ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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今回少し短いです


男の約束と違和感

あれから二人に介抱されなんとか和解して部屋に戻った苗木は浴びるように水を飲んだのち卒倒するかのごとく眠りについた。そして翌日、朝食の為に食堂へと向かった苗木を待っていたのは

 

 

 

 

「「だっはっはっはっはっは!!!」」

食堂のど真ん中で肩を組んで馬鹿笑いしている石丸と大和田であった。

 

「まったく冗談は程々にしてほしいぜ兄弟!!」

「なっはっは!スマンスマン、お!おはよう苗木君!」

「……どうしてこうなったの?」

「さあ?朝からなんか気持ち悪いんだよねー…」

「お主等昨日は喧嘩腰だったのではないか?」

「んなこと気にすんなって!限界まで男気を競いあった男を認めてなにがおかしいってんだよ?」

「うむ!今までのことは、忘れてビーム!」

HAHAHAHA、とどこぞの外国人コメディアンの如く笑う二人は端から見ても気持ち悪いぐらいの豹変の仕様であった。昨日頭の中に出てきた二人組が目の前の二人と重なって見えるのは気のせいだと思いたい。

 

また騒がしいのは彼等だけではなかった。

 

「こ、紅茶をお持ちしましたセレス殿…」

「あらご苦労様」

何時の間にそういう関係になったのか優雅に寛ぐセレスに山田が自分で淹れたらしい紅茶を執事の如く献上している。

 

「なーんかそうしてるとセレスってハマってるよねー」

「やっぱりどこかの貴族のお嬢様だったりするんだべか?名前からしてそれっぽいし…」

「ええ、両親はフランスの貴族とドイツの音楽家ですのよ」

「やっぱり!じゃあじゃあ、どこに住んでるの?やっぱり花の都パリとか!?」

野次馬根性丸出しでテンションの上がる朝日奈の問いにセレスは微笑を湛えたまま答える。

 

 

 

 

「いえ、栃木の宇都宮ですわ」

『…へ?』

予想外過ぎるその答えに話を聞いていた面々はポカンとしてしまう。

 

「…う、宇都宮ってあれか?餃子がウマイっていうあの…」

「一概に餃子の街と決め付けられるのは少し癪ですがその通りですわ。…まあ下品な料理ですが私も好きですのよ餃子」

衝撃的な現実に混乱する彼らを余所に、セレスは山田の淹れてきた紅茶の入ったカップを持ち上げちらりと一瞥し……口を付けることなく足元にぶちまけた。

 

「ほぎゃー!!?ななな、なんばしよっとですかセレス殿…!?」

ショックでなぜか博多弁になっている山田にセレスは笑みを浮かべて告げる。

 

「私、紅茶を牛乳で煮出したロイヤルミルクティーしか飲みませんの。山田君、淹れ直してきてもらえます?」

「いや、だからってそこまでしなくとも…」

と、遠慮がちに宥めようとする山田に向けられていたセレスの笑顔が

 

 

 

 

 

突如、般若の如き表情に変わる。

 

「いいから早く持って来いこの豚があぁぁぁぁッ!!!!!」

「ぶ、ブヒィーッ!ぶ、豚めがすぐに持って参りますーッ!!」

従者と主からあっという間に下僕と女王様へと変貌した二人を見て、生徒たちはセレスへの認識を改めることとなった。

 

 

余談ではあるがセレスの言うロイヤルミルクティーは本場イギリスで飲まれている淹れ方ではなく紅茶メーカーが考案した淹れ方であるため、セレスの理想とは若干異なるのだがそれを言えば余計にややこしいことになるので苗木は黙っていることにした。

 

キーンコーンカーンコーン

と、その時チャイムが鳴りモニターにモノクマが映し出される。

 

『えーっ、オマエラ!体育館に集合―ッ!!オマエラのだらけっぷりにちょっと喝入れてやるーッ!!』

そう言い残しモニターは消える。後に残されたのは

 

 

「…なにあれ?」

「さあ?」

置いてけぼりを喰らった生徒たちだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

「オマエラさあ、どーしてそうなるワケ?何かにつけて友情だの努力だの勝利だの暑苦しいきれいごと並べて日常回帰したがるっていうかさあ。そんなのより冷酷!残忍!みたいな血と硝煙の臭いが漂う非日常のほうがよっぽどいいって。きっと皆むせすぎて肩まで赤く染まっちゃうよ?」

「…そのネタ分かる人いるの?」

「あ、俺知ってるべ」

「あ、そう…」

体育館に入るなりいきなり説教を始めたモノクマ。絶対話す年齢層間違えているとしか思えないようなネタを交えたその内容にもあの二人は律儀に反論して見せる。

 

「また僕らに殺し合いをさせるつもりかッ!僕たちはどんな脅しにも屈しないぞ!」

「俺たちの絆なめんじゃあねえぞこのスカタンがぁッ!!」

「はいはい美しい美しい…。今回はそんなオマエラの為に新しい動機を用意してみましたー!!」

「ま、またぁ…?」

モノクマはいつの間に付けたのであろう腹部に付いたポケットのようなものに手をつっこに、わざとらしくまさぐった後何かを取り出した。

 

「たらららったった~ん!皆の黒歴史~!」

聞くからにロクな代物でないそれは、DVDの時のように各自の名前が書かれた封筒であった。

 

「これは、ボクが独自の調査の末に掴んだ皆さんの知られたくない過去や恥ずかしい思い出が書かれたものです。皆さん間違いはないかそれぞれチェックしてみてください!」

放り投げられたそれを各自拾い中身を確認する。

 

「…!!?ええっ!?ちょ、なんで!?」

「うわああああ!!!な、なんでこんなこと知っているのだッ!!」

「ひ、ひ、ひいぃぃぃぃ!!!」

その内容に彼らは凄まじい反応を見せた。どうやら前回のDVDより個人的なダメージは大きかったようである。

苗木もまた自分の名前が書かれた封筒を開く。そこに書かれていたのは…

 

 

「苗木クンは昨日の夜朝日奈さんと大神さんの裸を見た」

 

「ブッ!?」

あまりにもタイムリーなネタに思わず吹き出してしまう。二人には見ていないと言っているので確かに秘密と言っては秘密だがよりにもよってこれを選ぶかというものがあった。しかし、幼少期より他人に比べやや成熟した思考を持って成長した苗木にはこれといった人生の汚点と呼ぶべきものは無いため仕方ないといえば仕方ないものであった。

 

(ホントはもっと色々あるんだけど万が一それが元で思い出されても困るからねえ。ちょっとしょぼいけどこれしかなかったんだよねえ。…まあどっちにしろ苗木クンがこれが原因で殺人をするとは到底思えないしね。…それより)

モノクマもまた苗木のネタをしょぼいと感じつつも、眼前で封筒の中身に仰天し動揺する生徒たちを見て再びテンションを上げる。

 

「うぷぷ…ステキでしょ?期限は24時間!それ以内に殺人が行われなかった場合、そこに書かれている内容を世間に公表させてもらいます!お昼頃のアルタ前なんかに流すのが良さそうだねえ…うぷぷ!じゃあオマエラ、楽しみにしているからねぇ~!!」

そう言ってモノクマは再びステージ下へと消えていった。

 

「じょ、冗談じゃあねーべ!俺の黒歴史がいい○も放送中に流れるとかシャレになんねーよッ!!」

「ちょっと葉隠!だからってあんたまさか人殺しするつもりじゃあないでしょうね!」

「うっ…、さ、流石にそこまでする気はねーべよ…」

「フン、この程度の動機で俺が動くと思われていたとは心外だな」

「うむ…、確かに恥ずべきことではあるが人殺しに繋がるほどのものではなかろう…」

「そ、そうだとも!例え一時の恥を受けたとしても人の噂も75日!それを理由に他人を害するようなことはあってはならないッ!!」

「そうですな!…けど、やっぱり他人に見られるのはちょっと恥ずかしいですな。苗木誠殿、スタンドでヤギを創ってこの紙食べて貰ったりとかできませんかな?」

「別にいいけど…」

皆動揺はしていたもののそれを原因に殺しをしようなどという気概は感じられず、苗木はほっと胸をなでおろす。

しかし、とある人物を見た時その視線が止まる。

 

「…不二咲さん?」

未だに紙面を見つめている不二咲は明らかに怯えていた。顔は青ざめ、視線は右往左往しており他の人よりも明らかに動揺していた。不安に思いフォローに入ろうとした時、

 

「おい不二咲、どうしたんだお前?」

「えっ!?…い、いやなんでもないよぉ…」

大和田に声を掛けられビクつきながら紙を隠し応対する。そんな不二咲に大和田は普段と少し異なる少し優しげな声音で語りかける。

 

「もしかしてお前、その紙になにかバラされたくねえことでも書いてあったのか?」

「……う、うん。で、でも!僕絶対誰も殺さないから!だから…」

「…いいんだよ不二咲。無理しなくたって」

「…ふぇ?」

「誰だって知られたくねえことや秘密にしておきてぇことの一つや二つあるもんだ。それに対して引け目を感じたりする必要はねえ。それもそいつらしさって奴の一つなんだからな。だから、もしお前がその内容のことで何か嫌な思いをするってんだったら、何時でも俺を呼べ。どこへだって駆けつけてそいつをぶん殴ってやるッ!…不二咲、俺はお前を悲しませない。だからお前は俺を信じてくれねえか?力になれることがあれば、なんだって手を貸してやる。約束する、『男の約束』だ」

「男の…約束?」

「ああ、男ってのは、テメエで決めた約束は絶対貫き通さなきゃなんねえ。少なくとも俺は兄貴からそう教わった。だから俺もそれを死んでも守ってやる。約束だ」

不二咲はその言葉に少し顔を俯かせ、やがて強い決意を秘めた目でそれに応える。

 

「………うんッ!僕も決めた、もう逃げないって!約束するよ。『男の約束』、だね!」

「…ああ、『男の約束』だ」

そう言って二人はお互いの拳を軽くぶつけ合った。

 

 

 

 

 

「…なーんかいい雰囲気なんじゃあな~い?」

ふと周りを見れば、自分たちに生暖かい視線が集中していた。

 

「ななッ、なっなっな…!」

「うむ!流石兄弟だ!器が違うと感嘆させてもらうッ!」

「…フン、下らん茶番だ」

「とか言って十神っち~、しっかり見てたじゃんか~このムッツリ!」

「ムッツリ…だと!?」

「ちょ、ちょっと葉隠!あんた白夜様をあんな時代遅れの激臭カップルと一緒にしてんじゃあないわよッ!」

「か、カップルってそんな…」

「…ふ、まあ良いではないか」

「つーか白夜様って…?」

「……フゥ」

先ほどまでの緊張感はどこへやら、和気あいあいとした雰囲気に苗木は余計なお世話だったか、と顔を綻ばせる。

 

(それにしても不二咲さんそれでいいのかなぁ?だって君は……いや、やめておこう。この雰囲気に水を差すのは無粋すぎるな)

今はこの平穏な時間を少しでも長く感じるべく、苗木は内に秘めた秘密を隠し目の前の光景を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この『男の約束』が第二の悲劇に繋がるとは思いもせず。

 

 

 

 

 

体育館で解散した後は、皆しばらく校内の散策も兼ねて自由時間となった。自由時間と言ってもその過ごし方は千差万別である。

 

「…どうも初日から体がやたらと重く感じる。なまっているようだから少し鍛え直してくる」

そう言って朝日奈と大神は二人でトレーニングのためプールと更衣室へと向かった。一緒にどうかと誘われたが流石に昨日裸を見てしまった二人と泳ぐ気にはならず苗木は誘いを断った。

 

「…少し暇を潰してくる。邪魔だけはするなよ」

十神もまたそう言い残しどこかへと向かう。いつの間にか腐川も居なくなっているが昨日の様子からどこに向かったのかは大体検討がついているためほうっておくことにする。

 

「僕は引き続きパソコンのプロテクト解除作業をしておくね」

不二咲もまた自分の使命を果たすべく行動を開始する。

 

皆自分の時間を思い思いに過ごす中、苗木は一人校内をうろついていた。時折所在なし気に自分と同じようにふらついている葉隠や江ノ島と会話しつつ、苗木はある仮説を考えていた。

 

(…みんながスタンド使いとして目覚めている。この状況はモノクマ、もとい黒幕にとっては決して看過できない事態の筈だ。今でこそ直接的に脱出に繋がるような能力を持ったスタンドは発現していないけど、スタンドのポテンシャルや能力なんて人の数だけ違う、まさしく千差万別もいいところだ。そんなスタンドを持つ可能性のある人間が十五人もいるっていうのに、黒幕はこの状況に介入してこようとせず、むしろそれを助長するかのように僕たちを挑発している。…それに、十神君に言ったっていうあの言葉、

 

『僕にそれは効果ないからやめといたほうがいいよ』

 

…あんな言い方じゃあ自分が校内にいるのを感づかれて当然だ。しかも、十神君のスタンド能力を効かないと言い切っている。…考えられる結論は一つ、黒幕は僕らのスタンド能力を未だ発言していないものも含めてほぼ把握している。そして、その上で自分が校内にいたとしても絶対に見つからない、そしてここから出ることはできないという確信を持っている。…だが一体どうやって?見てもいないスタンドの能力を知っているなんてことはまず考えられない。………まさか、皆のスタンド能力は…」

 

と、そこで苗木はある人物を目撃する。二階の図書室、その入り口でわずかに開いた隙間から中の様子を伺う不審な少女。言うまでもない、腐川冬子である。しかしその様子にいつもの陰気くささはなく、顔はだらしなく緩み口元からは軽く涎が垂れている。

 

「あの…腐川さん?」

少しばかり危ないその様子に思わず声をかけると、腐川は飛び上がって悲鳴を上げようとし、そこで踏みとどまって口を抑えて小声で話し出す。

 

「…ッ!!な、なによ苗木じゃない…な、なんか用なの…?」

「いや…、中に入らないでそんな風にしてたら誰だって不審に思うよ…」

「う、うるさいわね…ど、読書中なんだから静かにしなさいよ…!」

読書中?と苗木が首を傾げると図書室の中から声がする。

 

「そんなところでこそこそしていないで入って来たらどうなんだ?そこに居られると余計に気が散る」

「…!十神君?」

声に呼ばれ中に入ってみると、薄暗い部屋の中で電気スタンドを灯しその明りで読書をしている十神がいた。

 

「…なんでこんな暗い部屋で読んでるのさ?電気点ければいいじゃないか。ていうかこの電気スタンドとか延長コードとかどっから持って来たの?」

「フン、部屋を明るくすれば貴様らのように中を覗こうとする輩が増えるだろう。別に有象無象に見られようが知ったことではないが煩わしいのは御免だ。この電気スタンドやコードは奥の書庫にあった物を拝借してきただけだ。…もういいだろう。さっさと出ていけ、読書の邪魔だ」

シッシとあしらわれ仕方なく部屋を出ようとする苗木と腐川。と、名残惜しげに去ろうとする腐川に十神が思い出したかのように告げる。

 

「…おい、腐川」

「は、はい!なんでしょう!?」

「…目障りだからさっさと出て行け。それと貴様臭うぞ、次に俺と顔を合わせるまでに風呂に入れ。…それだけだ、早く出ていけ」

 

ピシャアァァァン!!!

その言葉に腐川は落雷でも受けたかのような表情をすると、ふらふらと踵を返して図書室を出た。慌てて苗木は後を追い外で立ち尽くす腐川に声をかける。

 

「ふ、腐川さん…その、さ。十神君がああいう人だってことは分かりきっていたことじゃあないか。だから、あんまり気にしないで…」

「…気にするな…ですってぇ?」

苗木のフォローに、小さく反応したかと思うと次の瞬間腐川は爆発した。

 

恍惚の笑みを浮かべて。

 

「気にするに決まってるじゃあないのッ!あの白夜様が私の事を気にかけてくれたのよッ!!これをシカトとかありえないじゃあないのぉ!!…こうしちゃいられないわ、16年分の汚れをお風呂で流してこないと!キャハハハハハ!!!」

苗木をろくに見ることなく捲し立てると腐川はどこにそんなパワーがあったのかと思うほどのスピードで走り去ってしまった。後に残された苗木は、

 

「……まあ人の趣向はスタンド以上に千差万別だよね」

と無理やり納得して考えることを放棄し、脱力した様子で部屋に戻っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜。夕食を済ませた生徒たちの大半は部屋へと戻り既に眠りについている者も多い中、苗木はシャワーを浴びてベッドに座り水を飲みながらあの時中断した考えを整理していた。

 

(僕の考えが正しければ、黒幕にはこれから出てくるスタンドの能力もすべて筒抜けだろう。…とすれば皆のスタンドの中には脱出、あるいは黒幕を倒すことができる能力は無いということか…あるいはあったとしても『何らかの制約』を設けられている可能性が高い。だがまだ可能性はある。スタンドの能力はスタンド使いの使い方次第でいくらでも応用が利く。なんとか黒幕の裏をかくことができれば…)

そう思いながら苗木は水の入ったペットボトルに口をつける。

 

 

 

 

 

 

(なんとか黒幕の裏をかくことができれば…)

そう思いながら苗木は水の入ったペットボトルに口をつける。

 

 

 

 

 

 

 

「…ん?」

と、そこで不思議に思う。

 

「あれ…?なんか変だな…眠いのかな、もう遅いし今日は寝てしまおうか」

どうも妙な感じを覚えつつ苗木はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

後にこの時、違和感の正体を確かめておけば良かったと苗木は心底後悔することとなる。

 


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