ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
イッセー達が階段を下りるのを確認すると、俺は少し安心した。
正直、何人か締め上げたはぐれ悪魔祓いの吐いた内容はとんでもないことだった。
彼女を利用してのし上がるならともかく、まさか殺してまで神器を奪おうとするとは想定外だ。
魔術師も外道が多いが、奴らも相当外道だな。
こりゃイッセーが黙っていない。俺もさすがに見逃すのは寝覚めが悪い。
てっきりすぐイッセーが来るかと思って準備していたのだが、まさか素通りするとは思わなかった。
おいおいおいおい! 堕天使と一応勝負に持ち込んでいるんですけど!? しかも俺だって神器に目覚めているんですけど!?
あの馬鹿、全部終わったら投げ技の実験台にしてやる。
まあ、念のため暗示をしっかりかけたうえで悪魔祓いの記憶を消して解放して正解だった。
運よく敵に紛れ込んでいたので、説得力をつけるために気絶してもらうことにした。本当は隙を作るための仕込みにする予定だったのだが、こっちに来てしまったのなら仕方がない。
「ちょっとちょっとぉ? なに悪魔なんかの味方なんてしちゃってんですかぁ?」
白髪の男がブラブラと光でできた剣を振りながらこっちに文句をつけてきた。
明らかに危ない奴だ。これが元敬虔な信者だったとか信じられない。教会の連中は何を考えてこの男を悪魔祓いとして認定したのか文句を言ってやりたいぐらいだ。
それに、おそらくはこの男が。
俺は、器用に人差し指を突きつけた。
「オイ、そこのキチガイ白髪」
「あーいあい悪魔に魅入られちゃったくそ人間。俺様ちゃんに何か御用で?」
「イッセーに手ぇだしたゴミはお前か?」
あの日のはぐれ悪魔祓いか。
フリードとかいった奴は、嫌な思い出を思い出すかのように眉間にしわを寄せた。
「そうなんですよぉ。素敵な
「そうか」
それを聞いて安心したよ。
「・・・ありがとう。おかげで殺す気になれそうだ」
それだけが不安だった。
命がけの殺し合いに置いて、相手を殺す気があるかどうかは本気で生死を分ける。
殺せるというのと殺せないというのでは、間違いなくここぞという時に差が出るからだ。
生前、魔術師だった親もそこをちゃんと伝えていたから、俺はよくわかる。
あいてははぐれ悪魔祓い。悪魔ではなく人間だろうと、それが悪魔と契約しているのならば惨殺する外道だ。
それでも命を奪うことに抵抗はあった。
が、イッセーを殺しかけた相手と言うなら話は別だ。
人の親友殺そうとしやがって・・・っ!
「神のみもとで説教されな!!」
「俺っちの前でその名を出すんじゃねぇ!!」
俺がクロスボウを構えるのと、奴が拳銃を向けるのはほぼ同時。
引き金が、戦いのゴングとなる。
「速度強化!」
純粋な筋力ではなく、走力を強化して弾丸をかわす。
反動がないなら銃口に気をつければ行ける。
後ろのはぐれ悪魔祓いは無視だ。実力はフリードに大きく劣るし、何より当たらないのはわかりきっている。
「ほ~らほらぁ! もっと速く動かないと当たっちゃうよぉ」
フリードの糞野郎もあっさり矢をかわしてくれやがった。
俺はクロスボウを投げ捨てるとそのまま教会の外へ出る。
ポケットに手を入れると、一生懸命作った爆弾を取り出して投げつける。
「着火!」
もちろん、魔術で導火線に火をつけるのは忘れない。
「うっわ~花火大会! 面白いことになってござんすねぇ!」
フリードは逃げることなく走り出すと、爆弾が爆発するより早く、導火線を剣で切り裂く。
そのまま俺たちは森の中に入った。
襲いかかる光の弾丸を、森の木々を盾にしながら俺は急いでかわす。
何発かはかすめたりあたったりするが、こんなこともあろうかと制服は魔術で強化済みだ。
複数の強化を同時進行するのは意外と難しいが、あいにく俺はこの手の作業がとても得意なのさ。
二つか三つの同時強化なら対して苦労せずにできる。本気を出せば、5,6は行けるかもしれない。
「ほらほぉら! 逃げてばっかじゃつまんなぁいよぉッ!」
「じゃあ反撃行くぜ」
俺は腕を突きつけると魔術を発動。
すると、袖口からクロスボウの角矢がフリードに向かって放たれる。
「わぁお! お兄さん手品師かい! ハト出せハトをよぉ!」
「あいにく品切れでな、あの世で待ってろ堕落神父!」
ちなみに仕組みは簡単。
魔力に反応して伸縮する素材を組み込んだ筒を用意し、中にバネと角矢を用意しただけだ。
後は魔力で伸縮させれば引き金代わりになって簡単に飛び道具が完成する。かなりたくさん仕込んでいるから、これで当分は持ちこたえられるはずだ。
遠距離攻撃魔術がないなら、飛び道具を用意すれば良いだけのこと。
魔術で発動するようにすれば、下手なアクションを入れて隙を作ることもない。不意打ちにも使えて非常に便利だ。
この数年間独学で研究してきた戦法は、初の実戦にしてはいい感じだ。
フリードが乱射すれば俺は速射で応戦する。
接近戦の得物は用意しているが、おそらく接近戦では奴には勝てない。
なんとしても長距離で戦う必要がある。
が、後ろ向きで走っていたのが仇になったのか、木の根に躓いてしまった。
「・・・っ!」
「鬼ごっこも終了タイムに入りましたぁあああっと!!」
これを勝機と見たフリードが、飛び上がって切りかかる。
「硬度強化!」
とっさに棒を強化して耐えるが、光の剣は切れ味が鋭いのか棒に食い込む。
コレ鉄製だぞ!?
「楽しい楽しい追いかけっこでしたが、さびしけど遊びはいつかは終わるものだねぇ。寂しいねぇ悲しいねぇでも楽しいねぇ。これから連続裁断記録に挑戦するんだけど、協力してちょ?」
「やなこった下衆神父! 筋力強化!」
速度に費やしていた魔力を筋力へと流す。
押し込まれていた光の剣を押し返し、俺は起き上るとゴミ野郎を睨みつける。
「さっきから下品なことばかり言いやがってからに。
「いや、君の口の悪さも大概ではないかと存じ上げます。人のこといえんよ少年・・・っと!」
何とかフリードをはね飛ばす。
力押しになったから良かったものの、技の勝負だったら危なかった。
「てやー」
追いついてきた神父が切りかかるが、これはわかっていたので足払いで終了。
やはり手ごわい。だが、勝利の言っては既に叩きこんである。
それは、ちょうどよく訪れてくれた。
「ニヒルな俺様の断罪ターイムはもうすぐそこだよチミ。さて、その棒ももう持たな・・・い?」
ガンド、という魔術がある。
人差し指で指してはいけないということのモデルになった魔術で、対象の体調を崩す呪いだ。
物理的攻撃力を手に入れるか、心臓を止めるレベルの症状をおこすようになるとフィンの一撃とまで言われるが、さすがにそこまではできない。
だが、自慢じゃないが俺は呪いの類も得意だったりする。
あまりにも暴走がひどかったイッセーを一週間不能にしたのもいい思い出だ。
何の警戒もせずに喰らっていたフリードは、予想通り大きく体をふらつかせる。
チャンスは一瞬。
「・・・・・・筋力最大強化!!」
全身の魔力をこの一撃に集中させる。
「え? 最大のチャンスで病気で敗北って、そんなアリですか」
「事実は小説より奇なり!!」
衝撃で棒が折れるほどの一撃を叩きこんだ。
フリードの奴は思いっきり吹っ飛び、さらに地面を何回も転がり、最後には木に激突してようやく止まった。
「うわぁー」
「『もう寝てろ』」
後ろから襲いかかってくる最後のはぐれ悪魔祓いは、俺の言葉に一瞬で意識を落とす。
・・・危なかった。
念には念を入れて指差した時にガンドを叩きこみ、さらに締め上げたうえで暗示をかけたはぐれ悪魔祓いが『二人とも』あそこにいなければ、さすがに勝てなかったと思う。
油断を誘うためにあえて攻撃させていたが、最悪フリードを攻撃させてもろともに倒すという手段も必要だったかもしれない。
「全く、こんな危険人物に危険なものを持たせるなよな」
俺は縛り上げながらフリード達の持ちモノを見聞していく。
・・・なるほど、この剣は使わないときは柄だけになるのか。便利そうだからもらって行こう。
「さて」
一通り後始末を終え、俺は一息つきたかった。
だが、そういうわけにもいかない。
はぐれ悪魔祓いの数は、地下の方が圧倒的に多い。加えて堕天使レイナーレは確実にいるし、締め上げた時の話ではさらに何人か堕天使がいるとのことだ。
助けに行った方がいいだろう。
幸い爆弾はまだいくつかある。集団戦なら密集地帯に投げ込めば効果があるはずだ。
とっと片付けるか。
そう思って歩き出し―
「・・・あれ?」
急に、激痛と共に足から力が抜けた。
あわてて木に手をついて体を支えるが、これは何か不味い。
見れば、俺の横っ腹に光でできた槍が突き刺さっていた。
・・・これは覚えがあるぞ。
いや、覚えがあるどころじゃない。
俺が神器を出してようやく防いだあの光の槍だ。
「・・・まさか、フリード達を退けるとはな」
黒い羽根が舞い散り、空から黒づくめの男が降りてくる。
あの時の堕天使・・・!
うかつだった。
教会に入るまで襲撃されなかったから、敵は全員中にいると思い込んでいた。
実戦経験がないのがこんなところで仇になるとは、完全にしくじった。
「我らが光の槍は人間にとっても脅威だ。・・・貴様は致命傷だ。もう助からん」
悔しいがあいつの言うとおりだ。
人体急所の一つである肝臓をやられている。俺の治癒魔術じゃこれだけの怪我の治療はできなかった。
礼装でも用意しておけばよかった。貯金がスッカラカンになるからとケチって造らなかったのがここで響くとは・・・。
「てめぇ・・・。天使が後ろから卑怯な真似をしてんじゃねえよ」
「これは失敬。フリードを倒すほどの男なら、とっくに気付いていると思ったのだがな」
くくっと、男は俺を
圧倒的勝者が浮かべるそれに、俺は歯を食いしばった。
「貴様も馬鹿な奴だ。あのまま生きてれば死ぬことはなかったものの、わざわざ死地に飛び込むとは」
空を飛ぶ堕天使は俺を嘲笑う。
だが、その表情は憎々しげだ。
「とはいえ、二人がやられた以上逃げた方がいいか。あの方をつれて撤退せねばな」
奴は既に俺など眼中にないかのように視線を教会へと向ける。
なるほどな。
「させるかよ」
判断は一瞬。
神器を実体化させ、俺は光の槍を放った。
「なに! ぐぉおおおおおおっ!!」
光の槍は男の羽を貫き、堕天使はその名のごとく地に堕ちた。
「馬鹿な! その槍に貫かれて何故動ける!? 激痛が貴様の体をむしばんでいるはずだぞ!?」
ああ、そういえば確かにいたいな。
だが、貴様は魔術を舐めすぎだ。
「自分に暗示をかけて、痛覚の『実感』を麻痺させたのさ。これならダメージを把握したまま過激な行動も出来る」
感覚を遮断したままだとダメージが分からなくて危険だ。かといって、痛覚をそのままにしたりすると大ダメージを受けた時に、激痛で動けなくなる。
この方法ならよほどの大ダメージで一時的に麻痺らない限り、かなり早いタイミングで戦線に復帰できる。
この世界に来てから研究した、戦闘用魔術の集大成だ。
俺の答えがわけのわからないものだったのか、堕天使の男は明らかに狼狽している。
「実感だと!? なんだその発想は!? 貴様、一体何者なのだ!!」
堕天使の男は両手を掲げると、光を収束し始める。
ここでやられるわけにはいかない。
このままだと、イッセー達に余計な負担がかかる。
大口を叩いておきながら、こいつをそのままにするつもりはなかった。
とっておきを見せてやる!
「
いろいろと調べている間に神器について研究した。
通常の強化を調べ上げて調整した。
山の中で一人こっそり練習を続けてきた。
全ては、神器を使わなければ逃れられない脅威を、より確実に吹き飛ばすため!
どうせ死ぬなら、ここですべてを出し切る!!
「何なんだ・・・何なんだ貴様はぁアアアアッ!!」
堕天使が最大にまで高めた光の槍を放つ。
だが足りない。全魔力を込めた俺の槍、その程度でどうにかできるか。
「・・・くたばれ堕天使ッ!!」
俺が放った槍は難なく堕天使の槍をぶち抜き―
「き、貴様ァアアアアアアッ!!」
そのまま堕天使を光の中に打ち消した。
ははっ。まさか、跡形もなく消滅させれるとは思わなかった。
イッセーには悪いが、俺にできるのはここまでだ。
アルジェントをどうにかできるかについては、もうあいつらに任せよう。
未成年飲酒には手を出して良かった。二度目の人生でも酒飲めないとか、ちょっといやだなぁと思ってたんだ。
友人救ってくたばるとか、死に方としてはまあマシか。
「・・・ははっ。ざまあ・・・ねえ・・・な」
そして、俺の意識も真っ暗に―
「おーおー。ようやく起きたか?」
「こ、ここは!? 私は・・・」
「俺がいて良かったな。あいつらもお前が消滅したと思ってるはずだぜ?」
「あなたは・・・っ!? それじゃあ、ここは?」
「あの街からだいたい10キロは離れてる。さすがにここまで来りはしねぇよ」
「ア、アハハハハハ!! 助かった、ざまあみなさい!? これで今度こそ至高の堕天使に・・・っ!?」
「ん? どうかした?」
「せ、神器がない!? 聖母の微笑は!? あれはどこに行ったのよ!?」
「おいおい、俺のアレがどういうもんかは知ってんだろ?」
「そんな!? せっかくアザゼル様にとりたててもらえると・・・」
「どっちにしても無理に決まってんだろ? 上に黙ってこそこそ活動する奴なんぞ、危なっかしいから逆に始末されるって」
「嘘でしょ? それじゃあ、あなたまさか・・・」
「ん? ああ安心しろ。これは俺の独断だよ」
「な、なんで助けたの? アザゼル様の命じゃないなら、どうして私を―」
「ああ、それなんだがな・・・」
「・・・俺と一緒に行かねえか?」
ここで敵陣営にもオリジナル要素を入れてみました。
本格的に指導するのは原作四巻文ぐらいになると思いますが、それまで続けてみたいと思います。