ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
「・・・事情は分かった。あいつらの晩飯は一品減らすとして、とりあえず引っ張り込まれたのは斟酌しよう」
結局逃げ遅れた古城たちを正座させて、兵夜はしかし寛大な態度を見せた。
もとよりラブシーン公開処刑の異名すら持つ、恋愛沙汰を人に見られる男が兵夜である。
今更ラブコメを一つ見られたぐらいで、半分巻き込まれたような者たちまでいちいちボコるのも馬鹿らしいというものだ。
「考えてみればキスシーンをたいがい人に見られる俺が、フラグ立ての一つをのぞき見された程度で今更ここまで取り乱すのも馬鹿らしいしな」
「いや、いやそれは別の意味で取り乱した方がいいと思うよ」
なんてことないように言った兵夜の言葉に須澄は苦言を呈すが、しかしこればかりはどうしようもない。
なにせ自力でどうにかできたかというとどうにもできないところがいくつもあるからだ。
一部空気を読めばそんなことはどうにかなったというパターンもあるが、ほとんど状況という名の濁流に流されたようなものだ。果たしてどうにかできたのかというとまったくそんな自信はない。
「にしてもよ。シルシさんはあんだけ好意見せてんだから、もうちょっとはっきり態度に示した方がよくないか?」
「いうな。結局流されてはっきり示せなかったのは反省してる。あとお前が言うな古城」
お前は別の意味で問題なのだと暗に非難してから、兵夜はしかしため息をついた。
はっきり「そういう形の好意には答えられない」と告げに行くつもりが、見当違いの落ち込みを見せていたのでフォローを入れてしまった。
見事にフラグを立ててしまったのをいまさらながらに自覚する。これはまずい、実にまずい。
不倫はダメだ。冥界がいくらハーレムOKだとは言え、誰一人として連絡することができない状況下で妻を新たに作るなどというのはちょっと不誠実だろう。いい加減だろう。
だから何として持ちこたえなければならないのだが、さてどうしたものか。
考えても埒が明かないし、いまから戻っていってもさすがにそれは空気的に無理があるので、兵夜は気分を切り替えることにした。
「まあいいや。よければ須澄君は魔術の勉強しないか?」
「え? 魔術の?」
戸惑う須澄の前で、兵夜はやけに生き生きと参考書を呼び出しして広げていく。
「前にも言ったが君は資質がそこそこある。決してトップにならないだろうが、やり方次第なら開位ぐらいは狙えるだろう」
ニコニコ笑顔を浮かべながら、兵夜は参考書の一つを差し出した。
「取れる手段があるってのはいいことだ。最近は電子操作魔術などの研究もおこなわれているし、魔術を道具として使ってみるのもいいかもしれないぞ?」
そう告げる兵夜に対して、しかし須澄は怪訝な表情で口を開く。
「あの、あのさ。前から少し聞きたかったんだけど・・・」
「なんだ?」
「なんで、そこまで僕に良くしてくれるの?」
その言葉は、やけに響いた。
「ヴィヴィオちゃんたちはわかるよ? 完璧な被害者なわけだし、そりゃあ助けるのが人情だ。だけど、僕たちは胡散臭いと思われたっておかしくない」
それは客観的な事実だろう。
なにせ一応聖杯戦争の参加者だ。欲望のために人殺しを肯定しているといってもいい危険人物だ。
そんな人物がいきなり現れれば普通は警戒する。ましてや、この世に一つしかないとかいう聖槍を保有しているのだ。何から何まで怪しいだろう。
そして宮白兵夜はお人よしだがそれだけじゃない。こういう時の警戒はきちんとできる人物のはずだ。
にもかかわらず、彼は何の躊躇もなく古城たちと同様の扱いを・・・それ以上に気を使っているといってもいい。
余裕がないにもかかわらず、魔術を教えようとしてきたこともそうだ。
確かに将来的には有効かもしれないが、間違いなく時間がかかるだろうに、彼は須澄の将来のためになることをしようとしている。
それに、それにだ。
・・・須澄は少しだけ兵夜に疑念を抱いている。
才能なんてものは、そう簡単に見抜けたりはしないものだ。
にもかかわらず、兵夜は須澄の魔術特性をぺらぺらと口にした。
なんで、そんなことがわかるのだ?
そして何より、彼が自分を初めて見たときの顔が気になっている。
あの驚き方は、聖槍ではなく須澄自身を見て見開いたものだった。
「僕と、僕とあなたに、いったい何の関係があるの?」
「・・・・・・」
沈黙は、肯定と同様だった。
今、兵夜は自分と須澄に何かあるということを、意図せず肯定してしまった。
「・・・あ、あの、ここで仲間割れをするのはよくないと思うんですが」
微妙に不穏な空気になったので雪菜がとりなそうと声をかけるが、それを遮って大きな音が響く。
「ひょ、兵夜さま! 大変です!!」
泡を食ったような顔で、兵士の一人が其の場に駆け込んできた。
「え? あ、今ちょっと取り込み中―」
「いい、いいよ。あとで聞かせてもらうから」
須澄はここでいったん引くことにした。
疑念はある。だが同時に信用もしている。
少なくとも兵夜自身は須澄に悪意を抱いているわけではないのだ。
疑念を抱えたままだと何かミスをしてしまいそうだから聞いてみたが、後で聞いても問題はないだろう。
そう思っていた須澄だったが、その疑念が吹き飛ぶようなことを兵士は告げた。
「捜索するよう言われていたリオ・ウェズリーとコロナ・ティミルがカメラに映りました!! アルサム様の眷属と一緒にいます!!」
「・・・ホントです! リオにコロナだ!」
カメラの映像を確認して、ヴィヴィオは涙すら浮かべて喜んだ。
そこにいたのはシェンと名乗ったアルサムの眷属とともに町中で誰かを捜していると思わしく少女二人。
念のために顔写真を使って浅葱に照合してもらったが、99,99パーセントの確率で同一人物と出ているほどだ。
「これは、安心するべきは不安になるべきか」
正直兵夜として頭を抱えたくなる。
何とか探し出して保護したかった少女二人の無事が確認されたのは良いが、よりにもよって聖杯戦争の参加者の元に保護されているというのが問題だ。
「ですが、あの人はこれまでも卑劣な手段はとらないどころか何度も私達を助けてくれました。・・・人質にとるような真似はしないと思いますが」
雪菜の意見には全面的に賛成だが、それはそれとしてややこしい。
「確かに奴なら人質作戦には出てこないだろうが、だからといって敵一歩手前の奴の手元に味方の身内を置いとくわけにもいかんだろう・・・」
そう、そこが問題だ。
アルサムは政府に無断で聖杯戦争に参加しているという問題点がある。
短いながらも卑劣な策や願いを持っているわけではないと思うが、しかし無条件に気を許せる相手でもない。
ましてや、人のことは言えないがこんな治安の悪い場所に子供を連れまわしているのだ。
「リオさんもコロナさんも自衛はできるからこそ外に出しているのではないでしょうか? お二人はあの年ではかなりの強さを持っていますから」
「そうなのか? 最近の小学生はすごいんだな」
後ろでアインハルトと古城の会話を聞きながら、兵夜は少し考える。
そして、すぐに割り切った。
どちらにせよ、早くいかなければ二人は移動してしまう。
なら早く行って捜した方がいいだろう。
アルサムの性格ならば、無関係な民を巻き込むような真似は好まないはずだ。ならいったん交渉する余地はある。
「・・・シルシと藍羽はモニター頼む。俺たちで二人に会いに行くぞ」
「いいの? 会ったら会ったで面倒なことになりそうだけど」
シルシの意見ももっともだが、しかし早めに解決しておかないと大変だ。
「アルサムは決して悪人ではない。だから言ってはなんだがあの二人が好感を抱いて協力を志願する・・・もしくはしている可能性もある。下手に長引かせて友達同士で戦闘なんて駄目だろう」
「・・・そういう可能性を考慮しなきゃいけないって大変ね」
兵夜の割と危機感を漂わせる説明に、シルシたちは頭を抱えたくなった。
実際アルサムは立派な貴族と例えるべき人物であり、確かに好感を抱いてもおかしくないような人格者だ。
兵夜たちと知り合わずにアルサムに拾われていた場合、彼に協力を申し出る可能性はあるかもしれない。
「まあ、真昼間からならアルサムも話し合いにはのっかってくれるだろう。・・・くれるといいなぁ」
兵夜の願望が、割と全員の心からの願望だった。
そして外に出て、カメラに映った場所に兵夜たちはたどり着いた。
「ここに、リオとコロナが・・・!」
「OKヴィヴィ。すこし落ち着こうか」
はやるヴィヴィオの肩に手を置きながら、兵夜は使い魔を飛ばして様子を見る。
「これだけ数が多いとさすがに見つけるのは一苦労だな」
「じゃあどうするんだ? 分かれて捜すか?」
古城の言うことは普通に考えれば当たり前の判断だが、しかしこの極限状況下ではそういうわけにもいかない。
「半端に、半端に少人数になったらエイエヌ達に襲撃されるよ。人数は半分ぐらいに分けておいた方がいいような気がするけど・・・」
そういいながら須澄は周りを見渡す。
比較的治安がいい方の町の部分ではあるが、それでもこのあたり全体の治安が悪いことは間違いないのだ。
襲われても返り討ちにできるだけの戦闘能力を全員が保有しているとはいえ、分散することはできるだけ避けた方がいい。
「そうだな、やるにしても二班程度にした方がいいだろうし、それよりも手っ取り早いことがあるだろう。・・・シルシ!」
兵夜すぐに通信機でシルシを呼び出した。
「早速出番だ。俺たちはカメラをさらに増設させるから、その間に千里眼でこのあたりを調べてくれ。あと藍羽もいるか?」
『カメラの監視とシステムの調整をしろってんでしょ? わかってるって、助けてもらった借りぐらい返すわよ』
ならば大丈夫だろう。
すでにこのあたりから大きく離れていたら厄介だが、しかしそこまで行っていなければ見つけられるはずだ。
「なんとしても合流して、心置きなく聖杯戦争に臨めるようにしないとな」
そういいながら、兵夜は周りに視線を向け―
「―ん?」
違和感に気づいた。
そして、それに気づいたのは兵夜だけではない。
「なあ、大将。俺たち、見られてねえか?」
グランソードも気が付いたのか、兵夜を護衛するように背中合わせになると、静かに視線を周りに向ける。
「そういえば、言われてみるとどこからともなく見られているような・・・」
「誰かつけているのかなっ?」
アインハルトとトマリも気づき始めている。
だが、事態はどうやらそんなレベルでは全くなかった。
『・・・兵夜さん、逃げて!!』
泡をくったようなシルシの悲鳴が通信越しに響き渡る。
「そこのいるの、全員魔獣よ!! 囲まれてる!!」
「・・・なっ!?」
その言葉に得物を出した上で構えれば、ゆっくりとその場にいる者たちが構えを見せていた。
そこから取り出したのかナイフや釘バッドなどを構え、数千人の従僕たちは、一般市民の姿でこちらをにらみつけていた。
「・・・こんなに大量に用意できるのかよ、従僕ってやつは!!」
「先輩、眷獣は控えてください。中には一般人がいる可能性もあります!!」
古城の前に出ながら、雪菜は雪霞狼を構える。
「従僕って気絶するのかな? しないと大変なんだけど・・・」
「場合によっては骨を砕くぐらいは覚悟するべきでしょう。・・・一般人を巻き込まないように慎重に動かないと」
さらにヴィヴィオとアインハルトも並び立った。
「それで、それでどうするの?」
「まあ、こんなところで大暴れするわけにもいきませんの。・・・逃げに徹した方がよさそうですのね」
雪侶が須澄に答えながら、上空に魔力の砲撃を数十発ほど射出する。
「着弾と同時に走れ! 廃墟区画は遠いから、海岸線まで出るぞ!!」
兵夜も煙幕弾をまき散らしながら、後詰の牽制をするべくイーヴィル・バレトを展開した。