ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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本作重要ポイントがやってきました。いつもより長めなので注意してください。


アインツベルンの亡霊

 

祐斗SIDE

 

 明らかに、次元が違う戦いが目の前で繰り広げられていた。

 

 僕たちは、よくコカビエルを倒すことができたと思う。

 

 これほどの次元違いの実力者の一人が奴のはずなのだ。

 

 ・・・僕たちはどうすればいい?

 

 攻撃を受けるのを覚悟の上で、部長達を援護するために旧校舎に突入するべきか?

 

 それとも、この場で魔王様の護衛に徹するべきなのか?

 

 そう思っていたが、ベル・アームストロングが咳払いをして注目を集めた。

 

「実質、このままだと余波で結界が破壊されかねませんね。外に魔術師たちが漏れても問題ですし、私達は敵の数を減らした方がよさそうです」

 

 戦闘経験豊富な彼女の意見は参考になる。

 

 サーゼクスさま達も同意見なのか、静かに頷いていた。

 

「お願いしますベル。私はサーゼクスやセラフォルーたちと結界を強化しますが、それでもあの戦いでは被害が大きくなるかもしれません」

 

「承知いたしましたミカエルさま。・・・イリナ、行きますよ」

 

「はい! ミカエルさまのため、全力で働かせていただきます!!」

 

 紫藤イリナも、合一化したエクスカリバーを以って頷いた。

 

 ベルの戦闘能力は既に分かり切っているし、紫藤イリナも心強い味方だ。合一化したエクスカリバーの力はこの身をもって知っているし、彼女たちがいてくれるのなら恐れるものはない。

 

「サーゼクスさま。僕たちも行かせていただきます」

 

「ああ、私もリアス・グレモリーの騎士だ。二振りの部長の剣としての実力、魔王様にもみて頂こう」

 

「じゃあ、前衛はダブルナイトに任せて、俺は援護に徹するとするか。・・・警戒はしておかないといけないしな」

 

 僕の言葉にゼノヴィアと宮白くんも頷く。

 

 宮白くんの言葉は少しだけ気になった。・・・内通者の存在について警戒をしているのだろうか?

 

「アザゼルに頼まれたしな。・・・フィフス、お前は解析に協力してろ」

 

「ま、俺はどちらかと言えば後方支援担当だしなこれが。・・・今のところ3割ってところだから、最低でも今までの倍の時間は覚悟しておけ」

 

 青野小雪に返答するフィフス・エリクシルの言葉に気分が引き締まる。

 

 今までの約倍の時間か。

 

 いや、恐れるほどではない。この仲間たちと一緒に戦うというのに、その程度で臆していいわけがない。

 

「そんじゃ、私達も頑張るよー」

 

「うん! 悪い連中かたっぱしから殴っちゃえばいいんだよね? ボク頑張る!!」

 

 桜花さんやナツミちゃんも心強い。

 

 コカビエルとの戦いで二人の力は本当に役に立ってくれた。この戦いでも力になってくれるだろう。

 

「ありがとう。だが、決して戦死してはいけないよ。心してくれたまえ」

 

「ソーナちゃんたちはしっかり守るから安心してね☆」

 

 魔王様二人の言葉を背に、僕たちは駆けだしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 移動砲台と思しき謎の円筒状物体から砲撃が放たれる。魔術師たちは白龍皇の迎撃に意識を傾けていた。

 

 やはり、今の僕たちより禁手状態の白龍皇のほうが脅威と思われているようだ。

 

 今はそれでも構わない。

 

 僕たちがすることに変わりはないのだから!!

 

「とっとと消え失せろファックロボットどもが!!」

 

 青野小雪が二丁拳銃を乱れ撃ち、瞬く間に移動砲台を吹き飛ばしていく。

 

 正直連射速度も考えればかなりのものだ。アザゼル直属というのもうなづける。

 

 しかも、前線で砲台を破壊し続ける僕たちにはかすりもしない。最初は乱れ撃っているのかとも思ったが、あれで正確に狙いをつけているということか。

 

「やれやれ、キリがないな」

 

「そだねー。数ばかり多くて嫌になるよー」

 

 ゼノヴィアが莫大なオーラを放ちながら一撃で多くの砲台を切り捨て、漏らした残りを高速移動で桜花さんが切り捨てていく。

 

 デュランダルのオーラはゼノヴィアでも制御しきれていないのか非常に絶大だ。正直、連携になれていない今の僕じゃ近くにいると巻き込まれるかもしれない。

 

 そんなゼノヴィアに合わせるように残敵掃討を行うとは、桜花さんのポテンシャルはそこが知れない。

 

「イリナ! 後ろはまかせましたよ!」

 

「ええ! 任せて頂戴! たとえ主がおられなくとも、私はミカエルさまの期待にこたえて見せるのよ!!」

 

 上手く合わせるという意味ではベル・アームストロングもなかなかのものだ。

 

 動揺が抜けきっていないのかところどころ隙が見える紫藤イリナを上手く活かしながら戦闘を繰り広げている。

 

 単独でコカビエルを押させることもできるその実力。彼女があの一戦で共に戦ってくれたのは本当にありがたかった。

 

 そして、宮白くんも非常に動きが早かった。

 

 水流を操りすべるように高速移動し、光の槍を確実に一体ずつ叩きつけている。

 

 時々死角からねらってくる砲台もあるのだが、彼は見えているかのように余裕で回避してカウンターの槍を叩きこんでいる。

 

 明らかに一体多数の戦いになれている。前世を含めても命がけの実戦経験はそんなにないそうだが、とてもそうは思えないほどだ。

 

 そんな僕たちの上では、アザゼルとカテレアの激戦が激しさを増していた。

 

 一見してアザゼル有利に進んでいるが、カテレアなかなり食い下がっている。

 

 僕らでは触れただけで吹き飛んでしまいそうな出力の攻撃に、結界が吹き飛んでしまわないかどうか心配になってしまう。

 

 とはいえ、この調子ならば勝算は十分にあるだろう。

 

 護衛の下僕悪魔がいれば話は違っただろうが、彼女たち旧魔王派は悪魔の駒を否定したと聞いている。

 

 そして、白龍皇は僕たちをはるかに上回る勢いで敵をせん滅し続けている。

 

 フィフス・エリクシルの言うことをちゃんと守っているのか、魔術師たちに危害を加える様子はない。できれば僕らが移動砲台、彼が魔術師という構図で殲滅していればより効率よく敵を撃破できただろうが、さすがにそこまで願うのは都合がよすぎか。

 

 今はただ、部長達がギャスパーくんを救出するまで粘ることだけを―

 

「うっわぁ。ホンマ強いな自分ら。ウチは面倒な仕事請け負っちまったかもなぁ」

 

 唐突に、声が響いた。

 

 判断は一瞬。背中に聖魔剣を生みだし、そのままの勢いで投射した。

 

 直後、金属音が鳴り響く。

 

「反応もなかなかやんけ。・・・いいで、いいでアンタら! 面白すぎや!!」

 

 振り返った先にいるのは、ポニーテールの女性が一人。

 

 だが、その手に持っている禍々しいオーラを持った刀が、彼女が敵であることを示している。

 

「・・・テロリストの用心棒か何かかい?」

 

「そやで? ウチはムラマサっちゅう似非関西人や。出身は東京で好物はジャンクフード全般で、趣味は・・・っ!」

 

 そういうと、ムラマサと名乗った女性は僕に向かって切りかかる!

 

 早い! 潜在的な戦闘能力はベルと同等か!

 

「強そうな連中と切り結ぶことや! 禍の団、ルシファーチーム所属でな、そこんとこおぼえといてぇな!!」

 

 武器の質ならこちらが上だが、実力は明らかに向こうが上か!

 

 このままだと押し切られる―っ!!

 

「木場! さがれ!!」

 

 間一髪、横からゼノヴィアがデュランダルを叩きこんでくれたおかげで助かった。

 

 ムラマサは刀でそれを受け止め、しかし勢いに負けて後ろに飛び退った。

 

「きっついなぁオタクら! ただの魔剣創造(ソード・バース)使い相手に、これはやりすぎやろ」

 

 魔剣創造? いや、それはおかしい。

 

 少なくとも僕の場合は、デュランダルの足元にも及ばなかった七分の一のエクスカリバーでやすやす剣を砕かれていた。

 

 それが、デュランダルの直撃を以ってしてもひび一つはいっていないだなんてあり得るのか?

 

「・・・冗談が下手だね。たかがただの魔剣創造でそこまで上質なものが作れるとは思えないね」

 

「ま、まだ禁手はつかっとらんしな。・・・やけど、こんなまねかてできるねんで?」

 

 ゼノヴィアの挑発をさらりと流し、彼女は足元から大量の魔剣を生みだした。

 

 しかし、そこからが違う。

 

 生み出された魔剣はひとりでに宙に浮かぶと、何本かでひと塊りになるように集まっていく。

 

 そして、次の瞬間に()()になった。

 

「「!?」」

 

「ウチの可愛い子供たちや。舐めとると怪我するでほんま!!」

 

 人型の剣はひとりでに動くと、僕らを素早く包囲する。

 

 早い! 油断しているとはいえ僕らが後れをとるとは!

 

 人型の剣その状態から飛び上がり、一斉に僕らに切りかかろうとし―

 

「―させると思っているのですか?」

 

 ―降りる前に不可視の一撃で薙ぎ払われた。

 

 それでも、何体かがその一撃を潜り抜けて襲いかかるが、そこに割って入る一本の紐。

 

 聖なるオーラに充ち溢れているのが僕でもわかる。エクスカリバーの擬態の力か!

 

「ゼノヴィアッ!」

 

 紫藤イリナが、人型の剣を一気に弾き飛ばした。

 

 そのまま、二人は僕たちを援護するように並び立つ。

 

 ・・・たしか、ゼノヴィアと紫藤イリナはけんか別れに近い状態になったと聞く。

 

 さすがに気まずいのか、視線はあわさなかったようだが、それでも仲が良かったのだろう。空気が緩んだ気がした。

 

「・・・なんで、本当のことを言わなかったのよ」

 

「キミがそれを知ったら、きっと立ち直れなくなると思ったんだ」

 

「二人とも、落ち着いてください。その辺はもう少し後にしないと、あちらが退屈してしまいますよ」

 

 ベルは静かにムラマサを睨みつける。

 

「・・・まさか、こんなところで御同輩に会えるとは思いませんでした。実質、合成能力者ですね?」

 

「そういうオタクは複合能力者やね? まさか同郷に会えるとは思わんかったわ」

 

 専門用語か? いや、まさか!

 

「・・・わかりやすく言うと、合成能力者というのは様々な能力を特定のキーワードに合わせた形でのみ発現させる特殊な超能力者のことです。実質、彼女のキーワードは剣と言ったところでしょうか」

 

 静かに構えながら、ベルは正面のムラマサを警戒し続ける。

 

 ムラマサは、それを子供のような笑顔を浮かべながら受け止めていた。

 

「別々に能力を使える複合能力者ほど万能じゃあらへんけどな。・・・やけど、面白いことになってきたわ」

 

 わくわくしている表情で、ムラマサは人型の剣を何体も生み出していく・・・。

 

「超能力をどう使えば、剣を人形に変えることができるんですか?」

 

「あれは剣が変化しているわけではなくて、催眠能力(ヒュプノ)で脳の認識をいじっているだけです」

 

 特に動じることもなく、ベルはムラマサと対峙したままだった。

 

 そして、ムラマサも動揺せずに僕らとにらみ合うが、少し考えた後頭をかきむしって天を仰ぐ。

 

「・・・あ~あかん! やっぱ黙ってるの性にあわんわ! もうバラさんと気がすまへん!!」

 

 なんだ?

 

 今この状況下でテロを起こしておきながら、これ以上何か言うことがあるのか?

 

「どうせそろそろタイミングやし言わせてもらうわ。自分らの中にいる裏切り者やけどな?」

 

 次の瞬間、

 

「・・・一人はヴァーリで、も一人はその相方やった男やねん」

 

 二か所で爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆風と同時に発生したガスに対して、俺は即座にガスマスクを呼び出してそれを防ぐ。

 

 奴が単独で何かするというのなら、高確率で搦め手なのは予想できていた。まさか科学的な手段で仕掛けるとは思わなかったが、催涙ガスとその対策ぐらいは俺も用意していたので正直ラッキーだった。

 

 ガスマスクのゴーグル部分には魔術的な加工を施すことで、ある程度の視界を確保している。

 

 ああ、嫌な予感はしていたんだよ。

 

 奴がああいっていたのにも関わらずのあの発言。それだけで気に留めておくには十分だった。

 

 そして、そのバカが今ポールウェポンらしき得物を振り上げ、素早く振り下ろそうとしている。

 

「やらせるとでも・・・」

 

 素早く鉄製の棒を転送した。

 

 武器を迎撃するだなんてぬるい真似はしない。

 

 狙うは奴の後頭部。一撃で殺すつもりでいく!

 

「・・・思っているのか! フィフス・エリクシル!!」

 

 躊躇することなく振り下ろす!

 

 後ちょっとのところで回避されてしまうが、奴の狙いは何とか避けれた。

 

「・・・無事ですか! セラフォルーさま!!」

 

「ひょ、兵夜ちゃん・・・」

 

 ・・・俺たちとは実力に開きがありすぎるトップ陣が漏れなく戦闘不能になってやがる!!

 

 毒ガス攻撃が通用するのは、悪魔や天使でも変わりないってことか。勉強になったよ。

 

「・・・ちっ! もうちょっとで魔王の首も取れて、組織内での俺の地位も盤石だと思ったんだけどな」

 

 態勢を立て直したフィフスはマスクを着けていない。

 

 術式な何かで無効化しているのか、それとも体質的な理由か? まさかとは思うが既に免疫抗体を摂取しているとかいう可能性もあり得るな。

 

 あの白龍皇と一緒に出てきやがったんだ。実力はそれなりにあるだろうし、油断できる相手じゃない。

 

「一応聞いておくぜ。どうして分かったんだ?」

 

「気になっていたのは、プール帰りのあの時からだ」

 

 ああ、あれは気にするには十分すぎる内容だ。

 

「そもそもコカビエルを回収した時の時点で、お前らは俺達の会話は聞いていなかった。それはつまり、あの詠唱も聞いてなかったことになる」

 

 アレを聞いているといないとでは、この判断にも大きな違いがあるだろう。

 

 なぜなら・・・。

 

「詠唱を聞いているならともかく、なんで聞いてもいなかったお前がアレが増援を呼び出す儀式だなんて分かったんだ?」

 

 そうだ。詠唱そのものは何かを呼び出すかのような響きがあるから聞いているなら誤認もあり得ただろう。

 

 だが、俺が詠唱している内容をこいつは知らない。それじゃあ判断のしようはない。

 

 その状況下でそれを知っているとなれば理由は一つ。魔法陣そのものを知っていることだけだ。

 

 そして、それを知っているのは俺の同郷でかつ魔術師、さらにもう一段階前提条件が必須。

 

「お前の正体は俺と同じ世界の転生者、それも聖杯戦争に関わっていた魔術師としか考えられないんだよ」

 

 ・・・もっと早く、それについて聞いていればまた結果は違ったかもしれない。

 

「聖杯・・・」

 

「・・・戦争?」

 

 サーゼクスさまとグレイフィアさんが、動けない状況下でも聞きなれない言葉に疑念を浮かべる。

 

 だが、それに応える余裕は俺にはなく、フィフスはうっかりしていたのか額に手を当ててためいきをついていた。

 

「いっけねぇなこれが! 懐かしい魔法陣だったからつい漏らしちまった。・・・だが、それだけで警戒する理由にはならねえんじゃねえか?」

 

「魔術師は人の倫理からずれた存在だ。・・・ましてや、聖杯戦争を知っている人間ならなおさらだろう?」

 

 ぬけぬけと言ってくれる。

 

「平和な日本で他人に迷惑をかけること前提で殺し合いをするような連中が、まっとうなわけがないだろうが! 追加でいえば、魔術師なんてもん神秘が秘匿されりゃあなにしても構わないバカが結構いるからな。・・・警戒する分にはおかしくもねえだろ」

 

 その結果がこのテロ行為の協力と、今行っている不意打ちだ。

 

 あと一歩遅れていたら、何人犠牲が出ているか想像もつかないレベルで被害が出ていた。

 

 陣営のトップクラスが殺されるなど、あってはならない事態だからな。

 

 その答えに満足したのか。奴は得物をわきに挟むと拍手しだした。

 

「正解だよ宮白兵夜。・・・俺の前世での名字は、アインツベルンさ」

 

 その言葉に、俺は心底納得がいった。

 

「聖杯戦争を始めた御三家か。そりゃあしってなきゃおかしいわなぁ。・・・目的はなんだ」

 

「魔術師の目的なんて、本来ただ一つだろうが。自分て言ってたろこれが」

 

 ・・・根源への、到達か。

 

 魔術師には、目的のためには手段を選ばないマッドサイエンティストの一面がある。

 

 俺が死ぬころには丸い連中も何人か現れてきたとはいえ、やはり伝統あふれる一族や古い老害連中にはその傾向が強い奴も多いだろう。

 

 ましてや、アインツベルンと言えば歴史ある錬金術の大家。そのために手段を選ばないのはおかしくもなんともない。

 

 だが、それでも・・・!

 

「堕天使の長い寿命があればもっと平和的な方法もあったはずだ! なんでわざわざテロリストに入ってまでリスクを高めた!!」

 

 神秘は秘匿すべしという原則がある以上、アザゼルにも黙って行動する必要があったのかもしれない。

 

 だが、テロリストとしてこんな派手な行動を起こせばそれが台無しになる可能性は当然あっただろう。

 

 そうまでして奴を駆り立てるのはいったいなんだ?

 

「・・・お前は、アザゼルの言っていた言葉の意味を理解できてないな、これが」

 

 どういう意味だ?

 

「俺達の異能が、この世界の法則で再構成されることを見抜いたのは俺だ。そして、その本当の意味はあくまでこの世界の異能として処理されることにこそある。魔術師にとっては、死活問題だ」

 

 この世界の異能として?

 

 魔術がこの世界の異能に変わったところで、それがいったいどんな悪影響を生むというんだ?

 

「まずいいことを教えてやる。この世界の異能として構成された魔術では、神秘を秘匿する必要はない。どれだけ広めようと、出力は個人の資質にのみ左右される」

 

 フィフスはそういうと、得物を異空間へと収納し、大きくその手を広げた。

 

「そして残念なことに、それは魔術と根源を繋ぐラインが切り離されたことを意味するんだよこれがッ!!」

 

 絶望すら混じったその言葉に、ようやく『魔術師』にとってそれが重要なことを理解した。

 

「どれだけ魔術を究めようと、そもそも道がない以上俺たち魔術師は根源へとたどり着くことはできない!! お前ら魔術使いには一生理解できない悩みだろうなこれが!!」

 

 そういうフィフスの目は血走っており、既に常軌を逸している。

 

「ハーフ堕天使という極大の寿命に、家系(アインツベルン)ではなく俺個人での根源到達の希望を見た俺が、その事実に気づいてどれだけ絶望したと思っている!!」

 

 口角から泡が出るほどの勢いでまくしたてるフィフスの姿に、俺は自分でも驚くぐらいなにも感じていなかった。

 

 それほどまでに、俺は根源などに一切の興味がない魔術使いなのだということを自覚する。

 

 だが、次の言葉はそんな感慨すら吹き飛ばすものだった。

 

「俺の頭で思いついた方法は一つだけだ。・・・聖杯戦争だよ」

 

 聖杯戦争。

 

 俺が呼び出そうとした英霊を使った、七組の主従による殺し合い。

 

 かの聖杯の名を冠す願望機を奪い合う、欲望にあふれた殺し合いだ。

 

 だが、その本性は・・・。

 

「そのために、餌に釣られた七人の英霊を生贄にしようってのか、この根源フェチが!!」

 

 ああそうだ。なにを言っているんだ俺は。

 

 そういう連中なのが魔術師だろう・・・魔術師(メイガス)だろう!

 

「・・・生贄とは、どういうことですか」

 

「文字通りの意味ですよ、大天使ミカエル」

 

 そう、聖杯戦争というお題目に隠された、致命的なまでに魔術師の血ぬられた側面を表すあの儀式。

 

 利用した俺が言うことでもないが、心底吐き気がする!

 

「呼び出された英霊は消え去る際、無色の魔力の塊となって世界の外側にある英霊の座という場所へと帰る。・・・この無色の魔力を六人分集めると、世界の内側においてに限り、方向性を与えることで過程無視して結果だけ叶える願望機としての特性を作り出せるのところから、聖杯の名が付けられました」

 

「・・・そして、その本質は七人分集めてチャージショットすることにより、世界に人が一人だけ通れる分だけの穴をあけることで、世界の外にある根源の渦へとたどり着くためのトンネル掘削機なんだなこれが」

 

 俺の言葉をフィフスが引き継ぐ。

 

 それはまるで、親の自慢をする子供の表情だった。

 

「それがどうした? 確かに人格も再現されているが、所詮は本体から切り離された分身にすぎないのが聖杯戦争で呼び出される英霊だ。たかが本人の形をした人形風情を、燃料にすることに罪悪感を抱いてどうするんだこれが?」

 

 冷血で酷薄な魔術師(メイガス)らしい発想だろう。古き良き魔術師だなんて、その多くはそれ以外をしゃべる家畜程度にしか考えていない。

 

 あまりの事実に絶句しているのが、見なくてもわかる。

 

 フィフスも、それが絶句されることなのは分かっているのかそれを不思議がったりはしなかった。

 

「まあ、アザゼルは絶対に否定するだろう。おそらくは、大半の大勢側もそれを実行に移しはしない。それは成功した魔術師にしか恩恵を与えないからな。あいつらはそんなことのために殺し合いを起こしたりはしないだろう」

 

 奴の独白は当然のことだ。

 

 少なくとも、アザゼルがそれを認めないのは俺でもわかった。

 

「・・・だが、テロリストならそれをするということか?」

 

 サーゼクスさまの言葉に、奴は堂々とうなづいた。

 

「最初はアンタ達に対抗する戦力として使い、それが落ち着いたら願望機として使うために殺し合う。あいつらは根源に興味ないからサーヴァントも願いがかなうので無問題だこれが。・・・まあ、この世界の圧倒的な質を前にすれば全人類絶滅とか全人類洗脳とかは出力が足りなくてできないだろうがなこれが」

 

 その言葉に少し安心した。

 

 最悪、それを奪い合って殺し合いをした後、勝者が勝手に世界の行く末を決定する可能性もあったからだ。

 

 だが、そうだとしても危険すぎる代物が奴の手にあることに変わりはない。

 

「しっかし、御三家にしか伝わっていない情報をお前が知っているとは驚きだなぁこれが。関係者か何か?」

 

「ご先祖様に遠坂家がからんでいて、その縁で第二次聖杯戦争に参加してたからな。おかげで情報が残ってたよザ・根源追及者」

 

 古いうえにボロボロの書物だから、興味本位で見た俺ぐらいした知っているやつはいないだろう。

 

 そのせいで、こいつの悪辣さが嫌というほどわかったのが残念だがな!

 

「・・・まあ、このタイミングで切らなきゃこのガスも使えなかったしいろいろな意味で結果オーライだな、これが」

 

 そう言いながら奴は構える。

 

 どうやら会話はおしまいのようだ。

 

 白龍皇とチームを組む男に勝てるとも思っちゃいないが、まさかここまで大打撃を与えるとも思ってなかったので仕方がない。

 

 なんとしても、サーゼクスさまたちが復帰するまでは持ちこたえる。

 

「来いよザ・メイガス。お前の相手はこの俺だ」

 

「やってやるよこれが。俺のデビューには丁度いい相手―」

 

「・・・あーなるほど。そーいうことかよ」

 

 風が、吹き荒れた。

 

 それは毒ガスを一瞬で吹き流し、会議室に戦場の空気を流しこんだ。

 

 そして、それを生みだした女はフィフスに銃を突きつけていた。

 

「これでも付き合い長かったから、結構信頼してたんだぜ、ファック!」

 

「悪いな小雪。俺は目的のためなら手段は選ばない。興味がない奴とだって一見仲良くやってのけるんだな、これが」

 

 銃を突きつけられても、フィフスは動じることはない。

 

 泣き出しそうな顔で銃を構える小雪に対し、フィフスはどこまでも平然としてた。

 

「そう、だからこの程度の搦め手は躊躇なくできる!」

 

 瞬間、空中に丸い物体が現れた。

 

 おい、これ映画で見たことあるような・・・。

 

「・・・手榴弾!?」

 

「ファック!?」

 

 俺と小雪が動揺した次の瞬間―

 

 それは、爆発した。

 




ついに本格的な敵キャラが二人参入。

転生者祭りはここからが本番です!

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