私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第1章・イキキル 前編③

「え…!?い、今、何ておっしゃったのでしょうか?」

 

私は自分の耳を疑った。

それは、彼女の突然の申し出があまりにも私の想像を超えていたからだ。

耳が万が一でも正常である可能性を考慮して、私は恐る恐る舞園さんに問いかけた。

 

「今夜、私の部屋に来てくれませんか…そう言いました」

 

彼女は、ほんの少し微笑を浮かべながら、再度その言葉を口にした。

信じ難いことに、私の耳は正常らしい。

だが、即座に別の考えが頭に浮かぶ。これは、夢ではないか…と、そんな考えが。

この状況下においては、そう思う方が正常であり、その方がまともな思考だろう。

だって考えて見て欲しい。

 

あの超高校級の“アイドル”である舞園さやかの部屋に私が招かれる―――

 

そんな奇跡が私の身の上に起こるわけではないか…!?

 

「突然こんなことを言い出して、黒木さんも驚きますよね…」

 

私の混乱が表情を通して、彼女に伝わったようだ。

彼女は視線を少し視線を逸らして、理由を説明し始めた。

 

「昨日のあのDVD…あの映像を見てから、私…とても不安になって…。

だから、そのことも含めて、いろいろ黒木さんに相談したいと思いまして…。

あの…ダメですか?」

 

彼女の説明を聞きながら、昨日のことを思い出す。

真っ青な顔をして、教室を出て行った舞園さん。

きっと彼女も黒幕に家族を人質にされた映像を見せられたのだ。

だから、あのような大声で悲鳴を上げたのか。

うん、私も同じだからこそ、よくわかる。

チ…あと2秒遅ければ、私が悲鳴を上げていたものを。

まあ、話は戻すが、あのような映像を見せられては、彼女の不安も当然だ。

誰かに話したい。相談したい。その気持ちはよくわかる。

 

でも、これって…もしかして…

 

 

 

(所謂“人生相談”じゃないですか~~~~!?)

 

 

 

人生相談。

それは、友達、いや親友となった相手には欠かす事ができない必須のイベントである。

主な発生条件として、進学や就職を目前に、パロメーターが一定以上の同性、または異性の相手がいることが必要であるこのイベント。

私も中学時代において、親友の優ちゃんを相手にその条件をクリアして、このイベントが発生した。少し自慢となってしまうが、私は頭がいい方だ。成績もまずまずであった。

しかし、優ちゃんは、勉強が苦手なタイプであり、私と同じレベルの高校に進学するのは正直難しかった。そのような状況の中、私は優ちゃんの家に泊まり、夜通し進学する高校について話し合った。結局は、私達は別々の高校に行くことになったが、好きな異性のことや、あれこれ話し合ったあの夜は、私のいい思い出となり、優ちゃんとはより仲がよくなった気がする。

かなり前に放送を終了したライトノベルが原作の某アニメにおいても、主人公の妹であるはずがないと思うほど可愛くて生意気な妹が“人生相談”を通して、少しずつ主人公との仲を深めていった。

そう“人生相談”とは、それほど王道のイベントなのである。

それを私が舞園さんと…あの超高校級の“アイドル”とすることになるなんて…!

あまりのことに身体が震え始めた。即座に返事したい気持ちが湧き上がる。

 

だが、待て私。

そんな簡単にホイホイついていくようでは軽い女と思われ、今後の展開に響く。

ここは慎重に行こう…あ、そうだ!

 

「わ、私なんかでい、いいのでしょうか?あ、あの、苗木の野…いや、苗木君に相談した方がいいのではないでしょうか?」

 

私は、モジモジとしながら、心にもない返事をした。

彼女は、苗木の野郎…あのラッキーマンと仲がいい。

だから、本来ならばこの役割は、苗木の奴が適役ではないのだろうか?

自分で質問しておいてなんだが、改めて考えるとそれが一番自然だろう。

 

(あ、しまった…!)

 

同時に私は事態のマズさに気づく。

ああ、なんということだ。それは非常にマズイ。

 

今の舞園さんを苗木に人生相談させる―――それは、舞園さんという子うさぎを、

苗木誠という解き放たれた野獣の前に出すことに他ならない。

 

背も小さく身体も小さいが、奴も男…!

夜にアイドルと二人きりの空間などに置かれたら、何をしでかすかわからない。

ああ、私は何という質問をしてしまったのだ。

 

「な、苗木君ですか…」

 

心の中で頭を抱える私を前に、彼女は言葉を濁した。

顔に驚愕を浮かべ、私から視線を逸らしす。

 

「え、ええ…そうですね。苗木君とは仲がいいのは本当です。

でも、苗木君は、男の子ですよね。あの、だから、話せない事もあって…。

それで、同性で話しを聞いてくれそうな黒木さんなら、全部お話することができると思いました。あの…今夜、無理そうですか?」

 

「あ、ああ、そうなんだ!そーか、そーか、大丈夫、今夜、全然大丈夫ですよ!」

 

自分がした質問によって、

最悪の展開が起きることを危惧していた私は、光の速さで彼女の誘いを承諾した。

最悪の事態は回避された。もう、格好をつける必要もない。

同じ歳の同性として、彼女の悩みにとことん付き合おうではないか。

 

「ほ、本当ですか?ありがとう、ありがとうございます!黒木さん!」

 

私の承諾に曇りがちだった彼女の顔がぱああーと明るくなった。

彼女は私の手を取り、感謝の言葉を繰り返す。

 

「い、いや、そ、そんな喜ばれても、こ、困るな…アハハ」

「本当にありがとう…私、本当に心細くて…」

 

そう言って彼女は俯いた。

その様子から、想像以上に彼女が追い詰められていたことがわかる。

とにかく、そんな彼女の力になれてよかった。

 

「あの…できれば、深夜、誰にも見られないように来てくれませんか?人に見られて、噂とかになるのは、お互いにとっても、いいことではないので…」

「う、うん!大丈夫!私、人に気づかれないことに関しては自信あるから。任せて!」

 

私は、自信満々に頷く。

アレ…何かとても自虐的な事実を述べたような…?

 

「本当に…ありがとうございます」

「え…?う、うん!こちらこそ!」

 

彼女はそう言って顔を上げた。

その表情にはいつもの笑顔が戻っていた。

だから、気のせいなのだろう。

顔を上げる瞬間、彼女の口が三日月のような形に見えのは。

 

(まあ、何はともあれ、最悪の事態は阻止できた。苗木…ザマ~~~~~~~!!)

 

私は、心の中でガッツポーズをきめた。

私は、初めて苗木誠に、あの超高校級の“幸運”に勝った!…そんな気がしたから。

 

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 

「ウヒヒ、こ、これとか夜食にどうかな?」

「も~黒木さんたら、こんな大きなもの夜食にしたら、朝食が食べられませんよ」

 

果物の王様(自称)であるドリアンを持ち上げる私を見て、舞園さんは、口元を押さえながら苦笑する。こうしていると本当に、私達は友達みたいだ、と思う。

二人で私の夜食の果物を選ぶことになり、その間いろいろと話すことができた。

 

「舞園さんは、り、料理とかするのかな?」

「時々しますよ。得意料理は“ラー油”です!」

「絶対に嘘だ!?」

「いいえ、これは本当ですよ!自家製ラー油を作れます!」

「う、う~ん、確かに料理といえば、料理なんですが…」

 

料理の話から意外な得意料理を知ることができた。

 

「ほ、本当にスタイルいいよね。さすがはアイドルって感じ」

「こう見えても、それなりに筋肉はあるんですよ。ステージを飛び跳ねたりしちゃうんですから!」

「そう考えると、確かに大変そうだね。体力が必要だから、私では無理かな…」

「ダンスの練習は毎日しますよ。本当にキツくて、時々逃げ出したくなります。

でも、一緒に頑張る仲間がいるから、私も頑張ることができるんです.。

最高の仲間です。彼女達がいると、夢に向かって頑張ることが本当に楽しい」

 

ダイエットの話から、彼女のスタイルの良さに(何か、おっさんのような言い回しをしてしまったが)そして、芸能界の話題へと移った。

舞園さんは語る。

ステージで仲間達と歌うことの喜びと、芸能界の厳しさを。

 

「あ、そーだ。体力なら、野球が得意のあのチャラお…いや、桑・・桑…?」

「桑田君のことですか…?」

「あ、そうそう桑田君!彼とかどうかな?彼も歌手になりたいとか言ってたし…」

 

歌手の話題になり、

ふと、あのチャラ男が歌手を目指したいという戯言を言っていたことを思い出した。

名前の方は、本気で出てこなかったので、ちょっと焦ったが、

舞園さんがフォローしてくれたので助かった。

奴は、野球においては超高校級。

だから、ダンスとかもすぐに慣れることができそうだ。

私はそんな暢気なことを考えてた。

 

だが…

 

「絶対に無理です。私、命賭けてもいいです!」

 

彼女は、胸の前で両の手を固めて、力強く宣言した。

 

「え…?」

「彼が、歌手として成功することは、絶対に無理です」

 

彼女の予期せぬ言葉に驚愕する私に、舞園さんは、再びはっきりと答えた。

正直、意外だった。

彼女のような気を使うタイプの人間は、心では否定していても、建前で桑田の成功を

応援すると思っていた。

だが、彼女は否定した。それも、全力で、命を賭けて。

 

「そんなに、甘い世界ではないんですよ…」

 

彼女は氷のような笑みを浮かべ、その理由を語りだした。

 

「彼は、きっと野球で失敗したことがないから、歌手というものも甘く考えているんです。

でもね、黒木さん。

芸能界というところは、そんな考えで生きていけるほど甘くないんです。

この世界では、毎日のように新しいグループがデビューして、そして半年も保つことなく

消えていきます。才能だけでも、運だけあっても、それだけでは足りない世界。

全てを兼ね備えた上で、常に全力を尽くさなければ生きていけないんです。

だから、覚悟のない彼が生きていけるはずがないんです」

 

(ゴ、ゴクリ…)

 

彼女の雰囲気に私は完全に気圧された。

そこに立っているのは、先ほどまでの希望ヶ峰学園の同級生である舞園さんではなかった。

そこにいるのは、紛れもなく、“アイドル”舞園さやか、その人であった。

 

「あの世界では、気を抜いていたらすぐに追い抜かれてしまう…。

息継ぎなしで水中を全力で泳がなくちゃならない…本当にそんな感じです。

その世界で夢を叶えるためには、ずっと夢を見続けていなくちゃならないんです。

たとえそれが、悪夢であろうが、起きていようと、寝ていようとも…。

夢を見続けなくちゃならないんです。

だから、私はいつも必死でした。夢を叶えるためなら、なんでもしてきました。

嫌なことも含めて、本当に何でも…」

 

(ん?今…)

 

一瞬、中年のディレクターに肩を抱かれ、ホテル街に消えていく舞園さんが頭を過ぎった。

だが、待ってほしい。

彼女は、“超高校級”のアイドルだ。

その肩書きは、そのような手段を用いて獲得できるほど甘いものではない。

彼女はアイドルの中でも別格の中の別格。

きっと、いろいろ嫌がらせを受けた時の話なのだろう。

 

「…だけど、今は本当に毎日が楽しいです。みんないい友達だし、いいライバルで、

昔からずっと一緒にやってきた大切な仲間たちと、

一緒に夢を叶えて…今はすっごく幸せです。でも…時々怖くなるんです。

いつか世間に飽きられて…そしたら、私達どうなっちゃうのかな?って。

夢を失って、楽しい日々は終わって、みんなバラバラになっちゃうのかな?って…」

 

彼女は、自分を抱きしめるように腕を組み、小さく震えた。

 

「だから私は、希望ヶ峰学園に入学したんです」

「え…?どういう意味?」

「ここを卒業できれば…間違いなく成功を手に出来るんですよね?

そしたら…私は大切なグループの仲間と、ずっと一緒にいられるじゃないですか。

そう…思っていたのに…」

 

彼女はそう言って頭を押さえる。

身体の震えは、もはや隠しようがない。

表情も暗く、その瞳はみるみる“絶望”に犯されていく。

 

「出られない…なんて!仲間達もどうしてあんなことに…!

こうしている間にも、世間は私達を忘れていく…!

私達が世界から…消えていく!

私には…こんな所にいる余裕なんてないにッ!!」

 

そう彼女は叫んだ。

それは、私が初めて聞いた、彼女の心からの叫びだった。

そうか。

舞園さんは恐れているんだ。

苦労して手にいれた最高の夢だからこそ、それを失うことを恐れているんだ。

 

「ご、ごめんなさい。つい興奮して暗い話をしてしまって…」

 

彼女は、ハッとして我に返り、バツの悪そうに私に謝った。

 

「…話題を変えましょう。そうだ、黒木さんは江ノ島さんと仲がいいですよね?」

「う、うん…」

 

新たな話題として、出てきたその名前を聞き、今度は私が微妙な顔になった。

 

(盾子ちゃん、かあ…)

 

私は、今日の朝食のことを思い出した。

 

「もこっち、何か元気ないよね?じゃあ、私、お茶とってきてあげるから!」

 

モノクマのDVDの件があり、朝食では、皆が暗い表情となる中、一人だけ

異分子とでもいうべき彼女は、明るい声を出し、私の席の横にずうずうしく座っていた。

あの食堂で、ちょっと仲良くなってから、ウザイくらいに話しかけてくる。

 

「はい、お茶!もこっちは、お茶にオレンジジュース混ぜるの好きだったよね?」

 

そう言って、彼女は、私の目の前でお茶にオレンジジュースを入れ始めた。

うん、もはや完全なイジメである。

いや、でも本人からは、まったく悪意が感じられない。

だから、正確には、イジメと嫌がらせの真ん中か。

その絶妙な場所に、自信満々に立っている彼女を頭の中で想像して、気が重くなった。

 

「ゴメン、本当に調子悪いから…」

「え…?マジ…」

 

その時は、本当に調子が悪かったので、正直にそう答えた。

(まあ、調子がよくても、こんなことに付き合う気はないが)

すると、彼女はみるみる慌て出した。

 

「ゴメン、ゴメンよ~!そんなに調子が悪いとは思わなかったのだ!本当にゴメン!

あ、コレ、私が飲んじゃうから!」

 

そう言って彼女は、お茶のオレンジジュース割りをゴクゴクと飲み始めた。

 

もう嫌だこの人…訳わかんないや。

 

本当に何なのだろう、このビッチは?

私に対して、厚かましく、図々しく接する反面、

私に本気で嫌われることを恐れている気がする。

いや…そんなはずはない。彼女はあの超高校級の“ギャル”

外に出れば、それこそ、友達100人は固い存在だ。

だから、私に嫌われるのを恐れるはずなどないだろう。

気のせいか。

うん、それにしても、よくわからない奴だな。

私の短い人生の中で、出会ったことがないタイプだ。

何を考えているのか、さっぱりわからない。

 

 

(盾子ちゃん…彼女は私にとって、一体何なのだろうか…?)

 

 

舞園さんの質問から、いろいろ考えてしまったが、

盾子ちゃんとの関係を口で説明できるほど、私は器用な人間ではなかった。

そのため、私も別の話題を振ることにした。

 

ずっと気になっていた二人の関係を。

 

「ま、舞園さんこそ、苗木君と仲がいいよね…どんな関係?」

 

舞園さんは、その質問に少し驚く、そしてその後に“クスリ”と笑い答えた。

 

 

 

「私達…付き合っているんです!」

 

 




皆様のために、いい場面で終わらせました・・・!
冗談です。ただの字数です(ゲス顔)

今回も字数により中途半端で区切ります。悪しからず。
頭の中でイメージできるのは場面だけなので、文字化すると何字くらいになるかは
書いて見なければなりません。
今回は、完全に舞園さん回でしたが、次回で、前編は終了します。
原作を知っている方・・・いよいよです。

舞園さんの現状

誘いに成功して、一安心。接待も兼ねて、もこっちと話すが、何気に盛り上がり本音で話す。

もこっちの現状

苗木に勝った(根拠なし)と勘違い。このままでは被害者不可避w


なぜか、最近週刊になっていますが、この作品は基本は不定期です(強調)
では、また不定期に!

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