ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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撤退戦、開始します!

 

 そして、兵夜と古城は即座に部屋へと踏み込んだ。

 

「浅葱無事か!」

 

「藍羽ってのはあんただな? ・・・で、そっちが―」

 

 二人は予想通りの惨状に眉をしかめる。

 

 そこには藍羽浅葱の他にもう一人。

 

 赤い髪をポニーテールにし、赤い目を歪め、そして赤い服を着た女。

 

 少女にも見える女が、浅葱に銃を突き付けていた。

 

「そこまで。・・・あんたが神喰の神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)ね?」

 

 女は浅葱を片腕でつかんで離さない。

 

「こ、古城ゴメン。この女すごい速くて」

 

「大丈夫だ浅葱。・・・てめえ、卑怯だぞ」

 

 古城は微妙にわざとらしい声を上げるが、女はその言葉に笑みすら浮かべる。

 

「はいはいお好きにどうぞ。お決まりのセリフだけどうれしくなるわね」

 

「・・・あんた、エイエヌの側近だな?」

 

 兵夜はいつでも飛び出せるように腰を落としながら、わかりきったことをあえて尋ねる。

 

 少なくとも聖杯戦争関係者なのは間違いない。そして、あえてすべての情報を開示されてない状況下でここまで動けるのは主催者側でしかありえない。

 

「正解。須澄やトマリから聞いてない? あたしはアップ・ジムニーよ」

 

 アップと名乗った女は得意げにほほ笑みながら、しかし銃口を浅葱から決して放さない。

 

 その口元に映る愉悦の表情は、圧倒的有利な立場に立っている者の其れ。

 

 自分が大上段から相手を見下ろすことに快楽を感じる者のそれだった。

 

「さあ、人質をどうにかされたくないなら、すぐに残りの連中を呼びなさい。退路の確保のために別行動してるんでしょうけど、あいつらがいると邪魔だしね」

 

「・・・わかったわかった。わかったから少し落ち着け」

 

 と、兵夜は即座に要求をのんだ。

 

 即座に殺しはしないだろうが、この女は腕に風穴を開けるぐらいは平然とする。

 

 そう聞いている以上、下手な引き延ばしはしない方がいいのがわかっていた。

 

 だが、その行動にいぶかしんだのはアップだった。

 

「・・・意外ね。あんたなら、状況が不利とみるなら人質ごと攻撃しかねないってエイエヌ様から聞いてるんだけど」

 

「おい、あんなこと言われてるぞ」

 

「いや、確かに否定はしないぞ? だがそれはそれ以外に方法がない時だけの話だ」

 

 と、心外そうに兵夜は言った。

 

「人質の安全を確保した方がいい状況下でそんなことをするほど俺も馬鹿じゃない。それぐらいの黒い取引はできるぜ?」

 

「へぇ。つまりアンタ、あたしたちに協力してくれるの?」

 

 妙な流れになったとでも思っているのか、アップは圧倒的有利な状況でありながら兵夜を警戒し始める。

 

 ・・・そう、それこそが狙いだった。

 

「いや、今回は助け出せるしな」

 

「ッ!?」

 

 その言葉にアップはすぐにでも引き金を引こうとし―

 

「覇王―」

 

「アクセル―」

 

 足元から、声が聞こえるのを察知した。

 

「ちょ、まさか―」

 

「断空拳!」

 

「スマッシュ!!」

 

 直後、床が粉砕されてアップはバランスを崩す。

 

 そのまま下の階に落ちるアップと浅葱に、兵夜と古城は一気に動いた。

 

「浅葱、捕まれ!!」

 

「古城!」

 

 古城は自分が怪我をするのも構わず浅葱を引き寄せ、そして兵夜はガトリングガンを取り出すとすぐにアップに狙いをつける。

 

「残念だが、お前がいることは見えてたんだよ!!」

 

「なんですって!?」

 

「お決まり通りのセリフをありがとうよ!!」

 

 躊躇なく引き金を引きながら、兵夜はワイヤーを取り出して古城に投げつける。

 

「撤収するぞ、暁!」

 

「お、おう! やってくれ!!」

 

 頬を引きつらせながらも古城は頷き、それを見た浅葱は怪訝な表情を浮かべる。

 

「古城? いったいどうするつもり―」

 

「こうする」

 

 と、兵夜が言葉を遮りながら窓ガラスを突き破った。

 

 もちろん、ワイヤーを持っている古城と彼に抱きしめられている浅葱も一緒に外に飛び出る。

 

「・・・うぉおおおおおおおお!!」

 

「き、きゃああああああああ!?」

 

 二人の絶叫をBGMに兵夜は悪魔の翼を展開すると速度を殺す。

 

 と、そこに飛行魔法を展開したヴィヴィオとアインハルトが並んで降り立つ。

 

「作戦は成功ですね!」

 

「よくやったヴィヴィ! ハイディも助かったぜ!」

 

「それより、下の方は大丈夫でしょうか?」

 

 と、アインハルトは心配しながら下を見る。

 

 だが、どうやら心配は無用だったらしい。

 

「お待たせみんなっ! 準備OKだよっ!」

 

「藍羽先輩! 大丈夫でしたか!」

 

 ビルの下には残りのメンバーが集まっており、それぞれが急いで下にいる人を追い払っていた。

 

 そこに、兵夜たちは着地する。

 

「あなたが、あなたが浅葱ちゃんだね? とにかく走って!」

 

「え、ええ! っていうかどういうことよ古城!」

 

 須澄の言葉に従いながら、浅葱は古城を問い詰める。

 

「何この流れるような脱出劇!? いったい何があったのよ!?」

 

「いや、話せば長くなるんだが・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずいね。浅葱ちゃんの近くにいるの、よりによってエイエヌの側近だよ」

 

 須澄はそう言って髪をかき乱した。

 

 あまりの展開にどうしたものかと本気で悩み始める。トマリも困り果てて頭を抱え始めた。

 

「うっわぁ・・・。よりにもよってアップちゃんだよ。エイエヌも本気だよっ」

 

「そのアップさんというのは?」

 

 とりあえず敵だということはわかるが、しかしそこから先がわからない。

 

 そのため、雪菜の質問は実にわかりやすいだろう。

 

「アップ、アップ・ジムニー。僕らの同郷で、今はエイエヌの配下だよ」

 

 須澄は、眼を閉じながらそう言い放つ。

 

「悪性の刺激をエイエヌがしたのは言ったよねっ? 中には、その悪性を受け入れてエイエヌに従う人もいたんだよっ」

 

「そいつが浅葱のそばにいるってのか・・・っ」

 

 トマリの話を聞いて、古城は近くにあった壁に拳を打ち付けた。

 

 浅葱が危険な状態なのは想定済みだったが、これはどう考えても敵の罠である。

 

 主催者であるエイエヌが比較的積極的に排除の方向に動いていることはわかっていたが、こうも早く動き出すとは思っていなかった。

 

「まあ、その浅葱ちゃんは人質に?」

 

 そして、脅されてこちらをおびき寄せる。

 

 よくある話をシルシは言外に匂わせるが、古城は速攻で首を振った。

 

「いや、たぶん気づいてないだろ。あいつは人質にされて素直に俺たちをおびき寄せる奴じゃない」

 

「ホントに肝が太いというか豪胆というか。それはともかく」

 

 と、感心しながら兵夜はすぐに考える。

 

「まあ、さすがにシルシの千里眼については把握されてないだろう。冥界政府でも知名度が低いし、魔術師は秘匿が原則だから情報漏洩には本能的に気を遣う」

 

 つまり、アップとかいう女はまだ自分がいることに気づかれていないと思っている。

 

 ならば、先手は打てる。

 

「よし、俺と暁で囮になって気を引くから、誰かその間に下から床崩してくれ。その隙に藍羽を救出する」

 

 作戦としてはシンプルだが、普通に床を壊すという豪快な手段でもある。

 

「えっと、それ、下の部屋の人困りません?」

 

「大丈夫、大丈夫だよ。どうせ悪人だし」

 

「補修費用はどさくさに紛れておいておく。・・・三千万円ぐらい用意すれば大丈夫か」

 

 下の住人のことを割と無視する作戦に、ヴィヴィオが少し引くがそれは仕方がない。

 

 人命がかかっているし相手は高確率で悪人なので我慢してもらうことにする。修繕費は出すので事後承認してもらおう。

 

 だが、それ以外にも問題がいくつもある。

 

「ですが、屋内での戦闘では被害が大きくなりすぎます。昨夜の規模の戦闘を街中で行うわけにも・・・」

 

「その通りです。特に先輩の場合、下手に負傷すると眷獣が暴走して、大きな被害が発生しかねません。」

 

 アインハルトと雪菜がそれらの問題点を指摘する。

 

 だが、その辺についてはもちろん考えられていた。

 

「それに関しては廃墟区画に逃げ込めばある程度は抑制できる。それと、室内からの脱出だが・・・」

 

 そこまで行ってから、兵夜は周りを見渡した。

 

「この中で飛べる奴、手を上げろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦はこういうことだ。

 

 場慣れしている兵夜と一番親しい古城が直接の救出班として室内に突入。同時に下の階が幸いにも空き部屋だったので飛べるヴィヴィオとアインハルトで破壊班を担当する。

 

 そして下に落ちた後窓ガラスを破壊して脱出。そのままけがを負わないギリギリの速度で兵夜が古城と浅葱を抱え、ヴィヴィオとアインハルトがそれのフォロー。

 

 他のメンバーはありとあらゆる手段を使用して、窓ガラスの破片で怪我人が出ないよう人払いを行う。

 

 そして、その作戦は何とか成功した。

 

「なんつぅ強引な真似を。っていうか死ぬかと思ったわよ!」

 

「しょうがないだろ! 俺たちが暴れるとビルごと倒壊しかねない奴が多過ぎたんだ!」

 

 走りながら言い合いをしている姿は流石は年季があるとは思うが、しかしそんなことをしてる場合でもない。

 

「とりあえず、とりあえず走って! 忘れてたけどアップも飛べるから我に返ったらすぐ追いかけてくるよ!」

 

「ちょっと待って須澄君!? 私それ知らないんだけどっ?」

 

「またうっかりなの? 兵夜さんみたいなうっかり癖だけど親戚か何か?」

 

 須澄のうっかり発言に、トマリとシルシからの指摘が飛ぶ。

 

 兵夜も怒鳴りつけたいが、仕方がない事情もあるのでそれは呑み込む。そもそも人のことを言える血縁ではない。

 

 魂レベルだから仕方がない。仕方がないが・・・。

 

「それじゃ作戦が台無しだろうが・・・」

 

 ツッコミが飛ぶのも仕方がない。

 

 なにせ、この作戦は廃墟区画に入るまでの間にアップが追い付いてこないこと。あわよくばそのまま逃げ切ることが前提の作戦なのだ。

 

 ショートカットができるのなら、まったく意味がない。

 

「まずいです先輩! もう発見されました!」

 

 雪菜が叫び、そして後ろを振り返った兵夜たちは、急降下してくるアップの姿を確認する。

 

「逃ーがーさーなーいーわーよー!」

 

「・・・ええい! 作戦変更! メンバーを分けて足止め班と離脱班に分ける!」

 

 兵夜は即座に判断を仕切りなおすと、即座にガトリングガンであるイーヴィルバレトを展開して迎撃する。

 

 いきなりの弾幕にアップの動きが一瞬止まる中、すぐにメンバーが動き出す。

 

「道案内は、道案内は任せて! トマリ、後で念話よこして!」

 

「え、須澄くんっ!?」

 

 いうが早いか浅葱の手を引いて、須澄が走る。

 

「古城さんと雪菜さんも走ってください! お友達を守って!」

 

「私たちは飛べますので、後ですぐ追いつきます。急いでください」

 

 飛行可能なヴィヴィオとアインハルトも、追いつくのが楽なので足止めに自発的に残る。

 

「待ってください、足止めなら私がやります!」

 

「そりゃ、子供巻き込むわけには―」

 

 雪菜と古城は残ろうとしたが、兵夜は空いている片手で二人を押し出す。

 

「いいから行け! あとシルシ、目で俺たちを確認し続けとけ、合流が楽になる!」

 

 これは単純な戦力分割ではなく、合流の可能性を高めることもちゃんと考えている判断だ。

 

 飛行能力を持っているメンバーを中心に足止めすれば、障害物を無視してショートカットできる。

 

 周囲の破壊をある程度考慮しなくて済む廃墟区画なら、躊躇なく大暴れできる分勝算も大きい。

 

 あくまでこれはそのための足止め、ここで倒す必要はなかったのだ。

 

 ゆえに、合流を早くするための判断だって忘れてないのが兵夜である。

 

「わかってるわ。あなたのことならいつだって見ていたいもの」

 

「そりゃありがとうよ! あとでじっくりポーズ取ってやる!」

 

 すぐにそう判断し、チームが分割される。

 

 比較的破壊力の少ないチームと、破壊力が大きいチームに分かれ・・・。

 

「アレ? 私より須澄くんの方が破壊力小さいよね」

 

「・・・俺もあの子もまたやったぁああああああ!!!」

 

 思わず兵夜は崩れ落ちた。

 

「し、しっかりしてください! 大丈夫です、私もアインハルトさんも格闘家だから被害は少ないです!」

 

 ヴィヴィオに慰められるが、外見年齢はともかく実年齢では明らかに兵夜が年上である。しかも圧倒的に。

 

 別の意味で泣きたくなった。

 


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