ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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似て異なる者

 

「・・・彼の授業を受けた人たちは、多くが意欲を向上させて成果を上げるわ。幼少期の努力はかみ合えば伸びるっていうのが、実体験に基づく話だから説得力を感じさせるのね」

 

 眠る兵夜の頭をなでながら、シルシはそう語る。

 

「ここは未来ある若者がそれをつかむ方法を学ぶ場所。・・・学園を襲撃してきたものに彼が切った啖呵よ?」

 

 かつて彼が言った言葉を反芻して、シルシは微笑んだ。

 

「現実を認めないのではなく、現実を認めたうえで打開策を探す。・・・だからこそあの子たちはこの人に感謝しているのよ。それは、弱者が強くなる方法だから」

 

 そう、だからこそ彼の授業はためになるのだ。

 

 圧倒的な強者に囲まれる中、弱いなりに追いつくために死に物狂いで努力して、そして結果をつかみ取った。

 

 むろん、努力にも限度があり個人差がある。だが、其れでもちゃんと嚙合わせることができれば、いまよりずっと先に進むことができる。彼はそういうやり方があることをきちんとわからせるように教えてくれる。

 

 だからこそ、弱い立場の人たちは彼の意見をちゃんと聞く。

 

 もとから圧倒的な素質を持った赤龍帝よりも、元がそんなに強くない彼の言葉だからこそ届くものもある。

 

「まあ、頑張ってもできないことがあるから頑張り方を変えなさいってことね」

 

「あ~、ちょっとわかるかも」

 

 と、真っ先に納得したのはヴィヴィオだった。

 

「私も才能がないから苦労してますし」

 

「そうか? むしろその年でそんだけできればすごいと思うけどよ」

 

 古城は素直に思ったことを口にするが、ヴィヴィオは苦笑を浮かべて否定する。

 

「私、魔力総量も低いし適正も格闘向きじゃないんです。学者系が一番向いてるらしくって、戦闘するなら中後衛むきで」

 

「そうなの? なんか割と強かったけど」

 

「それはコーチをしてくれてる人の教え方が上手だったからですよ」

 

 と、浅葱に謙遜しながらヴィヴィオはそれでも拳を見つめる。

 

「それでも、ストライクアーツで強くなりたいから。だから、一生懸命頑張ってます」

 

「そうなの。なら頑張らないとね」

 

 そう頭をなでながらシルシは告げる。

 

「人には人の戦い方がある。少なくとも、ヴィヴィオちゃんは目がいいもの。避けて当てる戦い方なら結構いけるんじゃないかしら」

 

「はいっ! コーチにもその方向で教わってます」

 

「まだ子供のヴィヴィオちゃんがここまで動けるようになるなんて、そのコーチはすごい人なんだね」

 

 なまじ鍛えているからこそ、雪菜はヴィヴィオを教えているコーチの素質がよくわかる。

 

 独学でここまで動けるようになれるとは思えない。そのコーチの指導能力が優秀だからこそ、これだけの技量を持つのだろう。

 

「そうですね。ノーヴェさんのようなコーチに教われたのは、素晴らしいことだと思います」

 

「ん? ストラトスもむちゃくちゃ強かったが、お前は違うのか?」

 

「あ、はい古城さん。私はクラウスの記憶がありましたので、修行そのものは独学でどうにか・・・」

 

 そう答えるアインハルトだが、少し反応が暗かった。

 

「・・・アルサム様に言われたこと、気にしてるのかしら?」

 

 シルシはすぐにそれに思い当たる。

 

 覇王たらんとするアインハルトに、アルサムは徹底的な酷評をしていたのだ。

 

 他者の王道に振り回される形で王になったところで、そんなものは張子の虎にすぎん。

 

 バッサリとたたき切られたことで、アインハルトはそれにのまれる形で素直に彼に任せて撤退することになった。

 

 だが、それはしっかりと心にしこりを残していた。

 

「・・・私は、この地にも覇をもって和を成し遂げたい。自分の目でこの世界の惨状をみて、クラウス(わたし)は旧ベルカの悲劇の記憶を思い出しました」

 

 一見すれば、活気づいているこの街も、しかし確実に荒廃している。

 

 クラウスの記憶と慧眼がそれを理解させてしまい、アインハルトはどうにかしたいと本当に思っていた。

 

 そんな覇王としての決意を、アインハルトは真正面から否定されてしまったのだ。

 

 覇王の在り方をではない。覇王であろうとするアインハルト自身の今の在り方を、アルサムは真正面から否定したのだ。

 

覇王(わたし)は、いったいどうすればいいのでしょうか・・・?」

 

 そう不安げに告げるアインハルトに、その場の者たちは少しどうしたものかと無言になった。

 

 なにせ、過去の人物の記憶を自分のように持っているなど特殊すぎる。

 

 そして、誰が見ても分かることが一つだけある。

 

 アルサムの言っていることはまさに正論だ。今のアインハルトはクラウスの記憶に振り回されている。

 

「一度は覇王として拳を極めるため、強者に勝負を挑み続けたりもしましたが、それもしないように言われてしまって。競技選手として強さを確かめる方法もあると知ったのですが、そもそもそれ以前の問題だといわれてしまったような気がして」

 

 アインハルトは今、足元がぐらついている状態なのだろう。

 

 何かを言ってやらねばならないが、しかし何を言ってやるべきか。

 

 そんな風に迷った時だった。

 

「だったら、兵夜さんが起きたときに聞いてみるといいわ」

 

 そういうと、シルシはぽんと手を置いた。

 

「厳密にいえば違うけど、彼は似たようなケースの経験者だから、きっとためになるアドバイスをしてくれるわよ」

 

 シルシはそう告げる。

 

 ああ、彼なら絶対大丈夫だという絶対的な信頼が、そこにはあった。

 

「大丈夫、なんでしょうか?」

 

「ええ、彼なら必ずいいアドバイスをくれるはずだわ。常に寄り添ってぶつかっていったりはしてくれないけど、ヒントになる的確なアドバイスはちゃんとくれる。彼はそういう方向性だもの」

 

 シルシはそう告げると、眠る兵夜に視線を向ける。

 

 彼ならきっと、自分の時のようにアインハルトにも救いを与えてくれると確信していた。

 

 それは、能力や資質を見ない妄信などではかけらもない。

 

―似たような子なら、あなたにとっても楽に対処できる部類でしょう? 信じてるわよ、兵夜さん?

 

 彼がどういう悪魔かを知っているからこそ言える、絶対的な確信のそれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん~。記憶継承だったっけ?」

 

 朝起きて、兵夜は朝食の準備をしながらアインハルトの相談を聞いてみた。

 

「はい。兵夜さんも似たような性質だと伺ったのですが」

 

「まあ、似たようなものといえばかなり似てるわな」

 

 過去の人物の記憶を持ち、その人物の特性も受け継いでいる。

 

 そういう意味では確かに近しい。だが、記憶継承者と転生者との間には深い溝がある。

 

 なにせ転生者は間違いなく霊魂的に本人だ。だからこそ発生する歪みや悩みも大きく。言い方はあれだがまともなものは精神を病んでしまう。逆に狂人はそんなことはかけらもない。

 

 だが、記憶継承者は記憶を継承しただけだ。完膚なきまでに別人である。

 

 そのあたりの違いを考慮しながら相談しなければならないが、少なくともいえることはある。

 

「そうだなぁ、俺から言えることは一つあるな。似たような症例の人を探して話をすること。・・・あてはあるんじゃないか?」

 

「そうですね。時空管理局の方とは何人もお知り合いになりましたので、頼めば探してくれるかもしれませんが」

 

 だけどなんでそんなことを、と思っているだろうアインハルトに、兵夜は腰をかがめて視線を合わせる。

 

「簡単なことさ。こういう特殊な事例に関する悩みが大変なのは、対処法があまり知られてないからだ。同類とあって話をするだけで、見えてくるものは結構あるぞ?」

 

 実際、兵夜の場合はそれはだいぶ救われることだった。

 

 救われすぎて愛し合っているが、まあそれはそれとして、気分的には楽になるだろう。

 

 自分と同じものがほかにもいるというだけでだいぶ気分が変わってくるものだ。これは、どうしてもほかの人間ではできない類の救いである。

 

「それにハイディはハイディでクラウスはクラウスだ。まずはそこを割り切るところから始めた方がいい」

 

 あとはその辺だろう。

 

 どうにも、アインハルトは自分をクラウスと同一視しているところがある。

 

 だが、アインハルトとクラウスは別人だ。記憶を継承しているだけで、感じ方や思想なども異なるだろう。

 

 そんな状態で、クラウスの望みをかなえることだけを考慮していてもろくなことはない。それはクラウスもそこにいるならそう思うだろうし、そう思わないならもはや気にする価値はない。

 

「・・・月並みな言葉だが、ハイディはハイディだ。ただ人の記憶の映像を見ただけの君は、参考にすることはあってもそれそのものになることはない」

 

「よく、わかりません・・・」

 

 そうだろう、と、兵夜はわかっている。

 

 自分とクラウスを同一視している節のあるアインハルトは、クラウスとアインハルトを別々に分けているようで分けれていない。

 

 まずは、そこから始めるべきだろう。

 

 この非常時ではできることなどたかが知れているが、しかしこれ以上は自分よりイッセーの方が向いていることかもしれない。

 

 的確なアドバイスをするのは自分の方が向いている。だが、何かに真正面からぶつかっていくのは自分には向いていない。

 

 理屈でどうにかできることなら自分は向いている自信がある。だが、人間理屈だけでは納得できないことがいくつもあるものなのだ。

 

 こういう時、イッセーがいてくれればいいのになぁと切に思ってしまう。

 

 だけどまあ、それでもこれは言っておこう。

 

「・・・ハイディ。これだけは覚えておいた方がいい」

 

 両肩をつかみ、しっかりと目線を合わせる。

 

「は、はい」

 

 何やら顔を赤くさせているが、さすがにこれだけでフラグが立つとは思えない。いや、立つな。

 

 それはともかく。

 

「俺はハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルドの雇い主であって、クラウス・G・S・イングヴァルドの雇い主じゃない。・・・まず、そこから考えるといい」

 

 まずはアインハルト自身が、自分とクラウスとの同一視をやめなければ話にならない。

 

 自分と違って正真正銘の別人の記憶なのだから、先ずはそこから始めなければならない。

 

―いや、俺も人のことは言えないか。

 

 ふと、兵夜はそう自重する。

 

 自分も、いまはもう宮白兵夜なのだ。

 

 すでに終わった前世を、深く考えすぎてはいけないのかも知れない。

 

 そう思うと、自分もまだまだだと自虐の感情すら生まれてきた。

 




ちょっと今秋から更新が遅くなるかもです。


・・・アスタルテの口調、書くの苦手だ・・・

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