ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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はい、急転直下というかインパクトの強い回です。











いつから、神滅具が一つしか登場しないと錯覚していた?


赤龍帝と魔王剣

 兵夜は、それを聞いて鼻で笑った。

 

「お前、それは悪手だぞ?」

 

 心から鼻で笑う兵夜に、ディオドラは逆に鼻で笑い返す。

 

「何を言ってるんだい? 幾度となくグレモリー眷属を苦戦させたあのセイバーを憑依させたんだよ、僕は?」

 

 ディオドラが憑依させたのは、かつて禍の団が召喚したセイバーだった。

 

 剣士という概念の結晶。剣士そのものである剣士の英霊。

 

 その英霊は、レンジ内の剣をコピーし、その性能を引き出す宝具を保有していた。

 

 その戦闘能力は、グレモリー眷属の精鋭である木場祐斗とゼノヴィア・クァルタはもちろん、ヴァーリチームのアーサー・ペンドラゴンですら一対一ではコピーにすら後れを取るほどだ。

 

 だが、その脅威は兵夜たちの前では脅威となりえない。

 

「ディオドラ? そのセイバーは、レンジ内に強力な剣がなければその真価を発揮できない。そして俺たちをよく見ろ」

 

 兵夜はそういって、周りを見渡す。

 

 暁古城、例えていうなら召喚術師。

 

 トマリ・カプチーノ、同上

 

 近平須澄、槍使い。

 

 姫柊雪菜、同上

 

 高町ヴィヴィオ、格闘家

 

 ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルド、同上。

 

 そして兵夜は現在運転中で、武器を持っていない。

 

 唯一の例外はシルシだが―

 

「―一応言っておくけど、コレ、量産品よ?」

 

「そういうわけだ。この状況下でセイバーは全く役に立たない」

 

 あのセイバーがあそこまで脅威だったのは、ひとえにD×Dに伝説級の剣があつまっていたからである。

 

 その条件に合致しない今の状況では、剣士の英霊は大幅に弱体化しているに等しい。

 

 あの非常に特殊な条件下であったからこそ大暴れできた英霊を、状況も把握せずにうかつに運用するなど愚行に等しい。

 

 ましてや普通の聖杯戦争なら剣の英霊は一騎しか出てこないのにセイバーを彼にするのはばかげている。

 

 一言でいえば、きわめてピーキーな条件下でしか真価を発揮できないのが、剣士のセイバーという特殊なサーヴァントであった。

 

「だからお前は小物なんだ。外道め」

 

「ぐ・・・ぐぐぐ・・・」

 

 額に青筋を浮かべるが、しかし状況は変わらない。

 

 圧倒的不利だったのは、ディオドラの方だった。

 

 数ならともかく、質なら十分こちらも戦える。ましてやサーヴァント戦ならこっちが上だった。

 

 それでもディオドラが攻撃を続けようとしたその時―

 

「うっとおしい人形遊びだな、しつこいんだよお前ら」

 

 突如真横から放たれた砲撃が、ディオドラ達に襲い掛かった。

 

「な、なんだ、うぁああああああああああ!?」

 

 圧倒的な砲撃が、ディオドラ達を跡形もなく消し飛ばす。

 

 そして、そのまま森まで届くと、そのまま広大な森をこちらも跡形もなく消し飛ばした。

 

「・・・真祖の眷獣クラス!?」

 

 その破壊力に、雪菜が絶句する。

 

 都市一つ消し飛ばす真祖が呼び出す眷獣。それと同等以上の出力など、一つの世界の極点クラス以外にあり得ない。

 

 それだけの出力を放った存在を確認しようと、全員が視線を向け―

 

「・・・なっ!?」

 

 真っ先に、兵夜が驚愕した。

 

 それは、赤く染まった鎧。

 

 それは、龍を模した鎧。

 

 それは、龍を封じた鎧。

 

 それは、十三種類存在する、それぞれが唯一無二の神すら殺す人類の力。

 

 その名を、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

 

「なんで、兵藤一誠がこんなところに・・・?」

 

 シルシは心から首をかしげるが、しかし同時に喜んでもいた。

 

 赤龍帝、兵藤一誠は最高の赤龍帝とすら言われる男。禍の団最初期代表ともいえるシャルバ・ベルゼブブを討った冥界の英雄でもある。

 

「あ、あの人、お知合いですか?」

 

 目の前で人が消し飛ばされる姿を見たせいか、ヴィヴィオが顔を青くしながらもシルシに尋ねる。

 

 だが、実戦である以上それは仕方がないことだ。ゆえにシルシは安心させるように微笑んだ。

 

「安心して。彼は冥界の英雄、間違いなく味方―」

 

「違う!」

 

 それを遮り、兵夜が大声を上げる。

 

「呼吸によって生じる肩の動きのリズム。魔力の波長、手を動かす時の指の動く順番、それがすべて微妙に違う! あいつ、兵藤一誠じゃない!」

 

「気持ち悪いわ!」

 

 あまりにあれな判断基準に、古城が即座にツッコミを入れた。

 

「ってちょっと待て。じゃああれ偽物ってことか?」

 

「それこそあり得ないわ。神滅具の偽物なんて、粗悪なデッドコピーでしか不可能。あの波長は間違いなく本物のはず・・・」

 

 我に返った古城の質問に、シルシは即座に否定を入れ、しかし思いなおす。

 

 そもそも、今自分たちの味方にオンリーワンのはずの神滅具を持っている男がいたではないか。

 

「え、えっと、僕?」

 

 須澄は自分に指をさしながら戸惑うが、しかしそれは兵夜がフォローを入れた。

 

「それについてだが、冷静に考えると思い当たるところがある。・・・とにかく逃げるぞ! 殺気を向けてる!!」

 

 そういうなり、兵夜はハンドルを切って距離をとる。

 

 だが、赤龍帝も狙いをすでにつけていた。

 

「・・・悪趣味な人形遊びに付き合ってられるか。さっさと終わらせるさ」

 

 頭部、そして両腕に莫大な魔力があつまっていく。

 

 それは、ディオドラを消し飛ばしたときと同等以上。間違いなく殺すつもりの一撃だった。

 

「ヤバイ・・・撃ち落とせ、獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

 

 とっさに古城は眷獣を迎撃に差し向ける。

 

 それと同時に、砲撃が三方向に放たれた。

 

 一発は、獅子の黄金が受け止め相殺するが、しかし残り二つは曲がりながら車両を狙う。

 

「雪菜ちゃん! 迎撃を!」

 

「駄目です、雪霞狼では片方しか―」

 

 雪霞狼は確かに強大な魔力無効化能力を持つが、しかし左右同時には迎撃しきれない。

 

 このままでは間に合わない。全員が寒気を覚え―。

 

「・・・右を迎撃しろ。左はこちらで何とかする」

 

 その声に従い、雪菜はとっさに右側の魔力を迎撃する。

 

 そして、同時に、舞い降りた影が赤い槍を振り下ろした。

 

「かき消せ、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)

 

 真紅に染まる槍が、もう片方の魔力を消し飛ばした。

 

 そこにいるのは、女性の悪魔。

 

 英霊を憑依させたと思しき悪魔が、赤い槍を手にもって魔力を相殺していた。

 

「彼女は、どこかで見たような・・・?」

 

 記憶を掘り起こそうとするシルシを手助けするかのように、さらに上から声が響く。

 

「久しぶりだな、シルシ・ポイニクス。そして直接顔を合わせるのは初めてだな、宮白兵夜」

 

 そこにいたのは、高貴という言葉を具現化したかのような男。

 

 年のころは二十歳だろうか、一振りの魔剣を手に持った男が、赤龍帝をにらみつけながら兵夜たちをかばうかのように空を飛んでいた。

 

「・・・あんたは!?」

 

 その姿を見て、兵夜は驚愕する。

 

 バラム家の者がいた時点で想定してしかるべきだったが、彼もまた政権側の悪魔だった。

 

 その名前は―

 

「アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラシャラボラス家は、不幸にまみれた悪魔の家系である。

 

 四大魔王の1人、ファルビウム・アスモデウスを輩出した家系でありながら、跡継ぎ問題に悩まされていた。

 

 もともとちゃんとした跡取りはいるにはいた。だが、禍の団の策略で事故に見せかけて殺されることとなる。

 

 その後、ゼファードル・グラシャラボラスという跡取りを迎えた。が、この男、実力に反して凶児と呼ばれるほどの問題児である。しかも、バアル家次期当主サイラオーグ・バアルにレーティングゲームで完膚なきまでに敗北した結果、心をへし折られて再起不能になってしまう。

 

 そんな苦難続きのグラシャラボラス家に、起死回生の一手として選ばれたのが、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラスである。

 

 彼自身は分家の中でも末席に属する立ち位置だ。そのため自身が最初のころは固辞していた。

 

 が、この連続でのグラシャラボラス家の不遇に、次期当主となるべく周囲に押し出されてその座に就く。

 

 その後は次期領主としてメキメキと頭角を発揮。不正は正し、善政をしき、自ら様々な反乱や不穏分子の取り締まりに精力的に動いた。それに伴い民衆からの支持は素晴らしく、そして貴族の地位を守るかのごとく貴族の中から優秀な人物を率先して選ぶあり方に、旧家からの覚えもいいという逸材である。

 

 こと、彼は将来の魔王候補とすら呼ばれている。

 

 その理由は、彼を担い手として選んだ魔剣にある。

 

 魔剣ルレアベ。

 

 禍の団が旧四大魔王の遺骸をベースとして開発した最新の魔剣。その性能は最大出力ならばデュランダルにも匹敵し、さらに四つの機能を持つ。間違いなく最高峰の逸品である。

 

 何より、先代四大魔王の遺骸でできて所有者を選ぶという特性から、それはすなわち四大魔王にその資質を認められたと考えるものが数多い。

 

 そのルレアベの新たな担い手として選ばれた男。冥界にとって、何より貴族にとって重要な人物であった。

 

 その彼だが、基本的に実力主義だが、方針としては大王側に属する。

 

 現政権の転生悪魔優遇政策においては、いささかやりすぎだという意見を堂々と表明する、保守派よりの人物として認識されていた。

 

 だがしかし、それでも彼が冥界の期待人物であることに間違いはないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事なようだな、それは何よりだ」

 

 ルレアベを構えながら、アルサムは静かに告げている。

 

「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました!」

 

「ふむ、どういたしまして・・・といっておこうか。シェン、お前も返事をしておけ」

 

 アルサムにそう促され、英霊を憑依させた女が静かに頭を下げる。

 

「アルサム様の命に従ったまでです。お構いなく」

 

 そう静かに返すと、シェンと呼ばれた女性は槍の切っ先を赤龍帝に向ける。

 

 それを向けられた赤龍帝は、静かに構えをとりながら警戒したのか接近してこない。

 

 思わぬ増援の登場に、兵夜たちは少し戸惑っていた。

 

 だが、須澄とトマリが慌てて声を上げる。

 

「・・・待って、ちょっと待って」

 

「あ、その人聖杯戦争の参加者だよ?」

 

「はあ!? なんでまたあなたほどの人物が!?」

 

 貴族主義が苦労していることは事実だが、そう何人もこんなことをするのはリスクが高すぎるだろうに。

 

 兵夜は心底驚いたが、しかしアルサムは静かに首を振る。

 

「冥界の未来のために必要なことだ。しょせん末席にすぎん私が処罰されたところで、大したことにはならないだろう」

 

「あの、末席でありながら次期当主に選ばれたあなたが処罰されたらグラシャラボラス家は大変なことになるんじゃないかしら?」

 

 シルシが疑念の声を上げるが、しかしそれももう遅いだろう。

 

 すでに参戦してしまった以上、今更なかったことにはできないはずだ。

 

 ならば、もはや勝つしかない。

 

 だが、其れにしてもおかしい。

 

「聖杯戦争の参加者なら、須澄さんの敵では? なぜ、協力している私達を助けるのですか?」

 

 アインハルトの疑問が、そのすべての答えといっていいだろう。

 

 聖杯戦争はバトルロイヤル。ましてや、現政権の意向を無視しているといっていいアルサムは、兵夜にその存在を知られて何もしないわけにはいかないはずだ。

 

 だが、アルサムは静かに告げる。

 

「そうもいかん。・・・まだ君たちは状況を正しく呑み込めていないのだろう?」

 

 と、その視線を四人へとむける。

 

「それがいきなり覚悟も決めれず殺し合いに巻き込まれていいはずがない。少なくとも、考える時間は必要なはずだ」

 

 そういうと、彼はルレアベを赤龍帝へとむける。

 

 気づけば、十人以上の悪魔が並び立ち、赤龍帝を包囲していた。

 

「・・・行け、ここは我々が引き受ける」

 

「・・・礼は言わない。あんたらが政府の意向を無視していることは変わらないからな」

 

 兵夜はそう告げるが、しかしアルサムは意にも介さない。

 

「当然。政府に不満があるのに変わりはしない。だが、このようなやり方をとった時点で我々は処罰を受けてもおかしくないのだから」

 

 その言葉を最後に、兵夜はアクセルを踏み込んだ。

 

 瞬く間に小さくなるアルサム達。それはすなわち、危機から遠ざかっていくことの証明だった。

 

「えっと、援護しなくてもよろしいのでしょうか?」

 

「かまわないさ。聖杯戦争に参加してるなんて一言も聞いてなかった以上、味方とは言えないしな。・・・それにルレアベの担い手なら神滅具が相手でもいったん仕切り直しにぐらいはできるだろう」

 

 戸惑うアインハルトにそう告げながら、兵夜は気づかわしげな表情を彼女らに向ける。

 

「それより君たちの方が心配だよ、ハイディ。人死にを見るのは初めてだろう?」

 

 そう。そちらの方が兵夜にとっては心配事だ。

 

 経験があるからこそよくわかる。戦闘での人死には、たいていの人間にとって精神的に来るものだ。

 

 そういう仕事をする訓練を受けた者であったとしても、精神的に大きな負担となって心を病むことが多いのだ。

 

 競技選手だったヴィヴィオやアインハルト、ましてや普通の高校生だった古城は相当キているだろう。

 

「いえ、覇王(わたし)は大丈夫です。大丈夫でなければ―」

 

「そんな顔して大丈夫もへったくれもないだろう。とにかくいったん距離をとるぞ」

 

 そうきつめに言っておくと、兵夜はとにかくアクセルを踏んで距離をとる。

 

 赤龍帝の戦闘能力なら、数十キロ以上離れていても安全圏とはいいがたい。早く相当に距離をとる必要があった。

 

「・・・いきなり気を使わせてすいません。私の実戦はつい最近でして」

 

「かまわないさ。むしろそれぐらいの方が安心できる」

 

 謝る雪菜にそう告げながら、兵夜はバックミラーで後ろを見る。

 

 いくつもの魔力の放出が視認できる中、兵夜は心底心からため息をついた。

 

「生存していたのなら、後で絶対に話を聞かないとな」

 

 彼は保守派側とはいえ、常識的な側面を持った人物のはずだ。少なくと、先ほど戦ったバラムよりは中庸に近いだろう。

 

 にもかかわらず、彼は聖杯戦争に参加している。

 

 それがとても気になった。

 

 今の冥界に内乱をしている余裕がないことはすぐにわかるのに、なぜこのタイミングでここまでのことをしているのか。

 

 この先のことを考えると、とても不安になってしまう兵夜だった。




アルサム・カークリノラースは一種のアンチテーゼを提示するオリキャラです。冥界に一人欲しかった人物を描いてみました。


そして謎の赤龍帝登場。彼の正体は本編の兵藤一誠出ないことだけは伝えておきます。




あとディオドラはあっさり退場。しょせん奴はカマセ犬だったか。というより話を盛り上げられなかった・・・。

ぶっちゃけ、あの剣士の英霊は状況がかみ合わなければ非常に弱体化するサーヴァントです。本編であれだけ猛威をふるえたのは高性能の剣がすぐ近くにありまくったから。サーヴァントとしての性能だけでいうなら三流レベルです。

ディオドラ・・・。苦戦させた理由まで考えろよ。

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