ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
「・・・しっかし、この夏休みは観光とは無縁の生活だった」
「どこがかしらね。・・・湖のほとりで特訓していた上、こんな城に何度も泊まれるのなら一般人にとって豪遊でしょう」
アーチャーにバッサリ切られて、俺はちょっと落ち込んだ。
とはいえ、今までの夏休みに比べればおおむね忙しい夏休みであることは言うまでもない。
そして、信頼できる仲間と共に異文化を堪能できたところからも、楽しめた夏休みでもあるわけだ。
特訓そのものもまあいい感じにできたと思う。光魔力の制御もだいぶ楽になったし、十分戦闘に使用できるレベルだろう。
武装についても相応のものを製造できた。未だ出来てないものも多くあるが、それは製造時間の問題であり、急ごしらえにしては十分なものが用意できただろう。
近接戦闘についても鍛え直せたし、まあ十分な実力を付けれたのではないかと思う。
「・・・で、アーチャー。俺は今のところどんな評価だ?」
「まあ十分見る目があるレベルと言ったところかしら? 敵の格が分からない以上分からないけれど、魔術師相手なら相当の実力者でも勝ち目はあるわね」
神代の魔術師からそこまで言われるとは、自信がつくってものだ。
この評価を裏切ることが無いように頑張ろう。それだけの義務が俺にはある。
「おぉ! 宮白じゃん!!」
みれば、イッセーも向こう側から手を振っていた。
ボロボロにも程があるだろう。ジャージがもはや見る影もない。どんだけ酷い修行をしたんだろうか・・・。
不要に様子を見に行って酷い目にあっていたら暴走すると思い、自粛していたのが仇になってなければいいんだが。余計なトラウマを背負っていないかすごい心配になってきた。後でそれとなくしっかり聞きだそう。
「よっ、イッセー。・・・マジで大丈夫だったかお前」
「言うな。ようやく解放されたっていうのにいきなり思い出すのはマジで勘弁だ」
顔を真っ青にさせてイッセーはブルブル震えている。
・・・助けに行った方が良かっただろうか。
「と、とりあえず、頑張ったな、イッセー」
「お、おう。お前も頑張ってるみたいだな」
話をそらすために、会話の内容を微妙にずらしていく。
「そういや明日はパーティだったな。よかったじゃねえか。逞しくなったし意外とちやほやされるかもよ」
「そ、そうか? マジで持てるかな?」
イッセーの目の色が僅かに変わる。
よし! ずらせた!!
「ほらお前、非公式とはいえあのライザーをぶっ倒したんだろ? コカビエルとかヴァーリとかとも引けを取らなかったし、間違いなく評価されてるだろ」
「お、おぉ・・・。そうなのか?」
イッセーが少しずつスケベな顔になっていく。
今こいつの頭の中には、ドレス姿の美女のおっぱいの感触がリアルタイムで入力されているのだろう。
「大丈夫! 伝説の赤龍帝が悪魔になったって時点でネームバリューは抜群なんだ!! お前は間違いなくリアス・グレモリー眷属のエースとして認識されてる!! モテるぞ、間違いなく!!」
「・・・いよっしゃぁああああ!!! 兵藤一誠のハーレムライフは目前だぁあああっ!!」
完璧に立ち直ったイッセーを見て、俺はほっと息をついた。
まあ実際、イッセーはそろそろモテ始めてもいいかもしれん。
元々スケベさえ除けばこいつはそれなりにスペックは高い。駒王学園に入学し、平均点を取れるっていうのはどっちかといえば勉強できる方だし、ライザー戦について特訓したこともあって身体能力だってメキメキ上昇している。人間性については本当に
真面目な話、もう少しエロ方面に理解のある人が多い環境だったら彼女の一人ぐらい普通にできてるとは思う。実際部長も朱乃さんもエロに対して許容値が高いし。
悪魔業界はハーレムが認められるぐらいだし、こいつは間違いなくモテ期に突入すると思うんだが・・・。
「やあ。二人とも顔つきが少し変わったね」
「イッセーは逞しくなったな。ああ、さすがは私の認めた男だ」
同じくジャージがボロボロになっている木場とゼノヴィアが少し離れたところから近づいてくる。
木場がイッセーを見て頬を染めていたり、ゼノヴィアがもはや妖怪包帯女と化していたりするなどツッコミどころは多かったが、しかし続々集結していっているな。
「帰って来たようね、皆」
城の入り口から、部長が悠然と姿を現す。その後ろから朱乃さんたちもついてきていた。
なんかテレビで決戦前に主人公たちが結集するシーンみたいだな。・・・レーティングゲームまでまだ少し日が空いてるんだが・・・。
「眷属が集結するのも二週間ぶりね。・・・とはいえ、皆強くなったと思うわ。誇らしいことね」
俺たち全員を見渡して、部長が強気な笑顔を浮かべる。
「さあ、シャワーでも浴びなさい。・・・おかえりなさい、私の可愛い下僕たち」
数週間の特訓を経て、ついにグレモリー眷属は結集したのだ。
さあて、どれだけ頑張れるかな?
「・・・もう初エッチでもした方が手っ取り早いんじゃないか?」
「お前はそれでいいのかよ」
アザゼルからツッコミが入った。イッセーを女湯に叩きこむようなエロ親父とは思えないツッコミだな。
ちなみにこれは、イッセーが禁手に至れなかったことに対するアザゼルの発言が原因だ。
イッセーの部屋に集まって修行の内容について話している。
イッセーは特に山にこもり切ることに成功したことで全員に驚かれている。アザゼル自身、終了まで過ごしきったことには驚いていた。
木場もゼノヴィアもちゃんとした寝床を確保していたわけだし、俺に至ってはラージホークの居住性能を堪能していたわけだ。城で特訓していたメンバーは、当然豪華な生活を過ごしながらトレーニングしている。
昔から思っていたが、こいつ適応力の高さは非常に高いな。俺を筆頭としたイレギュラーな立場を受け入れる能力から理解していたが、状況の変化に対応しすぎだろう。この世界に起源があるのなら、間違いなく「適応」がこいつの起源だ。
挙句、最上級悪魔のドラゴンに追い回されるという地獄以外の何物でもないハードトレーニングも完了している。
俺だったら逃げてる。間違いなく逃げてる。
だが、それだけの過酷な特訓をしていたのにもかかわらず、イッセーは禁手に至れなかった。
しかしアザゼルは特に動じていたわけではなかった。
と、いうか予想の範囲内だったようだ。この反応から考えて、この夏休みの特訓で禁手に至る可能性は最初から低かったらしい。実際当然だと思っているような感じで、イッセーをフォローしていた。
曰く、禁手に至るには相応の劇的な変化が必要だということだ。
言われてみれば非常に納得がいく。
過去の苦しみを乗り越え、死に別れたはずの仲間たちとの邂逅を経て覚醒した木場の聖魔剣。自分と同じ世界の、決定的に違う転生者と相対し、己の生き方を決めたことで発現した俺の光魔力。
正真正銘、精神的に劇的な変化だ。それが均衡を砕く者である
ならばイッセーの精神に劇的な変化がなければ禁手には至れない。
そう考えれば、イッセーが童貞卒業することが覚醒の近道ではないかと考えるのは、別におかしなことでも何でもないだろう。
こいつの並みはずれたスケベ根性と、エロに対する渇望から考えて、始めて女を堪能するというのは、自分で行っても頭痛くなるし木場にも悪いが納得できることではある。
アザゼルもその意見には賛成だからこそ、あり得ないではなくそれでいいのかと言ったわけだ。
実際、こいつのスケベ根性を理解しているオカ研メンバー全員が、程度はともかく思わず納得した表情を浮かべている。
「・・・アザゼル、今からでも女を調達するとかできないか? いや、マジで」
思わず小声でアザゼルに相談してしまうぐらいには、俺は本気だった。
さすがにそこまで考えるのは想定外だったのか、微妙にアザゼルは引いていた。
「お前マジすぎだろ。っていうか、それだったらわざわざ調達する必要無くないか?」
「いや、そこまで行くと一気に進展しそうじゃん? ・・・今のイッセーには刺激が強すぎる気がするんだよなぁ」
あえて様子を見ると決めている手前、俺自身の意思で発展させるのはさすがにまずい。
ベタ惚れ状態の部長達で初体験させると、間違いなくそのままゴールインしそうなんだよなぁ。
そんな俺の後頭部に、静かに不吉なオーラを放ちながら、手が置かれた。
「兵夜? ・・・あなたは何を不吉な相談をしようとしているのかしら?」
いかん!? 部長が静かに怒り狂っておられる!?
「イッセーの貞操は私が管理しているのよ? ・・・私の許可なく貞操を奪わせようだなんて、忠誠心の低い下僕をもって私は不幸だわ・・・」
「すいませんごめんなさい! 痛い痛い痛い痛い痛いっ!?」
ちょ、あなた筋力トレーニングでも追加でしてたんですか!? 本気で頭がい骨が悲鳴を上げてるんだけど!?
こ、これがアザゼルのトレーニングメニューの成果なのか!? 魔法使いタイプであるはずの部長をここまで肉弾戦向けの戦闘スタイルまで作り上げるとは、お、恐ろしすぎる!! さすがは堕天使の総督だ!!
「・・・部長に貞操を管理されていては、イッセーと子作りするのは夢のまた夢だな。先は長く険しい」
ゼノヴィア、アホなことを言ってないで助けてくれ!!
「ごごごゴメンなさぁああああああああいっ!!」
マジで死ぬぅうううううううう!?
「はあ、マジで死ぬかと思った」
部屋でつまみをつくりながら、俺はそうぼやいた。
部長ってば意外と嫉妬深いというか独占欲が強いというか・・・。いや、お嬢様ならそれぐらいわがままなぐらいが当然か?
「兵夜が悪いよ。あれリアスも怒るって」
オレンジジュースを飲みながら、ナツミがツッコミを入れてくるがとりあえずスルーだ。
ちなみに、今日のつまみはできたてポテトチップス。グレモリー城にあった新鮮かつ高級な油と、とれたてかつ高品質なジャガイモを使っています。間違いなく人生最高級のポテチ。
とりあえず味付けはシンプルに塩でいこう。
「・・・がんばってね、兵夜」
ぽつりと、ナツミがそう言った。
「ん? なにを?」
「レーティングゲーム」
困ったように微笑みながら、ナツミはそういう。
「事故とかあるみたいだから心配だけど、兵夜が勝ったら嬉しいもん」
「そう言われると照れるな。そんなに嬉しいか?」
「嬉しいよ。ボクを助けてくれた人が、こんなにカッコよくて強いって言えるんだもん」
ものすごいニコニコ笑顔でいわれると、返答にマジで困る。
「ま、まあ・・・頑張る」
「うん、ガンバレ」
・・・ヤベ、ちょっと可愛い。
てれ隠しに勢いよく油を切ってポテチを完成させる。
「ねえ、兵夜」
「なんだ?」
「もし、ボクがまたピンチになってたら・・・助けてくれる?」
・・・あの時は、その場の成り行きも多分にあっただろう。
だけど、今のナツミは俺の使い魔だ。
転生者なのに子供っぽくて、だからか割り切りができなさ過ぎて追い出されるぐらいついてなくて、だけどそれゆえに今を精いっぱい楽しめる、そんな少女だ。
・・・俺の、大事な
だけど・・・。
「イッセーが同じぐらい以上にピンチじゃなかったら・・・としか言えないな」
こんなタイミングでいうことではないだろうが、しかし言っておくべきことではある。
そう、そこは譲れない。
宮白兵夜にとって、兵藤一誠は絶対だ。彼のピンチは、間違いなく宮白兵夜にとって最優先に考えるべきことだ。
もし、イッセーとナツミのどちらかを天秤にかけるしかなかったら・・・。
「うん、その時はイッセーだよね」
意外にも、ナツミは怒らなかった。
けっこう驚いて振り返ると、ナツミは笑っていた。
「それでいいよ。ボクにとって兵夜は兵夜だもん。・・・兵夜にとってイッセーがイッセーなぐらい、兵夜だもん」
思わず見とれるぐらい、笑顔だった。
「だから、そうじゃないときは・・・あの時みたいに、カッコよく助けてね?」
とても悪いと思うのと同じぐらい、とても感謝してしまう、笑顔だった。