ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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ボスが出番待ちきれず仕事しまくった結果がこれだよ!
ああ、早いとこ本編入りたい…。この辺はマジで駄文ですからね


プロローグⅡ・少年の誓い

 苗木誠という少年を語るには、彼が生まれるより数ヶ月前の事から話さねばならない。彼の母は、聡明で若いうちから珍しく歴史に強い興味があり特にアフリカやエジプトといった中東方面の歴史を大学で学んでいた。

 そんな彼女がある年エジプトに一人旅に出た時の事であった。宿で寝ていると、突然窓から風を感じた。エジプトの夜は冷えるために、誰もが窓を閉め切っているというのにだ。不審に思い、起き上がって確認しようとすると窓の傍に人影が立っているのが目に入った。物盗りかと思い声を上げようとした時、外の月明かりが差し込み人影を照らした。

 それは、息を吞むほどの美しさを持った男であった。混じりけのない金髪を待ち、鍛え上げられた肉体は、エジプトの地に置いては不自然なほどに白く、まるで太陽を一度も浴びていないようであった。そして何より目を惹いたのはその顔立ち。整った顔もさることながらその瞳は妖艶で、見るだけで魅了されるようなカリスマ性を感じさせるものであった。

 

 男は、こちらの視線が向いていることを見やると薄く笑んで語りかける。

 

「夜分失礼、美しい御嬢さん。私の名前はDIO。所謂吸血鬼という奴さ」

 流暢な英語で紡がれたその言葉は、呆気にとられていた自分の心を現実に引き戻すほどのインパクトを感じさせた。DIOという名前や吸血鬼などという非現実的な単語もだが、なによりその言葉は一言一言が媚薬のような甘い誘惑を誘うものであった。

 

「怖がることは無いさ。さあ、私にすべてを委ねてごらん…」

 DIOと名乗ったその男は、ゆっくりとこちらに近づき手を差し伸べる。この時、DIOは半ば堕ちたと確信していた。今まで失敗したことなどなかったし、半ば呪いにも近い自分のカリスマに惹かれない女などいないと思っていたからである。この自身に対する圧倒的な驕り。それが

 

 

バッシィイインンンン!!!

 

 百年ぶりに感じた『痛み』の原因となった。

 

 頬に感じる予想外の感覚に、思わず呆然となるDIO。

 

 馬鹿な。今まで自分の術中に落ちなかった女などいなかったはず。ならば何故、この女は自分を打ち据え、あまつさえなおも反抗的な目でこちらを睨んでいるのだ。

 

 眼前で気丈にこちらを見据える女の存在に、疑問とわずかな混乱をを抱いていたDIO。その眼には、かつて自分に無言の反抗をもって示した女、エリナ・ペンドルトンの姿が重なって見えた。そして、やがて先ほどと異なる笑みを浮かべるとこちらに再び歩み寄る。

 

「気に入ったぞ、女…」

 ゆっくりと詰め寄りベッド脇にまで彼女を追い詰めると、彼女が声を上げるより早くベッドに押し倒した。

 

「俺は、『恐怖』を克服することが、生きることだと思っている。今貴様に感じたこの感情を、『恐怖』だとするなら、俺はそれを乗り越えねばならない。何故なら世界の頂点に君臨するものは、ほんのちっぽけな『恐怖』をも持たぬ者だからだ」

 そう言いながらDIOは彼女に顔を近づける。

 

「だが闘う力のない貴様を殺したところで、それは『恐怖』を乗り越えたとは言わない。ならばどうするか。このDIOは考えた。『もし貴様の子供が俺と同じような存在であれば、それは貴様を屈服させたに等しいのではないか』と。聖母のような女から絶望の化身が生まれる。これ以上ない悲劇ではないか…」

 そこまで言うとDIOはおもむろに彼女に口づけをし、言い放つ。

 

「喜べ女。貴様には、このDIOの子を宿す名誉を与えよう」

 

 

 翌日、モーニングコールに訪れたホテルマンが部屋の隅で憔悴していた彼女を発見した。事情を聴こうとしても頑として話そうとしない彼女であったが、ベッドのシーツについた血がそこで起きた出来事を物語っていた。

 帰国してほどなく、彼女は懐妊した。唯一事情を聴いている彼女の教授は中絶を薦めたが、彼女はそれどころか大学を中退しその子を産む決意をしていた。

 

「たとえ望まれない命であっても、いまそこにある命を見捨てられるような人間に、私はなりたくありません」

 親に、教授に、そう言い放った彼女の決意を止めることなど、誰にもできなかった。そんな中、当時彼女が付き合っていた男のみが彼女の気持ちをくみ取り、その子ともども愛すると彼女に宣言し、二人は出産前に晴れて夫婦となった。

 

 ほどなくして生まれた子供、苗木誠は自分が両親二人に愛されて生まれた子であると信じて疑わなかった。幸いなことに彼は母親に似たところがあり、若干強気な面があるところを除けばDIOからの遺伝はほとんど見受けられなかった。

 

 しかし、それは彼が9歳の頃に起こった。その日、妹が風邪をこじらせて入院した時、かかりつけの病院にて両親は医師との話のため苗木を診察室に残し別室に移った。しかし、彼はまだまだ腕白盛りの年頃、じっとしている方が無理というものである。診察室内をうろちょろしていた苗木は、偶然裏で話していた看護師の会話を聴いた。聴いてしまった。その余りにもショッキングな会話の内容を。

 

 

『苗木さんのお父さんも大変ねえ。血のつながりのない長男君もいるのに妹さんが風邪だなんて』

『えっ!?誠君お父さんの子供じゃないんですか!?』

『そうよ。よく考えてみなさい。あの子はAB型、しかもかなり特殊な血液型なのに、ご両親はどっちもA型でしょう。ふつうはあり得ないわよ。実際、お父さんも自分の子じゃないって言ってたし』

『はぁ~、そうだったんですか。だとしたら誠君かわいそうですねえ…』

『こらっ!滅多なことは言わないの!』

 

 もはや会話の半分から先は聞いていなかった。父の子ではないと聞いた瞬間、幼い彼の心はガラスのように砕け散った。何故、なんで、どうして?様々な思考が脳内を飛び交う中、彼の体は自然診察室を飛び出し両親の居る部屋へと吸い込まれていった。部屋に入るや否や、彼は自身の思いの丈をぶちまけた。

 

 僕はお父さん、お母さんの子供じゃないの?

 

 なんで黙っていたの?

 

 ホントは僕の事好きじゃないの?

 

 感情のままに叫ぶ彼の形相を、両親は決して忘れることは無いだろう。怒り、悲しみ、憎しみ、そして己の価値観すら失いかけそうな失意の表情は、とても9歳児が浮かべるようなものではなかったからだ。もし彼がDIOではなく、他の男との間に生まれた子供であれば、程度の差はあれどここまで激高することは無かっただろう。しかし、悪のカリスマでもあり、吸血鬼となる以前からの生粋の天才気質だったDIOという父親を得たことにより、彼の精神は周りと比べてかなり成熟しきってしまっていた。今回は、その成熟した精神が逆に仇となってしまったのである。

 

 そんな彼に対し、両親は唖然とする医師に構うことなく彼に近づくと

 

 

 二人でその体を力いっぱい、しかし優しく抱きしめた。

 

 拒絶されるとばかり思っていた彼が茫然とする中、両親は涙ながらに彼に事情を説明し、そして謝罪の言葉を言う。

 

 拒絶されるのが怖かった。

 

 私たちの事を愛してくれなくなるのが怖かった。

 

 許してくれなくてもいい。ただ、自分に意味がないだなんて思わないで。あなたは紛れもなく私たちの息子なのだから。

 

 言葉だけ取れば耳触りのいい言葉とも取れなくないだろう。しかし、号泣しながら自分に縋りつく両親の姿を目にしてそんなことを考えるほど、彼の心は冷え切ってはいなかった。両親の涙は、彼の心に生まれた絶望を見事に打ち消したのである。

 

 この日、苗木家は本当の意味で家族となった。唯一心配であった妹も、退院後事実を知ってもなお彼を兄と呼び懐いてきた。こうして絶望の化身として生まれくる筈であった苗木誠は、本来の自分を取り戻し、なおかつさらなる心の強さを手にすることとなったのである。

 

 そしてその彼は今、人生において最大の転機を迎えようとしていた!!

 

 

 

 バスの中で突如として自分に接触してきた青年、ブローノ・ブチャラティ。自分を『涙目のルカ』をやった張本人と断定するやいなや襲い掛かってきた彼は、どんな手品か持ってきたらしいルカの遺体の一部を次々と苗木の体の中から出現させるなど、理解しがたい方法で苗木を追い詰めていった。

 

 その時、苗木は確信する。この男は、自分と同じ特殊な力を持った人間だということを!

 

 だがどうする。このままではいつか殺される。例え言い分があったとしても、自らをギャングと称するこの男は一切気にすることなく殺しに来るであろう。ならば方法は一つ、闘うしかない。闘って、この男を打ち破るしかない!

 

 止めを刺そうと向かってきたブチャラティに対し、苗木は自身の分身の名を叫ぶ。

 

「ゴールド・エクスペリエンス!!」

ブオン!!『無駄ぁ!!』バシイ!!

「なっ!?」

 予想外の反撃によってたたらを踏んだブチャラティに苗木は『ゴールド・E』の拳を叩きこむ。

 

「『WRYYYYYYYYYY!!!』」

メギャン!!

「グフッ!?」

 思わず出てしまった叫び-奇しくも父であるDIOと同じ叫びであった-と共に繰り出した拳はブチャラティの胸板に直撃し、運転席近くまで吹っ飛ばした。躊躇いがないように見えるが、実際この能力で人を殴ったことのない苗木は警戒半分、心配半分でそっと様子を伺う。

 

 そんな苗木の眼前で、ブチャラティはゆっくりと動き出す。ダメージが残っているのか、手すりを掴みながら起き上がろうとする。その時、なにやらこちらに向かって呟いてくる。

 

「この力…まさか貴様も…『スタンド使い』だったとはな…」

「…?何使いだって?」

 しかし、二人の会話が成立したのはここまでであった。

 

 起き上がろうとしたブチャラティが手すりを掴む腕に力を込めると、突如手すりがひしゃげ折れ曲がった。それだけでなく、思った以上のスピードで立ち上がることができ、さらには苗木に接近しようとするとあっという間に至近距離まで詰め寄ってしまった。

 

「なんだ!?こいつの能力か?だとしたらマヌケ極まりないぜ!敵にパワーを与えるスタンドなんてな!!」

 勝利を確信したブチャラティの拳が、未だ反応できていない苗木の顔面めがけ振り下ろされ-そのまま空を切った。

 

「なにぃ!?」

 混乱するブチャラティが苗木を確認しようと振り返る。すると、苗木の前方、先ほどまで自分がいた場所にあり得ないものを見た。

 

「俺がいる…だと…!?」

 そう、そこにはたった今立ち上がったらしい自分の体があった。しかも、先ほど捻じ曲げたはずの手すりが、未だ元の状態でそこにあった。そこでブチャラティはある仮定に至る。

 

 自分はパワーアップしたのではなく、感覚だけが先行してしまっているのではないか-と。

 

 そうこうしているうちに、チャンスと判断した苗木が未だ思考に体が追いついていないブチャラティに殴り掛かった。

 

「し、しまった!身を躱さなくては!」

 しかし、いくら思考が判断したところで体は動かず、振り下ろした『ゴールド・E』の拳がその顔面を捉える。

 

「ぐえっ!動きがゆっくりだっ!!……い、痛てえ!鋭い痛みが、ゆっくりやってくるっ!!うおあああああ!!!」

 顔をひしゃげ、歯を折りながらブチャラティの体はさらに奥にブッ飛ばされる。

 

「今の反応…どうやら『ゴールド・E』で生きている人間を殴って過剰に生命を与えると、意識だけが『暴走』してしまうみたいだな。なんでこんな能力があるのか知らないけど、今はこの状況を打破するのに使わせてもらおう」

 

 

 

 危機一髪のところを『ゴールド・E』の能力に救われた苗木。しかし、ブチャラティを倒すには至らず、再度攻撃するも彼のスタンド『ステッィキィ・フィンガーズ』により防がれてしまい、苗木がその姿に戸惑いを見せた隙にその能力らしい『ジッパーを張り付ける』力で姿をくらませてしまう。情報が広まるのを防ぐのとと彼に聞きたいことができた苗木はバスから飛び降りその跡を追うが、彼の姿を見失ってしまう。しかし、ブチャラティの折れ飛んだ歯を利用し市民の中に潜んでいた彼を引きずりだすことに成功する。

 だがブチャラティもそう何度も術中にはまる男ではなく、隠れ蓑に浸かっていた少年の腕をジッパーで己に繋ぎ止めて囮に使い、苗木を再び追い詰める。しかし、一瞬動きを止めたところを苗木の決死の攻撃によって隙を突かれ、また感覚を暴走させられてしまった。

 

「ま、まずい!またゆっくり見える!今度も避けられない!あのスタンド、パワーは無いがそれがまずい!!あんなものを何発も喰らえば、俺はショックで死んでしまう!!」

 

 再び迫りくる痛みに恐怖を感じるブチャラティ。だが、苗木はそんなブチャラティに目もくれず、彼の後方で倒れ伏す先ほどの少年に駆け寄った。

 

「なにっ!?」

 予想外の行動にブチャラティが戸惑っていると、今度はすぐに暴走が収まる。動けるようになったブチャラティはすぐに苗木に問い詰める。

 

「おい貴様!なぜ攻撃してこない!?止めをさすチャンスだろうに?」

「…あなたが、いい人だからです」

「なに?」

 疑問を浮かべたブチャラティに苗木が先ほどブチャラティが使った少年の腕を示す。

 

「彼の腕のこの傷痕、点滴にしては回数が多すぎる。とすると、自然傷の正体も分かる。…『麻薬』だ。彼、きっと僕とそう年も変わらないだろう。あなたは彼のこの跡にショックを受け、動きを止めた。そこで分かった。あなたは根はとても優しい人なんだって」

「……」

「それに…」

「…?」

 苗木はそこで言葉を切り、スタンドを収めブチャラティに向き直って言う。

 

「命の恩人をこれ以上攻撃するほど、僕は恩知らずではありませんから」

「命の…恩人だと?」

「覚えていませんか?一年ほど前に、このネアポリスで助けた、『矢』に刺された日本人の子供を…」

「…!そうか!お前あの時の…!」

「あなたには恩がある。だからもうこれ以上あなたと敵対する気はない。まずは歯を折ってしまってすいません…そして、ありがとうございました。貴方があの時助けてくれたから、今こうして僕がここにいれます」

 先ほどまで命を狙っていた相手に平然と謝罪し、あまつさえ礼を言う苗木にすっかり毒気を抜かれたブチャラティは、スタンドを収めて殺気を散らす。

 

「まったく、そんなことを言うためにわざわざイタリアまで来るとは、モノ好きな奴だ」

「こうでもしないと、すっきりしない性質でして」

「はあ…。…お前の事は見つからなかったことにしてやる。目的が済んだのならとっとと…」

 帰れ。そう言おうとした時ブチャラティの携帯に着信が入る。

 

「すまない、少し待ってくれ。…もしもし、はい」

「…」

「…いいえ、見つかりませんでした。すいません……」

「……」

「!なんですって!い、いえなんでもありません…。そうですか…はい、わかりました」

 電話先の会話でなにやら狼狽した様子を見せたブチャラティは、やがて通話を終えると苗木の方を向き、気まずそうな表情を向ける。

 

「…どうかしたんですか?」

「まずいことになった…。痺れを切らしたボスが、空港一帯の監視を始めたらしい。今行ったところでフライトまで足止めを食うだろうし、その前に『組織』の下手人に始末されかねない。『組織』は俺たちのような『スタンド使い』を多く内包している…。いくらお前でも確実に殺されるだろう」

 ブチャラティの言葉に、さすがの苗木も動揺を隠せなかった。彼のような能力者、『スタンド使い』というらしいが、そんな奴が大勢いるとなれば自分一人ではどうしようもない。おまけにここはイタリア、頼れるつてもない以上苗木は今孤立無援状態にあった。

 

「……仕方ない。あまり気は進まんが、この方法しかお前を帰す手がない」

 どうすべきか方法を模索する苗木に、ブチャラティが切り出す。

 

「…何か、手があるんですか?」

 問いかける苗木に、ブチャラティは意を決した表情で言う。

 

「一時、お前を俺の部下にする。俺はこう見えて組織の『幹部』といくつかコネがある。お前が俺の部下としていくらかの成果を上げ、組織に貢献すればルカの件ぐらいなら揉み消してくれるかもしれん…。それに、もし俺が『幹部』にでもなれば、お前一人を日本に帰すぐらいできるだろう」

 それは、遠回しでもなんでもなく『ギャングになれ』というものであった。ギャング、すなわち犯罪者、世界のはぐれ者。それしか手がないとはいえそんなものになれと言われたところで、即答できる者などそうはいないだろう。

 

 ところが

 

「はい、分かりました」

 苗木の返答は実にあっさりしたものであった。

 

「…いいのか?俺自身決してこの判断をいいものとは思っていないし、これからのお前にとって枷にもなりゆるかもしれないんだぞ?」

「確かに、ギャングになるのは気が進みませんよ。家族に心配をかけることになりますし、下手したら迷惑をかけるかもしれません。…でも」

 

「今生きている僕の命を、父さんと母さんが受け入れてくれたこの命を、諦めるようなことはしたくない。そこに希望がある限り、どんなことをしてでも僕は諦めない。ただ、それだけです」

 面と向かってそう言い切った苗木の眼には、決して揺らぐことのない『黄金の精神』と、目的の為に決して躊躇しない『漆黒の意志』の二つが垣間見えた。それを見たブチャラティは、苗木の意志の強さを見て、深く頷く。

 

「…分かった。あまり喜ばしいとはいえんが、歓迎しよう。お前のその黄金のような『希望』と、躊躇いのないその『意志』を…」

 

 こうして苗木誠は、ギャングの世界へと足を踏み入れたのであった。

 

 

 

 

 その後、ブチャラティの上司である幹部、『ポルポ』による『試験』を受けた苗木は、事故によりポルポのスタンド、『ブラック・サパス』と交戦し、無関係の老人の犠牲を出してしまいながらも機転を利かせてこれを撃退し、犠牲が出たことに無関心なポルポに怒りを抱いて『ゴールド・E』の能力を用いて差し入れのリンゴの一つに爆竹を混ぜて報復を行った。こうして無事に『試験』に合格しブチャラティの部下となった。

 それから、ブチャラティに連れられ着いた先で彼の仲間とあったが、日本人、しかもまだ15でカタギ上がりの苗木は当然歓迎されることなく厳しい歓迎を受けることとなったが、息つく間もなく、苗木により手痛い報復を受けたポルポが恨まれていた看守に殺されたという情報を聞いたブチャラティが自分が管理していたポルポの『隠し財産』を取りに行くと宣言したことにより、歓迎は中断となった。

 

 その先で、二人の『スタンド使い』の襲撃を受けることとなったが、その際苗木はほぼ初対面の仲間であるレオーネ・アバッキオを信頼し自ら囮となる行動を示したことにより仲間たちから信用を得ることができた。その後、多少の手傷を負いながらも『隠し財産』を手に入れ、それを『組織』に上納したことで晴れて『幹部』となったブチャラティはすぐに苗木を帰そうとしたが、その際命じられた『ボスの娘』トリッシュの護衛の任務により引き延ばしとなってしまった。

 

 そしてこの任務が、苗木にとって二度目の転機となる。

 トリッシュを預かった後、仲間の一人であるナランチャ・ギルガと買い出しに出た苗木は、出先で彼女を狙う組織の一員を名乗る男、『ホルマジオ』の襲撃を受ける。新入りの苗木にいいところを見せようと張り切るナランチャは彼のスタンド、『リトル・フィート』の『対象を小さくする』能力を喰らってしまい徐々に縮んでいった。そんな彼をサポートしていた苗木は、その過程でホルマジオからトリッシュを狙う理由を聞かされることとなる。

 彼らがトリッシュを、ひいてはその父である『ボス』を狙う理由。それは復讐。自分たちの扱いに不満を持った仲間が、ボスの正体を探ろうとして、これ以上ないほどむごい殺され方をされたが故に起こした反逆。突っぱねるような言い方ではあったが、その言葉端には、仲間を殺されたことに対する確かな怒りが見て取れた。

 結局、彼自身はその後ナランチャのスタンド『エアロスミス』の前に敗れることとなったが、闘いを終えたナランチャを介抱しアジトへ戻る道すがら中、苗木の心にはふつふつと湧き上がるものがあった。

 

「ブチャラティさん」

 苗木が話を切り出したのは、『ボス』の新たな指令でフィレンツェへと向かおうとする道中の時であった。運転していた(無免許なのでかなり嫌々ではあったが)苗木が助手席のブチャラティに話しかける。

 

「どうした、ナエギ?」

「…僕は、あのホルマジオという男から、彼らが『ボス』に反旗を翻した理由を聞きました。彼らは、仲間の仇を討つために闘っているんです」

「……だからどうした。感傷にでも触れたか?そんなことはこの世界ではざらにあることだ。いちいち気に留めていては、この世界では生き残れない。それとも、和解できるとでも思ったか?それこそ論外だ。甘ったれたマンモーニ(ママっ子)が吐くような台詞だぜ」

 ブチャラティのそっけない返答。しかしそれはギャングとして当然の考えであり、敵に情けを持った苗木が足元を掬われるのを心配したからこそであった。無論苗木にもその返答の予想はついていたし、ブチャラティのそんな気遣いも理解できていた。

 

「………でも」

 それでも、苗木は納得しきれなかった。

 

「だからこそ、僕は許せない。僕の知らない世界で、こんな卑劣な真似が行われていることを、僕は許せない」

 正義の味方を気取るつもりはない。ただ、今目の前で起こっている現実を、ありのまま受け入れるだけなんてことは、苗木にはできなかった。

 

「僕は今まで、自分の周りの平和が当たり前のことと思って生きてきました。けど、あなたたちと出会い、裏の世界に足を踏み入れて思いました。僕が知る世界の平和は、裏の世界の平和の上に成り立っているということ。だからこそ、自分のためだけに他者を食い物にし、のうのうと生きているようなやつを、放っておくわけにはいかない」

 子供にまで麻薬を売りつけ、その利益を漫然と受け、あまつさえ不満を持った部下を保身の為に殺すような『ボス』。そんな輩を野放しにすることは、苗木の中にある『黄金の精神』が許さなかった。

 

「ブチャラティ、あなただって同じ気持ちな筈だ。誰よりも組織の正義を信じ、それに裏切られたあなたなら」

「…」

 苗木は以前ブチャラティから彼がギャングなった経緯を聞いていた。彼の父親は、麻薬のバイヤーの商談を目撃したことで殺されかけ、父親を守るために殺人を犯したブチャラティは、組織の力を借りて父親を守ってもらった。しかし現実は、自分が信じて疑わなかった組織が麻薬に手を出している有様。その事実に、ブチャラティの心は大きく傷ついた。故に彼は、何とかしてそれを止めようと考えていたが自分一人の力では限界があり、半ばあきらめかけていた。

 

 苗木と出会うまでは。

 

「ブチャラティ、僕はあなたを『ボス』にする。今の『ボス』を倒し、あなたを新たな『ボス』にする」

「!!?」

 突然の宣言に、ブチャラティは思わず苗木を、そして後ろにいる仲間たちを見る。幸い、なにやらトリッシュのことで騒いでいるらしく運転席側の会話は聞こえていないようだ。

 

「…お前、自分が今何を言ったか、分かっているのか…?ギャングになるどころじゃない、『組織』への反逆は『ボス』への反逆。『ボス』は裏切り者を決して許さない。もし知られれば、組織全体がお前の敵になるんだぞ!」

「……確かにそうかもしれない。でも、僕は自分の気持ちに嘘をつきたくない。『絶望』に屈するようなことはしたくない。今僕の中にある確かな『希望』を絶やすようなことはしたくない」

 それは、ブチャラティへの言葉なのか。あるいはDIOという絶望より生まれた自分に対するものであったのか。それは苗木にしかわからない。

 

「今ここで逃げてしまえば、僕は僕でなくなってしまう。そんなことはしたくない。『希望』が『絶望』に負けてはいけない。だからこそ、僕は闘います。闘って、勝って、あなたという『希望』につないで見せます!」

 苗木の言葉に、ブチャラティはしばし沈黙した後、その瞳に強い決意を持って苗木を見る。

 

「…裏切り者に手を貸すことは禁じられている。もしお前が裏切るとバレた時は、俺はお前を助けないぞ」

「覚悟の上です」

「……いいだろう。ならば俺はお前に賭けよう。お前の気高き『覚悟』と、その黄金のような『希望』に…」

 この時ブチャラティは、苗木とは違う思惑を秘めていた。確かに『ボス』は倒す。しかし、新たな『ボス』となるのは自分ではない。目の前にいる、まだギャングとしての覚悟もままならないこの少年だと。

 

(苗木、お前は俺を『希望』と呼んだ。しかし、俺に『希望』を思い出させてくれたのはお前だ。お前には、誰かの『希望』となりうる力がある。それは俺には、いいや他の誰にもない力だ。この腐った世界を変えるには、その力が必要なんだ)

 この瞬間、ブチャラティは苗木の『上司』であると同時に『部下』となった。いずれ来たるべき時に、彼を『ギャング・スター』にする為に。

 

 

 

 一方その頃、日本にある『私立希望ヶ峰学園』の学園長室では、一人の男性がノートパソコンの画面を注視していた。

 

「…苗木、誠」

 男、『希望ヶ峰学園学園長』は、眼前の画面に映し出された人物の名前を呟く。それは、今期の新入生の中で抽選で選ばれた『超高校級の幸運』枠の生徒であった。彼のプロフィールを見る限りは、一見普通の学生に見える。しかし、この学園のスポンサーの一つでもある『SPW財団』の空条承太郎と名乗る男性より最近もたらされた情報が、学園長の中で引っかかっていた。

 

「母、苗木夕子。父、苗木俊。………血縁上の実父、ディオ・ブランド―…」

 父親が別というだけなら彼もここまで気にしなかったであろう。しかし、その父親が吸血鬼で、しかも世界を征服しようとしていた大悪党だと聞かされれば、流石に半信半疑といえど気にせざるを得なかった。しかも『スタンド』という未知の能力の存在まで目の当たりにさせられれば、なおさら信じるしかない。

 

「確かめるしかない、か」

 いくら己が選んだとはいえ、悪の権化ともいえるような存在の息子を易々と受け入れるほど彼は寛容ではない。故に彼は今回独自に苗木誠の調査を行うことに決めた。

 

コンコン

 と、そこで部屋のドアがノックされる。

 

「!来たか、入ってくれ」

 失礼します。そう言って入室してきたのは、まだあどけなさの残る少女であった。しかし、そばかすが特徴的なその顔と瞳には、まるで歴戦の戦士のような鋭さがあった。少女は部屋に入ると、ドアを閉め学園長に向き直ると背筋を伸ばして敬礼を取る。

 

「戦刃むくろ、ただいま参りました」

「ご苦労。依頼を受けてくれて感謝するよ。すまないね、入学前の、しかも『超高校級の軍人』の肩書きを持つ君に、こんなことを頼んでしまって」

 学園長は畏まった態度をとる彼女に苦笑すると席を勧めたが、彼女は首を振って立ったまま話し出す。

 

「いいえ、これも任務ですから。それより、頂いた資料を拝見したのですが…一体彼の何が気がかりなのでしょう?名前、家族構成、年齢、出身地など調べられる限りのことは調べましたがこれといっておかしな点は見当たりませんでした。軍人として差し出がましいようですが、理由をお聞かせ願いたいのですが…」

 彼女は裏の世界では名の知れた傭兵で、『超高校級の軍人』という肩書きを持っており、戦闘はもちろん、スパイ活動や諜報の分野においても高いポテンシャルを誇っていた。今回学園長から依頼された『苗木誠』という少年に関する調査も、調べること自体は彼女にとって造作もないことであったが、これといって疑問になるような結果がでなかったのである。

 そんな彼女に、学園長はしばし考え込むとやがて首を横に振って向き直る。

 

「…いや、それは私から言うことはできない。君に余計な先入観を持たせて彼を視てもらいたくは無いからね」

「…といいますと?」

「君にはこれからイタリアに飛んでもらう。SPW財団からの情報によると、現在彼はイタリアに旅行に行っているらしく、しかも複数の人物とイタリア各地を飛び回っていると聞いた。明らかに不自然な行動だ。故に君にはその行動の意味を知り、その上で彼という人間をしっかり見極めて欲しいんだ。……本来なら私自ら行くべきなのだが、生憎仕事で手が離せなくてね。そういう訳だから、よろしく頼むよ」

「ハッ!了解しました!!」

 敬礼をして返事する戦刃に、学園長は表情を和らげて言う。

 

「まあ半分観光みたいなものと思って気楽に行ってくれればいいさ。聞くところによると戦場さん、妹さんがいるんだって?その子と一緒に行ったらどうだい?」

「ハッ…?…い、いやしかしそこまで…」

「いいんだっていいんだって。こっちの都合なんだからそれぐらいいいさ。二人でゆっくり楽しんで、そのついでに見てきてもらえばいいさ。それじゃあ、あとはよろしくね」

「は、はあ…」

 一転してフランクな態度を取る学園長に肩透かしを食らいながら戦場は依頼を受けた。そして後日、彼女は妹と共にイタリアへと飛ぶ。

 

 そこで待ちうける予想だにしない光景と、その先で見る存在を知らずに。

 




ちなみにこの苗木君の初めての殺しはメローネなのでポルポに関しては直接犯ではありません
そして次回はもうイタリア編ラストです

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