ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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赤龍帝、再来

 

「……ここで来るか、赤龍帝!!」

 

 その砲撃の正体を、兵夜はよく知っている。

 

 二天龍のオーラを間違えるほど愚かではない。

 

 どこまでも似て、しかしどこかが決定的に違うオーラの持ち主など、推測できる限りただ一人。

 

「エイエヌの人形遊びは悪趣味すぎるんだよ。人形同士で殺し合って挑発するなら乗ってやる」

 

 漆黒の殺意をまき散らす、赤い龍の鎧がそこにあった。

 

 それも、今度は一人ではない。

 

 その後ろには多くの人影が存在する。

 

 人間がいる。

 

 悪魔がいる。

 

 天使がいる。

 

 堕天使がいる。

 

 獣人がいる。

 

 吸血鬼がいる。

 

 鬼がいる。

 

 天狗がいる。

 

 妖精がいる。

 

 巨人がいる。

 

 ありとあまねく種族達が、みな一様に憎悪を込めた目で戦場を睨みつけていた。

 

「あれが、平行世界のイッセーにぃですの!?」

 

「ああ。奴がもう一人の兵藤一誠だ」

 

 雪侶とともに兵夜は警戒するが、その様子すら赤龍帝は苛立たしいのか殺意を増幅させる。

 

「必要のない小芝居ばかり上手になりやがって! その小芝居で何人殺してきたか忘れたとは言わせないぜ、エイエヌ!!」

 

 言うが早いか、赤龍帝は再び砲撃を再開する。

 

 まともに喰らえば一撃必殺。上級悪魔を一瞬で消滅させるほどの破壊の砲撃が無数に放たれる。

 

 それは、或る意味でイッセーすら凌ぐほどの領域。

 

 だが、同一人物である以上、その限度はあるのが目に見えている。

 

「どれだけ命削る気だ! この馬鹿野郎!!」

 

 兵夜は龍殺しを展開すると、即座に接近して攻撃を叩き込もうとする。

 

 だが、その速度はあまりに遅い。

 

「ぬるいんだよエイエヌ!! 直接操作したいからって無駄にそっくりに作りやがって!!」

 

 赤龍帝は一気に加速すると兵夜を引き離し、そして同時に砲門を一斉に向ける。

 

「見ているだけでも悍ましい! とっとと失せろ、クソ野郎がぁあああああ!!!」

 

 そして放つのはこれまでよりもはるかに太い一撃。

 

 それも高速で放たれ、兵夜の速度では回避困難。

 

 だが、兵夜は欠片も焦らない。

 

 そう、彼は一人ではないのだから。

 

「受け止めろ、グランソード!!」

 

「応ともよ!!」

 

 割って入るのはグランソード。

 

 むろん、グランソードといえど真正面からただ喰らえば重傷は確実。

 

 それほどまでの火力を前に、しかし彼は不敵だった。

 

「聞いて驚け見て震えろ!! これぞ俺の大能力(レベル4)!!」

 

 そしてグランソードは右手を前に突き出し―

 

進行凍結(オールストッパー)!!」

 

 その一撃を停止させた。

 

「何しやがった、人形!!」

 

「ハッ! 俺は触れた物体の移動を停止できるのさ! 超能力(レベル5)にだって届くぜ、赤龍帝!!」

 

 言うが早いか、グランソードはその隙を突いて赤龍帝の懐へと飛び込む。

 

 その表情には、悲しさと嫌悪が見え隠れしていた。

 

「何だってんだお前はよぉ」

 

 兵藤一誠という男は、いつだって仲間のために戦う好漢だった。

 

 そんな彼のことを、グランソードもまた敬意を持っていたのだ。

 

 だが、目の前にいる赤龍帝は憎悪の一色に飲み込まれている。

 

 なんだそれは。お前はそんな奴ではなかっただろう。

 

 最優の赤龍帝だった男が、こんな見る影もなくやさぐれて―

 

「そんなんで、何を守れるっていうんだこの野郎が!!」

 

 真正面から全力の拳を叩き込んだ。

 

「・・・はっ!」

 

 だが、赤龍帝の心には届かない。

 

 例え骨に届き芯に届こうとも、心にだけは届かない。

 

「人形風情がいい拳持ってんじゃねえか。・・・だけどなぁ!!」

 

 其のまま、赤龍帝は連続攻撃を叩き込む。

 

 グランソードは能力を駆使して両の拳を受け止めるが、赤龍帝はかまわず頭突きを繰り出した。

 

 そしてグランソードの鼻から血が噴き出るのを見て、兜の内側の赤龍帝の口角が不気味に上がる。

 

「やっぱりな。格上があるからわかってたが、止めれるのは手のひらで止めた攻撃だけか!!」

 

 ならばやることは簡単だと、一瞬のスキをついて赤龍帝はグランソードの手首を掴む。

 

 そして、胸部の宝玉から莫大な魔力が収束される。

 

「これならもう止めれねえだろ!!」

 

「……なめんな変態!!」

 

 その気合を入った声とともに、グランソードの周囲に光る物体が無数に生まれる。

 

 それは、魔力で構成された蠅だった。

 

 至近距離から放たれる砲撃が当たるより早く、蠅の群れが楯となって砲撃を受け止め、爆発を産む。

 

 その爆発の破壊力でお互いに距離を取られた状態から、再び砲撃戦が勃発する。

 

 龍帝と魔王の戦闘は、更なる激しさをもって激化していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、戦闘のどさくさに紛れてフリードは逃走していた。

 

「・・・あの野郎どこ行った!」

 

 古城は思わず探そうと視線を彷徨わせるが、しかしそこに流れ弾が飛んでくる。

 

 幸い赤龍帝の魔力砲撃だったので雪菜が雪霞狼でかき消したが、しかしこのままだとあまりに危険すぎる。

 

「先輩! とにかく一度離れないとだめです! このままだと巻き添えで吹き飛びます!!」

 

「わかってるけど、宮白や近平達が……っ」

 

 乱戦だったのが災いして、須澄達はかなり離れている。

 

 須澄とトマリはアップを追って戦闘を行っていた。ゆえに、さっきの砲撃の乱射の巻き添えになっている可能性だってある。

 

「姫柊、確か血の従者って死にかけている相手にも効果あるんだよな」

 

「はい。真祖クラスなら致命傷からの回復も見込めるとは思いますが……」

 

 最悪そうすることも考えないといけないと言うことだ。

 

 それを考慮しなければならないほど、赤龍帝の攻撃は凄まじかった。

 

 真祖の眷獣クラスの攻撃を乱れ撃つなど桁違いだ。神すら滅ぼす神滅具という言葉に嘘わないということだろう。

 

「兵夜さんのことも気になります。たしか、コカビエルって人と戦ってたはずですし……」

 

「すぐにでも合流しないといけませんね。早くしないと―」

 

 ヴィヴィオとアインハルトの言うことも当然だ。

 

 だが、それを黙ってみているものはそうはいない。

 

「そうはいかんな、小僧ども」

 

 黒い翼が、空に舞った。

 

「コカビエル!!」

 

 アインハルト達が一斉に構えをとる中、コカビエルはにやりと笑う。

 

「俺の戦争を邪魔してくれた赤龍帝と転生者のぶつかり合いか。厳密にいえば一人は別人とはいえ、これはまた胸がすく思いだ」

 

「てめえ、悪趣味にもほどがあるだろうが!!」

 

 コカビエルの物言いに古城は怒りを燃やすが、コカビエルはどうともしない。

 

「まあいい。戦争の前哨戦としてはなかなか面白そうだ。……来るがいい小僧ども。俺を倒せないようでは、エイエヌを止めることなどできんと知るがいい」

 

 コカビエルは翼を広げると、大量の光の槍を展開する。

 

 その数はかつてエイエヌが出した攻撃とほぼ同数。この男もまた化け物であることの証明だった。

 

 そしてそのまま攻撃を―

 

「……チィッ!!」

 

 そのまま別の方向に向けて斉射する。

 

「ぬるい!!」

 

 そして、そのまま莫大な魔力斬撃が直撃コースをすべて薙ぎ払った。

 

「あ、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス!!」

 

 元々彼らを探していたわけだが、しかしこのタイミングは状況が悪い。

 

 ただでさえ赤龍帝達とも戦闘が勃発している混戦状態で、さらにアルサムすら関わってこられればもう混乱する他なく―

 

「そこの女二人が高町ヴィヴィオとアインハルト・ストラトスだな!?」

 

 ―しかし相手にはその気が全くなかった。

 

「は、はい!」

 

「それが、どうしましたか?」

 

 思わずヴィヴィオは背筋を伸ばして返答し、アインハルトは事情が読めずに困惑する。

 

 そして、アルサムは額に手を当てると深くため息をついた。

 

「ヴィヴィだのハイディだの呼ばれていたから気づくのが遅れた……!」

 

「俺を前にして余裕だな!!」

 

 当然そんな隙を逃すわけがないが、しかしそんなことを許すものもいない。

 

 放たれた光の槍は、一瞬で赤き魔槍にかき消された。

 

「アルサム様。今は何より安全確保が最優先です」

 

 シェンが油断なくコカビエルを睨みつけながら、アルサムを励ます。

 

 アルサムも深呼吸一つで気持ちを切り替えたのか、すぐにルレアベを構えるとヴィヴィオ達を庇える位置に回った。

 

「事情は後だ。今はともに切り抜けるぞ!!」

 

「え、えっと……」

 

「その……」

 

「あの……」

 

 これまでも、決してただの敵ではなかったがこれは流石についていけず、古城達は一瞬迷ってしまう。

 

 だが、そんな中ヴィヴィオだけは別だった。

 

「はい! 早く兵夜さん達を助けましょう!!」

 

「話が早くて助かる。待て、後ろだ!!」

 

 その言葉に振り向けば、そこにはジャンヌの姿をした従僕が迫り来ていた。

 

 もちろん、聖剣の龍というおまけ付きで。

 

「流石に逃がしはしないんだけど?」

 

「くそ! この状況下で更にこいつらまで―」

 

 古城は振り返りながら眷獣を放とうとする。

 

 だが、それより早く龍の動きが急に止まった。

 

 まるで急制動をかけられるかのように、速度が止められたのだ。

 

「ああ、言い忘れていたが、ここにいるのは俺とシェンだけではないぞ?」

 

 アルサムは視線をコカビエルに向けたまま、ヴィヴィオとアインハルトに視線を向けて微笑を浮かべる。

 

「感極まってテンションも上がっている。ああいう戦士は強いぞ?」

 

 その瞬間、ドラゴンが勢いよく投げ飛ばされた。

 

 明らかに十メートルはあるドラゴンを投げ飛ばすその光景に古城と雪菜は唖然とするが、逆にヴィヴィオとアインハルトは目を輝かせる。

 

 それは、子供らしい感嘆などでは決してない。

 

 ……いるかどうかも分からなかった。だから不安でたまらなかった。

 

 だけど、これは間違いない。

 

 この怪力は正真正銘―

 

「……リオ!」

 

「ヴィヴィオー! やっと会えた!」

 

 ドラゴンを投げ飛ばした体勢からすぐに振り返って、リオ・ウェズリーが目に涙すら浮かべながら歓声を上げる。

 

 むろんドラゴンはすぐに体勢を整えて襲い掛かるが、しかし今度は巨大な岩の塊が受け止める。

 

 それもただの岩の塊ではない。人の姿をしたゴーレムだった。

 

「コロナさんも! よくご無事で!!」

 

「アインハルトさん、ヴィヴィオも! 本当に無事でよかった!」

 

「……暁と、姫柊だったな?」

 

 その再会の光景を見ながら、アルサムは古城と雪菜に声を投げかける。

 

「な、なんだよ」

 

「戦闘中ですので手短に」

 

「大したことではない。……友の再会に水を差させるわけにはいかんだろう、ということだ」

 

 そう告げるとともに、アルサムの周囲に四人の男女が舞い降りる。

 

「「「「我ら右腕四天王、ここに!!」」」」

 

 部下の言葉に頷きながら、アルサムはその刃をコカビエルへと突き付ける。

 

「四天王はあのジャンヌ・ダルクと思しきものを潰せ。私はそこの二人とともにコカビエルを相手にする」

 

「……仕方ねえな」

 

「はい。今は、素直に喜ばせてあげましょう」

 

 あまりに堂々としたアルサムの姿につられたのか、古城と雪菜もその気になってしまう。

 

 そして、戦力に暇を一時とはいえ与えるという真似をされて黙っていられるコカビエルではない。

 

「俺を相手にそこまで言うとはな。……後悔させてやるぞ貴様!!」

 

「安心するがいい。こちらとしても手は抜かん」

 

 その言葉とともに、遠くから多くの雄たけびが聞こえる。

 

 ―それは、悪魔の軍勢。

 

 数百を超える悪魔達が、宙を舞って戦場へと参入してきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最大勢力が躊躇なく勢力を投入する火急の時。

 

 聖杯戦争、終了の時は近い。

 


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