ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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そろそろクライマックス…で、どう第二部に繋げよう?


暴露

 その日の深夜、皆に言われるがまま早めに眠りについた苗木は

 

「…ぐっ…あ…あっ…」

 魘されていた。眠りについてしばらくして急に高熱に見舞われたかと思うと、再び偏頭痛による鈍痛と、今度は先程の右腕の突き刺すような鋭い痛みがまとめて襲い掛かってきて、結果痛みと熱の三重苦に苦しめられていた。

 

(な、なんだよ…これ…、ほ、本格的に死ぬんじゃあないかな…。じょ、冗談じゃあないぞ…黒幕と闘う前に病気で死ぬだなんて…)

 もはや声を発する気力すら失い、流石の苗木も危機感を感じていた。

 

(あ…、もう…だ…め…、気を…たも…て…な…)

 やがて苗木は限界を迎え、意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先の見えない暗闇。天もなく地もないそんな虚構の空間に苗木は居た。

 

(…そうだ…、僕にはやるべきことが在った筈なんだ…。でも、それが何なのか…思い出せない。とても大切なことだった筈なのに…何も、思い出せない)

 自身が向かう道の先が見えてこず、答えがあったであろう失われた記憶に悩む苗木。そこに、舞園の時に現れたあの金色の男が現れた。

 

「思い出せ、貴様の闘う意味を…。貴様が手にしていたものを…、これから貴様が手にしていくものを…!」

 意味は分からないもののあの時のような心を惹きつけるような声で話す男。と、その男の隣に、今度は同じような体躯の黒髪の青年が現れる。

 

「思い出すんだ、君が闘ってきた意味を…。君が守りたいものを…、これから守っていくものを…!」

 精悍で真面目そうな顔立ちのその男もまた隣の男と同じようなことを言っていたが、それは金色の男の甘美なものとは異なり、聞くだけで勇気が湧いてくるような強く気高い声であった。

 

 

「思い出せ、絶望すら受け入れ、それをモノにしたその先にある…」

「思い出すんだ、希望を束ね、それを完成させた先にある…」

 

 

 

 

「『漆黒の意志』を!」

「『黄金の精神』を!」

 その言葉を最後に、苗木の意識は再び薄れていった。

 

 

 

 

 

 

「…う…」

 微かな身じろぎと共に、苗木の意識は朧げながらも覚醒した。

 

(なんだったんだ…今の、…夢?)

 相変わらず体調が悪いことを感じながら重い瞼をゆっくりと開く。そして、そこで見た光景に苗木は戦慄する。

 

「……」

「…ッ!!?」

 いつの間にか枕元に立っていたのは、覆面を被った大柄な男性のような人物で、その傍らには紅の人型の存在、おそらくこの男のスタンドと思われるものが手に先ほど自分が仕舞ったサバイバルナイフを持ち、苗木の首筋にそれを当てがっていた。

 

(な、なんだこいつ…!?いや、そんな事より逃げないと…!)

 しかし、逃げようにも体が言うことを聞かず微かに身じろぎをする程度しか動くことができない。スタンドを出そうにも本体がこれだけ弱っている以上出したところで一瞬で消えてしまうのは明白であった。

 

「…死ね、苗木誠…!」

 それを知ってか知らずか、勝利を確信したその男は覆面越しでも分かるほどに愉悦に満ちた声で宣言し、己がスタンドに最後の指示を下す。即ち、苗木を殺せ、と。それを受諾し、スタンドはナイフを振り上げ、苗木の首目掛けてそれを振り下ろす。

 

(く、そ…ッ!)

 抵抗一つ出来ぬまま、間近に迫る死に苗木は己の無力さを噛みしめ、しかし決して目を背けようとせずそれを待つしかなかった。そんな苗木に、振り下ろされた凶刃が死をもたらす…

 

 

…と思われたその時。

 

バキャァァッ!

「ッ!!?何ィ!?」

 突如として横から飛んできた何かによってスタンドの手が弾かれ、苗木の首へと振り下ろされたナイフの軌道を変える。

 

「何だ…」

 男が邪魔をしたものの正体を確かめようとするよりも早く、飛来した何かはそのまま突き進み苗木の机に突っ込み、破砕音を立てて机を破壊する。

 

「何ッ!?」

 と、男がそれに気づいて驚く間もなく

 

バキャ!

「『エアロスミス』!」

『ボラボラボラボラ!』

 ドアを蹴破って現れた江ノ島が男に向かって『エアロスミス』の機銃を掃射する。

 

 

「…小癪な真似を」

 が、その弾丸が男に命中するよりも早く。

 

「『キング・クリムゾン』…!」

 男は己のスタンド、『キング・クリムゾン』の能力を発動させる。瞬間、時間が切り離され、男だけが支配する帝王の時間を創り出す。

 

「…忌々しいが貴様を殺すのは後だ。だがいずれ、苗木誠も貴様も殺す…!裏切り者は決して許しはしないッ…!」

 弾丸の軌道をすべて避けると無防備に立ち尽くす江ノ島を放ってそのまま部屋の外へと走り去っていった。そして、男の姿が消えた瞬間、切り取られた時間が終わりを告げ、再び時が動き出す。

 

「…ッ!外した、逃げられた…!あの男、また勝手にあの子の体を…!」

 標的に逃げられたことに歯噛みする江ノ島の頭上で、先ほど苗木を救った一撃の主は目的を果たしたことを確認すると気づかれぬよう再び消える。その瞬間、気配を感じた江ノ島が振り向くが既に何もいない。首を傾げながらも、江ノ島はベッドに横たわる苗木に駆け寄り声をかける。

 

「苗木君…!しっかりして、苗木君…!」

「…え、の…しま…さん…?」

 目の前で起こった息つく間もない展開に混乱しながらも、かすれた声で江ノ島にそう返事して、苗木は再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うっ」

 あれからどれほど時間がたったであろう、先ほどより少し体が楽になったことを確認しながら、苗木は目を覚ました。

 

「…あ、起きた!大丈夫苗木?」

「…江ノ島さん?なんでここに…?」

 起き上がった苗木が真っ先に目にしたのは、自分のベッドの下に座り込んでいた江ノ島であった。

 

「…あ、そうか…。江ノ島さんが助けてくれたんだよね…。ありがとう…」

「憶えてたの?さっきの…」

「ああ、だいぶぼんやりとだけどね…。…ところで江ノ島さん、なんであんな早く僕の部屋に来れたの?部屋は防音だし、鍵もかけてたから江ノ島さんの部屋からは分からない筈なんだけど…」

「…実は霧切に頼まれてたのよ。『苗木君がモノクマと接触した後、場合によっては黒幕が苗木君を暗殺する可能性がある。だから一応今夜いっぱいは苗木君を護衛していて』って…。それでずっと部屋の前で待機していたんだけど、まさかアタシが気づかないうちに侵入されていたとは思わなかったわ。…けど部屋からなんか音がするのが聞こえたから思い切ってドアをぶち破って入ったら何とか間に合った…って訳」

「…え?じゃああれは江ノ島さんじゃあ無かったの?」

「アレ?」

「僕があの男…多分黒幕だろうけどアイツに殺されそうになった時ナイフを弾いて僕を助けてくれたの……そうだ、ナイフ!」

 苗木は飛び起きると急いで壊れた机の残骸からナイフをしまった引き出しを引っ張り出す。が、その中にも、残骸の中にもあのナイフは存在しなかった。

 

「…くそっ!持っていかれたか…。…今更ナイフ程度でどうこうなるとは思えないけれど、どうにも嫌な予感がする…!」

「…あのー、苗木?とりあえず、まずは食堂に行かない?そろそろ朝食の時間だし、その苗木を助けたっていうものの事も含めて皆に話した方がいいしさ…」

 江ノ島の言葉に時計を見ると、確かに時間は既に起床時間の7時を回っている。モーニングコールもとうに流れているだろうから、皆も目を覚ましているだろう。ここで二人で考えるよりは、皆と相談したほうがいいのは事実であったが故に苗木も納得する。

 

「…そうだね、まずは行こうか江ノ島さん」

「オッケー!」

 簡単に身支度を済ませ、苗木と江ノ島は食堂へと向かう。しかし、食堂に入ってみればそこのは誰もいなかった。

 

「あれ…?皆何処?」

「おっかしいなあ…。ちょっと待って、『エアロスミス』で探してみるから」

 江ノ島は『エアロスミス』を呼び出し、右眼のレーダーで皆の位置を探る。

 

『…ん?おいジュンコー、向こうに反応が集まってるぜぇ~』

「あ、ホントだ。あそこは…体育館?」

「?なんで体育館に…」

 不思議に思いながらも、二人は皆と合流すべく体育館へと向かう。そして到着し、扉を開けた先に見たものは

 

「…ん?あれ、苗木っち!起きたんけ?」

 顔を付き合わせてモノクマを取り囲み…バラバラに解体している皆の姿であった。

 

「…ッ!?み、皆何してるんだ!?そんなことをしたら…」

「落ち着け苗木」

「こいつはもう壊れてるべ」

「壊れてる…?」

 状況を理解できない二人に、十神が事の顛末を説明する。

 

「昨晩遅く、俺はモノクマが盗まれたものとやらが気になって奴に会いに行ったんだ。…が、呼んでも出てこないのを不審に思ってここに来てみれば、体育館の真ん中で壊れているこいつを発見した。そこで俺は全員を叩き起こして、今までこいつの解体作業を敢行していたという訳だ」

「びゃ、白夜様の、天才的なアイデアよ!も、モノクマの構造を確かめれば、爆発させずに壊すことができるかもしれないって…」

「苗木も呼ぼうと思ったんだけど、まだ寝かせてあげようと思って起こさないで上げたんだ。江ノ島ちゃんは呼びに行ったんだけど返事が無かったから…。どこに行ってたの?」

「え?それは…」

 と、昨晩の事を話そうとした江ノ島の肩を苗木が叩く。

 

「え?…何、苗木?」

(…江ノ島さん、やっぱり今は昨晩のことは黙っておいた方が良い)

(え?なんで?)

(モノクマの今の状況からして、おそらく黒幕は今普段の潜伏場所にはいない。とすれば、学園のどこかで何かをしているかもしれない。今あの時のことを話して下手に行動を起こせば、逆に一人づつ始末される恐れもある。ここは黒幕からのアクションを待って行動した方が良い…)

(そ、そう?…苗木がそう言うんなら)

 

「…?どうしたの?」

「え!?い、いやそのね!えっと…」

「…昨日は少し寝付けなくてさ、部屋に戻った後も起きてたんだよ。そしたら江ノ島さんも寝付けないからって廊下を散歩してたから、僕の部屋で眠くなるまでしばらく話してたんだ。…結局気づいたら朝になってたんだけどね」

「そ、そうそう!」

「貴様…、あれほど休めと言った端から…」

「なんつー色気の無え朝チュンだべ…。こちとら徹夜で作業してんのによ…」

 と、言い訳に四苦八苦する江ノ島のフォローに入った苗木の作り話に愚痴りながら手を動かしていた葉隠であったが、その手が何かを見つけた途端に止まる。

 

「…げ!?み、皆大変だ!これ見てくれ!」

 そう言って葉隠が赤子でも取り上げるように慎重にモノクマから抜き取ったのは、ソフトボールほどの大きさのいかにもそれにしか見えないような金属の物体であった。

 

「そそそ、それって…!?」

「爆弾だな。モノクマには標準装備されているのだろう」

「ちょ、危険物じゃん!」

「大和田の前例から考えておそらく振動センサー式の爆弾だろう。手元が狂えば即爆発するぞ、気をつけろ」

「し、振動!?マジで!?…き、急に、手の震えが…!」

「ちょっとッ!落とさないでよ!」

「…言い忘れていたが、センサーは既に俺が切っておいた。モノクマがリモコンを隠し持っていたのでな」

「「「「…え?」」」」

「…は、はは…ハハハ!…焦らせんなって!」

「…まあそれでも危ないからこんなものは…」

 苗木は葉隠の手にした爆弾に触れ、それに生命エネルギーを流し込む。やがて爆弾は一匹のドブネズミへと姿を変え、一目散にその場を走り去っていった。

 

「ど、どこ行ったんだべ?」

「トラッシュルームの下、つまりゴミ捨て場さ。あそこなら万が一爆発しても特別被害はないだろう」

「そ、そうなんだ。…ハァ~、良かった」

「…けれど、どうしていきなりモノクマが動かなくなったんだ?」

「モノクマを操っていた何かに何かがあったのか…。確かめたいところだが、奴の所在が分からん以上探しようがないな。…とすれば、まずはあそこか。行くぞ」

「へ?行くって…どこに?」

「学園長室だ。今なら奴も監視カメラの映像を見てはいないだろう。この際だから今のうちに調べるぞ」

 十神に言われるがまま、皆は学園長室へと向かった。

 

 

 

 

 

学園長室前へとやってきた一同。中に入るべく十神が扉に手を掛けるが、扉には鍵が掛かっており開けられなかった。

 

「…チッ、鍵が掛かっているか。ならば力尽くで…」

 と、『グレイトフル・デッド』を呼び出すが、扉を壊すよう指示してもうんともすんとも動かない。

 

「…チィッ、黒幕が所在不明でもスタンドにかかった制約が働いている所からするに、どうやら黒幕はまだ健在らしいな。とすれば俺たち自身でやらねばならんか。…おい腐川!」

「は、はい!?」

「今から一分以内にツルハシを持って来い。植物庭園の物置に在った筈だ。早く行け!」

「は、はいぃ!?み、短すぎるぅぅぅッ!!?」

 十神の命令に腐川は回れ右して植物庭園へと走っていった。

 

「ツルハシで扉をぶち壊すんか?」

「そうするしかあるまい。それにモノクマが機能停止している以上壊したところで問題はないだろう」

「だったらあんたが行けばいいじゃん…」

 皆が腐川の帰りを待つ中、苗木は扉に目を向け考える。

 

(…扉には鍵が掛かっている。霧切さんが掛け直したんだろうか?…でもあの時霧切さんは大神さんが鍵を壊してくれたと言っていた。つまり、霧切さんが来たときには既に施錠できる状態ではなかったはずだ。霧切さんの前に居たかもしれない人物という可能性もあるけど、霧切さんより先に居ていた以上その近くに留まってわざわざ鍵を直すとも考えられない。…とすれば、考えられる可能性は一つ。モノクマが修理したとしか考えられない。…でもそれが意味することは…!)

 最悪の展開に至った苗木の思考であったが、遠くから聞こえてきた叫びがかき消した。

 

「Alaaaaaaaaaaaaaaaiッ!!」

「げ、早!?…つーかジェノサイダー!?」

 そう、腐川の代わりに戻って来たのはどこで入れ替わったのかジェノサイダーであった。

 

「どもどもー!笑顔が素敵な殺人鬼でーす!スマイルは0円だとキツイんであなたの命で支払いよろしく♡」

「…おい、ツルハシはどうした?」

「は?鶴橋?どちらさん?大阪?」

「貴様な…!」

「…あー、でもしょうがないんじゃない?だって腐川こいつと思考共有はしていないんでしょ?」

「あー、成程ね~。アタシはツルハシを取りに植物庭園にいたって訳。これで疑問は一つ解けたと…。じゃあじゃあ!もう一つ聞くけどさ…」

 そこでジェノサイダーが放った質問に、皆の心臓が一瞬止まる。

 

 

 

「…なんで植物庭園に死体があるワケ?」

『ッ!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬鹿な、一体誰が、誰を殺した?

 

 そんな信じられない思いを抱えながら植物庭園へとやって来た一同が眼にしたモノは

 

 

 

 

 

 

 

 胸にナイフを突き立てられ、かけられた白衣を血で染めた覆面を被った死体であった。

 

 

 

 

 

「そ、そんな…!?」

「だ、誰なんだべ!?あいつ!?」

「…そんなもの、一人しかいるまい」

「それって、やっぱり…?」

「無論ここに居ない人物、…霧切だろう。奴以外の誰が居るというのだ?」

「…そんな…」

 一同の中でも苗木は特に強いショックを受けていた。つい先ほど想像した最悪のケースが、現実のものとなってしまったのだから。

 

「ま、まさか霧切っちが…」

「で、でも…、女の子なのは間違いないよ。胸のふくらみとか、体のラインとかが女の子っぽいもん…」

(…女の子?でも昨日会ったアイツは…だとしたら、やっぱりこの犯人は…)

「…ともかく確認しないことには話が進まん。幸い死体発見アナウンスが無い所からするに黒幕もまだ気づいてはいないだろうから、慎重に調べて…」

「…つーかさ、だったらこのマスク引っぺがしちまえばいーじゃん!」

「ッ!?おい待て!」

「ほれほれ、覆面超人の素顔御開帳~…」

 と、ジェノサイダーが死体の覆面に手を掛けた時

 

「チッ、『グレイトフル・デッド』!」

 業を煮やした十神が『グレイトフル・デッド』でジェノサイダーの襟をネコでも掴むかのように引っ掴み引き寄せる。

 

「グエッ!?」

 カエルが潰れたかのような悲鳴を上げて引っ張られるジェノサイダーであったが、引っ張られる際覆面を摘まんだままでいた為彼女と共に覆面も脱げてしまう。その時

 

 

 

 

 

 

ドガァァァァァンッ!!

 轟音とともに死体が爆発した。

 

 

 

「どあああああああああッ!!?」

「し、死体が…爆発したッ!?」

「くっ…、やはり罠だったか!」

「…ん?あれ?びゃ、白夜様!?どど、どうして私を抱きかかえて…も、もしかして私にもデレ期が」

「やかましい!それより急げ、さっさと消火するんだッ!」

 

 

 

 爆発により燃え盛る死体を消火すべく、十神の指示のもと全員でバケツリレーを行い(十神は指示するだけだったが)どうにか鎮火することに成功した。しかし、死体の大半が焼け焦げてしまい、もはや顔はおろか上半身に至っては特徴を判断することすらも困難になってしまった。

 

「うえ…、しばらく肉が喰えなくなりそうだべ…」

「何を今更…、それよりこいつから何か手がかりを見つけ出すのだ」

「で、でも…こんなに焼けちゃったらどうにも…」

 半ば消し炭と化してしまった死体を前にどう対応したものか狼狽える皆を余所に、苗木は眼前の死体に手を合わせ入念に観察を始める。

 

「…苗木っち、よく平気だな…」

「…平気なんかじゃあないさ。けれど、今はどうしても確かめなきゃいけないからね」

「…こいつが霧切ではないと思っているのか?」

「多分ね。…確信を得るためにも、今は少しでも手がかりを見つけないと……ん?」

 と、死体を観察していた苗木は焼け残った死体の右手の異常に気が付いた。

 

「どうした?」

「…この右手の甲を見てよ」

「んあ?…これ、入れ墨か?」

「あ、でもこれ彫ってある訳じゃあなくってボディペイントって奴じゃあないかな?洗えばすぐに取れるやつ」

「この絵柄は…犬、というより狼だな。字も書いてあるようだが…フェンリル?」

「フェンリル…北欧神話に出てくる最終戦争ラグナロクで大神オーディンを食い殺すとされる伝説の魔狼ね…」

「単なる趣味なのか、あるいは何かのイニシャルなのか…」

「…そういえば霧切の奴は常に手袋をしていたな。あれはあるいはこいつを隠しておくためのカムフラージュだったのかもしれんな」

「じゃ、じゃあやっぱりこの死体は霧切っち…?」

「…まだ分からないよ」

「フン、随分諦めの悪い奴だ。……ん?」

 そこで十神は、死体の傍になにかが落ちているのを見つけた。

 

「これは…鍵か?」

「鍵?どこのだべ?」

「…よし、行くぞ」

「へ?ど、どこに?」

「この状況で鍵が必要な部屋など二つしかないだろう」

「…学園長室と、情報処理室だね?」

「そうだ。黒幕に気づかれる前に、さっさと行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 駆け足で植物庭園を後にした一同はまずは情報処理室へとやって来た。

 

「よし、まずはここからだ」

 十神が拾った鍵を鍵穴に差し込むと、鍵はすんなりと開いた。

 

「開いた!」

「どうやらこの部屋の鍵だったようだな。行くぞ」

 情報処理室の中に突入する一同。そこは、大量のモニターが壁一面に設置されており、そこには校内の映像が映し出されていた。また、デスクや椅子なども置かれていり、誰かがここに居たかのような痕跡も残されていた。

 

「これは…監視カメラの映像か!?」

「ってことは、ここって…黒幕の部屋!?」

「…奥にも扉がある。もしかしたらあの先に隠れているかもしれん」

 十神が奥にあったモノクマの顔の扉に鍵を差し込もうとするが、鍵穴が合わず開けられなかった。

 

「チッ、ここまでか…」

「…お?おい見ろ!この部屋テレビがあるべ!」

 葉隠の指差した先には、デスクの上に置かれたテレビが一台あった。

 

「え、テレビ!?もしかして外の様子がわかるんじゃない!?早く着けてみてよ!」

「…どうやらアンテナは外の電波を受信してるみたい。多分大丈夫だと思うよ」

「よっしゃ!こっちは情報に飢えてるんだべ!早速スイッチ、オンだべ!」

 と、意気揚々と葉隠がテレビのスイッチを押すと、テレビは何事もなく電源が入り…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そこに映っていたのは苗木達の今現在を上から撮影したかのような映像だった。

 

「……え?これって…私たち?」

「あ、あんた!何監視カメラの映像映してんのよ!早く地デジに切り替えなさいよ!」

「え?え?お、おかしいべ。確かに外のチャンネルに合わしてんのに…他の局はどうだべ!?」

 次々とチャンネルを切り替えるが、どのチャンネルにしても映っているのは同じ映像であった。

 

「これは…一体?」

 首を傾げる一同。そんな中、苗木がその光景からある仮説を想像する。

 

「…まさか、まさかそんなッ…!」

「ど、どうしたんだべ苗木っち?」

「もしこれが本当に外の電波を受信して映った映像だとすれば…外のほとんどのテレビにはこの映像が放送されているということになる。…つまり、僕らの今までの学園での様子もそのまま外に放送されていたということになる…!」

「そ、そんな!そんなのどうやって!?」

「…電波ジャックしたとしか考えられない。それも、日本全土…いや、下手をすれば世界中の放送電波を対象とした超大規模な電波ジャックだ…!」

「馬鹿なッ!そんなこと不可能だ!人工衛星でもハッキングしたとでもいうのかッ!?」

「…分からない」

「け、けど仮にそれが本当だったとして、どうして外の連中は何もしないのよぉ!普通人が殺し合ってたら止めに来るでしょおッ!?」

「…考えられる理由は二つ。一つは、この映像にある程度の改ざんを加えて何かしらの企画のような体で放送している。どうしてもごまかせないところだけカットしてドラマみたいに仕立て上げればそう見えなくはないだろう。そしてもう一つは…」

「…もう一つは?」

「…外の世界が、それどころじゃなくなってるという可能性。つまり、外の世界は今僕らが置かれている状況以上に混乱しているという可能性だ…!」

「何だとッ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、見つかっちゃったー!」

『ッ!!?』

 突如部屋の入り口から聞こえてきた聞きたくもない声にギョッとして振り返ると、そこには先ほどバラバラにしたはずのモノクマが平然と立っていた。

 

「も、モノクマッ!?」

「よっ、オマエラ久しぶりじゃん!」

「ななな、なんでお前がッ!?」

「あああ、あんた死んだんじゃあ…!?」

「死んだ?僕が死んだだって?クマだけに、死んだふりってか?ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「…こ、こいつキャラ変わってない?」

「…どうせスペアが出てきただけだろう」

「ぶひゃひゃ、つれないなあ十神君。それより…苗木君、面白い想像をするねえ」

「…何だよ、なにか間違っているのか?」

「いーや、大正解!百点満点!むしろ120点!そう、オマエラのコロシアイ学園生活は、全世界の電波を中継して絶賛生放中なのです!オマエラをここに誘導したのも、この事実の為の演出だったのです!」

「じゃ、じゃあ今まで出てこなかったのは…!?」

「もちろん!オマエラが油断して動き回るのを待っていたのさ!そう!このコロシアイ学園生活は、現在全国ネットで絶賛生中継中の一大エンターテイメント!究極のリアリティシュミレーションだったのです!」

「…な、なんだってーッ!!?」

「馬鹿な…!本当に電波ジャックを行っているというのか…?天文学的な資金や設備が必要になるぞ…!」

「う、嘘だ!こんなの放送したら、騒ぎどころじゃ…」

「…苗木の言っていた通り、それどころじゃなくなってる…とか?」

「…どうなっている、いい加減説明しろ!」

「うぷぷ…。まだ内緒、その前にすることがあるんじゃあないかなぁ?」

「すること?」

「だって、死体が発見されたんだよ?だったら恒例のアレを始めちゃおうよ!」

「ま、まさか…」

「うぷぷ、それじゃあ一丁、やっちゃいましょーかー!」

 その言葉と共にモノクマは部屋の外に引っ込み、直後いつものアナウンスと共にモニターにモノクマが映る。

 

ピンポンパンポーン!

『死体が発見されました!一定の捜査時間の後、学級裁判を開きまーす!』

「学級…裁判だと!?」

「な、なんで…!?」

 混乱する皆の前に再びモノクマが現れる。

 

「なんでって…決まってるでしょ?死体が発見されたんだから。じゃ、これまた恒例のモノクマファイルを転送しておきますね!うぷぷ…今日の反響が実に楽しみだなぁ。うぷぷぷぷ!」

 そう言い残し、モノクマは皆の電子生徒手帳にモノクマファイルを送って今度こそその場を去っていった。

 

後に残された皆は、誰もが同じ顔をしていた。虚脱感、怒り、嘆き、…そして無力感。やっと黒幕を出し抜けるかと思っていたことが、なにもかも掌の上で踊らされていたという事実が、彼等の気力を奪っていた。

 

 

 

 

 

 彼らはこの時思い知った。絶望とは、こういうものだったということを。

 




今回ここまで

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