ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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愛しているから終わらせたい

 

 

 

 

 そして、そんな古城たちを見守りながら、グランソードは不敵に笑う。

 

「ああ、先に行かせて正解だったぜ。俺が出張っても付き合い無いも同じだから説得力がなかったし・・・」

 

 何より、魔王ベルゼブブの血縁を力と認めている自分では説得力がない。

 

 それでは彼女の迷いを取り除くことはできないだろう。それぐらいは彼だってわかる。

 

 だからまあ、自分がすることはただ一つ。

 

「余計なチャチャはいれさせねえってなぁ!!」

 

 サイラオーグに似た従僕の攻撃にカウンターを叩き込みながら、グランソードはつまらなさそうに不機嫌になる。

 

「…にしても弱いな。いや間違いなく強い方なんだろうが、拳に魂がこもってねえし、技量もかなり劣ってるぜ? 具体的には一年と半年ぐらいだな」

 

 従僕の攻撃を捌きながら、グランソードは冷静にその動きを見切る。

 

 一年と半年前の自分ならばいい勝負ができただろうが、今の段階では間違いなく自分が有利に戦うことができるだろう。獅子の鎧を使われても勝ち目があると言い切れる。

 

 そんな具体的な劣り具合に思うところはあるが、しかしそれは頭の隅に置いておいた。

 

 とにかく今は自分がこいつらをどうにかすることだけだ。

 

「さあ、かかってこいや獅子王もどき! てめえごときで俺を倒せると思ってんじゃねえぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、ハイディもようやく吹っ切れる機会が手に入ったようで何より何より」

 

 イーヴィルバレトによる制圧射撃で従僕の接近を阻害しながら、兵夜はなんというか涙を流しそうになった。

 

「いろいろ抱え込んでる子だから、解決するところを見るというのはなんかグっとくるなーホント」

 

「はいはい兄上。涙で視界がにじむと弾がそれますのよ?」

 

 そしてその弾幕をかいくぐろうとする従僕をピンポイントで撃ち抜きながら、雪侶はしかし同意のうなずきを送る。

 

「子供は子供らしく笑って毎日過ごせばいいですのに、厄介な特性を持ってしまったようですのね」

 

「ああ。俺も子供時代を努力に明け暮れていたが、あの子それ以上の修羅みたいだったからな。もうちょっと遊びがあるべきだとは思ってたんだよ」

 

 そう言い合いながら、二人は同時に飛び退る。

 

 そこに、聖剣の龍の足が踏み落とされた。

 

「案外しつこいのね。邪魔だから死んでくれないかしら!」

 

 ジャンヌの姿をした従僕は、しかしジャンヌが持たない力をもって襲い掛かる。

 

 背中から生えるのは四本の龍の腕。

 

 そして先ほどよりはるかに強大になった剛力で振り下ろされる巨大な聖剣を交わしながら、兵夜は冷静に判断する。

 

「技量そのものは最初にあったころのジャンヌと同等といったところか。…問題はなんで奴がジークの禁手を使っているのかだが」

 

「案外、そこに従僕の種がありそうですわね」

 

 兵夜も雪侶も思考を回転させながら、しかしそれだけに集中しない。

 

 ほかの従僕はともかく、ジャンヌ似の従僕は意識をしっかり向けていないと殺されかねない。

 

 従僕の正体についての推測を後回しにしながら、兄妹は聖剣の龍と向かい合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アップ!」

 

「アップちゃん!!」

 

「しつこいのよあんたたちは!!」

 

 弾幕をかいくぐりながら迫りくる須澄とトマリに、アップは苛立ちながら攻撃を放つ。

 

 アップ・ジムニーの本質は雑魚の殲滅。弱いものをいたぶることを望んで力を手に入れた彼女は、その本質的に格上や同格を相手にすることに慣れていない。

 

 ゆえに、聖槍を持つがゆえに同格である須澄との戦闘は不慣れなのだ。

 

 むろん、それに対応できるようにエイエヌからグラムを託されてはいるが、それでも対応できる限度はある。

 

 現状、彼女は圧倒的に不利な状況に追い込まれていた。

 

 だが、それでも彼女は自分をやめる気だけは毛頭ない。

 

 …生まれてこの方、自分は正しい両親のもとで育てられた。

 

 いろいろと鬱屈した環境であるスラムだが、その中でも自分の周りは善良な人たちだらけだったと記憶している。

 

 そんな環境だったからか、アップもまた正義感のある少女として育った。育ってしまった。

 

 弱者を蹂躙しいたぶることに快楽を覚えるこの(さが)を自覚することなく、自分は正義感の強いまっすぐな少女として育ってしまったのだ。

 

 子犬がいじめられるのを、止めようとしたことがある。

 

 単純な正義感によるものだったが、だけどあの時の自分はあまりにも弱かった。

 

 肉体的にもただの少女だし、何より精神的にも暴力という脅威に立たされた経験が少なかった。

 

 だから、結局は恫喝に負け、自分が投げられたくないという理由で自分も犬に石を投げつけた。

 

 あの時、確かにそんな自分がいやでいやで仕方がなくてたまらなかったから泣いたことも覚えている。

 

 だが、同時に愉しかった。悦んでいる自分も確かにいたのだ。

 

 そして、それを通りがかった須澄とトマリに助けられ、だからこそ正義感がさらに強くなった。

 

 ああ、それは単純な理由だった。

 

 無自覚に嫌悪したのだ。自分の中の本性を。

 

 こんなに楽しく清々しい、素敵な自分の本性を嫌悪して、何年も何年も自覚しなくて。

 

「なんであの時助けたりしたのよ…っ」

 

 あの時、最後まで石を投げ続けられていたら。

 

 あの時、誰も助けたりしなかったら。

 

 ……自分は、もっと早く自分を受け入れられたのに。

 

「なんで! あの時! 私の目覚めを邪魔したのよ!! あんたたちはぁあああ!!!」

 

「そんなの決まってる!!」

 

 眷獣が乱射される魔力弾を吹き飛ばし、そしてトマリはアップに迫る。

 

 涙すら流しながら、それでも前を見てまっすぐアップを見つめながら。

 

「泣いてる女の子を助けなかったら、きっとそんなの失格だからだよ!!」

 

 心から、声を投げかけた。

 

「……吸血鬼は長生きだからね。私なんて、昔は結構ヤンチャしたんだよ?」

 

 そう告げるトマリは寂しげにほほ笑んだ。

 

 彼女は不老不死の吸血鬼。その長い生は怠惰であり、退廃的な生活を行うものも数多い。

 

 だから、彼女はアップを責めたりしない。

 

 あの時、小さな子供二人を支える役目を果たせたことが、自分の心を救ってくれたと思っているから。

 

「・・・大好きな女の子を、否定したりなんてしないよ」

 

 トマリは笑顔でこう告げるのだ。

 

「だから最後まで付き合うよ。・・・ね? 須澄くん!!」

 

「もちろんさ!!」

 

 そして、ゆえに須澄も決して下がらない。

 

 ・・・・・・近平須澄はあの時助けたアップ・ジムニー(女の子)を愛している。

 

 あの心の地獄において、自分が誰かを救えたということが心から嬉しいから。

 

 そんな感謝を与えてくれて、そして共に居続けてくれた女の子たちが愛おしくてたまらないから。

 

 だから、近平須澄はそれを語らない。

 

 片方だけを殺して、もう片方と添い遂げるなど卑劣だとすら思うから。

 

 ゆえに―

 

「僕は君を認める(終わらせる)から。君の悪性も否定しない(受け入れる)から! だから―」

 

 アップは迎撃のための魔弾を放つが、しかしトマリの眷獣がそれを相殺する。

 

「……これですべてを終わらせる!!」

 

 そのまま攻撃を叩き込もうとして―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減、うっとおしいんだよ人形遊びが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 莫大な魔力の砲撃が戦場を包み込んだ。

 




救うのではなく終わらせる。

それは、彼女の悪性もまた彼女なのだと知っているがゆえにやさしさ。










だが、それを許すほどこの世界はぬるま湯でできていなかった。

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