ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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たった一つのピースで物語は激変する

 

「・・・作戦を変更したいと思う」

 

 朝食を食べ終わってから、食後のお茶を出しつつ兵夜は作戦の変更を伝えた。

 

「作戦変更って? まさか、こっちから打って出るなんて言わないとは思うけれど」

 

 シルシはその辺りで苦い顔をした。

 

「戦術的な思考に慣れてるわけじゃないけれど、この乱戦状況下でいろいろ不利なんだから、相手が潰し合うのを待つのは作戦としては間違ってないんじゃないかしら? そもそもグランソードもそういったのでしょう?」

 

「ああ、それに関しては否定はしない。だが、そうもいかなくなった」

 

 そう告げながら視線を向けるのは、廃墟区画のある方向。

 

 戦闘の余波か、未だに煙が伸びるその姿は、激戦の後だということがよく分かった。

 

 撤退戦がきっかけとなって勃発した乱戦は、非常に広い範囲が戦場となった。

 

 要は、それだけ廃墟区画を根城にしている陣営が多かったということだ。

 

 そして、これだけの乱戦ともなれば脱落者も数多いだろう。

 

 つまり―

 

「数が減ったことでルール変更される可能性もある。そろそろ佳境に突入したと考えるべきだ」

 

「ってことはあれか? もうすぐ聖杯戦争が決着するかもしれないってことか?」

 

 どういうことかわかって、古城は表情が険しくなる。

 

 テロリストが願いの叶うアイテムなんて持ったら、ろくなことにならないのは間違いない。ましてやそのうち一人はオイスタッハと共闘しているのだ。

 

 もしかしたら、絃神島が崩壊するかもしれないと思えば冷静ではいられない。

 

「ああ、そしてそうなればもちろん俺達をハンティングする為に、奴らも更に本腰を入れかねない」

 

 兵夜の懸念はそこにある。

 

 なにせ、数が減るということは残存チームの聖杯獲得確率が上がるようなものなのだ。

 

 兵夜達の手に渡ったとしても、エイエヌは安全装置を仕込んでいるだろうが、しかしどこまで制御できるかはわからない。

 

 その辺りを警戒するだけの知能があるのなら、そろそろルールを変更してでも兵夜たちを潰そうと考える可能性がある。

 

「後、思った以上に状況が動き過ぎてて、残念だが俺達だけでは巻き込まれた民間人を探し出すのは無理そうだしな。・・・リスクが高かったので使わなかった手を取ろうと思う」

 

 その辺りも重要だ。

 

 正直な話、このままだと見つける前にのたれ死んでいる可能性が大きい。今のままではどうしようもない。

 

「この人、本気で他の人助ける為に動く気だったんだ。ごめん、てっきり協力する為の口から出まかせかと疑ってたわ」

 

「あらあら。兵夜さんは性格は悪いけど人はいいのよ?」

 

 浅葱に対して苦笑しながらシルシが訂正を求める中、須澄はホテルの窓から外を見下ろす。

 

「そっちは心配しなくてもいいと思うけどね? 下を、下を見てごらん?」

 

 といいながら指し示す先には、トラックから袋に包まれたものを人に手渡している者達がいた。

 

「あれ、なんですか?」

 

「エイエヌの政策だよ。この都市は、定期的に食べ物の配給とかも行われてるんだよ」

 

 首をかしげるヴィヴィオに、須澄はそう告げる。

 

「戦争を、聖杯戦争を盛り上げる為に人が欲しかったんだろうね。稼ぎ口があって食うものに困らなければ否でも人は集まるでしょ? 不安だから食べたことないけど、一人一戸だけと一日一回は食べれるから、すぐに餓死したりはしないと思うけど? いや、まずいけど」

 

「うんうん。あまりおいしくないけど、食べるとなんかぽわーってするんだよね」

 

 うんうんと頷き合う二人だが、その後ろに兵夜が回り込んだ。

 

「うん、それ間違いなく変な薬が入ってるからな? 分かってるから森に籠ったんだろ?」

 

「いや、いや確かにそうだけど、死なないかどうかっていえばそこまで心配することないんじゃない?」

 

「大ありだ馬鹿野郎。麻薬みたいに依存症起こしたらどうするんだ。こりゃ急がないとな」

 

 状況は別の意味で悪かったことに頭を抱えながら、兵夜は即座に行動を開始する。

 

「さて、それではちょっと協力して欲しい奴がいる」

 

 そう。この作戦には協力者が必要不可欠だ。

 

 リスクを最小限にするには兵夜の力では無理である。だからこそ協力を求めることは厭わない。

 

「まずヴィヴィ。ハイディでもいいが、時空管理局の資格もちの君の方が適任だ」

 

「はい! ・・・え? 時空管理局?」

 

 頷いてから、しかしすぐにヴィヴィオは疑問に思う。

 

 いくら時空管理局でも、事実上の敵対組織の内部で接触するのは困難ではないだろうか?

 

「・・・時空管理局って、すごい組織よね。なんかいくつも異世界束ねてるんだって?」

 

「俺らの世界でいう国連とかが近いんじゃないか? よくわからんが」

 

「いえ、権限などはむしろもっと大きいかと。どちらかというと合衆国政府のような意味合いでとるべきではないでしょうか?」

 

 と、古城達は本筋から離れていることを察して話し合う。

 

 なにせ、自分達の世界は時空管理局にすら察知されてない世界だ。時空管理局と関係する今の状況では役に立たないだろう。

 

「っていうかあたし達は今回役に立ちそうにないわね。特にあたしはただの一般人だし」

 

「ああ、確かに」

 

 と、浅葱と古城は笑い合うが、その肩に手が置かれた。

 

「そしてメインキーパーソンはアンタだ、藍羽浅葱」

 

「・・・え? あの、私只の女子高生なんだけど?」

 

 思わぬ指名に浅葱は唖然とするが、その顔を見て兵夜は鼻で笑った。

 

「黙れ逸般人。お前みたいな只の女子高生は存在しない」

 

 やれやれといわんばかりに肩を竦めると、兵夜は即座に電卓に数字を打ち込み始める。

 

「アンタレベルのハッカーを本気で雇うとするならば、俺はこれぐらい出すな」

 

 そういって突き出した電卓の数字をみて、全員目が点になった。

 

 まともな国家の通貨なら、どんな類であっても目が飛び出るほどの数字が出てきている。

 

「ちょ、ちょっと!? 確かにあたしは公社でプログラミングとかしてるけど、普通にアルバイトで」

 

「買いたたかれてるぞ、馬鹿! 先進国の電脳対策室のトップエース狙えるわ! いや、今からでも俺に雇われない? 本当に年俸これぐらい出すけど」

 

 と、地味にスカウトしながら、兵夜は左腕をふるって箱形の物体を転送する。

 

 いくつも出されたそれは、会社などで使用される大型のコンピュータ。

 

「さて、ここに学園都市技術を流用したスーパーコンピュータがある。そして、俺達の目の前にいるのはスポーツで例えるなら世界大会でメダル確実級のスーパープログラマー。さて、これだけあれば軍事施設のハッキングすら容易に行えるだろう」

 

 と、ほぼ確信に近いことを断言する兵夜。

 

「後、サブシステム用にこの辺りのコンピュータにウイスルを流し込んだ。これでいざというときは並列処理で演算装置として運用できる」

 

「それは犯罪よ」

 

 追加説明でシルシからツッコミが飛ぶが、しかし兵夜は気にしない。

 

 なにせ、これから行うことは当たればでかいが失敗するとかなり危険だ。

 

 気づかれただけで警戒度が跳ね上がり、これまで以上の破格の条件でのハンティングはおろか、聖杯戦争を一時停止してすら集中砲火を喰らいかねない。最悪の場合は位置を知られていないというアドバンテージすら失うことになる。

 

 だが、成功すれば状況をひっくり返すこともできる奥の手だった。

 

「・・・で、何をするんだ?」

 

 何か大ごとをすることだけはわかって、古城は確認する。

 

 これは、間違いなくすごいことをする。

 

「ニュークレオンの通信施設にハッキングを行い、時空管理局と接触する」

 

 兵夜はさらりと爆弾を投下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の事態において、一番の問題点は敵の規模である。

 

 こちらはわずか数人で動かなければならないのに、乱戦であるとはいえ敵の数は多すぎる。

 

 ましてや黒幕であるエイエヌはフォード連盟の事実上の長。彼と敵対することは、フォード連盟を敵に回すことである。本腰を入れられた時点で詰むといっても過言ではない。

 

 例えD×Dに増援を求めることが出来ても、数の差が圧倒的であるという事実は変わらない。ましてや移動力の問題もあり、おそらくそれだけでは間に合わないだろう。

 

 だが、時空管理局を味方につけることができれば話は変わる。

 

 なにせ、先に手を出してきたのはフォード連盟だ。時空管理局にそれが知られた時点で戦争が勃発しても不思議ではない。

 

 更に時空管理局の方針上、次元世界の他の次元世界への侵略まで見過ごすことはできないだろう。コカビエルの発言が正しければ更に力となってくれる。

 

 どちらにしても今の段階では頭数が全く足りない。協力者は絶対に必要だった。

 

「・・・とりあえず潜入はできたわよ。なかなかできるわねコレ」

 

「まあ、オーバーテクノロジー一歩手前の最新型だからな。それにしても早すぎだとは思うが」

 

 あまりの速度に兵夜は軽く引いている。

 

 丸一日がかりでする仕事だとばかり思っていたが、まさか数時間でここまで進むとは思っていなかった。

 

 正直、これはいくらなんでも強力すぎるだろうとすら思っている。

 

「じゃあヴィヴィ、そろそろ準備を頼む」

 

「はい! でも、大丈夫なんでしょうか?」

 

 ヴィヴィオは少し心配になる。

 

 次元世界の連盟ともなれば、ハッキング対策も相応のはずだ。少なくとも時空管理局の本局でもハッキングは困難なレベルのはずだ。

 

 それをかいくぐって時空管理局の監視艦隊と接触なんて、難易度が高いのだけはよくわかる。

 

 そんなヴィヴィオを安心させるように兵夜は頭に手を置いた。

 

「リスクは高いが行けるはずだ。藍羽のスペックはかなり高い。ましてや学園都市技術製(こいつ)のスペックなら―」

 

「繋がったわよ!」

 

 兵夜が続けるより先に浅葱が成果を上げて見せた。

 

「っしゃ! あと何分いける?」

 

「向こうも勘付きかねないし、5分が限界! 物量が違いすぎるわ!」

 

「十分! 圧縮ファイルを転送してくれ!」

 

 それだけあれば余裕といわんばかりに、兵夜は拳を握り締める。

 

『は、ハッキングだと!? いったいどこから!?』

 

『ニュークレオンのピント地方からです! それにこれ、時空管理局のコードですよ!』

 

「そ、そうです! 時空管理局無限書庫司書資格もちの、高町ヴィヴィオです!」

 

 本当に通信が繋がった事に喚起して、ヴィヴィオは上ずった声を出す。

 

 その言葉に、通信越しからどよめきが上がった。

 

『高町って・・・高町一等空尉の娘さん!?』

 

『おれ、教導受けたことあるぞ!』

 

『っていうか確か二日前に行方不明になったはずじゃないか!? なんでそんなところに!?』

 

 想定外の事態だったのか混乱状態になるが、しかし流石は敵対勢力一歩手前の地帯にいる部隊だった。

 

 数秒もすれば、こちらの言葉を聞くべくすぐに静かになる。

 

『・・・高町ヴィヴィオくん。フォード連盟に傍受される可能性がある、連絡事項は早めにお願いしたい』

 

「あ、はい。じゃあちょっと変わります」

 

 すぐにヴィヴィオは兵夜に場を譲る。

 

 この場において、一番会話をするべきなのが彼なのぐらいはわかるからだ。

 

「・・・交代失礼する。俺は、そちらの世界でいう第97管理外世界「地球」出身の、宮白兵夜というものだ。第三次世界大戦の関係者といえばわかるか?」

 

『聞きたいことはあるが後にしよう。今回の事態はどれぐらい把握している?』

 

 驚愕はしているようだが、しかし艦長らしき人物はすぐに本題に入る。

 

『地球ってあれだよな? 一年ぐらい前に突然技術が急激に上がって、時空渡航技術寸前まで言ってるとかいう?』

 

『ええ、高町一等空尉とか、出身の人は技術漏洩疑われたけど、技術系が管理局とは違うからすぐに誤解は解けたっていう』

 

『未発見の次元世界からの介入を受けたってもっぱらの噂の?』

 

 いい線行ってる。と、兵夜は思った。

 

 が、それについて答えている暇はない。

 

「必要なことは添付ファイルに送っているので最低限のことだけ。・・・そちらの言葉でいうロストロギア級の非常事態だ。下手をすれば時空管理局の上が機能停止しかねない」

 

『・・・それほどのことが起きていると?』

 

「さっきも言ったが、こちらもフォード連盟の軍事施設をハッキングをしている為時間がない。とにかく添付ファイルに乗っている通信コードに連絡してくれ。・・・先に断っておくが心の準備はしておくように」

 

 ある意味、心臓が止まりそうな驚愕の事実が隠されているのだ。少し同情する。

 

 そして、兵夜は伝えておくべき必要最低限のことだけは伝えておく。

 

「それと、ミッドチルダで起きた行方不明事件の下手人はフォード連盟だ。奴はそれを何度もできる・・・といえば緊急度は上がるか?」

 

『了解した。すぐに本部に伝えておこう。・・・それとヴィヴィオくん』

 

 その司令官は、最後に一言聞いてきた。

 

『お母さんに、伝えておくことはあるかね?』

 

 なるほど、非常にいい人らしい。

 

「わ、私は大丈夫! いい人に拾ってもらったからって伝えてください!」

 

「・・・あんた、信頼されてるのね」

 

「ちょっと恥ずかしい」

 

 自分があくどい事は自覚しているので、気恥ずかしさで顔が赤くなる。

 

『了解した。こちらもできるだけ早く救援部隊を送る。それまで何とか耐えてくれ』

 

 なかなかいい男だと感心しながら、兵夜は軍隊式の敬礼を返す。

 

「できれば生きてまた会おう。・・・今度は生身で会えることを願っている」

 

「あ、そろそろまずい! 切るわよ!!」

 

 そして、通信は切断される。

 

「・・・藍羽。どれぐらい勘付かれたかわかるか?」

 

「位置までは気づかれてないわね。ただ、通信設備をハッキングされたところまでは勘付かれてると思う」

 

「OK。撤収するぞ! 先に降りてる須澄君達と合流する」

 

 素早くパソコンを回収しながら、兵夜達はすぐにホテルを出ると階段を下りていく。

 

 チェックアウトをしている暇はない。サービスにいろいろとお金を置いておいたのでそれで我慢してもらうことにしよう。

 




一人チートがいるだけで、出せる手札は大きく変わるものである。

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