ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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学級裁判はスピーディーに行きますよ~


第一回 学級裁判

遂に始まった学級裁判。モノクマが見下ろす中で、互いに向かい合う形となった生徒たちは事件の解決の為に討論を開始する。

まず始めに行われたのは事件の概要確認と事件当夜のアリバイ立証。と言っても、皆昨晩は朝日奈と大神を除いて一人であったために自分のアリバイを立証することもできず、必然事件の確認のみが行われ、現場が苗木の部屋であったことと第一発見者であるという観点から、苗木が犯人ではないのかという風潮が自然と立ち上がる。

しかし、凶器の包丁が厨房より持ち出された物だという話になったとき朝日奈が声を上げる。

 

「待って、包丁を取りに来たのは苗木じゃないよ」

「「「え?」」」

「私、昨日はさくらちゃんと消灯時間まで厨房に居たから…」

「…さくらちゃん?誰だそんな乙女チックな名前の奴…」

 

 

「…我だ」

「…え…。あ、あはは。…すんません」

桑田の失言で若干妙な空気になるが、大神は気にした様子もなく説明を再開する。

 

「我は昨夜、朝日奈と共に紅茶を嗜んでいた」

「寝付けなくって、さくらちゃんに付き合ってもらったんだ。そしたら、食堂から入ってきた人がいて…」

「その入ってきた人物というのはまさか…」

「うん…、舞園さやかちゃん」

「つーことは、包丁を持ち出したのは舞園自身だった…っつー訳か」

「一体何の為に…?」

「護身用…と言いたいところだけど…」

「残念ながら違うわ」

苗木が言い淀んだ言葉を霧切が引き継ぐ。

 

「舞園さんが包丁を持ち出した理由は身を守る為なんかじゃあない。…他の誰かを殺すために自ら持ち込んだのよ」

『!?』

予想外の言葉に驚く面々に、霧切は懐から黒く塗りつぶされたメモ用紙を取り出す。

 

「苗木君の部屋にあったメモ用紙よ。上に書かれていった原文はもうないけれど、筆圧で跡が残っていたから塗りつぶせば読むことができるわ」

霧切の持つメモには、「二人きりで話したいことがあります。五分後に私の部屋まで来てください。部屋を間違えないようにネームプレートを確認してくださいね」という内容が名前付きで記されていた。

 

「舞園さんはこのメモを使い、犯人をわざと自分の部屋に呼び出したのよ」

「成程、確かに超高校級のアイドルからこんな手紙をもらったらまさにヨダレズビッ!なものですなあ…あ、もちろん僕は二次元限定ですけどね!」

「黙ってろ豚。…それでのこのこやってきたクロを殺そうとしたが、逆に殺されたということか。模擬刀についた斬撃痕もおおかたその時に犯人が盾代わりに使ったときに付いたものだろう。…しかし、これで苗木が犯人だという線は薄くなったな」

「…え?なんでだよ」

「分からんのかグズめ。舞園は苗木と部屋を交換しているのだぞ。ついさっき部屋を取り換えたばかりの人間宛ににわざわざ部屋の確認をさせるような手紙を書く必要があるのか?その程度のことも理解できんのか?」

「ぐっ…」

「で、でも、それなら舞園さんはなんでわざわざ苗木君と部屋の交換なんてしたんだろう…?殺すだけならわざわざ苗木君の部屋でなくてもいいのに…」

「あら、そんなの簡単ですわ。……苗木君を犯人に仕立て上げる為に決まってますわ」

セレスの言葉に、ヒートアップしかけていた議論がとたんに静まり返る。

 

「当然の考察でしょう?自分の部屋で殺してわざわざ人目に付く危険を冒してまで証拠隠滅を図るのと他人の部屋で殺してほったらかして殺人の罪をそのまま部屋の主に擦り付ける。…自分が部屋の交換を認めなければ、必然的に犯人候補の意見に耳を貸す者などいませんわ。どちらが効率良いかなんて、子供でも分かりますわ」

セレスが言うおそらく真実であろう推理に、苗木は俯き悲しげな表情をする。そういう意図があったであろう事実にはとっくに気が付いていたのだが、苗木はどうしても心の奥底でそれを認めきることができず黙っていたのである。

 

「し、しかしあの舞園くんがどうしてそんなことを…」

石丸が信じられないといった表情での問いかけに、苗木は俯きながら答える。

 

「…理由は、モノクマの用意したDVDだよ」

「何…!?」

「さっき中身を確認させてもらった。内容は言えないけど、おそらく彼女にとっては僕たち以上にショックを受けたことだったんだろう。それでここまで追い詰められたんだ…」

中身を言っても良かったのだが、あの内容で余計なパニックを引き起こされると議論がこじれる恐れがあったためあえて伏せる。皆も、全員で視聴して時の舞園の豹変と舞園のプライバシーを考慮してか内容に関して追及はしなかった。

 

「…舞園の動機と凶器の話はもういいだろう。それより考えなければならんことがあるだろうが!」

静まり返った議論に痺れを切らしてか十神が皆に一喝する。

 

「考えること…?」

「当然、殺害方法と犯行に使ったであろうスタンドの正体だ。」

その答えに皆が驚愕の表情を浮かべる。

 

「す、スタンド!?舞園君はスタンドに殺されたのか!?」

「あの女の手にあった炎症の痕、あれは強酸性の液体がかかったことで生じたものだ」

「強酸性…?塩酸とかか?」

「いや、おそらく酸の強さで言えば塩酸など比べものにならんだろう。今この学園でそれだけの酸性化合物を手に入れる方法など存在しない。そうなると、もはやスタンドによるものとしか説明できんだろう」

「だ、だけどよ!シャワールームの鍵が外されてたってことは、舞園ちゃんは鍵をかけてたんだろ!?部屋に閉じこもった舞園ちゃんに、どうやって酸を吹っかけたっつーんだよ!?」

桑田の捲し立てるような疑問に、今まで俯いていた苗木が顔を上げて話し出す。

 

「…鍵を外す必要なんて、最初から無かったんだよ」

「あ?」

「そのスタンドは、扉も鍵も関係なく相手を殺すことができるスタンドなんだから」

「苗木君…?…!まさかあなたそのスタンドと…!」

「うん、さっき一戦交えてきた。そこで奴の正体を知ることができた」

苗木の言葉に、全員が息を吞む。

 

「ほ、ホントか苗木っち!?」

「うん。…スタンドの名前は『ヨーヨーマッ』。スタンドとしての分類は『自動追跡遠隔操作』型…つまりターゲットを指定すればスタンドの本体の意志とは関係なく勝手に動くタイプのスタンドだ」

「…つまり、密室だろうと関係なく追いかけることができるということか?」

「うん。元々スタンドは壁なんかすり抜けちゃうんだけど、奴は知らないうちにターゲットの近くに現れるからちゃんと指定さえすればどこでも現れるだろうね。…そして奴の武器は『強酸性の涎とそれを内蔵した蚊』による攻撃だ」

「酸の涎は分かるけど、蚊…?」

「奴の蚊は酸性の涎を体内に送り込んで内側から相手を溶かすんだ。舞園さんの時は使わなかったみたいだけど、それを抜きにしても奴の涎の威力は凄まじい。なにしろほとんど痛みを感じないうちに体を溶かしてしまうからね」

「ひええ…おっそろしいですなあ。苗木誠殿が倒してくれていて良かったですぞ」

「…倒した?僕が?」

「へ?いやだって苗木誠殿そいつと闘ってやっつけたからここに居るのでしょう?だったらもう犯人はスタンドをもっていないんじゃあ…」

「誤解してるようだから言っておくけど、僕は奴を倒していないよ。むしろスタンドの闘いでは完敗だった」

「…ええ!?」

「な、苗木でも勝てなかったの!?」

「ハッキリ言って奴は対人戦においては無敵と言っても過言じゃあない。涎をばら撒き蚊を漂わせ、いくら殴っても瞬時に復活する。さっきも右腕と両足を殆ど溶かされたし、なんとか不意打ちで奴を封じ込めていなければ今頃は僕も写真でここに居ただろうね。…あと言っておくけど自動追跡型のスタンドは攻撃しても本体へのフィードバックがほとんどないからスタンドを殺しても本体はピンピンしてるしスタンドもすぐに復活するよ」

苗木の話に、皆はポカンとする一方スタンドというものの恐ろしさを改めて感じ取っていた。

 

「…えー、とにかく舞園くんを襲ったのはその『ヨーヨーマッ』とかいうスタンドで、そいつはまだ生きている。ということでいいんだね?」

「そうだね。でも、直接的な死因はそいつじゃあない」

「え、なんで?」

「舞園さんの致命傷は腹部に刺さった包丁だ。奴は自分の酸を利用することはしても凶器を用いて攻撃することはしなかった。それに舞園さんの炎症は腕と胸付近だけにあった、酸が原因だとするには軽傷すぎる。…多分舞園さんは奴に襲われたのち犯人自らによって殺されたんだ」

「え?なんの為にそんなメンドクサイことしたのさ?そのまま酸で殺した方が楽じゃん」

「それは…」

流石にそこまで考えが回らなかったのか答えに迷う苗木。そんな彼に助け舟を出すかのように霧切が問いかける。

 

「ねえ苗木君。一つ聞きたいのだけれど、その『ヨーヨーマッ』が見ているものは本体にも視えているの?」

「え…?いや、闘った時の様子から考えれば多分視えていない筈だよ。それがどうしたの?」

「成程ね。…これで分かったわ、舞園さんはきっと『死んだふり』をしたのよ」

「「「死んだふりぃ!?」」」

「そのスタンドからの情報がない以上、犯人は中の状況が分からない筈。だったら、スタンドの攻撃で死んだと思わせれば生死の確認の為に本体も中に入らざるを得ない。そこで舞園さんは一芝居打ち、犯人をシャワールーム内に誘い込んで反撃したのよ。…最も、結局返り討ちにあって殺されたみたいだけどね」

確かにあの時『ヨーヨーマッ』は苗木が生きていることに気が付いていなかった。アイドルだけあって演技も上手い舞園の死んだふりならばあの程度のオツムの持ち主を騙すことぐらい簡単だろう。

 

「…でで、結局誰なのよぉ!!舞園さやかを殺したのはぁ!!?」

複雑化する議論に耐えきれなくなったのか腐川が癇癪を起こす。それに、苗木は静かに答えた。

 

「…犯人は、舞園さんが教えてくれたよ」

『…え?』

それは、犯人から漏れた声だろうか。その声に苗木は確信を持って証拠を提示する。

 

「舞園さんの背後に残された、ダイイングメッセージ…」

「だいに…なんだべ?」

「ダイイングメッセージ…死んだ人間が残した犯人に関する手がかりのことね…」

「そう、舞園さんが自分で書いたであろうダイイングメッセージが、シャワールームの鏡に書かれてあったんだ」

「それなら俺たちも見たぜ。…たしか「11037」だったよな」

「でも何の数字か分からないんだよね…。不二咲ちゃんプログラムとかに詳しいよね?なんの数字か分かる?」

「ごめん…ボクにもどんな関連性や法則性があるのか分からないんだ」

「そりゃそうだよ。これは数字じゃないんだから」

「なんと!?数字じゃないって…どういうことなのだ?」

「皆これを読む向きを間違えているんだ。舞園さんはこのメッセージを書いているとき死に体だったろうから、わざわざ見る人に合わせて書いている暇なんてないはずだ。だからこのメッセージは、舞園さんの視点から読まなきゃいけないんだ」

「…えーっと、つまり…」

「舞園さやかは鏡に背を向けて殺されていた。だからこのメッセージをひっくり返して読んでみて」

「そうなると…「LE011」って読めるけど、それが何なの?」

「よく見ろ、1と1の間に一本線があるだろう」

「…あ!ホントだべ!っつーことはこれは「11」じゃなくて「N」だべな!」

「すると、この「0」も「O」と読むほうが自然であろう…。……むうっ!?」

「そう。そう読めば出てくる言葉は…

 

 

 

 

    「L E O N」

 

…「れおん」…桑田君の名前だよね…?」

全員の視線が桑田に集まる。当の桑田は、ダイイングメッセージの頃から若干青ざめており、視線が向けられたことで顔から冷や汗が溢れだす。

 

「な…な…何言ってんだよ!偶々だろ!逆転させりゃあ俺の名前になる!?んなモンただのこじつけじゃあねーか!俺が犯人だ!?テキトーなこと抜かしてんじゃあねえぞ!!」

逆上し言い返してくる桑田に、苗木は自身の持つ三つの根拠の一つを突き付ける。

 

「桑田君、君昨日トラッシュルームに行かなかった?」

「トラッシュルームだぁ!?んなとこ行くわけねーだろ!」

「さっきトラッシュルームを調べた時、焼却炉の側に血の付いたワイシャツの燃えカスが落ちていた。多分犯人が処分した返り血つきのワイシャツだろう」

「ワイシャツ来てるやつなら俺以外にもいるじゃあねーか!大体トラッシュルームの鍵は山田しかもってねーんだぞ!それなのにどうやって俺が焼却炉にそれを突っ込めるっつーんだよ!」

「…燃えカスと一緒に、ガラス球の破片が散乱していた」

「え…もしかしてそれって俺の水晶玉じゃ…」

「ガラス球ぁ!?そいつでスイッチをつけたってのか!10メートル以上離れてんだぞ!できるわけねーだろそんなこと!!」

「いや、君にならできる、君にしかできない。『超高校級の野球選手』である、君ならガラス球を投げてスイッチを押すような芸当ができる筈だ!!」

自身の自負する才能という証拠を突きつけられ一瞬固まる桑田。しかしハッとしたかと思うと再び反論し始める。

 

「…そ、そうだ!スタンドだ!その『ヨーコーマッ』とかいうスタンドを使えば、そんなことしなくても誰でも押せるだろーが!むしろそのガラス球で俺を嵌めようとしてんだよ!!分かったかこのアホがッ!」

その反論に、苗木は二つ目の根拠をもって答える。

 

「いや、あのスタンドは人物を対象として発動するスタンドだ。スタンドの多くは本体を能力の対象とすることができない。他に誰もいなかった以上、あいつが現れることはない。万一現れたとしても、あいつがおとなしく言うことを聞くとは考えられない」

「アホアホアホ!!んなもんわかんねーだろうが!あんなに礼儀正しい奴なんだから命令の一つや二つぐらい聞くかもしれねーだろうが!!」

 

その瞬間、苗木、霧切、十神の目の色が変わる。特に苗木は確信をもった表情で桑田を見ている。

 

「な、なんだよ…」

「桑田、墓穴を掘ったな」

「はあ?」

「…苗木君はさっきそのスタンドの名前や性質、能力について話してくれたけど、スタンドの特徴については何も話さなかったわ。…それなのに、どうしてあなたはそのスタンドが『礼儀正しい』奴だということを知っていたの?」

「ッ!?」

しまった、といった表情になる桑田に、苗木は止めとばかりに最後の証拠を突きつける。

 

「桑田君、君が犯人だという証拠はもう一つある」

「…あ?」

「その前に、僕の能力について訂正しておかなくっちゃあならない。…僕の『ゴールド・E』の本当の能力は『生命を創り出す』能力。人体のみに限らず、石ころやメダルを虫や動物に変えたりすることもできる」

「…それが、どうしたってんだよ…!…アホが」

「昨晩、僕は舞園さんにもしものことがあったらと思い、舞園さんに生命エネルギーを与えたテントウムシのバッジを一つ渡したんだ」

「だから、なんだっつーんだよ…!…アホがッ!」

「けど舞園さんの死体や現場からは、そのバッジが見つからなかったんだ」

「アホアホアホアホ!!だから!それがなんだっつーんだよ!!」

「捨てた痕跡が無い以上、そのバッジはどこへ行ったんだと思う?」

「アホアホアホアホアホ!!!!いい加減にしやがれ!だからなんだっつー…!!」

その時、桑田のポケットがもぞもぞと動いた。その感触にぴたりと止まった桑田が視線を落とすと、そこから500円玉程もあるテントウムシが這い出てきた。

 

「……え?」

思わずポカンとしていると、テントウムシはそこから飛び立つ。やがて部屋を一周すると、苗木の手のひらの上に着地する。そこで苗木は能力を解除すると、テントウムシは逆再生のように元々のバッジの姿に戻った。

 

「『ゴールド・E』。生命エネルギーを活性化させ、バッジをテントウムシに変えて僕の元に戻した。…さて、桑田君。事件の夜に現場に来ていない筈の君が、どうして舞園さんのバッジをもっているのか、説明してもらえないかな?」

「ついでに言えば、あなたがシャワールームをこじ開けるのに使った工具セットも見せて貰えないかしら」

「…え?」

「あなたは鍵が掛かっていたと思っていたようだけど、あの扉は立てつけが悪かったらしいの。だから開け方を知らないとドアノブを外すしか開ける方法がない。けれど、あの部屋が苗木君の部屋と知らないあなたはあの部屋の工具セットを使わなかった。ならば、あなたは自分の工具セットを使って扉を開けたはず。あなたの工具セットには、使用した痕跡が残っている筈よ」

「…言っておくが、失くした、などという言い訳は通じんぞ」

 

 

 

 

 

誰も、何もしゃべらない。いや、皆待っているのだ。桑田がなにかを言うのを。

 

「…あ、…あ」

しかし、当の桑田は

 

 

 

 

「……………あぽ?」

完全に戦意を喪失していた。

 

「…えー、どうやら審議の結果が出たようなので、そろそろいってみましょうか!皆さん、お手元のスイッチで犯人と思う人を指名してください!!では、イッツ、投票ターイム!!」

モノクマに促され、皆がスイッチを押す。すると裁判場にモニターが出現し、そこに生徒たちの顔が絵柄になったスロットマシンが映し出され回転を始める。

 

「はたして舞園さんを殺したクロは誰なのか!?そしてそれは正解なのか不正解なのか!?さあどうなんだーッ!?」

モノクマのやかましい実況の中、マシンの回転がゆっくりとなっていきやがて止まる。そしてそこに映し出されていたのは

 

桑田の顔であった。

 

「ピンポーン!大正解!今回舞園さやかさんを殺したクロは、桑田怜音君でした!」

モノクマの正解発表にも、誰一人として喜ばない。そんな中、今まで黙っていた桑田がゆっくりと独白のように話し出す。

 

「そ、そうか…なんであの時舞園ちゃん俺に抱き着いてきたのかと思ったら、…それを突っ込むためだったのか…ハハ…」

「桑田よ…」

「テメエ!なんでわざわざ殺したんだッ!!」

「仕方ねえだろ…。俺だって殺されそうになったんだ…。でも、シャワールームに閉じこもった舞園ちゃんが急に騒ぎ出して、気になってドアをこじ開けたらあいつ…『ヨーヨーマッ』と倒れてる舞園ちゃんがいて、近づいたら急に起き上がってきたから思わず反撃して……やらなきゃ俺が殺されてたんだ!!俺はただ、…ツイてなかっただけなんだ」

「…クソがッ!」

「桑田…」

静まりかえる裁判場。確かに桑田がしたことは許されることではないが、桑田の言い分も理解できる分露骨に責めることもできずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

「てな訳で、学級裁判の結果オマエラは見事にクロを突き止めたので、今回はクロである桑田君におしおきを行いまーす!!」

そんな空気をぶち壊すかのようにモノクマが残酷に宣告する。

 

「!お、おしおきって…」

「しょ、処刑!?」

「秩序を乱せば罰を受ける、それが社会のルールでしょう?」

 

「ま、待てよ!今回は俺も被害者なんだぜ!正当防衛になるだろーが…」

「言い訳は聞きません!みんな待ってるんだから、ちゃっちゃと始めちゃいましょう!!」

 

 

「い、嫌だ、嫌だ…!!」

 

「『超高校級の野球選手』である桑田怜恩君の為に、スペシャルな、おしおきを、用意しました!!」

 

「嫌だぁー!!!!」

桑田の命乞いなどまるで無視し、モノクマは目の前にせり上がってきたスイッチを押す。

 

その瞬間、桑田の背後の壁が開きそこから輪っかのついた鎖が飛び出し桑田を拘束する。

 

「あああああッ!!よ、『ヨーヨーマッ』ぁ!!!」

捕まった桑田が必死で叫ぶと、その傍らに『ヨーヨーマッ』が現れた。どうやらこの中の誰かを対象に発動されたらしい。初めて見るその姿に全員が思わず身構える。

 

「『ヨーヨーマッ』!俺を助けろ!俺が死んだら、お前も死ぬんだぞ!!お前だって消えたくねえだろ!だったら…」

「…申し訳ありませんが」

必死で助けを乞う桑田に、しかし『ヨーヨーマッ』は冷静に答える。

 

「私はだんな様の為にはなんでもしますが…本体の為に何かをする訳ではないのです…ヨーヨーマッ」

「…ク、糞があぁぁぁ!!!!」

首に繋がれた鎖が、出てきた空間へ掃除機のコードを巻き取られるように引っ込んでいき、繋がれていた桑田の叫びをドップラー効果のように残しながら桑田と共に消えていく。そんな本体を見送りながら、『ヨーヨーマッ』は普段の抑揚のない声とは異なる寂しげな声でこう呟いた。

 

「ここのルールにあなたが逆らえないように、私もまたスタンドとしてのルールに逆らうことはできないのです…ヨーヨーマッ」

 

 

 

 

引き込まれていった桑田を待っていたのは、金網のフェンスで囲まれ赤土が敷き詰められた空間。奥には桑田にとって見慣れたモノ、野球の得点板が存在し、手前にはバッターボックス、部屋の中央には桑田の定位置ともいえる場所、ピッチャーマウンドが存在した。しかし盛り上げられた土の上にあるのはピッチャープレートではなく、2メートルほどの支柱が立っており、桑田を拘束する鎖はその支柱に繋がっている。

それをまともに確認する間もなく、桑田はその支柱に叩きつけられ縛り上げられる。恐怖と混乱で声も出ない桑田の視界に、自分を追ってきたのか残された生徒たちと『ヨーヨーマッ』が入ってきたのが見える。しかし、彼らが部屋に入った瞬間、フェンスが封鎖されバッターボックスの中央、ホームベースが沈下し、代わりに何かがせり上がってくる。出てきた物に、桑田はすごく見覚えがあった。それは、自分が普段から練習によく利用している機械、本来そこでなく自分がいる場所に設置するべきモノ、すなわちバッティングマシーンであった。そしてその発射口はキャッチャーでなくグローブでもなく身動きもとれない自分に向けられている。

そしてこれから起こるであろうことに青ざめる桑田を余所に、マシンは無機質に動き出す。そして、どこから準備してきたのかヘルメットとバットを持ちバッターボックスに入ったモノクマがバットで自分を指し、こう告げる。

 

 

「たらららったった~ん!千本ノック!!」

その声を合図に、マシンからボールが射出される。その一球が、桑田の顔面を捉える。マシンはなおも回転を続け、無尽蔵に補充されるボールの全てが桑田に襲い掛かる。その光景に、誰も声が出ない。悲鳴を上げる筈の桑田ですら、その余りの苛烈さに声を出すことができない。やがてマシン自体も動き出し、桑田の周りを回転しながらボールの嵐を吐き出し続ける。一球一球がデッドボールなら即退場級の威力を秘めたそれが、桑田を容赦なく痛めつける。バッターボックスでモノクマが猛スピードで素振りを続けているが、誰もそんなことに気を留めない。

 

やがて、ボールを射出しきったマシンが排気熱を上げて停止する。そしてフェンスが開き、中の様子が明らかになった先で、皆が見たものは

 

 

 

 

 

数多のボールに打ちのめされ、もはや顔の原型も残らないほどに壊れてしまった桑田の死体と、桑田の血で汚れた無数のボールが転がっている光景であった。

 

「…ヨーヨーマッ」

本体が死んだことで、『ヨーヨーマッ』が消える。それと共に、モノクマが歓喜の声を上げる。

 

「イエーイ!えくすとりーむ!アドレナリンが、染み渡るぅ~!!」

あまりに場違いなモノクマのテンションにも、誰も文句を言うことができなかった。目の前で生きたあまりにも凄惨な出来事に、あるものは恐怖し、あるものは怯え、あるものは認識の甘さを実感し、…またある者ははち切れそうな怒りを堪えていた。

その今にも破裂しそうな風船に、あろうことかモノクマは針を突き立てるようなことをする。

 

「分かる、分かるよ苗木君。あんなに気を許してくれた舞園さんに裏切られて、けれど舞園さんも舞園さんを殺した桑田君も死んで、ザマミロ&スカッとサワヤカな気分でいっぱいなんだねwwwうぷぷwww」

 

 

 

プッツン

その瞬間誰かが、いやその場にいた誰もが聞いた。普段は温厚で、時折冷酷とも取れるほどに冷静な苗木から聞こえる筈のない音を。そう、堪忍袋の緒が切れる音を。

 

「…!貴様にッ…何が分かるッ…!」

「およ?」

「貴様にッ!!僕の心は永遠に分かるものかッ!!!」

憤怒の形相で苗木は『ゴールド・E』を呼び出しスタンドと共に殴り掛かる。

 

「いかんッ!!」

「やめろ苗木ッ!」

いち早く感づいた大神と大和田が止めに入るが、苗木自身はともかく常人には触れられないスタンドの動きは止まらない。車のボディすら砕く拳がモノクマへと迫る。

 

しかしその拳とモノクマの間に何者かが割り込んだ。最も苗木の側にいた霧切響子である。

 

「お願い、苗木君を止めて…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ムーディー・ブルース』!!」

霧切の願いと共に現れるビジョン。のっぺらぼうの顔にデジタルタイマーを貼り付けたような姿の人型スタンド。それが霧切響子のスタンド、『ムーディ・ブルース』であった。

 

『!!?』

衝撃の事実に全員が度肝を抜かれ、苗木ですら驚いてスタンドの動きが止まる。

 

『…ッチッ、相変わらず手間かけさせやがって』

そんな中全員の視線を一身に受ける『ムーディ・ブルース』から声が発せられる。

 

「喋った!?」

「こいつも口が利けるスタンドなのか!?」

驚く面々の中で、苗木は人一倍驚き、動揺していた。もちろん霧切がスタンドを発現していたことや、そのスタンドが明確に言葉を発したことは驚くべきことだが、何より苗木は『ムーディ・ブルース』に既視感を感じていた。全然知らないスタンドの筈なのに、なぜか知っているような気がする。とても大切なことだったはずなのに、思い出せない。そんな苗木の思考が『ゴールド・E』の動きを止め、決定的な隙を作ってしまった。

 

『ちっとはアタマを冷やしやがれ!このクソガキがッ!!!』

悪態と共に放たれた『ムーディ・ブルース』の足を正面に突き出した蹴り、俗称「ヤクザキック」が狙い違わず苗木の鳩尾に突き刺さった。

 

「ぐふっ!?」

スタンドのパワーで放たれた蹴りをもろに喰らった苗木は後ろに吹き飛んでフェンスに激突し、そのまま意識を刈り取られた。本体が意識を失ったことで、『ゴールド・E』もまた消滅する。

その容赦ない一撃に、ぽかんとしていた生徒たちが正気を取り戻す。

 

「…ちょ、やり過ぎだべ霧切っち!?」

「そうだよ!苗木が怪我したらどうするの!?」

「わ、私は何もここまで…ちょっと!あなたいくらなんでもやり過ぎよ!」

予想以上の結果に狼狽する霧切からの非難に、当の『ムーディ・ブルース』はどこ吹く風で応える。

 

『フン、知ったことか。躾けのできていないクソガキにはこれぐらいの仕置きがちょうどいいんだよ……』

そう応えると『ムーディ・ブルース』は気絶している苗木に視線を向け、一瞥すると踵を返して消えていく。

 

 

 

『…ここで折れたら承知しねえからな。俺たちの『希望』、絶対に取り返してこい』

誰にも聞こえないよう、そう呟きながら。

 

 

 

 

 

 

「ふーっ、いやいや流石に少し怖かったよ」

それからしばらくして自分の部屋へと戻ったモノクマは、椅子に腰かけ紅茶を啜りながら先ほどの出来事を思い出していた。

 

「けれど、なんで『DISC』が入っていない霧切さんにスタンドが発現したんだろう?『アレ』がここにあるはずないし…元々素質があったのかな?それとも噂に聞く『悪魔の手のひら』にでも遭遇してたのかな?…君はどう思う?」

霧切響子のスタンドというイレギュラーに、モノクマはまた受話器を耳に当てその先にいる誰かに意見を聞く。

 

『……』

「おや?おーい、どうしたの?寝てた?」

繋がっているにも関わらずだんまりの相手に様子を聞くと、突如豹変して怒鳴り散らし始める。

 

『おいモノクマ!今すぐ霧切響子を始末しろ!!』

「え!?ちょ、ちょっと待ってよ!そんなこと言われたってこっちにも段取りってもんが…」

『いいから可能な限り速やかに始末するのだ!奴のスタンドは危険だ!障害にならないうちに取り除く必要があるッ!!いいか、必ず殺すのだ!!分かったなッ!!』

「あーあーハイハイ分かったよ。できるだけ早めにしてあげるからもう切るよ!」

そう言うとモノクマは受話器を放り捨て椅子にどっかりと座り直した。

 

「まったく、なんだってあんなにキョドッてんのさ。たかが『その場の記録を再生する』程度のスタンドじゃあ事件の謎は解けても僕に迫ることはできないじゃないか。…まいっか、確かにやるとは言ったけど、僕は日時までは指定していないッ…!つまり彼女を殺すのは数日先でも数年先でも可能だということッ…!精々僕の好きにやらせてもらうさ、うぷぷぷぷwww」

ケラケラ笑うモノクマとは対照的に、約束を半ば反故にされた受話器の向こうの相手は

凄まじく動揺していた。

 

(何故だ…!何故あの小娘が『ムーディ・ブルース』を、レオーネ・アバッキオのスタンドを持っているのだッ!!…消さなくてはならない、俺の『絶頂』を脅かしかねない要因は、何一つ存在してはならないのだッ!!)

己の保身の為に執念の炎を燃やす彼であったが、それを実行するモノクマに彼の思惑が伝わっているかはまた別である。

 

 

 

 

 

 

 

「…ん…ッ痛」

苗木誠が目を覚ましたのは、今朝までいた舞園の部屋であった。苗木はベッドに寝かされていることを確認すると、未だ鳩尾に残る痛みを堪えて起き上がる。

 

「目が覚めた?」

と、かけられた声に反応して振り返ると霧切が椅子に座ってこちらを見ていた。

 

「まだ痛む?…ごめんなさい。あそこまでするつもりは無かったんだけど、私のスタンドが言うことを聞いてくれなくて…」

「…いや、ありがとう。むしろあそこまでされなきゃ多分僕は止まってなかったと思う。助かったよ。…それで、霧切さんあのスタンドって…」

「ああ、皆にはもう説明したんだけど苗木君にも話しておくわね。私のスタンドは『ムーディ・ブルース』。能力は『変身能力』よ。といっても、自由に変身できるわけじゃなくって結構制約があるんだけどね。自覚したのは、この間の夜に苗木君と話した後かしらね」

「あの後か…」

霧切の説明は半分が嘘であった。スタンドを自覚した時期は本当だが、能力に関しては少し異なっていた。が、実際に能力を見ていない苗木や他の生徒たちにとってはそれが嘘であることに気づくはずもない。

 

「…苗木君、ちょっといいかしら?」

「…舞園さんの事?」

「ええ、…確かに舞園さんはあなたを犯人に仕立て上げようとしたのかもしれない。けれど、あのダイイングメッセージや桑田君に仕込んだバッジのことから考えても、きっと彼女は最期まで悩み、後悔していた筈よ。だから…」

「分かってる、分かってるよ霧切さん。僕は舞園さんも桑田君も責めるつもりはない。彼女は自分の強い意志を持って実行したはずだし、桑田君も生きたいという執念があったからこそスタンドが応えてくれたんだ。彼女の意志も、桑田君の執念も僕は否定しない」

強がりでなく本気でそう言う苗木に、余計なお世話か、と思った霧切は最後に一つおせっかいを焼いてみることにした。

 

「苗木君。あなたは『乗り越えられる』人間の筈よ。仲間の死を乗り越えていく強さが無ければ、この極限状態の中で『真実』に到達することはできないから…」

その言葉に、苗木は一瞬真顔になると霧切の予想だにしない返答をする。

 

「…違うよ霧切さん」

「えっ?」

「仲間の死は、『乗り越える』ものなんかじゃあない。その一つ一つを悼み、考え、そしてその思いを引き継ぎ、『受け継いでいく』ものなんだ。例え他の誰かを殺したものであっても、その思いを理解し、自分の中に積み重ねていく。その果てにあるものが『真実』なんだ。大切なのは『真実』に到達するという『結果』じゃあない。『結果』だけを求めようとすれば人は近道したがり、仲間の遺志から目を背け、ただ目的の為だけに行動しいずれ『真実』を見失う。大切なのは『真実に向かおうとする意志』なんだ。一人一人の思いはちっぽけで、到底辿りつけなくてもその一つ一つを背負い積み重ねていくことでいつか辿りつくことができる。僕はそう信じているよ」

「……あなたは、自分を犯人にしようとした舞園さんや桑田君の遺志も背負っていくというの?それはあまりにも傲慢よ。人が他人の心まで理解して引き継いでいこうだなんてそんなことができるのはよほどの大物か自分のない空っぽな人間だけよ」

「それでも僕は諦めたくない。舞園さんや桑田君はここに置いていくことになるかもしれない。それでも、彼女たちの遺志だけは、彼女たちが願ったものだけは残していかない。二人の想いを引きずってでも、黒幕を倒し、絶対にここから出るんだ!」

苗木の口にした想い。それはとても輝かしいものであったが、それを成すためにはどれだけの物を犠牲にしなくてはならないだろう。だがそれでも、苗木は決して諦めない。自分の中にある『黄金の精神』に従って、その道を突き進もうとする強い意志がそこにあった。

 

「……あなたは、望んで一番過酷な道を進もうとするのね。…けれど不思議ね、普通なら夢物語だと一笑に付されるものだけど、あなたならできると心のどこかで期待してしまう。だから信じるわ。あなたのその黄金のような『希望』の遺志を…!」

小さく笑ってそういう霧切に、苗木は力強い笑みで応える。

 

しかし、この絶望のコロシアイ学園生活はまだまだその入り口でしかなかったということを、後に二人は思い知らされるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな時よりしばし未来、学園のどこかの一室。冷蔵庫のように冷え切った部屋に設置されたボックスの中に舞園さやかの遺体は安置されていた。その躰は隣でぼろぼろのまま安置されている桑田に比べれば傷一つなく、まだほんのり肌も血の気を残しており今にも目を覚ましそうであったが、彼女は死んでいる。そう、死んでいる筈だった。

 

突如、腹部に残った傷口、苗木が唯一治せなかったそこから一瞬電流のようなものが流れ舞園の体を包む。しかしそれも一瞬の事で、その後再び静寂が訪れる。

 

とその時、信じがたいことが起きた。今まで硬直していた舞園の手。もう二度と指一本動くことすらないその絹糸のような指が、

 

ピクリと、動いた。

 

 

 

 

舞園さやか―桑田怜恩に殺害されて死亡。再起不能…? スタンド名 不明

桑田怜恩―舞園さやかを殺害、学級裁判にてクロと見破られおしおきを受けて死亡。再起不能  スタンド名 『ヨーヨーマッ』

 

生き残りメンバー、残り13人。

 

 




よかれと思ってフラグ立てときましたwww

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