私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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週刊少年ゼツボウマガジン 前編③

「ちーちゃん、何か見つけた~?」

「ううん、この本には何も書かれてないみたいだよぉ」

「だよね~」

 

 

私達は現在、2Fの図書室にいる。

2Fが開放されてから、大体毎日2時間ほどここで脱出に関する資料を探している。

図書室は広く本や資料はあらゆるジャンルが網羅されているので、なかなか骨が折れる。

ここはまるで本物の希望ヶ峰学園の図書館ではないのか?そう錯覚させるほど本格的だった。

私達が最も欲しい資料は勿論、学園の詳細な図面。

もっと正確にいえば”隠し通路”が載っている図面だ。

モノクマがどこからでも現れるのは、あちらこちらに収納口があるからだ。

ならば、黒幕本人が出入りする秘密の通路の一つや二つあっても不思議ではない。

この推理はあながち間違ってはいないはずだ。

でも、もし私が黒幕ならば、そんな大事な図面をこんな場所に置かないけどね・・・。

半ば、諦めながらも、暇つぶしも兼ねてダラダラと資料を探している時だった。

 

「きゃあ~!」

 

熱心に資料を探していたちーちゃんが突如悲鳴上げた。

 

「え、な、何!?ど、どうしたの、ちーちゃ・・・ヒィッ!?」

 

ちーちゃんの傍に駆け寄った私もそれを見て呻き声を上げた。

彼女の開いたファイルには死体の写真が載っていた。それも複数。

その死体は人目で惨殺されたとわかった。

 

被害者は全員”男性”のようだ。

”ハサミ”で手足を磔にされてた。

壁には、被害者の血で”チミドロフィーバー”と書かれている。

 

「うわぁ・・・」

「こ、怖いよぉ・・・」

 

震えながらもページを進める。

怖さよりもその死体の特異性に心を奪われてしまった。

 

「ジェノサイダー翔だな」

 

突然の声にビクリとして、その声の方を振り向く。

そこには一人のクラスメイトが優雅さを漂わせながら立っていた。

その容姿からは気品と圧倒的な財力を連想させた。

その出自はまさに超高校級。

十神財閥次期後継者。

 

超高校級の”御曹司”十神白夜が私達を見下ろしていた。

 

「悲鳴を聞いて何かときてみれば、

なかなか面白いものを引き当てたじゃないか」

 

そう言って、十神君は、ククク、と肩を揺らす。

彼特有の乾いた笑み。

それは、自分以外の他者全てに対する嘲りのように感じられた。

 

「ジェノサイダー翔・・・?」

 

私はオドオドとしながら、彼の言葉を問い返す。

私はどちらかと言えば、傲慢な彼が苦手だった。

 

「フ、イモ虫ごときが、この俺に問うか・・・まあいい」

 

十神は私を見て鼻で笑った。

嫌いだ!私はコイツが大嫌いだ!

 

「被害者は全員男性。凶器はハサミを使用。ハサミで被害者を磔。

現場には”チミドロフィーバー”の血文字。間違いなく奴の犯行だ」

 

「で、でも、そんなことはテレビでも新聞でも報道されていなかったよぉ」

 

ちーちゃんの言葉に私も頷く。

確かにそうだ。

ジェノサイダー翔が関与されたとされる事件はテレビや新聞で度々報道されているが、

十神の話の内容は聞いたことがない。

 

「報道されていないのは当然だ。これは警視庁の機密事項だからな」

 

だが、十神は私達の困惑を鼻で笑った。

 

「我が十神財閥は世界経済に対して巨大な影響力を持つ。

その権力と特権は経済を超え、政治をはじめあらゆる分野に及ぶ。

もちろん、警察も例外ではない。

俺の部屋のPCから警視庁のデータベースに直接アクセスすることができる。

その時に見た資料と今、あるこの資料は完全に一致している」

 

民主主義国家の根底を揺るがす事実を当たり前のように口にする十神。

これを普通のクラスメイトが言うなら

 

「ハイハイ、そういうギャグいらないから」

 

で済むが、彼ならば話は違う。きっと真実なのだろう。

なぜならば、彼はあの十神白夜なのだから。

 

「ククク、黒幕とやらなかなかに面白いものを集めているではないか。

これなど世間に公表すれば、ブラザーマンショックを超える恐慌が起きるぞ」

 

愉快そうに資料を眺めていた十神の笑みが止まる。

 

「・・・やはり、殺すしかないな。

まあ、この俺をこんなところに閉じ込めた時点で、奴の凄惨な最後は確定事項だがな」

 

ゾクリとした。

それは凍てつくほどに。

冷たい・・・冷たい瞳だった。

 

「ああ、そうだ。いい機会なのでついでに言っておくか」

 

資料を置いた十神は、こちらに向かって歩を進め、ちーちゃんの前で止まる。

 

「十神の名において宣言する。不二咲千尋・・・」

「え・・・?」

 

 

 

 

 

貴様は、俺のものになれ―――

 

 

 

 

 

 

(え、えぇええええ~~~~~~~ッ!!)

 

十神白夜の突然のプロポーズに私は心の中で絶叫した。

な、なんという俺様キャラの告白。

それが様になっているから恐るべし!十神白夜!

さすがは世界十指と称される十神財閥の後継者である。

 

「言っておくが、貴様に拒否権はないぞ。俺は欲しいものは必ず手にいれるからな」

 

お、おお~~これも凄いセリフだ。

こんなセリフは乙女ゲーですら聞いたことがないや。

私の方が顔が赤くなり、頭がクラクラしてきた。

 

「お前が十神財閥と専属契約した暁には、

傘下のIT企業の重役の椅子をはじめ、貴様が望む環境全てを提供することを約束しよう」

 

(そっちかよ~~~~~~ッ!!)

 

私は心の中で盛大にズッこけた。

十神白夜は、ちーちゃんではなく、ちーちゃんの”プログラマー”の才能が欲しかったのか。

なんだよ、驚かせやがって。

 

「え、で、でも・・・」

 

十神のプロポーズ・・・ではなく、スカウトにちーちゃんは困惑しているようだった。

 

「あ、あの・・・ボ、ボクは、今まで応援してくれたスポンサーさんもいるし。

できれば、今の環境で研究を完成させたいんだ。だから・・・ご、ごめんなさい」

 

オドオドしながら、ちーちゃんは十神君から視線を逸らした。

 

「ククク、それは貴様の”意志”か?不二咲千尋。

いや・・・そもそも、貴様に意志など本当にあるのかな」

 

「え・・・!?」

 

十神の挑発めいた言葉にちーちゃんは表情を変える。

 

「貴様の経歴を少しばかり調べさせてもらった。

父親の手に導かれ、着実に才能を開花させ、成功を収めた。

なるほど、なかなかの美談じゃないか。

だが、それのどこに貴様の意志があるのだ?」

 

「う・・・うぁ」

 

十神白夜の冷徹な指摘にちーちゃんは息を詰まらせる。

 

「意志とは、ただ一人、何を敵に回しても成し遂げようとする覚悟の結晶だ。

たとえ、敵が血を分けた親しい者達であろうともだ。

貴様にはそれがあるとでもいうのか?」

 

見下している。

十神白夜は、その意志を持たぬちーちゃんを明確に見下していた。

 

「逆らいたいなら好きにするがいい。意志を見せてみろ。

だが、貴様がどこに行こうとも、その企業ごと買収してやる。

貴様は必ず俺の物にする。十神の名にかけてな!」

 

「・・・。」

 

ちーちゃんは答えることができなかった。

ただ下を向き、小さく震えているだけだった。

 

「ククク、安心しろ。悪いようにはしない。

俺は貴様の才能を高く評価している。

貴様は間違いなく天才だ。

これからのIT産業は貴様を中心に回っていくことになるだろう。

駒に意志は必要ない。

せいぜい、俺の下で励めよ。ククク、クハハハ」

 

ちーちゃんを見下ろし、十神白夜は肩を震わし笑う。

 

「ち、ちーちゃん、だ、大丈夫?」

 

ちーちゃんの顔は青ざめていた。

当たり前だ。

こんな嫌な奴にあんなことを言われたのなら、私だって最悪の気分だ。

ああ、私だって嫌だ。

友達がこんなことを言われ、笑われるのは。

 

十神白夜を見る。

まるで傲慢が服を着て歩いているような奴だ。

どんな教育を受けたのだ。一体何様のつもりだろう

 

 

(お前だって・・・十神家に生まれただけのくせに)

 

 

そんな侮蔑をこめて、一瞬だけ十神を睨んだ。

 

その時だった―――

 

 

「運よく十神家に生まれただけのボンボン。

貴様・・・今、そんなことを思っていただろう?」

 

 

ギクリとした。

そこまで強くは言っていないが、だいたい合ってる。

なぜ、バレたのだ!?

 

「ククク、図星のようだな」

 

十神は驚愕する私を見て、冷笑する。

 

「ちなみに俺は10万の資金を国内株をはじめ、海外株、FXで3年で400億ほどにした。

言うなれば、超高校級の”トレーダー”でもあるわけだ」

 

(4、400億・・・!?)

 

その数字に度肝を抜かされた。

コイツ・・個人の実力でもそんなにスゴイの・・・?

 

「貴様ら平民の考えることなどお見通しだ。

どいつも同じことを考える。

自分も十神家に生まれさえすれば・・・そんな目をしながらな」

 

十神白夜の雰囲気が変わる。

その瞳には明確な怒りの感情があった。

 

 

「もう一度、その目を俺に向けてみろ。

貴様をこの世界から跡形もなく消してやる・・・!」

 

 

その瞬間、私と十神の立ち位置が変わる。

身長差などではなかった。

十神は、遥か高みから私を見下ろしている。

まるで玉座から臣下を見下ろしているかのように。

その冷徹な瞳を見ると、

即座に地に平伏し、許しを請いたい衝動に駆られる。

それは、モノクマの”悪意”に似ていた。

そう、それは支配者となることを宿命づけられた者のみが持つ

冷徹な帝王の眼差し。

 

「い、行こう!ちーちゃん」

 

この場にいることに耐えられなくなった私は、

ちーちゃんの手を引き、図書館を出ようとする。

 

「待て、まだ聞きたいことがある」

 

だが、十神は許してくれない。

一体何だ?何を聞きたいというのだ!?

 

「図書室に2台あったPCの内の1台がなくなっている。貴様ら知らないか?」

 

 

ギクリ―――

 

心臓が止まりそうになった。

犯人知ってます。私です。

 

「え、それって・・・」

「あわ、あわあわわわわ~~」

 

ちーちゃんの口から真実が出るのを手で物理的に防いだ。

十神白夜が疑いの眼差しでこちらを見ている。

 

「えーと、あ、思い出した。確か葉隠君が、

”なかなかいいPCだべ”とかいいながら、この辺りをうろついていたような」

 

「奴か―――」

 

その名を聞いた瞬間、十神は勢いよく、図書室を出ていった。

悪い意味で圧倒的な信頼感である。

十神が戻ってくる前に、私達は図書室を脱出した。

 

この時、私の心の中に、葉隠君に対する罪悪感は欠片もなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の部屋へ戻る帰りの廊下を私達はトボトボと歩く。

十神白夜のインパクトはあまりにも大きかった。

それは呼称が”十神君”から”十神白夜”に変わるほどに。

 

まさかあれほど傲慢な奴だとは・・・。

ショックを受けたのは私だけではない。

ちーちゃんは青ざめたままだった。

あんな奴に自分の未来を決められようとしているのだから、

この落ち込みはむしろ当然と言えよう。

意志がない、と奴にそう言われた時から

ちーちゃんはずっとこの表情を続けている。

 

なんとか私がちーちゃんを元気づけなくては・・・!

 

そう決心し、私が声をかけようとしたまさにその時。

最悪のタイミングでヤツが現れた。

 

 

「ガァォオオオオ~~~!!」

 

 

「ヒ・・・ッ!?」

「きゃあ!?」

 

突如、床が開き、熊が飛び出してきた。

いや、ソイツは熊ではなかった。

確かに熊と言えば熊だか、野生の熊とは明らかに違う。

ソイツは野生の熊には持ち得ない禍々しい感情を。

野生の本能を遥かに凌駕する人間の悪意を持っていた。

 

モノクマが熊のフリをして私達の前に姿を現したのであった。

 

「いやー久しぶり!元気だった!?」

 

親しい相手なら挨拶を返したいが、コイツには無理だ。

コイツこそ、私達をここに閉じ込めている黒幕の化身なのだから。

 

「いつの間にか、みんないい感じで仲良くなってきてるよね、プププ」

 

モノクマは嬉しそうに笑いを堪える。

その笑みを見ていると不快を通り越して、嫌悪感が沸いてくる。

 

「特にもこっちに友達が出来て、先生はとても嬉しいです~~」

 

モノクマはハンカチを目に当てて涙を拭うフリをする。

あ~~腹立つな、コイツは!!

 

「まさか、あの”ミスターぼっち”に友達が・・・!」

「ミスターじゃねーよ!女だからミスだよ・・・って、うぐ」

 

つまらないところを修正してしまった。

違うもん!私はぼっちじゃないもん!

 

「私が不二咲さんを守る・・・!」

 

いつの間にか私の髪型のカツラを被ったモノクマがあの時のセリフを叫ぶ。

 

「や、やめろよ!バカ!」

 

私は耳たぶまで真っ赤になった。

必死だったとはいえ、客観的に見たら、なんて恥ずかしいのだ。

お願いです。やめて下さい!

 

「プププ、成長したね~もこっち。それに比べて・・・」

 

「きゃあ!」

 

ヌッと私達の前に急速接近したモノクマに

ちーちゃんは小さな悲鳴あげて私の後ろに隠れた。

 

「君は本当に情けない奴だね~不二咲”君”」

 

ちーちゃんを見つめながら、モノクマは大げさにため息をついた。

本当に嫌な奴だ。

何が不二咲”君”だ。学園長ぶりやがって。

 

「女の子を盾にしてガタガタブルブル。なんて弱虫なんだ、君は。

あ~情けないったらありゃしない。

ボクなら恥ずかしくて生きていけないよ、プププ」

 

「ウ、ウゥ・・・」

 

モノクマの罵倒にちーちゃんは肩を震わせる。

彼女の怯えが背中を通して伝わってくる。

でも、どこか奇妙な会話だった。

ちーちゃんのようなか弱い女の子が、

モノクマのような凶悪な殺人鬼に怯えるのは当たり前ではないか。

怯え、私の後ろに隠れた・・ただそれだけである。

一体それに対して何が非難されるのだろうか。

私だってルールを守れば危害を加えられないことを知っているから

なんとか冷静でいられるだけなのだ。

 

モノクマは相変わらずの笑みを浮かべている。

ちーちゃんは震えたままだ。

だんだんと怒りが沸いてきた。

 

友達がいじめられている―――

 

それを見ているのは、自分が罵倒されることより、ずっとずっと辛い。

なによりムカつく!

 

「や、やめろよ!ちーちゃんを・・・私の友達をいじめるな!!」

 

内心怯えながらも、それ以上に腹を立て、私はモノクマに向かって声を上げた。

 

「プププ、なんだよもこっち。熱くなっちゃさ~~」

 

私を見て、モノクマはいやらしい笑みを浮かべる。

 

「君の狙いはわかってるよ~。

ここぞとばかりに不二咲君に恩を売るつもりなんだろう?

如才がないというか、さすがはぼっちというべきか、必死だよね~プププ」

 

打算による行動・・・モノクマはそう言っているのだ。

プチッ・・・と私の中で何かが切れる音が聞こえた。

 

「ふざけんな!誰がそんなこと考えるか!!」

 

友達を助けたい、それ以外に理由なんてあるはずないじゃないか。

 

 

「調子に乗るなよ!お、お前なんか

ツキノワグマどころかアライグマにすら相手にされないくせに!」

 

「な・・・ッ!?」

 

「ハチミツくせーんだよ!近寄るな、あっちいけ!」

 

「ぬ、ぐぬぬぬぬ~~~」

 

 

私の怒り罵倒がモノクマにクリーンヒットした。

奴は血管を浮き立たせながら、プルプルと震えている。

 

「猟友会が来る前に洞穴に帰れよ!ほら、シッシ!」

 

「も、もこっちの分際で調子に乗りやがって~~覚えとけよ!」

 

モノクマは熊の癖に負け犬のようなセリフを吐いて去っていった。

勝った!ざまあみろ!

 

 

「私がここから出たら、必ずお前を捕まえて牢屋にぶち込んでやるから!」

 

 

姿が見えなくなったのをいいことにちょっと大きなことを言ってやった。

現状を考えれば、今は実現不可能な願望ではなるが、憂さ晴らしも兼ねて力強く宣言してみた。

 

 

「ちーちゃん、もう大丈夫だよ」

 

「・・・。」

 

「ちーちゃん・・・?」

 

「どうして・・・なの?」

 

「え?」

 

「どうして・・・怖くないの?」

 

 

振り返るとちーちゃんは思いつめた瞳で私を見つめていた。

 

「どうしてもこっちはそんなに勇敢なの・・・?

あんな恐ろしいモノクマと、どうして戦うことができるの?」

 

真剣な表情だった。

彼女の瞳には、私しか映っていなかった。

 

 

「ボクはただ震えることしかできなかった。

今と同じように・・・あの裁判でも。

でも、もこっちは・・・事件の真実を解いてボクやみんなを助けてくれた。

本当にすごいよ。

ボクと同じ高校生なのに・・・女の子なのに・・・。

それに比べてボクは・・・ボクは・・・!」

 

ちーちゃんは震えていた。

それは先ほどのように恐怖からの震えではなかった。

それは悔しさで。

自分に対する不甲斐なさで震えていたのだ。

 

(ああ、なんということだ・・・)

 

彼女の様子から、1つの結論に辿り着き私は心の中で頭を抱えた。

 

 

そう・・・

ちーちゃんは・・・

 

 

完璧すぎる”スーパーヒロイン”の私にコンプレックスを抱いてしまったのだ―――

 

 

 

あの命掛けの学級裁判において、クロの犯行を華麗に論破し、

殺人鬼モノクマ相手に昂然と立ち向かう私の姿は、

まさにスーバーヒロインに映ったのだろう。

逆に、十神白夜ですら天才と認めた彼女の”プログラマー”の才能は

この状況下において、生かすのは正直難しい。

だから、私が活躍すれば、するほどに、私に憧れれば、憧れるほど。

その度、ちーちゃんは、今の自分の無力さと向かい合うことになってしまったのだ。

 

(ああ、違うよ、ちーちゃん。そうじゃないんだ・・・)

 

確かに、私は可愛くて、賢いことは間違いない。

だけど、君が思っているようなスーパーヒロインじゃないんだ。

あの裁判の真実を解いたのは、本当は苗木君と霧切さんなんだ。

モノクマはルールを破らない限り、襲って来ることはないことが

わかっているから、奴にあの態度をとることができるのだ。

う~ん、正直マズイ状況だ。

 

真実の姿がバレた時の落差。

 

それは私は嫌というほど体験している。

従妹のきーちゃんのゴミを見るような目が頭を過ぎる。

この状況下はあの流れと似ている気がする。

なんとか軌道修正しなければならない。

適度な尊敬を保ちつつ、身近な存在。

そんなナイスなポジションに落ち着くには・・・。

正解に辿り着くために、頭脳が高速で回転する。

それは学級裁判以上の速さで。

 

答えが出た。

そしては、私は速やかにそれを実行に移した。

 

「う、うぅぅ・・・」

 

「え?」

 

突如、私は自分の身体を抱き締め、ガタガタと震えだした。

 

「ど、どうしたの、もこっち?具合が悪いの?」

 

心配そうに私を見つめるちーちゃん。

よしよし、いい流れである。

 

「違うよ・・・違うんだ、ちーちゃん」

 

私は俯きながら、少し辛そうな声で返答する。

 

「も、もうこれ以上・・・我慢できないんだ。

怖くて・・・震えるのを堪えていることができなくて。

ただ、それだけだから・・・」

 

チラリとちーちゃんを見る。

心配そうに私を見ている。

いい感じである。だが、ここからが本番だ。

 

「怖いのに・・・そんなに震えているのに。

なら、どうして・・・どうして戦うことができるの?」

 

それは私が待ち望んでいた質問だった。

私はゆっくりと顔を上げて、ちーちゃんを見る。

彼女の瞳に私が映っている。

瞳の中の私は真剣な表情だった。

それが演技だとはわからないほどに。

 

「自分でもよくわからないよ。

でもたぶん、それは、私に守りたい大切な人がいるからだと思う」

 

「大切な・・・人」

 

ちーちゃんの言葉に私は大きく頷く。

 

「私には大事な家族や友達がいる。

でも、もしモノクマが今回の事件で警察に捕まらなかったら・・・

逃げ切ったならば、アイツはきっとまた同じ犯行を繰り返すかもしれない。

その時、次に狙われるのは、私じゃなくて私の家族かもしれない。

私の友達かもしれない。

だから・・・私は戦うんだ。

アイツを逃がしちゃいけない。

みんなを守るために、アイツは捕まえなくちゃダメなんだ。

だから私は、決めたんだ。アイツと戦うって。

たとえ、どんなに怖くても、本当は、泣き出しそうでも。

絶対負けないって。大切な人達を守りたいから。

みんなを守りたいから、私は戦うことができる。

そのために、戦うんだ。

私が今、アイツに反抗していることは無意味かもしれない。

無力で、何の成果もないかもしれない。

だけど・・・それでも私は、今、自分ができることをやるんだ。

それがもしかしたら、希望に繋がるかもしれない・・・そう信じているから」

 

 

私は頭の中の台本を全て言い切った。

ちーちゃんは、目を見開き、私を見ている。

その真剣な表情にドキドキしてきた。すごく後ろめたい気分だ。

即席にしてはなかなかよく言えたと思う。

要約すれば

 

”みんなのために自分ができることを頑張る”

 

うん、漫画やアニメの主人公のテンプレである。

しかし、改めて台本を読み直してみると、セリフの雑さが目立つ。

正直、曖昧過ぎて意味不明である。

戦うなどとカッコいいことを言っているが、

その実は、モノクマの無抵抗をいいことに、散々煽ってるだけである。

これでは、むしろ悪役の行動だ。

それが一体、何の希望に繋がるというのだろう?

モノクマを操る黒幕を捕まえてほしいのは心からの本音である。

だが、それは家族や友達のためより、私自身のためである。

あんなマジキ○が家の周りを徘徊していると考えると安心して眠れない。

不眠症になってしまうではないか。

それに今回の事件で私ができることはもはや何もない。

奴を捕まえるのは、警察の仕事だ。

私ができることなんて、奴が裁判にかけられた時に、

奴の犯罪を出来る限り大げさに証言し、

奴が永久に牢屋から出られなくなるように画策することくらいだ。

 

「守りたいから・・・今、自分ができることを・・・」

 

ちーちゃんは、呟く声が聞こえてきた。

私は心の中で行われている反省会を中断し、現実に帰還する。

そうだ。

結果はどうなっているのだろう。

私の目論見通り、スーパーヒロインであるが、本当は一般人な側面を持つ友人。

そんなポジションに落ち着くことはできたのだろうか?

 

「わかった・・・ボク・・・わかったよぉ!」

 

その時だった。

ちーちゃんは顔を上げ、大きな声で叫んだ。

 

「わかった・・・わかったよ、もこっち!」

 

(え?何がわかったの・・・?)

 

 

ちーちゃんは、私の手を握り、力強く再びその言葉を口にする。

 

「ボクにも・・・できることがあるんだ!

みんなのために、ボクだって戦えるんだ!」

 

彼女の中で何がが解決したようだ。

それが何かはわからない。

だけど、ちーちゃんの表情は今までみたことがないくらい明るかった。

こんなちーちゃんは、初めて見た。

 

「ありがとう、もこっち!ボク、頑張るよ!」

 

「う、うん。が、頑張ってね・・・」

 

何がなんだか正直よくわからないが、

ちーちゃんが元気になってくれたので結果オーライとしよう。

 

「・・・でも、それだけじゃダメだ。

弱虫のままじゃダメだ。ボクは・・・もっと強くならなくちゃダメなんだ」

 

ちーちゃんは、何か別の問題にぶつかったようだ。

話題の推移についていくことができない私は

ただ、ちーちゃんの次の行動を見守ることしかできなかった。

あの~私のポジションの件は・・・。

 

「誰がいいと思う・・・?」

 

「え?」

 

「身体を鍛えるトレーニングのコーチをしてもらうなら、

もこっちは誰がいいと思う?」

 

唐突な質問だった。

話題はいつの間にかスーパーヒロインな私から、

トレーニングパートナーの選択に移っていた。

 

「え、えーと、ちーちゃんはダイエットがしたいのかな?」

 

ちーちゃんの小さな体を見る。

これ以上、どうやって痩せろというのだ。

もし、自分が太っていると思っているなら、

それは全女子高生に対する事実上の宣戦布告である。

 

「ううん、違うよ。ボクは・・・強く、強くなりたいんだ」

 

強くなりたい。

私の問いにちーちゃんははっきりとそう言った。

その答えは私をより困惑させた。

女の子が強くなる必要はあるのだろうか?(一部例外を除く)

友達として今まで接する中で、ちーちゃんについて気づいたことがある。

彼女の趣向はどこか変わっている。

まあ、だからこそ、超高校級になれたのかもしれない。

そして、結構、頑固である。

だから、こうなってしまえば、アドバイスするしかない。

 

「大神さんはどうかな?」

 

”強さ”という言葉にあの頼もしい大きな背中が頭を過ぎった。

彼女は超高校級の”格闘家”であり、

あの総合格闘技UFKのチャンピオン。

トレーニングパートナーには申し分ない。

 

「ごめんよぉ・・・大神さんではダメなんだ」

「え、なんで?」

「・・・だって、女の子だから」

「う、うん・・・」

 

その回答に納得できないもとりあえず頷く。

もはや、彼女は男とか女とかをそういう次元で語る存在ではないと思うけど・・・。

大神さんとちーちゃんのトレーニング風景を想像する。

 

 

「うぬ、不二咲よ。

まずは準備運動として、この50KGのダンベルを1セット100回から・・・」

 

 

うーん、ダメみたいですね、これは・・・。

 

準備運動の段階でちーちゃんが死んでしまう。

最強の格闘家は最良のトレーニングパートナーというわけではないのだ。

しかし、ちーちゃん。

男子にコーチしてもらいたいだなんて、意外にビッチだな。

もしかしたら、私の彼氏の話(大嘘)を聞いて、焦っているのかも。

うーん、責任を感じるな。

 

苗木君を薦めたいけど、運動が得意なようには見えない。

山田君は、むしろお前が運動しろ!だ。

葉隠君は、指導料を請求するのが目に見えている。

十神白夜は冷笑するだけだろう。

 

うーん、ろくなのがいないな。

あ、そうだ!あの真面目な石丸君なら――

 

「頑張るのだ、不二咲君!気合があれば、なんでもできる!

天才どもに努力の尊さを見せつけてやろうではないか!

さあ、まずは腕立て100回から・・・」

 

ダメだ!やっぱり、ちーちゃんが死んでしまう!

 

ああ、一体、誰を薦めれば・・・

 

その時、彼のことが頭に浮かんだ。

彼は誰よりも強く、男らしかった。

外見は怖いが、本当は優しいことを私は知っている。

彼ならば安心して、ちーちゃんを任せることができる。

 

 

「あの人はどうかな?ちーちゃん」

 

 

きっと大丈夫だ。

動物好きに悪い人間はいないのだから。

 

 

 

だから私は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1週間がたった。

平穏で何もない日々。ただ傍らにいる友達と笑いあう日々。

ずっと、傍にいた。いつも一緒にいた。

私の人生で、

これほど長く、濃密に、家族以外の誰かと同じ時間を共にしたのは初めてだった。

この平穏で何もない日々が、私は楽しかったのだ。

この日々がずっと続いていく。

 

ここから、出た後も、この楽しい時間は続いていく――

 

あの時の私はそれを疑うことはなかった。

 

 

「ちーちゃん、はい、あ~ん」

「もこっち、恥ずかしいよ」

 

朝食の席で、隣にいるちーちゃんにスプーンを向ける。

スプーンののせたのは、私が最近ハマッているブッチンプリンだ。

ちーちゃんは恥ずかしそうにそれを口にする。

 

「ほのぼのとしますな~」

「うふふ、仲がよろしいですわね」

 

向かいに座っている山田君とセレスさんが私達について話している。

 

「なんか姉妹みたいですな~」

「まったく似ていませんけどね」

「あれですよ、ジョワちゃんの映画みたいに才能の全てが妹に・・・」

 

 

(私はカスなのか・・・!?)

 

 

 

今はガルフォルニア洲の知事をしている

アーッノルド・ジョワルツェネッガー主演の名作「双子」。

その設定で、実験で全ての才能が弟に。兄は残りカスを集めて作られた真実を

知った時の兄のセリフを心の中で叫んでしまった。

 

あいつら~覚えてろよ。

しかし、姉妹と言われるほど仲良くみられているのは正直嬉しい。

もう、誰にも私をぼっちなどと言わせないぞ。

私はちーちゃんの親・・・

 

「・・・ちーちゃん?」

「・・・え、ごめん、何の話だったけ?」

「具合悪そうだけど、大丈夫?」

 

ここ数日、ちーちゃんはこんな感じだった。

時々、ぼーとしたり、居眠りしてたり、疲れているようだ。

 

「えへへ、昨日も、ちょっと夜更かししちゃって・・・心配させてゴメン」

 

そう言って、ちーちゃんは笑う。

その彼女の目の下には、寝不足を証明するクマができていた。

 

(ちーちゃん、まさか・・・)

 

私に憧れるあまり、意図的に寝不足になり、クマを作ろうとしているのでは・・・?

その可能性は十分ある。

ちーちゃんは、私に憧れているのだ。

だけど、ゴメンね、ちーちゃん。この目の下のクマは生まれつきなのだよ。

 

 

「・・・でも、もう大丈夫だから。完成したんだ。ボクも・・・これでみんなの力になることができる」

 

(・・・?)

 

どうやら私の予想は外れたようだ。

彼女は夜中に何かを作る作業をしていたようだ。それが完成したという。

それが何なのかはわからないけど。

 

「ちょっと、水をとりにいってくるよぉ」

 

ちーちゃんは席を立つ。

予想が外れてちょっと残念ではあるが、まあ、何事もなくてよかった。

悪い病気にかかっていたら、この施設では対処できないかもしれないし。

 

私が一安心した時だった。

 

「きゃあ!」

「オワッ!?」

 

席に戻ろうとしたちーちゃんがふらつき、大和田君にぶつかった。

その時、持っていた水が彼の学ランに全てにかかってしまったのだった。

 

「テメー大事な学ランに何しやがるんだ、チビ女2号!ぶっ殺すぞ!!」

「ヒッ・・・!」

 

瞬間沸騰器とはまさに今の彼のことだ。

大和田君は激昂し、怒鳴り声を上げる。

ちーちゃんは、彼の剣幕に怯え、小さな声を上げる。

 

「あ~あ、こんなに濡れちまったじゃねーか」

「あ、あの・・・ご、ごめんなさい」

「チッ何泣いてるんだよ。泣きてーのはこっちだよ。これだから女は」

 

泣きそうになりながら、謝るちーちゃんに、

大和田君は、気まずそうに悪態をつく。

 

「ご・・・めんなさい。うぅ・・・ごめんなさい」

「だ、だから泣くなって言ってんだよ!あーちくしょう!」

 

彼の外見で怒鳴り声を上げて、怯えない女の子はいない。

大和田君も事態の収拾がつかなくて困っているようだ。

 

「ちょ、ちょっと大和田君。ちーちゃんをあまり怖がらせないでよ」

 

見ていられなくなり、私は仲裁に入る。

 

「ハァ!?怖がらせてねーだろ、チビ女1号!

だいたい2号がぶつかってきて水をこぼしたのが原因じゃねーか!

なんで、俺が悪いみたいな流れになってんだ!?あーこれだから女は!」

 

だが、それは火に油を注ぐことになってしまったようだ。

彼は、意固地になり、よりヒートしてしまった。

それにしても1号って・・・バッタの改造人間かよ。

 

「・・・じゃないです」

 

その時だった。

 

「2号じゃ・・・ないです」

「アン?」

 

ちーちゃんが大和田君に向かって何かを言い始めた。

震えながら、目に涙を溜めながら、それでも大和田君から目をそらさずに。

 

 

「ボクの名前は・・・2号じゃないです・・・。

ボクは・・・ボクは、不二咲千尋・・・です!」

 

一瞬、我が目を疑った。

あのちーちゃんが・・・。

この場にいる中で、誰よりもか弱いちーちゃんが、

あの超高校級の”暴走族”大和田紋土君に向かってはっきりと意見したのだ。

 

「ボクは・・・強く、強くなりたいんだ」

 

あの日の言葉は・・・ちーちゃんの思いは本気だったのだ。

クラスメイトの誰もが、食事を止めて、この成り行きを見守っている。

 

 

「・・・オメーやるじゃねーか」

 

 

大和田君はちーちゃんの視線を真っ向から受け止め語り出した。

 

 

「大の大人ですら、俺にビビッて目も合わせることもできねえ。それが普通だ。

だが、オメーは違う。

目をそらすどころかこの俺に意見しやがった。テメーの信念を貫きやがった。

ビビって震えてやがるくせに。怖くて泣いてやがるくせによ。

女のくせに大した勇気だぜ・・・!」

 

大和田君は、ちーちゃんに近づき、彼女の頭にポンと手を置き、少し乱暴に撫でる。

 

「気にいったぜ、不二咲!

俺はもう二度とオメーを2号なんて呼ばねえ!

だから、もう泣くな。

もう俺はオメーを怒鳴ったりしねーからよ。

漢の約束をしようじゃねーか。

俺はぜってーにお前を怒鳴らないからよ。だから、オメーはもう泣くなって!」

 

「漢の・・・約束」

 

「ああ!男の約束はぜってーだぞ!」

 

「うん・・・わかったよぉ!」

 

 

大和田君の言葉でちーちゃん顔に夏のひまわりのような笑顔が再び戻った。

どうやら一件落着のようだ。

私はほっと胸を撫で下ろした。

見ると、ちーちゃんと大和田君が笑い合っている。

いい雰囲気である。

私もこの流れに便乗させてもらおう。

 

「あ、あの・・・大和田君。わ、私の方も、チビ女という呼び方はちょっと・・・」

「アン?」

 

私の方を振り返った大和田君は露骨に面倒そうな顔をする。

 

 

「オメーは面倒だからチビ女でいーんだよ」

 

 

扱いが雲泥の差である。

食堂にドッと笑いが起きる。

便乗に失敗した私は、恥ずかしさで顔を赤くする。

しかし、今回の本当のオチ担当は私ではなかった。

 

「ハハハ、いい雰囲気ではないか、お二人さん!

”雨降って地固まる”とはまさにこのことだ!!」

 

石丸君が笑いながら、大和田君の肩に手をかける。

 

「なかなかお似合いじゃないか、兄弟!

だが、学内で不純異性行為は禁止だからな!そういうのは卒業後にやりたまえ!」

 

 

その言葉に大和田君とちーちゃんは顔を真っ赤にする。

 

 

「なな、ななななな何言ってんだ、兄弟!ふ、ふふふふざけてんじゃねーぞ!!!」

 

 

大和田君のリアクションにドッと笑いが起きる。

 

 

「ん、何を恥ずかしがっているのだね?

君は、昨日、恋愛十連敗中だと嘆いていたではないか。これをいい機会としてだね・・・」

 

「て、テメー兄弟!!」

 

先ほどより大きな笑いが食堂を包む。

みんな笑っている。

ちーちゃんも石丸君も山田君もセレスさんも葉隠君も朝日奈さんも大神さんも。

そして、苗木君も。あの霧切さんですらほんの少しだけ笑顔を見せた。

こんな光景は初めてだった。

コロシアイ学園生活が始まってから、奪われていたものが戻ってきた、そんな気持ちだった。

もちろん、私も笑っていた。

お腹と口を押さえて、本当に楽しそうに笑った。

暖かい笑いの輪の中に今、自分がいることを感じることができる。

それは、前の学校ですらなかったことだ。

私は、生まれてはじめて”クラス”というものを実感していた。

 

ああ、そうか、クラスとはこんな場所だったのだ。

クラスとは、みんなが共に喜びを分かち合うことができる場所なのだ。

 

会話に混ざろうとしない十神白夜や腐川冬子のような嫌な奴らもいる。

でも、そういうのも含めて、一緒に過ごすのもクラスなのだ。

 

舞園さんや桑田君の事件はずっと引きずっていくと思う。

だけど、それを共有し、共に前に進むことをこのクラスならばできると思う。

 

楽しかった。

私は、今ここにいることがとても楽しかった。

 

前の学校でぼっちだったのが懐かしい思い出だ。

特権に釣られて嫌々、この学園に登校した日が遠い昔に感じる。

今の私にはみんながいる。ちーちゃんがいる。

だから、とても楽しい。

 

みんなと一緒に高校生活を送りたい―――

 

 

それが今の私のささやかな願いだった。

 

 

「ねえ、そこのモノクマ印のハチミツとってよ」

 

「え、うん。でも、これクソ不味い・・・ヒッ!?」

 

「きゃあ!?」

「うわぁ!?」

「うひょ~~~ッ!?」

「うぬ・・・!」

「テ、テメーは・・・!」

 

いつの間にか私達の間に紛れ込んでいたソイツの姿を見て、

みんな口々に悲鳴を上げた。

 

 

「やあ、みんなひさしぶり」

 

モノクマ印のハチミツを片手に、殺人鬼モノクマはテーブルに飛び乗り私達を見下ろした。

 

「プププ、みんないい感じで仲良くなってきたね~~」

 

ゾクリとした。

モノクマを通して黒幕の嘲りが聞こえたような気がする。

コイツは、私達が仲良くなるのを待っていたのだ。

 

 

 

 

――――じゃあ、殺ろうか?

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!!

 

 

モノクマが放った一言に全員に衝撃が奔った。

これはまるであの時のようだった。

舞園さんが殺人を決意したあの時の。

 

「わ、私達はもう殺し合いなんてしないよ!」

 

朝日奈さんが、手をふり抗議する。

 

「あーそういうのもういいから。じゃあ、説明するよ」

 

しかし、モノクマの奴はまるで相手にしない。

さっさと自分の話に移ろうとする。

あまりの展開の早さに、誰もついていくことはできず、

モノクマの次の行動を見守っていた。

 

「今回のテーマはオマエラの恥ずかしい思い出や知られたくない過去です」

 

そう言って、モノクマは封筒をみんなに渡し始める。

 

「な、なんだこれは!?」

「うぬ・・・!」

「え、どうして!?」

「これは不味いべ・・・!」

「ちょ、なんですか、これは!?」

「あらあら、これはこれは・・・」

 

封筒を開けたみんなが口々に悲鳴や驚きの声を上げる。

 

「なんでよ~~~なんで、アンタがこのことを知ってるのよぉおおおおおお~~~!!」

 

特に腐川が発狂寸前の絶叫を上げている。

 

例によって、順番は私が最後のようだ。

 

「フン・・・!」

「ペッ・・・ッ」

 

モノクマが私の目の前で封筒を床に叩きつけた瞬間、私は床に唾を吐いた。

最高に険悪な関係である。

 

床に落ちた封筒をとりあえず開けてやることにした。

どうせくだらないことが書いているに決まっている。

予想するとしたら、奴が私の部屋に不法侵入した時に、

いろいろ漁っているなら、ちょっとやばめの乙女ゲーかな。

フ、私を誰だと思っているんだ。

 

超高校級の”喪女”だぞ。

その程度のことが脅しになるわけが・・・

 

 

 

封筒の中の便箋を見た時、私の刻が止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声優伊志嶺潤の声を使用したもこっち主演自家製ドラマCD

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は心の中で吐血した―――

 

 

 

 

 

 

 




襲い来る黒歴史。
暗雲、立ち込める―――


[あとがき]
次話でケンガンアシュラのキャラ出します。



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