ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
アスカロンを片手に構える久遠に対して、俺たちは二方向から攻めに入る。
木場は後ろに回り込み、俺と朱乃さんは正面から突貫する。
広範囲攻撃を叩き込むべきだろうが、しかしあの状態だと何回かは耐えられそうだから、隙が出る攻撃は危険だ。
と、いうか結構周りを壊しまくっているから派手な攻撃ができそうにない。さすがにこれ以上はマズイ。
しかしその辺は安心するといい。朱乃さん用の磁力女帝は、むしろこういう場面でこそ真価を発揮する武装だ。
「朱乃さん、パス!」
「わかりましたわ!!」
俺は転送して大型の鉄製ブレードを複数呼び出す。
それを磁力でキャッチした朱乃さんが、多方向から一斉に久遠に刃をたたきつける。
「ふっはははー! 遅い遅い遅いよー! 同時のつもりだろうけどタイミングが激甘だよー!!」
難なく弾き飛ばす久遠だが、その間に俺は懐に潜り込む。ブレードの間合いで勝負する必要もないので、両手に持つのはナックルダスターだ。
そして後ろに回り込んだ木場は得物を一つ確保していた。
それを確認した久遠が、思わず二度見する。
「・・・デュランダルー!?」
「言ってなかったね。いざというときは僕に所有権が移るようになっているんだ」
駐車場での戦いを見ていなかったからか、久遠はこの情報にもろに隙を見せた。
よっしこのチャンス逃さん!!
「それは悪手だよー!」
アスカロンとデュランダルが交錯する。
ぶつかり合ったその応酬を制したのは・・・。
「木場くんがそれ使っても意味ないよー」
・・・久遠のアスカロン!?
聖剣としては使えないはずとか言ってなかったかオイ!?
「見た目からして典型的なバスターソードなデュランダルは、どう考えても力を重視した剛剣が本領。技を多用する木場くんとは相性が悪いねー」
やすやす迎撃した久遠がそうあきれる。
「普通に聖魔剣使ったほうがまだ効果あると思うよー? むしろ剣技が得意じゃない兵夜くんがたたきつけるぐらいにしたほうがよかったと思うけどなー」
ありとあらゆる方向からくる刃の群れを、しかし久遠はすべてさばく。
これが感卦法とかいうやつの本領かよ!? どこまで伸びる!!
しかし見れば、久遠の頬には傷があった。
ここまでこいつは有効だを足にしかもらっていない。少なくとも顔には一撃ももらっていなかったはずだ。
まさか感卦法にはデメリットがあるのか?
「勘違いしないでほしいなー」
真上から一斉に襲い掛かる刃をすべて一閃で弾き飛ばしてから、久遠がそう言い放つ。
「感卦の羽衣はあくまで感卦法の発動を可能にするアイテム。その後の制御は楽になるけど、あくまで楽になるだけで反発する力を制御する必要があることに変わりはないから戦闘中だとまだ反動が出るけどねー・・・」
後ろからくるデュランダルをやすやすといなし、正面からくる俺の攻撃を手堅くさばく。
これだけの攻撃を前にして、久遠はしかし圧倒的に優勢だった。
「その程度のデメリットがそっちの勝因になると思ったら大間違いだよー!」
全方位からくる攻撃を、久遠は気合いを入れて弾き飛ばす!!
「教師がリスクを前提とした危険なやり方を教えるわけにはいかないから、会長たちには安全重視でやらせたけどねー。私は剣士だから容赦なくリスクを呑んで戦うだけだねー!!」
弾き飛ばされてフォーメーションが乱される中、真っ先にターゲットに狙われたのは・・・俺!!
「・・・ああ、そうかい」
本当に、本当に久遠は強敵だ。
色々ハメ手をもらったとはいえ、結局優勢か否かでいえばこっちが優勢だった。
それがたった一人にひっくり返されそうになっている。それは受け入れるべきだ。
リスクを覚悟して迫るその姿は、確かにきれいで、魅了されてしまいそうだ。
戦乱でこそ輝く戦乙女。野太刀という和の武装を愛用するそのあり方は、甲斐姫か、それとも誾千代か。
だが、俺もただで負けるわけにはいかない!
「
神器の封印を解除する。
とはいえこの出力でうかつな攻撃はできないだろう。
だから追加で注射器を取り出しそれを打ち込む。
「
光魔力で一気に上昇した肉体能力と反射神経で、一時的にとはいえど言った位置になった状態で何とか攻撃をさばき切る。
「正気ー!? 兵夜くんリスクを試合で背負うタイプじゃないでしょー!?」
「気にするな! お前の覚悟に敬意を表しただけだし、何より安全策は立ててある!!」
悪魔になった肉体のせいで全身を禁手で強化するとダメージを受けるのなら、肉体の影響を除けばいい。
抑制関係や封印術式をフルに使って開発したさっきの薬品は、一時的に悪魔化の肉体影響をある程度抑えることができる。
もちろんその分身体能力は低下するが、禁手状態で全身強化するのなら、それ以上のブーストが見込めるのだ。
それでもダメージは確かに入るが、しかしそれは覚悟の上だ!!
寄りにもよって女の敵を最優先するような男に、それでも好きだといってくれた女がいる。
それが自分が勝ったら付き合ってくれと言ってきたんだぞ? 真正面から相対してやるのがせめてもの礼儀ってもんだろうが!!
「ああああああああああああっ!!」
全身が結構悲鳴を上げているが痛覚干渉で無理やりごまかして突貫する。
高速で振るわれる攻撃を、しかし全力で何とか捌き続ける。
本来なら一瞬で切り刻まれるだろうに、ソレを対処するとか我ながら無理しすぎにもほどがあるだろう。
だが、それでも気合いで食い下がる。
何も俺が直接かつ必要はない。
直接戦闘なら部長は十分会長に勝算がある。少なくとも、俺たちが久遠を倒しきるよりかははるかに高い。
それに魔力供給を会長が負担しているのなら、単独での戦闘能力は下がっている可能性だってある。
俺たちは久遠を生かせないように食い下がって、魔力を供給させ続ければそれでいいんだ。
その程度やってのけないで、イッセーの親友名乗るわけにはいかないんだよ!!
「こりゃまた手ごわいねー! でも負けるわけには―」
攻撃の密度がさらに上昇する。まだ上があるのか!?
さすがにこれをさばくのは―
「僕たちを・・・」
「・・・忘れてもらっては困りますわ!!」
久遠の後ろからくる攻撃の嵐に、一気に密度が下がった。
「わ、忘れてたー!? 百裂桜華斬!!」
条件反射レベルで大技を発動するな!?
防御礼装を満タンにしてたから防御できたが、そうじゃなかったら胴体両断されてたぞ!?
ってマズイ。そんな攻撃もらったら―
「か・・・っは」
「あ・・・っ!?」
二人が完全にカウンターをもらっていた。
あれは確実にリタイア確定の大ダメージだ。・・・長くはもたない。
「よっしメイン剣撃破ー! 後は―」
「いや・・・まだだ!!」
勝ちを確信した久遠に、木場が吠えた。
その足元を聖魔剣が埋め尽くし、さらに一斉に共鳴したのか、不気味な輝きに包まれる。
「朱乃さん! 雷を!!」
「・・・わかりましたわ!!」
血を吐きながらの木場の声に、朱乃さんが雷を放つ。それが聖魔剣に触れた瞬間に現象は起きた。
聖魔剣が雷を取り込んで共有するかのように雷のドームを形成し、久遠を包み込む。
聖魔剣を媒介にして雷を範囲攻撃に昇華しやがった! あれなら破壊される範囲も聖魔剣の制御次第で抑えられるし、いい判断だ!?
「な・・・っ!?」
『リアス・グレモリー眷属の騎士一名、女王一名、リタイア』
二人が消え去ったことで聖魔剣と雷も消え去り、雷のドームも消えるが、今明確に久遠はダメージを負っていた。
相応のダメージをもらったのか、その動きは明らかにぎこちない。
このチャンスを逃しはしない!!
「もぉらったぁああああああああ!!」
結晶体をフルに投入して全力で魔力を込める。
当たればデカいが外すとでかい! これでケリを―
『ソーナ・シトリー様の投了を確認しました』
・・・・・・・・・へ?
『リアス・グレモリーさまの勝利となります』
戦闘、終了?
「魔力無駄遣いじゃねえか!?」
素直に喜べない!?
「・・・おーい、本日のMVPはここかー?」
病室をのぞき込むこと数回、俺はようやく目当ての人物たちを発見した。
病室にいたのはジュースを片手に持った久遠と椅子に座る会長。
んでもって病室の主はベッドでこっちを見て唖然としていた。
「宮白じゃねえか? なんでここに来てんだよ?」
「そう言うなよ匙。このレーティングゲームのMVPはお前と久遠の二人だろうが。ちょっとぐらいほめてやっても罰は当たらんだろ?」
素直に賞賛しに来てやったのにそれはないんじゃないかねえ?
「今回は完全にしてやられたよ。作戦立てたのは会長だろうが、それをちゃんと遂行しきったのは間違いなくお前だ。失血対策は想定外だったよ。マジお見事」
持ってきたジュースを投げて渡すと、俺も適当な椅子を見つけてそれに座る。
結局このレーティングゲームは事実上のこちらの負けといってもいい。
ライザー戦からの大幅パワーアップポイントである、ギャスパーの使用許可とデュランダル使いの参戦と赤龍帝の禁手到達といった目玉をすべてつぶされた。挙句の果てに生存者も部長と俺の二名の身であり、圧倒的優勢とまで言われていたことを考えるともはや惨敗といっても過言ではない。
久遠があまりにも大暴れしてくれたおかげで、異世界技術はマジすごいといった結論に至ったらしいが、それも久遠の異世界がマジすごいということになるから俺には得がない。
回復に関してはこっちが先手を取ったからまあ被害は少ないのが不幸中の幸い。とはいえ戦闘面ではこれで注目度が下がったから、そういう意味ではいろいろと苦労しそうだなこれは。
「うんうん。結局会長の策を完璧に遂行しきったのは元ちゃんだけだもんねー。本当大活躍だよー」
うんうんと、久遠が自慢げにうなづいてくるが、してやられた身としてはなんか微妙に腹立ってくるなオイ。
「その通りですよ、サジ」
それでもうつむいていた匙の手を、会長がやさしく包み込む。
「貴方は私の自慢の眷属です。もっと胸を張りなさい」
「・・・その通りだとも」
後ろからの声に振り返ってみて、俺は心臓が止まりそうになった。
寄りにもよってサーゼクス様じゃねえか!?
「君は臆することなく戦い、イッセーくんを、赤龍帝を一対一で倒したのだ。私たちは観戦室で、君の雄姿を興奮しながら見ていたよ。あの北欧の主神オーディンも君をとても評価していた」
度肝を抜かれている俺を通り過ぎ、サーゼクスさまは匙に勲章のようなものを握らせる。
「これはレーティングゲームで印象的な戦いをしたものに贈られるものだ。・・・桜花くんにも表彰されるだろうが、何よりまず君がもらうべき代物だよ」
目に見える形で自分の勝利の証をもらい、匙は何が何だかわからない顔をしていた。
だが、続けて放たれたサーゼクス様の言葉に硬直する。
「君も十分上を目指せる立派な悪魔だ。・・・レーティングゲームの先生になるといい。きっとなれるさ」
その言葉に、匙は我慢できずに思いっきり涙を流し始める。
俺はちらりと後ろを振り返ると、小さな声でつぶやいた。
「・・・だそうだぜ? 気合い入れないと追いつけなくなるかもな、イッセー?」
視界の隅でものすごいあわてるイッセーの姿が見える。
馬鹿め。俺がこの近距離でイッセーの気配を見逃すとでも思ったか?
まあ恥ずかしいだろうし、俺は黙っててやるけどな。
ヴァーリばかり見てると足元救われるということだ。今回の敗北はイッセーにもいい経験になっただろう。
もちろん俺もいい経験だった。敗北を糧にしっかり成長するとするか。
「本当に、元ちゃんも私も会長もがんばったんだからねー? そう思わないー?」
などと、いたずらっ子の笑みで久遠が俺の顔を覗き込んでくる。
「そりゃそうだろう? やられた俺がご褒美もってきてやるぐらいなんだから、もっと自信持ってもらわないとこっちが困るしなぁ」
「じゃあさじゃあさ? 私もご褒美もらっていいんだよねー?」
「そりゃそうだな」
では缶ジュースを買いにもう一度自販機に行こうか。
などと言おうとした俺の唇が、いきなりふさがれた。
・・・久遠の唇で。
「~~~~~~~~っ!?」
「なっ!? 桜花!?」
「・・・なにをやっているのですか、桜花」
「おやおや。これはこれは」
「み、宮白てめえ!?」
声にならない悲鳴を漏らしてしまった。そのせいでほかの方々に気づかれてしまった。
驚愕する匙にあきれる会長になにやら妙に感心するサーゼクスさま。あとイッセーが反応していたが、あまりにアレな展開にみんな気付いていなかった。
「ご褒美いただきましたー。ご馳走さま~」
「ちょ・・・おま・・・なんで!?」
「あれ? 私言ったよねー? 兵夜くんが私に勝てなかったらってー?」
た、確かに言ったが勝敗自体は俺たちの・・・
そこまで考えて俺は気づいた。
俺、直接久遠を打倒してない!?
「は、謀ったな久遠!!」
「正真正銘生まれて初めての恋だもんねー。そりゃあ本気で勝ちをねらうよー?」
してやったりの表情を浮かべながら、久遠がくるりと横に一回転する。
その瞬間に、満面の笑顔を浮かべやがった。
「これからよろしくね、マイダーリン♪」
・・・まったく。
俺って意外に恋愛じゃヘタレかねえ。
これでヘルキャット編は終了です。
いや、こっから先はちょっと料理のしようがないので、書いても蛇足になると判断いたしました。
そして次からはホーリー編になります。