ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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夢の後先

再び幕を開けた第三回目となる学級裁判。いつもなら状況証拠の確認から始まるところだったが、当然のことながら話の流れは容疑者最有力候補である葉隠が犯人に仕立て上げられることとなった。

 

「犯人は葉隠に決まってるよ!」

「現場で目撃されたジャスティスロボの衣装、それを着ていた葉隠君、そして山田君の遺言…すべてがあなたが犯人だと物語っていますわ」

「だーから!俺は犯人じゃあねーってッ!」

殆ど捜査に参加できずあまつさえ状況すら碌に把握できていないが故に反論もままならない葉隠に、苗木が助け舟を出す。

 

「…ジャスティスロボの格好をしてたからこそ、葉隠君には犯行は不可能なんだよ」

「えっ!?」

「あの衣装には外側から固定される作りになっていた。つまり、一人であれを着込むことは不可能なんだよ。ましてや葉隠君の『ドラゴンズ・D』は本体の言うことすらまともに聞かないスタンド、手伝うとは考えにくい。それに、あの衣装は視界は殆ど見えないし膝も碌に曲がらないから動くことすら困難だ。そんな恰好で美術倉庫にあった台車を使って二人の死体を運べるとは到底考えられない」

「むう…」

「ですが、葉隠君の部屋からこんなものが見つかりましたよ」

そう言ってセレスが取り出したのは、数枚の書類のようなものでそこにはあのジャスティスロボの設計図が描かれていた。

 

「こんなものがあった以上、あれは彼が作ったものとしか考えられませんわ」

「な、なんだべそれ!?そんなもの俺は知らねえぞ!」

「…セレスさん、それちょっと見せてくれる?」

苗木はセレスから設計図を受け取り、それに一通り目を通すとポケットから一枚の紙切れを取り出す。

 

「これは葉隠君が書いたものじゃあないよ」

「何ですって…?」

「ちょっとこれを見てよ。この間葉隠君が書いたメモだ。…この二つ、どう見ても筆跡が違うでしょ?」

「確かに…設計図の方はまるで殴り書きの様だがそのメモの字は凄まじく丁寧だ」

「俺、ガキの頃から字だけは綺麗にしとけって言われてたからな!ちょっとした自慢だべ!」

「…そんなもの、筆跡を使い分ければいいだけの話ですわ」

「俺はそんなに器用じゃあねーってッ!」

「それともう一つ、ジャスティスロボといいジャスティスハンマーといいどっちもお手製のものにしては塗装がすごく丁寧だったんだ。あれは普段からそういうことをしていないとできることじゃあない。占い師である葉隠君にはとてもじゃないけど不可能だ。…そういう訳で、葉隠君にはどうあってもあの状況を作ることは不可能なんだ」

「おお!よく言ってくれたべ苗木っち!流石俺の運命の人だべ!」

「…その言い方なんかヤダな…」

どうにか葉隠の無実を証明しようとするが、なおもセレスは食い下がる。

 

「…では、一体どなたがあれを用意したというのですか?」

「それに、あの二つの死体が移動したとき俺たちは一緒に行動していたんだ。朝の時点でアリバイのあった霧切と江ノ島が共に行動していた以上、もうアリバイがないのは葉隠だけだぞ?」

「だから、俺はメモで呼び出されて…」

「だったらそのメモを見せてみろ!」

「うう…」

十神も加わった反論に、苗木はちらりと霧切を見て目配せし、霧切が頷くのに合わせて答える。

 

「…あのロボの衣装や凶器を作ることができるとすれば、それは常日頃からそういうことに従事している人物。そんな人間が、僕らの中には一人だけいる…いや、『いた』じゃあないか」

「何だと…?」

「…まさか」

「そう、『超高校級の同人作家』でありフィギアやイラストにも深い心得のある山田君。…あれを作れるとしたら、彼しかいないんだ」

「まさか、山田は『共犯者』だったとでもいうのか!?」

「そ、そんなあり得ないよ!」

「…根拠ならあるわよ」

「…えっ?」

割って入った霧切が、懐からくしゃくしゃになったメモのような物を取り出す。

 

「山田君が書いたと思われるメモよ。彼がパンツの中に隠し持っていたわ」

「ぱ、パンツの中…!?」

「まさか手をッ!?」

「…たかがパンツよ、靴下の中に手を入れた訳じゃあないわ」

「いやその理屈はおかしいよ霧切さん…」

皆がドン引きする中で霧切は一切気にすることなくそのメモを広げる。端が少し欠けたそれにはこんな内容が書かれていた。

 

『抜け穴らしきものを見つけたから、モノクマに見つからないよう物理準備室に集合』

 

「…お、俺が呼び出されたときのメモの内容と殆ど一緒だべ!」

「それに、石丸君の手の中にこのメモの一部が握られていたわ。おそらく奪われる直前に最後の力でメモをむしり取ったのね。…これで少なくとも、山田君が事件に何らかの形で関与していることは確かになったわね」

「…だがまだ分かっていないことがあるぞ。一体誰があの二人の死体を運んだかということだ。仮に山田が『共犯者』だったとしても、その山田が殺されていた以上山田を殺して死体を運んだ真犯人がいる筈だ」

十神の問いに答えたのは、苗木であった。

 

「…山田君が『共犯者』である可能性がある以上、あの時点でもう一人アリバイの無かった人物が出てくるじゃあないか」

「何?……そういうことか」

「だ、誰?誰なの!?」

「そんなの…山田君に決まってるじゃあないか」

苗木の言葉に衝撃が走る。

 

「ど、どういうことだ!?」

「山田君は保健室の時点でまだ生きていたんだよ。そして、朝日奈さんとセレスさんが保健室を離れた時点で自力でその場を立ち去った。現に山田君の眼鏡は保健室の時は血で汚れてたけど美術倉庫では綺麗に拭かれてたからね…」

「そして皆が消えた山田君の死体の現場を目撃している最中に、物理準備室に侵入しその場にあったブルーシートと台車を使って死体を美術倉庫に移動した。…これなら、特別なんのトリックも必要なく二人分の死体を移動させられるわ…」

「あり得ませんわ!!」

突如セレスがらしからぬ大声を上げて反論する。

 

「…何故そう言い切れる?」

「死体発見アナウンスですわ。あれは私たちが山田君の死体を発見したからこそ流された物。モノクマが全てを見ていた以上、それが動かぬ証拠ですわ」

「…いや、それは違うよセレスさん。ほぼ同時刻に、十神君たちも物理準備室で石丸君の死体を目撃している。もし二つの死体が同時に見つかったとすれば、アナウンスは2回流されるのが自然なんじゃあないか?」

「…モノクマが横着して一回に纏めただけじゃあないんですの?」

「横着なんてしないよ!ボクはちゃんと死体が発見されるたびにアナウンスを流しました!」

何処から持って来たのかホットケーキを食べながら審議を見物していたモノクマが反論する。横に置いてあった『大和田バター』は見ないことにした。

 

「…だとすれば美術倉庫で聴いたあの死体発見アナウンスは…」

「山田君の死体を僕らが発見したことで流されもの…つまり、美術倉庫こそが山田君が殺された本当の事件現場なんだ!」

「…苗木君。随分固執しているようですけどお忘れですか?あなたも山田君の死を確認しているのですよ?生命エネルギーを感知できる『ゴールド・E』を欺くことなどできるとお思いですか?」

「…確かに、『ゴールド・E』調べていた『のなら』僕もここまで深くは考えなかっただろうね…」

「どういうことですの?」

「…もし僕らの行動すべてが山田君に筒抜けだったとしたら、僕らがしていたことも、…これから僕からする行動すらも分かっていたとすれば、不可能じゃあなかったと思うけれど?」

「何だと!?」

「そんな馬鹿なッ!!」

流石に信じられない様子の面々に、苗木は懐から山田の遺体から見つけたあの血で濡れたノートを取り出す。

 

「それは?」

「山田君の遺体から見つけたんだ。保健室で血を被った時にだいぶ汚れたみたいだけれど、大体のページは読むことができた。そこで分かったんだ。山田君のスタンドの正体が…」

そう言って苗木はノートを開きそのページを皆に見えるよう広げて突き出した。そこには、どこかメルヘンチックながらも丁寧な描写で以下のような漫画が描かれていた。

 

『嘘のメモにつられてマヌケな石丸が物理準備室にのこのこやって来たぞ!部屋に入った石丸が正面の棚に何かを見つけた!後ろががら空きで隙だらけだぞッ!ぶっ殺せーッ!!やった!正義の証ジャスティスハンマーがマヌケな石丸の脳天をカチ割ったぞッ!バンザーイッ!!』

「こ、これは…!?」

「…この漫画によれば、石丸君の頭を殴ったのは山田君ね…だいぶ美化されて書かれているけれど…」

「計画書…にしては手が込み過ぎている。というかこんなものを事前に用意していれば計画が露呈する可能性もあるというのに…するとこれは」

「うん、多分この漫画こそが山田君のスタンド能力。『予知』…いや、『予言』能力といった所かな。内容を見ていても明らかにおかしい部分が多々あったから、多分これに書かれたとおりに行動することで予言通りの未来になる…といったところだろうね」

苗木がゆっくりとページをめくっていくと、そこには事件の全容がほぼ明確に記されていた。

 

『ド低能の葉隠がアホ面晒して娯楽室にやって来たぞ!このクロロホルムを喰らえッ!!馬鹿面で寝こけている葉隠にジャスティスロボをファイナルフュージョンだ!』

「ほれ見ろ!やっぱり俺が言ったとおりじゃあねーか!」

「分かったからもう黙ってろ」

 

『急げ急げ!苗木達がやって来るぞ!しかしただの死んだふりでは見破られちまうッ!ここは思い切って自分をハンマーでぶん殴れッ!傷は苗木が治してくれるッ!』

「…まさか、あの時奴は自分で自分を傷つけていたとは…」

「まー君頼りとか運ゲーじゃん!」

 

『これが最後の正念場だッ!!保健室の輸血パックを自分にぶちまけてハンマーを心臓にシュゥゥゥッ!!超!エキサイティング!心臓が一時的に止まったぞ!後からやってきた苗木は階段の上り下りの連続で疲れて碌に確かめやしないッ!』

「…おい、この内容は確かなのか?」

「うん、セレスさんが先に確かめたのもあるけど少し疲れてて『ゴールド・E』でチェックしなかったんだ。無理にでもやっておけばもう少し事件は簡単に終わっただろうけど…」

「…今それを言った所でしょうがないわ」

「……あれ?今思ったけど、この漫画順番がおかしくない?」

と、朝日奈が声をかける。

 

「おかしい、とは?」

「だってさ、石丸の死体を見つけたのは私たちが山田の死体…っていうか死んだふりか、それを保健室で見た時とほぼ一緒だったんでしょ?なのにこの漫画は最初のページで石丸が殺されてるんだよ!それってちょっと変じゃない?」

「…確かに、妙ですわね」

「馬鹿か貴様ら、死体を見つけたのがついさっきだからといって殺されたのがその直前とは限らんだろう。実際石丸の死体付近の血はかなり固まっていたから死んでからだいぶ時間が立っている筈だ」

「それに、今回のモノクマファイルのは二人の死亡推定時刻は明記されていなかった。どう考えてもわざと隠したとしか思えないわ」

「…ドキッ!」

「つ、つまり…?」

「石丸君はずっと以前、おそらく昨晩の時点で殺されてたんだ。その犯行時刻をごまかすために、わざわざ凶器のジャスティスハンマーに番号をふって僕らの認識をずらそうとしていたんだよ」

と、朝日奈の疑問に答えた苗木が次のページをめくるが、そこからのページは殆ど血で濡れて一部しか読み取ることができなくなっていた。

 

『……が心臓を……ので山田は…活だ………すぐ……準備……を…んで……』

「…チッ、ここまでか」

「しかし、肝心な真犯人のことが一切書かれておらんかったな」

「…書かれてなかったんじゃなくって、多分山田君が意図的に隠したんだよ」

「あ?どゆことまー君?」

「ちょっとここ見てくれる?」

苗木が指差したページを見ると、血塗られたページのかすれた部分になにやら模様のようなものが残されていた。

 

「なんだこれは……指紋か!?」

「おそらく山田君のでしょうね。彼は真犯人に関する記述のあるページを血で汚すことで事実を隠ぺいしようとしたのでしょう…」

「…だがこれではもはや真犯人の正体もそのスタンドの正体を知ることもできん…」

「確かに山田の殺し方はスタンド能力によるものとしか考えられん…が、今は犯人の目星を見つけることが先だ」

「でもこれ以上手がかりなんて…」

「…やはり遺言がある以上葉隠君しかいないのでは…」

「だぁーから違ぇーって!!」

またもや膠着状態に陥ってしまった審議、しかし苗木は憶えていた。あの時確かに聞いた犯人でしかあの状況で知りえなかったことを口走った人物を。苗木は意を決して勝負にでる。

 

 

 

 

「…セレスさん、一つ聞いてもいいかな?」

「?なんでしょう」

「保健室で君が言った言葉をもう一度話してもらえるかな?」

「…あの時ですか、確か…『このままだと、全員が殺されてしまいますわ。彼らのように…』でしたね」

「「ッ!!」」

「それが何か……ッ!?」

セレスが己の失言を悟るが時すでに遅し。

 

「気づいたみたいだね、でももう遅いよ…。セレスさん、君はあの時点では石丸君の死を知らなかった筈だ。なのにどうして、『彼ら』なんて言葉を使ったんだい?」

「………」

「それだけじゃあない。山田君が保健室で死んだふりをしているとき、彼の心臓は確かに止まっていた。あれでは自力で蘇生することは不可能だ。となると、誰かが彼を蘇生させる必要がある。あの現場でそれが可能だったのは保健室に残っていた朝日奈さんとセレスさんだけだ。…そして朝日奈さんがあれからずっとトイレにいたとすると、それが可能なのはもう…」

「…私しかいない、と?でしたらあのジャスティスロボの写真はどう説明するのですか?あれが真実である以上山田君を連れ去ったのは紛れもなく葉隠君としか考えられませんわ」

「…本当に真実ならね」

「なんですって?」

「山田君が共犯者である可能性が出てきた以上、あの写真にももう一つの見方が出てくる。『ジャスティスロボに成りすました葉隠君に連れ去られる山田君』ではなく、『葉隠君ごとジャスティスロボを運ぼうとしている山田君』というね。…葉隠君が入っているとすればあの着ぐるみも相当な重量になっている。運ばれるにしろ運ぶにしろ、素面でできる作業じゃあない。必死にもなるさ…」

「成程な…。確かに貴様はずっと俺たちと共に行動を共にしていた、しかも犯人らしき不審者に襲われたという設定でな…。その印象があれば多少俺たちを誘導するかのような発言をしたとしても自分への疑いを逸らすことができる…」

「状況証拠としては十分ね。あとは物的証拠だけれど…」

と、三人がじわじわとセレスを追い詰めていくと

 

「…………フフフ」

彼女が笑い出した。

 

「どうしてもこの私を犯人にしたいようですが…」

しかし、御嬢様然としていた態度も束の間、

 

 

 

「…こぉのダァボッ!!そいつは大きな大きな間違いなんだよぉッ!!!」

突如として鬼気迫る表情で口汚く罵り始める。

 

「うえええ!?」

「せ、セレスちゃん…?」

「あら鬼婆!」

「誰が鬼婆だこのド低能のシリアルキラーがッ!!その○○○みたいな舌引っこ抜いてやろうかッ!?」

「…化けの皮がはがれたな」

豹変したセレスに皆が戸惑う中、苗木がチェックメイトを決めにかかる。

 

「…いや、もう君しかこれらの犯行を成立させられる人物はいないんだ」

「はあ!?お忘れですかぁ!?山田君が死に際に遺したあの言葉をヨォ!…『犯人はやすひろ』…つまり、どうあったって犯人は葉隠康比呂なんだよぉッ!!」

「…いや、それは少し変なんだよ」

「ああ!?何が変だってんだよこのチビ助ェ!」

「山田君はさ、僕らの名前を呼ぶ時どんな風に呼んでいたか憶えてる?」

「確か、フルネームに殿をつけていたな…」

「…あれ?それだと…」

「そう、本当に葉隠君が犯人だとするなら『やすひろ』ではなく『はがくれ』と言うのが自然なんだ。わざわざ名前の方を呼ばなくても苗字の方が分かりやすいからね。けれど実際に山田君が遺した名前は『やすひろ』。…つまり、僕らの中に『やすひろ』で始まる名前の人間がいる…。その可能性があるのは、今まで本名を明かしていないセレスさん…!」

「私がやすひろなんてダサい苗字なわきゃあねーだろォがッ!!ええ!?ちょん切るぞッ!?」

「だったら教えてよ。セレスさんの本名ってなんなの?」

「よぉし!耳の穴カッポじってよぉーく聞きやがれ!私の名前は『セレスティア・ルーデンベルグ』ッ!!確かめる方法が無い以上、それが真実なんだよこのビチグソがぁッ!!」

 

「…残念だけど、それは違うよ。確かめる方法は、ある」

「なッ…!?」

「電子生徒手帳には、起動時に持ち主の個人データが正確に記されている筈だ。不二咲くんが男だと記されていたようにね。だとしたら、セレスさんの生徒手帳にも、「セレスティア・ルーデンベルグ」ではなく君の本当の名前が記されている筈だ。…その名前が本名だというのなら、見せてくれ」

「……」

「コール(勝負)だ、セレスさん」

無表情で黙り込むセレス。しかし、しばらくするとため息をつきながら呟く。

 

「…ドロップ(投了)ですわ。」

「……」

「…ハァ、駄目でしたか。やっぱり彼を引き入れた程度では何も変わらなかったようですわね」

「…認めるんだな」

「負けを宣告されて足掻くほど往生際は悪くありませんの。…けれどそう悪い気分ではありませんね。まるで初手ロイヤルストレートフラッシュ、もしくは天和国士無双でも決められたみたいな気分ですわ。…モノクマさん、始めてくださる?」

「ラジャーッ!!では皆さん、お手元のスイッチを押しちゃってくださーい!」

モノクマの合図とともに、皆が手元のスイッチを押しモニターにスロットマシンが映り回転を始める。ゆっくりと止まったスロットに描かれていたのは…、セレスの顔であった。

 

「ピンポーン!またまた大正解!!山田君を利用し、石丸君を殺害させたのち山田君すら殺した真のクロは、セレスティア・ルーデンベルグこと『安広多恵子(やすひろたえこ)』さんでしたーッ!!」

「せ、セレスちゃんなの…、本当に…!?」

「なんと…」

「…皆さん初めまして、とでも言うべきでしょうか。セレスティア・ルーデンベルグ改め…『安広多恵子』。そして…」

 

ブオンッ!

「…私のスタンド、『マリリン・マンソン』。又の名を『取立人』ですわ」

セレス…安広多恵子の傍に現れたのは、毛むくじゃらの体とまるで火箸の先端を丸めたような手を持ち、ダイバーマスクをかぶったような頭の額には貯金箱のように細い穴が開いた大柄な男の姿をしたスタンドであった。

 

「安広…?」

「タエちゃん?」

「その呼び名はやめろッ!!スカタンッ!」

「…そのスタンドが山田の心臓を抜き取ったのか」

「…ええ、私のスタンドは『取立人』の名の通りお金になる物ならどんなものでも徴収しますわ。現金でも宝石でも、売れっ子同人作家の完成した原稿でも…例え臓器でも。ですが、それには条件がありますの。それは私と『賭け』をして私に敗北すること」

「賭け…?」

「ええ、どんなことでも構いませんの。二つ以上の選択肢がある賭けにおいて賭け金を定めさえすれば、その賭けに敗北した時私のスタンドに抗うことはできませんわ。…おかげで少し面倒な芝居を打つ必要がありましたけどね…」

 

 

セレスが語ったのは、モノクマからの動機が与えられた直後の事からであった。あの日セレスは殺人をすることを決めていた。しかし、自分一人でできる程度のトリックであれば、苗木や十神、霧切などの勘のいい面子にすぐに見破られてしまうであろう。どうしようかと悩んでいたセレスは、ふとその日にあった石丸と山田の対立の場面を思い出し、一計を講じた。

アルターエゴが行方不明になった夜、山田の部屋を訪ねたセレスは山田に縋りついて涙ぐみながら話を始めた。

 

『ど、どうしたのですかセレス殿ッ!?』

『山田君…、実は折り入って相談があるのです』

『相談…?ぼ、僕で良かったらなんなりとぉ!』

『…私、見てしまったのです。石丸君がアルターエゴを持ち去っていくところを…』

『な、なんですとぉッ!?くっそぉ~、やっぱりあの野郎だったんですねえ~!僕の天使を誘拐したのはぁ~!』

『それだけではないのです…。私がそれを止めようとしたら、…逆上した彼は…口封じのために、私に乱暴を…!』

『なあッ!?……石丸清多夏、そこまで落ちぶれたかッ!『超高校級の風紀委員』が聞いてあきれる!もはや勘弁ならんッ!!あえて言わせてもらうッ!石丸、ぶっ殺すッ!!』

『…しかし、石丸君にはあの『ザ・サン』がありますわ。あれをどうにかするのは大変だと思うのですが…』

『フフフ、ご安心をセレス殿。あのクソッタレ野郎のスタンドなんざ、この僕のスタンド『トト神』の前ではカス以下の存在でしかありませんよ…』

『……でしたら、一つ提案があるのですが』

『て、提案?』

『ええ…、提案というか『賭け』のようなものなのですが…』

 

 

「…そこで私は彼と賭けの約束をしたんですの。『自分の考案した作戦を山田君が実行し、それを誰にも目撃されることなく成功させられるかどうか』という賭けをね…」

「…それで、貴様と山田は何を賭けたのだ?」

「…決まってますわ。『百億円』…卒業した時の報奨金を賭けたんですの。賭けに勝った方がその場で全額もらうということでね」

「じゃあ、山田君の心臓が抜かれていたのは…」

「ええ、『マリリン・マンソン』の徴収は賭けに敗北した時点で執行が決定されます。美術倉庫で敗北を告げられた山田君は、その場で百億円分の徴収を受けましたわ。彼の手持ちのお金、銀行の預金、彼の宝物であるコレクションの数々や書き溜められていた原稿…。しかし、当然彼の資産だけでは百億円の価値には到底及びませんわ。…ですから、彼の臓器でそれを賄ったのです。ちなみにあの時、心臓の他に肝臓と腎臓も頂いてましたのよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!なんで山田は負けたのさ!?山田は誰にも犯行を目撃されてなかったんだよ!なのにどうして負けたことになってるの!?」

「…朝日奈さん。セレスさんが持ちかけた賭けの内容を思い出して欲しいんだ」

「えっ?…確か、作戦の間誰にも見られちゃいけないんだっけ…?……あ」

「そうよ。そしてその作戦には、山田君が図書室でジャスティスロボの存在を明かすことや保健室で死んだふりをすることも含まれている。…つまり、この作戦を成立させる以上誰かに見られなければいけない。山田君に勝ちの目なんて、最初から無かったのよ」

「ひ、卑怯だべ!インチキだべ!イカサマだべ!」

「…フフフ、私が知っている言葉にこんな言葉がありますのよ。…『イカサマは見抜けない方が悪い。バレなければイカサマじゃあないんだよ』…まったくその通りですわ。山田君がヌケサクだったのがいけないんですのよ」

「ひ、酷い…」

「…しかしセレスよ、お主常日頃からこの環境に適応せよと言っていたではないか。何がお主をそこまで駆り立てたのだ?やはり金か…?」

「お金?そう、確かにそれもありますわね。けれど……んなこたぁどーだっていーんだよッ!私は誰よりも、誰よりもここから出たかっただけなんだよぉーッ!!!」

「せ、セレス?あんたどーしたの?」

「私は正気ですのよ。…この安広多恵子には夢がありますの。今までギャンブルで稼いだ賞金も、百億円もその夢の為…」

「夢…?」

「私の夢…、それは西洋のお城に住むこと。今のような偽りの姿ではなく本物の貴族になって、百人の吸血鬼の仮装をしたイケメン達に執事兼警護をさせて優雅に暮らす…。そんな満ち足りた一生を送ることこそが私の願いでしたの」

「く、下らん…」

「そんなことの為に、山田と石丸を…!」

「人は夢の為にならいくらでも残酷になれるんですのよ。モノクマからの百億円があればそれも夢ではなくなったのですが、本当に残念ですわ…」

「…つーかあんたなんでそんな落ち着いてんのさ?分かってんの?これから殺されるんだよ?」

「甘く見ないでくださいな江ノ島さん。私はこれでも『超高校級のギャンブラー』、自分の感情すら賭けに利用する人間ですのよ。死への恐れなんて、殺人を決めた時点で既に克服していますわ。いくらでも殺してくださいな」

そっけなくそう返答すると、セレスは苗木の傍に歩みよって微笑む。その笑みは、限りなく自然なものではあったが、微かに震えた唇の端が先ほどの彼女の言葉が嘘であることを物語っていた。

 

「…苗木君、あなたの事は本当に惜しいと思っていますわ。あなたは私が出会った男性のなかで最も心惹かれた存在。もし私が勝っていれば、あなただけでも私の筆頭執事として助けてあげようと思っていたのですが…今更の皮算用でしたね」

「…その言葉は素直に嬉しいよセレスさん…いや、安広さん。けれど、君の夢のように、僕にもやり遂げなければならないことがある。だから、僕は君を救えない。君の命は見捨てていく。その代わり、君の心だけでも背負って闘っていくことを誓うよ」

「…思ったよりロマンチストでしたのね。けれど、そういうところも嫌いではないですのよ」

そう言うとセレスは苗木の手を両手で握る。その際、何かを握らされたような感覚を感じた苗木はセレスが手を放すと周りに感づかれないようにそれを確認する。そしてその正体に表情に出さないように驚き、思わずセレスの方を見るが既にセレスは後ろを向いていた。

 

「『約束』は守りましたのよ、苗木君…」

「…セレスさん」

「……お待たせしましたモノクマさん、そろそろ行きましょうか?」

「…あ、もういいの?わっかりましたぁーッ!!では今回は、『超高校級のギャンブラー』であるセレスさんの為に、スペシャルな、おしおきを、用意しましたーッ!!」

「生まれ変わったら、今度こそマリー・アントワネットになりたいですわね…」

「そしたらまた処刑だけどな…。しかもギロチン…」

 

 

 

「…それではみなさん、来世までごきげんよう」

 

 

 

 

 

 

 

セレスが連れて行かれた先は、彼女が思い浮かべていたような中世風のお城…のハリボテの前であった。そこにぽつんと存在する鉄柱に縛り付けられたセレスの足元に、どこからともなくやってきた麻袋を被ったモノクマ軍団が大量の薪を積み上げる。そしてその中の一人、轟々と燃え盛る火の付いた松明を持ったモノクマが高らかに宣言する。

 

「たらららったった~ん!ベルサイユ産火あぶり魔女狩り仕立て!!」

松明の火が薪へと燃え移る。火は薪から薪へと勢力を強め、あっという間にセレスの足元付近まで焼き尽くす業火となった。

足先を焦がされ、熱で大量の汗を掻きながらもセレスは一種の満足感を覚えていた。火あぶりの刑、セレスが憧れた中世ヨーロッパにてギロチンと絞首刑と並んで有名な死に方である。生きている間にこそ夢を叶えることはならなかったが、最期に望んだ終わり方ができたということに、セレスは恐怖を感じながらも満足していた。

 

 

しかし、モノクマがそんな希望を抱いたまま彼女を死なせるわけがなかった。

 

 

カンカンカンカーン!

どこかで聞いたことのある特徴的なサイレンと共に部屋の奥から赤いカラーが印象的な消防車がやってきた。それを見た朝日奈や葉隠、大神は思わず胸を撫でおろす。流石にやり過ぎと思ったのか。これでセレスは助かる。

しかし、そんな彼らの期待とは裏腹にセレスの元へ走る消防車は止まって消火活動をするどころか増々スピードを上げて突っ込んでくる。それが示す結末、数秒後の望まぬ未来にセレスが思い至る間もなく、

 

 

消防車は突如跳ね上がってセレスへと突貫し、

 

 

絶望するセレスを轢き潰し、周囲の小道具もろともその躯を瓦礫の下敷きにして行ったのであった。

 

 

 

石丸清多夏―山田一二三に殺害されて死亡。再起不能 スタンド名『太陽』

山田一二三―石丸清多夏を殺害セレスティア・ルーデンベルグ…安広多恵子のスタンドに殺害され死亡。再起不能 スタンド名『トト神』

安広多恵子―石丸清多夏を謀殺。山田一二三を殺害。学級裁判にてクロと見破られおしおきを受けて死亡。再起不能 スタンド名『マリリン・マンソン(取立人)』

 

生き残りメンバー、のこり8人。




絶対絶望少女どうしようかな…、vita持ってないからセットで買わないと…。今度ダンロンの舞台見に行ったときにいっそまとめ買いしてしまおうか…

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