口を閉ざした。

心配そうな声で、苗木君が話しかけてくる。

 

私が気を失ってしまい、苗木君と霧切さんがこの部屋に私を運んでくれたこと。

私が部屋の鍵をどこにしまっているかわからないため、とりあえず、苗木君の部屋に運んだこと。

 

苗木君は、申し訳なさそうに話してくれた。

 

そうか・・・ここは苗木君の部屋なのか。

私は・・・苗木君のベットで寝ていたのか。

 

普段の私なら慌てて顔を真っ赤にしていただろう。

話を聞きながら、私はそんなことを他人事のように考えていた。

 

苗木君は、私に気をつかい、話を途切れないように懸命に他愛も無いことを話し続けた。

その間、私はひたすら俯いていた。

 

見られたくなかったから・・・。

 

今の私の顔を苗木君が見たら・・・きっと知られてしまう。

私が何を考えているか・・・きっと見透かされてしまう。

だって、苗木君はそういう人だから。

絶望と戦える人だから。

決して希望を諦めない強くて優しい人。

 

だから・・・ダメ・・・だ。

 

「・・・水」

 

「え?」

 

「ごめん・・・喉が渇いて」

「あ、ごめん!ちょっと待ってて」

 

苗木君が私に背を向け、水道に向かった瞬間だった。

 

「えッ!?黒木さん!!」

 

脱兎のごとく。

私はベットから飛び降り、ドアに走った。

完全に虚をつかれた苗木君は、即座に動くことはできない。

 

彼の声を背に、私はドアノブを掴み、開いた―――

 

「・・・え?」

「あ・・・!」

 

目の前には、霧切さんが立っていた。

彼女らしからぬ、唖然とした表情。

その手を宙に伸ばしているのは、ドアノブを掴み、部屋に入ろうとしていたのだろう。

 

私の顔を見た次の瞬間、霧切さんは私に掴みかかろうと手を伸ばした。

その動きに精彩さを欠いたのは、あの裁判所で、私を庇って負傷したからだろうか?

何度、私はこの人に助けてもらっただろう。

第1回の裁判の時、嫌われるのを覚悟で私を叱ったのは、推理へのプライドからだけでなく、

彼女なりの優しさだったと今ではわかる。

第2回の裁判の捜査の時、何のメリットもない私の願いを聞いてくれたのもそうだ。

霧切さんは見かけよりも、ずっと優しい人なのだ。

だから、この行動もきっと私のことを思ってのことなのだろう。

何度助けられたことだろう・・・もう返しきれないほどの恩がある。

 

彼女の手をすり抜け、懐に飛び込む。

 

私はその恩人を・・・掛け替えのないクラスメイトを・・・

 

 

 

何の躊躇もなく、全力で押し飛ばした――――

 

 

「うグッ・・・!」

 

 

勢いよく向かいの壁に激突した霧切さんは、前のめりに倒れた。

私は一瞥することなく、走り出した。

目的地はそう遠くなかった。

私は走りながら、内ポケットから鍵を取り出し、自室の扉を開く。

中に入り、即座にドアを閉め、ロックすると、

数秒後、ドアが激しく叩かれ、何かを叫ぶ苗木君の声が聞こえる。

薄暗い室内と騒音の中、私は、工具セットを床にぶちまけ、目的のものを見つけた。

私は、震える手でカッターを掴み、浴槽へと向かう。

 

「ハアハア」

 

制服のまま、浴槽に入り、栓をし、水を入れる。

 

「ハアハア」

 

準備は整った。

後は・・・実行するだけだ。

 

「ハアハア」

 

ドアを叩く音の質が変わった。

恐らく、体当たりをしているのだろう。

このままでは、ドアを破って入ってくるかもしれない。

いや、必ずそうする。

苗木君はそういう人だ。もう、時間がない。

 

「ハアハアハアハア」

 

自分の息遣いがやけにに気になる。

気がつくと肩全体で息をしていた。

震える手で、カッターの刃を出し、その刃を左手首に置く。

全てが想定通りだった。

苗木君の話を聞きながら、シミュレーションしていた通り。

普段の私では考えられないほど、スマートに、

何のミスもなく、ここまで辿り着くことができた。

 

「う・・・うぅ」

 

・・・なのに、今更ながら、涙が出てきた。

ここまで上手くいったなら、最後まで・・・とはならないのは、所詮、私なのだ。

あとほんの少しだ。

少しだけ、力を入れて引けばいい。

ただ、それだけで全てが終わる。終わらせなければならない・・・のに。

涙が止め処なく溢れてくる。

 

(何をやってるんだ・・・私は!)

 

もう時間が無い。

いつ苗木君達が部屋に踏み込んでくるかわからない。

 

はやく!はやく死――――

 

 

 

「死・・・にたくない」

 

 

本音が・・・こぼれ落ちた。

 

 

 

ふと、淡い誘惑に駆られる。

 

このまま躊躇していると、苗木君がドアを壊して、ここに踏み込んできる。

 

「死んじゃダメだ!黒木さん!」

 

そう言って、苗木君は私を説得してくれる。

あの時のように・・・必死になって。

 

「君は生きていていいんだ!」

 

そう言ってくれる苗木君に抱きつき私は大声で泣いて・・・

 

 

そんな・・・

 

 

そんなことが・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いまさら、許されるかよ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

許される・・・はずないじゃないか。

 

3人ものクラスメイトを・・・殺して・・・

 

生きていいはず・・・ないんだ。

 

 

 

モノクマの言う通りだ。

私だ。私だったんだ。全ては私のせいだったんだ。

 

ちーちゃんも、石丸君も、大和田君も・・・全部、私だ。私のせいで死んだ。

 

そんな私が許されるはずがない。

生きていいはずがない。

 

抱え・・・きれない・・・!

こんなもの・・・こんな罪を抱えながら私は生きていくことなどできない。

 

 

だから・・・もう、これしかないのだ。

 

 

震える手に力を込める。

 

これは・・・自殺でないのだ。

 

そう・・・これは・・・逃走だ。

私はこの世界から、逃げるのだ。これはそのための手段。

 

だから・・・怖く・・・なんて・・・ない!

 

 

カッターの刃が皮膚を引き裂く直前で止まる。

 

クソ・・・私はこんな時になってもダメダメなんだ。

自分のダメさに涙が出そうになる。

 

たった一度でいい。

 

たった一度の覚悟

ただ一度の決意。

一生に一度の・・・立ち向かう勇気ではなく、逃げるために。

 

あと少しだけ・・・ほんの少しだけの力を!

 

「ウッ!!」

 

鋭い痛み共に、左手首から血が流れ落ち、水面を赤く染めた。

 

「ハ、ハハ・・・やった!やったよ・・・!」

 

ほん数秒の葛藤は、恐ろしく長く感じ・・・それに打ち勝ったことで、

何か責任を果たせたような奇妙な安堵感を覚えた。

 

「痛・・・い。痛い・・・痛い!」

 

だが、それも束の間。

ズキンズキンと鋭い痛みが私を現実に引き戻した。

 

(い、痛い・・・すごく・・・痛いです)

 

手首から血が流れ出し、水面がもう真っ赤染まっていた。

普段の私なら、

 

(処女を失う時もこれくらい痛いのかな?)

 

などと下らないことを考えることだろう。

 

本当に馬鹿だな、普段の私って。

 

私はただ、この痛みと意識が少しでも早く消えることを願い、目を閉じた。

いつしか、ドアを叩く音が聞こえなくなっていた。

何か道具を取りに行ったのだろうか?

それとも、もう私の意識がなくなってきたのかな。

 

闇・・・が広がっていた。

 

怖かった。

 

これが最後の光景なのだと思うと、大声を上げて叫びそうになる。

 

きっと、みんなだってそうだはずだ。

みんな同じだ。

みんな・・・生きたかったんだ。

 

 

暗闇の中、何かが見える。

 

ちーちゃんと他愛も無いことで笑い合った時の・・・

大和田君と石丸君達が肩を組み合って、笑って・・・

 

ああ、そうか・・・

 

これが走馬灯というやつか・・・

 

霧切さんが怒っている・・・まさか私達が後でこんな関係になるなんてその時は思わなかったな。

 

舞園さんと桑田君と3人で苗木君を運んだんだ。

あんな緊張した廊下はなかったな。

 

盾子ちゃん・・・君ってホントに迷わ・・・

 

横の机で寝ているのは・・・苗木君?

そっか、一番はじめに会ったクラスメイトは苗木君だったね。

君にはずっと、助けられっぱなしだったね・・・ごめんね、最後まで心配させて・・・。

 

ゆうちゃん・・・。

 

私の中学時代からの親友。

どんどん可愛くなっていくのにちょっと嫉妬しちゃった。

私が希望ヶ峰学園に入学するのを知って、

すごく心配してくれたね・・・ごめんね、こんなことになって。

 

智貴・・・。

 

何見てんだよ!調子に乗ってんじゃねーぞ!

 

あ、この映像は・・・幼い時、私と結婚するって言って・・・ごめんね、智君・・・。

 

お母さん、お父さん・・・。

 

ごめんなさい・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、

 

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 

 

「ごめんなさい・・・」

 

 

薄れ行く意識の中、私は謝罪の言葉を繰り返す。

ただ、ひたすらに。

これまで関わってきた者、全てに対して、

 

 

(みんな・・・ごめん・・・なさい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  生まれてきて・・・ごめんなさい。

…………

 

 

・……………………

 

 

・……………………・……………

 

 

・……………………・……………・……………・

 

 

・……………………・……………・……………………・……………・……………………・……………

 

 

 

「・・・う・・・うう」

 

体が酷く寒い。何か濡れているような感覚がある。

 

(体・・・?感覚・・・?)

 

ハッと目を開ける。

 

地獄・・・を期待していた。

目を開けた先には、三途の川があって、見たこともない恐ろしい風景が・・・

 

だが、眼前にあるのは薄暗い部屋、見慣れた天井。

 

ここは・・・私の部屋だった。

 

私は、いつの間にか、浴槽から出て、部屋の床の上で倒れていた。

服はまだ濡れていた。

手首の傷は・・・血が乾いて固まっていた。

 

失敗・・・した?

 

「わ、私・・・まだ、生きて・・・ウウ」

 

 

 

ウ゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛ア゛゛ア゛゛ア゛ア゛゛ア゛

ア゛゛ア゛゛ア゛ア゛゛ア゛゛ア゛ア゛゛ア゛゛ア゛ア゛゛ア゛゛ア゛ア゛゛ア゛゛ア゛ア゛

ア゛゛ア゛゛ア゛ア゛゛ア゛゛ア゛ア゛゛ア゛゛ア゛ア゛゛ア゛゛ア゛ア゛~~~~~ッ!!

 

 

生きること、そのものが絶望だった。

生き残ったことこそが、地獄だった。

 

髪を掻き毟りながら、私が発した叫びは、もはや人のそれでなく、獣の叫びに近くて。

あの時の石丸君のように、

まるで世界の終わりを告げるかのような・・・そんな悲痛と嘆きに満ちていた。

喉に血がにじみ、声が出なくまで私は叫んだ。

その最中、誰かが嗤う声が聞こえたような気がした。

もはや、私の精神はまともではなくなっているのだろう。

 

もう一度、死ぬ。

 

ただそれだけが頭を支配し、私は再び浴槽向かう。

血の池と化した浴槽の水の中から、カッターを拾い上げ、左手首に当てる。

 

(もう一度・・・もう一度だ!)

 

一度成功したのだ。なら次もでき―――

 

「ッ痛」

 

・・・はずだった。

 

「あ、あれ?」

 

カッターを落とし、慌てて拾おうとするも、震えて上手く拾えない。

なんとか掴み、傷口に当てるも、引くことができない。

引こうとした瞬間、あの時のことを・・・

大和田君が処刑された時のことを。桑田君の最後の顔を思い出す。

舞園さんに盾子ちゃん、ちーちゃんの死体がフラッシュバックのように蘇る。

 

たった一度の覚悟

ただ一度の決意。

一生に一度の・・・それはもう私の中には残っていなかった。

 

残ったのは燃えカス。いつもの私だった。

 

その後、私は何度となく自殺を試みた。

いや、それは嘘だ。正確には自殺の真似事。自殺ごっこだ。

 

リストカッターというのだろうか。

 

何度となくカッターで左手首を切った。

だが、深く傷つけたのは、最初の数回。

その後は、徐々に、浅くなり、ただその行為を繰り返すだけとなった。

手首から血が流れるのを見ている時だけ、

ほんの少しだけ、死に近づけたような、奇妙な満足感があった。

 

もはや、これで死ぬことが出来なくなった私は、餓死することを選んだ。

何も飲まず、何も食べず、そう、一番簡単な方法だ。

部屋の片隅でうずくまり、私はただ死を待っていた。

 

限界が来たのはおそらく7日目くらいだっただろうか。

 

もはや、日付の感覚はなかった。

今が昼か夜かもわからない。

だが、感覚は信じられないほど冴え渡り、浴槽の蛇口から水が時折垂れる音が聞こえた。

喉の渇きが限界に来て、その音を辿り、気づけば、蛇口にしゃぶりつき水を飲んでいた。

今度は空腹が襲ってきた。

一度外れた箍は・・・欲望は抑えることができなかった。

夜時間を見計り、ふらつく足で厨房に辿りつき、

残飯をゴキブリのように貪っている最中、涙が零れ落ちた。

 

私は・・・もう、死ぬことができなくなっていたのだ。

 

私は泣きながら残飯を貪った。

誰に対して泣く?何に対して泣いているのだ?

これほど汚い涙はあるだろうか。

こんなに無価値なものはあるだろうか。

きっとゴキブリにも劣る。

いや、ゴキブリに失礼だ。

 

 

 

私は・・・生きている価値など・・・ないのだから。

 

 

 

 

 

・・・それから、今に至る。

限界まで我慢し、耐えられなくなれば、夜、ゴキブリのように這い出て残飯を漁る。

そんなことを何度か続けた。

おかげで、体重はかなりへった。

髪もボサボサで、ホラー映画の井戸から出てきそうだ。

お風呂は・・・入ってないや。

ずっと入ってない。

服は、同じジャージを着ている。

寝るときも、起きている時も。

足取りがふらつく。

さすがに、限界がきているからね・・・。

まあ、このまま死んでも全然いい・・・というかむしろそうなって欲しい。

ふらつく足取り、揺れる視界の中、

なんとか食堂の前まで、たどり着いた時、“ソイツ”は入り口に立っていた。

 

 

「ヤッホー☆もっこち、ひさしぶり!」

 

 

モノクマが、口元を押さえながら、私の方に歩いてきた。

 

「あ、ああ・・・!」

「裁判以来かな?ホント久しぶりだよね~」

 

テクテクと愛らしく歩いてくる。

 

「何、そのジャージ姿?まさか干物女目指してるとか?ぷぷぷ、まだ女子高生なのに?

髪もボサボサで、ホラー映画で井戸から出てきそうだしさ。

え、ちゃんとお風呂入ってるの?毎日しっかり食べなきゃダメだぞ~☆」

 

モノクマはそんな、まるで小学校の校長先生が言いそうなセリフを吐く。

その中で、私はただガタガタと震えていた。

 

「どうしたの、もこっち~ガタガタ震えてさぁ~風引いたの?」

「ヒッ!!」

 

ヌッと顔を近づけるモノクマに私は、膝を屈し、その場にしゃがみこんでしまった。

 

 

怖かった・・・!

 

モノクマを見るとあの時のことが・・・大和田君が処刑された時のことがフラッシュバックして・・・

 

だ・・から、モノクマが怖くて・・・恐ろしくて・・・

 

「う、うげぇえええ~~~」

「うぉおおおおおおお~~~~~~!?」

 

私はたまらず嘔吐し、モノクマは絶叫しながら、仰け反った。

不幸中の幸い・・・というのだろうか。

胃がカラッポのため、吐き出したのは胃液のみだった。

 

「もう~後で掃除してよね。床がべとべとじゃないか」

 

モノクマはプンスカと怒る。

全然可愛くない。早くどこかに消えてくれ。

 

「本当に調子悪そうだね~風邪と言えば、そう!あの時は大変だったんだよ」

 

俯き黙り込む私の態度を気にも留めず、モノクマは何かを語り始めた。

 

 

「あの裁判の後、大変だったんだから!

苗木君と霧切さんが君の部屋の前で大暴れ!

ドアを叩くわ、体当たりするわの大騒ぎ!

それどころか、工具セットを持ち出してドアを壊そうとしやがってさぁ~」

 

モノクマが語り出したのは、あの時のことだった。

 

「ドア壊したら校則違反じゃん!苗木君、アウトじゃん!」

 

苗木君なら・・・きっとやるだろう。

自分のことは省みず、私を助けるために。

 

「このまま苗木君を処刑しても、

さっき、裁判所で“今回は見逃してやるぜ☆”とライバル宣言したボクの立場がないじゃん。

ボク、大恥じゃん。それは困るな~せっかく、この物語に軸が出来たのにさぁ~。

ようやく、“希望の主人公”と“絶望のヒロイン”の世界の命運を賭けた戦いが始まるところなのに、

こんなショボイ終わり方なんて・・・それって“視聴者”が許さないって!

なにより、ボクが許さない!

ようやく見つけたのにさぁ~“退屈”な日々に逆戻りなんてボクが許さない!」

 

モノクマはわけのわからないこと好き勝手にほざいている。

私は、ヤツの言っていることがまるでわからなかった。

 

「だからさぁ~ボクは、苗木君に約束したんだ。“この件は、ボクが責任を持つ”ってさぁ~」

「ヒッ・・・!」

 

極限までモノクマは私に顔を近づけた後、テクテクとそのまま私の横を通り過ぎていった。

 

「あ、そうだ、もこっち」

 

何か思い出したように、ピタリと止まったモノクマは私の方を振り返った。

 

 

 

「お風呂で寝たら風邪引いちゃうよ~

ぷぷぷ、今度は助けてあげないから、うぷぷ、プギィヒヒヒ」

 

 

 

 

「お・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  お前か―――――

  

 

 

 

 

 

 

あの時、私を助けたのは・・・

私を嘲り嗤ったのは・・・

 

 

お前か・・・お前だったのか・・・!

 

 

 

 

 

「う、ううぅ・・・」

 

 

モノクマのいなくなった後、床に平伏し咽び泣く。

 

モノクマは・・・黒幕は・・・ただ嘲るために私の命を助けたのだ。

ほんの少しだけ、ゲームの妨げになるから・・・。

それだけのために、私を救ったのだ。

アイツにとって、私の命はその程度の価値しかない。

いや・・・いまさらだ。

私の命に価値などない。

むしろ、有害ですらある。

ならば、誰に利用されようとも、もういいのだ。どうでも・・・いい。

 

 

・・・それから、どれくらいその場に座り込んでいただろう。

誰かの足音に気づき、私は振り返った。

 

「石丸・・・君」

 

まるで幽鬼のように。

覚束ない足取りで、彼は1歩1歩、こちらに向かって歩いてきた。

石丸君と会うのは、あの裁判以来だ。

質実剛健。

いつも明るく元気で馬鹿がつくほど真面目な石丸君。

そんな彼しか知らない私は、一瞬、目の前にいるのが誰かわからなかった。

 

石丸君は・・・壊れたままだった。

 

あの日、彼は壊れてしまった。

大和田君が処刑されて・・・彼がバターになった様を見て・・・

今まで積み重ねてきた全てを失い・・・壊れてしまったのだ。

だから、きっと・・・今が、朝か夜か、区別がつかないのだ。

 

全部・・・私のせいで。

 

 

石丸君は私に近づいてくる。

1歩1歩。私に向かって歩いてくる。

 

罵って欲しい。

“全てお前のせいだ”そう言って欲しかった。

 

しゃがみ込んでいる私の顔を思い切り蹴ってほしい。

サッカーボールを蹴るように思い切り。

“全部お前が悪い”そう言って、蹴り飛ばして欲しかった。

 

気を失った私の体を思う存分、踏みつけて欲しい。

その息が止まるまで、何度も、何度も。

「大和田君が殺されたのも、不二咲君が死んだのも全部お前のせいだ!」

そう言って、私を殺して欲しかった。

 

君には・・・君にはその資格があるから。

復讐する権利が。

みんなの仇を討つことが・・・私を殺すことができるのは君だけだ。

 

 

だけど―――

 

 

石丸君は、一瞥することもなく、私の側を通り抜けて行った。

 

「うむ、時間どおり、今日も朝食の準備をはじめようか。

おお、不二咲君、君も時間通りか!感心だな!じゃあ、さっそく始めようか。

むむ、兄弟、そんな欲張らなくても、おかわりはたくさんあるぞ!ハハハハハ」

 

 

ブツブツと、通り過ぎる最中、石丸君はそんなことを呟いていた。

壊れてしまった彼は、まだ・・・あの場所にいるのだ。

あの朝の朝食の・・・みんなで笑いあったあの時に。

 

 

 

そんな彼を見て、私の心に芽生えたものは・・・

 

私が壊してしまった石丸君に向けるただ一つの感情は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  妬ましい――――

  

 

 

 

 

ただ、それだけだった。

 

 

 

 

ずるい・・・!

 

ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!

ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!

ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!

ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!

ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ズルイよぉおおおおおお~~~~~~ッ!!

 

 

 

どうしてぇ!?どうして君だけそうなのぉおおおおおお~~~~ッ!!

どうして、君だけがまだあそこにいるのぉおおおおおお。

壊れたのに・・・私だって、壊れたのに!

どうして君だけが!ずるい!ズルイよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお~~~~ッ!!

 

ど・・・うして・・・う、うう・・・

 

ごめんなさい・・・石丸君。

 

君が壊れたのは、全部私のせいです。君の希望を奪ったのは・・・私なんです。

 

 

ごめんなさい・・・大和田君。

 

ちーちゃんに君を紹介したのは、私です。君を殺したのは私なんです。

 

 

ちーちゃん・・・ちーちゃん!ちーちゃん!ちーちゃん!

 

う、ううう・・・うぁあああああああああああああ~~~~ごめん。ごめんよ~~~~!!

全部、全部・・・私が・・・ううう、うわぁああああああん。

 

 

3人もの・・・命を奪ってしまった。

 

超高校級の才能を・・・希望の灯を消してしまった。

 

彼らは将来・・・どれほど多くの人々を照らす光となったのだろう。

どれほど、多くの人の希望となったのだろうか。

 

何千・・・何万・・いや何億人の・・・希望。

 

それを全て・・・私が消した。私が奪った。

 

ぜ、全部・・・私が。

 

いや・・・それだけじゃない。

 

ちーちゃん達だけ・・・じゃない。

 

舞園さん・・・達だって、私が気づきさえすれば・・・。

 

あの時、厨房で、舞園さんが迷っていることに私が気づいてさえいれば・・・

く、桑田君が後悔していることに気づいてあげれば、もしかしたら・・・

盾子ちゃんなら、かわせた・・・!

私なんて庇わなければ、あの身体能力であんな槍なんか全部。

 

そ、そうだ・・・全部、私だ。私のせいだ。

 

ヒ・・・ヒヒ。

 

こ、こんな、私が・・・何百億の希望の灯を消してしまった。

 

こんなどうしようもない私が。

何の才能もない私が。

ぷぷぷ、喪女の私が・・・そんなことを・・・

 

 

それって・・・さぁ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逆に凄くね・・・?

 

 

 

ぷぷぷ、だってさぁ~こんな私が・・・平凡な私が・・何の才能もない私が!

何十億の!何百億の希望の灯を消したんだ!こんな私が!

ぷぷぷ、凄い!凄い!私・・・凄いよ~~ッ!!

何が才能だ!何が超高校級だ!

見たか!全部消した!全部潰してやった。

ぷぷぷ、プギャハハハ、私が全部やった!希望を全て!

 

モノクマ・・・お前じゃない!お前なんかじゃない!

私だ・・・!

百億の希望を奪った私こそが、絶望だ。超高校級の“絶望”なんだ!

 

 

ぷぷぷ、プギュヒヒヒ!プギャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ~~、

アーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハ・・・ハハ。

 

 

う、うぅ・・・

 

 

違う・・・そうじゃない。

 

私は・・・絶望なんかじゃない。

 

希望を黒き絶望に染めようと明確な悪意を持つアイツこそ、超高校級の“絶望”だ。

 

ならば、私はなんだ?

 

無意識に、無自覚に、無邪気に、みんなの希望を奪った私は一体なんだ?

 

 

 

わたしは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     “クズ”だ・・・。

     

     

 

 

 

生まれた瞬間から今日に至るまで、見紛う事なきクズ。

例えることができぬクズ!息が詰まるほどのクズ!

何から何までクズ!このクズ!クズ!クズ!クズ!クズ~~!!

 

私は“喪女”などではない。私はクズ!超高校級の“クズ”だ。

 

クズな私に最初から希望などなかったのだ。

そんな幻想は今、捨ててしまおう。絶望に身を委ねてしまおう。

 

クズはクズらしく生き、クズらしく死ぬのだ。

 

クズらしく誰かに殺されるまでダラダラと生きよう。

モノクマに飽きられ、殺されるまで、飼われてやろう。

 

 

そうとも!だって、私はクズ!超高校級の“クズ”なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3週間後――――

 

 

 

時間は昼をとうに越えているだろう。

そんな時間に起きるなど、まさにクズである。

身体が少し、ヒリヒリする。

昨日、およそ一ヶ月ぶりにお風呂で身体を洗ったせいか。

私としては、必要性は感じなかったのだが、“無理矢理”入れられたのだから仕方ない。

髪も・・・若干、前髪パッツンになっている。

こちらも無理矢理切られた。

ホラー映画みたい、とか失礼な話だ。無造作に伸ばしてただけではないか。

服も・・・一ヶ月ほど着込んだジャージは焼却炉で燃やされてしまった。

そこまで臭かったのか・・・ちょっとショックだ。

まあ、いいや、代わりのジャージはまだある。

私は、ジャージを着ると鏡も見ずに部屋を出る。

身だしなみ?

そんなもの私には必要ない。だって、私はクズなのだから。

私は、けだるい足取りで階段を上がり、3Fのある部屋へと向かう。

 

 

 娯楽室

 

 

プレートにそう書かれている部屋のドアを開く。

 

 

 

「あら、こんな時間に起きるなんて、黒木さん、アナタは本当にどうしようもないクズですわね」

 

「まったく正真正銘のクズですな。まあ、我々もさっき来たばかりですけど」

 

 

 

そこには、希望を捨てた、自堕落でクズな“悪友”達が私を待っていた。

 

 

「君達だけには、言われたくないなぁ」

 

 

 

そう言って、私は、ドアを閉める。

 

締められたドアのプレートの下に、手書きの張り紙が貼られていた。

 

 

 

その張り紙にはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  

  

  

  

  

  

  

―――――希望ヶ峰学園”娯楽部”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




それは“再希”の物語。

第3章、“娯楽部編”スタート―――――



【あとがき】

描ききれたことだけで満足です。
誤字脱字、変な文章は後から修正します。

平日に書ける内容ではないため、今日、一杯使って必死に書きました。
今日、書き切れなかったら、あと1ヶ月は延びたと思います。

心理描写は難しかったですね。
ここからはどこか切ないコメディを目指します。

ではまた次話にて


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