私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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週刊少年ゼツボウマガジン 後編③

あの感触は今もはっきりと覚えている。

 

黒歴史の暴露の件で苦悩していた私は、

まるで夢遊病患者のように、いつの間にか、

自分の部屋を出て、ここ女子更衣室に足を踏み入れていた。

本来であるならば、生徒手帳がなければ入れないここ女子更衣室。

誰かに便乗し、入ろうものならば、

ドアの上についてあるマシンガンで蜂の巣にされてしまう。

今思えば、ゾッとする。

あの時、もしかしていたら死んでいたかもしれなかったのだ。

開けっ放しのドアから入ったことがルールに該当しなかったのか、

それともあのマシンガンは脅しのためだけの存在だったのか、よくわからない。

なにはともあれ、私は女子更衣室に入り、そして”何か”にぶつかり転倒した。

その瞬間、私の脳裏を過ぎったのは、山頂に鎮座する巨大な岩だった。

 

驚き見上げた私の前にあったのは、人類最強の背中。

 

そう、私は超高校級の”格闘家”大神さくらさんにぶつかってしまったのだ。

トレーニング中でも十分すぎるほど迷惑なのに、

あろうことか彼女は休憩し、ドリンクを飲んでいる最中だった。

私がぶつかった衝撃でドリンクは、彼女の手を離れ、そのまま落下。

カーペットを黒く染めた。

怯える私に大神さんは優しかった。

怒るどころか、逆に私の身を案じ、汚れた床の掃除を始めた。

その時に初めて私は、大神さんの見かけとは正反対の優しい人柄を。

そして、”プロティンコーヒー”なる奇怪なドリンクの存在を知った。

コーヒーとプロティンの粉が混じった黒い液体が、

カーペットに広がっていく様子を思い出す。

 

あの後、”アレ”はどうなったのだろうか?

大神さんがいくら念入りに掃除しても残ってしまったはずだ。

モノクマに専門業者なみの除去技術がない限り、”アレ”はカーペットに残るはずだ。

 

 

―――あの、プロティンコーヒーの”シミ”は。

 

 

今の今まで忘却の彼方へと消えていたこの事実は、

ちーちゃんの瞳から目を背けた時に、

あの霧切さんの言葉が脳裏に響いた時に、はっきりと思い出した。

 

真実とは日常の中にこそある。

そう、真実は身近なところに落ちていたのだ!

 

そこからは頭ではなく、体が動いた。

苗木君の声を背に、私は男子更衣室に走った。

更衣室のドアを開けた私は、食い入るようにカーペットを見渡す。

ここしかなかった。

そして・・・”アレ”はやはりここにあった。

 

あのプロティンコーヒーの”シミ”が。

 

『日常』

霧切さんのアドバイスが全てのきっかけになった。

この言葉を意識しなかったら、気づくことはなかっただろう。

壁のポスターを見る。

そこには、見覚えがある”男子”アイドルグループの写真が載せられていた。

はたして健全な男子の更衣室にこれはふさわしいのだろうか?

モノクマの趣味がアッー!という可能性は捨てよう。

私はこのポスターを以前、女子更衣室で見ている。

だが、さきほど見た時は、女子更衣室には、

返り血を浴びた”グラビアアイドル”のポスターが貼ってあった。

 

カーペットのシミ

ポスターの違和感

 

この2つの証拠が導き出す答えは1つしかない。

 

 

「一体どうしたの!?黒木さん」

「苗木君、霧切さん・・・見つけた!私、見つけたよ!」

「え?」

 

「大神さん!大神さんを呼んでから説明する!」

 

心配そうに声をかける苗木君に私は興奮しながら答える。

証人が必要だった。

私の推理の裏づけとなる証人が。

幸い、大神さんは現場の近くいた。

 

「うぬ、確かにこれは、我のこぼしたプロテインコーヒーのシミだ」

 

状況は掴めず、怪訝な顔をしながら、大神さんは証言した。

その証言だけで十分だった。

 

「殺害現場の入れ替え。そう言いたいのね?黒木さん」

 

腕を組みながら、壁に背を預けていた霧切さんが私に言葉を投げた。

私はその言葉に大きく頷いた。

 

ここ男子更衣室こそ、真の殺害現場だったのだ。

 

クロはここでちーちゃんを殺害し、

血染めのカーペットとポスターを女子更衣室のものと入れ替えたのだ。

舞園さんの部屋の交換とは、また違う発想。

クロは、犯行現場そのものを入れ替えようとしたのだ。

恐ろしいトリックだ。

だが、これを論破したことで、クロの正体に大きく近づくことができた。

犯行現場が男子更衣室ならば、ドアを開けるために”男子”の生徒手帳を必要となる。

 

クロは男子の生徒手帳を所持する者。

 

―――つまり、犯人は男子だ。

 

そして、それ以上に、より残酷で恐ろしい事実が浮かび上がる。

恐怖と怒りのあまり身体が震える。

クロの殺害動機が判明したのだ。

そうか・・・そういうことだったのか。

心の底から納得した。ヤツはそれが狙いだったのだ。

 

クロは――ー

 

 

「クロは・・・ちーちゃんを“ビィーーー”しようとしたんだよ!!」

 

 

「え・・・!?」

 

突如、放った私の言葉に苗木君が絶句する中で、私は”クライマックス推理”を展開する。

 

 

男子更衣室前で合流するちーちゃんとクロの映像が映し出される。

体を鍛える指導してくれるトレーナーをちーちゃんが

探していることを偶然知ったクロは言葉巧みにちーちゃんをかどわかし、

深夜、2人きりでトレーニングする約束を取りつけることに成功した。

クロは男子更衣室を電子生徒手帳で開き、ちーちゃんを招き入れる。

”直接指導してあげるよ”

その言葉の裏で下卑た笑みを浮かべながら。

男子更衣室には、マシンガンは取り付けられていない。

恐らく便乗で入っても特に問題がないのだろう。

部屋に入り、2人はトレーニングを始める。

頬に汗を流し、トレーニングに打ち込むちーちゃん。

その表情をほんのり赤みがさし、実に色っぽい。

クロはその姿をダンペルを上げながら、食い入るように盗み見ていた。

興奮に従い、ダンベルを上げるスピードがどんどん速くなっていく。

その成果なのか体中のあらゆる筋肉が急速に固くなっていく。

そしてちーちゃんの白いうなじを見た瞬間、

人の皮を脱ぎ捨て獣と化したクロは、

その目的を実行しようとちーちゃんに襲い掛かった。

”レスリングの練習かな?”

何が起こったのかわからず

そんなことを思っていたちーちゃんも

ヤツの血走った目を見て、状況に気づき、必死の抵抗を開始する。

予想以上の抵抗。

興奮していたクロは逆上し、近くにあったダンベルを持ち上げ振り下ろす。

殺すつもりはなかった。

あわよくば、気絶させようと目論んだのだろう。

だが、当たり所が悪かった。

予想外の殺人をしてしまったクロは慌てて殺害現場の隠蔽に乗り出す。

ちーちゃんの生徒手帳を奪い、女子更衣室のカーペットとポスターを入れ替える。

 

校則では”貸与”は禁止されている。

 

だが、借りるのは禁止されていない。

死体から奪ったと言い張れば、モノクマは喜んで許可するだろう。

さらにクロはこの殺人を

あの”ジェノサイダー翔”のせいにしようと偽装工作を行う。

笑みを浮かべるクロが

女子更衣室を出る映像を最後に”クライマックス推理”の幕は閉じる。

 

 

「“ビィーーー”だよ!クロの狙いは“ビィーーー”だったんだよ!

あのケダモノはカワイイちーちゃんを“ビィーーー”しようと狙って・・・」

 

「黒木さん・・・」

「黒木、お主は・・・」

 

“ビィーーー”を連呼する私を

苗木君が悲しそうな瞳で見つめ、大神さんが低く構えを取る。

 

いやいや、だってそんなこと言っても、もう“ビィーーー”しかないじゃないか!

あんなカワイイ子と深夜、密室で2人きりなんて

そんなシチュエーションに耐えられる男子高校生なんて存在するはずがないじゃん!

女の私だってドキドキしそうなのに。

もう絶対“ビィーーー”だよ!クロの狙いは“ビィーーー”だ!“ビィーーー”

 

「落ち着きなさい、黒木さん。

あなた舞園さんの時も同じ理由で苗木君を犯人とした推理をしていたわよね。

その発想から離れなさい」

 

「え、何それ!?僕が!?舞園さんに“ビィーーー”!?え、ええ~~!?」

 

興奮する私に霧切さんが諭すように語りかける。

逆に苗木君は霧切さんの言葉を聞き、顔を青くする。

 

「今回に限ってはその可能性はないわ。

いや、たぶん・・・というかあったらいろいろと不味いわね」

 

「えーでも~」

「いいからとりあえず、その発想を捨てなさい」

 

どこか言葉を濁す霧切さんに私は渋々だが従う。

なにがいけないのだろう。

これ以上の動機はないではないか。

 

「でも、殺害現場の入れ替えは・・・あなたの推理は正しいと思う。お手柄よ、黒木さん」

「う、うん。え・・・?」

 

え、今、私・・・

 

  霧切さんに褒められた―――!?

 

 

あまりにも自然な流れだったので、素で答えてしまった。

だが、それは本当に起こったことだった。

私は、あの霧切さんに推理で褒められたのだ。

両手を握り締め、体の震えを必死で押さえる。

その震えは、恐怖でも怒りからでもなかった。

 

嬉しかった。

 

私の人生で今ほど必死になったことはなかった。

これほどまでに真剣になったことはなかった。

だから、彼女の一言が。

たとえ、それが、彼女にとって特に意味を持たないものだとしても。

私には本当に嬉しかったのだ。

 

霧切さんのお墨付きをもらった私の推理は、クロの正体に大きく近づいた。

クロの正体は男子の中の誰か。

これで容疑者を一気に半数に減らすことができた。

 

私の脳裏に”邪悪な男達”のシルエットが浮かび上がる。

 

 

「ブヒヒヒヒ」

 

一際大きな影から超高校級の”同人作家”いや”性獣”山田一二三が姿を現した。

コイツがちーちゃんをいやらしそうな目で見ているのを私は何度も目撃している。

三次元に手を出す度胸もないだろうと放置していたが、あまりにも迂闊だった。

ヤツはアニメや漫画のヒロイン達のエロい絵を描くことのみで成り上がってきた男。

クロの目的がエロ目的ならば、コイツほど犯人にふさわしい人物はいない。

深夜、小動物のようなちーちゃんと二人きりという状況の中、

ヤツが二次元の枠を飛び越えて、三次元に襲い掛かってもなんら不思議ではない。

 

「へへへ」

 

次に姿を現したのは、超高校級の”占い師”いや”亡者”葉隠康比呂。

金の亡者であるコイツは、

エロ目的というより、若くして成功したちーちゃんの資産目当てだろう。

この男なら脅迫するため

ちーちゃんの恥ずかしい写真をとろうと犯行に及んだとしても十分納得できる。

 

そして最後は・・・

 

「探したぞ、苗木。ここにいたのか」

 

クロの正体を考えていた私は、思考を止め、その声の方へ振り向く。

そこにいたのは、私が考えていた最後のクロ候補だった。

 

「ククク、俺の手を煩わすとは、本来ならば極刑ものだぞ」

「十神君・・・。僕に何か用?」

 

物騒なことを言いながら、傲慢な顔で笑う十神白夜。

それに対して苗木君は困惑の表情を浮かべる。

 

「喜べ。今回の捜査においてお前を助手に指名してやる」

「え、助手って・・・」

「貴様に拒否権はない。この栄誉を噛み締め、俺についてこい」

「え、ちょ、ちょっと待ってよ、十神君」

 

さっさと部屋を出ようとする十神の勝手な行動に、

苗木君はちょっとしたパニックに陥り、私や霧切さんの方を見る。

私もどうしていいかわからない。

何もいえず、ただオロオロとするしかなかった。

その様子を見た十神が私を嘲笑しながらその言葉を放った。

 

「ククク、助手は苗木だけでいい。お前はこなくていいぞイモ虫」

「・・・。」

 

肩を揺らし、愉快そうに笑う十神。

 

私は・・・思い出していた。

十神の言葉を・・・コイツの乾いた笑みを。

 

十神白夜

超高校級の”御曹司”

学級裁判の真相を解いた3人の最後の1人。

アイツは・・・あの時、私に言った。

 

「そうだな・・・もう一人は・・・イモ虫、お前もこい!」

 

ヤツはそう言って、私をあの場所に招き入れたのだ。

一体何のために?

それはヤツを含めて3人の人間が必要だったからではないか・・・?

 

”死体発見アナウンス”に必要な3人の目撃者が。

 

苗木君の悲鳴が脳裏に蘇る。

ちーちゃんの死体を見て、薄れ行く意識の中で、私は見た。

私は・・・今、はっきりと思い出した。

 

 

十神があの乾いた笑みを浮かべながら私を見ていたことを。

 

 

私の脳裏で嗤うクロの笑みとあの時の十神白夜の笑みが重なりピタリと一致する。

自分以外の全てを見下す十神白夜。

コイツにとってクラスメイトの命など道端の小石ほどの価値もないだろう。

確かにコイツはちーちゃんのプログラマーの才能を高く評価していた。

だが、この学級裁判において、助かるのはただ1人だけ。

ならば、ヤツにとって利用価値を無くしたちーちゃんを殺すことに何の躊躇もないだろう。

 

私は今回のクロは、この十神白夜ではないかと思っている。

 

 

「大変!みんな、大変だよ~~!!」

 

 

十神の登場で場にある種の緊張が奔る中、

その雰囲気を壊すかのように騒がしい赤ジャージの女の子が飛び込んできた。

 

このクラスの元気印。

超高校級の”スイマー”である朝日奈葵さん。

彼女の尋常ではない慌てぶりから、何かが起きたことが容易に想像できた。

 

「朝日奈、落ち着くのだ」

「あ、さくらちゃん!」

 

親友である大神さんの姿を見て、

朝日奈さんは落ち着きを少し、落ち着きを取り戻した。

 

「あ、十神もいた!よかった~」

「ん?」

 

十神を指差し喜ぶ朝日奈さん。

それに対して、十神は怪訝な表情を浮かべる。

 

 

「十神、それにみんなも来て!腐川ちゃんが・・・腐川ちゃんが変なの~~~!!」

 

 

・・・その後、私達は、全員で腐川の部屋に向かって歩き出した。

 

朝日奈さんの話を要約すると

 

腐川が部屋に閉じこもり、十神に会わせろと喚き散らしてる・・・らしい。

 

(・・・なんだ、いつもの腐川じゃん)

 

これ以上ないくらい通常営業。私の知る腐川冬子だ。

 

むしろ”腐川ちゃんが・・・腐川ちゃんが普通なの~~~!!”

 

そう言われた方が遥かに緊急を要する事態に感じる。

それよりずっと変なのはやはり、十神白夜だ。

腐川のそんなしょうもない要求に対して、私の知る十神白夜なら

 

「フン、なぜこの俺が行かねばならんのだ」

 

と腐川の願いを一蹴するはずだ。

だが、ヤツは今回に限って、嬉々して私達に同行している。

今にも鼻歌を歌いそうなほど、上機嫌で。

 

(怪しい・・・!)

 

あまりにも怪しすぎる。

まるで、俺を疑え・・・そういわんばかりである。

この自信はなんなのだ?

完璧なアリバイやトリックを用意しているからなのだろうか?

 

そんなことを考えている内に、腐川の部屋の前に着いた。

 

「腐川ちゃん!開けて!」

 

朝日奈さんがドアをドン、ドンとノックする。

するとほんの少しドアが開き、腐川が顔を覗かせる。

 

「フーッ!フッー!」

 

腐川は追い詰められた子猫のような唸り声を上げる。

その顔は疑心暗鬼に支配されている。

なんだ、やっぱりいつもの腐川じゃん。

ありふれた日常の光景に私は、あっさりと興味を失う。

もう捜査時間がどれほど残されているかわからない中、

腐川など相手にしている暇はないのだ。

 

私が現場に戻ろうと、踵を返した時だった。

 

「と、十神様!ごめんなさい!ごめんなさい~~~ッ!!うぇえええんん~~~!」

 

十神の姿を見た腐川が発狂したような声をあげた。

腐川は今にも・・・というよりもう泣いていた。

私は、汚い泣き顔だなぁ・・・と思いながらその様子を眺めていた。

 

「ご、ゴメンな・・・さい。や、約束守れ・・なかった。で、でも・・・でも大丈夫!」

 

腐川は泣きながら言葉を続ける。

そして次の瞬間、信じられない一言を発した。

 

 

「これ以上、アイツの好きには・・・”ジェノサイダー翔”の好きには、私がさせないから!」

 

 

まるで刻が止まったかのような感覚に陥った。

 

(え、コイツ・・・今、何て言ったの・・・?)

 

ジェノサイダー翔・・・なんで、なんでコイツがその名前を!?

 

「腐川!今、なんて言――」

 

その刹那、頭より先に体が反応した。

私は、腐川に向かって走り出していた。

 

―――バタン!

 

だが、1歩遅かった。

ドアノブを掴む寸前、腐川がドアを閉めて、鍵をかけた。

 

「腐川!コラ!開けろ!オラァア!!」

 

私は無我夢中でドアを乱打する。

聞かねばならなかった。

なぜ、ヤツの口から、あの殺人鬼”ジェノサイダー翔”の名前が出たのかを。

 

「キー!黒木!アンタ、私がこんな状態だからって調子に乗りやがって!!

覚えときなさいよ!この喪女!も~じょ!!」

 

その捨て台詞を最後に、腐川は篭城を決め込んでしまった。

どんなにドアを叩いても何の反応もしない。

 

「ククク、クハハハ」

 

このやり取りを見ていた十神は高笑いしながら、この場から背を向け歩き始めた。

 

「また後で合流しよう」

 

その言葉を私達に残し、苗木君が十神の後を追う。

この後も、私は何度もドアを叩き、腐川を挑発し続けたが、

もはや何の反応もなく、私の声だけが空しく響いた。

 

「諦めなさい、黒木さん。これ以上は時間の無駄よ」

 

霧切さんのその言葉で、私は、後ろ髪を引かれながらも、再び現場に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

「き、霧切さん!ちょ、ちょっと待って!」

 

突如、走り出した彼女の後を私は必死で追いかける。

階段を降り、廊下を彼女の後ろ姿を見ながら、全力で走る。

 

きっかけは先ほどの朝日奈さんとの会話だった。

 

「実は十神を探してる時に、玄関ホールで意外なもの見つけたんだ」

 

廊下を歩きながら、朝日奈さんは私達に話しかける。

 

「さて、ここでクイズです!私は何を見つけたでしょうか?」

 

この緊急事態に何を言ってるのだ!と一瞬思ったが、

少し冷静になると、朝日奈さんらしいな、と考え直した。

元気なだけでなく、意外に気をつかえる人だ。

この緊張状態をほんの少しでも和まそうとしているのだろう。

 

「ウヌ・・・なんだろうな、我にはわからぬ」

 

大神さんが腕を組みながら思案する。

 

「ヒント!私達がいつも身につけているものだよ!」

 

大神さんの様子を楽しそうに眺めてながら、朝比奈さんがヒントを出す。

私達が、普段身につけている?

実は、私もこのクイズにチャレンジ中であるが、やはりわからない。

 

「電子生徒手帳ね。舞園さんと江ノ島さん、そして桑田君の」

「スゴイ!響子ちゃん、正解!」

 

意外な人が参戦してきた。

横でそしらぬ顔で聞いていた霧切さんが、あっさりと正解を持って行った。

そうか~電子生徒手帳か。

 

「玄関ホールの机の上の小さな引き出しを開けたら見つけたんだ!

電源入れたら、舞園ちゃんと江ノ島ちゃんの生徒手帳だとわかって、

なんか悲しくなっちゃって・・・というか、響子ちゃんもあれを見つけてたんだ」

 

「学級裁判の翌日には、あそこに手帳は置かれていたわ。

なぜあそこに置いたのか、よくわからないけど、おそらくは・・・」

 

そこまで言った後、彼女は言葉を止めた。

何を言おうとしたのかは気になるが、さすが霧切さんだ。

日々、熱心に捜査を続けているだけのことはある。

あの後、そんなことが起きていたのかぁ~。

 

「ほえ~響子ちゃんはスゴイな~!」

 

朝日奈さんも彼女の捜査能力に感嘆する。

 

「そっか~最後の1台は桑田のだったのかぁ~。

壊れて動かなくなってたから確認できなかったけど、他に該当する人いな・・・」

 

その瞬間だった。

まさに脱兎のごとく。彼女は走り出した。

一瞬、何が起きたかわからなかった私は、我に返り、急いでその後を追った。

 

「ハア、ハアハア」

 

そして現在、ここ玄関ホール前でようやく霧切さんに追いついたのだった。

 

霧切さんは、机の上の引き出しから3台の電子生徒手帳を取り出し、

次々に、電源を入れていく。

電子生徒手帳の画面には、

その所持者である舞園さんと盾子ちゃんの名前が表示される。

霧切さんは、3台目の・・・桑田君の電子生徒手帳の電源を入れる。何度も何度も。

だが、その画面に何か表示されることはなかった。

どうやら本当に壊れているようだ。

 

「壊れていなかったのよ」

「え・・・?」

 

「私が調べた時、この桑田君の電子手帳は確かに起動していたのよ」

 

霧切さんはそう言って、手帳を見つめる。

彼女の言葉が正しいなら、この手帳はその後、故障したことになる。

 

「た、たぶんだけど・・・あの処刑でのボールの衝撃で、時間差で故障が発生した・・・とか」

 

あの桑田君に向かって発射される何百発ものボールの光景を思い出し、気分が悪くなる。

あれだけのボールが当たれば、生徒手帳が壊れてしまっても仕方ない。

 

「ブブ~~不正解です!」

 

「なッ!?」

 

突如、頭上からあのクマ野郎の声が聞こえてきた。

どうやら私達の会話を盗み聞きし、絡んできやがったようだ。

 

「電子生徒手帳は象が踏んでも傷1つもつきません。

物理的に壊すのは、はっきり言って不可能です。

あ、でも、大神さんがいるか。

まあ、彼女が本気で殴れば、電子生徒手帳は粉々だけどね!プププ」

 

電子生徒手帳の頑丈さを自慢するモノクマ。

 

「そ、そんなこと言っても、壊れてるじゃん!」

 

だが実際に、目の前の電子手帳は壊れている。

 

「プププ、さあ~どうやって壊したんだろうね?プププ、プヒャヒャヒャ」

 

笑うだけ笑うとモノクマは、沈黙した。

あ~腐川といい、このクマ吉といい、自分勝手なヤツばかりである。

余計なストレスが溜まっただけだった。

 

 

「おやおや、意外な組み合わせですな、お二人さん」

 

 

その声に振り返った瞬間、私のストレスは最高潮となった。

 

「拍手あれ!希望ヶ峰学園のワトソンこと山田一二三、ここに参上ですぞ!」

 

容疑者候補”性獣”山田一二三が突如、現れたのだ!

 

「何だお前!何しにきた!?帰れ!!!」

 

「えぇええええええ~~~!?」

 

開口一番の私の怒声に、山田は大きく仰け反った。

 

「ちょ、ぼ、僕が何かしたのですかな!?黒木智子殿、何か怖いぞな」

 

殺気立つ私の様子に、山田はビクビクする。

私からすれば、この態度は当然だ。

 

犯人候補がわざわざ、接触してくる。

 

その目的は、真実から遠ざけるため。

私達の捜査を妨害するために決まっている。

私達が真実に限りなく近づいていることを野生の感で察して、妨害しに来たのだ。

この豚、やってくれる。だが、そうはいくものか!

 

「ワトソンを自称するということは・・・山田君、何か見つけたの?」

 

警戒する私とは反対に、霧切さんはいつもの調子を崩さない。

まあ、この人は平時においても隙などないから問題はないけど。

 

「さすが、霧切響子殿!話が早い!」

 

豚田・・・じゃない山田はガッツポーズを決め、飛び上がる。

 

「実は捜査していたら、こんな物を発見したのですよ!」

 

そう言って、山田はポケットから”ソレ”を取り出した。

 

「ジャジャーン!誰かの電子生徒手帳です!

壊れていますが、おそらくは、不二咲千尋殿の物だと思われ・・・」

 

「やっぱり、お前がクロだったのかぁああああ~~~~~~ッ!!」

 

「うえぇええええええ~~~!?」

 

山田が電子生徒手帳を取り出した瞬間、私の中で血管が切れる音がした。

ちーちゃんの電子手帳を持っている。

それはちーちゃんを殺して奪ったからに他ならない。

この豚!それを親友の私にわざわざ見せつけにきやがって!

このサイコパスが!望みどおり殺してやる!

 

「落ち着きなさい、黒木さん」

 

彼女は、飛び掛ろうとする私の頭を片手でがっしりと掴むと、

胸元に引き寄せ、抱き締める形で拘束する。

 

「ガルルルッ」

「どうどう」

 

興奮する私を、霧切さんは落ち着かせようと、まるで馬をあやすかのように頭を撫でる。

客観的に見ると、見知らぬ人に吠え立てるバカ犬とそれをなだめる飼い主のようだ。

屈辱的だけど・・・ちょっと落ち着いてきました。

 

「それをどこで見つけたの?」

 

「え、えーとサウナ室ですぞ。サウナがつけっぱなしになってたから

不審に思い、調べたら落ちていたのです」

 

山田はどもりながら説明する。

 

壊れたちーちゃんの?電子生徒手帳はサウナ室に落ちていた。

 

(どうだろう?お前が壊した後、サウナにあったことにしたんじゃないか?)

 

「ヒィ!?今日の黒木智子殿、やっぱり怖ええ!」

 

じぃーと睨む私を見て、山田は悲鳴を上げて逃げていった。

 

私達は、手帳が落ちていたというサウナ室に向かった。

たしかにあの豚の言った通り、サウナはかなりの高温でつけっぱなしとなっていた。

 

 

「そうか・・・あの人は”あの時”、この方法を知ったのか・・・」

 

 

意味深なことを呟いた後、霧切さんはサウナ室を出た。

私も、ここにいる意味がないので、彼女の後を追った。

 

その後、私達は、苗木君と合流すべく、現場である女子更衣室に向かった。

 

 

女子更衣室にはまだ苗木君は戻ってきていなかった。

私はちーちゃんの遺体の前で、霧切さんと2人で苗木君を待つことになった。

ここでただ時間が消費されていくのは、苦痛だ。

だが、闇雲に動いてもしかたのないのもまた、事実。

今は、苗木君が有力な情報を持ち帰ってくれることを期待するしかない。

 

「ただ、ここで苗木君を待っているだけでは、時間が惜しいわね」

 

珍しく霧切さんの方か話を切り出してきた。

 

「ねえ、黒木さん。あなた、不二咲君を検死する気はないの?」

「え・・・!?」

 

それは予期せぬ提案だった。

なんと霧切さんは、私にちーちゃんの遺体を検死することを提案してきたのだ。

検死というとあれですか・・・死体を脱がせてあちこち調べるやつ・・・。

 

「不二咲君の真実を知るには必要なことだと私は思うわ」

「う・・・!」

 

ある意味正論だった。

確かに殺人事件であるならば、本来必要不可欠な作業だ。

だが、それはプロの仕事であり、私はただの女子高生だ。

そもそも、そんなことができる霧切さんがおかしいのだ。

舞園さんを検死した時に、そのことに驚く山田に対して

 

「たかがパンツよ、靴下に手を入れた訳じゃないわ」

 

と表情を変えることなく言い放ったと聞いている。

それに・・・さっきからなぜ、ちーちゃんのことを

 

不二咲”君”などと呼んでいるのだろう?

 

石丸君じゃないんだしさあ・・・。

モノクマも学園長ぶって不二咲君と呼び始めたけど、

霧切さんまでかよ・・・。流行っているのかな?

今後そういうキャラでいくつもりとか・・・?

う~ん、霧切さん、なんていうか、こういうとこ残念なんだよな。

まあ、話を検死に戻そう。

正直私は迷っている。

私は、ちーちゃんの瞳を見ることすら耐えることができなかった。

そんな私にちーちゃんの体に触れることなどできるのだろうか?

その瞬間、泣き出してしまうのが怖かった。

今までの覚悟や決意が消えてしまうかもしれないのが恐ろしかった。

霧切さんはじぃーと私を見つめている。

彼女は私のことを怪しいと宣言した。

もしかしたら、彼女は私を試しているのかもしれない。

なら、何が正解でなにが間違いなのか・・・う~ん。

 

「・・・そういうことか」

 

ちーちゃんの遺体の前で悩む私を見ていた霧切さんが、納得したように頷いた。

 

「黒木さん、あなた不二咲君の”秘密”を知っているのね?」

「はぁ?」

 

「だがら、改めて調べる必要がない・・・そう言いたいのね?」

 

(え?何?一体、何の話・・・?)

 

霧切さんが何を言っているのかわからない。

ちーちゃんの秘密?それって一体・・・

 

「あなたは不二君と誰よりも親しかった。ならば知っていて当然か」

 

ちーちゃんの秘密?について聞こうとした矢先に

霧切さんが放ったその言葉は私のプライドを最高に刺激した。

この私を一体、誰だと思っているのだ・・・?

 

THE友達OF友達である”親友”だぞ!

ちーちゃんのことで、霧切さんが知っていて、私が知らないことなどあるはずがない!

 

「うん、もちろんだよ!ちーちゃんのことならなんでも知ってるよ!」

 

親友のプライドに賭けて、私は高らかに宣言した。

 

「そう、ならばこの話はおしまいね」

「う、うん・・・」

 

霧切さんはこの提案をあっさり取り下げた。

それが逆に私を不安にさせた。

 

(なんだろう・・・?もしかして、これってとても重要な話だったのでは・・・?)

 

彼女の真意を聞こうか、私が迷い始めた時だった。

 

「遅くなってゴメン!」

 

十神についていった苗木君が戻ってきた。

私達は苗木君の話を聞くことにした。

 

苗木君は十神に図書室に連れていかれて、

そこでジェノサイダー翔の手口について聞かされたという。

その内容は以前、図書室でちーちゃんと一緒に聞いたものと同じだった。

新しい情報としては、

 

ジェノサイダー翔は解離性人格障害、つまり多重人格者の疑いがあるという。

 

それ以外には、図書室のコードが消えていたらしい。

おそらくは、ちーちゃんを磔にしているあれが、そうなのか。

 

 

 

        『智ちゃんファイル』

 

○シミのついたカーペット(殺害現場の入れ替えトリックの証拠①)

○更衣室に合わないカレンダー(殺害現場の入れ替えトリックの証拠②)

○舞園さんと盾子ちゃんの電子生徒手帳(玄関ホール前の引き出しの中にあった)

○桑田君の電子生徒手帳?(壊れたいるため確認はとれず)

○ちーちゃんの電子手帳?(山田がサウナで発見。壊れていた)

○ジェノサイダー翔は多重人格者(十神からの情報)

○図書室のコード(ちーちゃんを磔にするために使用された)

 

 

私が、今までの証拠をメモ帳にまとめている時だった。

 

「キーン、コーン…カーン、コーン♪」

 

頭上にあのチャイムが鳴り響いた。

 

 

「では、そろそろ始めますか。今回はいろいろあって捜査時間に個人差があるからね。

そうだな・・・30分後にいつもの場所で会いましょう!ではでは」

 

捜査終了を告げるモノクマのアナウンスが流れた。

前回の5分に比べたら、今回は30分の猶予がある。

だが、私は、殺害現場のトリックを暴いて以降、クロの正体に近づくことができなかった。

 

十神白夜の高笑いが脳裏に響く。

 

恐らくクロであろうあの男に何一つ近づくことができなかった。

 

「き、霧切さんは・・・クロの正体がわかったのかな?」

 

恐る恐る霧切さんに尋ねる。

 

「恐らく、今回のクロはあの人だと思う」

 

霧切さんは瞼を閉じ、私の問いに静かに答えた。

 

「でも、私の見つけた証拠だけでは、裁判の時間内でクロを追い詰めるのは難しい。

それに・・・今回の事件は、クロ以外の別の人物の思惑も絡んでいる。

まだ、いくつかの謎は残っているわ

それらに関しては、裁判の流れの中で、突破口を見つけるしかなさそうね」

 

今回の事件は、霧切さんすら解けない謎があるようだ。

だけど・・・

 

(スゴイな・・・霧切さんは)

 

それでも彼女は、クロの正体に辿り着いたのだ。

私は捜査の間、ずっと彼女と一緒にいた。

同じ光景をずっと一緒に見てきた。

 

なのに・・・なのに・・・どうしてこれほどまでの差が生まれるのだ・・・ッ!

 

 

才能―――

 

 

この希望ヶ峰学園において唯一無二の絶対の価値。

私と彼女では、推理の才能に絶望的なほどの差があるのだ。

 

・・・悔しかった。悔しくて情けなかった。

ちーちゃんのカタキは私がとる・・・そう誓ったのに。

 

「あ、あの時、私がちーちゃんを止めていれば・・・。

クロに会いに行こうとするちーちゃんを止めることができていれば・・・私は・・・私は・・・」

 

あの時のことを思い出す。

ちーちゃんの後ろ姿が見える。

 

もし戻れるならあの肩を掴んで・・・

 

「え、ちょ、い、痛!?」

 

突如誰かに肩を強く掴まれ、私は現実へと帰還した。

眼前には、霧切さんがいた。

いつもの変わらぬ表情。

だが、その額にはうっすらと血管が浮かんでいるように見えた。

 

「その話、私は聞いていないのだけど」

「え、言ってなかったかな?痛ッえ!?痛い!痛い!」

「詳しく・・・聞かせてくれるかしら」

「は、はい・・・」

 

それから私は、ちーちゃんと最後に会った時のことについて話した。

 

誰かと約束をしていたこと。

バックから青色のジャージが見えたこと。

 

だが、この話にクロの正体の手掛かりがあるとは私は考えていなかった。

 

「二人とも、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』という話を知っているかしら?」

 

私の話を聞いた後に、霧切さんが唐突にそんな質問をしてきた。

彼女の意図を測りかね、怪訝な顔をする私を見て、霧切さんは笑った。

 

 

「この事件の真実を解くのは、やはりあなたかもしれないわね。

”協力”してもらうわよ黒木さん。そして苗木くんも」

 

 

その時の彼女の笑みは、まるで闘技場に赴く闘士のような・・・そんな凛とした笑みだった。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

集合時間まで残り5分くらいだろう。

私は、自分の部屋に戻っていた。

直前まで、3人で練習した”アレ”が

クロを追い詰めることができるかは正直なところわからない。

だからこそ、私は”私なりの準備”をするために、ここに戻ってきた。

 

「あった!」

 

部屋の隅に目的のものを見つけた。

そこにあったのは、赤色に汚れたハサミだった。

これは以前、モノモノマシーンのガチャガチャで当てたものだった。

この赤く汚れた不気味なハサミは最初は捨てようと思っていたが、

呪われそうなので、仕方なしに、部屋の隅に放置していたのだ。

まさかこれを使う日がこようとはおもわなかった。

ハサミを見る。

何に使われたのかは知らないが、

普通のハサミより遥かに重く、その刃は鋭利であった。

薄っすらと赤みを帯びている。まるで返り血を何度も浴びたかのように。

このハサミはまさに、今の私の心を投影しているようだった。

今回の事件はあの霧切さんですら、未だその全容を掴めずにいる。

つまりは、現状はクロがリードしているということになる。

ならば、クロが逃げ切る可能性に備え、手を打つ必要があるはずだ。

 

裁判に勝利し、勝ち誇るクロ。

その光景を見て青ざめる私達11人。

 

この後、敗者である私達の”おしおき”が始まるわけだ。

だが、果たして、11人もの人間を即座に処刑できるだろうか?

盾子ちゃんを殺したあの”ロンギヌスの槍”を使う・・・?

いや、モノクマは、アイツは殺人鬼の中でも異常な類に属する。

桑田君の処刑を見る限り、敗者用に何か特別な処刑方法を

ウキウキしながら、作成しているはずだ。

ならば、黒幕は複数のモノクマを作動させ、私達を拘束しようとするはず。

 

つまり、モノクマ達が現れるまで、ほんの数秒、空白の時間が生じる。

 

私が狙うのは、まさにそこだ。

勝利し、油断するクロにこのハサミで一撃を加える。

予期せぬ攻撃をまともに喰らい、悲鳴を上げるクロ。

もし、喉に深く突き刺すことができれば、即死を狙える。

だが、そこまで上手くいくとは思わない。

腕でガードされてしまう可能性が高い。

 

だが、それでもいい。

ヤツに一生残る傷さえ残せれば、最悪それでいい。

ヤツが日常に帰還した後、その傷を見て何度も思い出すはずだ。

 

ちーちゃんや私達を殺した罪を。

私の憎しみを。

 

ヤツに・・・思い知らせてやる!

ハサミを上着の内ポケットに入れ、私は赤い扉に部屋に向かった。

 

 

「コラ~遅いぞ、もこっち!1分30秒の遅刻だぞ!」

 

 

赤い扉はすでに開かれていて、

入口でモノクマが”ガォオ~~”といった感じで待ち構えている。

どうやら、また私が最後のようだ。

 

「前回に続き、またヒロインぶりやがって!君のために30分も延長してあげたのに、

それすら破るなんて・・・!君は本当に平気でルールを破るんだね」

 

今度は”ハァ~”といった様子でモノクマが肩をすくめる。

 

「この前も女子更衣室にフラフラ入ってきやがって!

マシンガンでブチ殺してやろうと思ったけど、

開けっ放しでトレーニングしていた大神さんの責任でもあるし。

何より、死体を掃除するのが面倒だったので、許してあげました。

ボクがこんなに優遇しているのに、君って奴は。あ、次、やったら、即座に殺すからね!」

 

ああ、気にはなってはいたけど、そんな裏事情があったのかぁ。

・・・ていうか、全然優遇してないじゃん!怠けたかっただけじゃん!

まあ、そのおかげで生きていますけど。

 

「早く、こっちにきなよ。なんたって君は今回の”主役”なんだからさぁ~」

 

(主役・・・?)

 

手で口を押さえながら、モノクマはテクテクと私に近づいてきた。

 

 

 

     「不二咲君・・・残念だったね~もこっちぃ~~」

 

 

 

”ニタァア”とモノクマは嗤った。

モノクマを通して、私を嘲り嗤う黒幕の心が伝わってくる。

 

「君は不二咲君の親友だったからね・・・本当にかわいそうだよ。

でもね!だからこそ、今回、君にはアドバンテージがあるんだよ!」

 

「はぁ・・・?」

 

わけのわからないことを言って”グッ”と親指を立てるモノクマ。

アドバンテージ・・・?一体何を言って・・・

 

「だってさぁ~親友である君が今回のクロなわけないじゃん!やったね、もこっち!」

 

モノクマはガッツポーズを決め、その場で飛び跳ねる。

 

「んん~でも待てよ」

 

着地を決めたモノクマはニヤニヤ嗤う。

 

「ミステリー小説やドラマだと、

犯人はだいたい被害者の最も親しい人間なんだよね。というと、あれ?あれ~~~?」

 

困ったフリをしながら、私の方を見るモノクマ。

場がざわつく。

 

「ヒッ!じゃ、じゃあ、黒木が・・・」

 

腐川冬子が小さな悲鳴を上げた。

 

みんなの視線が私に集まる中、私は天井を見上げる。

天井の光景が一瞬、真っ白に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

初めてだった。

 

 

 

 

怒りで・・・気を失いそうになるのは、初めてだった。

 

 

 

 

知っているくせに・・・

 

 

誰がちーちゃんを殺したのか、知ってるくせに。

 

 

 

 

 

 

見ていたくせに・・・

 

 

ちーちゃんが殺されるのを・・・嗤いながら見ていたくせに。

 

 

 

 

 

 

 

私の表情を覗き込もうとするモノクマに対して、逆に”ヌッ”と顔を限界まで近づける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

          ――――――お前、少し黙れ・・・!

    

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおおーー怖えぇえええ~~ッ!!?”リ○グ”の貞子みたいだぁああーーーッ!!」

 

モノクマは大きく仰け反り絶叫する。

場が一瞬で静まる。

自分でも恐ろしく感じるほどの低い声が出た。

それは、近くにいたあの超高校級の”暴走族”である大和田君の表情が青く染まるほどの。

 

「いいねぇ~いい表情するじゃないか!ギヒヒヒ、プギュヒヒヒヒ」

 

そう呟きながら、モノクマは体をプルプルと震わせる。

どうやら私の憎悪に染まった顔を見て喜んでいるようだ。

 

狂人め、好きにするがいい。

お前など、ただの道具だ。

 

クロを・・・処刑するための道具に過ぎないのだから。

 

「もこっちのおかげでテンションが上がってきた!さあ、やろう!今すぐ、殺ろう!」

 

その声に従い、私達は裁判所へのエレベーターに乗り込んだ。。

 

 

ゆっくりと地下に向かうエレベーターは、まるで奈落へ落ちていく棺桶のようだ。

この先には再びあの場所が待っている。

桑田君の最後を思い出す。

クラスメイト同士が殺しあうあの地獄が再び幕を開けようとしている。

 

(早く・・・!早く着け!早く始まれ!)

 

その地獄への帰還を心底喜ぶ私の心は、もはや地獄の鬼と成り果てたのだろうか。

 

 

ちーちゃん・・・

 

 

君はこんなことは望まないだろうけど・・・

 

 

 

            それでも…それでも私は――――――ッ

 

 

 

 

始まる。

 

 

 

命がけの裁判…

 

 

 

命がけの騙しあい…

 

 

 

命がけの裏切り…

 

 

 

 

        命がけの謎解き…命がけの言い訳…命がけの信頼…

 

 

 

 

  

 

 

            命がけの…学級裁判が始まる…!

 

 

 

 

 




おひさしぶりです。
今回は1万5000字超えましたが、前話よりも楽に感じました。
やっぱり心中描写より、実際にキャラ動かす方が書いていて面白いです。

いよいよ、学級裁判に入ります。
長々と書いてきたこの2章の集約となります。
構成として

第2回学級裁判 前編
第2回学級裁判 中編
第2回学級裁判 後編
週刊少年ゼツボウマガジン 終劇

となります。
その後に「イマワノキワ」を書いて完成します。

今回の裁判は波乱が起きます(捏造箇所)
それでも、登場人物(クロも含め)全員が株を上げる内容であると思っています。

ちなみに第2章と第3章の裁判がかなり対比的です。
また、2章と5章のもこっちと霧切さんの関係は正反対です。
絶望と希望を狭間を描きたいですね。


まあ、時間がある時にでもお読みください。では

PS

ダンガンロンパ3の未来編のスタッフの中に絶望の残党が潜り込んでいる・・・!
まだ2話なのに、メチャクチャ面白いです。展開がまるで読めない。
でも、好きなキャラが殺されて手放しで喜ぶことはできねえ・・・!
朝日奈ァ・・・。さくらちゃんの願いに弟・・・希望はないのか・・・。





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