私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い! 作:みかづき
「あぁ?動機だぁ?何、ふざけたこと言ってんだ、てめーは!?」
「ぷぷぷ、それは、見てからのお楽しみ!視聴覚室にレッツゴー♪」
詰め寄ろうとする大和田君を前に、
モノクマは、笑いを堪えながら、床下へと消えていった。
場を静寂が支配する。
私達が監禁されてから、およそ一週間を過ぎた、今日。
とうとう、モノクマ側から、アクションを起こしてきたのだ。
一体、何が起きるの…?
そんな私の心を共有するかのように、誰もが口を開くことなく、
ただ、その場に立ち尽くしていた。
「行きましょう。ここで黙っていても仕方ないじゃない」
最初に発言し、動いたのは、霧切さんだった。
視聴覚室に向かって、ひとり歩き始めた。
「そ、その通りだ!みんな、視聴覚室に行こう!」
霧切さんの声で、我に返ったのか、石丸君が声を上げ、みんなもその声に従う。
こうして、私達、16人、全員が視聴覚室に移動することとなった。
◆ ◆ ◆
視聴覚室につくと、ドアはすでに開かれていた。
モノクマか、先に行った霧切さんが、開いたのだろう。
「いまさら、こんな所に何があるってんだよ…て、オイ、何かあったぞ!?」
「机の上に、ダンボールがあるな」
「何だろうね、さくらちゃん?」
最初に部屋に入った桑ナントカ君が、大げさに自分で自分にツッコミを入れた。
どうやら、何かあったようだ。
それが何であったかは、大神さんと朝日奈さんの発言の後、すぐにそれを目にした。
「やっと、来たようね」
ダンボールが置かれた机のすぐ側に霧切さんが立っていた。
「霧切さん…それは?」
「さあ、何かしらね…?でも、おそらく…」
不安そうに問いかえる苗木に対して、彼女は目を合わせることなく、
ダンボールに手を入れた。
「これを見れば、分かるかもしれないわね」
彼女の手には、DVDが入ったケースが握られていた。
そのケースには「霧切響子様」と書かれた白いラベルが貼られていた。
「ククク、どうやら、その中に、モノクマが言うところの『動機』とやらが入っているらしいな」
十神白夜が、肩を震わしながら静かに笑った。
「何!?そーだったのか!?」
「察しろ…アホ」
十神君の発言に石丸君が驚愕し、大和田君が、それを見て汗を流す。
「ヌヌヌ…確かに、この視聴覚室なら、そのDVDの中身が見れますな」
山田君が汗をながしながら、メガネがをかけ直す。
「な、何があるのかなぁ、こわいよぉ…」
不二咲さんが、生まれたての子鹿のように震えている。
相変わらずこの子は、可愛いな。
「で、では、みんなで一緒に見ましょうか…?それでいいですよね?」
「うふふ、どうやら、それ以外の選択はなさそうですわね」
舞園さんの提案に、セレスさんが同意した。
確かに、この流れでは、それ以外の選択はなさそうだ。
モノクマの言う「動機」とやらも、十神君が言うように、そのDVDの中に
入っているはずだ。
ケースに名前がついているということは、DVDはそれぞれ別の内容である可能性が高い。
どんな内容かは、とりあえず見て、後で各自が発表することになるだろう。
私達は、ダンボールから、自分の名前が書いてあるDVDを取り出し、
席に座り、その内容を見始めた。いや、正確には、私以外のみんなが…。
「あ、あれ、わ、私の分がないんですけど…」
最後に並んでいた私は、ダンボールの中が空であることに気づき焦る。
(何これ?イジメ…?イジメなの…!?)
あのクマ野郎なら、今までのことを考えれば十分その可能性がある。
しかし、この状況では、さすがに、その可能性は薄い。
なにやら、今回は、シリアスモードだった。
多分、本当に、入れ忘れたのだろう。
だから、待っていれば、あのくそクマが、ここにやってきて…
そんなことを思って、ふと視線を下にやると、床に白いDVDがケースに入れられず
剥き出しの状態で落ちているのを発見した。うん、イジメでした。
そのDVDには、直接マジックで、
「喪子!?チ…!(舌打ち)」
と書かれていた。
ああ、そうか、「もこっち」を当て字にしたのか…。
何だろうね、これ。ああ、合コンで喪てない女子が来て、驚き、舌打ちした…てことかな?
うん、もう…アイツ、殺していいよね?
冷静な殺意を胸に私は、DVDを拾い、席についた。
殺そうにも、ヌイグルミの方を殺っても仕方ない。
もしかしたら、このDVDの中に、奴の正体のヒントがあるかもしれない。
そんなことを考えながら、私は、再生のボタンを押した。
◆ ◆ ◆
画面はいきなり砂嵐から始まった。
オイオイ、ここでも嫌がらせかよ・・と思った次の瞬間、
画面には4人の男女を映し出した。
「ヤホ~もこっち!」
「智子、元気してる?」
「智子、こっちは、元気だぞ」
「…。」
私はその人達を知っていた。
知らないはずはない。間違うはずはない。
「優ちゃん…!お父さん…!お母さん…!ついでに…智貴!」
そこには、私の友達の成瀬 優が。
そして、家族が…お父さんとお母さんと、ついでに弟の智貴がいた。
「みんな…!」
私は思わずモニターを触ってしまった。
私達が監禁されてから…家族と離れてから、まだ一週間くらいなはずなのに、
彼らの存在がひどく懐かしく感じられた。
今日まで、とりあえず何もなく、生活は送ることはできたが、
現在、私達は、モノクマを操る犯罪者に自由を奪われていた。
その環境の中、やはり、普通に生活することなどできるわけがなかった。
知らず知らずの内に、不安や恐怖がその身を削っていたのだ。
久しぶりの家族と友達の元気な姿を目の前にして、緊張が緩み、私の瞳に涙が自然と
溢れていた。
「智子…あなたが希望ヶ峰学園に選ばれるなんて…夢みたいだわ。頑張ってね」
「自分の娘として誇りに思うぞ。まぁ、でも…無理はしすぎないようにな」
「もこっち~!見てる~!?本当に凄いよ!頑張ってね~!!」
「まぁ…喪女だけどね…」
(て、てめ~智貴。余計なことを言うんじゃねえ…!)
お母さんとお父さんが私の希望ヶ峰学園の入学を祝い、優ちゃんもそれに同調してくれている中で、弟の智貴が残酷な現実を呟き、微妙な空気が流れたことは、モニターを通して伝わってきた。
その場に私がいたのなら、飛び蹴りなり、何かの報復にでるに違いない。
そんなことを考えると、ふと笑ってしまった。
智貴…変わってないな。
いつもなら激昂しているところだが、今は嬉しくすら感じられた。
変わらぬ弟の反応は、私の日常そのものだった。
彼らの座っているソファと背景から、そこが自宅のリビングだとわかった。
ほんの一週間ほど前、私は、そこで胡坐をかきながら、テレビを見ていたのだ。
「智子、あなたに寮生活なんて無理だと思ってたけど、ちゃんと生活できてるみたいで、
お母さん、嬉しいです」
「ちゃんと、ご飯は食べてるのか?いつでも帰ってこいよ」
(イヤイヤ、判断早いって…!まだ一週間かそこらしか経ってねーし)
両親の早合点に私は苦笑いした。
おそらく、遅くても3日以内に逃げ帰ってくると予想したのだろう。
まあ、現実には、逃げ帰ることができない状況なんですが…。
「もこっち、休みになったら、帰ってきてね!そして、遊ぼうよ!」
画面の中の優ちゃんが手を振る。
(優ちゃん…)
私のただ一人の友達。
中学で出会った彼女は、今も変わらぬ笑顔を私に向けてくれる。
優ちゃん。
いつかの優ちゃんの言葉が近頃よく頭に浮かびます。
お前の為に友達があるんじゃねぇ、友達のためにお前がいるんだ。
ここでは、誰も私に言葉をかけてくれません。
そんな某バスケ漫画の改変台詞が頭を過ぎった。
うん、早く会いたいよ。
「ほら、智貴も何か言いなさい!」
「ハハハ、何を恥ずかしがっているんだ」
「いや、そんなんじゃねーし」
両親に促されて、そっぽを向いていた智貴は少し恥ずかしそうに、こちらを見る。
「まぁ、元気にやってれば、それでいいんじゃねーの?」
(ハハハ…智貴のやつ…)
どこまで行っても、智貴は智貴だった。
あの出発の日に見せた表情と何も変わっていない。
そう、何も変わって…いや…何かが違う。
私は、モニターを食い入るように見つめた。
(あれ?コイツ…身長伸びてね?)
いや、明らかに、間違いなく、智貴の身長は伸びていた。
それは、中学三年生というより、高校生の大人びた体型に成長していた。
髪も少し伸びていた。これまたモテそうな雰囲気を出していた。
(男子の成長期って凄いな…!)
いや、マジで絶句しました。
スタンドで言えば、成長AAといった感じかな?
わずかな期間でここまで成長するとは。まさか、私と離れたのがきっかけか?
寂しさがきっかけ?シスコンなの?やっぱりシスコンだったの?
それに、優ちゃん…また一段と可愛くなってる。
私の希望ヶ峰学園騒動でしばらく会っていなかったが、彼女も変わっていた。
身長ではなく、女らしさに磨きがかかっていた。
さらに、可愛くなってる。乳袋もあんなに…ぐぎぎぎ。
家族と友達の変化と不変。
それを目の当たりにして、感傷に浸っていた私は、あることに気づいた瞬間、絶句した。
(え…この映像は、誰が撮ってるの…?)
希望ヶ峰学園の職員だろうか?
でも、今は、私達の誘拐騒動でそれどころではないはず。
じゃあ…これを撮っているヤツは…!
―――ゾクリ
悪寒が走った。
奴だ…モノクマを操っている奴だ!
「み、みんな!逃げて―――」
私がモニターに向かって叫んだ瞬間、画面は真っ暗になった。
そして、次の瞬間、別の映像がモニターに映しだされた。
「ヒ…ッ!」
私は、小さい悲鳴を上げた。
そこに映し出されていたのは、無残に破壊された私の家のリビングだった。
窓は破られ、ソファは引きちぎられていた。
そして、また、別の映像が映し出された。
「て、天の助…!」
それは、私の部屋だった。
それがわかったのは、私の愛用のヌイグルミである「天の助」があったからだ。
ゲーセンにおいて、他人の努力を利用する、所謂「こじきプレイ」で獲得した
巨大な人型人形の天の助。
それが、無残にも、バラバラに引き裂かれた。
それだけではない。
私の命ともいえるパソコンは完全に破壊されていた。
乙女ゲーや秘蔵フォルダは全滅していると思って間違いない。
だが、この状況において、そんなものは少しも気にはなかった。
優ちゃんは…お母さんは、お父さんは…智貴はどうなったの?
それだけが、唯一の心配だった。
その時、あの声が聞こえてきた。憎たらしいあの声が…!
「希望ヶ峰学園に入学した黒木智子さん…そんな彼女を応援していたご家族とご友人のみなさん。どうやら…そのご家族とご友人の身に何かあったようですね?
では、ここで問題です!
このご家族とご友人の身に何があったのでしょうかっ!?」
その直後、画面は真っ暗になり、文字が浮かび上がる。
正解発表は“卒業”の後で!
(あ、あわわわ…)
私は、思わず立ち上がってしまった。
(ど、どうして、みんなが…?)
恐怖と混乱で頭の中が嵐のようだ。まるで考えが浮かばない。
身体の震えが止まらなかった。
モノクマは…黒幕は、警察に捕まるどころか、その網を掻い潜り、
私の家族にまで手を出したのだ。
私は、口を押さえる。
悲鳴を抑えることができそうになかったからだ。
いや、この場においては、それが自然だ。
この映像を前に、悲鳴を上げることは何ら恥ではない。
そうだ。
ここは、逆に思い切り悲鳴を上げよう。
漫画やアニメの“ヒロイン”のように、大声を上げて。
私は手を離し、力いっぱい悲鳴を―――
「い、嫌~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」
(え…?)
私は、その悲鳴の方向を見た。
そこにいたのは、本物の“ヒロイン”。
超高校級の“アイドル”舞園さやかさんだった。
「舞園さん!?」
その声に反応し、苗木も立ち上がる。
「嫌、なんで!?どうして!早く、出ないと…いや…嫌~~~~~~~ッ!!」
舞園さんは、顔を真っ青にして、ガタガタと震えながら、
自分の身体を守るかのように抱きしめながら、走り出し、視聴覚室を出た。
「ま、舞園さん、待って!」
その後を苗木が追いかける。
何も言わず、全員がその後を追いかける。
「どうしてこんなことになっちゃったの…?殺すとか、殺されてるとか…もう耐えられない!出してよ!ここから私を出してよ!」
「落ち着くんだ、舞園さん!」
廊下に出ると、二人がいた。
舞園さんは、錯乱状態になっており、苗木は彼女の手を掴み、必死で説得している。
「嫌、離して!」
「みんなで協力すれば、脱出できるよ!」
「嘘よ!」
「もしかしたら、その前に助けが来るかもしれない」
「助けなんて…来ないじゃないッ!!」
「…僕が君をここから出してみせる!どんなことをしても、絶対に、絶対にだ!!」
「う、うう苗木君…う、うわああああああああ~~~~ん」
苗木の説得で、彼女は大粒の涙を流し、苗木に抱きついた。
「大丈夫…大丈夫だから」
苗木は優しく彼女の肩に手をかけた。
(グギギギ…!)
その光景を目の当たりにして、完全にモブ化した私は、心の中で血の涙を流した。
悲鳴…ただ当たり前の行動すら、本物のヒロインに奪われてしまった。
その上でこんな光景を見せつけられるなんて…。
本来、同じモブであるはずの苗木は、彼女の心の支えとなっていた。
苗木の分際で、その言葉、その表情は、まるで主人公のように格好よかった。
羨ましい…。
正直、そう思ってしまった。
私も彼女のように、言葉をかけて貰いたかった。抱きしめられたかった。
だが、現実は厳しい。
私の横には苗木の代わりに…
「ねぇねぇ、さっき叫ぼうとしてなかった?ヒロインぶろうとしてなかった?」
いつの間にか現れたモノクマが、ツンツンと私の頬をニヤけながら、ついていた。
(ク、クソが…)
コイツを殴れば、爆発しかねない。
それに、図星だったこともあり、今はこの屈辱に耐えるしかなかった。
「え…本当!?本当に、ヒロインぶろうとしてたの!?」
それを聞きつけて、盾子ちゃんが顔を紅潮させながら、走ってきた。
本当に嬉しそうに。
(なんで、お前はモノクマ側に加担してんだよ!?お前も被害者だろ!?)
どんだけ私の失態が嬉しいんだよ、このクソ女は!?
「あなたは何者なの…?どうしてこんなことをするの?あなたは私達に何をさせたいの?」
霧切さんは、モノクマに向かって射抜くような目をして、問いかける。
モノクマは、私から離れると、笑いを堪えながら、答えた。
「オマイラにさせたいこと…ああ、それはね…“絶望”それだけだよ!」
その回答に、そして地獄の底から響くようなその声に、私達は絶句した。
私は、以前、厨房でその答えを聞いてはいるが、再び身体が震えた。
「てめ~~~俺のチームの仲間に何しやがったんだ!?」
モノクマに向かって、大和田君が走り出した。
モノクマは、それを見て、笑いながら、床下へと消えていった。
「クソが!クソ!」
モノクマが消えた床を何度も蹴りながら、大和田君は叫ぶ。
そして最後に、静寂と恐怖だけがその場に残った。
◆ ◆ ◆
結局、その後、各自が何を見たのかを話し合うことはなかった。
「…言いたくないわ」
霧切さんを筆頭に、誰も自分から話す者はおらず、会議もすぐに解散となった。
私は、その日、碌に眠ることはできなかった。
家族と優ちゃん、そして、破壊された部屋の映像が頭を過ぎり、浅い眠りを繰り返した。
朝食には、なんとか参加したが、午後には、眠気がピークに達し、少しだけ昼寝しようとしたら、このザマだ。時計は、9時を過ぎていた。
私は、夜時間の前に、厨房にくだものを取りに行くことにした。
厨房には、果物が豊富にある。
何故に果物かというと、夜中に食べても太らないというダイエット本の基本を信じている
というくらいしか理由がない。
みかんやりんご程度なら、部屋に持ち帰って食べても問題はなさそうだし。
「あ、智子ちゃんだ!こんばんは」
「うぬ…黒木か、元気か?」
「ど、どうもです」
食堂には、朝日奈さんと大神さんがいた。
二人はどうやら、食後のお茶をしているようだ。
しかし、この二人は本当に仲がいい。完全に親友に見える。
まあ、大神さんの性別を知らなければ、彼氏彼女に見えるが…。
彼女達に挨拶をかわし、私は厨房へと足を踏み入れた。
そこには、先客がいた。
綺麗な黒い髪。完璧なプロポーション。
後姿からでも、彼女が絶世の美女だとわかる。
そこにいたのは――――
―――――舞園さやかさんだった。
いよいよ本編へ・・・