ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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超獣粉砕は大いなる力とともに

 桜花久遠は全力で攻撃を迎撃し続けていたが、このままではもたないことも分かっていた。

 

 隊長の戦闘能力は桁違いだ。本来自分では対応できるものではない。

 

 ましてやどこまでもなまってしまった自分の技量では限界がある。こうして、足止めができるということに驚いている。

 

 そしてサイラオーグ・バアルでも一人では勝ち目がない。

 

 そう、一人では―

 

「待たせたな、桜花!!」

 

 そこに、龍王匙元士郎が割って入る。

 

 黒龍の鎧を身にまとった匙元士郎は、触手を一瞬でふんどしに巻き付けた。

 

「ぬぅん! これがワンオフUMAのヴリトラか! なめておこう」

 

『我が分身よ! 今、ドライグとアルビオンの苦しみが痛いほどわかってしまうのだが!?』

 

「ごめん耐えろぉおおおお!!」

 

 相棒に心から詫びながら、匙はそれでも話さない。

 

 いま、匙は神器のオーラを全力で吸い取っている。

 

 ゆえに、ふんどしは回復を行う余裕がない。

 

 そう、これこそが逆転のための最後の布石。正真正銘最後のチャンス。

 

 そして、それを見逃す二人ではなかった。

 

「桜花久遠! 覇獣を発動させる、なんとしてもしのげ!!」

 

「了解しましたー!!」

 

 久遠はその最後のチャンスにかけ、自分もまた掛ける。

 

 羽衣を脱ぎ捨て、その状態で感佳法を発動させる。

 

 長い間アーティファクトを経験したことで、だいぶコツをつかめた。

 

 そして、羽衣はいわば補助輪のようなものだ。

 

 自転車で想像してみるといい。補助輪を使ってこぐより、補助輪抜きでこいだ方が速く走れるものだ。

 

 むろん、超高難易度技法を行う以上相応のデメリットは発動する。

 

 久遠の体は反発で傷つき、体中が悲鳴を上げる。

 

 だが、其れがどうした。

 

 前世の技量を完全に再現し、さらにその上へと至ろうとしているかつての頂点。

 

 この猛者を相手にするというのに、そんなことを気にしている場合ではない!!

 

「腕を上げた、いや・・・いい覚悟だ!!」

 

「どう・・・いたしましてー!!!」

 

 骨が反動で砕けそうになりながら、久遠は全力で時間を稼ぐ。

 

 そして、その時間は思った以上に早くやってきた。

 

「待たせたな」

 

 そこにいるのは、より強大になった獅子の鎧。

 

獅子王の(レグルス・レイ・レザー・レックス)紫金剛皮(インペリアル・パーピュア)・覇獣式」

 

 その獅子の鎧の名を告げ、サイラオーグは戦意を燃やす。

 

「この力をもって、俺()()がお前を倒そう」

 

「面白い!」

 

 そして、熾烈な殴り合いが発生した。

 

 ただの殴り合いなどというレベルを凌駕する。

 

 衝撃波の余波が何十メートルも離れた敵の兵器を粉砕し、戦闘を行う悪魔たちが薙ぎ払われる。

 

 それだけの圧倒的な力による殴り合い。本来なら覇の領域に至ったサイラオーグの方に分があるはずで―

 

「あまい、甘いぞ!!」

 

 血まみれになりながらも、追い込んでいるのはふんどしだった。

 

「付け焼刃で何度も倒せるほど、わがUMA愛は甘くないのだ!!」

 

 爆発音としか思えないほどの音を出すボディブローが紫金の鎧を粉砕する。

 

 覇の領域する越えるその一撃を喰らったサイラオーグは血反吐を吐き―

 

「―言っただろう、()()()がお前を倒そう、と」

 

 その瞬間、後方から莫大な魔力の奔流が放たれる。

 

 戦闘中にソーナの指揮の元陣形を立て直した悪魔たちが、持てる最大出力の魔力を放っていた。

 

 だが、ふんどしは冷静にサイラオーグを盾にし、同時に聖母の微笑を発動する。

 

 回復しながら強敵にダメージを与える有効な戦術で―

 

「―逆転(リバース)!」

 

 次の瞬間、回復のオーラは致命のオーラへと早変わりした。

 

「ぐぅううううっ!?」

 

 とっさに即座に神器を終了するが、これはかなり効いた。

 

「・・・どうだよ、シトリー眷属がグレモリーを倒すために使った方法は」

 

 あの衝撃波の中、久遠をかばいながらも近くにいた匙が、にやりと笑う。

 

「さあ、やっちまえ、スパロぉおおおおお!!!」

 

 その言葉に、ふんどしの顔に戦慄の二文字が初めて刻まれる。

 

 それだけの力の存在を、すっかり忘れていた。

 

「ばばば禁手化《バランス・ブレイク》!」

 

 そこにあるのは、紫のエッセンスが混ざり合った極大の戦斧。

 

 あらゆる遠距離攻撃を吸収し、覇に届く一撃を放つスパロ・ヴァプアルの持つ禁じ手!

 

獅子の大王(レグルス・ネメア)が放つ覇の一閃(ブレイクダウン・デットエンド)!!」

 

 まずいと、直感で判断できた。

 

 あれを喰らえば耐えられない。間違いなく自分はここで終わる。

 

 そしたらUMAがぺろぺろできない!?

 

 その本能が無理やり体を動かし、邪龍の触手を振り払って後退を成功させ―

 

「させませんよー」

 

 後ろから接近する、桜花の特攻を回避する隙を作ることができなかった。

 

「UMA探しは来世でやってくださいねーっと!」

 

 そして久遠はそのままスパロに向けて投げ飛ばす。

 

 野球のボールのように飛んでいくふんどしを、スパロは決して逃がさなかった。

 

「えええええええ、えい」

 

 かわいらしい声で、地獄が具現化したような一撃がふんどしの精神を粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「封印だ! 急いで封印しろ!!」

 

「マジで急げ! こいつほっといたら何しでかすわからねえ!」

 

「待て、いっそ殺した方が・・・」

 

「剣が刺さんないんだよ! 信じられないけど刺さんないんだよ!!」

 

 大慌てで封印が行われる中、久遠は激痛に耐えかねてへたり込んだ。

 

 だがそんなことをしている場合ではない。

 

 ここまで事態が悪化した原因は自分にある。

 

 この事態を引き起こしたのはフィフスであり、サマエルの毒が兵夜に効かなければフィフスは殺せており、そして兵夜にサマエルの毒が効いたのは、元を正せば自分のせいだ。

 

 なんとしても立ち上がって、この事態を招いた責任を取らないと―

 

「コラ。もうちょっと休んでろ」

 

 と、匙から触手を出されてスッ転んでしまった。

 

「いやー! 何するのー! 触手プレイは会長としててよー! ・・・あ、その時は見ていいー?」

 

「駄目に決まってんだろ! っていうか誰がするか・・・やべぇ、会長相手だと興奮する!?」

 

『二人とも落ち着いたらどうだ?』

 

 と、天然で一通りボケるが、すぐに我に返った。

 

「ちょ、放して元ちゃんー! 大丈夫、傭兵だからバッドコンディションでも戦闘できるし―」

 

「イイから少し落ち着けよ。・・・おまえ、しょい込みすぎだぞ」

 

 図星を突かれて、久遠は顔をそむけた。

 

 とはいえ実際これだけ酷くなったのは自分の責任が相応にあって―

 

「どうせフィフス倒してたって、ほかの連中が計画そのものは始めてただろ? そっちは気にしなくてイイって会長も言ってたぞ?」

 

「それは・・・そうだけどー」

 

 確かに、もうあの時点で計画は動き出していたのだ。

 

 フィフスを倒せていたとしても、ほかのメンバーが計画を強行することは容易だった。むしろ、抑えがなくなったことでより過激な方向にシフトする可能性すらある。

 

 どうせあの時点でトリプルシックス撃破は全員があきらめていたのだ。クロウ・クルワッハですらいったん撤退を決定していたほど。自分たちだけでどうにかできるわけがないと、全員がわかっていた。

 

 だけど、それでも―

 

「そのせいで、アーチャーさんが・・・」

 

「・・・それは違うぞ、桜花久遠」

 

 かろうじて立ち上がりながら治療を受けていたサイラオーグ・バアルが声をかける。

 

「あの戦いでは、全員が全員にできることをした。お前たちがそういう戦いをすることは見ていない俺でもわかりきっている。・・・実際にある責任を背負うのはいい。だが、背負いこみすぎて託された想いが見えなくなっているなら、それこそ先に逝った仲間達に対する冒涜だ」

 

「・・・まだまだルーキーのくせにー」

 

 確かに正論だが、仮にもベテランである自分に対して言う言葉ではない。

 

 ないのだが―

 

「これ、無理していったら余計に悪化しそうな展開だよねー」

 

 止めるためにもめて仲間割れしてその隙を敵が付く。

 

 そんな流れが容易に想像できてしまう。とても簡単にできてしまうぐらいには、久遠は皆のことがよくわかっていた。

 

 だから。

 

「はいはいわかりましたー。ちゃんと休憩して体力回復してから戦闘しますー」

 

 仕方がないから休むとしよう。

 

 ・・・真剣に自分を心配してくれるということに、改めて感謝して涙が出そうになったのは内緒の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼前に迫る驚異が、まとめて勢いよくふっとばされたのを見て、ナツミは目が点になった。

 

「はえ?」

 

「・・・ついでだが、大丈夫なようだな」

 

 そこにいたのは一体の巨大なドラゴンだった。

 

 まったく見覚えがないので誰か全くわからなかったが、ナツミはやがて声で誰かに気づいた。

 

「あ、クロウ・クルワッハだ!」

 

 そういえば人型の姿はあくまで擬態だった。人の姿しか見たことがないのでまったくわからなかった。

 

「・・・あらあら、本気で邪魔してくれるのねん」

 

「ちょ、なんであんた邪魔するのよ!? フィフスにボコられたんだからフィフスに報復しろって感じ!!」

 

 ヴァルプルガとバートリは顔をしかめるが、しかしそれはクロウ・クルワッハも同様だった。

 

「別に誰でもいい。ドラゴンを舐めてかかるものは全員まとめて屠るのみだ」

 

 そう言い放ち、そしてその視線はヴァルプルガに突き刺さる。

 

「・・・え゛」

 

「お前は特になめてかかっていたからな。ここで叩き潰しておくとしよう」

 

 そして、驚異の戦いが放たれた。

 

 紫炎でできた八岐大蛇が炎を吐き、それを黒い龍が蹂躙する。

 

 怪獣映画で出てきそうな激戦が繰り広げられる。

 

 これがどういうことかはよくわからないが、しかしこのチャンスを逃すべくもない。

 

 ナツミはバートリに狙いを定める。

 

「行くぜこらぁ!!」

 

「なめるなって感じ! 第一、魔力は使えないでしょうが!!」

 

 そう、持っている魔力を強制的に焔に変換し、さらに単一属性の魔力を強制的にかき消す波動の使い手なのがリット・バートリ。

 

 彼女のは持っている能力と神器の組み合わせが転生者の中でも完璧に近い。

 

 それゆえに、彼女の戦闘能力は桁違いに上昇している。今の彼女なら最上級悪魔すら屠れるだろう。

 

 だが、其れで終わる道理もない。

 

 そう、単純な発想の転換だった。

 

 魔力を高めて勝てないなら、魔力を低くすればいい。

 

接収魔法(テイクオーバー)、アニマルソウル!」

 

 発動する能力をあえて低く動物由来に変更。これにより、今までとは違って魔力は増大しないため悪影響は大きく減るだろう。

 

 ああ、そうだ。なんて単純なことを忘れていた。

 

「なめるなって感じ!!」

 

 バートリが波動を放つが、もともと猫系の妖怪であるナツミの体に、猫の特性付加は驚異的な反射速度を発揮する。

 

 すべて避けると懐にもぐりこみ、今度は熊に変化。

 

「なめんにゃコラぁあああ!!」

 

 ・・・この女は、転生者の中でもスペックの高さでは大したことがない。

 

 自分なら、単純なスペック勝負に持ちこめば苦労することはかけらもないのだと。

 

「グべ!?」

 

 変な悲鳴と痙攣を最後に、バートリは動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で続いている戦闘も終了した。

 

 ヴァルプルガは痙攣しながら失神し、紫炎もすでに消え去った。

 

 龍王クラスの邪龍を込めた神滅具を、しかし天龍クラスの邪龍は葬り去ったのだ。

 

「すっごいねぇ。あんなにやばそうだったのに結構楽に倒しちゃったよ」

 

「そうでもない。これでも負傷は大きい」

 

 そう告げるクロウ・クルワッハだが、しかしなんともないようにしか思えない。

 

「それ、苦戦した人の前で言う?」

 

「相性が悪かっただけだろう。一対一に持ち込めれば、お前なら十分に勝てるはずだ」

 

 文句を言ったら意外と高評価をもらってしまった。

 

 ふむ、邪龍といわれているが、実はいい人なのだろうか?

 

「ふんふん。で、次はどうするの?」

 

「フィフス・エリクシルに借りを返す・・・といいたいが、辞めた方がいいだろう」

 

「え? 結構プライド傷ついたんじゃないの? 反撃しないの?」

 

 意外に思ったのでナツミは尋ねるが、クロウ・クルワッハはトリプルシックスのある方向をみてつぶやいた。

 

「・・・もっと返したいやつがいるだろう。治療を手伝ってもらったからな、返すのはそちらの借りにする」

 

 その言葉に、ナツミは少し考え込んだ。

 

 確かにイッセーは両親を誘拐された挙句あらゆる意味でボコボコにされた。ヴァーリも殺したくてたまらなかったリゼヴィムを目の前で殺された。単純にボコボコにされたクロウ・クルワッハより恨みつらみは大きいだろう。

 

 だが、あの二人は治療なんてまねはできないだろう。

 

 と、いうことは・・・。

 

「え? 兵夜ってそんなことしてたの?」

 

「サマエルの毒を回収するため・・・といっていたがな」

 

 あのバカ、自分も危険なのをうっかり忘れてはいないだろうか?

 

 だがまあ、確かに兵夜も当然キレている。

 

 イッセーを徹底的にボコボコにされ、世界全土を巻き込んだテロを巻き起こされ、そして相棒であるアーチャーを失う羽目になった。

 

 これで落とし前をつけないようならば、それはもう兵夜ではないだろう。

 

「うん、確かに兵夜が一番怒ってるよね」

 

 だったら、使い魔らしくここは大いに反撃するべきだ。

 

「それで、どうするの?」

 

「ああ、とりあえずは有象無象をつぶしていくか。・・・英霊共はやりがいがありそうだが」

 

「OK! 手伝うよ」

 

 そういいながら、ナツミはサタンソウルを展開してクロウ・クルワッハに並び立つ。

 

 クロウ・クルワッハもそれを拒まない。彼はわかっているのだ。隣に立つ少女が、少なくても背中を預ける分には不足ないだけの実力を持っていることを。

 

「・・・追いつけないなら置いていく。ついてこい」

 

「誰にもの言ってんだ邪龍。このサミーマ様を舐めんなよ?」

 

 そして、戦場に悪魔と邪龍の蹂躙劇が巻き起こった。

 




ふんどし対策はシトリーが使ったリバース技術。これで回復力をダメージに変換してからホントの勝負でした。

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