ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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今回は接合話なので短いです



絶望の化身

「さて…、ではまず、今回のコロシアイ学園生活の概要からご説明いたしましょう」

 まるで教師の様に丁寧な言葉づかいで、いつの間にかかけていたメガネをくいと持ち上げ江ノ島は語りだす。

 

「まず、今回のコロシアイ学園生活は、苗木君の言うとおり、私と残姉…もといむくろの二人で計画されたものです。…最も、99%は私が考えて、むくろがやったのは銃火器のセッティングぐらいですが…」

「う…」

「まあ残念なお姉ちゃんのことはどうでもいいんです。私としては一人でも十分に決行可能な計画でした方からね。…しかし、いざ決行したとするとやはり一人では問題が発生してしまうんですよね」

「…問題?」

「ええ。まあ言ってしまえば、監視役と陽動役ですね。今回の計画において、欠かせない存在こそが殺し合いをコントロールする役目、モノクマを操作して皆を支配し、監視する…いわゆる、黒幕のポジションですね。…で、本来なら計画の考案者として私が陽動、むくろが黒幕を務めるのが理想だったのですが、残念ながらそれは無理だったんですよ」

「な、なんでだべ?」

「何故なら、むくろは…この子は、残念なお姉ちゃんだからです」

「ざ、残念…?」

「ええ、一人で傭兵団に入って3年間音沙汰よこさないほどに、残念なお姉ちゃんなのです。具体的に言えば、イモいと鈍いとどんくさいを足して倍にしたといった感じがピッタリなほどに残念なお姉ちゃんなのです」

「…アンタ、思ったより扱い酷かったのね」

「…大丈夫、もう慣れたから」

「全く…、ようやく膜無くなって素人臭くなくなったというのに、肝心なところだけは治らなかったんですよね」

「膜?」

「そ、それって…」

「ちょ…!盾子ちゃん!」

「…下らん痴話喧嘩など後にしろ!それより話を戻せッ!」

「そー焦んなって!早漏は女にモテねーぞ!」

「そ、そうろッ…!?」

 急に口調と表情が一変し、ジェノサイダーのような雰囲気になって十神をからかうが、どうやらこのキャラは説明には向かないらしく再び教師然とした雰囲気に戻る。

 

「…では、話を戻して…で、そういう訳なのでむくろには表の学園生活に戻ってもらうことになったのですが、ここで問題になったのは彼女の『超高校級の軍人』という肩書…いわゆる、『3Z』ですね。絶望的に臭い、絶望的に汚い、絶望的に気持ち悪い…まあ、一般的な感性においておおよそ許容できるものではありませんから」

「ちょ、ちょっと…言い過ぎなんじゃあない…?」

「………」

「…大丈夫?むく…戦刃さん?」

「…平気、いつものことだから」

「…それに対し、私の『超高校級のギャル』という肩書には華があり、なによりおおよそ殺人とは縁のないイメージがありましたから、この立場を捨て置くのは惜しいと考えました」

「…だから、彼女と入れ替わっていた…と?」

「Exactly(その通りでございます)。…しかし、実際入れ替わってみると…予想はしていましかがこれが絶望的に私と似ていない。無理しているのがバレバレ、見てるこっちが恥ずかしい。…という訳で、見せしめも兼ねて序盤の内に処刑する予定だったのですが…苗木君に邪魔されて結局今までグダグダと生かし続けてしまった訳なんですよね」

「…あなた、自分が何を言っているのか、分かっているんですかッ!?」

「は?」

「実のお姉さんを殺そうとしたんですよッ!そんなことをしておいて、なんでそんなにヘラヘラしていられるんですか!?」

「そうだよ!血の繋がった家族でしょ!?そんなこと考えるほうがあり得ないし、それどころか実行しておいて謝らないとか何考えてんのさ!?居なくなったら、悲しくない訳!?」

 話の内容とは裏腹にあまりにも機械的な江ノ島に、流石に黙っていられなくなったのか舞園と朝日奈が食って掛かる。

 

「…ふぅ~…」

しかし、そんな二人に江ノ島は嘆息するかのように息を吐くと、急にテンションを下げて呟きだす。

 

 

「…そんな訳ないじゃあないですか…。たった一人の肉親なんですよ?それを失う、あまつさえ自分の手で殺したなんてことになったら…そんなの、とんでもなく絶望的で……でも、だからこそ『ソソる』んですよ…!」

「は…?おめえ、何言ってんだ…?」

「えっとねー!おバカな葉隠君にも分かるように説明してあげるとー、私たちって、生まれたその瞬間から既に生きることに絶望してるんだよねー!だからさー、私たちにとって生きるとか死ぬとかに大した違いは無いんだー!強いて言えばー、生きていることに絶望し続けるか、死という最大の絶望を感じて終わるか…って感じ、かな?」

「…何よ、ソレ…!?」

「だから…、殺そうとしたんですよ…。自分の手で姉を殺すなんて、生きている時に感じられる最高の絶望じゃあないですか…。超がつくほど…いや、もっとですね…超超超超超超超超超絶望的で…『快感』です…!」

「く、狂ってるべ…!」

「…余り深く考えない方が良い。彼女を理解しようとすれば、逆にこっちが向こう側の人間になってしまうよ」

「ひ…!」

「…言ってくれますね、『希望』を持ちながら、唯一私の『理解者』となった癖に…」

「何ですって…?」

「…その唯一に、松田さんは含まれてないのか?」

「…ああ、彼は結局のところ私の根底までは理解できなかった…いや、理解『しようとしなかった』というほうが正確だよね。おそらく彼自身感づいていたんだろう。そこに至ってしまえば、もう後戻りできなくなることに、彼が思い描いていた『私』が崩壊してしまうことに…。その辺が君に対する嫉妬心に繋がっていたんじゃあないかな?」

「…さっきから、何の話を…?」

「そんなどうでもいいことは後にしろッ!…それとも、学園の謎とやらから話を逸らそうとしているのか?」

「うぷぷ…十神君は本当に堪え性がないなあ。この話は学園の謎にもだいぶ関わっているかもしれないんだよ?」

「何…?」

「まあいいや。その辺に関しては後で苗木君が説明してくれるだろうしね。…それより、学園の謎だっけ?」

「学園の謎…それを解かないと、ここから出られないんだよね」

「そして…私たちの消えた記憶にも大きく関わっている筈よ」

「んでも…結局分かってんのはこいつが俺たちをここに閉じ込めたっつーことだけだろ?殆ど手がかりもねーのに謎を解くっつってもなぁ…」

「…おい戦刃!貴様、正体を明かした以上洗いざらい話す覚悟はできているんだろう!だったら早い所白状しろ!」

「……」

「うぷぷ、残姉ちゃんに聞いたって無駄だと思うよ。残姉ちゃんは途中から僕の計画に『賛同せざるをえなくなった』だけなんだから。そいつは何が起きているのかは知っていてもそれ以上のことは何も知らない。分かっているのはただ一つ、この世が『絶望』に満ちているということだけさ!」

「何…?」

「これを見ればオマエラも少しは思い出すんじゃあないかな?…それでは、御開帳でーす!これがオマエラの見たがっていた、外の世界の光景だよー!」

『!』

 その合図とともに、背後のモニターの電源が入り、映像が映し出される。そしてそこに映されていたのは…

 

 

 

 

ドガァァァァンッ!

 巨大なモノクマによって破壊され、轟音と共に崩壊する建物。

 

 

『YHEEEEEEE!』

『Wooooo!』

 モノクマの仮面を被り、破壊活動を繰り返す暴徒。

 

 

 そして、火の海と化した都市の中で、頭部だけがモノクマに挿げ替えられた自由の女神や大仏などが悠然と存在する世界。

 

 

 それはまさに地獄…いや、『絶望』そのもののような光景であった。

 

 

「…ヤバい、世界がヤバい…。そういうことなんです…」

『……』

 江ノ島の言葉にも、誰も、何も言い返せない。その映像はそれほどまでに衝撃的なものであった。

 

「…ど、どうなってんだべ!?さっぱり分からんべ!」

「…苗木!戦刃!貴様ら何か知っているんだろう!どういうことか話せッ!」

「…ゴメン。僕が憶えているのはこうなる前の世界のことまでで、どうしてこうなったのかまでは分からないんだ」

「…詳しいことは私にも分かんない。けれど、これだけは言えるよ。…これが『人類史上最大最悪の絶望的事件』の結果なんだってこと」

『ッ!?』

「…何故、今その話が出てくる…?」

「残念だけど、私は外の事を見ていないから知らない…。私はあの時からずっと、苗木君の傍に居たから…」

「…ええいッ!他に憶えている奴は居ないのかッ!?」

「誰も…何も憶えていないのなら…終わりよ、終わるしかないわ…」

 頼りの綱の戦刃と苗木にも外の事情が分かっていないことに、早くも絶望的な雰囲気になりかけていると、ふと苗木が口を開く。

 

「…もしかして、彼女なら憶えているかも…!」

「か、彼女ぉ?誰よソレ?」

「決まってる…ジェノサイダー翔だよ!」

「ハァッ!?」

「腐川さんとジェノサイダーは記憶を共有していない…。だからこそ、腐川さんの記憶が失われたとしても、ジェノサイダーの方の記憶は無事かもしれない…!」

「ど、どうなんだべ!?腐川っち?」

「あ、アイツに代われって言うのおッ!?」

「お願いです腐川さん!どうしても必要なことなんですッ!」

「い、嫌よ!絶対に嫌…」

「…腐川、お前だけが頼りだ」

「ハァックションッ!…どもどもー!実は家庭的な殺人鬼でーす!」

「変わり身早ッ!」

「…単刀直入に俺の質問にだけ答えろ。貴様はあの映像に心当たりはあるのか?」

「へむ?あの映像?」

 と、ジェノサイダーが視線を動かすと、ふと江ノ島の所で止まり

 

「…あ、盾ちゃんオッスオッス!」

「…オッス…オッス…」

 何事も無かったかのように挨拶する。

 

「!?貴様…江ノ島を知っているのか!?」

「あー?まー顔だけは見たことあったしねー。喋ったことはねーけど。…ってよく見りゃ残念なほうもいんじゃん!何?もう盾ちゃんのコスプレやめちったの?」

「…別に、コスプレじゃあ…」

「…って戦刃むくろのこともけ!?つーかコスプレって…オメーまさか最初からあの江ノ島っちが戦刃むくろだって知ってたんけ!?」

「まーね!だってこいつの残念感はそんじょそこらの変装でごまかせるもんじゃあないって!増してや妹のコスプレとかチョーウケるww!」

「…そういえばあなた、変装してた時の戦刃さんのこと一度も江ノ島さんって呼んだことなかったわね」

「そゆこと!…まーでも訳ありっぽかったから黙ってたんだけど、どーやら思ってた以上にメンドーな感じになってたみたい……あら?」

 と、くっちゃべっていたジェノサイダーであったが、視界の端に苗木を捉えた途端、急に押し黙り、やがてその口角が嬉しそうにゆっくりとせり上がる。

 

「…あ~らおかえりまー君。やっといつもの調子に戻ったカンジ?」

「ぼちぼちかな。…その内お望みどおりになってやるよ」

「…~ッハァーッ!オッケーオッケー!それでこそアタシのターゲット永遠の殿堂入りにふさわしいってもんだぜ!」

「…そんなことはどうでもいいッ!それよりあの映像について、知っていることを話せ!」

「ハイハイ…ってこれ外の映像じゃーん!なにコレ懐かし~!」

「や、やっぱりこの映像の事知ってるの!?」

「ん~とね…、ぶっちゃけよく分かんねー!だってリアタイで見てたの根暗の方だしー」

「…下らん、馬鹿げているッ!」

「…じゃあさ、馬鹿げた話ついでに、もう一つ教えてあげようか?十神君の心の支えである、十神財閥のことなんだけど…」

「なんだと…!?」

「ねえねえ、どうなった思う?十神財閥は、どうなったと思う?」

 その問いと共に、江ノ島の背後のモニターに選択肢が表示される、が…

 

①Coolな十神財閥はスタイリッシュに抵抗したが結局滅びた。

②お友達が助けに来てくれたが遭えなく滅びた。

③滅んだ。現実は非情である

 

「…ッ!?」

 ショックを受ける十神が選択肢を選ぶ間もなく、勝手に③の選択肢が選ばれる。すると

 

ピンポンピンポーン!

「大正解よ!…親族を含めた関係者全員の死亡を確認しました。十神家は、事実上滅亡しました。さしずめ今のあなたは、『超高校級の没落家』といったところですかね」

「滅びる訳がないッ!十神家は、世界を統べる一族なのだぞッ!!」

「だーから、その世界がもう終わってんだっつってんだろ!それも『1年』も前になッ!」

「…1…年?」

「な、何言ってんのさ!私たちがここに来たのは、ついこの間なんだよ!?」

「そうだべそうだべ!一年も前に世界が終わってんなら、俺たちが知らない訳ねーだろうが!」

「うぷぷ、ついこの間?へー?オマエラの中では、『2年』前の事を、ついこの間っていうんだ?」

『ッ!?』

 もう何度目になるかも分からない江ノ島の衝撃のカミングアウトに、再び皆の表情が騒然としたものになる。

 

「二年…だと?…そういえば、苗木も2年半などと言っていたが…まさか、俺たちの失われた記憶というのは…」

「…そうだよ。僕らの失った記憶、それは数週間どころの話じゃあない…。僕らがこの学園で過ごした、2年間の学園生活の記憶だよ…!」

「…な、なな…」

「…そ、そんな…ッ!」

 苗木によって継がれたその答えに、皆の表情がこれまで以上に驚愕の色に染まる。

 

「私たちがこの学園に足を踏み入れた時に感じたあの感覚…あの瞬間こそが、失われた記憶の始まりと終わりの境界だったのね…」

「と言うことは、私たち…」

「俺たちは、既に2年間を共に過ごしたクラスメイトだったということか…!」

「そう!つまりお前らは、友達同士で殺し合ってたということなのさッ!!」

 

 

 

「………」

 明かされた真実に、誰も言葉を発することができない。つい先日出会い、時に協力し、時に殺し合ってきた彼らが、実は2年も前に出会っていたクラスメートの友人たちであった。その事実は、彼らの心から江ノ島への敵対心を薄れさせ、逆に自分自身に対する自己嫌悪を増幅させることとなった。

 そしてそんな様子を見計らってか、江ノ島はさらなる爆弾を投下しにかかる。

 

「…で、苗木君は何時まで内緒にしとくつもりなのです?あなたは既に思い出している筈でしょう?」

「………」

「…内緒って、なにを…?」

「決まってんだろッ!こいつが思い出した記憶、こいつの本当の正体と『人類史上最大最悪の絶望的事件』の始まりだよッ!!」

『ッ!!?』

 江ノ島に促された当の苗木はその言葉に対し複雑そうな表情を浮かべる。

 

「…本当なの?苗木君?」

「もしそうなら、さっさと話せッ…!今は少しでも情報が欲しい…!」

「そ、そうだべ!もったいぶってねえで教えてくれよ!」

 皆に急かされる中、江ノ島の愉快そうな視線や戦刃の不安そうな視線を受けながら苗木はゆっくりと口を開く。

 

「…別にもったいぶっていた訳じゃあない。ただ、確認しておきたい。…この事実を知ってもなお、君たちは前に進もうという『覚悟』があるかどうか。例えどれほど衝撃的な事実であったとしても、絶望に屈しないという『意志』があるかどうかを…」

「…ど、どうしたんですか急に…?」

「そんなに、ヤバいの?」

「…少なくとも、今僕らの知っている常識の大半は覆される。それどころか、スタンドの存在を知って尚も信じがたい内容も含まれている。…けれど、これだけは保障できる。今からの話はすべて、違えようのない事実だ」

「…苗木君?」

「…意外ですね。思ったより乗り気じゃあないですか?てっきり裁判が終わるまで黙っているつもりかと思っていたのですが…」

「そういう訳にはいかない。ここで本当の真実を隠したまま外に出たとしても、僕らは君に完全な勝利をしたことにはならない。例え残酷な真実であったとしても、その全てを受けいれ、乗り越えていかなければ、その先に本当の『希望』はありはしない。だからこそ、僕はあえて君の口車に乗ってやる…!君のシナリオ通りに進んでも尚、その先に必ず『希望』があるということを証明してやるッ!!」

「…ふ~ん。成程、やはり『彼』をもってしても理解できなかっただけの事はある。それが『黄金の精神』というやつなのかい?…いいよ。やってごらん。君のその『覚悟』が『絶望』を越えるにふさわしいかどうかをね…!」

 江ノ島に啖呵を切った後、苗木は皆の顔を見渡す。その表情には未だに不安の色は残るものの、それでも苗木を信じて向きおうとする意志をそれぞれ感じ、苗木は一つ頷く。

 

 

「…それじゃあ、全てを話そう。僕の血脈と、この悲劇の本当の始まりをね…!」

 




次の話はすさまじい説明回+ネタバレなのでご理解ください

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