ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
何とか、全員片付けたか。
正直途中の流れは覚えていないが、痛覚を調べてみるが特に大けがはしてないようだ。
戦闘に合わせてアミュレットによる防護を施していて正解だった。単純な防御力なら軽装甲車ぐらいはできてるはずだからまあ何とかなったか。
周りを見てみれば、周辺には原形をとどめていない死体もいくつかあった。まあ原形をとどめている死体の方が数は多いんだけどな。
どうやら増援はまだ来ないらしい。
来たらきたで今の状態では戦えそうにない。マジでくんな敵。
呼吸が荒くなっているのはさすがにどうしようもない。
「クソ・・・キツイな・・・」
緊張が解けると同時に酷く汗が出てくる。
堕天使に止めを刺した時は道連れにする覚悟だったからもうわけがわからなかった。
レーティングゲームは基本殺し合いにならないようになっているので、思い切りよく行動できた。
コカビエルは殺す気で行ったが、こっちも緊急事態だったので正直覚えてないところが多い。腕吹っ飛んでハイになってたかもしれないしな。
そう、正真正銘最初から覚悟したうえで殺したのはこれが始めただ。
さすがに、精神的にクるとこがあるな。
「兄上」
後ろから、雪侶の声がかかる。
どう反応すればいいのかわからなくて、なにも言えなかった。
「兄上。おかげで助かりましたの」
そっと、暖かい何かが背に当たる。
「兄上は、私の自慢の兄ですのよ。・・・だから、気を取り直して欲しいですの」
「ああ。・・・・・・ありがとう」
全く、こんな非常時に妹に気を使われるとはな。
「どうやら、助けに来るまでもなかったようだ」
視界の隅に、フィネクス卿が映った。
「いえ、正直精神的に結構キてるんで、とりあえず妹を安全圏にまで連れて行ってくれると助かります」
「誰にだって初めてはあるし、それはショックを受けとめて成長してくれればそれに越したことはない。少し休みたまえ」
その言葉に気が抜けたのか、情けなくもへたりこんでしまう。
「いたぞ! グレモリーの眷属とフィネクス卿だ!」
「ご無事でしたか!」
さらに悪魔が何人もかけつけてくる。
・・・助かった、か。
「いやはや。こちらの計画が台無しになってしまうとは思わなかったよ。さすがは英霊に選ばれる魔術使い、そこらの連中とは格が違うか」
頭上から、声が響いた。
仰ぎ見る俺達の視界に映ったのは不健康そうな男。
・・・たしかレイヴンとかいった、セイバーのマスター!?
「今回の一件は禍の団の仕業か。・・・一民間企業を襲って何の得がある?」
突然のことにも冷静に対応するフィネクス卿の視線に真正面からさらされながらも、レイヴンも冷静な様子を崩さない。
「目的は大きく分けて三つ。一つは今回の和平が原因で仕事を失った悪魔祓いの類を味方に引き入れられないかのテスト」
指を立て、さらにもう一つ立てる。
「二つ目はうちの技術顧問の一人がこの企業の技術を警戒したため。現在のパワードスーツの性能を確認し、可能であれば致命的なスキャンダルを起こして開発にストップをかけること」
「銃火器の類を持ち込んだのはそのためですの!?」
雪侶の勘は正しいだろう。
試作開発中の軍事兵器が暴走して一般人に危害を加えればそれだけで致命的なスキャンダルになる。
まさか表社会にすら干渉するとは思わなかった。
だが、レイヴンはそれには反応を示さず、その表情を変えた。
・・・まるで、黄金の山を見つけたトレジャーハンターのようなそれだった。
「三つ目は私の個人的用事。・・・ここで大騒ぎを起こせばフェニックスの血を持つアポロベ・フィネクスが来てくれるということさ!」
高所から飛び降りたレイヴンは背中から腕を生やして降下する。
奴の能力は把握している。
降下地点は駆けつけてきた悪魔がいる地点。
悪魔たちは完璧に迎え撃つ態勢を整えている。どうやら戦車か騎士の駒を持った近接戦闘タイプらしい。
そのまま接触寸前まで近づき・・・。
「バロールの
その目が紫色に輝いた。
それに嫌な予感を覚えるのと、悪魔たちがレイヴンの攻撃を腕と剣で受け止めたのはほぼ同時。
その死体でできたであろう腕はなんとやすやすとその腕と剣に食い込み―。
「とりあえず、まずは一人」
着地すると同時に、腕で防いだ方が倒れ伏した。
いや、あれは倒れたなんてもんじゃない。
・・・死んでいる。
「いかん! さがれ!!」
フィネクス卿が残った一人に叫ぶが、その男はひるまずに剣を構え直す。
「舐めるな! 俺の剣は自己再生能力をもった魔剣の一つ。この剣を損傷させた程度で意味などないと知れ!!」
男は魔剣に魔力を込めるとそのまま切りかかり―
「いや、その剣はもう死んでるからね?」
間合いを読み違えて完全に空振りしたまま、その胸部を貫かれて死亡した。
「悪魔といえどピンキリがあるということかね? ・・・少し待っていればもう治らないのに気づいてもおかしくないんだけどねぇ」
ためいきをついたレイヴンが指を鳴らすと、かつてフィフスが指揮した鎧姿の連中が現れて仕留めた悪魔を運び始める。
「貴様、何のつもりだ?」
「そこの魔術使いから聞いてないのかい? 僕の魔術は死体を調達しないと使えないんだよ」
フィネクス卿とレイヴンが静かににらみ合う。
・・・ヤバい、まさかあそこまでできるとは思わなかった。
しかも問題は奴がまだサーヴァントを出していないということだ。
奴単体でも得体が知れないというのに、ここでセイバーまで出てこられたら詰むぞ。
「・・・・・・時間を稼ぐから妹さんを連れて逃げたまえ」
「え?」
フィネクス卿が小さな声で呟きながら前に出る。
いや、ちょっと待った。
腕にさしただけで一瞬で絶命させるようなチート能力、うかつに突っ込んでいいもんじゃねえぞ!?
まさか、俺達を逃がすために囮になる気か!?
「・・・その再生阻害は恐ろしいが、私はフェニックスの血を濃く受け継ぐもの。・・・再生と転生をつかさどるこの身、果たして防ぎきれるかね?」
「その辺は僕も興味があってね。フェニックス家に連なる者の死体ならいい材料になりそうだし、実験体にはもってこいだ」
まずいまずいまずいまずい。
どうする? マジでこのまま逃げるというのも考えるべきか?
・・・いや、それはだめだ。
奴はセイバーのマスターで、俺はアーチャーのマスター。これは、もうすでに聖杯戦争だ。
それをあったばかりの人を犠牲にして逃げ出すなど、あってはならない。
なによりイッセーに胸を張れん。これは俺にとって絶対だ。
とはいえどうする? アーチャーを令呪で呼び出すという手もあるが、十中八九セイバーを呼ばれて対応されるし、だとすると最後の令呪を無駄撃ちするのは避けたい。
だがどうする? 再生するはずの剣を再生させないようにし、挙句の果てに腕をついただけで相手を一撃で殺す攻撃なんてどうやって防ぐ。
・・・まてよ? そういえばアイツ気になることを言っていたよな?
―その剣は、もう死んでるからね
・・・そういえば、以前とんでもないうわさを聞いたことがあるような。
・・・・・・・・・あ、
「そう・・・いうこと・・・か!?」
等と考えている時間が既に状況を一変させる。
レイヴンの腕の一つが既にフィネクス卿の左腕を切り落とす。
腕は再生のための炎すら発生させない。・・・これ以上は不味い!!
「ではとどめと行こうか。・・・ああ、フェニックスの血肉が私の研究材料に・・・」
「さ・せ・る・かぁああああ!!」
奴の後ろに回り込んでから、その腕を抱え込むようにして動きを封じる。
ああ気づくのが遅れたよ。それさえ読んでいればここまで被害は大きくならなかった。
「いかん離れろ! 奴の攻撃は得体が知れない!!」
「得体は知れましたし、そもそも攻撃はどうでもいいんですよ!!」
まさか、俺もうわさでしか聞いことがないとんでもない物を持っているやつがいるとは思わなかったよ!
「・・・・・・気付いたか。君はよほど情報収集が得意なようだ」
「ああ、俺も本気でビビってる。かの伝説の直死の魔眼を目の前で見ることができるだなんてな!」
レイヴンとにらみ合い、その目の色が紫でなくなったことから俺はそれを確信した。
直死の魔眼。
生物はおろか、この世に生まれた万物全てが持っている死という概念を見ることができる魔眼の一種。
その真価は認識することができることで干渉することまでできるようになったことにある。それらは点と線の二つで構成されており、それらに干渉することで効果を発揮する。
線を切ればその部分の死が具現化されることにより、どのような手段を以ってして癒えることがない切断攻撃を発することができるようになる。まあ、物に使用しても溶接とか再構成すれば問題ないのでこれは生物限定だ。
恐ろしいのは点を突くこと。これは点をもつ存在そのものの死を具現化することができるようになるため、一撃で相手を死滅させることができる。
生や誕生という概念としての死であるため、生物はもちろん建造物などの無機物にも効果を発揮。ゾンビなどの死体もゾンビとして「生きている」扱いになるため殺すことが可能という、破格の能力を持った魔眼の類だ。
「噂では殺しても転生する吸血鬼を存在そのものを殺すことで完全に消滅させたとか・・・。まさか、お前がその持ち主か?」
「まさか。その目を利用して研究を進めようと奪いに行ったは良いけど、あり得ないほど凶悪なオールスターに集中砲火を受けて塵も残らなかったよ」
アレは本当に怖かったと、と言いながらレイヴンの体がものすごくふるえた。
なにがあったのかは分からないが、それが死因なのは間違いない。
いったいどんなオールスターだったんだろうか? 死徒二十七祖クラスでも出たのか?
「まあいい。・・・お前、その魔眼を自在に操れるわけじゃないだろ? 時間制限が厳しい欠陥品だな?」
そう、既に目の色は紫ではなくなっている。
どう考えても魔眼の効果は切れている。
そもそもあんな規格外の魔眼を持っていることの方が異常なのだ、何らかのデメリットは持っていて当然だろう。
「元々持っていた魔眼が、霊魂が世界を移動したことで一時的にこの世界の根源に触れれるようになったみたいでね。活性化させることで数分間だけ発動できるんだ」
自慢げに、あいた手で自分の目元に触れる。
「だけど最低限の目的は達成した。・・・あとは全力で叩き潰すだけだね」
後ろから足音が聞こえてきて、俺はとっさに腕を離すと距離を取った。
・・・莫大なオーラを放つ鎧騎士。
セイバーのサーヴァントか。
「悪いがこれで勝ちは決まったようなものだ。さて、おとなしく負けを認めるなら、妹さんの命は見逃してもいいよ?」
確かに、状況は圧倒的に不利だ。
最大戦力は戦闘能力が圧倒的に不足してるし、向こうはサーヴァントを投入している。
ああ、普通なら圧倒的に不利な状況下なのだろう。
だが・・・。
「・・・あいにく、まだ勝負はついてないわよ」
期待していた、声が届く。
「レーティングゲームでの人気プレイヤーであるフィネクス卿を狙い、その上私の可愛い下僕の家族に危害を加えるだなんて、万死に値するわね」
凛として、誇り高い上級悪魔、我が主リアス・グレモリーがそこにいた。
「宮白さん、大丈夫ですか!?」
「助けに来たよ、宮白くん」
「・・・おまたせしました」
「あらあら。もしかしていいタイミングでしたわね」
「なかなか大変なことになっているね」
「み、宮白先輩大丈夫でしたか!?」
頼りになる部員達もそこにいる。
そして何より・・・。
「待たせたな、宮白」
最高の親友が隣に立つ。
ああ、これだけいればもはや恐れるものなど何もない。
「さて、レイヴンとか言ったか?」
魔眼を使いきった死霊魔術師に、俺は真正面から向かい合う。
「・・・さあ、聖杯戦争を始めよう」