ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
槍に貫かれて、そのまま倒れるエイエヌを、少女が抱きしめる。
「……よ、オーフィス。来てくれたのか?」
「アザゼルに呼ばれた」
まさか増援がこいつだとはな。まあ、エイエヌの精神攻撃には効果覿面か。
「絶霧をゲオルグに持たせたうえで業魔人を使わせてな。其れでも一人が限界だったんで最強の存在を送ったってわけだよ」
「恐ろしいことを考えますな。というより、私にそれを知らせていいのですか?」
ドヤ顔のアザゼルにクリスタリディ猊下がツッコミを入れるが、しかしまあ、最後のピースにふさわしい存在ではある。
そして、今度こそ完膚なきまでに致命傷になったエイエヌは、よろよろと顔を持ち上げてオーフィスを見る。
「……オーフィス」
「何、兵夜?」
「俺、頑張ったんだ」
弱弱しいその言葉は、だけどはっきりと聞こえた。
「お前がいなくて辛かったけど、それでも、お前の頼みだから、絶対に、絶対に叶えなくちゃって……」
「うん。でも、今の我は、静寂は当分いい」
静かに、オーフィスはそういって首を横に振った。
それを見て、エイエヌもまた苦笑する。
「そっか。でも、あいつの願いはそれだから……さ」
そう、苦笑しながらエイエヌはオーフィスを抱きしめた。
どこまで行っても限りなく近いが際限なく違う別人のオーフィス。
だが、それでも失った温もりを取り戻したいと、エイエヌはオーフィスを抱きしめる。
そして、オーフィスもエイエヌを抱きしめた。
「うん。兵夜、頑張った。そっちの我、きっと喜んでる」
「そ・・・っか。そっか。なんていうかな、あいつ」
「決まってる。我、イッセーから教えられた」
そう告げると、オーフィスはエイエヌの顔を見てにっこりとほほ笑んだ。
「ありがとう、兵夜」
その言葉に、エイエヌは心の底から微笑を浮かべ。
「ありがとう。最高の報酬だ」
そのまま、塵となって消えていった。
そのまま、俺達は心底疲労で崩れ落ちた。
魔獣も従僕も機能を完全に停止して、出航途中だった艦隊も当然動かない。
まあ、つまりは勝利なわけだ。
わけなんだが……。
「アザゼル。エイエヌが勝ち逃げした気がして素直に喜べないんだが」
「何してくれやがんだアザゼル!! 感動的な場面なのに全然嬉しくねえよ!!」
「一撃で、一撃で吹き飛ばせばよかった……っ」
「うるせえよ! おかげで最後の一押しになったんだから仕方がねえだろ!!」
そうなんだけど、俺も赤龍帝も須澄も全然喜べない。
すっげえよ平行世界の俺。最後の最後で勝ち逃げしてきやがった。
厳密には別人とはいえ、一番聞きたかった言葉を貰えたんだから、救いがある最期だ。
うわあ、あの野郎マジで腹立つ。
釈然としないってのはこのことだな。
ああ、釈然としない。しないけど―
「それでも、勝ったな」
「ああ、勝った」
俺は赤龍帝と軽く拳をぶつけ合う。
実際、周りでは戦闘の決着に大歓声が出てるほどだ。
ヴィヴィはお母さんと抱き合って泣いてるし、うんまあ……よかったな。
「有難う、兄さん」
と、そこに須澄が立ち上がると笑みを浮かべる。
「本当にありがとう。兄さんと出会えて、良かった」
「まあ、結構ギリギリの勝利だったからな。俺がここを選んでなければどうなってたことか」
本当、俺達がこの世界に来なければどうなっていたことやら。
少なくとも、地球は想像の数十年早く異世界からの襲撃を受けていたことだろう。そして余力のない地球は滅亡レベルの大打撃を受けていたことは想像に難しくない。下手すれば本当に滅ぶ。
ああ、危なかった。俺が巻き込まれたのは色々と思うところはあるが、とりあえず地球は救われた。
「俺の方こそ礼を言うぜ。お前のおかげで助けられた」
「ま、兄弟だからね」
そういうと、俺達は手を握り合う。
『兵夜さま! 赤龍帝が仰っていたゲート周辺で空間が歪み始めています! そろそろ限界のようです!!』
……タイミング最悪だぁあああああ!!!
慌ててゲートに向かった俺達は、そのゲートを見上げていた。
ちなみに観測機でデータを取ったりしているが、果たしてどこまで参考にできることやら。
「すっごいなぁ。ここから赤龍帝さん達が来たんだ……」
「危ないから下がっててヴィヴィオ。次元震が起こりかけてるから危ないよ」
ちょっと覗きこみそうになっているヴィヴィオの肩に、高町さんが手を置いて止める。
ああ、どうやらかなり限界が来ているようだ。
こんなもんうっかり開けたままにするとか、エイエヌの奴は本当にうっかりだ。
……ブーメランで俺が傷ついた。心が痛い。
「このままだと、あと一週間で次元震が発生します。できる限り早く消滅させる必要があります」
オペレーターがそういう中、既に進み出る者がいた。
「じゃ、俺達はもう帰らないとな」
……赤龍帝。
「できれば勝利の美酒を酌み交わしたいところだが、そんな余裕もなかったな」
「残念だ。戦友と別れを惜しむ間もないとは」
俺もアルサムも少し名残惜しいが、赤龍帝はカラッと笑うと手を振った。
「いや、俺もだいぶ迷惑かけた。それなのに、手伝ってくれて本当にありがとう」
そう言って、赤龍帝は頭を下げる。
とは言っても、なあ?
「まあ、アルサムも須澄も許してるしな。俺達からは何も言えねえよ」
そうだよな、暁。
死人が出ているのはアルサム側と須澄達で、二人とも一応許してるわけだし。
そもそもアルサムは勝手に聖杯戦争に参加してるわけだからな。場合によっては罰せられてもおかしくない。
ぶっちゃけ文句が言える立場に立ってないな、うん。
「……まあ、実はちょっぴり恨んでるけど」
須澄はそんなことを言ってきたが、実のところ表情は笑顔だ。
そして須澄はアップとトマリを引き寄せると、その腕に思いっきり抱き着いた。
捕まえたから離さない。そんな感情を込めながら、須澄は全力の笑顔を見せる。
「結果、結果オーライってやつだね、うん。もういいよ」
「……ありがとう」
赤龍帝はそう言うと、船から飛び立って空を舞う。
エイエヌを討伐する為に平行世界へと旅立って行った者達が、そして元の世界に戻る為に飛び立って行く。
「須澄! お詫びって言ったらなんだけど、聖槍はお前が使え!! お前ならきっと大丈夫だ!!」
「いやって言っても貰ってくよ! クソ兄貴からの迷惑料だしね!!」
「違いねえ!!」
そう言いながら、最後に赤龍帝は俺を見る。
「……お前は! あんなのになるんじゃねえぞ!!」
おいおい、何言ってやがる。
「……こっちのお前がいるんだ! 大丈夫に決まってんだろ!!」
その言葉に、赤龍帝は笑顔を浮かべた。
「じゃあな、宮白!!」
「あばよ、イッセー!!」
ああ、きっと大変なことだらけだろう。
なんたって人類は西暦何世紀かってぐらいに人口削減。他の勢力はどこも滅亡寸前だ。
マジでリアル世紀末状態。いかれた時代に到達しちゃってるわけだが。
……ま、あいつなら元気でやってくさ。
頑張れよ、イッセー!
次元の狭間を航行する、一隻の船があった。
フォード連盟のステルス艦艇。特殊任務に使用する艦艇だ。
だが、それはもうフォード連盟の所属ではない。
協力の見返りに提供されたそれは、禍の団の残党の所有物だった。
「フォンフ・プロトとザイードがやられたか」
「ザイードは残念だが、プロトはまあ想定の範囲内だな」
「ああ、あいつは我々の中でも間違いなく最弱なんだから」
男たちは残念そうにしながらも、しかし絶望してはいなかった。
憎むべき地球の神々に一矢報いることはできなかったが、しかし最低限の準備は可能となった。
「既にロストロギアの確保には成功している。後はエイエヌの提供したデータがあれば、こいつはかなり役に立つだろう」
「ああ、それと、あいつらはどうしてる?」
「ん? そろそろ目を覚ますはずだが?」
男の一人が、それを聞くと席を立った。
彼が向かうのは、培養槽のある研究施設。
そこには、二体の異形が浮かんでいた。
「……さて、リゼヴィムが証明したように完全なコントロールは望めないし、復活させた恩を返す為に交換条件を付ける程度で済ませておくか。どうせ長生きなんだし、一年二年は待ってくれるだろう」
そう告げると、男は踵を返して部屋を出る。
そして、次の部屋に入ってから笑みを浮かべる。
「我らが乳への憎しみが、まさかあの程度で終わると思ってもらっては困るな」
そこにあるのは、数多くの強大な神器。
それは、エイエヌが保有しきれなかった神器。
彼らは協力の見返りにそれを受け取り、万一失敗しても自分達がそれを使うことで状況をひっくり返すことを目的としていた。
そして、それよりも価値があると言っていい最後の切り札にも視線を向ける。
それは、巨大な赤と白の龍の死骸。
死骸であるにも関わらず、それは強大な力を残したままであった。
「ああ、面白い面白い。これは本当に面白い」
くっくっくと笑いながら、彼はまだ見ぬどこかを幻想する。
宮白兵夜と赤龍帝は、今この場においても新たな協力者を得ているだろう。
だが、それはこちらも同じこと。
あまねく乳は全て滅ぼす。滅乳の楽園を今こそ築く。
「待っていろ、お前達の希望は、俺達が根こそぎ破壊する!」
フォンフ・シリーズ最高傑作。フォンフ・リーダーはこれからの戦いを覚悟して深い笑みを浮かべた。
さて、それでは俺はこれからしなければならないことがある。
「アザゼル。頼みがある」
「あ? なんだよ一体」
アザゼルが首をかしげる中、俺は心からの頼みの為に土下座すらした。
願うことはただ一つ。
「シルシを娶ることにしました。つきましては、
心からの叫びだった。
ああ、確かに殺されないとは思うが、ただでは済まないだろう。
いや、案外笑って許しそうというか歓迎しそうな予感はするが、それはむしろ外れてほしいというかなんというか。
「それは気にしなくていいわ、兵夜さん」
シルシ? 何を考えている?
「もとをただせば私の暴走。大丈夫、フェニックスの血は不死の象徴。ちょっとボコられた程度では死なないわ」
「そんな覚悟もって迫ってたんかい!!」
重いよ! たかが一特別授業でどんだけ重い愛が芽生えてんの!?
大体そんなことさせないよ!? 全面的に我慢できなかった俺が悪い!!
「アザゼル前言撤回!! 意地でもシルシに被害を発生させるな!! 俺はこの際骨折の十や二十はかまわない!!」
「馬鹿なことを言わないで! 誘惑したのは私の方よ!! ここは私が!!」
「いや俺が!!」
「……すごいことになってますね」
「ああ、不倫……になるのか? これ」
ヴィヴィと暁が顔を見合わせて何とも言えない表情を浮かべているが、しかしそれどころではないのだ。
「落ち着け二人とも。そもそも冥界の法律的には何の問題もないのだから胸を張れ。第一、伝え聞くあの四人の性格ならば、そこまでのことになるとは思えんのだが」
「それはダメだアルサム。男として通すべき筋がある」
そう、それはダメだ。
何が何でも罰を受けねば。それは絶対だ。
そういうわけで、普段から尻拭いしてるんだから何とかしてくれアザゼル。
「……おい、グランソードに雪侶。お前らまだ言ってねえのかよ」
ん?
「ああ、色々事態が動いてたから、言ってる暇なかったんだよ」
「そういえば忘れてましたの」
待て、どういうことだ?
「おい、どういうことだ?」
「兄上。落ち着いて聞いてくださいまし」
雪侶は俺を落ち着かせるように両手に手を置くと、静かに言った。
「今回の件、黒幕は義姉様方ですの」
…………………………………………………
「ぱーどぅん?」
「大将よく聞け。ゼクラム・バアルを焚きつけたのはあの四人だ」
どの四人だ。
いや、そんなことは言わない。
ナツミ
久遠
ベル
小雪
「あいつらなに考えてるのぉおおおおおお!?」
俺は心の底から絶叫した。
「……ねえヴィヴィオ、どういうこと?」
この中でまったく事情を知らない高町さんが、寄りにもよってヴィヴィに質問した。
うん、子供に答えさせることじゃないんですが。
「あの、高町さん。宮白さんのいる冥界は一夫多妻が認められているのですが……」
その辺察知したのか、姫柊ちゃんがそれとなく説明をし始める中、俺は視線を二人に向ける。
「主命令だ。……今すぐどういうことか説明しろ!!」
「ああ、とりあえず短く説明するぜ?」
おう、お前はすぐに話してくれて助かるよグランソード。
「大将。大将も自覚していると思うが、大将が今後大王派と魔術師組合をくっつけて折り合いをつけるとするにゃぁ、大王派との政略結婚は間違いなく出てくる」
ああ。俺もそれが難儀なタネだった。
「ぶっちゃけ義姉様方は全然オールオッケーのノリなんですの」
以下、あいつらの感想。
ナツミ「なんかボクらの関係、ハーレムとはもう別物だしいいんじゃない? え、本妻? 僕このポジション好きだし」
久遠「可愛い女の子を侍らせるなんて兵夜くんやるねー! あ、私と
ベル「仲間が増えるんですか? 実質やった! ……え? 微妙に違う? ……本妻ですか? そ、そんな恐れ多いです!!」
小雪「別にあたしらファックなまで肝要だっつの。……なんならあたしが夜伽の訓練相手になってやってもいいぜ? あ、本妻? ……興味がないでもねーが、そういうのにこだわるような生活送ってねーしな」
以上。
「寛容すぎるぅうううううううう!!!!」
俺は心底崩れ落ちた。
いやちょっと待とうか!! なにその男に都合のいい女っぷり!!
いや、冥界のルール的に何の問題もないのか! いやいやそれにしてもいくらなんでも絶賛しすぎというかなんというか!
なまじ独占欲ある俺の方が問題あるか、コレ!!
「……不倫されたらショックで寝込みそうな俺がどうかしてる気がしてきた」
「いえ、一般常識的には正しいのは宮白さんのような気もしますが」
姫柊ちゃん、フォローありがとう。
「ああ、そうだ! 俺が男の器量を魅せつけて不倫なんて考えさせなければいいんだ! …いや、散々俺は中学のころ遊びまくってたんだし、ガス抜き遊びぐらいは認めるべきでは……だめだ相手がイッセーだとしても耐えられるかわからない!!」
「大将、大将。子供、子供」
いかんそうだった!!
「……まあ、そういうわけでゼクラム・バアルにあの四人が相談した結果、大将の授業聞いた途端にやる気に満ち溢れたシルシが会議の結果適任ってことになってな? 良かったなシルシ・ポイニクス。お前公認だぞ?」
「そ、それは、喜ぶべきなんでしょうけど……」
顔を真っ赤にしているシルシだが、しかし複雑な表情だ。
まあ、気持ちはわかる。
そんな複雑な感想な俺に、アザゼルがニヤニヤしながら膝をつついてくる。
「おーおーいい女が集まってるじゃねえか! いっそのことイッセーにも負けないハーレム御殿を作ってみたらどうだ、この野郎!!」
「いや、その、あのな……」
どう返せばいいのかよくわからん。
ええい、誰か助けを―
「兄さん」
ん? 何、須澄?
振り向いた俺の視界には、ニヤニヤしてる須澄達三人の姿が。
「今度、今度相談がある時は、兄さんに相談するよ」
「流石須澄君のお兄さんだねっ」
「ああ、お義兄様。流石エイエヌ様の同一存在ねぇ?」
「……よし」
ダダンダンダダン♪ ダダンダンダダン♪
「あ、兄さんがキレた!?」
「全員逃げろぉおおおおお!!!」
お前らはりたおしてやるぁあああああああ!!!
まあ、そんなこんなで俺が楽しようと思ったら逆に大変なことになった話はこれで終了。
まったく。イッセーと仲良くならなかったら人類滅亡一歩手前とか、我ながらどうかと思う。
だけどまあ、こっちにはイッセーがいるしどうにかなるとは思っている。
まあ、この後フォード連盟との後始末やら時空管理局との交流やらで忙しいことになるが、それは流石に他の人達に利権も含めて譲っておくとして……だ。
まあ、その後のことは機会があれば、な?
兵夜「俺の女がハーレム御殿建設のために積極的に動くとかある意味ショック……」
以上、衝撃の真実でした!!
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