私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第1章・イキキル 中編⑤

「やっぱり、包丁がない…」

 

厨房の中において、私は、舞園さん殺害の凶器となった包丁の不在を確認した。

体育館を出た私は、とりあえず、自分の個室に戻り、シャワーを浴びて服を着替えた。

服には返り血が所々についており、また下着も諸事情により、

残念なことになっていたので、全て着替えることにした。

モノクマの支給品の中に、どこかの高校の制服があったので、今、それを着ている。

この制服はもしかしたら、希望ヶ峰学園のものかもしれない。

こんなことがなければ、これを着て、今頃は、楽しい学園生活が始まっていたかと

思うと、なんとも言えない気持ちになる。

 

しかし、現実は奇妙にして非情である。

 

私達は、モノクマを操る変質者に監禁され、コロシアイ学園生活を強制されている。

そして、今日、ついに被害者が出た。

 

一人は、超高校級の“アイドル”舞園さやかさん。

説明不要のトップアイドル。

彼女は、交換した苗木の個室にて、何者かに刺殺された。

殺される前の夜、初めて話した彼女は、優しかった。

もしかしたら、友達になることができたかもしれないと思うと胸が痛い。

 

もう一人は、超高校級の“ギャル”江ノ島盾子ちゃん。

女子高生なら知らない者がいないカリスマ。

彼女は、“学級裁判”に反対して、モノクマに処刑された。

初めて会った時から、ずっと厚かましかった彼女は、本当に面倒な奴だった。

だけど、私の高校生になって初めての友達。彼女を思うと今も涙がこぼれそうだ。

 

だが、2人もの犠牲者を出したコロシアイ学園生活は、まだ序盤に過ぎなかった。

本番は、まさに今から。

 

“学級裁判”

 

それにより、舞園さんを殺したクロを当てなければ、

私達、全員がモノクマに処刑されてしまう―――――!!。

 

(ウプッ…)

 

盾子ちゃんが、モノクマが放った複数の槍に貫かれるシーンが頭を過ぎり、

胃液が逆流するのを堪える。

 

もし、犯人を外せば、私もモノクマに処刑されてしまう。

その現実が、否応なく私のか弱い胃腸を締め付けてくる。

 

だが―――

 

もし、犯人を当てることができれば、モノクマの企てを阻止することができる。

それは、この閉ざされた状況を変える突破口となるはずだ。

 

今回の“学級裁判”は、絶望を希望に変えるチャンスになる…かもしれない。

 

それに…私は決めたのだ。

舞園さんと盾子ちゃんの仇を取る…と。

 

そのためにも、なんとしても犯人であるクロは、私が見つけないといけない。

 

そう決心した私は、部屋を出て、

最初に捜査したのが、最後の夜、舞園さんと会ったこの厨房だった。

厨房の包丁のケースからは、1本の包丁が紛失していることを確認した。

あの夜のことを思い出す。

 

 

「まあ、気のせいか…」

 

 

あの時は、そう結論づけたが、違和感の正体はこれだったのだ。

そうか、すでにあの時には、包丁はクロによって持ち出されていたのか。

 

(次は、あの部屋か…)

 

凶器の不在を確認した私は、厨房を出ようと歩き出す。

その足取りは酷く重い。

次に、向かう部屋は、事件の現場。

舞園さんの死体が放置されているあの部屋だ。

足が震えるのを感じる。

胃液が再び、逆流してくる。

それでも私は行かなければならない。

 

クソ…何をやってるんだ、私は。

 

こんなの私のキャラじゃない。

私は、気さくで明るいキャラだが、こんな血なまぐさいことには向いていない。

いつもの私なら、こういうことは、首を突っ込まず、誰かに任せるだろう。

だが、今は違う。

逃げたい気持ちと同時に、逃げたくないという気持ちが沸いてくる。

 

舞園さんと盾子ちゃんの笑顔が頭を過ぎる。

 

舞園さんには夢があり、盾子ちゃんはずっと笑っていたかったはずだ。

彼女達と関わった私には、それがわかる。痛いほどわかる。

 

だから、きっと私は…

 

(漫画の主人公なら、ここで覚醒するのに…)

 

現実は甘くない。

複雑な気持ちを抱えながら、私は苗木の個室に向かった。

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

個室エリアに私は足を踏み入れた。

見ると一つの部屋だけ、ドアが開かれていた。

人が通りやすいように、常時、開けるようにしたようだ。

 

「ということは、あれが、苗木の部屋か」

 

それがわかると再び、私の足に震えが奔る。

今こそ、あの体育館での潜在能力開放時の万能感が欲しいところだ。

まあ、もう、私に顔面ローキックをしてくれる相方はいないけど…。

 

(盾子ちゃん…私に力を!)

 

亡き友の名前を心の中で呼び、意を決して私は、苗木の個室に向かう。

 

「あれ…!?」

 

部屋に入る直後、私は素っ頓狂な声を上げた。

私の視界に明らかにおかしなものが映ったためだ。

 

「なんで…?」

 

私はそれを見つめた。

そこには、部屋の持ち主を示すプレートがかかっていた。

プレートには、モノクマの趣向なのか、

その人物の苗字をカタカナで、そして、かわいいドッド絵が描かれていた。

だが、私の視界の先には、部屋を交換したはずの「ナエギ」ではなく、

「マイゾノ」の名前とともに、舞園さんのかわいいドット絵があった。

 

おかしい―――

 

私の全身を違和感が駆け抜けた。

これは、明らかにおかしいではないか。

苗木は言っていた。

何者かに狙われ、怯えていた舞園さんと部屋を交換した…と。

だが、表札まで交換しては、そもそも部屋の交換の意味がなくなるではないか。

 

 

「おう、チビ女!オメーも来たのか」

 

 

威勢のいい大声に思考の海を漂っていた私は、突如引き上げられた。

そこには、下はダボダボの制服。上はランニング。

そしてその頭は、もはや絶滅危惧種のリーゼント頭の生徒。

 

超高校級の“暴走族”である大和田紋土君がいた。

 

「さ、さっきはあ、ありがとうございます」

 

個室に足を踏み入れて、私は慌て会釈する。

大和田君とは、先ほど体育館で別れたばかりだ。

彼は、自慢の制服を盾子ちゃんの死を悼むために、使ってくれた。

 

「いいってことよ。ああ、アレはやらねーぞ!大事な一張羅だしな。

今は、お前のダチに貸しといてやるだけだ。

このクソったれな“学級裁判”とやらが終わるまでな!」

 

彼は、そう言った直後、くしゃみをした。

ランニング一枚ではやはり、寒いようだ。

 

「優しいね…大和田君は」

 

その姿に、ふとありのままの感想を呟いてしまった。

まるで雨の中、不良が子猫に餌をやっているシーンを目撃してしまったような気持ち。

 

「なッ…!?」

 

私のその言葉を大和田君は、聞き逃さなかった。

 

「て、てめ~何言ってんだ!?例え女だからって舐めてると容赦しねーぞ!!」

 

「ヒッ!?ちょ、なんで!?ご、ゴメンなさい!!」

 

なんだかわからないが、彼の虎の尾を踏んでしまったようだ。

とりあえず、私は謝罪の言葉を述べ、ひたすら頭を下げる。

 

「わ、わかりゃあいいんだよ、俺は優しくなんかねーんだ。俺は強えだけだ…!」

 

そういいながら、腕組みしながら、顔を横に向ける。

そのせいでよく見えないが、顔が少し赤いようだ。まだ、怒っているのかな?

 

「黒木よ、ここに捜査に来たのは、お前が最後のようだな」

 

私はその声の方に視線を向ける。

そこには、2m近くの巨大な筋肉の鎧がそびえ立っていた。

その身体は男性のものではない。彼女は紛れもなく女性である。

 

超高校級の“格闘家”である大神さくらさんが私を見下ろしていた。

 

「み、みんなは…?」

 

「先ほどまで、お前以外のメンバーはここで、事件の捜査をしていたが、

お前と入れ違う形で、自分の個室に戻るなり、他の場所を捜査しに行った」

 

「そ、そうですか…」

 

私は、周囲を見渡す。

確かに、この場には、大神さんと大和田君の二人しかいない。

 

「我らがここに残っているのは、この場所がクロに荒らされないように監視するためだ」

 

「まあ、俺らは推理って柄じゃねーしな。だが、喧嘩なら負けねーぜ!」

 

私が疑問に思ったことを察し、大神さんが説明してくれて、大和田君も会話に参加した。

 

「霧切に頼まれてな。確かに闘いならともかく、推理は我の専門外だ」

 

大神さんの口から突如出てきたその名前を聞き、私の表情が曇る。

 

(また、アイツか…)

 

霧切響子。

 

どうやら彼女が、またやらかしているようだ。

恐らく再び漫画かアニメの知識を悪用し、今回のことを企てたようだ。

なによりムカつくのが、それが効果的な作戦であるのが、否めないことだ。

確かに、この最強コンビが守っていては、クロが現場を荒らすのは困難といえる。

この二人には悪いが、“脳筋組”であろう二人が捜査で役に立つ可能性は限りなく低い。

ならば、監視に専念してくれた方が、全体の役に立つかもしれない。

そうなのだ。

この事件は、“知性派”と思われる十神君、霧切さん、そして私が解くしかないのだ。

 

決意を新たにして、私は捜査を開始する。

 

「舞園さん…」

 

彼女の遺体を再び目のあたりにして、胃液が這い上がってくる。

恐らく、一時間ほど前に、“さよなら”と言って、今この場にいるのは、

たとえ、相手が死体であろうともバツが悪い。

そして、彼女が“ウフフ、本当ですね”そう笑ってくれることは、二度とない。

電子生徒手帳を取り出し、“モノクマファイル”を読んでみる。

 

 

>>被害者は舞園さやか。

死亡時刻は午前1時半頃。

死体発見現場となったのは、寄宿舎エリアにある苗木誠の個室。

被害者はそのシャワールームで死亡していた。

致命傷は刃物で刺された腹部の傷。

その他、手首には打撃痕あり。

打撃痕のある右手首は、骨折している模様。

 

 

なるほど…。

なかなかに詳しく書いてあるので、少し感心してしまった。

特に手首の骨折など、ここで書かれていなければ気づかなかっただろう。

つまり、彼女は、手首が骨折するほど、激しく格闘していたことになる。

いきなり襲われて、即死したのではなかった。

その最後の瞬間まで、彼女は足掻いていたのだろう。

彼女の右手首を見てみる。

彼女の右手首は、打撃痕で薄紫色に腫れ上がっているのが酷く痛々しい。

 

「ん?何かついている…?」

 

彼女の手首と制服の袖に、黄金色の粉のようなものが付着しているのを発見した。

 

(なんだろ…これ?)

 

よくわからないが、とりあえずメモをしておく。

次に死因となった凶器の包丁を見る。

 

(ウげェ…)

 

もう吐きそうだ。

耐え切れなく、視線を逸らした時に、私は初めて“それ”に気づいた。

 

(え…!?壁に、何か文字が書かれている!?)

 

 

 

         “11037”

 

 

 

それは、彼女の血によって記されていた――――

 

 

(これは、まさか…ダイイング・メッセージというやつでは…)

 

 

漫画やアニメ、またはドラマや映画で何度もこの展開を見てきた。

被害者が自分の血を使って犯人の手がかりを書き残す。

恐らく彼女も、最後の力を振り絞って、

その血で染まった指で、後ろの壁にこの文字を残したのだ。

これは重大な手がかりだ。

アニメや漫画の展開が正しいなら、これを解くだけで犯人がわかるほどに。

 

しかし―――

 

 

 

 

(まったくわからん…!)

 

 

 

私には、さっぱりわからなかった。

 

マジでなんですか…コレは?

やはり、犯人の名前か苗字を表わしているんだよね?

とりあえず、解いてみようか。

 

①“イチイチゼロサンナナ”  ②“イイオサンシチ”

 

う~ん、②の方が苗字っぽいかな…そんな奴いないけど。

では、逆の73011でやってみよう。

 

①“ナナサンゼロイチイチ ②”シチサンオイイ“

 

おいおい、余計にわからなくなってしまったよ。

“ナナサン”“シチサン”とか女子っぽいかも…そんな人いないけど。

う~ん、“893”とか“114514”みたいにすぐにわかる当て数字ではないようだ。

これは難しいぞ…。“ハガクレヤスヒロ”にはどうやってもならない。

 

 

(犯人の名前じゃなかったら、金庫か何かの暗証番号とか…?)

 

 

髪を掻きながら、ダイイングメッセージの前で悩む私。

そのシチュエーションに知らず知らずの内にテンションが上がってきた。

まるで、本物の女子高生探偵のようだ。

そんな時、ふと思ってしまった。

 

 

“これを機会に、今から本物の探偵を目指してみようかな…と”

 

 

少し話しを聞いて欲しい。

昔、ネットか何かで聞いたことがあるのだ。

日本には、代々探偵業を生業とする“探偵の一族”がいるという噂を。

その継承者は、なんと私と同じ女子高生でありながら、迷宮入り寸前の

難事件をいとも簡単に解いてしまうらしい。

未だにメディアにその姿を現していないが、噂によると凄い美人のようだ。

 

“知性的で美人で女子高生”…どうだろう、ピンとこないか?

 

オイ…なんで

 

“え?何が言いたいんですか?”

 

みたいな顔をしているんだ…!?

 

知性的で美人で女子高生”…まるで、私のようではないだろうか。

女子高生で美人な私が、この難事件を解き、クロを捕まえれば、その瞬間より、

“女子高生探偵”の誕生だ。

そしてそれが、モノクマを操る黒幕を捕まえることに繋がれば、

私は、間違いなく先輩女子高生探偵の彼女を超える存在になる。

 

そうだ…超高校級の“喪女”などという

わけのわからない不名誉な称号は私には似合わない。

 

 

超高校級の“探偵”

その称号こそ、私にふさわしい…!

 

 

そして、それを目指すことに何らデメリットはない。

結果として、舞園さんと盾子ちゃんの仇を討つことにも繋がる。

まさに、一石二鳥…三鳥だ。まさにいいことずくめ。

ヤベえ…テンションが上がってきた。

 

(とりあえず、これは後回しにしておくか)

 

私は、ダイイングメッセージをメモして、部屋の捜査に移った。

 

シャワー室を出ると、ドアノブが何かで外されているのを発見した。

どうやら、クロは、シャワー室に逃げ込んで、ドアをロックした舞園さんを

殺害するために、何かの道具で、ドアノブを壊し、シャワー室に侵入したようだ。

 

(これは“アレ”を使えば、できそうだな…)

 

脳裏にあの道具を浮かべ、私は部屋の中央に向かう。

 

部屋は酷く荒らされていた。

壁の所々に、無数の刀傷がくっきりと刻まれていた。

 

(舞園さん…結構、強くね?)

 

彼女は、侵入してきたクロに突如襲われたはずだ。

だが、この部屋の荒れ具合を見ると、何気に一進一退だったのがわかる。

 

(犯人はまさか、女性陣の中にいる?)

 

同じ女性なら、この互角の戦闘状況が頷ける。

私はクラスメートの女子達の顔を思い浮かべる。

運動神経がよさそうな朝日奈さんや霧切さんが奇襲をしかけたなら、

ここまでの激戦にならなかったはずだ。

逆に、可愛くてか弱そうな不二咲さんなら、奇襲に失敗したなら、それで終わりだろう。

 

次は、腐川さんとセレスさん。この二人は正直、怪しい。

腐川は、猜疑心の塊である。

いつまでもこない警察に絶望し、ついに凶行に及んだ可能性がある。

セレス・ルーデンベルク。

彼女の性格なら、ここで適応するために、モノクマの企てに乗ったかもしれない。

そもそも、本名すらわからない怪しい奴だ。

セレス・ルーデンベルクって何スか?

 

最後に…私は後ろをチラリと見る。

そこには、大神さくらさんが、腕を組んで立っている。

 

(凶器の必要ないだろ…)

 

ないない。

彼女に殴られたら、舞園さんの顔は原型を留めていない。

 

とりあえず、床に落ちている模造刀と鞘を見てみる。

模造刀は所々、金箔が剥がれ、それの周囲に金の粉が散布されていた。

刀の鞘には、まるで刃物か何かを受けたような傷があった。

 

(この鞘で包丁を受けた…ということかな?)

 

これもとりあえずメモしておくことにした。

 

最後に締めとして、床を隅々まで見てみることにした。

これこそ、捜査の基本中の基本。

ここで、だいたい発見した何かが事件の解決に繋がるものだ。

 

だが…

 

(なんで…!?髪の毛一本すら落ちていない?)

 

違和感が私を襲う。

おかしいではないか。

これほど、荒らされている部屋なのに、髪の毛すら落ちていないなんて。

本来なら、苗木と舞園さんの髪毛を複数発見できるはずだ。

それが一本もない。

 

私は、部屋の隅に置かれていたテープクリーナーを手に取る。

テープクリーナーの紙はもうほとんど残っていない。

 

(苗木はもの凄い潔癖症なのかな…?)

 

私は、ゴミ箱を見ようと歩き出す。

そこには、使われて大量の紙があるはずだ。

 

しかし――――

 

 

(ない。ゴミ箱はからっぽだ…!)

 

総毛立つ。

全身の毛穴がぶわっと開いたような感覚に襲われた。

 

部屋の状態から見て、テープクリーナーが使用されたのは、

犯行の後で間違いない。だが、使用された紙はどこにもない。

 

そして、それを処分できるのは―――

 

 

(クロが犯行後に、処分した…!)

 

 

次に雷に打たれたように、私の頭にあの映像が駆け抜ける。

私は、急いで、部屋を出て、部屋の前のプレートを見る。

 

        「マイゾノ」

 

かわいいドット絵と共にその名前が書かれていた。

 

 

「だから“アイツ”はこんなことをしたのか…」

 

 

まさか、漫画の読者であった私が、

この台詞をリアルの殺人現場でいう日がくるとは夢にも思わなかった。

だが、敢えて言わしてもらおう。

今ほど、この台詞がふさわしい瞬間はないのだから…

 

 

 

 

         謎は…すべて解けた!!

 

 

 

 




―――――迷推理開幕!!



19話 進行状況 3700字 6/29



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