ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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30日…ダンロンの舞台の出来が予想以上だったのでテンションMAX
1日…たまたま見に行った弟の学祭に富永TOMMY弘明さんと橋本仁さん出現。生声による『ジョジョ~その血の運命~』と『STAND PROUD』により俺のテンション臨界点突破
今…後先考えず続き投下

…書き溜め進んでないのにやってしまった。後悔はしていない


黄金の落日

「苗木くぅぅんッ!!!」

 江ノ島の絶叫も虚しく、苗木はぽっかりと空いた落とし穴の中に落ちていった。

 

「……」

「…チッ!」

 皆がそれを悔しそうに見やる中、突如江ノ島の周りの空気が変わった。

 

「…誰だッ…!苗木君を指名したのはッ!!」

「え、江ノ島っち…?」

「あ、あんたどうしたの…?」

「答えろッ!!」

「ひいっ!」

 殺気と怒気を隠そうともせず、とても『超高校級のギャル』がするとは思えないような怒りの形相で江ノ島が皆に詰め寄る。

 

「…それを知って、どうするつもりだ?」

「…殺してやるッ…!」

「えっ!?」

「苗木君をクロに選んだお前らを、苗木君を殺したお前らを、私が殺してやるッ!!」

 瞳と言葉に殺意を込め、江ノ島は『エアロスミス』の銃口を十神達に向ける。突然の殺害宣言に十神達も思わずスタンドを展開して身構えながらも説得しようとする。

 

「え、江ノ島ちゃん落ち着いて!話せば分かるから!」

「黙れッ!苗木君を殺したお前たちを、私は絶対に許さないッ!!」

「…どうやら話し合いの余地はないようだな」

『お、落ち着けってジュンコぉ~!』

「煩いッ!ナランチャだって悔しいでしょう!」

「…ナランチャ?」

『そ、そりゃそうだけどよぉ~…』

 本体の精神の現れである筈のスタンドにすら諌められるが、それでも彼女の怒りは収まらない。しかし、そんな彼女に底冷えしたような声が投げかけられる。

 

「…江ノ島さん、落ち着いて…」

「あなたは黙ってて!霧切さんがやらないんだったら、私がこいつらを…!」

「…落ち着けと、言っているッ!!!」

「ッ!!?」

 彼女らしからぬ突然の大声の一喝に思わず江ノ島が驚きの表情で彼女を見る。そして声の主、霧切はというと…両の手をギリギリと力の限り握りしめ、唇を噛み切らんばかりに噛みしめ、その表情は怒りと後悔が混ざり合った表現しがたいものになっていた。

 

「迂闊だった…、苗木君の覚悟を見誤っていたッ…!まさか、彼がこんな強引な手段をとるだなんてッ…!!」

「どういうことだッ!?」

「…分かっていると思うけど、苗木君は今回の事件のクロではないわ」

「!やっぱり…!」

「…何を今更白々とッ…!」

「い、いやだってよぉ…誰か選ばねえと皆死んじまうし。それに、苗木っちがあんだけ自分を選べって感じしてたらさあ…」

「確かに、あれは露骨と言うには度を越していたな…。まるで自分がクロになることが分かっていたかのように…」

「…そうよ」

「へ?」

「あの裁判で、苗木君は自分が名乗り出れば黒幕が間違いなく自分をクロに仕立て上げるということを確信していた。だから彼は自らクロであると自白したのよ…」

「な、なんでそんなことが分かるのよぉッ!?」

「…彼は知っていた…いえ、私が教えたという方が正しいわね。…黒幕の目的が苗木君だということを…!」

「何だと!?」

「苗木っちが目的って…どういうことだべ?」

「黒幕のこのコロシアイ学園生活での真の目的の一つは、苗木君をここで殺すことだったのよ…!」

「そ、そんな!なんで!?」

「理由は分からないわ。…けれど、それだけはハッキリと断言できる」

「…何故お前がそう言い切れる?何か証拠でもあるのか?」

「…一昨日の晩、私は大神さんの遺書に遺されたメッセージを頼りに、学園長室に侵入したわ。そして、そこで戦刃むくろに関する事実を知った…」

「さくらちゃんが…!?」

「…だがそれが何だというのだ?」

「そこで私が知ったのは、戦刃むくろのことだけじゃあないの。…私はそこの資料を手当り次第調べてみたけれど、どこにも無かったのよ。苗木君に関する資料が…」

「え?苗木だけ…?」

「…まさか、あいつは元々この学園の生徒ではないということか?」

「いえ、この学園に居たという記述は残っているわ。けれど、それはあくまで記録として残っていただけで、彼のプロフィールから写真、それに彼の才能に関する資料だけが全部無くなっていたのよ」

「モノクマの仕業け?」

「そう考えるのが妥当ね。…けれど、ここまで徹底的に彼の情報を揉み消しているあたり、黒幕の苗木君への執着心は異常よ。おそらく殺すにしても、今までのような処刑器具を使った殺害ではなく、黒幕自ら彼を殺す可能性が高いわ」

「…そこまでの執着心なのか…!?一体なにが黒幕をそこまでさせる!?」

 その時、江ノ島がぽつりと言葉を漏らす。

 

「…『人間は、どれほど空腹であったとしても、目の前で百個のリンゴを食べられるより一個のメロンを食べられることに絶望する』…それが『あの子』の持論だった…」

『!?』

「だからこそ『あの子』は苗木君を選んだ…。数千数万の人間を殺すよりも、それを統率できるような『希望』の象徴を殺すことで、皆により深い絶望を与えようとしている…」

「…何を言ってる…。江ノ島、貴様は何を知っているッ!?」

「……」

「…江ノ島さん」

 意味深な言葉を呟いた後黙り込む江ノ島に、皆がその言葉の真意を問おうとする。

 その時、

 

 

 

 

チーン!

『!』

エレベーターから急にベルの音が鳴り、ひとりでに扉が開かれる。

 

「何…?乗れってこと?」

「もしかして、苗木っちの所に連れてってくれるんじゃあ…って早ッ!」

 エレベーターが開くなり霧切と江ノ島は我先にと乗り込んでしまった。

 

「何してるの、早く乗って…!」

「事情は後で話すから…今は、早く!」

「…チッ、おい行くぞ!」

「あ、うん!」

 仕方なく皆も追随してエレベーターに乗り込むと、エレベーターは再びひとりでに閉まり、さらに地下へと動き出した。

 目的の場所への到達を今か今かと待つ中、十神が霧切に話しかける

 

「…おい、この際江ノ島のことは後回しにしてやるが、これだけは聞かせろ。何故苗木は狙われてると知って尚わざわざ奴の術中に嵌ろうとする?明らかに自殺行為でしかないというのに、奴は何が狙いだというのだ?」

 十神の問いに皆がその答えを待っていると、霧切は苦虫を噛み潰したかのような表情で呻くように答える。

 

「…苗木君は、狙われていると知ったからこそアイツの思惑に乗っかったのよ。おそらく苗木君は今までのことから黒幕と自分の間に何か浅からぬ因縁があるということを感じている筈。苗木君はそれを確かめるため、…そして自分の手でその因縁を断ち切る為に自ら処刑されに行ったのよ」

「断ち切るって…どうやって?」

「苗木君がクロに決まれば、黒幕は自らの手で殺すために苗木君の前に姿を現す筈。苗木君の狙いはそれ…、黒幕と一対一で闘い、倒すために苗木君は行ったのよ…!」

「そ、そんな無茶だよ!」

 

チーン!

 そんな話をしているうちに、エレベーターが止まり扉が開かれる。

 

「苗木君ッ!」

 皆は駆け足でエレベーターから降りる。そこは、まるでホテルのロビーのような創りの部屋になっており、向かいにはガラス張りの窓が張られていた。

 

「お、おい皆!あそこだッ!」

 窓の外を見ていた葉隠に促され皆が外を見ると、そこは薄暗いもののすり鉢状になった客席がずらりと並んでおり、皆が要るそこはまるでドーム球場の展望席のような場所に存在していることが分かった。そしてその中央、薄暗い空間の中で唯一ライトで照らされているすり鉢の底に当たる部分には、鉄板が敷き詰められた床の上で膝をついて周りの様子を伺う苗木がぽつんと立っていた。

 

「苗木君ッ…!良かった、まだ無事だ!」

「おーい!苗木―ッ!こっち、こっちだよーッ!…あ、手振ったよ!」

「ふう、まだ死んでなくてよかったべ」

「…だが何なんだここは?ここが処刑場だとでもいうのか?」

「ま、まるでローマのコロッセオね…。案外決闘でもするつもりなんじゃあない…?」

「…まさか、そんな…」

 その時

 

バッ!

『!?』

 薄暗かった室内に、光が満たされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あつつ…糞、モノクマめ…。乱暴に放り出して…スタンドで受け身を取ってなかったら怪我してたぞ。…まあもとより殺す気のアイツにそんな気遣いを求めても無駄か…」

 一方、いきなり落とし穴に落とされた苗木はしばらく落下した後この空間に放り出されていた。間一髪のところでスタンドで着地したため怪我はなかったものの、自分のいる辺り以外が全て薄暗いこの空間は苗木の警戒をより強いものにしていた。

 

「…―い!苗木―…!こっちだよーッ!」

「ん?…あ、皆あそこに…」

 ふと聞こえてきた声に上を向くと観覧席らしき場所からこちらを見下ろす皆の姿を見つけた。皆を心配させないよう、苗木は軽く手を振って応える。

 

「さて…なんか妙な場所に連れてこられたけど…、奴は何処だ?黒幕を倒せるとしたらこの時しかない。前みたいに不意打ち喰らって即アウトなんて洒落にならないからな…」

 と、苗木が黒幕の存在を探していた時

 

バッ!

「ッ!?」

 突如として薄暗かった空間に光が満たされ、その場所…ローマのコロッセオを思わせるような闘技場の全貌を明らかにする。

 

「何だ…、ここは…!?…これは、コロッセオ!?」

 周りの様子に苗木が戸惑っていると

 

ザザザザッ!

 今度は空だった客席一杯にモノクマ…のハリボテが一斉に現れ、録音されたものであろう歓声や指笛の音が流れ出す。

 

「…何の真似だ、モノクマッ!」

 状況を理解できない苗木が思わず大声を上げる。すると

 

♪~♪♪~♪~

 今度はあちこちのスピーカーからファンファーレの音楽が鳴り響く。そしてその騒音の中で、苗木の正面にある入り口らしき穴の上から垂れ幕が降ろされる。そこには、イタリア語でこう書かれていた。

 

 

 

『Il ritorno del re』…『帝王の帰還』と…。

 

「帝王…?」

 

 

 

 

カツ…カツ…

「ッ!」

 その時、その垂れ幕の下の入り口の奥から靴音が聞こえてくる。

 

 

「…まさか本当に自らここに来るとはな…。やはり『アイツ』と組んだのは正解だったようだ。少々口やかましいが、『アイツ』の分析にはまさに寸分の狂いもない。この俺の手が届かないことろをよく補ってくれる…」

(…男の、声…!?)

 こちらに向かって来ているであろうその靴音の主は、そう若くはないであろう男の声であった。

 

カツ…カツ…

 

「貴様がこの俺との因縁を感じてここに来たというのなら…まずその執念には感心しよう。すべてを失った身でよくここまで来れたものだ、とな…」

「……」

 声が近づいてくるにつれ、苗木の警戒心もより強くなる。…いや、警戒心だけではなかった。苗木は感じていた。この声を聞くたびに湧き上がってくる、この抑えきれない怒りの衝動を。

 

カツ…カツ…

 

(なんなんだ…、こいつの声を聞くだけで…心がザワつく。感情がはち切れそうになる…僕はこの声を知らない筈なのに…いや違う、僕は知っていた筈だ、この声の主を…)

「だが、その思いが成就することは決してない。貴様はこの俺の逆鱗に触れ続けていたのだ。あのローマからずっとな…」

 声の主が、自分の上着の裾を持ち上げ、着ていたシャツごと脱ぎ捨てる。それと同時に、苗木は感じた。暗闇の中の声の主の生命エネルギーの雰囲気が、がらりと変わったことを。

 

(なんだ!?…いきなり生命エネルギーの様子が変化した!?けど、そんなことあり得ない…人間一人に生命エネルギーは一つ。それは決して変わることはない。一つの体に、命が二つでもありはしない限り…!?)

「そしてこの俺の怒りがやっと果たされる時が来たのだ…」

 暗闇の中から、その声の主が徐々に姿を現す。

 

(そうだ…、一つの体に二つの命…二つの人格!腐川さんとジェノサイダーのように、黒幕も二重人格者…)

 しかし、苗木の思考は黒幕の顔を見た瞬間に急停止し、全て消去される。

 

 

 

 

「…これは、試練だ。一度は地に堕ちたこの俺の誇りを取り戻す、試練と受け取った…!」

 暗闇の中から現れたのは、スマートな体躯の上半身を晒した、欧米系の顔つきのまるでカビでも生えたかのようなピンクがかった紅髪の中年の男性。その顔に怒りと憎しみ、そして歓喜を浮かばせたその男の名は、

 

「今この時を持って、この試練は終わる。苗木誠…貴様の死をもってな…!!」

 かつてパッショーネを創設し、麻薬を持ってイタリアを支配しようとしていた邪悪なる男。あの時苗木に倒されたはずの、『悪魔』の名を冠するスタンド使い、『ディアボロ』は自分を唖然とした表情で見つめる苗木に対し高らかにそう宣言したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだべアイツ!?」

「もしかして…アイツが黒幕!?」

「じゃ、じゃあアレがアルターエゴが言っていた…学園長!?」

「…そんな、あり得ない…」

「…見た所アルターエゴの言っていた通り30代後半の男なのは確かだが、あの顔立ち…イタリア系か?国営機関の筈の希望ヶ峰学園の学園長が欧米人とは…どういうことだ?」

 皆が現れた人物、学園長と思われる男の存在に戸惑っていると、不意に江ノ島から低い声が漏れる。

 

「…違う…!」

「…へ?違うって…何が?」

「アイツは…学園長なんかじゃあないッ…!」

「え?じゃ、じゃあアイツは誰?」

「アイツは…アイツはッ…!」

 

 

 

 しかし、江ノ島の口からその答えが出るより早く、彼らの眼下から、ガラスを震わす程に大きく、そして凄まじい怒気を孕んだ苗木の叫びが轟いた。

 

 

 

「…ディアボロォォォォォォッ!!!!!!!!!」

『ッ!!?』

 

 

 

 

 

 

 

「ディアボロォォォォォォッ!!!!!!!!!」

 己の内の怒りを全て吐き出すかの如く、苗木は生涯で最も大きな声でその男の名を叫ぶ。何故自分がこの男の名を知っているのか、そして何故この男を見るとこれほどまでに怒りを抑えられないのか。そんな疑問もあったのだが、今の苗木にとってはそんなことは問題ではなかった。苗木が今感じていることは二つ、この男が『敵』であること、そして自分はこの男、ディアボロを殺さなくてはならないということッ!

 

「…ほう、思い出した?…いや、直感的に俺を『敵』と判断したからか。まったく、そこまで来るといっそ、うっとおしいを通り越して尊敬に値するな」

「…何故僕がアンタの事を知っているのか、なんでアンタがこれほどまでに憎いのか…。だが、そんなことはもうどうでもいいィーッ!僕は!今ここで、アンタを殺すッ!!」

 普段の温厚な様子からはかけ離れた怒りと憎しみに満ちた形相で、苗木はディアボロに向かって駆け出しその勢いのまま『ゴールド・E』の拳を叩きこむ。

 しかし、

 

「フン…『キング・クリムゾン』!」

ガシィッ!

 ディアボロの顔面めがけて放たれた拳は、それを捉える直前にディアボロのスタンド、『キング・クリムゾン』によって受け止められる。

 

「…ッ!貴様ァッ…!」

「『殺す』…か。プロシュートの奴が言っていたらしいな、『ぶっ殺すなんて言葉は、甘ったれたマンモーニ(ママっ子)の使う言葉だ』と。…弱くなったものだな、苗木誠」

「黙れッ!」

 凄まじい力で抑え込まれながらも、苗木は怯むことなく『ゴールド・E』の回し蹴りを叩きこむ。

 

 

 

 しかし、それが当たる直前、ディアボロの姿が瞬時に消える。

 

「ッ!?どこへ…!?」

「注意力も落ちている、怒りに身を委ねると貴様ですらこうも脆いとはな。あの時のトリッシュに対する怒りで溢れたこの俺が奴の姑息な手に気づかなかったのも納得がいく…」

 後ろから聞こえてきた声にハッとして振り返ると、そこには完全に見下した目でこちらを睨むディアボロが不敵に立っていた。

 

(なんだ…!?今奴は何をした?超スピード?催眠術?いや違う!これはあの風呂場の時と同じ…!)

「苗木君ッ!」

 ディアボロのスタンド能力に苗木が戸惑いを隠しきれずにいると、上の観覧席から霧切の叫び声が響く。

 

「霧切さん…!?」

「苗木君、気をつけて!そいつのスタンドは…大和田君と同じ、『時間』に干渉する能力を持っている筈よ!」

「!?何だって…!」

 霧切のヒントに感化されたのか、今度は江ノ島が意を決した表情で苗木に叫ぶ。

 

「…苗木君!そいつのスタンドは…『キング・クリムゾン』の能力は『時を飛ばす』能力だよッ!」

「ッ!時を…飛ばす!?」

「やはり…!」

「だから、目で追っていては駄目ッ!アイツが時間を飛ばした瞬間を感じ取って!」

 横で騒ぐ十神達に目もくれず江ノ島は自分が知っている限りの『キング・クリムゾン』に関する対処手段を叫ぶ。

 

「…フン、あの裏切り者め。とうとう尻に火がついて俺の事を話し出したか。そして霧切響子、あれだけの戦闘からこの俺の能力をある程度察するとは、『アイツ』の言ったとおり確かに厄介な存在だ。…苗木誠、貴様を殺したら次はあの女を殺すことにしよう」

(時を…飛ばす。時間を消失させるということか?とすれば、その消し飛んだ時間に起きたことはどうなる?…いや待てよ、もしかしたら…!)

 江ノ島の言葉を受け、しばし考えた後苗木は自らの親指を噛み切り、反対の手を受け皿のように構えて突き出し、その上に血の漏れ出す親指を突き出す。そう、苗木は偶然にもポルナレフが『キング・クリムゾン』への対策として考案した方法と同じ手段に至ったのである。

 

「ほう…、己の力でポルナレフと同じ方法を考えたか。どうやら少しは頭が冷えたようだな。貴様の女どもに感謝しておけ、どうせもう会うことは無くなる」

「言ってろ…!今度はそう簡単にはやられはしないぞ…!」

(奴が時を飛ばした瞬間、この滴り落ちる血の滴の時間も消し飛ぶ。そうなれば、消し飛んだ時間の中で落ちたはずの血の滴の分だけ手に付いた血も増える筈…!その瞬間に、全力で『ゴールド・E』を叩きこむ、勝機はそこにしかない…!)

 対峙し睨みあう苗木とディアボロ。辺りは静寂に包まれ、苗木の親指から滴る血が手に落ちる微かな音だけが聞こえる。観覧席の皆も、その一瞬を固唾を吞んで見守る。そして、ディアボロの口元が邪悪に歪んだ次の瞬間

 

 

 

「『キング・クリムゾン』ッ!!」

 時が飛ばされ、ディアボロの姿が一瞬にして消え

 

 

 それと同時に苗木の手の中の血の滴の量が一気に増加する。

 

 

「ッ!そこだァーッ!!『ゴールド・E』ッ!!」

 瞬間、殺気を感じた方に向け放たれた『ゴールド・E』の拳は、振り抜かれた『キング・クリムゾン』の拳とクロスカウンターの要領で交差し、一瞬早く、ディアボロの顔面を捉えた。

 

「…ッ!!」

(勝ったッ!!)

 そう苗木、そして観覧席で見守っていた皆が確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、ディアボロの体が霧散し、『ゴールド・E』の拳が空を切った。

 

「ッ!?何が…」

 何が起こった。苗木がそう思うよりも早く

 

 

 

 

ズボッ!

「…あ?」

 苗木の体を、紅の腕が貫いた。

 

 

 

 

 

 

「…その方法、以前の俺なら有効だったかもしれんな」

 

「だが、もう俺にそんな小細工は通用せん」

 

「この身を『絶望』に委ねることで、俺が手に入れた『キング・クリムゾン』の『新たな能力』…!」

 

メキッ…!グシャ…ッ!

「が…ふ…ッ!?」

 

「『消し飛んだ』時間の中で、俺の存在をさらに数秒先の未来に『瞬間移動』させる…!その瞬間、俺はこの世の『時間』の流れから完全に切り離される。つまり、例え同じ能力を持ったスタンド使いがいたとしても、俺の事を認識できる存在は誰一人として存在しなくなる!そして俺が居たことに『なっている』場所には『この世界そのもの』が錯覚したこの俺の幻影が生まれる。…ただの幻影ではない、世界そのものが錯覚している以上、それは質量を持ち、感情すら秘めた一瞬の『生命』が誕生するのだッ!!」

 

グチャ…ッ!ブチッ…!

「ぐ、がぁッ…!」

 

「『生命を生み出す』貴様に敗れた俺が手に入れた力が、一瞬とはいえ『生命を生み出す』能力とは皮肉なものだが…貴様にとっては最も屈辱的な死に方であろう」

 

「時間を『消し飛ばし』、その消し飛んだ時間の中でさらに未来に『跳躍』する。『時間消失』と『時間跳躍』…!これがこの俺の『キング・クリムゾン』の進化した力、『キング・クリムゾン・アナザーワン・ディスペアー(絶望)』…!」

 

「がああああああああああああァッ!!!」

ズボシュ!

 払いのけられるように腕が振るわれ、その勢いで抜け落ちた苗木の体が地面に叩きつけられボールのように転がる。

 

「貴様とこの俺との因縁も、これにて終幕だ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 一方観覧席もまた、何が起こったのか分からず、苗木がディアボロを殴ったと思ったら次の瞬間には苗木の体を『キング・クリムゾン』が貫いているという事態に呆然とし、やがて悲鳴とともに現実へと戻って来た。

 

「い、嫌ぁぁぁッ!!?苗木ィーッ!!」

「な、なんだべ…何だべこれ!?」

「いぎゃあぁーッ!!血ィーッ!!内臓ォーッ!!」

「何が、何が起こったッ!?確かに『ゴールド・E』は奴のスタンドを捉えた筈だッ!…おい江ノ島!これはどうなっているッ!?」

「し、知らない…!こんな能力、私は知らない…!苗木君ッ!!」

「そんな…あり得ない…!苗木君ッ…!」

 『絶望』。今の彼らの心境を一言で表すとするなら、この言葉が最も適切であった。そんな彼らの眼下で、打ち棄てられた苗木がゆっくりと起き上がる。

 

 

 

 

 

「う…がッ…!ゲボッ!…ハァ、ハァ…」

 血の塊を吐き出しながら、苗木は震えながらもなんとか体を起こそうとする。貫かれたのはちょうど鳩尾の部分、ぽっかりと空いた孔から破損した臓物が顔を覗かせ血を飛沫かせる嫌な感触を感じながらも、苗木は自分に起きたことを考える。

 

(何が…起きた…!?時間を『消し飛ばして』…『跳躍』した…だと!?そんなことが…あり得るのかッ…!?だが…どっちにしろ、この位置への攻撃はマズイッ…!心臓はかろうじて無事だが…背骨と…肺をやられた…!息が…それに、背骨を折られたから、起き上がれないッ…!は、早く…治さないと…!)

「…おっと」

グシャッ!

「―ッ!!!」

「貴様のそのゴキブリのようなしぶとさはよく知っている、トカゲの尻尾は、根元から断ち切っておかねばなぁ…」

 傷を埋めようとしていた所でディアボロによって右腕を踏みちぎられ、、苗木は声にならない悲鳴を上げる。そして左腕もちぎり落そうとした時、ふとディアボロが足を上げたまま止まる。

 

 

「…その傷は致命傷だ、放っておいてもじきに死ぬ。右腕は潰した、そして左腕を潰せば、もう貴様に抵抗する術はない。あるのは死の『絶望』のみだ。…だというのに」

 ディアボロは心底不快そうな目で苗木を睨み、一喝する。

 

「その眼はなんだッ!?何故これほど絶望的な状況で、そのような眼ができるッ!もう貴様に『希望』など無いッ!そのまま屠畜される家畜のように死ねば楽になれるものを、何がお前をそうさせるッ!?」

 そんなディアボロを睨み返す苗木の瞳には、一切の絶望の色は無く、決してこの状況でも諦めようとしない強い意志が込められていた。

 

「…ヒュー…、ヒュー…」

 今にも消えそうなほどに微かな呼吸をしながらも、苗木は決して目を背けようとしなかった。確かに自分はこのまま死ぬのかもしれない。けれど、目の前のこの男に、自分を塗り尽くそうとする絶望に屈することだけは、苗木は絶対にしたくはなかった。それが苗木にできる、精一杯の抵抗であった。しかし、その抵抗は、観覧席で見つめていた皆の希望を取り戻させるには十分なものであった。

 

(苗木っちは…、こんな状況でも諦めてねえ…。そうだ、苗木っちが諦めてねえのに、俺が諦めてどうすんだべ!)

(苗木…!私も、捨てないから、私の中の『希望』を…さくらちゃんから貰った『希望』を諦めないから。…だから苗木、死なないで…!)

(ふざけるな…!こんな終わり、俺は認めんぞッ!貴様がこんなところで終わるなど、俺は決して認めんッ!だから苗木、命令だ…生きて帰ってこいッ!!)

(びゃ、白夜様が待ってる…!な、苗木!白夜様の期待を裏切ったら、絶対に許さないわよッ!)

(神様…!初めて心からお願いしますッ…!私の命をあげますから…苗木君を、助けてくださいッ!!)

(無事じゃなくていい…、五体満足なんて言わない…!だから苗木君、死なないで…ッ!)

『チクショウッ…!また何もできねえのかよッ…!』

『やめろ…やめろよディアボロォーッ!!』

 しかし、そんな祈りとは裏腹に、処刑人の鎌は容赦なく苗木の首にあてがわれる。

 

「…決めたぞ、まずはその不快な眼を潰してやるッ!その後は左腕、それからその首を落とし、外の連中に見せつけてやるッ!!貴様の首を持って、『希望』の敗北を知らしめてやるッ!!」

 怒鳴り散らしながら、ディアボロは足を降ろし今度は腕を振りかぶる。人体をバターのように引き裂くことができる『キング・クリムゾン』の一撃を喰らえば、苗木の頭は眼どころか脳すらも易々と潰されてしまうだろう。それでも、苗木は決して目を背けない。苗木の中の『希望』は決して消えはしない。

 

「死ねぇーッ!!!」

 しかし、そんな『希望』の光を嘲笑うかの如く、『キング・クリムゾン』の手刀は振り下ろされ、…苗木の眼を叩き潰す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かと思われた、その時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『スティッキー・フィンガーズ!!走れ!ジッパーッ!!!』」

 

 

 そんな男女のステレオの叫びと共に

 

 

 

 

 

 

 

 苗木のいる場所にぽっかりと穴が開き、苗木が落ちると共に『キング・クリムゾン』の手刀が空を切った。

 

「何ィィィィィィィィッ!!!?」

 目の前で起きた信じがたい現実に、ディアボロは思わず驚愕の叫びを上げる。そして穴に落ちてゆく苗木もまた、朦朧とする意識の中で声の方向を見て、その先にいた人物の姿に驚愕し…再び暗闇の中に落ちていった。

 

「お、おい…。い、今の声って…?」

「う、嘘…!」

「何故、あいつがここに…!?」

「ひいいーッ!ゾンビ、ゾンビよぉーッ!」

「え…?どうして…?」

「…やっぱり、あなただったのね…!」

『お、おい!ナランチャ、あれって…!』

『ま、マジかよぉーッ!!』

 観覧席の皆も又、声の主の正体にこれまでにないほどの驚きの反応を見せる。

 

 そんな中ディアボロは、その声の主を見ることなく、憤怒の形相を浮かべたまま唸るように呟く。

 

「…どこまで、どこまで貴様はこの俺の邪魔をすれば気が済むのだッ…!」

『決まっている、貴様が死ぬその時までだ!』

「苗木君を、あなたなんかに殺させたりなんかしないッ!苗木君は、皆の、私の『希望』なんですッ!!」

 

 腹部が裂けて血で染まった制服をそのまま着ており、最期に会ったときよりもどこかやつれているものの気力に満ち溢れた彼女とそのスタンドは、ディアボロに対し強い決意を秘めた目を持って睨み付ける。

 

『お前は…』

『あなたは…』

 

 そんな彼女の名を、そしてそのスタンドの名を、奇しくも皆とディアボロが同時に叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

『舞園さやか!!』

『スティッキー・フィンガーズ…いや、ブローノ・ブチャラティ!!』

 

 

 運命の流れが、今、変わった。

 

 

 

 

 

苗木誠-学級裁判にてクロと自白。おしおきを受け瀕死になるも死の直前に舞園さやかにより離脱。再起不能…? スタンド名『ゴールド・E』

舞園さやか―桑田怜恩により殺害されるも、復活。理由は未だ不明。再起可能 スタンド名『スティッキー・フィンガーズ』

ディアボロ―苗木誠を殺害しようとするも、あと一歩のところで邪魔が入り、失敗。再起可能 スタンド名『キング・クリムゾン・アナザーワン・ディスペアー』

 

生き残りメンバー、のこり8人。

 




いよいよ伏線の回収ができました
果たして苗木君はどうなってしまうんでしょうねえ?

あと、進化したキンクリさんの説明は設定のところに記載しておきます

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