ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
次の瞬間、赤龍帝はすべてを投げ飛ばして拳を突き出した。
そして、兵夜はそれに正確にカウンターを叩き込む。
そして、拳が
「……いい拳してんじゃねえか、エイエヌ!」
「奴と一緒にされるのは仕方がないが、奴より俺のがいい拳してるぜ?」
そして、再び拳が突き出されて同時に顔面に吸い込まれる。
続けて放たれるボディブロー、ガゼルブロー、ハートブレイクショット。
それらすべてがクロスカウンターとなって直撃し、二人の体から鮮血が飛ぶ。
「……大将の奴、なんて無茶しやがるんだ」
「総合的な性能ではオリジナルの方が上。にもかかわらず真正面からの殴り合いをあえてするとは」
呆れ半分のグランソードとアルサムの目には見えている。
赤龍帝が攻撃を喰らっているのは兵夜の戦闘センスによるものだが、兵夜が喰らっているのはわざとだ。
わざと拳を受けて、そのうえで拳を叩き込んでいる。
そして、それをわかっているものは意外と多かった。
「あの、宮白さんはなんでわざと攻撃を受けているんですか?」
「あ、やっぱり!? てっきりそう見えてるだけだって思ってた」
雪菜が唖然として、それを聞いてリオは何というかほっとした表情を浮かべながら心配するという荒業をやってのける。
「……兵夜さん、何を考えているんでしょうか」
「あの、拳の威力だけなら赤龍帝って人の方が上ですよね!?」
アインハルトとコロナも兵夜を心配そうに見る。
―赤龍帝の誤解は、俺が解く。
都市を壊滅させる気があると思われる赤龍帝達を止めるため、動こうとしたとき、兵夜は赤龍帝対策をそういった。
これまでの経験から何か策があるのかと思い、グランソード達は何も言わなかったが、ふたを開けてみればあの始末。
「おい、わざと喰らってるってどういうことだよ!? っていうかそんな簡単に相打ちなんてできるのか!?」
「いえ、暁さん。むしろ兄上なら簡単にできるのです」
武術の心得が全くないので一人だけわかっていなかった古城に、雪侶が頭を抱えながらそう答える。
「兄上はイッセーにぃの動きならコンマ1秒以下でどう動くか読めますの。おそらくこれまでの戦闘で平行世界ゆえの誤差をアジャストしてますのよ」
「なにそれ気持ち悪い!」
思わず本音が須澄の口から洩れるが、しかし問題はそれどころではない。
なぜ、そんなことをする必要があるのか?
そう思う皆の想いは共通していて―
「―必要、だからです」
ヴィヴィオは、それを読み切っていた。
「わかるの?」
「はい。わかります」
シルシに頷き、ヴィヴィオはまっすぐ前を見る。
「どうした赤龍帝! まだまだこんなもんじゃないだろう!!」
「当たり前だ、当たり前だこの野郎!!」
骨にヒビが入る音すら響かせながら、兵夜と赤龍帝は殴り合う。
その光景をまっすぐ見つめながら、ヴィヴィオは固唾をのんで見守った。
「ぶつかり合わなきゃわかってくれないと思ったから、兵夜さんは赤龍帝さんと殴り合ってるんです。……思いを込めた拳なら、言葉よりわかってくれると思ってるから」
はたから見れば馬鹿らしいかもしれない。
だが、ヴィヴィオは知っている。
思いは時として、言葉では伝わらないということを。ぶつかり合うことでわかる想いもあるということを。
「だから、きっと大丈夫です」
だからヴィヴィオは笑顔を浮かべる。
「頑張れ兵夜さん! 届きます、きっと届くから!!」
「当たり前だヴィヴィ! 届くに決まってるさ!!」
兵夜は血を流しながらそれに答える。
まったくもって自分らしくないことをしていると、心から答えられる。
元々宮白兵夜はこういった無骨なスタイルでは全くないのだ。それは断言できる。
だが、兵藤一誠という男はむしろこういうスタイルがピタリと合うような男だ。
なら、心を交わすにはこういう方法の方がうってつけだろう。
だから、こうして分かり合うと心に決めていた。
「エイエヌエイエヌエイエヌと! 確かにあいつは俺だが、あいつと俺は別人なんだよ!!」
「わけのわからないことを、言ってんじゃねえ!!」
何百発目かの相打ちが叩き込まれ、真偽の赤龍帝は同時に膝をつく。
「この野郎! さっきから気づいてたけど、お前わざと喰らってるな!?」
「あ? 気づくの遅すぎるだろうが馬鹿かお前は……いや、バカだったな」
馬鹿じゃなければここまでこじれていない。そう思うとなんか別の意味で頭が痛くなってくる。
だが、しかしそれも含めて
だったら仕方がない。仕方がないからやるしかない。
覚悟を決めると、兵夜は全力で立ち上がる。
「さあ来いよ? それとももうへばったのか?」
「舐めんな! 俺はまだやれるんだよ!!」
赤龍帝は立ち上がると、今度はフェイントまで入れて殴りかかる。
だがあまい。ほんの僅かな違いから、フェイント狙いなのはすぐに読めるのが宮白兵夜の宮白兵夜たる所以。
赤龍帝、兵藤一誠。彼の動きをゼロコンマ1秒で察せないようでは、宮白兵夜は宮白兵夜ではいられない。
殴り合いを続けていくにしたがって、兵夜はどんどん過去を思い出す。
覗き行為を繰り返すイッセー達に通報をしたことも。
不良たちを支配する自分に、イッセー達がドンビキしたことも。
夏休みにナンパのために海に行くイッセー達についていって、自分だけちゃっかり女を味わったことも。
エロDVDを見るために、兵夜が裏で手をまわしてシアターセットを使ったことも。
そして、初めて彼に救われたあの時のことも。
「ああ、本当になんでなんだろうな」
「何がだよ!」
殴り合いながら、兵夜は赤龍帝と言葉を交わし合う。
「お前さあ、小学生の頃に壺割って即直した阿呆のこと知らねえか?」
「知らねえよ! そんなの小学生の頃見たら忘れねえって!! 俺はその時異能なんて知りもしなかったんだからよ!!」
「だろうな!!」
何百発目かの相打ちと共に、同時に顔がのけぞり鎧が解除される。
それでも、二人は殴り合いを再開する。
打つ、打つ、打つ、打つ。
殴る、殴る、殴る、殴る。
もはや何の躊躇も回避もフェイントもなく、二人同時に相手の顔面を殴り飛ばし続ける。
「ああもう最悪だこの野郎! たった一つの失敗があるかないかで、ここまで世界が変わるだなんてよぉ!!」
「それお前の失敗かよ! どんなうっかりミスだ!」
「そのうっかりミスのあるなしが世界の命運変えてんだろうが!!」
顔面に拳が突き刺さり合い、そして二人は今度こそお互いに仰向けになって倒れた。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「ぜえ・・・ぜえ・・・ぜえ・・・」
全身血まみれになりながら、それでも全力でぶつかり合い、そして動けなくなるほど殴り合った。
「……なんなんだよ、お前」
「……エイエヌであってエイエヌでない宮白兵夜って男だ。まだわからないか?」
だとすると困ると思うが、しかし赤龍帝は首を振った。
「いや、あいつはこんなことしないさ。どこで手段を変えてくるかわからなかったし、間違いなくエイエヌの反応だけど、お前はなぜかエイエヌじゃない」
歯を食いしばり、涙すら浮かべながら、赤龍帝はそれを認めた。
「腹立たしいほどエイエヌなのに、お前はなんでかエイエヌと違う。……なんなんだよ、お前は」
「その感情は俺も思ってるさ」
吐き捨てるように、兵夜は嗚咽を漏らす。
「なんで
そう言いながら、兵夜は立ち上がると虚空を睨む。
ああ、お前は必ず見ているはずだ。こんな面白い見世物に興味を覚えないわけがないだろう。
とことんまでに邪悪に染まった俺の写し鏡。いい加減姿を見せろ―
「とっとと姿を現せ、エイエヌ……いや宮白兵夜……いいや―」
もはや隠すまでもない。
すべてを明かして清算しろ―
「―
ようやく明かせた、戻の意味。
転生者には最初の人生があります。
つまり、最初の名前があるということです。