私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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週刊少年ゼツボウマガジン 中編③

ピアノ、プルート、バイオリン。

指揮者モノクマの指揮の下、様々な楽器を奏でるモノクマ達。

その様子はさながら「モノクマ合奏団」。

でも奴らが演奏するのは、モーツァルトでもベートーベンでもない。

いや、そもそも奴らは演奏などしていなかった。

ただ、楽器を操るフリをしているのだ。

 

「この雌豚が~~」

 

「いや~やめて~」

 

床に置かれた安物のCDラジカセからは、

大音量で自家製ドラマCDが・・・私の黒歴史が流されていた。

モノクマは私達の恥ずかしい過去の暴露を開始した。

その先陣となったのが私。

 

ついに・・・公開処刑が始まったのだ。

 

みんなは唖然とした表情でドラマCDを聞いている。

私はあまりの恥ずかしさに顔が真っ赤に・・・どころではなかった。

全身から血の気が引いていくのを感じる。

身体は硬直して石になった気分だ。

直前まで固めた偽りの覚悟など一瞬で吹き飛ばされた。

スキャンダルが発覚した芸能人というのは、こんな心境だったのだろうか?

 

「・・・態、よ」

 

「え・・・?」

 

誰かの呟きが聞こえた。

目をやると腐川冬子がプルプルと身体を震わしていた。

顔を手で隠しているために、その表情は見えない。

まるで何かに耐えるかのように口を閉じている。

その口が突如、三日月のように裂けた。

 

 

 

「変態よ・・・黒木の奴は真性の変態なのよ~~~~~ッ!!」

 

 

「なッ!??」

 

次の瞬間、顔を上げた腐川は、満面の笑みを浮かべ、絶叫を上げた。

 

「変態・・・変態!変態!変態!変態!この変態女~~~~ッ!!」

 

(こ、この女~~~)

 

普段はみんなの後ろでネチネチと自虐を呟くだけの腐川。

だが、今の奴は違う。

私を罵倒し、辱めるためだけにみんなの一歩前に歩みでて、

”変態”という言葉を連呼している。

 

「ハアハア、変態!変態!」

 

腐川は興奮していた。

 

「初めてアンタを見た時から私は確信していたわ!

アンタは、とんでもないド変態女だって!

でも、こんなにいやらしい女だったなんて・・・黒木の変態!変態喪女~~ッ!!」

 

腐川は明らかに楽しんでいた。

顔を紅潮させて、本当に楽しそうに、私を指差し、罵倒し続けた。

みんなはそれを止めることなく、ただ唖然と眺めていた。

 

「・・・そうだぜ。この変態女!」

 

いや、それどころか腐川に追随する者が現れた。

 

「てめーみたいな変態は初めて見たぜ!チビ女!いや・・・変態女が!!」

 

大和田君は額に血管を浮かべ、私を睨む。

 

「すまない黒木君!僕にはどうしても君の性癖を理解することができない!」

 

石丸君は目に涙を浮かべる。

 

「ヒドイよ・・・智子ちゃん!」

 

朝日奈さんが目を背け、身体を震わせる。

 

「黒木・・・やはり、お主は・・・」

 

大神さんが、まるでリングで敵と相対したように低く構えた。

 

「・・・正直ドン引きだべ」

 

いつもヘラヘラしている葉隠君が無機質な目で私を見つめる。

 

「う~ん。え、えーと、ダメだ!痛すぎてネタにすらできねえ!!」

 

山田君がうろたえ、叫び声を上げる。

 

「うわぁ・・・ですわ」

 

セレスさんが完全に引いていた。

 

「フン!汚らわしいクズが!」

 

いつもと変わらぬ十神白夜の態度が逆に救いにすら感じる。

 

「ち、ちがう。み、みんな違うの!

こ、これは、そ、そう!誤解・・・誤解なんです~~~ッ!!!」

 

冷え切った雰囲気と

針のような視線に耐え切れなくなった私は弁明の声を上げた。

 

なんでもいい。

とにかく、この状況から逃れなくては!

そ、そうだ。これを全て、モノクマの捏造にしてしまえば・・・。

 

 

――――それは違うよ!

 

 

全てをモノクマの捏造にしようとした矢先だった。

雷鳴のように、その声はこの部屋全体に、私の中に響いた。

苗木君が・・・苗木君がまるで学級裁判で”クロ”を見るかのような目で私を見つめていた。

 

「ち、違うの!こ、これは全部、モノクマの捏造で・・・」

 

それに対して、私は追い詰められたクロのように苦しい言い訳をする。

 

「それは違うよ!なぜなら・・・」

 

苗木君は、ゆっくりと銃口を向ける。

 

「この声は紛れもなく、黒木さん・・・君の声だ!」

 

「う、うぎぃいいいい~~~~ッ!!」

 

放たれた言弾が、私の右肩を貫いた。

 

「苗木君、どうやら見えてきたみたいね。この汚物の正体が」

 

霧切さんがゴミを見る瞳で私を見下ろしている。

その問いに苗木君は大きく頷いた。

 

「黒木さん・・・君は超高校級の”喪女”なんかじゃない!」

 

そう、君の正体は―――

 

 

        超高校級の”変態”だぁーーーーーッ!!

 

 

 

「うわぁああああああああーーーーーーーッ!!」

 

トドメの言弾が私の心臓を貫いた。

 

「う、うぁ、ああ・・・」

 

私はあの時の桑田君のように、ヘナヘナと地に膝を屈した。

 

もう、ダメだ。

もう、おしまいだ。

私は、超高校級の”変態”となってしまったのだ・・・!

とても生きていくことなどできない。

 

もう・・・この世のどこにも私の居場所はないのだ。

 

 

    ”居場所ならあるよ!”

    

 

「え・・・?」

 

懐かしい声が聞こえた気がした。

その方向を見ると、床がガタガタと動いている。

ガチャリ、床の扉が開き、

天使の輪とピンク頭が飛び出してきた。

 

「久しぶりだね☆もこっち」

 

「盾子ちゃん!?」

 

なんということだろう。

モノクマに殺されたはずの盾子ちゃん。

その彼女が再び私の前に姿を現したのだ!

 

「江ノ島さんだけじゃないですよ、黒木さん!」

「俺達もいるぜ!」

 

「え?ま、舞園さん!?桑田君も・・・!?」

 

驚きは続く。

なんと殺された舞園さんと処刑された桑田君も出てきた!?

彼女達の頭にも盾子ちゃんと同じ天使の輪が浮かんでいた。

 

「ずっと天国から見守っていたんだよ。頑張ったね、もこっち」

 

変わらぬ笑顔に涙が出そうになった。

盾子ちゃんは、天国から私のことを見守ってくれていたのだ。

 

「この世に居場所がないなら、あの世にくればいいんだよ☆

一緒に天国で暮らそう!もこっち」

 

「四季折々の美しい場所ですよ!」

「毎日、野球ができて楽しいぜ~~」

 

それはまさに天使の誘惑だった。

天国に行く・・・が。

うん、それも悪くないかもしれないな・・・。

 

「そもそも、もこっちはこの世が合わなかったんだよ!」

 

変わらぬ笑顔に涙が出そうになった。

私の人生、全否定ですか、そうですか・・・。

ああ、もう!

どうしてコイツはいつも一言多いのだ!

 

しかし・・・以前に妄想推理していた時から気にはなっていたのだけど・・・・。

天国って、普通は下ではなく上の方にあるのでは・・・?

 

「あ、あの、盾子ちゃん」

 

「なんだい?もこっち」

 

「ちょ、ちょっと天国を見てみたいのだけれど・・・」

 

「・・・。」

 

盾子ちゃんは無言の笑顔で道をあけた。

三人とも笑顔で私を見つめる。

でも、それは作ったような笑顔、そう感じられた。

どこか腑に落ちなさを感じながら、

私はついに天国を目の当たりにするためあの床の扉の前に立った。

 

そこを覗くと、そこには天国の光景が―――

 

 

 

グツグツと煮えたぎる赤いマグマのような池からは、

そこに落とされた人間達の絶叫が聞こえてくる。

その熱気と悲鳴に一瞬で全身に汗が浮かぶ。

もし、この場所をに名前をつけるなら、きっと「灼熱地獄」が相応しい。

 

あちらでは氷山がそびえ立ち、ブリザードが吹き荒れている。

落とされた人々は、氷漬けにされ、その姿はまるで天然のオブジェのよう。

名づけるなら「氷雪地獄」かな。

 

「まさに”ザ・四季”といった感じですよね!」

 

いつの間にか横に立っていた舞園さんが同意を求めてくる。

 

「な、夏と冬の主張が激しすぎる気が・・・・」

 

かろうじて返答する。

 

あの場所が夏と冬ならその間の空間は。

道のようになっているところが春と秋に該当するのでしょうか?

二つの地獄の間には道のようになっていた。

そこでは、赤や青の大男達が人々を金棒で追い回し、

灼熱地獄や氷雪地獄に追い落としていた。

その頭には、角が生えていた。

 

「あ、あの方々は・・・?」

 

「ああ、メジャーリーガーだよ。バット持ってるだろ?」

 

隣に立つ桑田君がそっけなく答える。

 

「で、でも、ちょ、ちょっと大きすぎる気が・・・」

 

「ああ、彼は南米出身だからな」

 

「角が生えているのですが、それは・・・」

 

3mはあろうかと思われる青鬼がこちらを見て、”グルル”と唸っている。

 

 

ああ、ここってもしかして・・・

 

 

その時だった。

 

(---ッ!?)

 

後ろから何か強烈な殺気のようなものを感じた。

それが何なのかを考える前に本能が動いた。

私は身体をひねり回転した。

 

「え!?」

 

誰かの驚く声が聞こえた。

顔を上げると盾子ちゃんと目が合う。

彼女の両手はさっき私がいた空間に伸びていた。

まるで突き落とすかのように。

 

「フ、フフフフフフ」

 

「うひ、うひひひひ」

 

私達はお互いを見つめ笑い合う。

その間、私は後ろに少しづつ下がり、距離をとる。

 

「どうしたのかな?もこっち」

 

「いや別に・・・盾子ちゃんこそ、何かな?」

 

「どうして、後ろに下がっているのかな?」

 

「盾子ちゃんこそ、どうして近づいてくるのかな?」

 

後ろに移動しながらも、私はまるで格闘技者のように、一定の間合いを保つ。

盾子ちゃんはそれに気づき、ギリギリの距離を保つ。

 

お互いが笑みを止めた瞬間―――

 

 

「ハァッ!!」

 

「クッ!!」

 

 

盾子ちゃんは高速タックルで突っ込んできた。

それはまるで獲物を狩る狼のような。

攻撃を予期していた私は、全力で腰を後ろに引いて、タックルに耐えた。

一瞬の膠着状態が起きる。

 

だが、それもまさに束の間。

 

「うわぁ!?」

 

両足タックルの失敗を認めた盾子ちゃんは即座に片足タックルに切り替え、

私の右足に絡みついた。

耐えることができなかった。

私は尻餅をつき、展開はグランドに移行する。

盾子ちゃんは私の右足にしがみつき、

私はそのピンク頭を必死に押さえつける。

 

「何でよ!なんで一緒に行ってくれないのよ!?」

 

「ふざけんな!行くわけねーだろ!?」

 

喚き散らす盾子ちゃんの願いを一蹴する。

何が天国だ!?完全に地獄じゃないか!

 

「お願いもこっち!

私が出世するには生きた人間の肝を豪鬼様に献上しなければならないのよ!

だからお願い!私達、親友でしょ!?」

 

「お、お前、親友の私を売るつもりか!?」

 

出世のために鬼に親友を売り渡す。

その心はもはや人間ではなく、鬼そのもの。

 

「うぉおおおーーー放せ!放せぇえええええ!!!」

 

私は脱出しようと全力で暴れる。

 

「放せよオラ!オラオラオラオラオラオラオラァアアアア~~~~ッ!!」

 

目の前のピンク頭にエルボーを連打する。

 

「――痛ッ!?」

 

肘が何か鋭利なものが刺さった。

痛みに驚き、慌ててその場所を見る。

 

その場所には、ピンク頭には――――

 

 

      小さな角が生えていた。

 

 

涙が出た。

コイツ・・・どこまで堕ちれば気が済むのだろうか。

私の親友は、ついに身も心も鬼となってしまったのだ。

 

「グルルルル・・・」

 

盾子ちゃんは牙を見せながら、低く唸る。

 

「グルルル・・・じゃねーよ!」

 

「アイタッ!?」

 

むかついたので頭にゲンコツを叩き込む。

盾子ちゃんは、人間時代のリアクションをとった。

 

「桑田君!私達も江ノ島さんを手伝いましょう!」

「おうよ!」

 

二人も正体を現した。

一本角の舞園さんは、鬼になってもやはりかわいかった。

二本角の桑田君は、雷様みたいで、何故か様になっていた。

 

「ふぎぃいいいい~~~~ッ!!」

 

多勢に無勢。

私は、床にツメを立てて必死に抵抗するも、

ズルズル、と地獄へと引きづりこまれていく。

 

「助けて!お願い!助けて~~」

 

私は目の前の人物に助けを求める。

 

「助けて!助けて・・・ちーちゃ~~ん!!」

 

ちーちゃんは、目に一杯の涙を浮かべ、首をプルプルと振り続けた。

 

 

「助けて!ちーちゃ・・・うわぁああああああ~~~~~」

 

 

断末魔を上げ、私はついに地獄へと堕ちて行った。

 

 

…………

 

・……………………

 

・……………………・……………

 

・……………………・……………・……………・

 

・……………………・……………・……………………・……………・……………………・……………

 

 

 

 

「うわぁあああああ~~~~」

 

ここは・・・?

 

「ハア、ハア、ハア・・・」

 

ここは・・・地獄ではないようだ。

気がづくと私はベッドの上で、上半身だけ起こして宙に手を伸ばしていた。

頬に嫌な汗が流れ落ちる。

まるで全力でマラソンをした後のように、

全身から汗が吹き出していた。

 

(夢か・・・)

 

どうやら先ほどの出来事は夢だったようだ。

まさに悪夢そのものだ。

現実世界の悩みが夢に反映すると聞いたことがあるが、

それならば、私はどれだけ追い詰められているのだろうか?

 

(時間は・・・?)

 

時計の針は、9時を越えていた。

悪夢が現実となるまで、あと3時間を切っていた。

いよいよ覚悟を決める刻がきたようだ。

私が深くため息をついた時だった。

 

「先ほどまで爆睡していたバカがいたので、もう一度放送しま~す!」

 

スピーカーからあの野郎のムカつく声が聞こえてきた。

 

「ただいまの時間を”捜査時間”とします!

各自、自由に捜査しちゃってください!プププ、何か起きたみたいだよ~」

 

”先ほどまで爆睡していたバカ”とはきっと私のことだろう。

だけど、”捜査時間”というのは・・・。

私は急いでシャワーを浴び、着替える。

”何か起きた”

奴の最後の言葉にえもいわれぬ不安と胸騒ぎがした。

 

 

 

食堂に行くと、苗木君と朝日奈さんと大神さんがいた。

 

「な、苗木君、さっきの放送って・・・」

 

「黒木さん。僕も、今、ここにきたばかりだから、まだ何も・・・」

 

私の問いに苗木君は困惑の表情を浮かべた。

彼も状況を把握できていないようだ。

 

「・・・おそらく、また起きてしまったのではないか」

 

「え、で、でも、そんな・・・」

 

”また”という大神さんの言葉に朝日奈さんが狼狽する。

その言葉はあの忌まわしい事件を連想させた。

苗木君と目が合った。

不安そうな表情。

きっと、私も同じ表情をしているのだろう。

 

「ククク、ならば調べてみるしかないな」

 

見下すような笑みを浮かべ十神白夜が姿を現した。

 

「ここは奴の言葉に乗ってやるとしよう。

ククク、ただ立っていても仕方なかろう」

 

なんだろう・・・?

 

十神白夜はいつになく上機嫌だった。

 

「よし・・・捜査するぞ。ついてこい、苗木」

「え・・・!?」

 

十神は、捜査の同行者に苗木君を指名した。

十神と苗木君が話しているのを度々見たことがある。

どうやら、仲はいいようだ。

 

「そうだな・・・もう一人は・・・イモ虫、お前もこい!」

 

「あ、はい・・・え?えぇえええええええ~~~~!!???」

 

流れで承諾した後に、私は驚愕の声を上げた。

十神が!?私を!?

訳が分からなかった。

私は十神とまったく仲がよくない。

むしろ嫌悪し合っている関係である。

それに同行者は苗木君だけでいいではないか?

疑問を口に出す前に十神はさっさと食堂を出て行く。

苗木君と私は慌ててその後を追う。

十神は迷うことなく、2Fへの階段を上がっていく。

そして、更衣室の前で足を止めた。

 

「・・・ここが怪しいな」

 

「あ、そこは・・・!」

 

あろうことか女子更衣室の方へ進む十神を見て、私は慌てる。

女子更衣室の前には侵入者撃退のマシンガンが取り付けられている。

ここに入るには女子の生徒手帳が必要だ。

いくら十神のことが嫌いでも、

奴のミンチなど目の当たりにはしたくない。

私は慌てて、生徒手帳を取り出そうとした。

 

「現在は捜査時間のため、全ての部屋を開放しま~す」

 

監視カメラで私達のことを盗み見ていたのだろう。

モノクマはいやらしい声が頭上から聞こえてきた。

 

「・・・だ、そうだ」

 

ククク、と笑いながら、十神は更衣室の扉を開けた。

 

「十神君、待ってよ!」

 

苗木君が後を追う。

その直後だった。

 

 

「うわぁああああああああ~~~~~~!!!?」

 

 

苗木君が叫び声を上げて、尻餅をついた。

 

「な、苗木君!?どうしたの!?」

 

突然の悲鳴に驚きながらも、苗木君の傍に行こうと、私も部屋に足を踏み入れた。

 

次の瞬間、苗木君と目が合う。

 

 

「黒木さん!見ちゃダメだぁあーーーーーーーッ!!!」

 

「え、一体何があ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ”ザ・ワールド”

               

 

 

 

 

その瞬間、時が止まった。

某人気漫画の中に、”スタンド”という自分の分身を操り戦うバトル漫画がある。

様々な能力がある中で、最強と言われている能力は”時の支配”である。

 

全てが停止する中で、自分だけが動ける。

 

まさに”ザ・ワールド”

世界を支配するに相応しい能力である!

その能力が今、まさに私の中に発動したのだ。

世界は停止している。

 

十神は傲慢な笑みをしたまま固まっている。

苗木君は、悲痛な表情を浮かべている。

 

全てが止まっている。

いや・・・止まってなどいない。

ほんの少しずつ動いている。

そう・・・これは、スタンド能力などではなかった。

 

交通事故で車にはねられた瞬間、

被害者は、飛ばされる最中、全てがスローモーションのように遅くなったように感じた。

そんな話を聞いたことがある。

ある研究者によれば、

それは、生存するために、

ありとあらゆる可能性を検索するために脳がフル稼働している結果だという。

そうであるならば、今の私は何だろう?

命の危険を回避するために、脳がフル稼働している・・・?

いいや、そうではない。

 

 

それはきっと、私の脳が目の前の現実を全力で拒否したからに他ならない。

 

 

だが、それも限界が訪れようとしていた。

凍れる時が急速に溶けていくのを感じる。

時は・・・動き出した。

 

私は最後の抵抗をするかのようにありったけの声を上げ、叫んだ―――――

 

 

 

 

「うわぁあああああああああ~~~~~ちーーーちゃああああああああ――――」

 

 

 

その顔にはあのひまわりのような笑顔はなかった。

その瞳にはあの輝くような希望はなかった。

ただ、うつろに地を見つめ、頭からは血を流している。

まるでキリスト像のようにコードで体を固定され、彼女はそこにいた。

 

壁には地文字で

 

 

 

           ”チミドロフィーバー”

    

 

 

ぞこにあったのは、私の親友の変わり果てた姿だった。

 

 

キーン、コーン…カーン、コーン♪

 

  「死体が発見されました! 一定の捜査時間の後、“学級裁判”を始めます!」

 

 

 

 




希望なき物語のはじまり―――



【あとがき】
次話から絶望を描けるのか・・・難しいですが、頑張ります。


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