私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第1章・イキキル 中編①

「ぷぷぷぷぷ、やっと始まったね♪殺ればできるじゃないか、オマエラ!

先生はとても嬉しいです。ではではこれから“学級裁判”について説明したいので、

至急体育館に集まってください!待ってるよ~」

 

「な…」

 

その言葉を最後にモノクマの放送は終了した。

石丸君は額に大量の汗を浮かべ、声を上げるも言葉を続けることはなかった。

 

空間を静寂が支配する。

 

モノクマの最後の言葉が示したもの。

それは、舞園さんを殺したのは、この中にいる誰かだ、ということ。

その事実を前に、誰もが顔を青くし、互いを見つめ合う。

 

 

「ククク、フハハハハ」

 

 

―――しかし、この状況を前に笑う者がいた。この事実を嘲り笑う奴がいた。

 

 

超高校級の“御曹司”十神白夜。

この状況下において、彼はその端正な顔を歪め、さも可笑しそうに笑っていた。

 

「ちょ、ちょっと、十神!?」

「てめ~何が可笑しいんだぁ、コラァ!!」

 

十神君の異常な態度に、朝比奈さんが怯えながら声を上げ、大和田君が怒りで顔を歪める。

その様子を見て、十神君はようやく笑うことを止めた。

 

「スマン、つい可笑しくてな。仲間だ、協力だ、と言った傍からこのザマだ。

笑いたくもなるだろう?」

 

だが、その顔からは、自分以外の全てに対する嘲りは消えることはない。

 

「簡単な話だ。以前、俺が言ったように、他人を殺してまで外に出たい奴が出た、と

いうだけのことだ。何を驚くことがある?

ククク、だから、お前たちは群れるだけの凡人なのだ!

いいか!所詮、頼れるものは己のみ!

舞園さやかは、油断したからこのゲームに負けた…ただそれだけだ」

 

“ゲーム”

 

十神白夜は、私達を前に堂々と高らかにそう宣言した。

その表情には、絶対の自信とそして明確な敵意が映し出されていた。

 

「さて、俺は体育館に向かうぞ。モノクマが言う“学級裁判”とやらに興味があるからな。

お前らもこのゲームに参加する気があるなら、来るがいい。

参加者が多ければ多いほど、敵が強ければ強いほどゲームは面白い!

凡人たる貴様らは、せいぜい這い回り、俺を楽しませろ」

 

最後まで傲慢に、そして冷酷な笑みを浮かべ、

十神はさっさと背を向けて、個室から出て行った。

その後姿を私達は唖然として見送るだけだった。

誰も十神の後に続く者はいない。当然だ。

この異常な状況の中で、あのような敵意を真っ向から叩きつけられて

それに従う者などいるはずがなかった。

 

「わ、わわわ私も――」

 

 

いや…

 

 

「私も行きます~待って下さい!白夜様~~ッ!!」

 

 

一人いた…。

 

 

超高校級の“文学少女” 腐川冬子。

ついさっきまで、血を見て失神していた彼女は、

起き上がるなり十神白夜の後を追いかけていった。

 

「では、私も失礼しますわ」

 

 

そして、もう一人。

 

 

「彼の言うことの全てには賛同しかねますが、現状を把握するのはなにより重要です。

おわかりですか?

舞園さんには悪いですが、ただここにいるだけでは、何も変わりませんわ。

私も体育館に向かわせて頂きます。それでは、みなさんごきげんよう」

 

 

超高校級の“ギャンブラー” セレスティア・ルーデンベルク

彼女も私達に会釈して部屋を出て行った。

 

超高校級と言われるクラスメートの中でも、特にあくが強い3人が部屋を出て行った。

部屋を出たメンバーが強調性がなく、勝手に行動するタイプであり、

残ったメンバーが協調性を持ち、周りのために行動するタイプか、といえばそうではない。

 

「…。」

 

残ったメンバー達は、今何をしていいかわからず、ただここに残った、それだけだ。

だって、この私がまさにそうなのだから…。

 

 

 

起きてしまった。

恐れていたことが、ついに起きてしまった。

モノクマを操る犯罪者に監禁されて約10日。

 

 

“校則その⑥”

仲間の誰かを殺したクロは“卒業”となりますが、

自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。

 

 

それを利用する者が現れてしまった。

クラスメートを…仲間を殺してまで外に出ようとする裏切り者がついに現れたのだ。

 

そして、その餌食となったのは…

 

 

「ま、舞園さん…」

 

 

私の前に舞園さんがいた。

浴槽の壁に背を預け、瞼を閉じるその姿は、一見すると疲れて寝ているようにも見える。

だがしかし、その腹部には包丁が深々と突き刺さり、床には血溜まりができていた。

 

「あ、ああ…」

 

今更ながら、身体が震え始めた。

彼女の美しさに麻痺していた感覚が動き出す。

その光景がどんなに幻想的で歪んだ美しさを内包しようとも、

「舞園さんは殺された」その事実は何一つ変わる事はない。

 

 

死んでしまった。

彼女は死んでしまった。

昨日まで生きていたのに。

笑って…お喋りすることができたのに…。

 

 

 

――――帰りたいな…あの場所に

 

 

 

あの時の彼女の顔が頭を過ぎる。

夢の原点を語り、瞳を涙で濡らしながら笑った舞園さん。

彼女は帰りたかっただけだ。

アイドルとして輝くことができるあのステージに戻りたかっただけだ。

ただ、それだけだったのに…。

 

奪われた。

 

彼女の夢も希望もその命も全て奪われてしまった。

彼女はアイドルとして歌うこともできない。踊ることもできない。

もう笑うことさえできやしない。

 

酷いよ…非道すぎるよ!

 

彼女が一体何をしたというんだ!

誰よりも夢を大切にして…誰よりも努力して…。

それなのに、こんな…こんな終わり方ってあるか!

 

一体、誰が…!?

 

誰がこんな非道いことを?

クラスメートを…仲間を殺すなんて。

人殺しに堕ちてまで外に出たいなんて。

 

嘘だ…こんなの現実じゃない。

 

そ、そうだよ…。

き、きっとこれは…も、催しものか何かだ。

希望ヶ峰学園が用意したパロディに決まってる!

 

 

「ちょ、ちょっと、もこっち!?」

 

 

私はフラフラと舞園さんに向かって歩いていく。

後ろで盾子ちゃんの声が聞こえた気がする。

それでも、私は歩みを止めなかった。

確かめるのだ。

これはきっとジョークに違いない。

舞園さんは、アイドルであり、女優だ。

きっと死体の演技をして、私達を騙しているのだ。

うひひ…舞園さんは、本当に演技が上手いな。

完全に騙されてしまったよ、私は。

 

彼女の肩に手をかけたら、きっと…

 

 

「…冗談です。残念☆ばれちゃいました」

 

 

目を開けて、少し意地悪そうに笑いながら、そう言ってくれるに決まってる。

 

(クソが…超カワイイじゃねーか)

 

こんなカワイイ生物に騙されたら、怒るに怒れない。

なんだって、許してしまいそうじゃないか。うん、許す。

私は彼女を許すことにした(3回目)

 

 

…うん、そうだ。

 

何度だって許す。許すから…!だから、舞園さん―――

 

 

 

「やめなさい。もう…手遅れよ」

 

 

その時だった。

舞園さんの肩に触れようとした私の手はその直前で何かに防がれた。

私を止めたのは、誰かの手。

だが、そこからは、本来あるはずの体温が感じられない。

その手には、黒い革の手袋がはめられていた。

黒革の手袋から伝わる独特の冷たい感触は、その所有者を端的に表現していた。

 

 

霧切響子。

唯一能力がわからない謎の超高校級の新入生。

 

「刺さった包丁の深さ。出血量。血の乾きから見た経過時間。もう無理よ。

舞園さんは確実に死んでいるわ。それに…」

 

霧切さんは透き通った冷たい瞳で私を見つめる。

 

「まだ検死が終わってない彼女に…その遺体に触れることは、私が許さない」

「い、遺体って…!」

 

彼女の瞳に映る私の顔は酷く青ざめていた。

 

遺体。

 

その言葉で、私はようやく現実を認識した。

舞園さんは殺された。そして、これはパロディなんかではないのだ。

 

「…あなた達も迂闊に動き回らないで。もう、ここは“殺害現場”なのよ」

 

彼女は振り返り、みんなに向かってそう言い放った。

その声は、低いがよく響き、有無を言わせない迫力があった。

 

「し、しかし霧切君!僕達はどうすればいいのだ!?そ、そうだ!ここは警察に連絡を!」

「馬鹿かてめーは!?警察に連絡できねーから、ここに閉じ込められてんだろーが!!」

 

本来は、みんなを仕切らなければならない超高校級の“風紀委員”である石丸君が

この状況を前にパニックを起こしている。

それを超高校級の“暴走族”である大和田君が、キレながら冷静なツッコミを入れる。

 

「霧切よ…我らはどうすればいい?我は正直、今何をすればいいかわからぬ」

 

その大きな身体で苗木を介抱しながら、大神さくらさんは問いかける。

 

「…全員で体育館に向かいましょう」

 

その問いに対して、霧切さんは、少し考えた後にそう答えた。

 

「今の状況で、舞園さんを殺した犯人を見つけることは難しいわ。

それにモノクマが言った“学級裁判”というのが気になる。

それは恐らく、この事件に関係することだと思う。

行動を決めるのは、それを聞いてからでも遅くはないでしょ?」

 

「承知した。だが、苗木はどうする?我の見立てでは意識が戻るまで当分かかりそうだ。

個室で休ませておくか?」

 

そうだ…苗木だ。

大神さんの言葉で、私は苗木のことを思い出した。

見ると苗木は気を失い、ぐったりと大神さんにその身体を預けている。

 

(苗木…)

 

舞園さんを呼びに行って、最初にこの惨状を目の当たりにしたのは苗木だった。

この希望ヶ峰学園の新入生で舞園さんと最も親しかったのは苗木だった。

 

 

―――私…苗木君からは、不思議な強さを感じるんです。

   みんなを導いてくれるような不思議な強さ…苗木君はそれを持っている気がします。

   だから、私は期待しているんです。

   あの時の鶴みたいに、きっと苗木君が、私を…私達を助けてくれるんだって!

   そんな気がするんです。ただの勘ですけど…

 

 

ああ、なんという皮肉だろう。

彼女が希望と信じた苗木が、彼女の絶望を…その終わりを最初に目撃するなんて。

私は本気で苗木に同情した。心の底から同情した。

前のように、不運だからではない。

この絶望の学園の中で出来た親しい友達を、もしかしたら、思い人を失ったのだ。

その衝撃は、彼女と少し親しくなれただけの私ですらよくわかる。

ならば、苗木は…彼女とあれほど親しかった苗木は…。

超高校級の“助手”の死を目撃した苗木の心はどれほどの絶望だったのか。

 

「悪いけど…苗木君も連れて行くわ。全員で動くのは、お互いのアリバイのため。

お互いを監視するためでもあるの。もし、彼を残して殺害現場が荒らされるようなことがあれば、その疑いは気絶している彼に及ぶわ」

 

だが、苗木は休むことを許されない。

霧切響子の正しく、冷徹な判断により、私達と共に体育館に移動することになった。

 

(チ…ウザイな、中二病のくせに)

 

私は彼女が正しいと認めながら、内心毒づいた。

彼女の判断は、湖南や金田二という推理漫画を読みこんだ私から見ても正しいと思う。

発言から彼女も相当読みこんでいるとわかる。

この状況を前にちょっと格好をつけたくなる気持ちもわからなくもない。

だが、だからと言って

その知識を武器にリーダーぶるのはちょっと調子に乗りすぎではないのだろうか?

 

本物の“探偵”でもないのに…。

 

どうやら、私は彼女が言った“遺体”という言葉にひどく反感を抱いたようだ。

舞園さんを遺体と呼んだ。

私はそのことに筋違いの恨みを持ってしまったようだ。

彼女は正しいだろう。

だが、あまりにも人の気持ちを考えていないのではないだろうか。

 

「ぐっすん、うう…私も手伝うね、さくらちゃん」

「朝日奈…すまぬ」

 

やっと泣き止んだ朝日奈さんが、涙を拭きながら、苗木の腕を肩にかけ歩き出す。

それに続き、みんなも体育館に向かって歩き出す。

 

(舞園さん…)

 

私は振り返り彼女を見つめる。

テレビの中で、あれほど光り輝き、多くのファンに支えられた彼女を

冷たく暗いこの場所に一人置き去りにすることに、ひどく切ない気持ちになった。

 

「もこっち…ほら!行くよ」

「あ…」

 

盾子ちゃんが私の手を握り、歩き出す。それにつられて私も歩き出した。

私と舞園さんの距離はどんどん広がっていく。

 

 

 

「舞園さん…さよなら」

 

 

 

そう呟き、私は部屋を出る。

 

 

 

私がこの学園から出て、最初にやること。

それはどうやら、彼女のお葬式に出ることになりそうだ…。

 

 

 




お久しぶりです。久しぶりに投稿すると緊張しますねw
最近は何故か「うーさーのその日暮らし 覚醒編」を何度も視聴していますw
あの最終回を見た後、総集編を見ると、何気にしっかりと伏線を敷いていたのに驚きます。

今回は残姉の話まで入りたかったのですが、いつもの理由で投稿することにしました。
なんとか、次話は早く書きたいです。
では、また


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