ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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やっとまとまった書く時間がとれました…
とりあえずこっちもイスカリオテも、ちょろちょろ書いていくので気長に待ってください
ではどうぞ


失った力、失われぬ誇り

教室を飛び出したはいいものの全く見知らぬ校内を走り回る訳にもいかず、同封されていた見取り図に従って苗木は慎重に体育館へと向かっていた。

 

(『保健室』…『購買』…。さっきの入学案内からしてここが希望ヶ峰学園で間違いないんだろうけど、どうも様子がおかしいな。式の最中だとしても、用務員や父兄の人たちぐらいいる筈なのに人の気配が全くしない。おまけにあちこちシャッターや鍵が掛かっているし…どうなっているんだ?)

無人の廊下を歩きながら、苗木は現状について考えていた。今いるこの場所についてもだが、それよりも気になったのは自分のことである。なにしろ校門を潜ってそこで意識が途切れ、気が付いたら教室にいたということは分かるのだが、それ以前に関することがまるですっぱり抜け落ちたかのように思い出せない。最後に覚えているのは、希望ヶ峰学園からの合格通知が来た日の事だが、それから今日までの事がまるで思い出せないのである。

 

(寝ぼけてるのかな…。ともかく、入学式ぐらいシャキッとしないとな。周りは物凄い人たちばかりなんだし)

未だ朦朧とする頭を振り、苗木はそんなことを考えながら体育館へと歩を進める。やがて、いかにもそれらしい、数々のトロフィーや盾が飾られたショーケースと体育館お馴染みの鉄の扉がある小広間へとたどり着いた。

 

「ここか…」

扉の前で一つ深呼吸をし、苗木は意を決して扉を開く。その先にあった光景は、苗木が想像していたものとは大きく異なるモノであった。

 

「あっ!また来たよ!」

「遅いぞ君!集合時間はもうとっくに過ぎているぞ!!」

「これで15人目…まったくいつまで待たせるつもりだ」

体育館に入った苗木が目にしたものは、こちらを見てそんなことを言う新入生らしき十数人の少年少女。来賓用に並べられたと思しきパイプ椅子。ステージ上の演台と明らかに不自然なカメラ。そして教室と同じように鉄板を打ち付けられた窓だけ。そう、それだけであった。本来人が座っているべき椅子には人っ子一人おらず、先輩の学生はおろか教職員すらいない、入学式にしてはあまりにも異様な空間。それが苗木の見た体育館の中であった。

 

「もう八時過ぎてるべ?いい加減待つのも飽きたべよ!」

「どういうことであろうな…。よもや学園のミスなのかもしれぬ」

「日程や時間を間違えたとか…?でもここ希望ヶ峰学園だよ。そんなことあるのかなあ…」

「いやいや、あーんな落書き感満載の案内状作るぐらいですから案外信用できませんぞ?」

 

体育館を見渡しながら、そんな会話をする彼らの話を聞き流していた苗木に、ふと声をかける人物がいた。

 

「…苗木君…ですか?」

ハッとして声の主を見れば、そこには見覚えのある制服に身を包んだ美少女が怪訝そうにこちらを見ていた。そして苗木には、目の前の少女の顔にも見覚えがあった。

 

「……舞園さやかさん?」

「はい!良かった、やっぱり苗木君だったんですね!」

不安そうな表情から一転、弾けるような笑顔を見せた少女。彼女は舞園さやか。又の名を『超高校級のアイドル』。国民的アイドルグループのセンターマイクを握る正統派アイドルであり、苗木にとって中学時代のクラスメイトでもあった。といっても、アイドルとしての活動が忙しく、まともにクラスに顔を出したことなど数えるほどしかなかったであろう彼女が、おおよそ目立たない一生徒であった自分の事を覚えていたというのは、苗木にとっても意外であった。

 

「舞園さんもこの学校だったんだ。ていうか、よく僕の事覚えていたね」

「そりゃそうですよ。苗木君ぐらい印象強いクラスメイトなんていませんでしたから」

「えっ…?僕そんなに目立ってたかなあ?」

「だって……あれ?苗木君、なんで目立ってたんでしたっけ」

「ま、舞園さん…」

 

「おい!今はそんなお喋りをしている場合ではないだろう!」

二人の会話に水を差したのは、先ほどから人一倍不機嫌そうな顔をしたいかにもプライドが高そうな眼鏡をかけた少年であった。

 

「んなこと言ったって、先公も誰も居ねえんじゃどうしようも…」

その少年に対し、リーゼントをした不良感丸出しの少年が反論しようとしたその時、

 

事態は動いた。

 

 

~~~~~~~~~~!!!

「うわっ!?」

突然ステージ脇のスピーカーより響いたハウリング音に、全員が思わず顔を顰める。

そしてその後に聞こえてきたのは

 

『あー、テステス。マイクテス。大丈夫?聞こえてるよね?』

まるでどこかのゆるキャラが発するような気の抜けた濁声であった。

 

『えー、新入生の諸君。今から、入学式を始めたいと思います!』

「…な、なーんだ。ほれ見るべ。これが希望ヶ峰学園流の歓迎だべ!」

スピーカーから聞こえる声の内容に、不安げな顔をしていた生徒たちの表情にも安堵の色が浮かぶ。

 

「…いえ、そうじゃない」

「…ふん」

「……」

約三名を除いてではあったが。

 

その時、

 

 

ぼよよよーん!

『!!?』

スピーカーがあるが故に必然的に全員の視線が向いていたステージ上から、そんな音と共に何かが飛び出してきた。驚く生徒たちの視線の先には、

 

 

「…ぬいぐるみ?」

苗木の言葉通り、ステージの上、本来学園長に値する人物が話をするであろう台の上に現れたのは、白と黒のツートンカラーのクマのぬいぐるみであった。

しかし、

 

「ぬいぐるみじゃないよ。僕は、モノクマだよ!」

突如として、そのぬいぐるみが喋りだした。

 

「オマエラのこの学園の、学園長なのだ!よろしくね♡」

「んぎゃあああ!!ぬいぐるみが動いた!!」

スピーカーより聞こえた濁声と同じ声で喋るだけに飽き足らず、まるで生きているかのように軽やかに動くモノクマと名乗るぬいぐるみに、誰もが驚きを隠せない。

 

(なんだあの…ぬいぐるみ?ラジコン?みんなにも見えているってことは、スタンドじゃないみたいだ。…それともそういう能力のスタンドが操っているのか?いや、それ以前に、学園長…?…あれが?)

驚く一同と己の能力故にこの手の不思議事象に対して多少の免疫がある苗木の思考を余所に、モノクマはマイペースに話を進める。

 

「えー、全員揃ってるみたいなので、さっさと始めちゃいます!起立!礼!オマエラ、おはようございます!」

「はっ!おはようございます!」

呆気にとられる一同の中で一人、いかにも真面目そうな顔つきと服装をした少年だけが反射なのか整った挨拶を返す。

 

「うん、いいね!賢いチンパンジーさんだね!……さて」

あからさまに馬鹿にしたような台詞の後、モノクマは衝撃的な言葉を放つ。

 

「新入生の諸君、入学おめでとう。これから君たちには、この学園で一生共同生活を送ってもらいます!」

「はっ!……は?」

言葉の前半は良かった。だが後半の内容に、一部を除いた生徒全員が思わずポカンとする。

 

「…あのー、それはどういう…」

「もう~、そのままの意味だよ。頭大丈夫?ドューユーアンダスタンド?」

太ましい体系のいかにもオタクな少年の問いかけに、モノクマはわざとらしく困ったように答えると説明しだす。

 

曰く、これから自分たちはこの希望ヶ峰学園で共同生活をしなければならない。

 

曰く、期限は一生。つまり、死ぬまでここから出られない。

 

曰く、外への連絡手段及び出入り口はすべて使用不能。

 

要するに、自分たちはここに閉じ込められたということだ、と。

 

「…っざけんな!!」

そのあまりの内容に、リーゼントの少年が思わず激高する。それに触発されてか、周りにいた生徒たちも口々に反論し始める。

 

「くだらん。そんなお遊びに付き合う暇はない!」

「困りましたわね。いきなりそんなことを言われても…」

「我らをここに閉じ込めて、一体なんになるというのだ!!」

「そうだよ!それにこんなことして、警察とかがほっとくわけないじゃん!」

そんな彼らの抗議の声を受けたモノクマは

 

 

 

 

 

「………くくっ、くっくっく、ぶひゃーひゃひゃひゃ!!!」

突如として腹を抱えて笑い出した。

 

「な…なにが可笑しいんだテメエ!」

「ぶひゃひゃひゃ!これが笑わずにいられないよ。警察?警察だって?本気でそんなもの当てにしているの?」

「…どういうこと?」

「うぷぷぷ…おっと、これ以上は言えないなあ。まあ、そんなに出たいんなら出る方法があるよ」

『!!』

モノクマの言葉に、生徒たちの顔に希望の色が浮かぶ。それを見たモノクマは、仰々しく居住まいを正して話し出す。

 

「おほん。ここでそんな学園から出たいという人の為に、あるルールを設けます。やり方は問いません。誰かを殺した生徒だけが、ここから出られる。それだけの、簡単なルールなのです」

「……えっ」

それは、誰の言葉であったろうか。いや、全員が同じ心境であったろう。生徒たちは希望に満ちた表情から一変、先ほど以上に絶望に染まった顔をする。

 

「あの…、殺すって、どういう…」

「そのままの意味だよ。殴殺、毒殺、刺殺、絞殺…好きな方法で殺したらそれで出られる。それだけのことだよ」

「ば、馬鹿なっ!そんなことが許される筈が…っ!」

「許されない?誰にさ?学園長である僕が許すって言ってるんだよ!だから皆も、殺って殺って、殺りまくっちゃえばいいじゃん!!」

ステージから降り立ち、皆の間を歩きながらそんなことを言うモノクマ。ファンシーな見た目と裏腹な恐ろしいことを言うその存在に、あるものは純粋な恐怖を、あるものは好奇の視線を、またある者は猜疑心を、そして苗木は、静かな怒りを向けていた。

 

そんな中、一人の人物がモノクマの前に立ち塞がる。

 

「テメェ~!悪ふざけにもほどがあんぞコラァ!!」

立ち塞がった人物、リーゼントの不良少年はモノクマにガン飛ばしながら詰め寄る。常人ならすくみ上ってしまいそうなものであったが、モノクマはどこ吹く風で挑発する。

 

「悪ふざけ?それって君の髪型の事?」

 

プッツーン!

どこかから、いや間違いなくリーゼントの少年からそんな音が聞こえた。どうやら突っ込んではいけなかったらしい部分を馬鹿にされた彼は、いきり立ってモノクマを掴みあげる。

 

「んだっとコラァ!!ラジコンだかぬいぐるみだか知らねえがバッキバキにぶっ壊してやんよ!!」

怒り狂うリーゼントの少年に締め上げられ、モノクマは悲鳴を上げる。

 

「ぎゃあああ!学園長への暴力は、校則違反だよ!」

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

「!?んだこの音は…?」

モノクマより突如としてけたたましいアラームが鳴り響く。怪訝な顔でモノクマを睨むリーゼントに、いち早く危険を感じ取った苗木ともう一人、菫色の髪をした冷静そうな少女が声を上げる。

 

「「危ない!投げて!」」

「ああ!?」

「「いいから早く!!」」

「…ッチィッ!」

二人に急かされ、なにかしらの危険を感じたリーゼントはすぐさまモノクマを空中に放り投げる。その直後、

 

ドガァーン!!

モノクマは轟音と爆風を上げて爆発した。

 

「うおっ!?」

至近距離にいたリーゼントの少年は逃げ切れずに爆風に飲み込まれる。それを見た生徒たちは思わず胆を冷やしたが、やがて煙が引くとそこには特に怪我らしい怪我のないリーゼントの少年が立っていた。一同は安堵の表情を浮かべるが、振り返った少年を見てその表情が再び固まる。

 

「あつつ…あいつ爆発しやがった、なんて野郎だ。おいテメエら大丈夫か……?なに鳩が豆鉄砲食らったみてえな顔してんだ」

爆風を凌いで一同の無事を確認しようとしたリーゼントの少年であったが、振り返った先で皆が形容しがたい表情を浮かべているのを見て、怪訝な顔をする。そんな彼に、華奢な体格の臆病そうな少女が遠慮がちに声をかける。

 

「え…えと、その…」

「あ?」

「あ…頭…」

「…頭?」

おどおどと言う少女に若干苛つきながらも、リーゼントの少年が示された頭部に手を当てる。本来ならポマードでしっかり整えられた自慢のリーゼントの感触があるであろうその場所。しかし少年が感じた手触りは、想像していたそれとはまったく異なるモノであった。

 

水分を失ったような、パリパリした手触り。

 

記憶にある長さより短い髪。

 

そして、若干臭う焦げ臭い臭い。

 

そこから辿りつく結論は、たった一つのシンプルな答えであった。

 

「お、俺の髪がぁ~!!?」

そう、先の爆風により、少年自慢のリーゼントは見るも無残に焼け焦げてしまったのである。

「ま…まあ髪の毛で済んで良かったじゃないか、幸い怪我は無かったんだし…」

「良い訳あるか!あんのクソグマがあぁぁ!!」

真面目そうな少年がフォローに入るが、被害を被った少年の怒りは収まらない。

 

「で、でも…これであのぬいぐるみって、死んだのかなぁ…?」

『ぬいぐるみじゃなくて、モノクマ!!』

おどおどした少女の言葉を否定するかのように、スピーカーから声が聞こえたかと思うと先ほど吹っ飛んだはずのモノクマが再びステージ上に出現する。

 

「じゃーん!今のは最初の一回だからその程度で許すけど…うぷぷ、校則違反者が出た場合…くっくっく、今みたいな、グレートな体罰を発動しちゃうからね…ぶひゃひゃひゃ!」

警告を発しながら、少年の無残なリーゼントをみて嗤うモノクマに、少年の怒りはさらにヒートアップする。

 

「テンメェ~!ナメ腐りやがってこのポンコツがッ…」

「待って。今あいつに喧嘩を売っても、逆に危険なだけだよ」

今にも殴り掛かりそうな少年を、いつの間にか傍まで来ていた苗木が制止する。

 

「あぁ!?邪魔すんじゃねえ!!なんならテメエから先に…」

「それに……

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

君の髪は何にもなってないじゃないか」

「……はぁ?テメエどこに眼ぇつけて…」

そこまで言った少年が、自分の髪に再び手をやった瞬間、静止する。そこには先ほどまでの不快な手触りは無く、若干緩いものの元通りの自分の髪が存在していた。

 

理解が追いつかず混乱する少年を余所に、唖然とした表情を浮かべる他の生徒たちとモノクマには見えていた。

焼け焦げた少年の髪がまるで生まれ変わるかのように再生し、ひとりでに元のリーゼントのヘアスタイルに整えられていくのを。

 

そして苗木にだけは見えいた。

それらの一連の動作を行った、己の分身である金色の存在が。

 

「テメエ…一体…?」

「…自分で言うのも何だけど僕は世間一般でいう何処にでもいる学生だ。僕自身そう思うし、他の人からもそう思われているだろう。正直、『超高校級の幸運』なんて言われても、僕にはイマイチピンとこない」

呆然とする少年を余所に、苗木はモノクマに射抜くような鋭い視線を向けて話し出す。

 

「けど、こんな僕にも、吐き気のするような悪は分かるッ…!」

やがてその言葉の端々に、眼前の存在がもたらした理不尽な死の強要に対する怒りが漏れ出す。

 

「吐き気をもよおす『邪悪』とはッ…!なにも知らぬ無知なる者を利用することだ…!!自分の利益だけの為に利用することだ…!なにも知らない皆を!お前だけの都合で閉じ込め、殺し合いをさせるなどッ!!」

怒りの眼差しを向けて一喝し、苗木はモノクマを指差して言う。

 

「お前の言うように警察や司法が当てにならないのなら、ここにお前を裁く存在がいないのなら、お前はッ!僕が裁く!!」

苗木の啖呵に対し、モノクマはきょとんとした表情の後、再び邪悪な笑い声を出しながら言う。

 

「…くっくっく。面白いよ、面白くなってきた!そう来なくっちゃ!最初からラスボスの思う通りになる展開なんて、正直飽き飽きだからね!いいよ、やれるもんなら、やってみなよ!楽しみにしているからね『超高校級の幸運』、苗木誠君♡」

そう言ってモノクマはステージ下へと消えていった。

後に残されたのは、茫然とそれを見送る生徒たちと、未だモノクマの消えたステージを見つめる苗木。

 

「…フンッ!少しは面白い奴がいるようだな」

「……」

「あ、あいつ凄えなぁ。あんな啖呵正面切って言えるなんて…」

「…いや~、冷や冷やしましたなぁ。まるで漫画みたいなやり取りでしたな全く」

「ていうか、ホント、アイツの髪の毛なんで戻ったの…?」

「な、苗木君…?」

状況を飲み込めきれず、各々思い思いに言葉を発する彼らを見やりやがて踵を返した苗木は、傍らで説明を求めるリーゼントの少年を宥めながら彼らの元へと戻る。

 

その道すがら、苗木はもういない諸悪の根源に向かい心の中で誓う。

 

(ああやってやる、やってやるさ。僕が、…いや僕たちと…)

そんな彼の側には、先ほど奇跡を起こした存在。今は苗木にしか見えていない、テントウムシを張り付けたかのような姿の人物。

 

(僕の『ゴールド・エクスペリエンス』で…!)

 

永遠の輝きをなくしたスタンド、『ゴールド・エクスペリエンス』が、静かに佇んでいた

 




今回ここまで
さっそくですがレクイエム封印ですww
過程に関しては後々書いていきます
しかしこの苗木君ちょっと承太郎入ってませんかね…?
…アニメの影響ってコワイデスネー。3部アニメサイコ―!!

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