ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
6 裏話
事態は、兵夜が喫茶店で落とす以外に選択肢がない応募資料を一応確認している時にさかのぼる……。
兵夜達五人は、それぞれがそれぞれで忙しい為、一つ屋根の下に暮らしているわけではない。
兵藤邸宅の離れに暮らしている、兵夜とナツミ。
実は一応実家暮らし。ケジメとして大学を卒業するまでは親の庇護下で暮らしていこう。既に収入なら上回っているのは内緒だぞ♪ といった感じ桜花久遠
教会側のエージェントという事から、教会側が用意した施設に住んでいるベル・アームストロング。そういう関係者の社宅らしく、食堂が併発されているので家事の手間が大幅に下がる至れり尽くせりな空間である。
堕天使側のエージェントとして、流出しすぎた学園都市技術に対抗する為に各種研究機関に出向している小雪は、一応駒王町にある、堕天使の息のかかったマンションに一部屋入れているが、帰ってくる事はあまりない。
……そんな中、兵夜が保有する雑居ビルが一つ存在する。
兵夜が極道の跡目争いで大活躍を経たことによって、この駒王町の裏の門番となったものたちが手にした雑居ビルの上部を、兵夜の好きにしていいと解放したのだ。
手にした時点で兵夜による
後に召喚したアーチャーによって更なる強化改造が施されており、地脈から力を取り込む事によって頑丈化。コンクリート部分は空対地ミサイルの直撃を防ぎ切るほどに頑丈。悪意を持つ者やその影響下にある者が入ってきた時点で即座に位置を感知され、迎撃用小型ゴーレムが監視体制に入るという重装備仕様と化した。
表向きには四階建ての雑居ビル。本命は隠された地下にある違法賭博場で、現在は、今後の異形と人間世界の関係変化を考慮し、別の部署に異動する形で話が進んでいる。とりあえずキャバクラにする予定であるが、兵夜がアーチャーの遺産を流用した精神干渉系の魔術を仕掛けた場所にして「借金しない程度に金を払いたくなる空間」にする予定だとか。
上側の四階には色々な店や事務所が入っている。
具体的には、一階にはコンビニや喫茶店、大衆酒場が入っている。二階は漫画喫茶が大半で、それとは別に洒落たBarがある。三階からは事務所が多く、兵夜が盃を交わした任侠関係での弁護士事務所などが入っている。四階はほぼ開いていたが、兵夜が異形に縁を持ってからは、彼らの為の施設にするつもりだ。グランソードの舎弟などをいつでも派遣する為に溜まり場を用意している。
……で、その屋上にはペントハウスがある。
元は兵夜が非常時に備えたセーフハウスとして用意したものだ。
ここだけ魔術による認識阻害のレベルが違う。それぐらいには兵夜は気を使っている。
万が一、イッセーが変な連中の女に引っかかって追い回されている時に安全を確保できるようにする為に用意されたそれは、兵夜のセーフルームとしても機能していた。
そして、それらの必要性が大いに薄れた異形社会真っただ中の現状。この部屋は時々兵夜が掃除に来る以外は、ナツミ達のたまり場と化していた。
……より具体的に言おう。ヤ〇部屋と化していた。
「……あ~。一発抜いた後のビールはうめー!」
汗を拭くタオルだけを羽織りながら、小雪はそう言ってビールをごくごくと飲む。
やってる事が親父臭いといった形ではあるが、しかし彼女はこの中では一番の常識人だ。
「ナツミちゃんナツミちゃん! 下着を嗅ぎながらオナ〇ーって覗いた相手も興奮するそうです! こんど兵夜様にやってみましょうか?」
「ん~……。それより僕は兵夜に首輪つけてほしい。飼い猫っぽくていいと思うんだけど」
「それいいですね! 私も兵夜様の眷属ですし、首輪欲しいです!!」
「カッハハハ!! じゃ、後でねだりに行くか!?」
と、ベルはサミーマモードを適宜切り替えていくナツミとエロ方面で暴走談義を交わしている。
そしてその隣では、久遠が目を閉じてバギゴギという咀嚼音と共に、見た目
「これは会長の作られたケーキ。つまりごちそう。だから美味しい……」
「ファファファック!!」
とりあえず、ゴム弾を射出する拳銃で後頭部に一発ずつ叩き込んだ。
ゴム弾といえど当たり所次第では人間を殺す事もできる。だが、この三人は生粋の武闘派の悪魔なので、ゴム弾どころかマグナム弾でも「痛っ」ですむ。つまり何の問題もない。
実際後頭部をさすりながら涙目で済んでいるのが、この三人である。
その文句たらたらな視線を全力の一睨みで突破し、小雪はビールの缶を握り潰すと説教を開始する。
「ベル。言っとくがそれで興奮するのは一部の特殊な性癖だけだ。兵夜はそういう方向の変態じゃねーから却下」
「はう! じ、実質気を付けます!!」
ベルは素直なのでこれでいい。
次からが問題だ。
「ナツミ。からかい半分でそういうのすんな。やるなら本気でねだれ」
「いや、俺様が言う事でもねえけどよ、ツッコミどころはそれでいいのかよ?」
サミーマ状態でのツッコミが飛ぶが、小雪はスルーする。
たぶんベルは本気で付けたがるだろう。そうなれば兵夜は素材から拘り魔術礼装としても最高レベルの首輪を作るはずだ。たぶん想定してナツミの分も作るだろう。
冗談半分では流石に可愛そうだ。だから本気ならこの際認める事にしよう。
そして、ある意味一番アホな事をしている久遠にツッコミを向ける。
「久遠。お前はSE〇の後になんつー意味不明なモン食ってんだ。咀嚼音がケーキじゃねえぞ?」
「意味不明じゃないよー! ソーナ会長が作ってくれたケーキだよー!!」
別の意味で意味不明である。
あのソーナに限って、忠臣極まりない久遠に嫌がらせをするとは思えない。だが、久遠の反応もあの咀嚼音も明らかにケーキとして落第点である事の証明だ。
そんなものを、愛する女が自己欺瞞すらしながら食べる事を許容できるか。
考えるまでもない。
そして、そもそもこんな問題しか想像させないケーキを、潰せる弱点は潰すタイプだろうソーナが治さないなどという事があるか。
考えるまでもない。
そして、こんなあれ過ぎる欠点を、何故被害を受けている可能性が高いだろう眷属達は黙っているのか。原因は誰か。
考える必要など欠片もない。
「……バラキエル。ちょっとセラフォルー・レヴィアタンに一言伝えといてくれ「あまり妹を甘やかしてると、知りうる学園都市技術全部ゼクラムに売るぞ」ってな」
速攻で
「……あたしだ、ソーナ・シトリー。今度兵夜と一緒にそっちに行く。久遠の今後の件もあって話がある。手が空いていたら魔王レヴィアタンも連れてきてくれ。ちょうどいいから纏めて相手したほうが早いからな」
そして電話を切り、小雪はぽんと久遠の肩に手を置く。
「辛い事があるなら、あたし達を頼れ! たまに愚痴ぐらい聞く程度で文句言ったりしねえよ!! 解決の為に少し位力も貸す!! そーいう仲だろ、アタシらは!!」
「うぅ……小雪さんー!」
涙をポロポロ流す久遠は、そのまま感極まって小雪に抱き着いた。
それをしっかりと受け止めながら、小雪は久遠の頭をなでる。
「大変だったな。安心しろ、
冥界最高峰戦士達による頂上決戦が、お菓子が不味いという凄まじくくだらないきっかけで生まれようとしていた。
ソーナ・シトリー最大の欠点。それは、作るお菓子が明らかに人の食べる物ではないという事。そして、それを寄りにもよってドシスコンのセラフォルー・レヴィアタンが気に入っているという事。
矯正を試みたらソーナがショックを受けるので、マジギレするセラフォルーが怖くて誰も言えなかった。
だが、既に小雪は愛する久遠の窮地を見てマジギレしてるので遠慮なく地雷にグレネードランチャーをぶっ放すつもりである。
実際こうしている間も、メールでヴァーリに「セラフォルーをマジギレさせるかもしれねーから、用心棒として参加してくれや」と告げていた。
数日後、レヴィアタンVSルシファーの激戦が勃発。最終的に真後ろからのラリアットの不意打ちで撃沈され、セラフォルーの歴史に敗北の二文字が新たに刻まれる事になる。
だがそれは別の話。
とりあえず空気が戻ってから、小雪達はここに来た目的に立ち戻る。
四人でレ〇4Pをしたのはほぼ娯楽だ。兵夜も含めた五人は、ハーレムというより四角推のような関係である為、こういう事も間々ある。
そんなわけで、兵夜抜きでの話をする時には、こういう流れもあったりするのであった。
「はい! じゃ、「第一回! 兵夜のおよめさんどうしましょー会議」を始めたいと思います!」
ぱちぱちぱち……
ナツミが元気よく可愛らしい声で会議の題名を謳いあげ、拍手が巻き起こる。
割と軽いノリの中、本題に入った。
「んじゃ議長のナツミ。話を進めな」
「OK小雪! でね? 最近兵夜あてに「眷属になりたい」って感じの売り込みの資料がたくさん来てて、兵夜は一応目を通してお断りの手紙を書いたりするのに忙しくて、最近一緒にえっちできないんだ」
小雪に促されたナツミの発言が全てだ。
実際問題、捌く数が意外と多い所為で、兵夜はくたびれたサラリーマンのような生活を送っている。
急激に成長した霊地に合わせた開発計画を行なっている、兵夜の領地に作られる魔術実験都市メーデイアの業務。
積極的に関わった事でどうしてもしなくてはいけない戦後処理の書類作業。
それに加えてこの大量の眷属候補生を捌くという一仕事。
過労で倒れてもいいんじゃないかというぐらいに、兵夜は仕事をしていた。最近は同居しているナツミぐらいとしか顔を合わせていない。
だが、問題はそれをどう解決するかではない。
「……兵夜と一発こませねーのは問題だが、今は別の事を気にするべきだな」
「分かってます小雪ちゃん。実質気にするべきは、今後入ってくる兵夜様の眷属ですね」
ベルがぐっと堪えた表情になり、そこに久遠が指を一本立てる。
「兵夜君のお嫁さん、どうにかしないといけないもんねー」
「うんうん。貴族の人がせーりゃくけっこんってののためにこしいれさせるってのもあるだろうしね!」
ナツミのしたっ足らずな言葉に、全員が額に軽く汗を浮かべて頷いた。
この問題、おそらく想像している内容はずれているだろう。
この四人は政略結婚目的の女を兵夜に寄せ付けない事を計画しているのではない。
その前に本妻を選ぼうとしているのでもない。
立場上本妻となる女に対して、マウントをとる計画をしているわけですらなかった。
「……じゃ、どんな人が兵夜のお嫁さんに相応しいか、考えるよ!」
大体ナツミの発言の通りの事をしに来たのだ。
誰一人として、自分を正妻の座に据えようなどと考えていない。
勘違いしないでほしい。ナツミも久遠もベルも小雪も、宮白兵夜という男を恋愛対照的な意味で愛している。L・O・V・Eしているのだ。
だが、それは自分がその座を独占したいなどというものではない。
兵夜が一番という、まともな恋愛指向性があるナツミが特殊だ。兵夜含めたこの五人基本的には五人が五人のことを大体同レベルで愛していて、それ以上の大好きな者がいるのが基本パターンである。
イッセーを信仰すら射している域の宮白兵夜。
ソーナ・シトリーの剣足らんとする桜花久遠。
天使長ミカエルを至高の存在と仰ぐベル・アームストロング。
上記三人に比べればまともだが、しかしアザゼルや朱乃などに分散しているからこそまともと同等の状態になっている青野小雪もイレギュラーだ。
自分を二重の意味で救ってくれた兵夜を愛しているナツミは常人の価値観に近いが、愛される使い魔という立場を気に入っている為、此方も本妻などという立場に興味はない。
と、言うよりだ。
「兵夜のお嫁さんなんて面倒くさい事してくれる人だからね。仕事ができないと駄目だよね!」
「「「確かに」」」
ナツミの言葉に頷いた三人の反応が全てを物語っている。
ワーカーホリックの奉仕体質と形容できる兵夜の妻ともなれば、公私共に彼を支える立場だ。
ただでさえ、優秀な者は多芸である事とが求められる異形社会。上級悪魔ともなれば二足三足の草鞋を履くのは当たり前だ。
しかも兵夜は上級悪魔になった事で魔術師組合の長として名実共にトップに立っている。更に、グレモリー眷属の参謀格として頭を使う立場だ。そこに、四大魔王に顔が利く貴族主義の理解者として、ゼクラム・バアルから頼りにされるだろう。
忙しくなる事は確定的に明らか。なんだかんだで適度に気を緩める時は作る男ではあろうが、なまじ仕事ができるので妻の負担は大きくなるだろう。
本妻になりたいわけでもないうえに、大量の仕事が来るのは真剣に勘弁してもらいたい。
ナツミは遊びたいだけな所があるが、他三人はそもそもそんなに余裕があるわけでもない。
久遠はアウロス学園の武術指南があり、有事におけるソーナの護衛筆頭格だ。ソーナは下級中級の成長に理解が薄い大王派の旧家があまり好きではないので、そのサポートをするのは、久遠としても気が引ける。
ベルと小雪はそれぞれミカエルや
そこに自業自得で失脚し失墜した大王派のフォローまでする気はない。
兵夜の言っている事も分かるが、今後も老害に足を引っ張られる可能性を残すというのも気が引けるので、積極的に手を貸す気はなかった。
「後私達の関係にとやかく言わない人がいいです。悪魔はハーレムを作っている人が実質多いですが、そういうハーレムの1人の生まれ……とかどうでしょうか?」
と、ベルは今後の自分達との関係も考慮した意見を提示する。
それもそうである。正式に兵夜の妻となるのなら、自分達の関係に対して思うところがあるかもしれない。
それが原因で揉めるのは嫌だ。そして、それが原因で兵夜から離れるのも嫌だ。
四人は心の底から「場合によっては引きずり込める相手がいい」という条件を設定した。
そして目と目で通じ合ったところで、今度は久遠が指を一本立てる。
「兵夜君本人のことを気に入ってくれる人が、一番いいのは確実だしねー。なんていうか、兵夜君に好意を抱きそうで、人格的にもまともな人がいいかなー」
「あ、そこは実質失念してました!」
ベルがはっとなって、自分達のうっかりに気づく。
確かにそうだ。
兵夜と結婚するのなら、兵夜といい関係を築いてもらいたいところだ。
ただ能力やルックス、財力が優れているからそれでいい、といったタイプでは、なんというか関係性がドライになりすぎるだろう。
もちろん、兵夜のことを好かないタイプなどNG。お見合い結婚でもそれ相応の意気投合はあってしかるべきだ。
「OKOK。 んじゃ、事務仕事ができてハーレムに理解があって、かつ兵夜に好意を抱きそうな性格が腐ってねえ女……って事でいいか」
「「「異議なーし!」」」
小雪がまとめて三人が賛同し、そして小雪は魔法陣を展開する。
そしてそこに映った人物の隣に、まとめた要望書を転送すると、四人は一列になって頭を下げた。
「「「「それではよろしくお願いします、初代バアル様」」」」
ゼクラム・バアルは心から思っていた。
どうしてこうなった。
宮白兵夜が眷属関係で苦労しているのは知っている。今後も似たような事があるから今は静観しているが、そろそろ助け船を出そうかと考えていたところだ。
現在、ゼクラム達大王派は虫の息と言ってもいい状態だ。
リベラル筆頭の魔王派の権威拡大。寄りにもよってこちら側だったベリアル家の最強格であるディハウザーによる、レーティングゲームの不正や王の駒の無断使用の公表。そしてそれらによって自棄を起こした王の駒使用者の失踪の数々。
身から出た錆と言えばそれまでだが、大王派の権威は地に落ちかけた。
だが、捨てる神あれば拾う神あり。と言うより、本当に拾ってくれる神がいた。
そう、
彼は五の動乱における犯行作戦にも大王派側の権益などを上手く組み込み、事態解決の功績の一部をこちらに与えてくれた。
更に魔術師組合の拠点となる建設中の魔術研究都市メーデイアの警備関係や、歓楽街なども大王派の息のかかった会社にするなど、大王派の壊滅だけは何としても阻止するべく精力的に活動。結果として魔術師組合という組織は大王派を守る防壁として機能するまでになった。
元より、宮白兵夜はリアス・グレモリー眷属ゆえにリベラルにも理解を示す。しかし、リアス・グレモリー眷属では異例というほどに血統についても理解を示していた。
故に、魔術師を御する為には大王派の存在が必要不可欠。兵夜はそう言い、その為事実上の蝙蝠として動いている。
流石にこの前代未聞の危機を救ってくれた恩人には報いなければならないだろう。そも、彼を失えば今度こそ大王派は―真の悪魔である上級悪魔の世界は終わる。
ゆえにゼクラム・バアルもまた、自陣営から一人送り込むつもりだった。
あのゼクラム・バアルの肝入りで送られた眷属を保有すれば、魔王派も少しは慎重に動くだろうし、半端な連中はしり込みするだろう。
かと言ってこちらの人材なら誰でも良いというわけではない。
宮白兵夜は転生悪魔としては優秀かつ貴重な存在だ。それに見合った人物にする必要がある。
まず、この期に及んで彼を元人間だからと見下す手合いはNGだ。
兵夜の足を引っ張るだけになるのは目に見えている。そんな人材を送れば、流石の兵夜も此方との付き合い方を変えてくる可能性もある。悪手でしかない。
かと言って優秀なら良いと言うものでもない。
あまり年季が入った人物を送り込めば、傀儡にするつもりかと周りが邪推する。
この非常に慎重に動かなければならない時に余計な介入や横やりを入れられては堪ったものではない。
ついでに言うと、実績がありすぎるのも問題だ。
大王派と言えど中には過激派もいる。そういった手合いが暴発するような事は避けねばならない。最上級悪魔クラスの逸材をトレードで送り込むような強大すぎるプレゼントは避けねばならない。
割と頭を悩ませる問題だ。彼自身の癖も強いから尚更、人材選出は厳選する必要がある。
そして、そこに来てとんでもない方向からとんでもない追加注文が来た。
「一言聞いてもいいだろうか。……何故兵夜君の本妻的立場を条件に付けたのかね?」
お前ら兵夜の恋人だろう。
雑に形容するならそういうツッコミを、ゼクラムは内心でぶちかました。
こちらが兵夜に人員を送り込む事は、おそらく結構な人数が把握するとは思っていた。
まず兵夜自身に入ってないが、確実に彼は想定して動いている。サーゼクスやアジュカ、アザゼル辺りも確信しているだろう。リアス・グレモリーや兵藤一誠には兵夜自身が話の種で推測を語っているかもしれない。ソーナ・シトリー辺りも可能性を高く見積もっている事だろう。
だからそれらから何かしらの意見が出てくるかもしれないとは思っていた。
そして、今通信越しに頭を下げている四人は兵夜の恋人達だ。
中々聡い者もいる。なら、勘付かれてもおかしくない。
だから、彼女達が要望をつけてくる事そのものはどうでもいい。
問題は―
「……何故本妻にする事が前提なのかね? 普通は逆ではないだろうか?」
-送り込むなら嫁にすること前提などという、予想の斜め上を回転して飛んで行ったこの内容である。
他の要望はいい。そこに関しては問題ない。
仕事が多い兵夜に気に入られる文官タイプの人員は選択肢の範囲内だ。兵夜個人が気に入るようなタイプの人員にすれば、兵夜からの好感度も上げられるので良い事尽くめだろう。
だが、ハーレムを持つ男の本妻として、それらに理解がある事などと、「本妻」としての条件が付けられたのは意外だった。
できる事なら縁故関係は結びたい。大王派の血族と縁故関係にできれば、魔王派との駆け引きにおいて有利に働く。ただでさえ若手魔王派筆頭格のリアス・グレモリーの眷属なのだから、その程度の繋がりは必要だと言ってもいい。
だが、不倫はしないといい、政略結婚に関しても必要性は認めながらも自分がするに対して微妙な表情だった兵夜相手に、即座にするのは関係悪化の危険性があった。
魔術師組合の世代交換が行われない限り、宮白兵夜が大王派を切る事はほぼありえない。なので強引に関係を深めようとして裏目に出るような博打に出る必要は今のところない。
彼との茶会において話した会話でも、少なくとも眷属を一気にコンプリートするつもりはなさそうだった。方針としては武官と文官を一人ずつにしておくつもりらしい。
なので、彼自身が政治謀略に優れている事から此方との連携の為に文官肌を送り込み、魔王派にはこっそりと武官を送り込ませてバランスを取らせようなどと考えていた。
それが、真っ先に来た注文が「嫁前提」である。
ゼクラムでなくても突っ込みを入れるだろう。
『あん? そっちとしても政略結婚で縁結べるなら、喉から手が出るぐらい出してー相手だろ?』
小雪はそう言うが、ゼクラムとしてはそう言う事ではなかった。
「……君達は彼を愛しているのだろう? 横からいきなり本妻となる人物を送り込まれて、それでいいのかね?」
凄まじい一般市民じみたツッコミだった。
愛より優秀かつ健康な子供を生んでくれる事を重要視するだろう、自分達古い悪魔が何でこんな凡俗の価値観を態々念押ししなくてはいけないのだろうか。
心が寂しくなったゼクラムだが、現実は残酷だった。
『なんかボクらの関係、ハーレムとはもう別物だしいいんじゃない?』
ナツミといった兵夜の使い魔が、きょとんとしながらそう言った。
実に可愛らしいが、語る内容はどうかと思う。
「いや、私はてっきり、本妻は君達の誰かになるかと思ったのだが―」
そして、そうなると血統に拘る者が多い大王派から政略結婚目的の人材を送るのは大変だろうとも思っていた。
プライドの高い者が多いだろうから、間違いなく揉める。そして兵夜との関係が悪化する事もありうる。
それを避ける為にも慎重に動くつもりだったのに、何故か背中を押されている現状に戸惑っていた。
『え、本妻? ボクこのポジション好きだし』
まっすぐなナツミの返答が飛んできた。
『ゼクラム様ー。レーティングゲームの真っ最中に愛人ポジションを勝ち取った相手が、今更本妻とかあれじゃありませんかー?』
確かにそうだ。
だが、桜花久遠よ。なら最初から恋人の座を勝ち取ったらどうなのだろうか?
『お、恐れ多いです! あ、仲間になるのでできればフランクな方だと実質感謝します!!』
ベル・アームストロングはハーレムを女友達の集まりと勘違いしていないだろうか。
兵藤一誠やライザー・フェニックスのハーレムはどちらかというと珍しい部類だと思うのだが。大王派や魔王派でそういうことしている中でも、立ち位置を狙って水面下の争いがあることは多いし。
『別にアタシらはその辺ファックなまでに寛容だっつの。あ、夜伽の技術はアタシが教えれるから下手でもいいぜ? 本妻に興味がないでもねーが、そういうのにこだわるような人生経験送ってねーしな』
転生者は壮絶な人生を送っている者がいるようだ。だがそれでいいのだろうか?
「……分かった。候補を選別して君達にも吟味してもらう。数日程待っていなさい」
そう告げて通信を切ったゼクラムは、使用人を呼び出す為の鈴を鳴らすと、ため息を付いた。
「………………………………………………………これが、若さか」
なんか、とても疲れた。
のちに、理由はともかく疲れている事を見抜かれたのか、兵夜に日本の温泉地への招待券を譲られた。
ひ孫であるリアス・グレモリーが日本通な理由が分かりそうになった、ゼクラム・バアルであった。
凄まじい勢いで書きまくってしまっています。困ったもんです。これほぼ一日で書ききったし。
まあ、ちょっとしたお祭り的な感じで少しやってみるつもりです。キャラが多すぎてもう少し踏み込んで書くべきだったキャラが一人いるので、そのあたりをやってみようかと。