ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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やっぱりみなさん日常系が好きですか?


再会と救出

 瀕死の苗木をディアボロ魔の手から救ったのは、死んだ筈の舞園さやかとそのスタンド、かつて苗木だけでなく、アバッキオやナランチャからも絶大な信頼を寄せられていた男、ブローノ・ブチャラティのスタンドの筈だった『スティッキー・フィンガーズ』であった。

 その事実に、先ほどまで一心不乱に祈っていた観覧席の面々も驚きを隠せない。

 

「え、え!?ほ、ホントに舞園ちゃん!?」

「苗木っちを助けたところからしても、偽物じゃあなさそうだべ。けど…」

「そうだ、奴はあの最初の事件で死んだ筈だ!それが何故生きている!?何故今になって現れた!?」

「や、やっぱりゾンビよ!アイツはゾンビなのよぉーッ!!」

『ブチャラティだ!あれはブチャラティだぜアバッキオォーッ!』

『ああ、そうだ…!アイツもやっぱり戻って来てたんだッ!』

「…『エアロスミス』、『ムーディ・ブルース』、何を話してるの?」

「…一体、何が起きたというの…?」

 混乱する観覧席とは裏腹に、闘技場で舞園と向きあうディアボロは驚きよりも怒りの方が圧倒的に強く出ている顔つきで舞園と『スティッキー・フィンガーズ』を睨んでいた。

 

「貴様らッ…!この俺をここまでコケにしておいて、生きて戻れると思うなよッ!また地獄の底に叩き落としてやるッ!!」

「…ッ!」

 本物のギャングが発する殺気に若干怯みながらも、舞園は毅然とした態度でディアボロを正眼に構える。

 

「貴様らにも味わわせてやる…、この俺の新たな力…!世界の理すらも及ばぬ『ディスペアー』の力をなッ!!」

 そう言ってディアボロは再び己のスタンド能力を発動させようとする。

 

「『キング・クリムゾン…』」

『おっと、待ちなディアボロッ!』

「ッ!?」

 それに待ったをかけたのは、舞園の隣に佇む『スティッキー・フィンガーズ』であった。

 

「…何だ?今更命乞いか?」

『いーや、その必要はない。その必要はまったく無い。俺はただ忠告してやろうと思っただけだ』

「忠告?忠告だと?」

『そうさ、このままアンタが死ぬのを放っておくのは大いに結構だが、アンタらにはまだやってもらうことがあるんでね。だから忠告してやろうと言ってるんだよ』

「…死ぬ?この俺が死ぬだとッ!?貴様、下らん御託でこの俺を丸め込めるとでも思ったか!?どうやら一度死んで頭がイカれたようだな…!」

 怒り心頭のディアボロに対し、『S・フィンガーズ』はやれやれといった様子で話し出す。

 

『まあ聞けよ。…お前の進化した『キング・クリムゾン』の能力、遠巻きにだが見せて貰った。…正直お手上げだ。今の俺たちじゃあひっくり返っても指先一つ掠れそうにない。お前が俺たちを殺すことなど、赤子の手を捻るよりたやすいことだろう』

「……」

『…だがな、ディアボロ。俺たちがいるココは何処かは分かってるよな?』

「…希望ヶ峰学園、だろう。何が言いたい…!」

『そうだ、正確には、お前らが定めたルールが存在する希望ヶ峰学園だがな…。確かお前らが決めた校則はこうだったよな、『殺人が発生した時点で、学級裁判が成立する』と…』

「何…?」

『つまりだ、ここで俺たちをお前が殺せば、その時点で学級裁判が行われることが決定するわけだ。…あそこの観覧席で見ている連中の前で、お前が俺たちを殺した場面を目撃された状態でな…』

「…ッ!」

『お前の事だ、そうなれば当然目撃者を消そうとするだろう。だが校則で定められている一人が殺せる人数は2人まで。それ以上殺せば、お前は自分が定めた校則によって死ぬことになるぞッ!』

 

「…!あのスタンド、奴の定めた校則を逆に利用して行動を抑制するつもりか!」

「おお!ナイスアイディアだべ!」

 感心する観覧席に対し、ディアボロはそんな忠告を鼻で笑う。

 

「フン、何を言い出すかと思えば…この俺の手で止めは刺せなかったが、苗木誠は確実に死んだ!もうこんな小さな箱庭にもそのルールにも用はないッ!そんなものにこの俺が行儀よくいつまでも従っていると思っているのか!?」

 しかし、そんな反論にも『S・フィンガーズ』は揺るがない。

 

『…ああ、確かにお前だけならそうしていただろうな。だが…もう一人の方はどうかな?』

「何…?」

 

「もう一人…?」

「あいつ…何を言っているの?」

 

『これだけの綿密な計画と完成された舞台…おそらくこのコロシアイ学園を計画したのはお前ではなくもう一人の方だろう。そして、ここまで徹底したルールを設定してる以上それに対するこだわりもまた並ではない筈だ。計画にただ乗っかっているだけの貴様と違い、自分が用意したこの世界のルールを簡単に破ることを、もう一人がそうそう認可するとは思えんがな…!』

「…フン、何を馬鹿げたことを…!アイツと俺の利害は一致している!この俺の意志こそが奴の意志だッ!俺の行動を奴が認めん訳が…ッ!?」

 余裕の表情で嘲笑っていたディアボロであったが、突如としてその笑みが強張る。

 

「…ッ貴様…ッ!?や、やめろ…こ、この俺を…このディアボロを蔑ろにするつもりかッ…!」

「…どうしたんでしょう?」

『…大方、いい加減に堪忍袋の緒が切れたんだろう。アイツの好き勝手も度が過ぎたようだな』

「グッ…!ま、待て…あとこいつらだけなのだ…!こいつらさえ消せば、もうこの俺の『絶頂』を脅かす者はいない…ッ!もう俺は落とし穴に落ちることは無くなるのだッ…!」

 自分を乗っ取り返そうとするこの肉体の本来の持ち主に、ディアボロは必死で抗おうとするが、そいつは知ったことではないとばかりにディアボロに吐き捨てる。

 

『…勘違いしてるんじゃあないよ、アンタはあくまでアタシの奴隷。生かしておいてはやるけどアタシの邪魔をしていいなんて一言も許した覚えはないよ。…それと言っておくけど、アンタはもうとっくに穴に落ちてるの。所詮アンタは私が降ろしてやった蜘蛛の糸に縋りつくカンダタでしかないの。悪人風情が『絶望』に意見しようだなんて10万年早いってんだよ…!』

「ぐ…、き、貴様ァ…ッ!」

 頭を押さえて苦悶の表情を浮かべながら、ディアボロはふらふらとした足取りで出てきた入口へと姿を消していった。

 

「あ…!」

『追わなくていい。今あいつらが仲たがいしているのは俺たちと闘うか闘わないかだ。みすみす連中の目的を一致させてやる必要はない』

「…はい」

 追撃をかけようとした舞園を『S・フィンガーズ』が制する。とその時モニターにモノクマが映し出される。

 

『…いやー、ごめんね!家のディアボロ君がはしゃいじゃってさあ。ま、お詫びって訳じゃあないけど、舞園さんのことは特に何もしないでおいてあげるよ!…さて、苗木君という尊い犠牲の甲斐あってもう事件が起きることはなくなりましたね!ま、と言って出してあげる訳じゃあないけど…。では皆さん、明日の朝まで、ごきげんよう…』

 そう言い残し、苗木の死と言う現実に再び沈鬱となった皆を残して、モノクマは画面から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディアボロが居なくなった後、闘技場を後にした皆は脱衣所にて舞園と再会していた。

 

「…皆さん、お久しぶりです」

「舞園ちゃん…なんだよね?ホントに…?」

「はい、舞園さやか、本人です!」

「…ッ!や、やっぱり本物だべ!」

「み、皆離れなさい!こ、こいつはゾンビよ!噛まれたらアタシたちもゾンビになっちゃうわよ!」

「ゾンビじゃないです!ちゃんと生きてますよ!」

「…江ノ島」

「…レーダーにはちゃんと映ってる。呼吸をしているから生きていることは間違いないよ」

「ほら、言ったでしょ!」

「…ならば聞くが、どうやってあの状態から生き返った?それに、生きていたのなら何故今まで姿を現さなかった?」

「…その話の前に、やるべきことがありますよ」

「…やるべきこと?」

 怪訝そうな顔をする一同に、舞園はさも当然のように断言する。

 

「決まってます!…苗木君を助けに行くことです!」

『!?』

「た、助けに行くったって…」

「あ、あいつはもう…」

「生きてますよ」

「…え?」

「苗木君は、生きてます。間違いありません」

「…何故そう言い切れる?」

 舞園はその問いに対し迷いなく答える。

 

「…エスパーですから」

「…は?」

「貴様…、頭の方は生き返ってはいないようだな」

「冗談なんかじゃあありません。私には分かるんです、苗木君は、絶対に死んでなんかいないって」

「…根拠は何?」

「苗木君の才能は何だか、忘れちゃったんですか?」

 舞園の問いに、皆一瞬考え込むがすぐにその答えを思いだす。

 

「『超高校級の幸運』…!」

「…苗木君は、今まで物凄く頑張ってきました。それは皆さんも知っている筈です。そんな苗木君を、『超高校級の幸運』がこんな時に見捨てる筈がないじゃあないですか…!」

『アイツの本来の『才能』に比べればちゃちな物だが…、こんな時ぐらいは働いてもらわないと困るというものだ』

 舞園とそのスタンドの余りにも非現実的な理屈に思わず否定しそうになるが、皆もその気持ちは同じである為に頭ごなしに否定できずにいた。

 

「…江ノ島さん、『エアロスミス』のレーダーはどれくらいの範囲まで広げられるの?」

「え?」

 霧切からのいきなりの質問に、戸惑いながらも江ノ島が答える。

 

「い、一応半径4~500mぐらいが限界だけど…?」

「…そう、なら目いっぱいにレーダーの範囲を広げてこの下の反応を探って頂戴」

「下って…」

「苗木君は下に落ちたのでしょう?だったら生きているのならこの下のどこかにいる筈よ。…お願い、できるだけ早く…!」

「…!わ、分かった!ちょっとだけ時間を頂戴!…ナランチャ!」

『おう!合点だぜぇ~!』

 江ノ島はすぐさま『エアロスミス』のレーダーを展開し、集中した表情で下の反応を探る。

 

「…さて、江ノ島が探している間に聞かせろ。お前に何があったのかをな…」

「…そうですね。ではお話しします。…あの時、私は桑田君を殺そうとして、逆に反撃を受けて殺された筈でした。けれど、苗木君が自分の命を削って私に生命エネルギーを与えてくれたおかげで、体は動かなかったけど意識だけはかろうじて保ったままでいられました。そして…」

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗くて狭いどこかで、舞園さやかは動かないままぼんやりと考えていた。

 

(…私、何やってんだろ。あんなものを見せられたとはいえ、桑田君を殺そうとして、逆に殺されそうになって、苗木君が命を懸けて治してくれたっていうのに、こんなところで何もできずにいて…)

 舞園は後悔していた。覚悟を決めてやったことがなにもかも裏目に出て、結局苗木を困らせるだけでなにも変わらなかったことに。

 

(…あはは、私ったら本当に最低な女ですよね。桑田君の好意も苗木君の優しさも全部裏切って、…それで自分が死んでたら馬鹿みたいですよ。ハハハ…)

 舞園は、もう諦めかけていた。いくら意識があったとしても、体が動かない以上どうすることもできない。もう自分の体がこの狭くて暗い箱のような空間の中で朽ちていくのを待つことしかできないことに、絶望していた。

 

(もういいや。…なにもかも、どうでも…。もう、このまま…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…そうやって諦めるのか?)

(ッ!?)

 突如として割り込んできた声に舞園は再び正気に戻る。

 

(だ、誰ッ!?ど、どこにいるの!?)

(俺が誰か、どこにいるかなんて些細なことだ。今気にする必要はない。それより、今君には考えなければならないことがある筈だ)

(…考えること?)

 聞き覚えの無い男性の声に警戒しながらも、舞園は不思議とその声に素直に耳を傾けていた。

 

(今君は、自分の命を諦めようとしている。君はそれで本当にいいのか?)

(…もういいんです。こんな、最低な女が生きていたって、しょうがないじゃあないですか…)

(…苗木は君に、生きろと言ったんだぞ)

(…!)

 その言葉に、舞園のこころが揺れる。

 

(君がいくら自分の事を下卑しようがそれは勝手だ。だが、君に生きろと願ったアイツの心を裏切ることは、この俺が許さん。諦めたいのなら、俺が納得するそれ相応の言い分を聴かせて貰いたい)

(……)

 男の問いに対し、舞園は黙り込んでいたが、もし今舞園の体が動けるとしたら、きっと肩を震わせて何かを必死で抑え込もうとしていることだろう。

 

(…それで、聞かせてもらえないか?俺が納得するだけの、諦める理由とやらを…)

(…っさいんですよ)

(…ん?)

(…煩いって…言ってるんですよぉッ!!!)

 そしてついに、舞園の感情が爆発した。

 

(仕方がないじゃあないですか!桑田君を、皆を、苗木君を裏切って、それで死にかけて…そんな私がおめおめと戻ったところで、私の『居場所』はどこに有るっていうんですかッ!!)

(……)

(私だって…死にたくないですよ!まだアイドルを続けたいですよ!もっと友達と遊びたいですよッ!もう一度…苗木君に逢いたいですよッ…!)

(……)

(まだ…苗木君に、好きだって伝えてないのにッ…!死にたくなんかないですよ…。でも、今更戻っても苗木君が許してくれるわけがないじゃあないですか…!苗木君にまで見捨てられるぐらいなら…いっそ…!)

(死にたい…と?)

(……)

 舞園は答えない。だが、その沈黙が肯定であることを示していた。

 

(…舞園さやか、今の君の言葉確かに聞き届けた。その上で一つだけ言わせてもらいたい)

(……)

 そんな舞園に対し、男は一つ息を吐くとこう言い放った。

 

 

(苗木を値踏みするなよ、シニョリーナ)

(なっ…!?)

 予想外の言葉に舞園が驚く。

 

(アイツが君を見捨てる?そんなことはピサの斜塔が倒れるよりもあり得ないことだな)

(な、なんでそんな…!?)

(何故そんなことが分かる、か?…分かるさ。断言してもいい、アイツは底抜けのお人よしだ。裏切った相手だろうが余程のクソ野郎でもない限りまた平気で信用するマヌケと紙一重のお人よしだ。…そんなお人よしが、生きたい、外に出たいという強い意志をもって行動に出た君を恨むと思うか?答えはノーだ。アイツはきっとこう言うぜ、『君が自分でそう決めてやったことなら、僕にそれを咎める権利はない。君の命は君のものだ。どう使うかは君の自由。もしそれに後悔しているのだったら、もう一度やり直せばいい。僕も手伝うからさ』…ってな)

(あ…)

(君が帰る場所は、きっとアイツが創ってくれる。だから君は、アイツを信じて諦めるな。どうかアイツの『希望』に、応えてやってくれ…!)

 心からの願いを吐露するかのような男の声に、舞園はしばし考え、そして言う。

 

(…そう、ですね。歩き出す前に諦めてたら、ホントに苗木君に呆れられちゃいますからね!…分かりました、私、生きます!)

(…それでいい。君はアイツの傍に居てやってくれ。もう戻れない、俺の代わりにな…)

 その声を全て聞き取る前に、舞園の意識は遠くなっていった。

 

 

 

 

 

 

バチィッ!

 暗闇で眠る舞園の体に一瞬電流のようなものが流れる。そして、それから間もなく、舞園の動かなかった指が、ピクリと動いた。

 

「………ん」

 可愛らしい呻き声と共に、舞園さやかは数日を経て覚醒した。

 

「…あれ、ここ…?そうだ…私は、戻らなきゃ…」

 硬直状態が長かったが故に眼も開かず体を動かすのも一苦労であったが、ゆっくりと感覚が戻っていくにつれそれの原因が他にもあることに気が付いた。

 

「…え?な、なんですかここ…?すごく狭い…、まるで箱の中…っていうか寒い!?すごく寒いですここ!?」

 そう、舞園がいたのは人一人がちょうど収まるような長方形の空間であり、身じろぎひとつするも難しいような場所であった。おまけにそこはまるで冷蔵庫の中にいるかのように寒く、体の感覚が戻るにつれますます寒さで体が強張っていくのが分かった。

 

「ど、どうしましょう…?戻るにしてもこんな所からどうやって出ればいいんですかぁ…?」

 寒さに肩を抱きながら途方に暮れる舞園。

 

 

『…やれやれ、目覚めたら目覚めたで手のかかるシニョリーナだ』

 そんな彼女に、またあの男の声が聞こえてくる。

 

「えっ?今の…どこ?どこにいるんですか!?」

『おいおい落ち着きな。…君のすぐ真上にいるじゃあないか』

「へ?真上…?」

 舞園がふと真上を見上げると、そこには人型の存在が舞園に寄り添うように浮いていた。極めて人に近い体を持ち、体中にジッパーを張り付けニット帽を目深に被ったような頭部をした存在であった。

 

「…ふぇっ!?な、なんなんですかあなた!?誰なんですかぁ!?」

『だから落ち着きなって。…俺はスティッキー・フィンガーズ。君のスタンドだ』

「すた…んど?」

『ああ、そこからか。スタンドっていうのは…なんて言うか、持ち主の精神ビジョンの現れ…まあ君の分身みたいなものだ』

「私の…分身?あなたが…?」

『まあ俺の場合は少し事情が違うんだが…、そこは今は置いておくことにしよう。とにかく、俺は君の味方だ。それだけは間違いない事実だ』

「…はあ、そうですか…」

『…なにはともあれ、まずはここから出るとしよう。こんなところにいつまでも居て凍死したんじゃあ笑い話にもなりはしない』

「え?でも…どうやって?」

『スタンドにはそれぞれ固有の能力が存在する。そして俺の能力を使えば、こんな所から脱出するのぐらい訳ないさ。…えーと、さやか、でいいかな?君の頭の上に壁のようなものがあるだろう』

「壁?…これ…ですか?」

 『S・フィンガーズ』に言われるがまま舞園が頭上を探ると、奥になにやら金属製の壁のようなものがあるのが分かった。

 

『ベネ(良し)、じゃあそれを思いっきり殴ってくれ。ぶち破るぐらいのイメージでな』

「え!?そ、そんなの無理ですよ!」

『大丈夫だ、言ったろ?能力があるって。大事なのは君のイメージだ。思いっきりブッ飛ばすッ!!…っていうイメージさえあれば、能力はしっかり発動するさ』

「そ、そうですか。じゃあ…」

 よく分からないまま、舞園は頭上の壁に向かって腕を引き

 

「…えいッ!!」

ガンッ!

 力の限りぶん殴った。

 

「ッ痛…くない?なんで?」

『…よし、もういいぞ。ゆっくりと壁の方に進んでくれ』

「…ホントに大丈夫なんですか?」

 半信半疑ながらもいい加減寒さにも限界だった舞園がダメもとで壁の方に仰向けのまま這っていくと

 

「…っとお!?わ、わ、わ!?」

 壁のあった筈の場所がをすんなりと体が通過し、勢い余って彼女は頭から落下してしまった。

 

「~ッ!」

『だからゆっくりと言ったろうに…』

「そ、そんなこと言ったって……ッ!?」

 目元に涙を浮かべながら起き上がった舞園は、今しがた自分が出てきた壁…よく見れば扉であったがそこにあるあまりにも不自然なものに目を奪われる。

 

「これって…ジッパー?」

 そう、鋼鉄製の扉の中央に張り付けられ、ぱっくりと口を開いていたのはズボンやジャケットを閉めるのによく使われているジッパーであった。

 

『そうだ、ジッパーで外と内をつなぎ、対象を切断することもできる。それが、このスティッキー・フィンガーズの能力だ』

「す、凄い…まるで通り○けフープみたいです…」

『…身の蓋もない言い方だがまあそういう解釈で結構だ』

「あ、ごめんなさい。…ところで、ここは…?」

 舞園が放り出されたのは、未だ誰も到達していない生物室兼死体安置所であった。もっとも、彼女はそんなことなど知る由もなかったのだが。

 

『…どうやらここは死体安置所のようだな。まあ、さっきまで死人扱いだった訳だし不思議ではないがな』

「…でもあんまり気分がいいもんじゃあないですね。…あれ?ってことは…ここにあるのってまさか!?」

 舞園が愕然と振り返ってみたものは、自分が出てきた物を含めたずらりと並んだ安置カプセルの数々。

 

『…今俺たちが出てきたところからして、どうやらランプが点いているヤツに死体が入っているようだな。今点いているのは俺たちのを含めて5つ…!』

「よ、4人も死んだんですか!?あれから!?」

『そうらしいな…』

「そんな…」

『…気持ちは分かるが、さやか。今俺たちはここで聖句…日本なら念仏か、を唱えている場合じゃあないぞ』

「…そう、ですね。皆さんには悪いですけど、今どんな状況なのかを把握しなきゃいけませんものね」

『ああ。幸いなことに俺の能力はこういう場所での探索には向いている。モノクマとやらに見つからないよう、慎重に、迅速に調査を始めるんだ』

「…はいッ!行きましょう、『S・フィンガーズ』!」

『ああ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…って訳で、今までずっと皆さんとは別に学園内を探索して回っていたという訳です」

「いやいや!超展開すぎるべよ!!」

「り、理解不能理解不能ォッ!?」

 舞園からの説明を聞いた一同であったが、余りにも突拍子過ぎる内容に理解が追いつかない。

 

「…今は時間が惜しい、詳しいことは後で聞くが…一つ聞かせろ、お前は独自で調査をしていたと言っていたが、どこまで知っている?」

「…一応、霧切さんが探索していたところは私が前もって調べて回ったので、霧切さんと同じぐらいの事は知っているつもりです」

「ッ!じゃあ、あれは貴女の…」

「はい。大神さんが自殺する間際にも彼女に会いました」

「さくらちゃんにも…!?」

 

 

 

 

 

 

 それは、大神が自殺する直前の事であった。

 

「…もう邪魔は入らぬか。では、ケジメをつけなければな…」

 朝日奈を追い出した大神が意を決して毒を呷ろうとした時

 

「…待ってください!」

「ッ!!?」

 そんな叫びと共に天井に穴が開き、そこから飛び出た何かが部屋の監視カメラを叩き壊す。そして、その穴から今度は大神にとって驚愕の人物が現れる。

 

「お主は…舞園さやか!?」

「…はい、お久しぶりです、大神さん」

 現れた人物、舞園さやかは真剣な面持ちで大神にそう挨拶する。

 

「何故、お主が…!?」

「苗木君が私の命を繋いでくれました。だから私はここにいます。そんなことより…大神さん、死ぬなんてことはしないでください!大神さんが居なくなったら、皆が悲しみます!」

「…舞園さやかよ、それは出来んのだ」

「ッ!どうして…?」

「これはケジメなのだ、我と黒幕との因縁を断ち切るためのな。我が死ななければ、皆はこれから我と言う弱点を抱えたまま黒幕と闘っていくこととなる。それは避けねばならん。故に我は今ここで死ぬ必要があるのだ」

「……」

『…苗木達は、それを望みはしないぞ』

 今度は『S・フィンガーズ』が大神を制止する。

 

「…!それがお主のスタンドか」

『ああ、スティッキー・フィンガーズだ。…シニョーラ大神、あなたは誇り高い武人だ。その思いは俺も分からないでもない。だが、君の死を望まぬ人がいる限り、君はまだ死ぬべきではないと思うのだが…』

「…いや、駄目なのだ。我の武道家としての誇りの為に、そしてこれから辛い戦いを強いられる友の為にも、我と言う足枷は置いていかねばならん。…舞園さやかよ、最期にお主と会えて良かった。学園長室の鍵を壊しておいた。我に代わって、皆の力になってやってくれ…」

「…」

『さやか…』

「…分かってます、今の私には分かります。大神さんがどれほどの決意を持っているのかと言うことが…。だから、もう止めません。…さよなら、大神さん」

「ああ、お主も壮健でな…」

 遠くから聞こえてくる朝日奈のものであろう足音を感じながら、舞園は足早にその場を立ち去った。後に残された大神は、ソファーにどっかりと座り、どこか満足そうな笑みを浮かべながら

 

「…まだ『希望』はある…!」

 毒を、呷った。

 

 

 

 

 

 

「…そんなことが」

「ええ…、大神さんのおかげで、私は皆より早く情報を得ることができました。それに、モノクマが監視している間は私でも自由には動けなかったので、『S・フィンガーズ』の能力で異空間を創ってそこに隠れながら皆さんの動向を観察していたので、今までに何が起こったのかも大体わかっています。…そうそう!皆さんに紹介したい人がるんですよ!」

「紹介…?」

「多分皆さんも知っている人ですよ!」

 そう言って舞園が取り出したのは、玄関ホールにあった筈の舞園の電子生徒手帳だった。

 

「それ…!」

「はい、隙を見て持ち出してきました。これが無いと色々不便ですから…じゃあ、出てきてください!」

 舞園が電子生徒手帳を起動し、画面を皆に向けながらそう言うと

 

 

『…ジ…ジ…』

 一瞬のノイズ音と共に

 

『…やあ皆!また会えてうれしいよ!』

 不二咲千尋の顔が映し出された。

 

「…ええーッ!!?」

「こ、これって…!?」

「アルターエゴ…!」

『うん!そうだよ!』

「で、でもアルターエゴちゃんて…死んだんじゃ…?」

『うん…、確かに僕のメインシステムの入ったパソコンは壊されちゃったよ。けど、ネットワークを調べているときに偶然舞園さんの映った監視カメラの映像を見てね、プログラムのコピーを創って舞園さんの電子生徒手帳に転送しておいたんだ!それが僕なんだ!』

「…フン、随分と都合のいいことだな」

「やめろって十神っち!また罠かと思うじゃあねーか!」

 もう一つの思わぬ再会に沸き立つ中、舞園がそっと朝日奈の耳元に口を寄せ呟く。

 

(…さっきも言いましたけど、私色々と隠れてみてたんです。だから私知ってますよ、朝日奈さんが苗木君に抱き着いてたこと…)

「ふぇッ!?」

(霧切さんや江ノ島さんも本気みたいですけど…私、負けませんから!)

「え!?ちょ…そ、それは…」

 朝日奈に宣戦布告をする舞園を、『S・フィンガーズ』は微笑ましげに見ながらも思案していた。

 

(…しかし、彼女はどうして生き返れたのだ?何が起きたかは分かる、おそらくあの時の俺と同じことが彼女にも起こったのだろう。だが、今回彼女は完全に蘇生している。多少のタイミングの差があったとはいえ、『ゴールド・E』にはそこまでのパワーは無かった筈だ。…『何か』があるのか?今の苗木の『ゴールド・E』に、あの時は無かったスタンドの限界を超えるような『何か』が…?)

 その時、

 

 

「…見つけたッ!!」

 江ノ島が喜色を帯びた叫びを上げる。

 

「えっ!?苗木見つけたのッ!?」

「どこにいるの…!?」

「…大体400mぐらいの地下に、小さな反応が二つある…」

「…二つだと?」

「うん。一つは大きいけど弱い反応…多分これが苗木君のだと思う。もう一つは、反応は小さいけど結構活発…まるでネズミみたいな…」

「ネズミ?…あーッ!思い出したべ!確か苗木っち今朝の時見つけたモノクマの爆弾をネズミにしてトラッシュルームの下にやったって…」

「じゃ、じゃあ苗木はトラッシュルームの下にいるんだね!」

「けど反応がかなり弱ってる…このまま放っておいたらすぐに死んじゃう…」

 と、そこまで言いかけて江ノ島がその場に膝をつく。

 

「だ、大丈夫?」

「も、問題ない。少し疲れただけ…」

『無理すんなって!エアロスミスのレーダーをあんなに長時間徹底的に使ってたらスタンドパワーも限界だぜ。少し休んどけよ!』

「で、でも苗木君を助けに行かなくちゃ…」

「大丈夫です!私が行きま…」

「私が行くわ」

 舞園を遮って名乗りを上げたのは霧切であった。

 

「霧切っち!?」

「…何故霧切さんが?能力的には私の方が適任だと思いますけど?」

「だからこそ、よ。あなたの能力を知っている黒幕があなたが長時間姿を見せないことに不信感を抱かない筈が無いわ。まず間違いなくどこかで邪魔が入る筈。…今あなたを失う訳にはいかないわ」

「…そう、かもしれませんけど…」

「でも、それじゃあ霧切ちゃんが危ないよ!」

「覚悟の上よ。…あなた達だって、それぐらいの覚悟はあるでしょう?」

「…フン」

「それに、これは私がやらなければいけないの。…元々あの裁判は私を陥れるためのもの。その裁判で彼が危害を被った以上、私には彼を助ける義務があるわ。これは私の、…『超高校級の探偵』としての誇りの問題よ」

 突如霧切が言い放ったカミングアウトに、皆が驚愕の表情を浮かべる。

 

「超高校級の…探偵!?」

「…それが、お前の才能か…!」

「ど、道理で…」

「ってことは…霧切ちゃん思い出したの!?」

「…ええ、まだ全てとは言えないけれど、少しずつ思い出してきているわ。だからこそ、私が行かなければならない。記憶を、誇りを取り戻した以上、私は苗木君に報いなければならない。それが、今の私にできる唯一の事なのだから…!」

 




今回ここまで

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