私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第1章 イキキル (非)日常/非日常編
第1章・自由時間1時限目


希望の学園生活。それは一転、絶望の学園生活に変わった。

その事実を前に、私達16人は困惑の表情を浮かべ沈黙していた。

“誰かが裏切るかもしれない”その疑心暗鬼により、誰もが口を開くことはできなかった。

場を絡みつくような重苦しい空気が支配する。

それを壊したのは、その場にふさわしくないあの陽気で愉快な声だった。

 

「あ、ゴメン。忘れてた」

 

床が“ウィーン”と音を立てながら開き、再びあのクマ畜生が姿を現した。

 

「ゴメン、ゴメン。これを渡し忘れてた。はい、電・子・生・徒・手・帳~。この学園の生徒手帳です。カッコいいでしょ?電子手帳は学園生活に欠かす事の出来ない必需品だから、絶対なくさないようにしてね!起動時に自分の本名が表示されるから確認しておいてね」

 

モノクマは笑いながら私達に「電子生徒手帳」とかいう生徒手帳のようなものを配り歩く。

みんなは躊躇しながらも、それを受け取る。

こいつに何かしようものなら、いつ爆発するともわからない。

ならば、出来る限り刺激しないのが賢明と判断したのであろう。

実際、私は先ほど、その被害者第一号になりかけた。クソ…大和田め。

 

「ちなみにその電子手帳は完全防水で水に沈めても壊れない優れもの!耐久性も抜群で10トンくらいの重さなら平気だよ!詳しい“校則”もここに書いてあるので、各自、じっくりと読んでおくよーに!ではでは、今度こそサヨナラ」

 

「…」

 

愛らしく手を振りながら再び床下に消えていく人外。

その姿を私達は無言で見つめるしかなかった。どうやら、床のいたるところに奴の出現ポイントが設計されているようだ。

 

本当に希望ヶ峰学園なの…ここは…?

 

遅まきながら私はそれに対する疑念を持つ。

つまりだ。ここは学園ではなく、どこか別の場所ではないのか。

私達が気を失っている間に、あのモノクマを操っている奴が私達を別の場所に拉致したのではないだろうか。

それならば、あの玄関ホールの謎が解ける。

いくら希望ヶ峰学園といってもあんなものが短時間で作れるわけがない。

だが、ここがまったく別の場所であるのなら理屈は通る。

しかし、そうであるならば、私は現在、正体不明の変質者に監禁されているという状況になる。最悪である。ぶるっと悪寒が全身を駆ける。

 

「それで、これからどうする気?」

 

その言葉に私は顔を上げた。

再び場を支配する重苦しい空気。それを打ち破ったのは、彼女の無愛想な一言だった。

 

霧切響子さん。

銀髪のロングヘアーのクールでミステリアスな女の子。その美貌はあの舞園さやかさんと比べても遜色はない。私達の中で唯一才能がわからない“謎”の超高校級。

 

この最悪といえるこの状況の中で、初対面から今に至るまで、変わることなき冷静な表情でその言葉を放った。

 

「このまま…ずっと、にらめっこしている気なの?」

 

棘のある言葉だった。

彼女の棘のある言葉は、その場の全員に向けられていた。

だけど、その棘の痛みは、私達を現実へと引き戻した。

 

「そうだな、確かにそうだ!怖かろうと不安だろうと、歩を進めなければならぬ時がある!

そんな簡単なことを忘れるなんて、僕は自分が情けない…誰かボクを殴ってくれないか!僕は自分が許せないんだ!頼むから誰か僕を殴ってくれッ!」

「騒いでる暇があるなら、さっさと体を動かせや」

「しかし、具体的にどんなミッションを…?」

「バァーカ!逃げ道を探すに決まってんじゃん!」

「ついでに、あのふざけたヌイグルミを操ってるヤツを見つけて、袋叩きっしょ!」

 

堰を切ったというか、現実に戻ったみんなは一気にまくし立てる。

石丸君が涙を流し、マゾみたいなことを言って、それを大和田君が呆れている。

デブの山田君の質問に、桑…君が怒りながら回答し、江ノ島さんが物騒なことを言う。

本来なら、大人しくしていられるような連中ではない。

逆に言えば、やっと本来のペースが戻ってきたということか。

 

「でもさぁ、その前に、電子生徒手帳っていうのをみておこうよぉ…動き回る前に、モノクマが言っていた“校則”を確認しておいた方がいいと思うんだ…」

 

騒ぎ始めたみんなを前に、不二咲さんがオドオドしながら提案する。

本当にカワイイなこの子…身長は私と同じくらいかな。家に置いておきたいな…ウヒヒ。

 

「いいですわね。ルールも知らずに行動して、さっきのように“ドカン”となってしまったら困りますものね」

 

そう同意しながらセレスさんは冷笑する。こちらは、棘というよりも、毒かな。カワイイ外見とは裏腹に、近寄り難い何かを感じる。

 

「チッ…」

 

(チッ…)

 

その張本人である大和田君が舌打ちし、その態度を見て、私は心の中で舌打ちした。

 

「じゃあ、さっそく校則とやらを確認しよか」

 

江ノ島さんの声を合図とするかのように、私達は各自で電子生徒手帳とやらの起動ボタンを押した。

 

「黒木智子」

 

windowsのような起動音が鳴った後に、画面には私の名前が表示された。

モノクマの言った通り、ここには、持ち主本人の名前が表示されるようだ。

 

(…ん?)

 

私はふと顔を上げると、セレスさんが画面を凝視し、不愉快そうに顔をしかめていた。

彼女のだけ起動しないのかな?まあ、いいや、と私は「校則」の項目をクリックする。

 

校則

 

① 生徒達はこの学園だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。

② 夜10時から朝7時までを“夜時間”とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう。

③ 就寝は寄宿舎エリアの個室のみで可能です。

④ 希望ヶ峰学園について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。

⑤ 学園長ことモノクマへの暴力は禁じます。監視カメラの破壊を禁じます。

⑥ 仲間の誰かを殺したクロは“卒業”となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。

⑦ なお、校則は順次増えていく場合があります。

 

「ざけんな、何が校則だ!そんなモンに支配されてたまっかよ!」

 

大和田君の声で私は画面から顔を上げる。見ると、他のみんなも顔を上げ、一様に渋い表情を浮かべている。

 

「あの…ちょっといいですか…」

 

その消え入りそうな声は舞園さんのものだった。

 

「校則の6番の項目なんですけど、これってどういう意味だと思いますか?」

 

私は校則の画面の⑥を凝視する。確かに、私も気になっていた。

 

「後半の『他の生徒に知られてはならない』の部分だよね?」

「…卒業したいのなら、誰にも知られないように殺せという事だろう」

 

苗木の指摘に対して、御曹司の十神君が、恐ろしい事実をさらりと口にする。

 

「な、なんでよ…どうして?」

「そんな事、気にする必要はない。与えられたルールは守るもの。お前らは、それだけ覚えていればいいんだ。愚民め、他人に決めてもらわねば何も出来ないお前らが、偉そうに疑問などを口にするな」

 

怯える腐川さんに、そして私達に向かって十神君は平然とそう言い放った。すごいキャラしてるな、この人。やっぱり、本物のお坊ちゃまだから、私達とは常識が違うのかな。

 

「…グッとくるわね」

 

(グサッと…じゃねーのかよ!?)

 

頬を赤らめ雌の顔になる腐川さんに、私は心の中でツッコミを入れる。

いや、私も乙女ゲーとかでイケメンに罵倒されるのは好きだけど、空気考えようよ。

 

まあ、とりあえずだ。

私達のこれからの行動は以下の3つに絞られることになるだろう。

 

 

① 逃げ道を見つけ出して全員でこの建物から脱出する。

 

私の一押しだ。正直、ここがどこで、一体何者に拉致監禁されているのかわからない今の状況から一秒でも早く抜け出すには、この選択が一番妥当に違いない。相手は、私達を爆殺することに何の躊躇もないサイコ野郎だ。いつ考えが変わるとも限らない。

それに、校則④にあるように、探索は自由なようだ。これを利用しない手はない。

 

② 警察が来るまで大人しくここで生活する。

 

次点といったところか。この建物は至るところが鉄板で塞がれ、監視カメラが目を光らせている。正直、簡単に脱出できるとは考えにくい。校則④は逆に考えれば、脱出させない自信があるが故のものと推測できる。ならば、警察が来るまで大人しく暮らすというのも悪い手ではない。私達が拉致されて、まだ数時間ではあるが、明日には、両親や学園関係者が事態に気づき、警察に連絡するはずだ。そして、3日から長くて1週間以内には、モノクマとそれを操る黒幕?が警察に連行される姿を目の前で見られるかもしれない。

 

③ モノクマのいうように、仲間の誰かを殺して…

 

イヤイヤ…そんな物騒なことを考えるな私!

ただでさえ、みんな不安からナーバスになっているんだ。今、そんなことを考え、暗くなっては危ない奴と思われ警戒されかねない。それこそ、モノクマの思う壺だ。

 

「とりあえずさ、殺人がどうとかバカげた話は置いておいて、これで、校則もわかった事だし、そろそろ学園内を探索してみようよ!」

 

赤いジャージがトレードマークの朝日奈さんが両手を握り、気合を入れる。

 

「ここはどこなのか?脱出口はないのか?食料や生活費はあるのか?僕らには、知らなければならない事が山積みだ!」

「うぉっしゃあ!さっそく、みんな一緒に探索すんぞー!」

 

朝日奈さんに呼応し、みんなが声を上げる。その様子を見て、私はほっと胸を撫で下ろした。どうやら、みんなは①を選択してくれたようだ。

 

そうだ。ここから脱出するには、みんなが一丸となって――

 

 

「…俺は一人で行くぞ」

 

 

私はズッコケそうになった。

みんな一丸となって脱出する…その流れを、根本からへし折ったのは十神君だった。

 

(ちょ、ふざけんなよメガネ!)

 

私は心の中で毒を吐いた。

ここは、流れ的に乗っておくべきだろ!何、根本から引っくり返してんだコイツは…?

 

「はぁ!?どうしてよ!流れ的におかしくない?」

 

私の心を代弁するかのように、江ノ島さんが十神を睨む。

 

「すでに他人を殺そうと目論んでいるヤツが、この中にいるかもしれないだろ。そんな奴と一緒に行動しろというのか?俺は自分の思った通りに行動させてもらう」

 

誰もが知っていながら口に出そうとしなかった最悪の可能性を平然と述べた後、十神白夜は背を向け歩き始めた。

それを唖然と見つめる私達。その中で一人の生徒が声を上げた。

 

「待てコラ…んな勝手は許さねぇぞ」

 

大和田紋土―――超高校級の“暴走族”

 

日本最大の暴走族の総長であり、私達の中で最も危険な男だ。

つい先ほども、私を爆殺しかけている。

もはや、大和田“ザ・ボマー”紋土といっても差し支えないほど危険な男である。

その大和田君が、拳をボキボキとならしながら、十神君も前に立つ。

 

「…どけよ、プランクトン」

 

だが、十神君は、超高校級の“御曹司”である十神白夜は、この暴力の化身を前にしても、なお、その余裕を崩さない。それどころか、冷笑した後で、そのセリフを吐き捨てた。

 

「ああッ!?どういう意味だッ!?」

「大海に漂う一匹のプランクトン…何をしようが、広い海に影響を及ぼす事のないちっぽけな存在だ」

「…ころがされてぇみてーだな!」

 

事態はあっという間に一触即発に発展してしまった。

二人の様子を私を含め、みんなは固唾を呑んで見ていた。

こんな状況において、私は弟の智貴の言葉が頭に浮かんだ。

 

 

超高校級なんて奴らは基本自己チューの集まりだぞ

 

 

要約するとこうだが、まさにそれが最悪の形で目の前で起こりつつあった。

大和田君が暴力が得意なのは、見ればわかるが、十神君も、御曹司らしく、護身術か何かを習っているのか腕に覚えがあるようだ。どっちも引きそうにない。

この状況を監視カメラのモニター越しにあのモノクマが笑いながら見ているだろう。

 

(何やってるんだよ、これだから男は…)

 

私は、心の中で毒を吐いて強がるのが精一杯だった。

私に彼らを止める力なんてないし、声を出す勇気だってない。

私は面倒に巻き込まれるのが嫌いであり、怖い。

だから、今まで、そういう場面に遭遇した時は、出来る限り関わらない事に終始した。

かっこ悪いのはわかっている。

だけど、他のみんなだって同じじゃないのか…!誰だって、自分が一番かわいい―――

 

「あぁ?なんだオメェ…今、キレイごと言ったな?そいつは説教かぁ?俺に教えを説くっつーのか!?」

 

大和田君の怒鳴り声で、私は事態が変化したことに初めて気がついた。

一人の生徒が仲裁に入り、逆に大和田君の怒りを買ったようだ。

 

「るっせぇっつ!!」

 

その言葉の直後、大和田君は仲裁に入った生徒を殴り飛ばした。

生徒の身体は、漫画のように派手に吹っ飛ばされ、床に叩きつきられた。

 

私は、その生徒を…彼のことをよく知っていた。

もちろん、クラスメート全員のことを私は知っている。

だが、彼に関しては、最も因縁深いといっていい。

彼は私が実際会う前から嫌っていた生徒。そしてこの学園で初めて会った生徒。

仲裁なんて損な役回りを引き受けた不運な生徒。

 

それは―――苗木だった。

 

 

「な、なんで―――!?」

 

私は思わず声を出してしまった。

それは、この事態が私にとって、まったくの想定外だったからに他ならなかった。

私の中のイメージとして凝り固まった苗木誠という人間は決してそのようなことをする人間ではない。自分が持っている“幸運”というスキルに驕り高ぶり、あらゆる手段を講じて、“不運”から逃げようと目論み、有利な方につくコバンザメのような奴だった。

少なくとも、私はそう信じきっていた。

だけど、現実の苗木は、仲裁のような損な役を自ら買って出た挙句、日本一の不良のパンチをまともに喰らい、無様に伸びていた。

その姿は、とても超高校級の“幸運”を体現する人間にはあまりにも遠い姿。

はたして、苗木は本当に“幸運”なのだろうか?

いや、むしろ自分の知らない内に抽選なんかで、人生の進路を決められた挙句、正体不明の変質者に私達と一緒に監禁される現状を考慮すると、幸運の正反対、“不運”という言葉がしっくりくる。

 

もしかして、アイツ、超高校級の“不運”なんじゃね?

 

そう思うと、何かアイツが可哀想になってきた。

よくよく考えたら“誠”なんて包丁に刺されそうな名前からして幸運なわけがないのだ。

お、何か親近感が沸いてきた。

私が、苗木を嫌いなのは、はっきり言えば“幸運”ただ一言に尽きる。

それがなくなったら、苗木のことは別に嫌いではないのだ。

それどころか、少しくらいなら話してやっていい気がしてきた。

 

私が苗木に対して哀れみを通り越して、優越感を感じ始めた時だった。

 

 

「ハアァッ―――ッツ!!」

 

 

気合の一閃ともに、大気が振動する。

これを気というのだろうか、それとも覇気とでもいうのだろうか?

その一声は空気を通して、私達の身体の内部までビリビリと振動した。

みんなは、一斉にその発生源に目を向ける。

そこにいたのは、文字通り“人類最強”。

 

大神さくら――超高校級の“格闘家”だった。

 

「これ以上、続けるならば我が相手になろう」

 

そう言って、大神さんは、大和田と十神の前に立つ。

 

「…き、今日はこのくらいで勘弁してやんよ」

 

捨て台詞を吐いた後、大和田君は、さくらさんから目を背けた。

心なしかリーゼントが萎れている。

本当に、こんな漫画みたいな台詞いう奴がいるんだな…。

 

「…フン」

 

大和田君と同時に十神君も目を背けた。

その表情は相変わらず冷静沈着であるが、胸の前で組んだ腕がかすかに震えている。

2人の超高校級は一瞬にして、生物レベルにおける敗北を喫したのだ。

 

(大神さん…彼女がいるなら、だれも喧嘩を起こせないだろうな)

 

私は、少し上空からそんな事を考えていた。

え…?なんで空に浮かんでるんだ!って?

ああ、それはね…私がさくらちゃんの真横にいたからだよーん☆

あはは、衝撃波もろに喰らっちゃて、エクトプラズム状態になっちゃた。

やべ、早く実体の方に戻らなきゃ。

 

「苗木誠殿が、息してないでござる」

「ほえ~完全に気絶してるね」

 

私が実体に戻るとみんなは苗木の元に集まっていた。

 

「とにかく、彼を安静にさせなければ」

「すまねえ、ついカッとなっちまって…」

 

石丸君が大げさに脈を計り、素に戻った大和田君が申し訳なさそうにしている。

 

「あら、どうやら寄宿エリアがあるようですわ」

 

セレスさんは電子生徒手帳を手に持っていた。私も電子生徒手帳の画面を開くと、どうやら1Fエリアには私達の個室があるようだ。

 

「苗木君をそこに連れて行きます!」

 

そう言って、苗木の腕を肩にかけたのは意外なことに舞園さやかさんだった。

超高校級の“アイドル”はどうやら、性格のよさも超高校級らしい。

だけど、彼女の華奢な身体では、男である苗木を一人で運ぶには無理がある。

そう思っていると、一人の候補者が鼻の下を伸ばしながら立候補してきた。

 

「舞園!俺も手伝っちゃうぜ!」

 

あれは、チャラ男の桑…原君?

 

「ありがとうございます。でもドアを開けるのにもう一人くらい必要ですよね…」

 

キョロキョロ辺りを見回す彼女と私の目が合う。

 

 

「黒木…さん?ですよね。よかったら、手伝ってくれませんか?」

 

 

そう言って、彼女はお茶の間を席巻した超高校級の“アイドル”の笑顔を私に向けた。

 

 





字数が予想以上多くなってしまい、中途半端に区切りました。
まあ、”自由時間”だから、多少は・・・ね。

よって、自由時間は3時限に増えました。あしからず。

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