私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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週刊少年ゼツボウマガジン 後編②

私はもう泣かない―――

 

 

包帯を巻き直して、

できりかぎりゆっくりと顔を洗う。

捜査時間がすでに始まっている。

そのタイムリミットが近づいていることもわかっている。

だけど・・・いや、だからこそ、ゆっくりと時間を惜しまず着替える。

なりふり構わず捜査に参加することは容易なことだろう。

だが、それが一体何の意味があるというのだろうか?

無策に彷徨い、泣きながら見当違いな捜査を続ける。

そんな無様な私の姿を見て、アイツはきっと笑うだろう。

学級裁判でパニックになり間違った推理を主張する私をみて

アイツは・・・ちーちゃんを殺したクロはきっと腹の中で嗤うに違いない。

だから・・・私はもう泣かない

 

あれからずっと考えていた。

クロを追い詰めるにはどうすればいいのか、を。

アイツの嗤いを止めるには何をすればいいのか・・・

ただそれだけを考え続けた。

そして辿り着いた答えが、

 

”まず冷静になる”ことだった。

 

私が気絶してどれくらい経ったのかわからない。

あと、捜査時間がどれほど残っているのか見当もつかない。

だからこそ、冷静になる必要があった。

限られた時間の中で真実に辿り着くためには、

常に正しい選択と行動をとる必要がある。

そのためには、泣いていてはダメだ。

冷静になる必要があった。

クラスメイトの誰よりも冷静に。

それこそ、凍てつくほどの冷静さが。

 

鏡を見る。

泣きあかして酷かった顔を時間をかけて洗い、

髪を整えたことで、幾分かマシになった。

でも、瞳の奥の淀んだ闇は消えていない。

胸の中に生まれた憎悪の炎はより激しさを増している。

炎は私の全身を覆い、それはさながら鎧のよう。

憎しみの鎧は、黒い願いを叶えるために私を駆り立て、突き動かす。

今ならば、なんでもできる気がする。

いや、きっとできる。

この願いを叶えることができるならば、

私は何を犠牲にしたっていい!

アイツの嗤いを止めるためならば、私は何だってしてやる!

 

だから・・・私は泣かない。

 

アイツの嗤いを止めるまで

クロの息の根を止めるまで。

 

ドアノブに手をかける。

今から歩むのはきっと、

希望とは正反対の光なき絶望の道。

それがわかっていても私はもう止まる事はできないのだ。

漆黒の意志を固め、

私は復讐への扉を開いた。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

外へ出て廊下を歩く。

その光景は数時間前と何ら変わらない。

だが、空気はどこか重く、

何か張り詰めたものを感じた。

それはここにいる者達の今の心の有り様を

語っているように感じた。

歩きながら、現在の状況を整理してみる。

 

第一に決定的なのが、捜査時間に余裕がないことだ。

気を失う瞬間に「死体発見アナウンス」が流れたのを思い出す。

忌々しい声だった。

殺人が起きたことを、

ちーちゃんが殺されたことを

心の底から喜んでいる・・・そんな声だった。

あの瞬間から捜査時間が始まったのだ。

ならば、私は気絶していた分だけ捜査時間をロスしたことになる。

あと、どれくらい時間が残されているか、分からない。

もしかしたら、今、この瞬間にも、

捜査時間の終了を告げる放送が流れるかもしれない。

頬に汗が流れる。

焦ってはいけない。

このことを常に念頭に置きながら冷静に行動しなければならないのだから。

 

次に”容疑者”についてだ。

ちーちゃんと最後に会った時、

ちーちゃんは、誰かと会う約束をしていたようだった。

 

バックからはみ出していた青色のジャージ。

 

もしかしたら、ちーちゃんはトレーニングをしようとしていたのでは・・・?

ならば待ち合わせ場所は殺害現場である女子更衣室か。

そこで約束していた相手に殺されて・・・

約束していた相手がクロ・・・。

それとも、更衣室に向かう途中でクロに襲われたのかな?

 

・・・わからない。

情報が少なすぎる。推測すらできない。

私と”苗木君”を除く10人の容疑者達の姿が頭に浮かぶ。

残り少ない時間の中で、

この多すぎる容疑者達の中から、

クロを論破しなければならないのだ。

 

 

そして最後は・・・

 

 

状況を整理し終える前に目的地の前についてしまった。

私は食堂の入り口前に立っていた。

何も考え無しにとりあえず食堂にきた・・・というわけではない。

私は私なりの論拠をもとに、ここにいるのだ。

捜査において殺害現場を除いてもっとも人が集まる場所はどこだろう?

それは休憩のための椅子や喉の渇きを癒す飲み物が備わっている

ここ、食堂しかない。

クラスメイト全員とまでは言わないが、

タイミングが合えば、かなりのクラスメイトがここに集まり、

情報交換をしているはずだ。

私は”ある決意”を固め、食堂に足を踏み入れた。

 

食堂がいつもより広く感じるのは、

私の予想に反して、

多くのクラスメイトが集まっていなかったためだろうか。

そこにいたクラスメイトは、”彼”ひとりだった。

 

「黒木さん!よかった・・・!」

 

 

彼は・・・私を見ると、椅子から立ち上がり、安堵の表情を浮かべた。

 

「苗木君・・・」

 

苗木君は私に駆け寄ると、嬉しそうに笑った。

 

「その・・・ありがとう!きてくれたんだね」

 

「・・・うん」

 

彼の言葉と笑顔に私は頷き答えた。

今度は嘘ではなかった。

私はここに戻ってきたのだ。

捜査に。学級裁判に。真実に向かい合うために、ここにきたのだ。

たとえ、その目的が苗木君の願いとはかけ離れてしまっていても・・・。

苗木君を見つめる。

 

他の男子に比べて華奢で小柄な彼は・・・

普段はどこか気弱な印象を受ける苗木君は・・・

 

私の人生で出会った誰よりも、

強く、厳しく、そしてそれ以上の優しさを兼ね備えた人だった。

私は苗木君がどれだけスゴイのか知っている。

同じ立場になって初めてわかった。

友達を殺されて・・・それでも絶望に堕ちず、希望の道を進むこと。

それがどれだけ尊いことなのか私にはわかる。

それができなかったからこそ、私にはわかるんだ。

苗木君の”幸運”の才能もきっとそんな彼の心の在り方に

幸運の方が惹かれたからかもしれない。

 

苗木君がいてくれたから・・・

私は今、ここにいることができたのだ。

今回の事件において、

私は容疑者から苗木君を外した。

彼は絶対にクロではないからだ。

論理的に考えるなら、

彼がクロならば、私をあんなに必死になって説得して

立ち直らせようとはしないはずだ。

 

現実から逃げ出した私を無視していればいい。

絶望に屈した私を放置しておけばいい。

 

真実を明らかにする人間がひとりでも減った方が

クロにとって有利になるのだから。

苗木君は、その真逆の行動をとった。

だから、彼はクロではないのだ。

いや・・・違う。

いまさら、自分自身に嘘をつくのはやめよう。

そう、もう理屈ではないのだ。

彼は・・・苗木君は、この閉ざされた絶望の世界で、ただひとり

私が心の底から信じることができる人だ。

だから、彼がクロであるはずがないのだ。

もし、苗木君がクロであったならば・・・

もしそうであるならば、この世界に希望など存在しないに違いない。

その時、私は全てを諦め、

むしろ笑ってこの絶望の世界から去ることができる。

私は苗木君を信じる。

彼は私の味方だ。

それに、”なんでもする”と言ってくれたし。

普段の私なら「ん?」とか言いそうだけど今は素直にその言葉を感謝しよう。

やらなければならないことがいっぱいあるのだ。

それに、今の私は、苗木君の他に会わなければならない人がいるのだから。

 

「ほ、他のみんなはどこに行ったのかな?」

 

「え?」

 

「あ、あの・・・みんなたぶん食堂を休憩場所に選ぶと思ったので・・・」

 

私の返答に苗木君は”ああ、なるほど”といった感じで頷く。

 

「さっきまで、僕の他に山田君と石丸君が休憩に来ていたよ。

少し話した後、すぐに捜査に戻っていったけど」

 

やはり読みどおり、クラスメイトの何人かは

ここを休憩場所に選んだようだ。

ならば、ここで待っていた方がいいのだろうか?

それとも探した方が早く会えるのだろうか・・・。

 

「黒木さんは、誰か探しているの?」

 

私の様子を察して、

苗木君が話を切り出してくれた。

 

「実は・・・」

 

躊躇している暇はなかった。

私は一刻も早く”あの人”に会わなければならないのだ。

 

 

「あら苗木君。あなたも休憩に来ていたのね」

 

 

その声の方に私達は振り向いた。

そこには”彼女”が立っていた。

その銀色の髪は、見るものに新雪を連想させた。

透き通った瞳から放たれる輝きはまるで磨かれた日本刀のよう。

 

そこには彼女が・・・霧切響子さんがいた。

 

「ちょうどよかったわ。あなたにいくつか聞きたいことが・・・」

 

彼女を言葉を止め、

視線を苗木君から私に移した。

 

「気がついたのね、黒木さん。無事でよかったわ」

 

彼女の言葉から察するに

私が倒れたことはクラスメイト全員に伝わっているのだろう。

霧切さんは表情こそ変えないが、

その言葉から彼女なりに私を気遣ってくれているようだ。

 

「・・・。」

 

「・・・黒木さん?」

「・・・?」

 

苗木君が無言で霧切さんに向かって歩いていく私に

何か不穏なものを感じたようだ。

霧切さんも表情こそ崩さぬものの、私の意図を測りかねているようだった。

私は霧切さんの前に立ち、まっすぐに彼女を見つめる。

 

その視線が急落した瞬間―――

 

食堂に”ガッ”という鈍い音が響き渡った。

 

「なッ・・・?」

 

私が突如、襲い掛かってきたと思ったのだろう。

身構えた霧切さんは、私を”見下ろし”ながら

彼女らしからぬ困惑の声を上げた。

それに対して、私は彼女を”見上げる”ことはなかった。

私は床を見つめていた。

勢い余って食堂の床に頭をぶつけた後、

私はそのまま床に額をこすりつけた。

私は霧切さんに・・・

 

 

 

     全身全霊で土下座したのだ―――

     

     

     

 

「お願いします霧切さん!私に力を貸してください!」

 

第一声に私の願いの全てを込めた。

 

「あなたの”推理の才能”が必要なんです!」

 

第二声はよりはっきり願いをかたちにした。

 

私には彼女の協力が必要だった。

私には霧切さんの推理の才能が絶対に必要だった。

 

だって私には・・・

 

 

 

     推理の才能なんてなかったから・・・

     

     

     

 

時間制限に、多すぎる容疑者。

それ以上に深刻な問題は・・・

今の私にもっとも足りないものは、”推理の才能”だった。

私にはその才能がまるでなかったのだ。

あの第1回学級裁判において、

私は妄想を元に馬鹿げた推理を組み立て、

あろうことか苗木君を舞園さん殺害の犯人に仕立て上げてしまったのだ。

裁判の流れの中で、マグレで桑田君のトリックを論破できたものの、

もしあの時、私の推理が採用されていたなら・・・・と考えると背筋が凍る。

もし、そうなっていたなら、

私だけでなく他のクラスメイトも

残酷な方法でモノクマに処刑されていたのだ。

今回も同じことを繰り返すなら・・・

それはクロの勝利に貢献するのを同じことだ。

アイツを嗤わせるだけだ。

それだけは・・・ダメだ。

それだけはさせるものか!

 

なら・・・どうすればいい?

推理の才能のなさをどうすれば補える?

その問題に直面した時、

私の脳裏に”3人”のクラスメイトの姿が浮かんだ。

あの学級裁判において、

真実に辿り着いた3人のクラスメイトが。

 

自分に能力がないのならば、その才能を持つ者から補えばいい。

 

テスト前に頭のいい友達に勉強を教えてもらうように。

企業がそのポジションに必要な人材を採用するように。

 

私に推理の才能がないのなら、

推理の才能を持つクラスメイトの力を借りるしかない!

 

あの事件を解いた3人の中の1人である苗木君は、

私を現実に引き戻し、捜査の協力を約束してくれた。

裁判の流れの中で、1つ1つ真実を解いていく

苗木君の姿を思い出す。

彼の推理の力は、今回の事件においても、必ず必要となるだろう。

そして私の目の前に立つ彼女は・・・

霧切さんは、3人の中でただ1人、

 

”裁判が始まる前に”事件の真実に辿り着いていた人だ。

 

もし、今回の事件において彼女が犯人でないならば・・・

クロの敵であるならば・・・

私の味方になってくれるのならば・・・

 

彼女の推理の才能は

クロの偽りの盾を貫く、最強の矛となりえるはずだ。

だが・・・もし彼女がクロならば、それこそ彼女の思うつぼだ。

私は、クロである彼女に偽りの推理を妄信する道化と成り果てる。

 

霧切さんを信じる―――

 

それはあまりにもリスクの高い賭けに他ならない。

 

だが、それでも私は賭けに出るしかないのだ。

 

残り少ない時間の中で、これだけ多くの容疑者達。

 

彼ら1人1人の無実を証明するのは、

クロの正体を論破する以上に難しい。

いや、はっきり言えば無理だ。

ならば、残された手は1つだけ。

 

賭けに出る・・・しかない。

 

苗木君以外にも私が信じることができる

クラスメイトを味方につけるのだ。

 

賭けに負ければ、それで全てが終わる。

だが、勝つことができたならば、

容疑者を減らすだけでなく、

そのクラスメイトから得られる情報は、

今までの遅れを挽回し、クロ打倒への大きな前進となるはずだ。

 

命を賭けて信じることができるクラスメイト。

 

それは苗木君以外で選ぶなら・・・

たった1人だけ選ぶならば・・・

 

それは彼女しかいない!霧切さんしかいない!

 

私は彼女のことを知らない。

いまだに彼女が何者であるか知らない。

その才能が何であるかわからない。

”モノクマのスパイ”と疑ったことすらある。

でも・・・それでも・・・!これだけは知っている。

 

いい加減な推理をして彼女に本気で怒られたことがあったから。

裁判にクロにされそうになった時、彼女に助けてもらったから。

 

これだけはわかっている!

彼女は・・・霧切さんは、

 

クラスメイトの誰よりも”真実”に対して誠実にあろうとしていることを。

 

それだけが数えるほどしかない

彼女との接点の中で、

学級裁判を通して私が感じた彼女の本質だった。

 

霧切さんは・・・おそらく人を殺すことができる人間だ。

彼女から放たれる抜き身の刀のような視線。

あの輝きに、目的のためなら手段をえらばぬ覚悟と凄みを感じる。

だけど、彼女は人を殺すことができても嘘をつくことができない。

 

彼女の本質が、偽りを拒むから。

真実を追求しようとする彼女の心が

罪を犯した彼女自身に必ず破滅をもたらすから。

 

だから・・霧切さんはクロにはならない。いや、なれないのだ。

それが・・・それだけが論拠。

私が辿り着いた霧切さんを信じるただ1つの証拠だった。

 

 

「私には推理の才能がないから・・・霧切さんのような推理の才能がないから」

 

床を見つめたまま、私は言葉を続ける。

 

「それでも・・・それでもクロを捕まえたい!

私の手で、どうしてもアイツを捕まえたいんです!」

 

私を無言で見下ろしている彼女に向かって続ける。

 

「カタキを・・・とりたいんです。

ちーちゃんの・・・あの子のカタキを討ちたいんです!」

 

吐き出した言葉は全て本心だった。

 

「ちーちゃんと友達になれて嬉しかった・・・。

本当に嬉しくて・・・毎日が、楽しくて。

ちーちゃんがいつも傍にいてくれたから。笑いかけてくれたから」

 

紡ぎ出される言葉に嘘はなかった。

 

「だから・・・信じたくなくて。

ちーちゃんが死んだなんて。殺された・・・なんて!

どうしても信じられなかった。信じたくなかった!!」

 

感情が高ぶる。

悲しみと憎しみで身体が震える。

それでも止めるわけにはいかなかった。

 

「あの子の笑顔を奪ったクロが憎い。

どうしても・・・許せない!

だから・・・だから・・・!

カタキをとりたいんです!ちーちゃんのカタキを!

親友の私が、クロを捕まえたいんです!」

 

伝えるのだ、彼女に。

今の私のありのままの心を。

 

「私が現実から逃げた分だけ捜査に出遅れたことも、

私に推理の才能がないことも知ってます・・・。

でも・・・それでも諦められない・・・!諦めることなんてできない!」

 

交渉しようなどと思わなかった。

もし、そんなこと一瞬でも思ってしまったら、

その瞬間から言葉に嘘が混じる。

彼女はそれを見逃さない。

霧切さんに嘘は通じない。

 

だから―――

 

「だから霧切さん、お願いします!

私に力を貸してください!

クロを見つけるために私の味方になってください!

あなたの推理の才能に賭けさせてください!

どうか私を・・・助けてください」

 

ありったけの声で、

ありったけの思いを込めて

私は自分の思いの全てを彼女にぶつけた。

言葉は全て真実だった。

ただ1つも嘘はなかった。

もし、彼女の心を動かせるとしたなら、

これ以外に方法はなかった。

私にはこれしかできなかった。

 

「・・・。」

 

床に額をこすりつけてから、

どれくらいの時間が経過しただろう。

1秒1秒が異様に長く感じる。

まるで何時間もこうしているようだ。

霧切さんは無言のままだった。

彼女は今、どんな表情をしているのだろうか?

今、何を思っているのだろう。

私は、ただ床を見つめ、彼女の返答を、審判を待つしかなかった。

 

「そこまで・・・するのか・・・」

 

その小さな呟きは、返答ではなかった。

後に続く言葉がないのは、

それがふと漏れた彼女の心の声だったのだろう。

 

客観的に見て、今の私達はどんな風に見えるだろう。

クラスメイトの誰かが食堂に入ってきて

今の私達を目の当たりにしたら、何を思うだろうか?

 

クラスメイトに・・・同じ年の女の子相手に額を床に擦りつけて助けを請う。

 

その姿は例えるならば

 

主人の前に平伏す奴隷。

神に祈りを捧げる信奉者。

 

そんな感じだろうか?

今の私はきっと

 

醜く、惨めで、みっともなくて、見苦しい・・・か・・・ら

 

だから―――それがどうしたというのだ!その程度のことが何だというのだ!

 

私は誓ったはずだ。なんでもすると。

クロを倒すなら、どんな犠牲も厭わないと。

クロの正体に1歩でも近づけるなら・・・

クロを論破する確率が1%でも上がるならば

それがクラスメイトの女の子に土下座することになろうとも

私は迷わない。迷いはしない!

私にはこれしかできない。

今の私にはこんなことでしか霧切さんい報いることができないのだ。

 

霧切さんが私の味方になってくれるのならば、

私は彼女から多くのものを得ることができるだろう。

だが、彼女には何もない。

私が霧切さんに与えられるものは1つもない。

何1つ・・・ないのだ。

 

ならば、私にできることは1つしかない。

 

頭を下げて、誠心誠意お願いすること。

 

嘘偽りなきありのままの心を彼女にぶつける。

それだけが私が霧切さんにしてあげられることだ。

 

もし、彼女が何かを要求してくるならば、私はそれに全て応えよう。

裸になれ、言うのなら、この場で服を脱ごう。

目も眩むような大金が必要ならば、

払いますとも!たとえ一生をかけてでも!

生きてさえいれば、なんだってできる。

あの子はもう・・・何もできない。

泣くことも・・・笑うことも。もう何も・・・できないのだ。

私しかいないのだ。

ちーちゃんの無念を・・・カタキをとれるのは私だけだ。

だから・・・そこに可能性があるなら

霧切さんを味方にできる可能性が1%でもあるならば、

私はなんでもする。ああ、なんだってしてやるさ!

 

この状況を他のクラスメイトに見られなかったのは、

幸運だった・・・とは思わない。むしろ不運だったとさえ思う。

私はこの食堂にくる前に、霧切さんがいることを・・・

クラスメイト全員が集めっていることを期待していたのだ。

 

私はクラスメイト全員の前で、彼女に土下座するつもりだった。

 

―――見せつけてやるつもりだった。

 

腹の中で嗤っているアイツに、私の覚悟を見せてやるつもりだった。

 

 

霧切さんの審判を前に、ここに至るまでの様々な思いが胸中を駆け巡る。

 

「顔を上げなさい、黒木さん」

 

何時間にも感じた沈黙は彼女の声によって破られた。

私は恐る恐る顔を上げる。

 

「正直、私は今、本当に驚いているわ」

 

彼女は私を見つめて語り始めた。

 

「私は、あなたはもっと利己的な人間だと思っていたから。

だから、誰かのために・・・それが友達のためでも

あなたがここまで自分が投げ捨てることでできるなんて夢にも思わなかったわ」

 

彼女はまっすぐ瞳で私を見つめる。

 

 

「私はあなたが倒れたと聞いた時、

もうここへは戻ってこないと考えていた。

残酷な真実から逃げ、甘美な偽りの世界に閉じこもる・・・そう思っていた。

だから、そこまでする・・・なんて。

不二咲君のために、ここまでできるなんて思わなかった。

私は・・・あなたという人間を見誤っていたわ」

 

その瞳に嘘も偽りもなかった。

 

「きっとあなたは、たとえクラスメイト全員を前にしても

なんの躊躇もなく今と同じことをしたでしょう。

だから・・・私はあなたのその覚悟に応えようと思う。

黒木さん・・・あなたの願いに今、この場で答えるわ」

 

彼女の透明な瞳に不安と期待が入り混じる私の顔が映った瞬間―――

 

 

「答えは”NO”よ。」

 

 

審判はあっけなく、そしてはっきり下された。

予想はしていた。

いや、むしろ予想通りだ。

だが、それでも呆然とする私に向かって霧切さんは言葉を続けた。

 

「黒木さん、はっきり言うわ。

今回の事件において、容疑者となるクラスメイトの中で、私が最も疑っている人物。

それは黒木さん、あなたよ」

 

金槌で殴られたような衝撃を受ける。

 

 

「あなたが不二咲君の友達だからこそ、怪しい。

あなたが倒れたからこそ、怪しい。

あなたが戻ってきたからこそ、怪しい。

あなたがこんなにも必死だからこそ、怪しい。

その思いや願いが、本心と思えるからこそ、怪しい。

あなたと不二咲君とのこれまでの関わり全てが

今回の事件において、あなたを疑う理由に変わる」

 

彼女の言葉が、瞳が伝えてくる。

彼女は、私を疑っている。

私をクロだと思っている。

 

「だから、あなたに力を貸すことはできない。

それ以前に、私は誰にも力を貸すことはないわ。

苗木君とは、捜査の情報を共有しているけれど、

それ真実に近づくため。

馴れ合い、推理の答え合わせをするためじゃないわ」

 

苗木君との協力はただ利害の一致から。

霧切さんははっきりとそう口にした。

苗木君もその答えに表情を揺らすことはない。

彼もまたそのことを理解しているのだ。

 

「黒木さん、あなたに以前言ったはずよ。

推理とは可能性の全てに全身全霊でぶつかることだと。

だから、私は全てを疑う。

クラスメイト全員を疑う。

苗木君も。そして自分自身ですら。

私はそういう人間よ。

そして・・・あなたも知っているはずよ。

この学級裁判がそういう戦いであることが」

 

 

彼女の言った言葉全てが真実だった。

今回の事件において、

一番怪しいのは・・・ちーちゃんの傍にいた私だ。私なのだ。

彼女の瞳には、今の私は、

 

頭を下げながら、その実、腹の中で嗤っているクロにしか見えないのだ。

 

だって、もう学級裁判は始まっているから・・・

 

”命がけの騙しあい”はもう始まっているんだ。

 

やはり・・・彼女を選んで正解だったと心から思う。

真実に対してどこまでもストイック。

そんな彼女だからこそ、私は彼女に賭けた。

そして、そんな彼女だからこそ、この結果に至ったのだ。

だれも悪くない。

当然の結果なのだ。

クロだと思われているのは、かなりショックだけど、落ち込んでいる暇はない。

私なんかがこんな大それた行動ができたのは大きな収穫だ。

今回はダメだったが、この覚悟と行動が次に繋がっていくだろう。

頑張れ私!

 

「ついでに言っておくわ。

あなたが捜査のために、”たまたま”私が捜査している場所に現れて、

真実を解明するために、私の周りをウロチョロしようとも、

それに対して、わたしが何か言うことはないわ」

 

 

ハハハ・・・どこまで厳しいのだろう。

霧切さんは、私が推理するために彼女の周りをウロチョロすることを許すというのだ。

 

 

(え・・・?)

 

 

耳を疑った。

それは、彼女と同じ視点から事件を推理することができるということ。

彼女と一緒に推理すると言っても過言でなかった。

 

 

 

「私はこれから殺害現場に戻るけど、あなたはどうするのかしら・・・?」

 

 

そう言って彼女は、食堂の出口へと歩いていく。

 

「黒木さん、行こう!」

 

唖然とする私の肩に手を置いて、苗木君が力強く頷く。

 

「う、うん・・・!」

 

あまりのことに半ばパニックになりながらも、

慌てて彼女の後を追う。

今、起こったことが信じられなかった。

階段の前で彼女に追いつく。

彼女は振り返ることはなかった。

何も言わず階段を上っていく。

 

私の言葉と心が彼女を動かしたのかはわからない。

もしかしたら、

容疑者である私が怪しい行動をとらないように

監視するために側に置こうとしているのかもしれない。

でも・・・あの時、

私に背を向ける瞬間、彼女が笑ったような気がした。

あの無表情な彼女が、ほんの一瞬微笑んだように見えた。

 

だから・・・霧切さんは、きっと・・・優しい人なのだ。

 

(うぅう・・・)

 

冒頭で泣かない!とかカッコよく決めたけど、もう泣きそうだ。

こういう時の優しさは反則だよ。

何か他のことを考えて誤魔化そう。

階段を上がっていく彼女の後ろ姿を見る。

この立ち位置と距離。

普段でも短め彼女のスカートから細く美しい太ももがよりはっきりと目に入る。

 

(しっかし、エロい太ももしてるよな~)

 

女の私が赤くなるほど、それは艶美で官能的だった。

 

(そもそも・・・霧切さんは何の超高校級なのだろう?)

 

舞園さんに比肩する容姿。

そしてこの美しい太もも。

 

まさか、彼女は超高校級の"太もも”!?

 

いやいや、まさか・・・ね。

まあ、でもなにはともあれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ―――こりゃホンマ○起もんやで・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒木さん―――ッ!!?」

 

気が緩んで心の声が漏れてしまったようだ。

苗木君が固まり、霧切さんが驚愕の表情で振り返り叫んだ。

 

後にも先にも、こんなに驚いた顔の霧切さんを見たのはこの時だけだった。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

階段を上がると犯行現場である女子更衣室は目の前だった。

その扉の前には、

彼が着ている学ランより暗く陰鬱な表情を浮かべた大和田君が立っていた。

第1回の裁判の時と同様、

今回も彼は殺害現場が荒らされないように見張り役をしているようだ。

 

「お疲れ様、大和田君。申し訳ないけど今回もお願いね」

 

大和田君に霧切さんが声をかける。

ちゃんと労いの言葉をかける辺り、なかなか心得ていると思う。

 

「・・・。」

 

大和田君は無言だった。

霧切さんの声に気づいていないのではない。

何かを言おうとして、躊躇している・・・そんな感じだった。

 

「霧切・・・あのよぉ・・・そのことだけどよぉ」

 

大和田君は意を決したように重い口を開く。

 

「今回の見張り役・・・今、この場で辞退させてもらうぜ」

 

暗く淀んだ瞳で、霧切さんを見ながら、

大和田君は見張り役の辞退を宣言した。

 

「なぜ・・・?」

 

それに対して、霧切さんは表情を変えることなく

辞退の理由を問う。

 

「前の裁判の時と・・は違うんだ。

あの女が殺された時も・・・桑田の奴が死んだ時も・・・

こんな気持ちには・・・ならなかったんだ。

知り合ってすぐ起きちまったからな・・・。

だけど、今回は違う。

知っちまったからよぉ。アイツの・・・ことを。

だから、今回は自分ひとりで考えてーんだよ」

 

苦しそうに胸のうちを語る大和田君。

彼の苦しみはその言葉から・・・その表情から伝わってくる。

大和田君がどんなに苦しんでいるか、私には痛いほどわかる。

 

(・・・ん?)

 

その時だった。

私は気づいた。

霧切さんが一瞬、何かに気づいたように目を見開いたことを。

私が、自分が喋らない分、

他者の観察に優れていることを自負していることを覚えているだろうか。

霧切さんは、普段、表情を崩すことはない。

だからこそ、ほんの少しの表情の変化に気づくのだ。

 

「了解したわ。今までありがとう」

「すまねえな・・・」

 

苦しそうに背を向け、大和田君を歩き始めた。

 

「1つだけ・・・聞いていいかしら」

「あ・・・?」

 

その背に霧切さんが言葉を投げる。

怪訝そうに大和田君は振り返った。

 

「”舞園さん”の事件と今回の不二咲さんの事件。

何か違ったことはないかしら?気づいたことはあるかしら」

 

(舞園さんの事件・・・?)

 

霧切さんの問いに少しだけ違和感を覚える。

私はどちらかといえば、あの事件は”桑田君”の事件と言うのかと思った。

だけど、霧切さんは事件の発端であるから”舞園さん”の事件と呼んでいるのかな?

 

「舞園の時は・・・あの女の時は、よくわからねえまま終わっちまったからよぉ。

違いとかよくわからねえ。あの女とは話したこともなかったからな。

だけど、不二咲は違う。アイツは・・・違うんだ。

アイツが・・・どんな風に笑うか・・・知っちまったからよぉ。

気づいた・・・ことか。

アイツは・・・もしかしたら、何か悩みがあったのかもしれねえな」

 

(え・・・?)

 

 

ちーちゃんが悩んでいた―――!?

私が最後に見たちーちゃんは、むしろ悩みが消えたような穏やかな顔で笑っていた。

でも、もしかしたら、大和田君にしか話していない別の悩みがあったのか・・・。

 

新しい事実にショックを受けている中で、

大和田君と目が合う。

彼は次の瞬間、私から目を逸らし、床を見つめる。

暗い表情だった。

大切な何かを失ったような・・・そんな表情。

きっと私も同じ表情をしているのだろう。

 

「黒木・・・あのよぉ」

 

大和田君は床を見つめたまま、私に言葉を投げる。

だが、後に続く言葉はなかった。

彼は何か言葉を紡ごうとして、失敗する。

心の内でそれを繰り返しているように見えた。

 

「いや・・・なんでもねぇ」

 

結局、後に続く言葉なかった。

それでも私は嬉しかった。

盾子ちゃんの遺体に大事な学ランをかけて弔ってくれた

大和田君の姿を思い出す。

 

 

 

「可哀想にな…お前のダチ」

 

 

 

彼のあの言葉で、私は大切な存在を失ったことに気づくことができた。

私は知っている。

彼は超高校級の”暴走族”で日本一の不良で、怖くて、凶暴だけど・・・

 

本当はすごく優しい人だということを―――

 

きっと、今回も私を慰めようとしたが、言葉が出なかったのだろう。

その心だけで私は十分すぎるほど嬉しい。

 

「・・・。」

 

だが、一方、霧切さんはというと、大和田君の後ろ姿をじっと見つめていた。

いや、むしろ睨んでいる!?

見張り役を断られたことを根に持っているのだろうか?

だとすると、少し人間が小さすぎるのではなかろうか。

いや、捜査に同行させてもらう私がいう権利はないけど・・・。

 

(え・・・?)

 

その光景に私は目を擦った。

 

去り行く大和田君を見つめる霧切さんから、

一瞬、青いオーラが見えたような気がしたから。

 

「黒木さん・・・私は”推理”についてこう考えることがあるの」

 

「は・・・!?」

 

唐突に彼女は”推理”についての哲学を語り出す。

前回、舐めた推理をしてボコボコにされたことが頭を過ぎる。

また私が何かやらかした!?

い、いや・・・今回はかなり真面目で真剣だった。

落ち度は今のところない・・・はず。

ならば、なぜ!?

彼女は、事件が起きたら推理について語らなければならない

ノルマでもあるというのか!?

 

「真実に辿り着く・・・というのは、

犯人が用意した難解なトリックを華麗に紐解くことなのかしら?私は違うと思う」

 

私はビクビクしながら、彼女の哲学を聞く。

 

「真実とは日常の中にこそあると思うの」

 

 

だから―――

 

 

    ”もしかしたら、真実はどこか身近な場所に落ちているかもしれないわね。”

 

 

 

 

(ん、んん~?)

 

額に汗が流れる。

彼女は何を言っているのだろうか?

何をしたいのだろう。

霧切さんは、表情こそ崩さないものの、

何か重要なヒントを与えた、というドヤァという雰囲気に溢れている。

それに対して、

私は返す言葉が見つからず、ただ汗を流すしかなかった。

 

「コ、コホン」

 

ぎこちなく咳をする霧切さん。

 

「まあ、このことは後で考えておきなさい」

 

どうやら空気を読んでくれたようだ。

 

「それよりも準備はいい?ここから先にあるのは、あなたが逃げ出した真実よ」

 

扉に手をかける彼女は私を見つめる。

私の覚悟を試すように。

私は震えながら頷く。

霧切さんはゆっくりと女子更衣室の扉を開けた。

 

 

「あ・・・」

 

そこには気絶する前に見た光景が、悪夢で見た光景が、

キリスト像のように磔にされたちーちゃんの死体があった。

 

あの時、凍りついた刻は再び音を立てて動き出した。

 

ちーちゃんの死体の前に立つ。

物言わぬ空ろな瞳。

凶器で攻撃を受けたのだろう。

頭から血を流している。

もはや、泣いても叫んでも彼女は帰ってこない。こない・・・んだ。

 

空ろな瞳が語りかけてくる。

 

”どうして・・・どうしてボクを守ってくれなかったの?どうして・・・”

 

私はあの時、ちーちゃんを抱き締めた時、何と言った?

 

 

「君は・・・不二咲さんは・・・私が守る―――ッ!!」

 

 

守れ・・・なかったじゃないか。守ることなんでできなかったじゃないか!

私はただ彼女を安心させたかっただけだ。

彼女を徒に安心させただけだった。

何が言葉だけでも・・・だ。

何の力もないじゃないか。私の言葉は・・・私は・・・何もできなかったじゃないか。

あの時・・・最後に会った時、

引き止めることができたならば・・・

ぜ、全部・・・私が・・・

 

 

ごめんなさい・・・。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 

もう彼女を見ていることができなかった。

私は彼女の瞳から目を背け、視線を床に落とした。

 

 

その時―――

 

 

 

    ”もしかしたら、真実はどこか身近な場所に落ちているかもしれないわね。”

    

    

 

霧切さんの言葉が脳裏に響いた。

 

 

 

そこにはあるはずのものがなかったから―――

 

 

 

 

「黒木さん!?」

 

苗木君の声を背に私は駆け出し、外に出る。

 

ここにないのならあれがあるのは・・・!

 

男子更衣室の扉を開ける。

 

 

そこにそれはあった。

 

 

 

   「クロの正体が・・・わかった!」

   

   

   

 




ああ、そっちじゃない・・・!

【あとがき】

お久しぶりです。
今回、短くまとめられるかと思っていましたが、
結局1万字を超えてしまいました。
土下座に至るまでの心中描写が特に難しかったです。
でも、手を抜くと土下座の意味が薄くなるので
気合をいれるしかありませんでした。

推理トリオ結成。
しかし、これ以降また見られるのは最終章だけですw
何気に貴重です。

もこっちと大和田は書いていてきつくなりました。
どちらもいい奴ですからね・・・。

こりゃホンマ(略)は私モテの原作からです。原作重視です(断言)
まあ、ギャグ&シリアスは継続したいです。
前回がシリアスのみでしたし。

次回で捜査編終了。
一気に「命がけの~」まで行きます。

ではまた


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