私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第2回学級裁判 前編①

文豪・芥川龍之介の作品に『蜘蛛の糸』という短編がある。

 

ある日、お釈迦様が蓮池の近くを散歩しているところ、

蓮池の下の地獄で大泥棒・カンダタが苦しみもがく姿を目にする。

この男は、生前、殺人や放火をはじめ、あらゆる悪事を働いてきた悪人だった。

その悪人も、ただ1つだけ善行を行ったことがあった。

道端の蜘蛛を踏み殺さずに逃がしたことだ。

その善行に免じ、お釈迦様は、この悪人にチャンスを与えることにした。

天国へと繋がる”蜘蛛の糸”を悪人の頭上に垂らしたのだ。

 

中学も終わりという頃に、

私はこの短編について親友のゆうちゃんと話したことがあった。

 

「この程度の善行で蜘蛛の糸もらえるなら、私なら、エレベーターくらいもらえるよ!」

 

ドヤ顔でそう語る私に対して、ゆうちゃんは

 

「もこっち・・・そもそも地獄に堕ちちゃダメだよ」

 

と困ったように笑ったのを思い出す。

 

・・・話を短編に戻そう。

 

頭上に舞い降りた蜘蛛の糸を見た悪人は喜び、その糸を掴み夢中で昇り始めた。

必死に昇り、疲れきった悪人は休憩を取ることにした。

今いる場所は、ちょうど天国と地獄の真ん中辺りだろうか?

あと少しで、この地獄から脱出できる・・・喜び、ふと下を見た瞬間、悪人は固まった。

なんと他の罪人達も蜘蛛の糸を昇ってきていたのだ。

その数はどんどん増えている。このままではその重さに耐えかね、糸が切れてしまう。

 

悪人は叫んだ!

 

「お前ら、降りろ!この蜘蛛の糸は俺だけのものだ!」

 

その瞬間、蜘蛛の糸はプツリと切れて、悪人は悲鳴を上げて再び地獄へと堕ちて行った。

その姿を見たお釈迦様は悲しみ、蓮池から離れていく。

 

それが『蜘蛛の糸』という作品のだいたいのあらすじである。

 

この話を読み終えた後、私は・・・そして多くの読者は思ったはずだ。

 

 

 

あの時、悪人が余計なことを言わなければどうなっていたのだろうか――――

 

 

 

その答えは、作者とまさに神のみぞ知ることだろう。

 

エレベータから出た私は、ふとそんなことを思いながら、裁判所へと足を踏み入れた。

 

「皆さん、慣れてきたようですね。先生は嬉しいです!」

 

無言で自分の席に座る私達を見て、裁判長の席に座るモノクマは満足そうに頷いた。

どこまでもふざけたヤツだ。

私達は慣れたのではない。諦めたのだ。

もはや泣こうが喚こうが、この裁判を止めることはできない。

それはあの第1回学級裁判で、これ以上ないほど痛感した。

そして・・・なにより、今回の裁判は私が心底望んだものだ。

 

ちーちゃんのカタキを討つのに・・・クロを処刑するのにこれ以上の舞台はない。

 

「では水を刺すのもアレなので、さっそく始めますか!

生き残るのは、シロとクロの二つに一つ。賭けるのはオマエラの命。

どちらが希望を掴むのか、どちらが絶望するのか、心行くまで殺り愛ましょう!」

 

 

 

 

 

――――学級裁判“開廷”!!

 

 

 

 

 

小槌(ガベル)の音が響く中、再び学級裁判が幕を上げた。

 

「・・・・・・・・・。」

 

例によって、皆は沈黙したままだ。

自分の命を賭けた、まるで針地獄のようなプレッシャーもそうだが、

なにより、最初の発言により、この裁判の流れが決まる。

ならば、不用意な発言をすることができない。

皆がそう思っているからこそ、この沈黙が生まれたのだ。

 

ここで動くことができる人間は2種類しかいない。

 

前者は前回の裁判での霧切さんのように、

クロの正体を見破り、論破するためのプロセスの第1歩とする用意周到で理知的な人物。

 

そして後者は・・・

 

 

「わ、私、わかったから・・・!こ、今回のクロが誰かわかったんだから!」

 

 

そう、こんな風に明らかにその場の勢いで発言しようとする不用意な馬鹿しかいない。

その馬鹿・・・腐川冬子は、半ば発狂しながら声を荒げている。

 

(・・・なんだコイツは?)

 

それ以外の感想が出なかった。本当になんなのだ?コイツは。

第1回の裁判では、完全に地蔵と化していた腐川。

いつも日陰でウジウジジメジメとしているコイツが、まさか開幕を飾るなんて・・・。

一体どういう風の吹きまわしだろうか?風邪なのだろうか?

しかし、馬鹿は風邪を引かないはず・・・う~ん。

腐川に対する罵倒はほどほどにして、私は真面目な考察に入る。

 

腐川は一体、どうしたというのだろう・・・?

少し前の朝日奈さんの言葉が頭を過ぎる。

 

「腐川ちゃんが・・・腐川ちゃんが変なの~~~!!」

 

確かに、今日の腐川はちょっと変だ。

普段から明らかに変な腐川がちょっと変というのを他人に伝えるのはなかなか骨が折れるが、

普段のアイツを知る私から見れば、今日のヤツはやはりちょっと変だ。

具体的に言うなら、今の発言がそうだ。

極端ともいえるほど人見知りで注目されることを嫌うアイツならば、

たとえ犯人を知っていても、よほど追い詰められない限り、発言しようとはしないはず。

実際に、腐川は皆の視線を受けて、顔面をピクピクと痙攣させ始めている。

私も注目されるのは苦手だから、今のアイツの気持ちが少しはわかる。

だからこそ、なぜアイツがこんな行動をとったのか理解に苦しむ。

やはりちょっと変だ。

なんと言うか、いつも以上にアイツから猜疑心を・・・そして焦りのようなものを感じる。

私がそんなことを思っていた時だった。

 

 

「こ、今回のクロは・・・ズバリ、黒木、アンタよ!!」

 

 

腐川は私を指差し、高らかに宣言した。

 

うぇええええええ~~~ッ!!?・・・とこれが第1回学級裁判なら

叫んでいたが、今回はそんなリアクションをとってやるわけにもいかない。

 

今の私のテーマは「凍てつくほどの冷静さ」。

 

この程度でその誓いを破るわけにはいかない。

なにより、前回とは違い、

私は自分が今回のクロの最有力候補である、という自覚を持ってここにいるのだ。

 

「霧切が言ってたわよ!アンタがあの夜、不二咲と会っていたって!」

 

鬼の首を獲ったかのようにはしゃぐ腐川を無視し、視線を霧切さんに送る。

霧切さんと目が合う。彼女もこちらを見ていたようだ。

そう、これは私達にとって想定内だった。

 

私がちーちゃんに会った最後の人物であることを

彼女が他のクラスメイトに話すことを私は了承している。

表向きの理由は、みんなの推理のための情報公開。

これで少しでも、クロを追い詰められるなら安いものだ。

だが、本当の目的は別にある。

この情報は、裁判の前半になんとしても出しておきたかったのだ。

 

「キィィ~~喪女のくせに、何シカトこいてんのよ!それとも図星だから!?そうなんでしょ!」

 

ギャーギャーとうるさいので、仕方なく視線を腐川に戻す。

額に大量の汗を浮かべ、ドヤ顔で私を見下ろす隣の馬鹿は果たしてどちらなのか?

 

シロであるならば、まだ女の私をクロだと思っているということは・・・

それは殺人現場の入れ替えトリックを見破れなかったことを意味する。

その程度の推理力なら、これから先、クロを追い詰めることはできないだろう。

もし・・・クロであるならば、あの時の桑田君のように私を犯人に仕立て上げようと画策するはず。

 

後者の可能性を考え、私は身構える。

これから展開される腐川の推理によって、この学級裁判の流れは決まるのだ。

 

 

「これが事件の真相よぉおおお~~~ッ!!」

 

 

変なポーズを決め、腐川がクライマックス推理を展開する。

 

「黒木ィ~そもそもアンタは偶然、不二咲に会った、というのは嘘よ!

あの夜、女子更衣室に不二咲を呼び出した人物こそ、アンタなのよ」

 

女子更衣室にちーちゃんを呼び出す私の絵が映る。

腐川の私に対する偏見が反映されているのか、その顔は恐ろしいほど邪悪だ。

というか、不細工に描きすぎだろ!?誰だよこれ!

 

「そして、アンタは不二咲の隙をついて、ダンベルを振り下ろした」

 

血まみれのダンベルを舐める私の絵が現れる。

完全にホラーなんですが、それは・・・。

 

「アンタはこの犯行をジェノサイダー翔の犯行に見せるべく、偽装工作を行ったのよ!」

 

ちーちゃんを磔にし、壁に『チミドロフィーバー』を描く私が現れる。

あ~絵が気になりすぎて話に集中できない。

ヤツは普段からどんな風に私のことを見ているのだ!?

しかし、本番はここからだ・・・!

クロである私は一体、どんなトリックを使い、犯行を隠蔽するつもりな・・・

 

「以上よ!」

 

なるほど、以上か・・・え?

 

「以上よ!」

「ん、んん~~?」

 

再度、ドヤ顔でクライマックス推理の終結を宣言する腐川に対し、私は頬に汗を流す。

 

(トリックのトも字もなかったのですが、それは・・・)

 

え、まさか本当にこれで終わりなの?

あ、あの・・・これ、学級裁判ですよね?

 

あの登場人物達の思惑が入り乱れ、熾烈を極めた第1回学級裁判を思い出す。

苗木君に罪を着せるべき、部屋の入れ替えを行った舞園さん。

桑田君は超高校級の”野球選手”の才能を生かし、証拠の隠滅を行った。

私も桑田君にクロに仕立て上げられそうになり、霧切さんに助けられ、

様々な偶然の重なりの中、ついに桑田君の犯行を論破した。

 

・・・それと比べて、これは一体何なのだろう?

ただ呼び出して殺しただけじゃねーか!?

よくよく絵を見直すと、私は邪悪な上にさらに馬鹿そうな顔をしている。

ちーちゃんもどこか抜けているような顔をしている。

この事件の登場人物、馬鹿しかいない・・・?

 

私だけでなく、周りにも微妙な空気が立ちこめ始める。

心なしか、トンボが飛んでいるような気がする。

 

「カクン、カクン、ハッ!」

 

裁判長の席では、モノクマが居眠りをして、「あ、ヤバッ」という顔をして起きた。

なんというグダグダ。

裁判開始時の緊張は、腐川によって、完全に破壊された。

 

「どうやら私の完璧な推理に絶句しているみたいね、黒木!そうなんでしょ!?」

 

絶句、というより、空いた口が塞がらない、だ。

あーあ、コイツの推理?なかったことにして、仕切り直せないかな・・・。

 

「この犯行の最大の肝は、不二咲が簡単に呼び出しに応じたことよ!」

 

私の無視を降参と誤解し、腐川はさらに雄弁に言葉を続ける。

 

「モノクマの言葉を聞いて、私は核心したわ!

黒木、アンタは、この時のために不二咲に近づいたのよ!

そ~よ、アンタは、この時のために不二咲と友達の”フリ”をしてたのよォオオ~~!」

 

「はあ?」

 

ヤツのその言葉で、私は顔を上げた。コイツ・・・さっき、何と言った?

 

「アンタと不二咲が友達になったと聞いた時は耳を疑ったわ。

だけど、今なら納得できるわ。全部、演技だったんでしょ!

アンタはずっと、この機会を待っていたのよ!

甘ちゃんの不二咲がアンタを信頼して、二人きりになれるチャンスを。

露骨なくらいイチャイチャラブラブと友達アピールしていたのも、全部このため。

あ~イヤらしい!なんて恐ろしい女なの!」

 

悦に入りながら私を罵倒し続ける腐川を私は見つめていた。

ただ、じぃーと見ていた。

 

「え・・・ヒッ!?ヒィイイ~な、何なのよ、その目は!?」

 

私の視線に気づいた腐川は、悲鳴を上げた。

 

人には、決して触れてはいけない”柔らかい箇所”がある。

 

今の私にとって、それはちーちゃんに関する思い出の全てだ。

それを汚し、侮辱する者はたとえ、誰であっても許すことはできない。

冷静さの鎖はいとも簡単に断ち切れた。

まるで目に火が奔るような感覚に囚われ、私は腐川を憎悪の篭もった瞳で睨んでいた。

”憎しみの鎧”がより重さを増していく。

コイツがあと少し、余計なことを言おうものなら、

次の瞬間に、コイツの鼻先に隠し持ったハサミを突き立てることに何の迷いもなかった。

 

「な、なんて恐ろしい目をするの・・・コイツ、絶対、人を殺してるわ・・・!

やっぱり、黒木が犯人よぉおお!誰か!誰か警察を呼んでェエエエエエエエエエエエエエエ」

 

髪を掻きだしながら、腐川は絶叫した。

警察を呼べないからこそ、こんな裁判をやっていることも忘れて。

 

 

 

――――――それは違うぞ!

 

 

 

そのセリフに一瞬、苗木君の方を見てしまった。

だが、その暑苦しい声は苗木君のものではなかった。

このクラスにおいて、誰よりも暑苦しく、誰よりも真面目な彼が、、

質実剛健を体現する超高校級の”風紀委員”である石丸清多夏君が、

炎を灯したような瞳で、その言葉を放ったのだ。

 

「ヒィ、な、何よ、何なのよ、アンタは!?」

 

突然の乱入者に腐川の声が怯える。

私も石丸君の意図が読めず、ただ彼を見るしかなかった。

 

「会話を中断させて申し訳ない。

だが、君達の会話を聞いていて、どうしても一言いいたくなったのだ」

 

石丸君はその理由を語り始めた。

 

「まず今回の事件において、不二咲君を殺した憎むべきクロの正体・・・

僕も必死で捜査し、推理したのだが、まったくわからなかった!

力及ばず、本当に申し訳ない!」

 

しっかりと90度に頭を下げ、己が無力を謝罪する石丸君。

逆にこちらが居たたまれない気持ちになる。

 

「だから僕はクロがクラスメイトの誰かはわからない。

だが、これだけはわかるのだ。

黒木君が不二咲君を殺すことなど断じてない!黒木君はクロではない!」

 

石丸君は腐川を指差し、ヤツの推理?を完全に否定した。

 

「な、何よ、何を証拠にそんなことが言えるのよぉおお!?」

 

自慢の推理?を面と向かって否定され、腐川は絶叫する。

とても嫌だが、私も腐川と同じ感想だ。

私は、ちーちゃん殺害の最有力候補者。

その私をなぜ、無実と石丸君は断言できるのだろうか?

 

 

「証拠・・・それは、友情だ!黒木君と不二咲君の友情は嘘ではない!間違いなく本物だからだ!」

 

 

それはあまりにもシンプルな答えだった。

場がざわつく中、石丸君は語り始めた。

 

「舞園君が殺され、桑田君が処刑されたあの陰惨な学級裁判の後、僕達の心は荒みきっていた。

今度は誰が殺されるのだろうか?もしかしたら、自分が殺されるかもしれない。

いや、自分が助かるために、クラスメイトを手にかけてしまうかもしれない・・・。

疑念と不信感の中、皆が明日に希望を持つことができない・・・そんな時だった。

朝の食堂で、黒木君と不二咲さんが席を隣にして、笑い合っているのを見たのは。

 

こんな絶望の中でも、人は人を信じることができるものなのか・・・!

 

彼女達の笑顔は、僕の荒んだ心に吹き抜けた春風のようだった。

彼女達の築いた友情はまるで荒野に咲いた一輪の花のように、

クラスのみんなの心を和ませてくれたのは、みんなも覚えているはずだ。

黒木君も不二咲君も、きっと気づいてはいなかったと思う。

だが、君達のおかげで、もう一度、僕もそして、みんなも人を信じることを・・・

もう一度、希望を信じることができるようになったのだ」

 

石丸君は私の方を見て、笑う。

優しい笑顔だった。

私はちーちゃんと一緒にいられるのが嬉しくて、

周りのことなど、気にも留めていなかった。

だから、石丸君の話を聞いて、驚いたと同時に少し嬉しかった。

 

「黒木君と一緒にいた時の不二咲君はいつも笑っていた。

学園に監禁された時からずっと、怯え、

泣きそうな表情を浮かべていた彼女が黒木君といる時はいつも嬉しそうに笑っていた。

本当に、自然に。見ている僕が思わず微笑んでしまうほどに。

黒木君といる彼女の笑顔は本当に素敵な笑顔だった。

あの笑顔を黒木君が与えたものだ。

黒木君に邪な考えがあったなら、あんな素敵な笑顔を与えることはできなかったはずだ。

あの不二咲君の笑顔こそ・・・黒木君と不二咲君の友情が本物である証明なのだぁああ!!!」

 

「ぎぃ、ギィヒヒ~~~~ッ!!」

 

石丸君が放った言弾は、腐川の右肩を打ち抜いた。

 

「い、石丸君・・・」

 

ちーちゃんのあの”ひまわり”のような笑顔が頭を過ぎり、

私は、言葉を詰まらせる。

 

「誰がなんと言おうと、彼女達の友情は本物なのだ!なあ、兄弟!」

 

石丸君は大和田君に賛同を求める。

 

「・・・ああ、不二咲とチビ女の友情は本物だ。俺達が保障するぜ」

 

腕を組み、瞼を閉じながら、大和田君は静かに頷いた。

 

「お、大和田君・・・」

 

その言葉に涙がこぼれそうになった。

石丸君と大和田君。

いつもいがみ合い、喧嘩していた彼らは、ちょうど私達と同じ時期に友達になった。

そのために、私は彼らに親近感を覚え、時折、彼らのことを見ていた。

楽しそうに笑いあう石丸君と大和田君の笑顔に、

ふと和み、微笑ましい気持ちになったのを思い出す。

その彼らが私達のことをそんな風に思ってくれていたことは、心の底から嬉しかった。

イカン・・本当に泣きそうだ。

ダメだ。涙はクロを倒した時にとっておくのだから。

 

 

「腐川君!君は友情を築いたことがないから、そんなこともわからないのだぁ!!」

 

「ギィヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」

 

(あ・・・)

 

石丸君の言弾・・・というか禁句は、腐川の心臓を打ち抜いた。

 

「この熱血馬鹿!よくも私の一番気にしていることを言いやがって~~~ッ!!」

 

図星を突かれて、腐川は金切り声を上げる。

 

「なんでよぉおお~~なんで黒木ばかり友達ができるのよぉおおおおお!!

江ノ島も不二咲もなんで黒木みたいな暗くジメジメしたのと仲良くなるのよぉおおお!

どうして私には誰も・・・一体、何が違うのよぉおおおウビャオオオオオオオオオオンンンン!!」

 

その直後、腐川は机に顔を埋め、泣き始めた。

泣く・・・というより号泣だった。

腐川のその姿を見て、ゆうちゃんと友達になる前の自分を思い出す。

友達を作ったら、人間強度を弱まる・・・などと強がっていたが、

本当は、寂しくて、人恋しくて。

いつも側で笑ってくれる友達ができることを祈っていた。

中学を卒業して、ゆうちゃんと離れて、この学園に閉じ込められて・・・

昔のように乾いてしまった私の心を癒してくれたのは、

やはり、盾子ちゃんやちーちゃんといった友達の存在だった。

彼女達と友達になれたのは、偶然なのか運命なのか私にはわからない。

だけど、彼女達と出会わなければ、

私も今、目の前で泣き伏せる腐川のようになっていたかもしれない。

 

 

腐川はいつかの私なのだ。

 

 

そんなことを思った後、

私は、やはり汚い泣き顔だなぁ・・・と思いながら腐川の醜態を眺めていた。

 

ああ、本当にこの席、嫌だな。

空いているなら隣の席に移動していいですかね?

どうせ、誰の席かもわからないようだし。

 

「え、えーと、あの~事件の話に戻っていいですかな?」

 

いたたまれない空気の中で、山田がシドロモドロに提案する。

私達も、

 

あ、う、うん・・・。

 

という感じで、意識を事件の推理へと戻す。

 

「皆さん、さっきから”ジェノサイダー翔”て言ってますが、

ジェノサイダー翔とは巷で有名なあのジェノサイダー翔ですかな?

確かに不二咲千尋殿の殺害現場には、『チミドロフィーバー』という

意味不明な血文字が描かれていましたが

あれがジェノサイダー翔と何の関係があるのです?

まさか我々の中に、ジェノサイダー翔がいる・・・なんてことはないでしょうな?」

 

山田の言葉はある意味正論であった。

それは、ジェノサイダー翔の情報を知らない者の当然の感想。

私だって、部屋の入れ替えトリックは解いたものの、

未だに、ジェノサイダー翔に関する謎が解けていない。

この謎が事件を解く上での最大の障壁。

この裁判はこの謎に向かって流れていくだろう。

 

 

 

――――――そのまさかだ。

 

 

 

その声に全員が振り返った。

総毛立つように私の全身に緊張と敵意が奔る。

 

そこにいたのは、この事件の真の最有力容疑者。

 

 

超高校級の”御曹司”十神白夜が傲慢な笑みを浮かべていた。

 

 

「なかなかいいことをいうじゃないか豚よ。その通りだ」

「ふぇええ!?な、なんのことですかな?」

 

さらりと山田への罵倒の言葉を口にする十神。

山田もスルーする。驚き、それどころではないようだ。

最有力容疑者の登場により、場がざわつく。

私だけでなく、みんなも十神を不信を込めた瞳で見つめている。

捜査の過程において、いつもどこかイラついていた十神が、

鼻歌を歌いそうなほど上機嫌であったこと・・・その異様さを見ていたようだ。

 

十神は怪しい・・・それはもはや全員の共通認識となっていた。

 

私は息を殺し身構える。

この十神の言葉により、学級裁判の流れは決定するのだ。

 

「現場に被害者を磔にし、『チミドロフィーバー』の血文字。

これはジェノサイダー翔の犯行を示す特徴だ。

ここで重要なのは、この情報は、警視庁の関係者しか知らない極秘事項ということ・・・」

 

そう言って、十神は私達、全員を見渡した後、その一言を放った。

この裁判の流れを決める一言を。

 

 

 

   「そう・・・不二咲千尋を殺したジェノサイダー翔は・・・この中にいる!」

 

 

 

                  !?

 

有名探偵の孫が放つような十神のそのセリフにより、学級裁判は濁流へと飲み込まれた。

 

 







十神は(まだ)強い!


【あとがき】
お久しぶりです。
今回は8000字ほどです。
中途半端なところで前編を区切ることになりますが、
クロの正体を論破するまでに2万字ほどになりそうなので、
個人的には、長すぎるのは好ましくないと判断し、
中途半端なシーンで区切りことになり、結果、金田一になりましたw
最後のシーンは、金田一の絵で脳内再現して頂けると助かります。
あの絵での山田と朝日奈が想像できないw
十神はまさに明智警視そのままだけどw

今回は、腐川と十神の準主役?中心となりましたが、
この裁判は、やはり、もこっち、不二咲、石丸、大和田の4人の物語です。
個人的には、2章で一番成長してくれたのは、石丸です。
構想当時は原作通りのNPCでしかなかった彼が、
ある意味2章の中心となるほどに成長してくれました。
私は基本、遅筆ですが、この裁判に関しては、そのおかげでかけたようなものなので
時にはメリットもある、と本気で思っています。
次回で、前編は終了させ、中編以降は、字数を無視して、描き切ろうと思いますので
時間がありましたら、是非、読んでください。

【残姉こと戦刃むくろについて】
今期放送中のダンガンロンパ3 -The End of 希望ヶ峰学園- 絶望編にて
ついに我らが残姉こと戦刃むくろがシャァベッタァァァァァァァ!!という事態が発生しました。
いちファンとしては、あの残姉が喋るのは、嬉しく感慨深いことですが、
2次作家として、自分が捏造した残姉と本物との乖離をどう埋めるか、という
ある意味深刻な悩みが発生しました。
第5話時点での考察ですが、

本物は江ノ島に対する溺愛と、自分が殺されることに関して恐怖を抱いていません。

私の捏造では、愛と恐怖と姉としてのプライドが複雑に入り混じって、
いつか殺されることを覚悟していた、と、言った感じで、性格以上に本質が違います。

第4章の終わりに描く予定だった
「イマワノキワ/戦刃むくろ」では、奇しくも残姉の帰国のシーンがあり、
空港で命掛けで培った自信を全て江ノ島に打ち砕かれるという話があります(ネタバレ)

まあ、はやい話「イマワノキワ/戦刃むくろ」はお蔵入りとなるかもしれません。
う~ん、とにかく今は書くことはできないw

まあ、原作は全てあり、原作は光の源。2次作品はどこまでいっても影に過ぎません。
それでも、少しでも面白いと感じて頂き、さらに原作を好きになって頂けたら
それこそ、2次作家としての本懐です。

ではまた

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