ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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今回から最後の学級裁判編ですが…なんのこっちゃない、ただの説明&ネタバレフェイズです。なので若干退屈かもしれませんがご了承ください
…だって記憶戻った苗木君と残姉がいたら推理の必要皆無ですからねえ


黒幕

 希望ヶ峰学園の校外。中で起こっている惨状を考えればそこには本来それを止める為に多く人間が詰めかけ、生徒たちを救出するための作戦が実行されている…それこそがあるべき状態であった。しかし、実態は全く異なる物であった。

 

「…改めて酷い有様だな。まるで地獄のよう…いや、もうこの世界はとうに地獄であったな」

 数週間の時を経て学園へと戻って来たエンリコ・プッチの視線の先に広がっているのは

 

 

…学園の前にバリケードの如く広げられた銃火器の数々、そしてその犠牲になったと思われる夥しい数の死体で埋め尽くされた光景であった。

 

「しかし意外だったな。まだこれほどに『希望』を失っていない人間が残っていたとは…。SPW財団の連中や例の機関の奴らはともかくとして、警察や自衛隊に動こうとする人間が居たとはな…」

 軽い驚きを持って言うプッチの言うとおり、体中に銃弾をブチ込まれて折り重なって倒れる死体の服装は、その多くがSPW財団の諜報、及び特別科学戦闘部隊と呼ばれる者達や、見慣れない黒いスーツに身を包んだ人間が多かったが、中には警察の機動隊やSATの装備をしたものから巡査の制服、そして自衛隊の装備に身を包んだ死体までが混ざっており、日本における戦う力を持った職業のほとんどが存在しているという有様であった。

 そして、その表情は一様に険しいものであった。襲いくる死への絶望からではない、目の前の絶望に、せめて一矢報いようと己の命を燃やし尽くそうとする『覚悟』の据わった表情であった。

 

「彼らの表情…ただの一念から生じたものではあるまい。やはり中で起きていることを見て生まれたものであるようだな。赤の他人にすらこれほどの覚悟を与えるとは…やはり苗木誠は生まれついての『希望』の象徴…あの『女』とは正反対の存在であったということか」

 そう呟くプッチの物言いは、己の考えが合っていたことへの納得感と、できれば外れていてほしかったという落胆の入り混じったものであった。

 

「…あの『女』をもってしても、苗木誠の『運命』を変えることは出来なかった。とすれば、もはや彼に私と同じ道を歩む権利は無い…。この『DISC』も、もはや用済みということか…」

 そう言うプッチが怪我でもしているのか添え木のされた腕で懐から取り出したのは、『ホワイトスネイク』の能力で取り出した『とある人物』の『記憶』のDISCであった。それをしばし見つめ、一思いに砕いてしまおうかと痛みを堪えて力を籠め…やがて思い立ったかのようにそれを止める。

 

「いや…。いずれ彼はここから出てくる。そしてそう遠くない未来、私と闘う運命にあるだろう。ならば彼にとっての判断材料は多いに越したことはない…」

 DISCを懐に大事そうにしまい、プッチは足元の死体を踏みにじり、学園へと向かう。

 

「さあ、見せて貰うぞ苗木誠…!君の『希望』が、本当にDIOが望んだものなのかということを…!」

 

 あくまで全てはDIOの為に。DIOの『遺産』を手に入れたプッチはそう強く誓い、その最後の決戦を見届けるべく学園へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、学園の遥か地下では、いよいよ最後の学級裁判が幕を開けた。

 

「さて!改めてルールの確認をしておきます!この学級裁判では、先の戦刃むくろ殺人事件の真相、そしてこの学園の秘密の全てを話し合っていただきます!そして、最後ということで今回は僕も裁判に参加させていただきまーす!」

 いつもの偉そうな椅子ではなく、皆と同じように自身の席に着いたモノクマが皆にルールを説明する。

 

「…それで、議論の結果見事すべての真相を解き明かすことができれば、オマエラの勝ち~!…けれど、もしその結果が真相と異なっていた時は、僕の勝ち~!という、至ってシンプルなルールなのです!ではでは、張り切っていきましょー!」

「…その前に、俺から一つ聞きたいことがあるべ…!」

 と、開始早々いつになく重苦しい、どこか怒りを堪えている様子の葉隠が声を上げる。

 

「ん?どうしたの葉隠君?いつになくシリアス調だね?君ギャグキャラ補正持ちでしょ?急にそんなの似合わないって。ぽんぽん痛いの?」

「悪ィが今回ばっかはマジだべ…!お前ら、正直に答えろよ…!」

「…葉隠君?」

 怪訝な表情の皆に向けて、葉隠はポケットから一枚の写真を取り出し突きつける。

 

「…オメーら、全員黒幕と裏で繋がってんだろッ!?よってたかって俺の事嵌めようとしてんだろッ!じゃなきゃ…、この写真に俺が写ってねえことの説明がつかないべッ!」

 葉隠が出した写真、そこに写っていたのはどこかの教室で和気あいあいとした雰囲気の皆の姿であった。そこには死んだ筈の面々も混ざっており、いないのはただ一人…葉隠だけであった。

 

「ええッ!そうなんだろッ!?」

「そ、そんな写真、私知りませんよぉッ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!そういう写真だったら私も…!」

 動揺する朝日奈が取り出したのは、これまたどこかのグラウンドらしき場所でトラックを駆け巡る、まるで運動会のような情景の写真、もちろんそこには皆の姿があり、朝日奈だけが写っていないという様子であった。

 

「わ、私も…。モノクマにヒントだって…!」

「…俺もだ」

 それに続いて腐川、十神が差し出したのも、それぞれ雪の積もった中で雪遊びに興じる様子とプールで遊ぶ様子の写真で、いずれも持ち主である二人だけが写っていないというものであった。

 

「これは、一体…?」

「こ、こりゃどうなってんだべ…!?皆自分だけが写っていない写真だなんて、どう考えても不自然だべよ!」

「確かにな…。だが、どの写真にも共通している事が有るぞ」

 

「へ?何?」

「先ず第一、どの写真もこれまでに見つけたものと同じで仲たがいしているような雰囲気が無い。俺たちは今まで互いを疑い合い、殺し合ってきた仲だというのに、だ。…そしてもう一つは、…この男だ」

 そう言って十神は自分の写真、写真の中央で女生徒に詰め寄られている金髪の少年を指差す。

 

「こいつはどの写真にも必ず写っている。おそらく死んだ連中の分の写真があったとしても、こいつだけは写っているだろう。…そして俺たちは、こいつの顔に見覚えがある筈だ…!」

 その言葉に、皆痛い所を突かれたかのような表情で俯き、ある人物に視線を向ける。十神も、その人物に指を突き付け、問いかける。

 

「…貴様だろう?苗木…。金髪、金眼…今と殆ど印象こそ違うが貴様の面影は確かに残っている。どうなんだ?」

「えッ!?苗木…くん…?」

「………」

 そして当の苗木は、その問いにしばし黙り込み、やがて表情を和らげ口を開く。

 

「…懐かしいな、その写真。葉隠君のは確か、入学してしばらく経ってからの昼休みの奴だね。朝日奈さんがドーナツ買って来てさ、皆で食べてるところを葉隠君に撮ってもらったんだよね…」

「…はぁ?」

「貴様、何を言っている…!?」

 意味不明な答えに戸惑う皆に応えることなく、苗木は他の写真を見てなおも懐かしげな顔で話す。

 

「朝日奈さんのは、秋の体育祭の時のだね。全学年合同でやったんだけど、途中の応援合戦で弐大さんが張り切り過ぎてバテちゃってね、結局負けちゃったんだよなあ…。で、その一年対抗リレーの時に朝日奈さんがアンカーで順番待ちの間に撮ってくれてたっけ」

「え?…え?」

「腐川さんのは冬休み前に珍しく大雪だったから皆で遊んだ時だね。びっくりさせようとホッキョクグマ出したら皆ガチでビビッて大騒ぎさせちゃったんだっけ。腐川さん寒いの苦手だからって休んでた時にそれを撮ってたっけ…」

「あ、アンタ何を…?」

「十神君のは、夏休み前のプールの授業のやつだね。その写真で大神さんがアッパーしてる浮き輪、確かサメにして泳がせてたのを大神さんが鍛錬代わりに吹っ飛ばしたらもどっちゃったんだよね。…もっとも僕はそんなもの以上に冷や汗掻く羽目になったけど…。で、暇そうにしてた十神君がその瞬間を撮ったんだよ」

「…どういうことだ、下らん御託を並べずに、ハッキリ説明しろッ!」

 痺れを切らした十神の怒号に、苗木は表情を正して返答する。

 

「その写真にそれぞれ持ち主の人が写ってないのは、単にその人が撮った写真だったというだけのこと。だから、他の皆が黒幕と繋がっているっていうことは無いよ」

「そ、そうなんけ?な~んだ良かったべ…」

「…良い訳があるかッ!苗木、貴様は何故そんなことを知っているッ!?お前は記憶を取り戻したと言っていたが、一体何を思い出したというのだッ!?」

「…そのままの意味さ、全てを…だよ。僕の失われた半年間…いや、正確には『二年半』の記憶だけどね」

「二年半…だと…!?」

「ああ、僕は全てを思い出したんだ。その写真の事も、僕のもう一つの『才能』の事も。そして…お前の事もな」

「…うぷぷぷぷ」

 力強くモノクマを指差し宣言する苗木に、当のモノクマは意味深げに嘲るだけである。

 

「…ちょ、ちょっと待ってくれッ!まるっきり意味が分からんべ!二年半って、どういうことだべ!?俺たちそんな前に会った『記憶』なんか無-べよ!」

「そりゃそうだろうね。こいつがそんなミスをする筈が無いからね。松田さんが殺された時点で、そのことへの予想はついていたよ。最も、止められなかった僕に偉そうなことを言う資格は無いけどね…」

「……」

「え…?何、どういう…こと?」

「な、苗木君、どういうことなんですか!?教えてくださいッ!」

 黙り込む江ノ島を除いた皆からの視線に、苗木は意を決した表情で真実を口にする。

 

 

「…皆の記憶は、黒幕によって改ざん…いや、『消去』されているんだ。つまり、故意の『記憶喪失』ということだよ。その写真の事を憶えていないのは、そのせいだよ…」

「「「「「「き、記憶喪失ッ!!?」」」」」」

 余りにも突拍子もない真実に、皆は一様に驚愕と疑念をありありと表した表情となる。

 

「馬鹿なッ!そんな馬鹿げた話がッ…!」

「証拠となるものなら、その写真以外にもまだあるよ」

 そう言うと苗木は電子生徒帳を取り出し、先ほどのロッカールームの様子を撮影した写真を皆に見せる。

 

「…あ?何だべこのロッカー?こんな汚ねえロッカーの人間なんてロクな奴じゃ……って、俺の水晶玉じゃあねーかッ!それにこのノート、お、俺の名前と字だべッ!?」

『オ、イヨイヨ自覚シヤガッタか。これでオマエモ自他共に認める人間の屑ダナ』

「あ!あのミ○ドの優待券、お父さんが株主優待でもらった奴じゃん!」

「あ、あれ失くしたと思ってたお気に入り文庫ッ!な、なんでこんなところに…!?」

「…馬鹿な、アレは父上がくれた本…!何故それがそこにある…!?」

「このファンレター…見覚えがあります!確か事務所に来たのですっごく心に残ったのをここに持って来たのに…」

「…私のレーション、それにあのロッカーは…」

 皆千差万別な反応をする中、ふと葉隠が口を開く。

 

「…あれ?他の皆の私物っぽいのはあったけんど、霧切っちのらしきロッカーが無いべ?」

「霧切さんのは、これだけだったから持って来たよ」

 そう言って苗木が懐から取り出したのは、ロッカールームで見つけた手帳であった。

 

「…!その手帳…」

「霧切さんの、だよね?失礼だけど、中を見させてもらったよ。内容と字で霧切さんのだって分かったよ」

「…へー、そんなところまで調べたんだ。思ってたよりネチッこい性格だったんだねぇ~。でも苗木君、あのロッカールーム、鉄板が打ち付けてあって中は見れなかった筈なんだけど、どうやってそれ撮ったのさ?」

「…ああ。そんなの力尽くで引っぺがしただけさ」

『…は?』

 なんでもないかのようにそう答える苗木ではあったが、当然皆が納得するはずもなかった。

 

「て、鉄板って…この写真の端に写ってるコレの事?」

「ちょ、ちょい待つべ!引っぺがしたって…いやいやいやいや、有りえねーってッ!ざっと見厚さ一センチはあるべよ!朝日奈っちとか舞園っちのスタンドならともかく苗木っちのスタンドじゃあそりゃ無理だろ…」

「いや、スタンドじゃあなくって自力で…」

「ハアッ!?そんなの増々無理に…」

「…あ、言い忘れてたけど今の僕ちょっと吸血鬼化してるんだ」

「きゅっ、吸血鬼ィッ!!?」

 さらっと飛び出した衝撃のカミングアウトに、場の空気はさらに荒れ狂う。

 

「何を…馬鹿げたことをッ!ここはファンタジーの世界じゃあないんだぞッ!吸血鬼など、存在するはずがッ…!」

「既にスタンドなんて妄想の領域に片足突っ込んでるような力を持っておいて今更それは無いでしょ…」

「け、けどよ…それは流石に理解の範疇超えてるっつーか…」

「…んじゃ、証拠でも見る?」

「へ?」

 そう言って苗木は手近な柱に近づき、それに手を掛ける。そして

 

「…フンッ!」

バギギギギ…バギャンッ!

 力を込めると同時に金属製の柱から鈍い音が鳴り、それと共に柱もひしゃげ、そのまま一部分をもぎ取ってしまった。

 

「……はい?」

「スタンドを使ってないことは見て分かったよね?…納得してくれた?」

「…アッ、ハイ」

 もぎ取った柱の一部を弄びながらそう言う苗木に、皆はそう返事することしかできなかった。

 

「…さて、だいぶ脱線してしまったけど、本筋に戻ろうか。とりあえず僕が立証できるのは、その写真が本物であるということと、僕らはその写真が撮られた期間に関する記憶を黒幕から奪われたということ。…この二つに関して、異論はないな?モノクマ…」

「ハイ!その通りなのです!…でもさ、オマエラ忘れちゃってないよね?これは、『戦刃むくろ殺し』に関する学級裁判なんだよ?学園の謎を解き明かすのは結構だけど、まずはその答えを出してからにして欲しいなぁ…」

 モノクマの小馬鹿にしたような言い分にも、苗木はなおも余裕を崩さない。

 

「…その答えならとうに出ているよ」

「えっ!?マジで!?」

「ああ。…『答えなんか無い』って答えがね」

「…は?」

「だよね?霧切さん、そして…」

 そこで苗木は一息置き、彼女の名を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

「江ノ島さん…いや、『戦刃むくろ』さん?」

『ッ!!?』

 事実を知る霧切を除けば余りにも衝撃的なその言葉に、皆は唖然とした顔で彼女、江ノ島の方を向く。

 

「……」

 一方当の江ノ島はその問いに全く反応を示すことなく、無表情に皆を黙って見つめていた。

 

「な、苗木っち…?な、何言ってんだよ?江ノ島っちが戦刃むくろだなんて、なあ…?」

「そ、そうだよ!江ノ島ちゃんは最初からずっと一緒だったじゃん!そんなのあり得ないって!…ねえ、江ノ島ちゃ…」

 信じきれない様子の皆からの問いに、江ノ島は答えることなく自分の髪の毛を掴み

 

 

 そのままズルリと、引きはがした。

 

「ッ!?なっ…!?」

 予想外の行動に面食らう皆であったが、本当に驚いたのはそこから現れたものであった。江ノ島のピンクがかったブロンドヘアーの下から出てきたのは、全く逆のショートヘアーの黒髪であった。

 

「ヅラ…だと…!?」

 ポカンする皆に構わず、江ノ島はなおも行動を続ける。手の甲で顔を乱雑に拭うと、厚めの化粧はみるみる剥がれ、化粧である程度隠されていたそばかすが浮き彫りになり、先ほどとは全く別の印象をもった顔つきとなる。また、拭った右手の甲もまた化粧が施されていたようで、ファンデーションの下にあったのは、狼をモチーフにしたような刺青…傭兵部隊『フェンリル』のメンバーを表すタトゥーが現れる。

 

 終わってみれば、もうそこには皆の知る江ノ島盾子という少女はおらず、若干の面影こそ残っているものの全くの別人が立っていた。

 

「なん…だと…!?」

「ま、まさか…こいつがッ!」

 

「…改めて、初めまして皆。私が『超高校級の軍人』、…そして『超高校級の絶望』の一人。…戦刃むくろです」

 その名は戦刃むくろ。この事件において、被害者であり既に死んでいると思われたその人物が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 しばしの静寂、そして

 

「…えーーッッ!!??」

「な、なんじゃそりゃーッ!!?」

 当然の反応である。今の今まで江ノ島盾子だと思っていた彼女が、実は殺された筈の戦刃むくろだったのだ。驚くなというほうが無理な話である。

 

「…やっぱり、そういうことだったのね」

「あ、霧切さんはやっぱり気づいてたんだ」

「ええ。江ノ島盾子本人でないことは前々から知っていたけれど、学園長室で戦刃むくろの事を知って気が付いたわ」

『ありゃ?もうバラしちまっていいのかよムクロ?』

「…うん。もう決めたから。あの子と向き合うって、…それが『家族』として、『姉』として私ができる唯一のことなんだから」

 

「…ま、待て!色々と聞きただすことはあるがこれだけはハッキリさせろ!…貴様は、本当に戦刃むくろなのか?」

「…そうだよ。私は戦刃むくろ。最初にあなた達と会った時から、私はずっと皆と一緒にいたんだよ」

「な、なんで、江ノ島ちゃんの格好なんか…?」

「それが『設定』だから…なんだって?」

「…あ、アンタ自分で何言ってるのか分かってんの?」

「…正直、私にもよく分かんない。でも、それが私の役目だから…」

「…まあ、何はともあれ、これで先ず一つは解決したな。戦刃むくろ殺し事件の真相…そんなものは最初から存在しない。何故なら、彼女はこうして今ここに生きているのだからね」

「……チェッ、もう少しありもしない答えに四苦八苦してくれることを期待してたんだけどなぁ~。ま、いいか。ピンポーン!大正解!この事件に、クロなんていませーん!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!だったら…あの死体は誰なの!?」

「死体?…ああ、アレの事?事件をでっち上げるために生物室からボクが持ち出しただけだけど?手ごろなのが一つあってねー、折角だから派手に爆発四散してもらったよ」

「何だとッ!?」

「こ、こいつサラッと自白しやがったわッ!」

「な、なんて酷いことを…」

「あ、あんまりだべ…!おめえの血は何色だべッ!?」

「ハイオクです!」

「マジかッ!?」

「答えんでいいッ!貴様も真面目に捉えるな!」

「悪趣味ね…苗木君?」

 死体とはいえ余りにも非人道的なことをしでかしたモノクマに皆がドン引きする中、苗木はモノクマに射殺さんばかりの視線を向けていた。

 

「…お前、どれだけ彼女を弄べば気が済むんだ…!」

「…あ~ん?」

「…彼女?」

「お前に利用され、あんな残酷な死に方をした彼女を…貴様は、貴様という奴はッ!」

「…ハァ~。君…というか『ジョースター家』の人間はどうしてそうも『誇り』とかを大事にするもんかねぇ~?人間死んだら血の詰まった肉の袋なんだよ?そんなのどう使おうが別にどうってことないじゃない?」

「貴様ァッ!!」

「お、おい!置いてけぼりにすんなって!」

「苗木!貴様が『ジョースター家』の人間とはどういうことだッ!それに貴様、あの死体が誰なのか知っているのかッ!?戦刃の事といい、貴様はどこまで知っている!?いい加減に白状しろッ!!」

 事態について行けないあまり切羽詰まった表情で問い詰める十神。しかしその言葉は、この場の皆に共通する言い分らしく皆不安げな顔つきで苗木を見つめる。そんな様子を見て、苗木は怒りを抑えてモノクマに言う。

 

「…そうだね。だったら全部ハッキリさせようか。このコロシアイ学園生活の事も、希望ヶ峰学園の事も、人類史上最大最悪の絶望的事件の事も、そして…僕自身と、お前の正体もな!」

『ッ!?』

「…!」

 力強いその宣言に皆が驚きの表情を浮かべ、モノクマの雰囲気もどこか張りつめたものに変わる。

 

「しょ、正体って…苗木っち、黒幕が誰なのか知ってんのか!?」

「ああ。…というか、もう皆にも見当がつく筈だよ」

「え?」

「この事件の犯人は、『超高校級の絶望』の異名を持つ人物とその協力者。その内一人は戦刃さん。そしてその戦刃さんは今の今まで、『江ノ島盾子』として僕らと行動を共にしていた…だったらさ、本物の『江ノ島盾子』は何処に行ってしまったんだろうね?」

「ハァ?そそ、そんなの…最初から居なかったんじゃあ…?」

「…そういうことかッ!」

「へ?」

「いいや、モノクマが言っていただろう?この学園に生きて足を踏み入れたのは『16人』の高校生。…最初に生きて出揃っていたのは『15人』、戦刃さんを16人目とするなら、江ノ島さんが元から居なかったというのでは数が合わない。つまり、江ノ島さんは僕らが初日に体育館で顔を合わせた時点でこの学園に居たんだよ。…ここまで言えば、もう分かるでしょ?」

「……」

「江ノ島盾子は確かに存在する。けれど、今まで江ノ島さんと思っていたのは戦刃さんだった。…そうなると、この学園で未だに生きていると考えられる存在は、もう一人しかいない…!」

 苗木はモノクマに指を突き付け、宣言する。

 

 

 

 

 

「…黒幕。即ち、モノクマの本体にして真の『超高校級の絶望』…すべての元凶となった本当の『敵』……それがお前だッ、『江ノ島盾子』!」

 

 

 その宣言に、モノクマはしばし沈黙を保ち、やがて

 

 

「…くっくっく」

 そんな笑い声が漏れ出した。

 

「…おめでとう。これでやっと『第一幕』が完結したね」

「…第一幕?」

「そうさ。…終わらないよ、こんなもので終わらせられないよ。この舞台は、全てこの時の為にあったのだから…」

 その言葉と共に、モノクマの周囲にドライアイスらしき霧が立ち込める。そして、その霧が濃くなりモノクマのシルエットが朧げになった、その瞬間。

 

ボウンッ!

 爆風と共に霧が吹き飛び、モノクマの立っていた場所に代わりに立っていたのは

 

「…待っていたわ。私様はこの時をずっと待っていたのですよ!『希望』を信じる者どもが無い知恵絞って『絶望』の真実に辿りつく、この瞬間をね…!」

 それは、見せブラがちらりと見える改造制服に革のパンツと、服装こそ違うものの先ほどまでの戦刃と瓜二つの容姿であった。…が、たとえどれほど似通っていようともそれは戦刃とは全く違う存在であった。髪留めがリボンではなくモノクマのヘアゴムだとか、スタイルが良いとか、顔にはそばかすが無いとか、そういう問題ではなかった。

 

「これで『第一幕』はようやく閉幕という訳だよね。だったらさ、いよいよ『第二幕』を始めるとしようじゃあないか?」

「第二幕…だと!?」

「そうッ!今までのあれこれはぜ~んぶ『前座』!この学園生活の本当のクライマックスは、これより始まる第二幕、『絶望』の真実への到達を持って完結する物語なんだよッ!!」

 全く違っていたのは、その『眼』であった。狂ったようにころころ変わる口調や動作の中でも、一切変わることのないその瞳は、目に映るもの全てを否定するかのような、どこまでも『無関心』なものであった。

 

「ぜ、前座って…何よそれ…?」

「…相変わらず推理組を除けば察しの悪い連中ですね。だったらハッキリ言って差し上げましょう。正直、私にとってあなた方の誰が死のうが、この『結果』にさえ到達してくれさえすればどうでも良かったのですよ」

「なッ!なんだべその言い方はッ!俺たちゃモノじゃあねーんだぞッ!」

「ええ、あなた方はモノじゃあありません。…『駒』です」

「こ、こま…?」

「はい…。この計画において皆さんは…私の思い通りに動く『駒』でしかありませんでした。…もっとも、当初の計画では生き残るのは精々5~6人程度だと想定していましたが…、まさか半数以上が生き残るとは想定外でした…」

「あ、アンタ狂ってるわよ…!」

「狂ってる?…ああそう、アンタたちから見ればそう思えるかもしれないかもね。でもさ、それっていわゆる『一般的』な常識の価値観から見ればでしょ?だったらさ…、今私が思っている常識が『一般的』になってたら、狂ってるのはアンタたちの方ってことになるよね?」

「何を…言っているの…!?」

「アレ?今の結構なヒントだったんだけどな~。残姉ちゃんなら分かるっしょ?アタシの言ってる意味がさ?」

「……盾子ちゃん」

「残…姉ちゃんって、もしかして…」

「そう!アタシとむくろは双子の姉妹なのさッ!…あ、苗字違うとかのどーでもいい説明は無しな!」

「つーかお前キャラ変わり過ぎだべ!?」

「絶望的に飽きっぽいんだよ!だから自分のキャラにも飽きちまうんだよッ!慣れろ!ボケ共ッ!」

「…御託はいい。いい加減に話を戻すぞ」

「ん~、そうだね。…ではこれよりコロシアイ学園生活第二幕、『絶望の真実』編へと突入しま~す!その始まりとなるのは、この私様の華麗なる挨拶!私様こそが、『超高校級の絶望』シスターズの妹、体力自慢の姉『戦刃むくろ』と対を成す、可愛くて天才で、しかも妹というポジションの私、『江ノ島盾子』ちゃ~んッ!アーッハッハッハッハ!!」

 ノリのいい自己紹介の後にジェノサイダーを髣髴とさせるような馬鹿笑いをする江ノ島。その圧倒的すぎる存在感に、その場の誰もが言葉を失っていた。

 

「…さ~て、自己紹介が済んだところでさっそくお待ちかねのネタバレタイムに入るとしましょ~か?」

「…ッ!」

 ひとしきり笑って平静に戻った江ノ島のその言葉に、唖然としていた皆も表情を改める。

 

(…ここからが本当の勝負。江ノ島さんからすれば、これからの事も全て『想定内』の範疇だろう。だけど、それでも避けて通るわけにはいかない。たとえ『真実』がどれほど残酷で絶望的であったとしても、それから目を逸らしてはいけない…!『真実』と向き合い、それを乗り越えた先にこそ、本当の『希望』があるのだから…!)

 これから起こりゆる事態に気を引き締め直し、苗木はそれを促す。

 

「…ああ。始めようか、全ての『真実』を明らかにするんだ…!」

 




今回ここまで。事件の核心に関してはこの小説なりのアレンジを加えているため若干分かりづらいかもしれませんが、その辺は番外編で補完させていただきます

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