ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

319 / 361
場合によっては嫌われることも覚悟はしている。









だけど、それが堪えないかどうかは全く別の話なのだ。


宮白兵夜という男

 

「・・・ふ、ふふ、ふふふふふ」

 

 兵夜は、笑った。

 

 もう、笑うしかなかった。

 

「やってられるかぁああああああああああ!!!」

 

 そして絶叫するなり酒を呼び出し、そのまま一気にあおる。

 

「ちょっと、ちょっと! 盗聴器探してる最中に酒飲まないでよ!」

 

 即座に須澄が文句を言うが、しかしそんなことを気にしている余裕はなかった。

 

「飲まずにやっていられるか! 状況が更に下だって見せつけられたんだぞこっちは!」

 

 いまだ聖槍のダメージも抜けきらない状態で、兵夜は本気で頭をかきむしる。

 

「なんでか知らないけどエイエヌは神滅具のバーゲンセール! しかもコカビエルが聖杯戦争に参戦していて、しかも腹立たしいことに奴はエイエヌと組んで俺たちの地球に戦争しかける腹積もりだ! 今の地球に次元世界複数を同時に相手する余裕なないってのに・・・!」

 

 状況は想像の遥か斜め下を突き抜けている。

 

 正直に言えば、フォード連盟の政治関係に対してはあまり関与するべきではないと兵夜は踏んでいた。

 

 人間世界の政治などにもあまり口出ししないのが異形社会の基本的な方針である以上、さらに遠い世界の政治やありかたに積極的に関わるわけにはいかないだろう。

 

 なので、しいて言うならレジスタンスにちょっとぐらい出資するぐらいにするべきか・・・などと考えていたらこのざまだった。

 

 今すぐにでも関わらなければどんなことになるかわからない。

 

 そして、どうやって関わったらいいかもわからない。

 

 うかつに通信が使えないうえに、通信が繋がったところで地球にまでは届かない。

 

 しかも、この聖杯戦争は一気に進んだだろう。

 

 兵夜たちの戦闘がきっかけになって、廃墟地区に潜んでいた聖杯戦争参加者が一気に潰し合った。

 

 冷静に考えれば、必要な物資を調達する為の市場などに適度に近く、加えて隠れる場所に事欠かないあの廃墟地区は潜伏場所として好都合過ぎた。

 

 聖杯戦争参加者、それも異世界から来ている禍の団の関係者ならば潜伏場所として使用し安過ぎただろう。

 

 これでかなりの陣営が脱落しているはずだ。間違いなく聖杯戦争は加速する。

 

「だけど、だけどここの市場って怪しいの多いんだけどなぁ。森の中で狩りしてた方が健康にいい食生活が送れるよ?」

 

「ああ、だからあんな町から離れた森の中にいたのか、アンタら」

 

 高所からの全身打撲から回復して、やっと意識を取り戻したばかりの古城が納得する。

 

 須澄やトマリがなぜあんな所にいたうえ、他にも参戦者がゴロゴロ出てきたのか疑問だったが、つまり同じことを考えたのだろう。

 

 そして、それは今はどうでもいい情報だった。

 

「それで、そのコカビエルってマジでやばいんだな」

 

「ヤバイとも。奴は堕天使の中だけなら少なく見積もっても上から数えて一けた台の実力者だ。・・・ヤバイ、マジで優勝しそう」

 

 しかも、フィフスが余計なことをしていたことまで発覚した。

 

 王の駒と同等の強化をかけられる堕天使強化技術など、コカビエルの手元に置いていいようなものではない。

 

 あまりに大きな混乱で、禍の団の技術をすべて回収できたわけではなかったが、それがここに来て仇となった。

 

 このままでは危険過ぎる。状況はあまりに最悪だ。

 

 そして、エイエヌの方も危険過ぎる。

 

 神滅具を複数所有してるなどと、イレギュラーにも程がある。

 

「ああ、俺は絶対柔らかいところで寝るからな。ソファーは俺がもらったからな」

 

「ソファーでいいのかよ。そこはベッドを確保するところだろ?」

 

 と、ヤケクソになっている節のある兵夜の断言に、古城はツッコミを入れた。

 

 今現在、兵夜たちは大きめのホテルの一室に陣取っていた。

 

 古いホテルであるが故にそこそこの環境はあるが、しかしそれはそれとして根倉にするには十分過ぎる。

 

 治安が悪いだけあって盗聴機器などはいくつもあったが、其れさえ取り除けばプライベートも確保できる。

 

 ちなみに、受け付けは暗示魔術でごまかした。

 

「そんなもん女性陣が使うに決まってんだろ。野郎は寝袋貸してやるから床で寝ろ。俺はソファーをもらう」

 

「寝袋は貸してくれるんだな」

 

「この人、本当に人は良いよね」

 

 しかもかなり高級そうなものを投げてよこす兵夜に、古城と須澄は顔を見合わせる。

 

 そしてさらりとフェミニストである。

 

 助けるのは困難だと前置きしたうえで、報酬アリの協力ならOKなどという辺り、本当に良い人ではないだろうか。

 

 が、それを兵夜は否定する。

 

「そんなことはない。むしろ、俺は問題児の部類だろう」

 

 そう、はっきりと言い切った。

 

「会話の節々で気づいているだろう? 魔術師(メイガス)の価値観に慣れていることもあるが、俺は割とサイコパス気味だ」

 

 兵夜は自嘲ではなく単なる事実として、それをはっきりと断言する。

 

「以前、異世界侵略をしたいとか言ったやつにもスカウトされて断言されたよ。お前は(同類)だと。俺はそれを肯定できる」

 

 兵夜はどこか遠くを見るように、盗聴器を探しながらもそう告げる。

 

「もしイッセーという光に出会ってなければ、俺は今頃犯罪社会でのし上がっていただろう」

 

 兵夜はそう告げる。

 

 努力の大切さは知っているから、努力は欠かさない。

 

 だが、其れを悪性に向けると確信すらしていた。

 

「余計な責任を負いたくないからのし上がって闇の帝王とかは目指さないだろうが、個人で活動できるレベルでなら相当暴れるだろう。それも、堅気の連中を食い物にする類のゲスの極みにな」

 

 何故だろう。そんなことを言っても特にメリットはないのに、すらすらと自分の悪性を認める言葉ばかりが出てきてしまう。

 

 どうしてか、兵夜は自分の否定する形で饒舌になっていた。

 

「ああ、なんていうか・・・」

 

「はい、そこまで」

 

 と、そこで区切るかのようにシルシの声が聞こえた。

 

「な、なんか暗い話っていうか・・・自分で自分のことそこまで悪党っていう?」

 

「っていうか、さらりとイッセーって人のこと持ち上げてるよねっ? 時々持ち上げてたけど、どれだけ好きなのっ! 薔薇? 薔薇なの?」

 

 浅葱やトマリたちもシャワールームから一斉に出てくる。

 

 とりあえず、女性陣は労働させずに風呂に入れる方向で言っていたのだがどうやら終わったらしい。

 

「兵夜さんは良い人ですよ? だって私やアインハルトさんを助けてくれたじゃないですか」

 

 ヴィヴィオも励ますように一生懸命声をかける。

 

 それに微笑みながら、しかし兵夜は否定する。

 

「いや、正直俺の良心なんてイッセーから与えられたようなもんさ」

 

 ああ、それに関しては否定の余地がない。

 

「アイツに無意味に嫌われたくない。そう思ってたらいつの間にかこんな感じになってたわけで、そういう意味では外付けなんだよ、俺の良心は」

 

 実際、自分にとっての良心はイッセーとの日常で育まれたようなものだとはっきり言える。

 

 ああ、なんていうか本当に今日は自己評価を下げたくなる夜らしい。

 

「ああ、ホント一歩間違えれば俺はあいつに嫌われまくる―」

 

「兵夜さん」

 

 と、そこで胸に押し付けられる形で黙らされた。

 

「シルシ。悪いんだけど、いろいろあって俺はお前のアプローチに対処できるほど冷静になれないんだが」

 

「大丈夫よ。今日は、そういうのじゃないから」

 

 兵夜を抱き寄せたまま、シルシはぽんぽんと子供をあやすように兵夜の背中をたたく。

 

「話は大体聞いたわ。赤龍帝、平行世界の兵藤一誠なんでしょう?」

 

「ああ」

 

「それで、ものすごい冷たい目で見られたんでしょう?」

 

「・・・ああ」

 

「だったら、少しぐらい吐き出しなさい。それぐらいは、眷属としてしてあげたいのよ。・・・貴方が私に振り向いてくれなくてもね」

 

「・・・・・・・・・」

 

 兵夜は答えない。

 

 だが、どうにもこうにも今の自分の感情が理解できた。

 

 ああ、馬鹿馬鹿しい。

 

 アホか自分はと殴りたくなる。

 

 つまるところ、自分は―

 

「兵藤一誠に嫌われてショックだったんだから落ち込んでいいのよ。今夜ぐらいはいっぱい吐き出しなさい」

 

「・・・うぅ~」

 

 そのままシルシの背中に手をまわし、兵夜は縋り付いた。

 

 別人なのはわかっている。

 

 場合によっては嫌われる覚悟もしている。

 

 だが、それでも。

 

 宮白兵夜は、兵藤一誠に嫌われたいわけではないのだから。

 

「・・・ひっく、ぐす・・・」

 

 子供みたいに涙を流す兵夜を抱き寄せ、シルシは微笑を浮かべた。

 

 自分は、こういう彼に救われたのだから、こういう彼も含めて好意を寄せるべきなんだと思っているのだ。

 

「よしよし、私はここにいるからね」

 

「・・・・・・イッセーに、嫌われたぁ・・・っ」

 

 さすがに大泣きはしなかったが、それでも兵夜はしっかり泣いた。

 

 こういうのは、泣いた方がすっきりしていいものなので、わかった以上我慢はできなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま泣きつかれて眠るまで兵夜はダメージが大きかったらしい。

 

「ごめんなさい。割と精神年齢が低いところがあるらしいから。いろいろあって大人のピースが落ちているらしいのよ、枢機卿が認定しているの」

 

「枢機卿とはすごい方から認定されているんですね・・・」

 

 苦笑しながらフォローするシルシに、雪菜は反応に困ってしまう。

 

 宗教的権威である枢機卿にそんなことを言われるとは、どんな状況でなったのだろうか。

 

「でもまあ、この人本当にすごいのよ。・・・ええ、本当にすごい人なんだから」

 

 そういいながら兵夜に毛布を掛けるシルシは、本当に心からそういった。

 

「本来の素質そのものは中の上がいいところ。其れでありながら幸運に恵まれながらも様々な功績を上げてきた彼は、間違いなく冥界の英雄の1人だもの」

 

 偉大な英雄を見る目つきで、シルシはそう断言する。

 

「そんなにすごいの、その人?」

 

「ええ。そうよ浅葱ちゃん」

 

 シルシはそういって、兵夜の来歴を語り始める。

 

 宮白兵夜。彼は魔術師としても人間としても超人などとは呼べないレベルであった。

 

 ある秘匿事項が原因で発生した世界のバランスの変化によって、死んだ後に来報して転生した転生者。

 

 その一人である兵夜はしかし、禍の団との戦いにおいてはそこまで優秀な部類ではない。

 

 固有結界という大魔術を使う特性を持っていることは脅威だが、彼は生前其れに目覚めることはなかったし、使えるようになったことも偶然だ。

 

 努力の大切さを知っているからこそ人間の範疇内では優秀だったが、それでも悪魔の中ではそこそこ優秀程度だった。

 

 さらには、幸か不幸か周りは優秀な人物だらけだった。

 

 主であるリアス・グレモリーが、まず若手上級悪魔でも期待の才児とすら認識されていた。そして、そんな彼女ですら一時期はチームの中堅どころか下位の戦力となっていたことがある、といえばその資質がわかるだろう。

 

 歴代最弱にして最優の赤龍帝と呼ばれ、禍の団初代首魁ともいえるシャルバ・ベルゼブブを討った兵藤一誠。

 

 転生者に匹敵するイレギュラーの塊である聖魔剣を生み出す禁手に至った男。そして、五つの魔剣に選ばれた騎士木場祐斗。

 

 デイライトウォーカーの貴族の末裔。邪神バロールの残滓を取り込んだギャスパー・ウラディ。

 

 神の祝福を受けぬ悪魔すら癒し、神器無効化能力ですら押し切れない守護領域を展開するアーシア・アルジェント。

 

 堕天使の長の1人、神の子を見張る者のバラキエルと、日本退魔師の五代宗家、姫島の家の娘との間に生まれた姫島朱乃。

 

 悪名とはいえSSランクのはぐれ悪魔である黒歌の妹にして、邪神を二体も封印した塔城小猫。

 

 エクスカリバーの使い手にして、デュランダルの担い手である天然聖剣使いゼノヴィア・クァルタ

 

 666の封印術式そのものを、わずかな資料からその手に届かせた北欧のヴァルキリー、ロスヴァイセ。

 

 グレモリー眷属は誰もかれもが超一流の素質を持つ若手のエリート。その誰もが、一人いただけでその主の名が上がるような逸材だらけである。

 

 そんな中、固有結界に目覚めてすらいなかった兵夜はある意味一番平凡だろう。

 

 普通の若手眷属悪魔としてならエースのカタログスペックだが、チームにおいては器用貧乏。それが宮白兵夜の評価だった。

 

 そんな中、聖杯戦争に巻き込まれたことは困難以外の何物でもない。

 

 それに対抗するため、兵夜は様々な手を尽くした。

 

 体の中で手が加えられてないところは一つもないといえるほどに体を改造し、そして様々な強化武装を考案して運用し、それをもってして潜り抜けた。

 

 神格と化した後もその努力は尽きない。何故なら前代未聞の領域であるが故に制御の方法を探ることすら手探りであり、彼の資質では未だに完全な制御などできていないのだから。

 

 それだけの狂気ともいえる執念があるからこそ、彼は冥界の英雄と呼ばれるようになった。

 

 そして、彼は何度か教壇に立ったことがある。

 

 ・・・下級の教育が細々として進まない冥界において、彼は教育の重要性を認識しそれを進めるべく交渉などを行っていた。

 

 そして、彼は特別講師として授業を行うとき、必ずこの言葉を前提とする。

 

 ―下級悪魔は上級悪魔より劣る。下級が必死に鍛え上げて到達できる魔力量を、上級悪魔は怠惰に生きながら自然に到達できる。それが現実だ。

 

 悪魔という種族は、血統における能力の差が大きい種族だ。

 

 下級と上級の能力の差は大きく、成長するにしたがってより大きくなる。そして長い寿命を持つ悪魔は、たいていの場合自然な成長で大きな差が出てくるのだ。

 

 それが、冥界において教育が進まない理由で、それは現実だと彼は前提とする。

 

 前提としたうえで、彼はこう諭すのだ。

 

 ―だからこそ、知識を習得し武器を身につけろ。

 

 人間は種族としては弱い部類だ。異形世界としても、神器持ちなどの一部の例外を除けば弱く。普通の動物としても、野生動物に生身で勝つことは困難な場合が多い。

 

 だが、其れでも人間は強大な力を持つ。

 

 それは、知恵を持ち、研究し、そしてそれを知識として継承し、文明を発展させてきたからだ。

 

 単純な威力だけでいうのならば、核兵器をもってすれば生半可な上級悪魔を上回る破壊が行えるようになっていることがその証拠。それは脅威でもあるが偉大なのだと、彼は人間の立場からそう教える。

 

 そのうえで、それらを武器として己を売り込める。そうすれば、よりよい生活を得ることができる。

 

 そう、彼は教えるのだ。

 

 魔力だけですべてができるわけではない。君たちはそれを身につけろ、と。

 

 強者と同じ戦い方をするのではなく、別の何かを持ってこいと。

 

 だからこそ、彼に救われた者たちはきっと数多いのだろう。

 

 それは、彼らにあった戦い方だったのだから。

 

 




つくづく思うがグレモリー眷属はチートばかり。リアスの引きの強さは規格外ですな。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。