私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第2回学級裁判 中編

私はね・・・ずっと君のことが怖かったんだ。

 

君は日本で一番有名な不良だから。

すぐに暴力を振おうとするから。

 

だから・・・出来る限り避けていたんだ。

 

でも、あの日・・・

誰もいなくなった体育館で

盾子ちゃんの遺体に大切な学ランをかけてくれたあの時・・・

 

私は初めて知ったんだ。

 

 

“君は見かけによらず、本当は優しい人なんだって・・・”

 

 

裁判が終わった後、

少しずつ話す機会が増えて・・・

 

私は知ったんだ。

 

君は猫よりも犬が好きだということを。

将来に悩んでいたことを。

卒業したら・・・大工になりたいことを。

壊すんじゃなくて、これからは、作りたいって・・・。

 

私は知っているんだ。

 

日本一の不良が・・・日本最大の暴走族の総長が、

私達と同じように未来に不安とそして、希望を持っていることを。

 

だからね・・・私は嬉しかったんだよ。

 

あれだけ険悪だった石丸君と

君が親友になって肩を組んで笑う姿をを見た時・・・

 

ちーちゃんと打ち解けて笑い合う二人を見た時・・・

 

私は本当に嬉しかったんだよ。

 

その姿があまりにも微笑ましくかったから・・・

まるで自分のことのように本当に嬉しかったんだ。

 

 

本当に、本当に、嬉しくて・・・

嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて・・・なの・・・に、

なのに・・・どうして・・・?どうして・・・!?

どうして!?どうして!?どうして!?どうして!?どうして!?どうして!?どうして!?

どうして!どうして!どうして!どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!

 

どう・・・して・・・ッ!

 

 

どうして君なんだよぉおおお―――

 

 

 

 

 

 

           

   大和田君~~~~~~ッ!!

 

 

 

 

 

 

叫んだ瞬間、視界が・・・世界が“ぐにゃり”と歪んだ。

それは、目の前の現実を拒絶するかのように。

現実によって壊される大切な思い出や幸せだったあの時間を守るかのように。

 

「な、なに大声出してんだよ・・・。ビックリするじゃねーか、チビ女」

 

元に戻った視界の先には、

超高校級の“暴走族”である大和田紋土君が額に汗を浮かべていた。

 

「どう・・・してなの?どうして!どうして、ちーちゃんを殺したの!?」

 

私はそう叫ばずにはいられなかった。

 

「な・・・ッ!?」

 

その言葉に大和田君は大きく動揺した。

 

「お、俺じゃねー!俺は殺してなんかねーぞ!

言ったじゃねーか!俺のジャージの色は黒だ!アイツと同じ青のジャージは苗木と霧ぎ」

「言ってない!」

「あん?」

 

私は―――

 

 

 

 “ちーちゃんのジャージの色なんか言ってない!!”

 

 

 

「あ・・・!」

 

その瞬間、大和田君の表情が変わる。

それはまるで本当に、

蜘蛛の糸が切れて地獄へと堕ちていく悪人がするかのような・・・そんな顔だった。

 

「お、お前、確か・・・言ってなかったか・・・?」

 

視線を逸らしながら大和田君は弁明する。

その声は普段の彼と比べて、小さく弱いものだった。

 

 

 

 「それは違うよ!」

 

 

 

だが、苗木君の言弾が即座にそれを撃ち抜いた。

 

「黒木さんは、不二咲さんのジャージの色を話していない!

それは、僕と霧切さんが保証するよ!」

 

「青のジャージに言及したのは、私と苗木君。

苗木君は自分のジャージの色について話しただけ。

私は、偶然、彼とペアルックになってしまったことに驚いただけよ」

 

霧切さんの最後の言葉に苗木君は一瞬、微妙な顔をした。

 

本当は・・・自分が容疑者から外れようするクロの余計な一言を、

容疑から外れた安堵から漏れるかもしれない迂闊な言葉を、

霧切さんが狙い撃つのが当初の計画だった。

だが、私は叫んでしまった。叫ばずにはいられなかったのだ。

 

 

「やはり・・・ブラフだったのですね」

 

 

微笑を浮かべながらセレスさんは、霧切さんにその言葉を向けた。

 

「・・・気づいていたの?」

「バレバレですわ」

 

逆に問い返す霧切さんにセレスさんは、即答する。

 

「雰囲気、視線、口調、表情、呼吸、声のトーン、ヒントは至るところにありましたわ。

わたくし、ギャンブラーですので、気づいてしまうのです。そういうことに。

三人とも不合格です。特に、黒なんとかさんは、絶望的ですわ」

 

セレスさんは、ブラフを見抜いた理由として、そのギャンブラーの才能の一端を披露した。

台本以上の出来だっただけに、あっさり見抜かれたことに、正直、かなりショックだった。

いや、さすが超高校級と認めるしかないか。最後の私に対するディスりは余計だけど・・・。

 

「霧切さん、あなたにもう1つだけ聞きたいことがあります」

 

微笑を浮かべていたセレスさんは、直後、大きく目を見開いた。

 

 

 

―――あなた、最初から大和田君がクロだと確信を持っていましたですわね?

 

 

 

全員がギョッとして、霧切さんを見る。

 

「十神君が容疑者として進む議論の最中、

あなただけはずっと大和田君を見ていたから・・・なぜ、彼がクロだと思ったのですか?」

 

また・・・なのか?第1回の裁判において、裁判が始まる前に、桑田君の犯行を見抜いたように・・・

また、今回も裁判が始まる前に、真実に辿り着いたということなのか・・・!?

 

「・・・捜査時間に大和田君と話す機会があったの」

 

みんなの視線が集中する中で、腕を組み、霧切さんは静かに語り始めた。

 

「無意識か意図としているのかはわからないけど、

彼は・・・大和田君は、男性と女性の呼称を変えるのよ。

女性の場合は、“あの女”、男性の場合は“アイツ”。

捜査時間に話した時、大和田君は、不二咲君のことを“アイツ”と呼んだの。

つまり、大和田君は知っていたのよ。不二咲君が男性であることに」

 

 

あの時か・・・あの時なのか―――

 

 

 “もしかしたら、真実はどこか身近な場所に落ちているかもしれないわね。”

 

 

再び、彼女の言葉が脳裏に響く。

霧切さんと大和田君の会話は私も聞いていた。

霧切さんのアドバイスは、その直後だった。

彼女が、大和田君の後姿を見つめている姿を思い出す。

あの透き通った瞳を思い出す。

彼女は、あの時、確信したのだ。

真実は・・・本当に私の目の前に落ちていたのだ。

その才能に一瞬、背筋が寒くなった。

彼女は、本当に何者なのだろう・・・?

 

「そ、そんな些細なことに気づくなんて~~ッ」

「ア~ンタ、ひょっとして魔女?恐ろしい女ね!」

 

山田は驚愕の声を上げ、ジェノサイダーは自分のことを棚に上げ、文字通り舌を巻いた。

 

「恐ろしい・・・?私が?」

 

霧切さんは殺人鬼の言葉にピクリと反応した。

 

「いいえ、恐ろしいのは、わたしなんかじゃない。本当に恐ろしいのは―――」

 

 

 

  自分が助かるために、クラスメイトを・・・

  仲間を殺すことができる人間よ

 

 

 

その言葉を前に、その真実を前に誰も言葉を発することができなかった。

あまりにも・・・あまりにも重い言葉。あまりにも明白な真実だった。

静寂を裁判所を包む。

誰一人、言葉を発する者はいなかった。

ただ、その視線を容疑者となった大和田君に向けるだけだった。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・!ちょっと待ってくれ!」

 

その空気を壊すかのように、沈黙を破ったのは石丸君だった。

 

「一体、何を言っているのだ!?霧切君。それに苗木君まで!

寄って集って、まるで兄弟を犯人みたいに・・・!

兄弟はただ、聞き間違えただけじゃないか!

呼び方だってただの偶然に違いない!きっとそうに決まってる!」

 

そう主張する石丸君は、まるでそれを自分に言い聞かせているかのようだった。

 

「二人とも冗談が過ぎるぞ!そんなはずないじゃないか!

兄弟が人を殺すはずがないじゃないか!

霧切君!君の推理はどこか決定的に間違ってるぞ!

あるはずがないんだ・・・!

兄弟が・・・不二咲君を殺・・・すなんて!絶対にあるはずがない!

そうだろ・・・?

君は知っているはずだ。君ならわかるはずだ・・・!そうだろ・・・黒木君!」

 

縋るような目で石丸君は私を見る。

 

「い、石丸君・・・」

 

あの朝食の思い出が・・・

みんなで笑いあったあの時のことが脳裏を過ぎり、涙が出そうになった。

 

(わ、私だって・・・信じたい。そんなはず・・・ない・・・て。でも・・・でも・・・!)

 

 

「ああ・・・そうだ。俺は殺ってねー」

 

その最中、顔を伏せ、沈黙していた大和田君が呟いた。

 

「ジャージの色は他の奴らがゴチャゴチャ言うから勘違いしちまっただけだ。

ただそれだけじゃねーか・・・。

呼び方だぁ・・・?それこそ知ったこちゃねーぞ!ただの言いがかりじゃねーか!

そんなことで俺を犯人扱いすんのかよ・・・上等じゃねーか」

 

額に血管を浮かべ、大和田君は私達を睨む。

 

「人を犯人扱いするなら、それ相応の覚悟はしてるんだよな?霧切、苗木・・そして黒木!」

 

“怒”“怒”“怒”“怒”“怒”“怒”

 

まるでそんな擬音が聞こえるような錯覚に囚われる。

肌がビリビリと痺れる。恐怖で体が震える。

 

 

それはまさに日本一の不良が放つ身震いするほどの暴力的な”怒気”

 

 

「ならば・・・この推理で決着をつけましょう」

 

その怒気の暴力の中、霧切さん恐れることなく大和田君にその言葉を放つ。

 

 

 

―――これが事件の真相よ!

 

 

 

霧切さんは“クライマックス推理”を展開した。

 

「昨日の夜、不二咲君は、ある人物と会うために男子更衣室に向かっていた。

その時、偶然、黒木さんと会い、青いジャージを目撃された」

 

私とちーちゃんが会話し、別れる絵が脳裏に映る。

 

「男子更衣室で、不二咲君に会った人物。

その人物こそが今回のクロに間違いない。

クロは、不二咲君をダンベルで殺害。

それは、恐らくは衝動的な殺人だったのよ。

そのためにカーペットやポスターに血痕がついてしまった」

 

ちーちゃんを殺害し、血に濡れたダンベルを持ったクロは汗をかく。

 

「クロは、玄関ホールの舞園さん達の電子生徒手帳を使用し、

不二咲君の死体を女子更衣室に移動。

そして、カーペットとポスターを女子更衣室のものと取り替えたのよ。

その後、不二咲君の死体を発見した十神君が、

ジェノサイダーの犯行に見せるべく偽装工作をした・・・そうよね、大和田紋土君」

 

クロの影の中から“ピキピキ”と血管を浮かべた大和田君の姿が現れる。

 

「それは違うぞ!」

 

石丸君が叫んだ。

 

「その推理では、兄弟をクロと断定することができない!

容疑者は十神君を含む男子全員だ!まだ兄弟が犯人と決まったわけじゃないぞ!」

 

力の限り石丸君は、大和田君を擁護した。

その言葉は確かに真実だった。

霧切さんの今の推理には決定力が確かに欠けていた。

 

「ねえ、石丸君。あなた“今”、電子生徒手帳を持っているかしら?」

「ん、な、なんだね突然?それよりも、兄弟の―――」

「見せてくれないかしら?」

「だから、何故だね!?今はそんなことよりも」

「理由は後で話すわ。みんなも電子生徒手帳を机の上に出して」

「う、うむむ」

 

石丸君は腑に落ちないながらも、渋々、電子生徒手帳を机の上に出す。

私達も、彼女の言葉に従い電子生徒手帳を取り出し、起動させる。

大和田君を除く、全員が机の上に、電子生徒手帳を置いた。

 

「山田君、例のものを」

「アイアイサー!」

 

霧切さんの合図に山田が電子生徒手帳を頭上に掲げる。

 

(あ、あれは・・・!)

 

あれはきっと、山田がサウナ室で見つけたちーちゃんの?電子生徒手帳。

連携のスムーズさから、予め準備されていたのが読み取れる。

私の知らない間に、霧切さんこんな仕込みをしていたのか。

 

「えーと、これはですね、

僕が捜査時間に“サウナ室”で見つけたのですよ!まあ、壊れてますけどね・・・」

 

自慢げに話し出したと思ったら、急にトーンを落とし、

山田は発見場所と手帳の状態を説明する。

そう、あの電子生徒手帳は壊れていたのだ。

 

「玄関ホールにある三人の電子生徒手帳。

そして、私達、全員が電子生徒手帳を持っているならば、

この電子生徒手帳は、不二咲君のものであると考えて間違いない」

 

霧切さんは、再び推理を語り始める。

大和田君は・・・ただ一人、手帳を出すことなく、沈黙を続けている。

 

「ここで2つの謎が残るわ。

1つは、クロはどうやって不二咲君の電子生徒手帳を壊したのか?

モノクマの話では、この電子生徒手帳は、相当頑丈に出来てるらしいけど」

 

「そうです!モノクマ印の電子生徒手帳は完全防水!象が踏んでも壊れません!」

 

裁判長席からモノクマは得意げに語る。

 

「そのヒントは、恐らく手帳が発見された場所にあると私は思うの・・・」

 

霧切さんは、そう言って私達、全員に視線を送る。

まるで、私達を試しているかのように。

そして、それに答えたのは、やはり、彼だった。

 

「サウナ室・・・そうか!サウナの熱で壊れたんだ!」

 

苗木君が、閃き、叫んだ。

 

「ピンポン!正解です!そう!この電子生徒手帳は熱に弱いのです!

長時間、熱に晒されると熱暴走し、故障します。

みんな、真似して壊さないでね!

お願いします!この電子生徒手帳、すごく高いんだから・・・」

 

霧切さんの代わりにモノクマが正解と電子生徒手帳の弱点を説明する。

最後の言葉が切実なのは、きっとこの電子生徒手帳、本当に高いんだな・・・。

 

「・・・だから、不二咲君の電子生徒手帳はサウナ室にあったのよ。

そう、クロは壊し方を知っていたの。

ここで、もう1つの謎が残るわ。

クロは、いつ、電子生徒手帳の壊し方を知ったのかしら・・・?」

 

モノクマを無視して霧切さんは推理を再開する。

壊し方を知っている・・・ということは、どこかでそれを知ったから・・・?

 

「ちなみに、ボクは誰にも方法を話してないからね!」

 

私の視線に気づいたのか、モノクマは血管を浮き立たせて怒鳴る。

ちッコイツじゃなかったか・・・!

じゃあ、どうやって・・・もしかして、実際に壊したことが・・・

 

「クロは偶然、その方法を知ったのではないかしら・・・

例えば“服を着たまま”サウナ室に入ったとか」

 

霧切さんが突如、わけのわからない冗談を言い始めた。

だが、私にはわかる。

彼女との関わることで私は理解した。

彼女が・・・霧切さんが、意味のないことを言うことなど決してないことを。

この言葉に真実が内包されているのだ。

 

電子生徒手帳が入った服を着たまま・・・サウナ室に・・・

 

「霧切君!冗談はいい加減に止めたまえ!」

 

机を叩き、石丸君が霧切さんに怒りをぶつける。

 

「服を着たままサウナ室に入る人間なんているわけないじゃないか!

一体、どんな機会があれば、

そんなことが起こるというのだ!そんな機会が・・・機会・・・あ・・・ッ!!」

 

何かに気づいたかのように石丸君は振り返り、大和田君を見る。

 

「あ・・・あ、あああ・・・」

 

大粒の汗をかき、震える石丸君を見て、私は彼の言葉と苗木君の話を思い出した。

 

 

  “彼も“サウナ室”に着いている頃だ。さあ、”男勝負”と行こうじゃないか!”

 

 

石丸君のその言葉を勘違いした私に、苗木君は説明してくれた。

石丸君と大和田君がサウナ室での我慢比べで決着をつけることにしたことを

 

 

その際に、大和田君は、ハンデとして、学ランを着てサウナ室に入ったことを・・・。

 

 

「クロが偶然、壊し方を見つけたのなら、クロの電子生徒手帳は壊れていることになる。

ならおかしいわね。クロはどうやって、男子更衣室に入ることができたのかしら?

電子生徒手帳が壊れているなら、男子更衣室にクロは入ることはできないはず。

ならば、どうやって入ったのかしら?」

 

そう言って、霧切さんは私達、全員を見つめる。

私にはわかる。

霧切さんは、次で決着をつける気なのだ。

 

「あの玄関ホールの壊れた電子生徒手帳・・・」

 

そして、彼女は決着の“言弾”を放った。

 

 

―――あれは本当に、桑田君の電子生徒手帳なのかしら?

 

 

全員が大和田君を見る。

入れ替えたのだ・・・!

男子更衣室に入るために、桑田君の電子生徒手帳と壊れた自分の電子生徒手帳を。

モノクマは、処刑での衝撃で電子生徒手帳は壊れないと断言していた。

霧切さんは、以前、壊れていない桑田君の電子生徒手帳を見ている。

 

ならば、あの壊れた電子生徒手帳は―――

 

「兄弟・・・電子生徒手帳を出すんだ」

 

決着を迎えようとする最中、搾り出すような声で石丸君が大和田君に語りかける。

 

「僕は信じている。君がクロではないことを!

僕は知っている。君が不二咲君を殺すはずなどないことを!

だから、兄弟・・・!

電子生徒手帳を出して、みんなにも証明してくれ!

霧切君の推理が間違っていることを!

コイツラの言っていることは全て出鱈目だと・・・!

君が証明してくれ・・・!頼む!頼む兄弟!頼むか・・・ら・・・信じさせてくれ!」

 

それはどこか祈りにも似た・・・魂から出るような悲痛な叫びだった。

 

「・・・その必要はねーぜ、石丸」

「きょ、兄弟・・・?」

「もう・・・ここまでってことだろ」

「な、何を言ってるんだ?兄弟?」

 

大和田君は顔を上げた。

青ざめた表情だった。

彼がその言葉を放ったのは、どこか空ろな瞳に光が戻った直後だった。

 

「・・・ろ・・・した」

「え・・・?」

 

「・・・そうだ。俺が、不二咲を殺した!」

 

「なッ・・・!」

 

 

「俺が・・・“クロ”だ・・・ッ!」

 

 

大和田君は確かにそう言った。

自分がクロだと・・・ちーちゃんを殺したと今、そう言ったのだ・・・!

 

「な、何を言い出すのだ兄弟~~~ッ!!」

「モノクマ、始めてくれよ・・・投票タイムってやつをよ」

「ラジャー!」

「なッ!?」

「では、オマエラ、お手元のパネルから投票をお願いします!」

「待て!待て!待て!」

「嫌です!待ちません!」

「頼む!待ってくれ~~~~ッ!!!」

 

石丸君の叫び声の中、突如、投票タイムが始まった。いや、始まってしまった。

この瞬間を何度も夢見てきた。

このパネルにある「十神白夜」の名前を押すことを何度となく想像した。

だが、私の指の先には、彼の名前があった。

まるで悪夢を見ているかのようだった。

私は震える指で「大和田紋土」・・・彼の名前を押した。押すしかなかった。

 

回る。廻る。運命のスロットはまわる。

一つの枠に大和田君の顔の絵が止まると、立て続けに残りの枠に大和田君の絵が止まった。

 

「おめでとうございます!今回も大正解!」

 

大和田君の顔の絵が3枚並び光り輝く。

 

「そう!不二咲千尋君を殺した“クロ”は大和田紋土君でした!」

 

モノクマは愉快そうにクラッカーを鳴らす。

 

「でも、今回は全員正解とはいきませんでした。

石丸君~~いくら真実を認めたくないからって自分自身に投票するなんて・・・

プププ、面白いギャグだな~投票が多数決で助かったね!」

 

「な・・・ぜだ。なぜだ!なぜだ!なぜだ!なぜだ!なぜだ!なぜだ!なぜだ!なぜだ!」

 

モノクマの嘲りを無視して、石丸君は大和田君に掴みかかる。

 

「なぜ不二咲君を殺した!?君達は打ち解けて、信頼し合って・・・

あれだけ仲良くなったじゃないか!

あんなに楽しそうに笑いあってたじゃないか!なぜだぁああーーー」

 

石丸君は大和田君の襟首を掴み、力の限り揺らす。

それを止めようとする者はいなかった。

誰もいない。

石丸君を止める権利を持つ人間はここには誰もいないから。

最後まで大和田君を信じ、容疑が深まる中、力の限り庇い続けた石丸君だから・・・

もはや決定的となっても、まだ彼を信じて・・・

大和田君がクロと自白した後でさえ・・・自分に投票してまで・・・

本当に、最後の最後まで信じ続けた石丸君だからこそ、その権利はあるはずだ。

何があったのか・・・それを大和田君に問う権利はあるはずだ。

いや・・・もし、石丸君が問わなければ、きっと私も同じことをしていたはずだ。

 

一体・・・どうして・・・なの・・・?

 

「・・・強い」

「え・・・?」

 

石丸君を振り払った大和田君は何かを呟いた。

 

「俺は・・強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!

強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!

強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!」

 

大和田君はそう口ずさみ始めた。

“強い”・・・その言葉を何度も何度も。

自分に言い聞かせるように。

 

「強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!

強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!

強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!

強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!」

 

その叫びは、まるで呪文であり・・・慟哭のようにも聞こえ・・・

そして、どこか祈りに似ていた。

 

「俺は強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!

俺が一番強えんだ!喧嘩だったら誰にも負けね!大神!オメーにだってな!」

 

拳を固め、大和田君は大神さんを睨む。

 

「ああ、そうだ!俺は強い!誰よりも・・・兄貴よりもだぁああああ!!!」

 

力の限り、大和田君は叫んだ。それは魂からの叫びだった。

 

「・・・強く・・・なきゃいけなかったんだ。強くなきゃ・・・兄貴との約束が守れねえ・・・。

だけどよぉ・・・もう、オシマイだ。俺は・・・兄貴との約束を守ることができなかった」

 

それは、先ほどまで、あれほどまでに、強さを誇示した彼とは、思えないほどの・・・

消え入りそうなほど、弱弱しい声だった。

 

「・・・モノクマ、処刑するんだろ?さっさとやってくれ」

「なッ!?兄弟・・・!?」

 

空ろな目で投げやりな口調で処刑を求める大和田君。

その瞳には、普段の力強い光はなかった。

その瞳を私は以前、見たことがある。

処刑が決まった時の桑田君の・・・あの瞳だ。

大和田君は全てに絶望したのだ。

 

「あるところに、全国統一を成し遂げた暴走族を作った兄弟がいました」

「あん・・・?」

 

裁判長席で、大和田君達を見下ろしていたモノクマが突如、何かを語り出した。

 

「兄に憧れ、暴走族の世界に入った弟は、NO.2となり兄を支えました。

ですが、弟は、兄に憧れると同時に、カリスマ溢れる兄に強いコンプレックスを持っていました」

 

それを聞いていた大和田君の表情が見る見る青くなる。

 

「兄が引退を決め、弟が二代目を襲名する引退式の時・・・それは起こりました」

 

「や、やめろコラァアアアア~~~~ッ!!」

「おっと」

 

モノクマは、掴みかかる大和田君をさらりとかわし、回転して地面に着地する。

 

「無駄なことはやめなよ、大和田君」

 

モノクマは嗤いを堪えながら、大和田君を指差す。

 

「君は終わったんだよ。命掛けの裁判で君は負けたんだ。

そう、負けた者には権利なんてないんだよ。

君は犬になったんだ。負け犬は引っ込んでなよ。それとも、ここからは君が話してみる?」

「う・・・ぐッ」

 

躊躇している大和田君を見て、モノクマは口を開いた。

次の瞬間、私達は戦慄で凍りついた。

 

 

―――その日・・・大和田君は、お兄さんを殺したんだよ。

 

 

その事実の・・・その衝撃の中、誰も言葉を発することができなかった。

 

「ああ、そうだ・・・俺が・・・兄貴を殺した」

 

そして大和田君は語る。自分自身で、お兄さんを殺した過去を。

 

「俺には2つ年上の兄貴がいた。

名は大和田大亜。俺と兄貴で“ダイアモンド兄弟”。地元じゃ敵なしだった。

兄貴が族《チーム》を暮威慈畏大亜紋土《クレイジーダイアモンド》を作った時、

俺も族の世界に入った。

カリスマ溢れる兄貴は超高校級の“総長”と呼ばれ、その背中にみんな憧れた。

もちろん、俺もだ。

疾走する兄貴の背中をいつも見ていた。痺れるほど格好よかった。

いつか兄貴と肩を並べられる漢の中の漢になりてえ・・・それが俺の夢だった。

だが、兄貴の偉大さは同時に俺を苦しめた。

誰も俺を認めない。このまま2代目になっても、それは大亜の弟だからだ・・・!

だから、早く兄貴に追いつかなくちゃいけなかった。俺は・・・焦っていたんだ」

 

大和田君は当時の感情を思い返すかのように語る。

政治家とは違い、暴走族は力の世界。

世襲で後をついでも、結局、長くは保てない。保つはずがないのだ。

だから、早く周りに認めさせようという彼の焦りはほんの少しだが、わかる気がした。

 

「・・・そして、俺は、兄貴の引退式で、二代目を襲名する前に兄貴に勝負を挑んだ。

爆走《はしり》で兄貴に勝って、周りに・・・兄貴に認めさせたかった。

俺はやれるんだってな・・・。

だが・・・俺は勝利を焦り、無謀な爆走をした。気づいた時には目前にトラックが迫っていた。

兄貴は・・・俺を助けるために、俺を蹴り飛ばした・・・そして、代わりにトラックに・・・」

 

 

 

“小せえことは気にするな・・・

お前は、仲間を守れる漢になれ・・・約束だぞ”

    

    

 

「それが・・・兄貴の最後の言葉だった。

兄貴は俺に負けそうになり、無謀な爆走《はしり》をして死んだ・・・そう嘘をついた。

真実を闇に葬った俺は、二代目になり、爆走《はしり》続けた。

もう後戻りはできなかった。

兄貴の死を無駄にしないために・・・“漢の約束”を守るために、俺は爆走しかなかった。

俺は必死だった。

仲間を・・・族《チーム》を守るために、俺はいつも必死だった。

そして、ついに念願だった全国制覇を成し遂げたんだ」

 

「お、大和田君・・・君は・・・」

 

石丸君はそれ以上の言葉を出すことができなかった。

大和田君が超高校級の”暴走族”となるまでには、そんな過去があったのだ。

大和田君は爆走するしかなかったのだ。

たとえ、全てが嘘で固められていても・・・

それが偽りの強さだとしても・・・彼は止まることができなかったのだ。

 

「たとえ全国を統一しても、俺は油断することはできなかった。

全国を統一するまで、多くの族を潰し、吸収してきた。

敵は、外だけじゃねー。内にいて、虎視眈々と反逆の機会を窺ってやがる。

もし、俺の秘密ばバレちまったら、きっと族は・・・」

 

そう言って、大和田君は言葉を止めた。

それから先は言われなくとも想像がつく。

大和田君のカリスマが失われ、族《チーム》で内部紛争がおきるだろう。

結果として、族《チーム》の崩壊は避けることができない。

それはお兄さんとの約束を破ることになる。

彼は・・・それを恐れたのだ。

 

「さて、不二咲君に関しては、ボクが語ろうかな」

 

いつの間にか裁判長席に戻っていたモノクマは語り始まる。ちーちゃんの過去を。

 

「あるところに一人の少年がいました。名前は不二咲千尋君」

 

弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。

弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。

弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。

 

ボクは・・・どうしてこんなに弱いんだろう・・・。

 

 

「幼い頃から、体が弱かった彼は、自分の弱さに極度のコンプレックスを持っていました。

”男のくせに”いつもそんな言葉を言われ、苛められた彼は、その弱さを克服できず、

逆にさらなる弱さの中に、自分自身を隠すことにしました。

それが女性になりきること。それが彼の選択した逃げ道だったのです」

 

ズッコケそうになった。

なぜ、そうなった!?そしてなぜ通じた!?

通じてしまった・・・それもあるジャンルでは、舞園さん達を押しのけNo1に・・・。

天使の輪を膝でへし曲げ、激昂する盾子ちゃんが脳裏に浮かぶ。

舞園さんも笑っているが、顔がどこか怖い・・・。

 

「それは、不二咲君にとって絶対に知られたくない秘密。

もし、知られたら、彼は今まで以上に周りから攻め立てられるに違いありません。

彼は激しく絶望するはず・・・でした。

ですが、ウザイことに、彼は秘密が暴かれるのをきっかけに変わろうとしやがったのです。

誰かさんのおかげでね・・・」

 

そう言って、モノクマは私を見て嗤った。

 

「さあ!いい感じで暖まってきたことだし、ここらで鑑賞会を始めようか。

前回は、中途半端だったけど、今回はバッチリ撮れてるからね!」

 

(ま、まさか・・・)

 

そのモノクマの言葉で、あの時の・・・桑田君や舞園さんの声を表情を思い出す。

また見せようというのか・・・?

 

クラスメイトが殺し合うあの絶望を。

 

 

 

 “殺害VTR"スタート~~~ッ!!

 

 

 

スクリーンに男子更衣室が映し出された。

 

「クソがッ!モノクマの野郎!」

 

大和田君は拳をロッカーに叩きつけた。

ガッと鈍い音が響く。

 

「どうすりゃいいんだ・・・このままじゃ兄貴との約束が・・・」

 

額をロッカーに押し付けて、大和田君は深い溜息をついた。

その表情を追い詰められ、疲れていた。

 

「・・・しっかし、トレーニングに付き合って欲しいとか言われてもよぉ。

よくよく考えたら、

男子と女子は部屋が別で一緒にトレーニングなんてできねーじゃねーか。

不二咲も結構、ドジだよな」

 

そう言って、大和田君は、ダンベルを手に持つ。

 

「大和田君、遅れてごめんよぉ~」

「なッ!?」

 

その最中、ちーちゃんが更衣室に入ってきた。

それを見て大和田君は慌てる。

 

「お、お前!?どーやって入ってきたんだよ。確か入るには男子の電子生徒手」

「そのことなんだけど・・・うッ」

 

言葉の途中、ちーちゃんは額を抑え、ふらついた。

 

「大丈夫か、不二咲!?」

 

大和田君はチーちゃんを抱きとめる。

 

「あ、えーとよぉ、こ、これはその・・・」

 

ちーちゃんを片手で抱き締める形になった大和田君は顔を真っ赤にして慌てる。

 

「ごめんねぇ・・・ボク・・・昨日から寝てなくて」

「マジかよ・・・!?だったら、トレーニングは中止した方がいいな。部屋まで送るぜ」

「ううん。今日じゃなきゃ、今じゃなきゃいけないんだ。変わるのは、今しかないんだ」

「不二咲?」

「大和田君に・・・最初に聞いて欲しいんだ。実は・・・ボクは・・・男の子なんだ」

「なるほどな、男だったのか。まあ、とりあえず部屋に・・・男・・・はぁ・・・?」

 

 

はあああああああああああああああああああああああああああああああああ~~~!?

 

 

その真実を知って、大和田君は私と同様、絶叫に近い悲鳴を上げた。

 

「男ってアレか・・・俺と同じ・・・男!?」

 

混乱し、再度確認する大和田君にちーちゃんは恥ずかしそうに頷く。

そして、ちーちゃんは語る。自分の過去を。

 

「・・・だから、オメーはそんな格好してんのか」

 

大和田君はその話を真剣に聞いた。

集中するあまり、まだ片手にダンベルを持ったままで。

 

「でもよぉ・・・オメー、何でそんな秘密、俺に打ち明けたんだ?」

 

大和田君の表情が暗くなった。

 

「それはオメーがどうしても知られたくなかった秘密だろう?

そんな格好してまで、隠し通してきた秘密なんだろう?なら・・・なんでだよ?

なんで、自分から話すことができんだよ」

 

その瞬間の大和田君の表情はまるで縋るかのようだった。

それはまるで答えを求めているかのような・・・そんな表情だった。

 

「・・・変わりたいんだ。君みたいに・・・大和田君みたいに、ボクは・・・僕は強くなりたいんだ!」

 

まっすぐな瞳でちーちゃんは答えた。

 

「この絶望の中、僕は震えることしかできなかった。

でも、僕を勇気づけてくれたあの子は・・・僕の友達は、それでも前に進むと言ったんだ。

震えるほど怖くても・・・それでも、家族や友達とか、大切な人達を守るため、

希望を信じて進むって・・・そう言っていたんだ。

だから、僕も変わりたい!変わらなくちゃいけないんだ!」

 

きっとその友達とは、私のことだ。

違うんだ・・・違うんだ、ちーちゃん。

全部、嘘だったんだ。

私は、ただ格好をつけたくて、聞こえのいいことを言っただけなんだ・・・。

 

「ずっと君に憧れていたんだ。僕も大和田君のよう強い男になりたいんだ!」

 

スクリーンの中のちーちゃんは言葉を続ける。

それを大和田君は無言で聞いていた。

 

「大切な人を守れる力が欲しい。もうこれ以上・・・嘘をついて生きたくないんだ!」

 

その瞬間、大和田君の表情が変わった。

 

「テメーそれは俺に対する当て付けか・・・?」

「え・・・?」

「俺が弱え・・・て言いてえのかよ」

「ぼ、僕はただ、大和田君に憧れて・・・」

 

大和田君の変化にちーちゃんは動揺する。

 

「ああ、俺は強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!強い!」

 

大和田君はあの言葉を唱え始めた。

その目には狂気が映る。

嫌な予感が奔った。大和田君の手には、あのダンベルがまだ握られていた。

 

「大和田君!僕は・・・うッ」

 

ちーちゃんが再び、ふらついた瞬間だった―――

 

「俺は誰よりも強ええ!兄貴よりもだぁああああああああ~~~ッ!!」

 

大和田君はダンベルを振り上げた。

 

(や、止め―――)

 

 

   “ガッ”!!!

   

 

 

叫び暇すらなかった。鈍い音が響く。

 

「ハア、ハア、俺は・・・俺は何をした・・・?ふ、不二咲!不二咲~~~ッ!!」

 

正気に戻った大和田君は、倒れているちーちゃんを抱き起こした。

 

「しっかりしろ!不二咲!俺は・・・俺はなんてことを・・・うぉおおおおおおおお!!」

 

大和田君が何度呼びかけても

、揺らしても、さすっても、ちーちゃんが反応することはなかった。

即死だった。

大和田君の悲痛な叫びの中、VTRは幕を閉じた。

 

「自分の弱さを乗り越えようとする不二咲の強さに俺は嫉妬した。

まるで自分が否定されたように聞こえたんだ。

それで頭が真っ白になって、気づいた時に俺は不二咲を・・・。

俺はアイツの勇気に嫉妬したんだ。

それもただの嫉妬じゃねー。ぶっ壊れた嫉妬だ」

 

消え入りそうな声で大和田君はその時のことを語った。

 

 

ぶっ壊れた嫉妬か・・・

 

そうか、それでちーちゃんは死んだのか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなくだらないもので・・・ッ!

 

 

 

私は大和田君を・・・いや、大和田を見る。

大和田が自白した後も、私はそれを信じることができなかった。

言葉では信じることができなかった。

それを幸せな思い出が妨げたから・・・私は信じたくなかったのだ。

だが、私は見てしまった。

大和田がちーちゃんを殺す瞬間を見てしまった。

その光景をこの目に焼き付けてしまった。

もはや、私の中には、好意をもっていたクラスメイトの大和田君は存在しなかった。

私は目の前の大和田紋土という殺人鬼を見下す。

 

(コイツがちーちゃんを・・・)

 

体が焼けるように熱い。

“憎しみの鎧”はより重さを増し、これ以上、もはや耐えることができない。

私の全神経は、視界の先にいる大和田に注がれる。

かつて経験したことがないほどの集中力を感じると同時に、頭がぼんやりする。

視界が時折、白くなり、気を抜くと意識を失ってしまいそうになる。

 

「ああ、もう全て終わりだ!モノクマ、さっさと俺を殺せ!」

 

そんな中、大和田の声が聞こえてくる。

 

「きょ、兄弟!落ち着くのだ!」

「放せ!もう全部、どうでもいいんだよ!」

 

処刑を前にして、大和田は悪態をつく。

コイツは・・・一体、何を言っているのだ・・・?

頭が酷く重かった。ヤツの声が遠く聞こえた。

 

「俺は兄貴との“漢の約束”を守れなかったんだ!だから、もうどーでもいいんだよ!」

 

オトコノヤクソク・・・?

 

コイツは何を言ってるんだ。

そうじゃない・・・そうじゃないだろ。

 

お前がしなければいけないのは―――

 

 

 

 “ふざけんじゃねーぞ、大和田~~~!!”

 

 

 

誰かの声が聞こえた。

 

「なんてことしたんだよ!てめー、なんてことしてくれたんだよ!!」

 

その声は耳元ではっきり聞こえた。

 

「壊れた嫉妬だぁ!?そんなもん知るかよ!そんなことで殺されてたまるかよ!」

 

クラスメイトの誰かが大和田に罵声を浴びせた。

ぼんやりとした頭の中、その声はよく通っていた。

 

「何が兄貴だ!約束だ!そんなもの理由になるかよ!ふざけんな!」

 

超高校級の“暴走族”相手に・・・日本一の不良を相手に、

その声の主は、恐れることなく罵声を浴びせる。

スゴイ勇気だ・・・。

その怒りの声は心地よく私の中に響いた。

 

「お前が殺した。全部・・・お前が悪い!真実から逃げ続けたお前の弱さが悪いんじゃないか!

言い訳するんじゃねーよ。

そうだ!お前が悪いんだ!全部お前のせいだ!お前は生きてちゃいけないんだ!」

 

その声の主は私の言いたいことを代弁してくれた。

誰だろう・・・この声、どこかで聞いたことが・・・。

 

「あの子は・・・勇気を出したのに・・・真実を話したのに・・・返せ!私の友達を返せ!」

 

ああ・・・

 

違う・・・この声は・・・

 

 

 

「ちーちゃんを・・・私の友達を返せ~~~~~~ッ!!」

 

 

 

この声は・・・私だ。

 

私は叫んでいたのだ。

大和田を憎み、恨み、怒りのあまり気を失いそうになって・・・

その最中、私は無意識に叫んでいたのだ。

泣きながら、鼻水を垂れ流しながら、私は大和田に全ての憎悪をぶつけていたのだ。

 

「せめて・・・謝れ・・・!ちーちゃんに謝れ!」

 

搾り出すようなその最後の言葉が、私が本当に言いたかったことだ。

お前が謝るのは、兄貴じゃない、ちーちゃんだって。

それだけは、どうしてもコイツに言いたかった。

 

大和田は呆然とした表情で私を見ていた。

 

「・・・へ、へへ・・・確かに・・・そうだな」

 

自嘲気味に笑い、大和田はそう呟いた。

 

「そんなことが・・・わからねーなんて・・・俺は、どんだけ焼きが回ってたんだ。

チビ女・・・いや、黒木。オメーの言う通りだ」

 

大和田はふらりと数メートル歩き、何もない場所に膝をついた。

 

「不二咲・・・お前は勇気を出して、俺に真実を告げたのに、俺は逃げちまった。

お前の勇気から・・・真実から俺は逃げた。俺は・・・弱い。誰よりも弱かった。

俺の弱さが・・・お前を殺したんだ」

 

大和田はまるで目の前にちーちゃんがいるかのように語りかけた。

大和田はもう私達が見えていなかった。

きっと大和田は、幻想のちーちゃんに語りかけているのだ。

 

「お前に、許してもらえるなんて・・・思ってねーけどよぉ・・・

ただ、“けじめ”だけは取らさせてもらうぜ!」

 

そう言って、大和田は両手を床につけ、頭を高く持ち上げた。

 

「うぉおおおおおお!すまねえ不二咲~~~~~!!」

 

“ガッ”と鈍い音が室内に響いた。

大和田は土下座する形で、頭を硬い床に叩きつけた。

何度も・・・何度も・・・

床がひび割れるほど、強く・・・強く。

 

「すまねえ不二咲!すまねえ~~~~~ッ!!」

 

懺悔の言葉を叫びながら、大和田は頭を打ち付ける。

その額は割れ、鮮血が顔を染める。

もはや、それは明らかだった。

死ぬ気なのだ。

大和田はこのまま死ぬ気なのだ。

その声を前に、誰もが声を出せずにいた。

その覚悟を前して、誰も大和田を止めることができなかった。

ただ、裁判所に、大和田の叫びと鈍い衝突音が響いていた。

 

 

 

 

 

 

「ヒ・・・ヒヒ」

 

 

 

 

 

―――愉悦が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

私は慌てて口を塞ぎ、涙を拭うふりをして、手で顔を隠した。

苗木君に・・・今の私の表情を見られたくなかったのだ。

手の隙間から大和田の顔を見る。

絶望に染まった大和田の表情を凝視する。

 

ああ・・・なんて愉しいのだろう。なんて爽快なのだろう。

そうだ!これだ!私が見たかったのはこれなのだ!

絶望の中、死んでいくクロの姿・・・これこそ私が見たかったものだ!

私が望んでいた姿だ。

ざまあみろ!この人殺しめ!存分に苦しむがいい!

 

心配そうに私を見つめる苗木君の視線を感じる。

 

ゴメンなさい・・・ゴメンなさい、苗木君。

ずっと、私を励ましてくれた君が・・・

希望を信じる君が・・・今の私の顔を見たらきっと悲しむと思う。

今の私の心は、きっと君が望むものではないから・・・

でも・・・もう・・・ダ・・・メなの。

私は、この愉悦を抑えることができない。

君がいなかったら、私はきっと、腹を抱えて嗤い出していただろう。

 

私を食い入るように見つめる黒幕の視線をモノクマから感じる。

 

ああ・・・そうだ!お前の想像通りだ。

私は、今、とても愉しい!

他人の絶望がこんなに嬉しいなんて・・・こんなにも愉しいなんて知らなかった。

復讐の成就に私はこれまでの人生で経験したことがないほどの達成感を感じる。

大和田が死んだら・・・どうなってしまうのだろう?

予感がする。もう、私は・・・これまでの私ではいられないだろう。

 

そして、その瞬間が訪れようとしていた。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおーーーーーー」

 

大和田は頭を高く掲げた。

次の一撃で頭蓋骨を砕き、死ぬつもりなのだ。

 

復讐の成就は目前だった。

 

(やったよ!ちーちゃん!私はやったんだ!きっと、君もこれを望んで―――)

 

その刹那だった。

 

「やめろーーーッ!!」

「うぉお!?」

 

大和田の頭が床に激突する瞬間、

石丸君が横から、タックルのような形で大和田にぶつかってきた。

二人とも床に投げ出される。

 

「ちッ!」

 

私は露骨に舌打ちした。

 

「石丸!邪魔するんじゃねー!

も・・・もう、これしかねーんだ!俺が不二咲に償うのは、もうこれしかねーんだよ!」

 

錯乱したように大和田は叫ぶ。

ああ、まったくその通りだ。石丸め、余計なことを。

 

先に立ち上がった石丸は、大和田を見つめる。

私は苛立ちながら、石丸を睨む。

コイツはいまさら何のつもりなのだ・・・!?

お前だってソイツに騙されただろ!

裏切られて・・・殺されるところだったはずだ!

なのに、なのに、なぜ、まだ庇おうとするのだ!?

いつまで友情ごっこを続けるつもりだ、馬鹿め!

もう、ソイツは・・・大和田は死ぬしかないのだ。

懺悔して死ぬことが唯一救われる道なのだ。

それとも、お前がソイツを救うというのか?

お前のような優等生のお坊ちゃんが・・・?

 

“どんな時でも希望を信じろ”・・・とでもいうつもりか?

“どんな辛いことがあっても、死んではいけない”とか教科書通りの演説でもする気か。

 

 

そんなもので・・・

そんなものでこの“絶望”を覆すことが出来るかよッ!!

 

 

「兄弟・・・君が死ぬことが正しいなら、僕は止めない」

 

(え・・・?)

 

その言葉は私がまったく想定しなかったものだった。

 

「君が正しいなら・・・ああ、僕は止めない!

君の最後を見守り、親友として立派に喪主を務めてみせるさ。

だけど、君は間違っている。

だから、僕は止めたのだ。

君は再び、不二咲君に対して同じ間違いをしようとしているから・・・

だがらこそ、僕は君を止めたのだ!」

 

その声は、大きくはないが、どこか透き通って・・・

どんな政治家の演説よりも、はっきりと心に響いた。

なによりも、私の心を射止めたのは、ちーちゃんの名前だった。

 

(一体、石丸君は何を・・・)

 

 

石丸君は大和田に向かって語りかける。

 

「僕は・・・君や黒木君ほど不二咲君と親しかったわけじゃない。

だが、僕はいつも君達の側にいた。君達と不二咲君を見ていた。

だからこそ、はっきりわかるのだ。

そんなはずない!・・・そう、はっきりと断言できる。

 

僕は彼の笑顔を知っているから―――

 

思い出せ、兄弟!不二咲君の笑顔を!

 

みんなと笑い合い、あんなに素敵な笑顔ができる不二咲君が・・・

みんなを思い、あんなに優しい笑顔ができる不二咲君が・・・

最後まで希望を信じていた不二咲君が・・・

 

たとえ殺されたって・・・誰かの死なんて・・・望むはずないじゃないか~~~!!」

 

 

 

そうだろ・・・!兄弟!!

 

 

 

 

そうだろ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  黒木君―――!!

        

 

 

 

 

 

 

あ・・・

 

 

 

 

春風が吹き抜けた―――

 

 

 

 

舞い散る花びらにちーちゃんと私が映る。

 

 

“もこっち・・・!?”

 

      “もこっち・・・。”

 

             “もこっち~”

 

 

驚いた顔をしたちーちゃん。

少し怒って膨れ顔のちーちゃん。

廊下で私を見つけ、手を振るちーちゃん。

 

 

 

色とりどりの花びらに、色んな顔のちーちゃんが映る。

かけがえのない思い出が私の中を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

初夏の兆しのような眩しさに、一瞬、目を奪われる。

 

 

 

 

 

気づくと、光の中、目の前にちーちゃんが立っていた。

 

私を見て、ちーちゃんはにっこりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ・・・ああ。

 

 

 

 

 

 

あ・・・ああ・・・そう・・・だ。

 

 

 

 

 

 

あの輝くような時間の中・・・

 

 

 

 

いつも私の側にあったのは・・・

 

 

 

 

 

今も・・・私の心にあるのは・・・

 

 

 

 

 

ちーちゃんの―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “ひまわりのような笑顔”

          

          

 

 

 

 

 

ダ・・・メだ。

 

 

 

これだけは・・・ダ・・・メだ。

 

 

 

 

これだけは・・・できない・・・!

 

 

 

 

たとえ、私がどんなに大和田を憎み、恨んでも・・・

 

 

 

 

どんなにその死を願おうとも・・・

 

 

 

 

 

 

 

これだけは・・・ダメだ!

 

 

 

 

たとえ、悪魔に脅されようとも・・・

たとえ、それが神様の命令だとしても・・・

 

 

 

 

これだけは・・・嘘はつけない・・・偽ることはできない・・・!

 

 

 

 

だって・・・

 

 

 

 

だって・・・私は・・・

 

 

 

 

私は・・・ちーちゃんの―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   “友達”だから・・・。

           

           

           

           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん・・・そう・・・だよ。あの子は優しいから・・・

誰かが死ぬことなんて・・・復讐なんて・・・望んで・・・ない・・・よ」

 

 

そんなこと・・・わかっていたはずなのに・・・私は今まで一体、何を・・・

 

“憎しみの鎧”が剥がれ落ちた瞬間、体がスゥと軽くなり、パタンと膝が床に落ちた。

 

「あ・・・あれ?」

 

ぽたぽたと手に何かが零れ落ちた。涙が・・・頬を伝い、止め処なく零れ落ちる。

涙が止まらなかった。

 

 

 

 

そうか・・・終わったんだ。私の復讐は・・・。

 

 

 

 

「うぇ・・・うぇええん、うぇえええええん」

 

私は泣いた。

声を上げて泣いた。

友のために泣いた。

友を失った自分のために・・・ただ悲しくて・・・

 

私は泣いた。

本当の意味で・・・

ようやく・・・泣くことができたのだ。

 

「ありがとう・・・!ありがとう!黒木君・・・!」

 

目に一杯の涙を溜めて、石丸君が微笑んだ。

 

「兄弟!今度は君の番だ」

 

そう言って、石丸君は大和田の前に立つ。

 

「君は不二咲君の死に報いるべきだ。

憎しみと絶望に打ち勝った黒木君の優しい心に応えるべきだ。

ここから出た後、君はしかるべき場所で罪を償わなければいけない。

それにはきっと長い時間がかかるはずだ。

だが、君ならば、きっと戻ってこれるはずだ。

不二咲君が希望を与えるはずだった多くの人々に、君が希望を与えるんだ。

不二咲君の代わりに、君は君なりの方法で・・・君の才能でそれをやるんだ!

けわしい困難な道だけど、君なら出来る。

君が日本一の不良じゃないか!・・・超高校級の“暴走族”じゃないか!

根性だって、超高校級なはずだ!君ならきっとできる!」

 

石丸君は、大和田に向かって手を差し出す。

 

「今度は君の・・・いや、僕達の番だ!

僕は君をずっと待ってる。

君が戻ってくるまでに、君が活躍できる場所を用意して待ってるから。

言ったろ?

根性なら僕は君に負けないって。

僕だってやってやるさ!

僕達ならきっとできる。何度だってやり直せるさ!

ああ、そうとも!

きっと、僕達の才能は、誰かの希望のためにあるのだから!」

 

そう言って、石丸君はニカっと笑った。

 

「い・・・石丸」

 

大和田はその手を掴もうと、手を伸ばす。

 

うん・・・そうだ。これでいいのだ。

きっとちーちゃんもこれを望んでいたはずだ。

あの子が望んだのは・・・きっと“希望”なのだから・・・

 

(終わった・・・終わったよ、ちーちゃん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ねえ、もう終わったの?

 

 

 

 

 

 

それは、ゾクリ・・・などという生易しいものではなかった。

後ろから胸を貫かれ、心臓を抉り出されるかのような衝撃の中、私は振り返る。

 

 

裁判長席には、1匹の怪物が退屈そうに座っていた。

 

 

「いやいや、あまりにも退屈すぎて絶望しちゃったよ」

 

席から飛び降りたモノクマはテクテクとこちらに向かって歩いてくる。

 

「映画の上映前のCMがあまりにも長くて爆睡して起きたら、まだCMだった・・・

どうかな?その説明で少しはボクの絶望がわかってくれた?」

 

モノクマは欠伸をしながら、今までの私達やりとりを評した。

くだらない・・・そう言っているのだ。

憎しみと絶望を乗り越え、希望を選んだ私達を・・・

ヤツは心底そう思っているのだ。

 

「あーテンション下がっちゃったよ。時間も押してるし、さっさと殺るよ!」

「なッ!」

 

モノクマのその言葉に石丸君が絶句した。

殺るって・・・だって、私達はやっと許しあって・・・

 

「待て!待て!待て!待て~~ッ!」

「何だい石丸君?何か用?」

 

石丸君がモノクマの前に立ちはだかる。

 

「もう・・・いいじゃないか。これ以上の悲しみは・・・もうたくさんだ!一体、何の意味が・・・」

「はあ?意味だって?一々意味を求めるなんてそれこそ意味不明なんだけど!

・・・まあ、教えてあげるよ」

 

 

―――これは、全人類に対するおしおきでもあるんだよ。

 

 

「なッ・・・!?」

「うぷぷぷ、それとボクの楽しみというのが大部分を占めるけど」

「き、貴様~~」

 

モノクマが何を言ってるのか私にはわからない。

だが、これだけはわかる。

このままでは、また始まってしまう。

桑田君を殺した・・・あの恐ろしい“おしおき”が。

 

「石丸君~君こそどうしたんだい?

君が一番、ボクに賛成しなければならないはずなのに」

「な、なに・・・」

 

モノクマは石丸君を見て、嗤いを堪える。

 

「そこの殺人鬼も言ってたじゃないか。

超高校級の才能を持つものは、どんな時でも自分を貫く・・・てさ。

君は、超高校級の“風紀委員”だろ?

なぜ、ルール違反した大和田君を処罰しようとするボクの邪魔をするのさ?」

 

「なッ・・・!」

 

その言葉に石丸君は絶句する。

 

「誰よりもルールを守る。たとえそれが仮初のものだとしても。

だからこそ、君は希望ヶ峰学園から選ばれたんだ。

本当なら君が大和田君を処罰するべきだろ?

それとも不正しようというの?

うぷぷぷ、石丸君~君は誰よりも知ってるはずじゃないか。

不正して罪から逃れた男の末路がどんなものかを」

 

「う、うぁああ・・・」

 

石丸君の顔が見る見る青く染まっていく。

モノクマは悪意の塊のような論理で石丸君を追い詰めていく。

 

「へ・・・へへへ」

 

その光景を見て、大和田は観念したように力なく笑った。

 

「石丸・・・どうやらお前の“希望”・・・叶えてやれそうにねーな」

「きょ、兄弟・・・」

 

大和田は石丸君を見つめる。

その瞳にもはや、狂気はなかった。

まっすぐな・・・瞳だった。

 

「石丸・・・お前にまだ言ってなかったな」

 

少し間を置いた後、大和田は静かな・・・それでも心が篭もった声でその言葉を石丸君に言った。

 

「ありがとよ・・・こんな大馬鹿野郎を・・・最後まで庇ってくれて。

こんな俺を最後まで・・・兄弟と呼んでくれて・・・」

 

 

 

 

   ありがとよ・・・・“兄弟”!

      

      

      

      

      

「お、大和田君~~ッ!!」

 

最後の最後まで庇い続けた石丸君に。

ちーちゃんの笑顔を思い出させてくれた石丸君に。

希望の道を示してくれた親友への最後の言葉は・・・感謝だった。

 

「さあ、始めようか!」

 

モノクマが手を広げ、大和田君は静かに目を瞑る。

 

「待て!」

 

「超高校級の“暴走族”である

大和田紋土君のためにスペシャルなおしおきを用意しました!」

 

「やめるのだ!!」

 

「では張り切っていきましょう!”おしおき”ターイム!」

 

 

 

 

 

 

 

 

待て・・・待て!待て!待て!待て!待て!待て!待て!待て!待て!待つんだ~~ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       GAMEOVER

 

 

 

    オオワダくんがクロにきまりました。

    おしおきをかい―――ッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーッ!!!」

「ぴギャァアアアアアアアア~~~~~~~~~~~ッ!?」

 

 

 

 

 

 

―――!!?

 

 

 

 

 

直後、モノクマが床に激突する音が裁判所に響いた。

 

その光景に誰もが絶句した。

その光景を誰も想像できる者はいなかった。

 

それは決してありえない光景だった。

 

誰よりも暴力を嫌う彼が・・・

誰よりもルールを守る彼が・・・

拳を血に染めながら・・・

瞳に“覚悟”を燃やして・・・

 

 

 

あの超高校級の“風紀委員”である石丸君が―――

 

 

 

 

       

 

モノクマをぶっ飛ばした―――ッ!?

 

 

 

 

 

 

 




石丸、覚悟の一撃!学級裁判に波乱起きる・・・!!



【あとがき】

今回はついに2万字を超えました。記録更新です。
それ故に誤字脱字が酷いので、見つけ次第、直していきます。

今回は、2章の集約に位置づけられる話であり、
いつも以上の気合と共に、反面、描くことはできないのでは・・・?
とも考えてしまいました。
正直、書き上がるまで何度も直し、本当に苦労しました。
けれど、今回はどうしても書きたいことがありました。

大和田の不二咲に対する謝罪と、石丸への感謝。

原作・アニメで描写されなかったこの2つの課題をどうしても、
この作品を通して描きたいと思っていました。
原作をプレイして、その描写がないことに強い怒りを覚えたのを思い出します。

「お前が謝るべきは不二咲で、最後まで信じてくれた石丸に感謝するべきだ」

当時、それを強く思いました。

今回、それを実現するに当たって、大和田に憎しみをぶつけることができるキャラが
必要でした。それは、希望の才能を持つ、苗木では、どうしてもできないと感じました。
それは、凡人の感覚を持った親友でなくてはならない。
その役が、主人公であるもこっちでした。
しかし、憎悪は絶望を呼びます。
復讐に快楽を見出し、ある意味、“絶望の使徒”に堕ちようとする中、
それを止めてくれるキャラが必要でした。
それは、石丸しかいなかった。
最後まで友を信じることができる石丸というキャラだからこそ、
不二咲の笑顔と抱いた希望をもこっちに問うことができました。
もこっちと不二咲の友情が真であるからこそ、
その笑顔を思い出し、絶望に打ち勝つことができたと思います。

「今も・・・私の心にあるのは・・・」

このセリフが、もこっちと不二咲の友情の答えだと書いていて感じました。


また作品開始時には、原作の言葉しか話せないNPCのような石丸が、
これほど成長してくれたのが、作者としてはとても嬉しく感じました。

「ありがとう・・・!ありがとう!黒木君・・・!」

もこっちを信じ、報われたこのセリフにこそ、石丸の成長を見た気がします。

そして・・・覚悟の一撃w

調子に乗って、おしおき宣言をする最中、あのクマ野郎の顔面に拳をぶち込み、
阻止するシーンを想像して、いい気分になりました。
あの宣言を途中で止める展開を、新作で見てみたいものですね。

さて、次話ですが・・・絶望注意です。
今度は、ダンガンロンパのもう1つの魅力である
“絶望”を原作以上に表現することにチャレンジします・・・。

そして、それにあがらう希望のカケラも魅せたいと思います。

ではまた次話で


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