今回はゼロ編を更新します。…といってもまだ導入部みたいなもんですけど
「……」
希望ヶ峰学園学園長室にて、学園長は自分が呼び出した『ある人物』を待っていた。
コンコン
「…!入ってくれ」
「…失礼します」
やがて部屋の扉がノックされ、学園長に促されて入って来たのは、娘である『霧切響子』であった。
「よく来てくれた、響子…」
「ええ。…それでお父さん、話って何かしら?」
「ああ…、『話』というより、これは『頼み』なんだが…」
「頼み?」
「ああ。お前に…『霧切』としてのお前に、『依頼』をしたい」
「…ッ!」
その言葉に霧切は驚いたような表情をし、しかしすぐに顔つきを改める。
「…そう。それで…『学園長』、依頼の内容をお聞かせ願えるかしら?」
先ほどまでの『親子』としての顔ではなく、『探偵と依頼者』としての物言いに瞬時に切り替わったことに、娘の成長を実感しながらも学園長は真剣な表情で話を切り出す。
「…『カムクライズル』という生徒について、できる限りの『情報』を集めて欲しい」
「『カムクライズル』…?聞いたことが無いわね」
「ああ…生徒会の『編入生』と言った方がキミには分かりやすかったかな?…彼に関する情報が欲しい、頼めるな?」
「…それは、『誠君がいなくなった』ことに関係しているのかしら?」
「ッ!」
一番訊かれたくない、しかし確実に訊かれると思っていたその質問に、学園長はわずかに顔を顰める。
「…感心しないな。探偵ともあろうものが『プライベート』を持ち込むのは…」
「これは『探偵』としての純粋な質問よ。…ここ最近の誠君は妙に殺気立っていたわ。それに『生徒会の長期活動停止』に連絡の取れない役員の先輩たち、そして『休学届』を出して急にいなくなった誠君に今回の依頼…関連性を疑わないほうがどうかしているわ」
「……」
「…関係があるのね?」
射抜くような霧切の視線に、学園長は音を上げたようにデスクから一通の封筒を取り出す。
「『例の事件』のことは、どうせ知っているのだろう?」
「…ええ。信じがたいことではあったけど…誠君の様子で真実だと理解したわ。今回の依頼は、やはりそれが関係しているのね」
「…先日、苗木君からこれを渡された」
「?…これって…ッ!?」
その封筒に書かれた文字に、霧切は思わず目を見張る。そこには霧切にとっては見間違う様にない『苗木の字』で、『退学届』と書かれていた。
「退学届…!?あなた、まさか受理したんじゃあないでしょうね!?」
「と、とんでもないッ!受理するはずが無い、できる訳がないッ!…これはあくまで預かっただけだよ。必要が無くなれば即処分するさ」
「…そう、ならいいわ。でも、こんなものをあなたに渡していくなんて、誠君も今回は危険と覚悟しているみたいね」
「ああ…。最後に彼と話をした時の彼のあの『眼』は忘れられないよ。あの眼は『目的の為ならば手段を選ばない』ものだった。…だからこそ彼はこれを用意したんだ。いざという時に、我々を巻き込まないようにするためにね…」
「……」
「今回お前にこうして『依頼』をすること自体、彼の意に沿うものではないだろう。お前に一言も言わずにいなくなったということは、お前を…皆を巻き込みたくないからということだろうからね。だが、私にもこの学園の学園長としての『プライド』がある…!学園の生徒を殺された挙句、その後始末を生徒…しかも将来の『息子』にさせたとなれば、『俺』はあいつにも、親父にも会わせる顔が無いッ!…最も、その為に『娘』の力を借りるのだから矛盾しているがね。こういうときは、縁を切っていても自分が『霧切の人間』だということを心底実感するよ…」
「…随分誠君のことが分かっているみたいね」
「当然だろう。彼は『お前が選んだ男』で、私にとっても自慢の『息子』なんだ。伊達に一年近く盃を交わしてはいないよ」
「…『義理の息子』のことがそこまで分かっているのなら、『血の繋がった娘』の考えぐらいは分かるわよね?」
「…ありがとう、響子」
「別に、礼を言われるようなことじゃあないわよ。どの道一人でも誠君の事は追いかけるつもりだったわ。…2,3日時間を頂戴。できる限りのことは調べてみるわ」
「ああ、頼む。…くれぐれも、気をつけてな。無茶はするなよ」
「分かってるわ。…またね、お父さん」
最後に『親子』として一言を交わし、霧切は学園長室を去っていった。
「ま、つ、だ、くぅ~ん!!」
「うるせぇ」
自分に飛びついて来た少女に対し、松田夜助は無情な『コミックボンボンガード』を顔面に叩きこむことで応える。
「へぶっ!?…いった~い!もう、なんでそんな酷いことするのー?」
「お前がうっとおしいからに決まってるだろうが、ブス」
鼻の頭を押さえて松田に文句を垂れるのは、二人がいるこの医務室の主である松田の『患者』であり同時に『幼馴染』の『音無涼子』である。…最も、『今』の彼女が自分の名前を憶えているかどうかは不明であるが。
「ブスって言った!またブスって言ったよ!酷いよ松田君!」
「ブスにブスって言って何が悪……おい、ブス」
「ま、また言った…」
「…お前、今『また』って言ったな。俺が前に『ブス』って言ったこと…『憶えてんのか?』」
「ふぇ!?ま、松田君…か、顔が近い…!」
「グダグダうるせぇ。黙って答えろ、…憶えているんだな?」
「へ?…あ、うん。なんか最近、調子イイみたいなんだ…アハハ!この『ノート』とオサラバする日も近いのかな?」
「…『調子がいい』、ね。いいんだか『悪い』んだか…」
「…?なんの話?」
「なんでもねえよ…おら、さっさと横になれ。『治療』の続きをするぞ」
「…はーい」
音無涼子は、極度の『記憶障害』を持っていた。いつからかは不明だが、彼女はほんの短い時間しか『記憶』を維持しておくことができず、酷い時には憶えた瞬間に忘れてしまうこともしばしばあった。忘れたことすらも忘れてしまうため、当然ながら原因やきっかけすらも憶えているはずもなく、彼女は『同じ学園の生徒』である脳科学者の松田の下でこうして治療を受け続けているのである。彼女が手にしている『音無涼子の記憶ノート』と題されたそのノートも、彼女が憶えたことを忘れる前に書き綴ったものであり、音無涼子にとっては『外付けの脳』と言っても過言ではない代物であった。
「ドゥフフ…」
「…何気色の悪い笑い声出してんだ。カエルかテメーは」
「人間だよ!…いやね、私って幸せだな~って。私がこの…えーと、希望ヶ峰学園…だっけ?ここの学校の生徒だったおかげで、こうして松田君に私の病気を治してもらえてるだな~…って」
「…言っとくが、お前今『休学』扱いなんだからな。仮に学園の奴とあっても、生徒扱いしてもらえるとは思うなよ」
「ええッ!?なんで!?」
「…一分前のことも憶えてないような奴が高校生なんざできるわけねーだろ。常識で考えろ」
「あ…そっか。…うん、このノートにもそう書いてある。私って、やっぱり駄目な奴なんだね…」
「…何糞つまんねえことで落ち込んでんだ。『退学』にならないだけマシだろうが」
「…え?なんで退学にならないの?」
「…俺が掛け合ってやったんだろうが。貴重な研究サンプルに逃げられちゃもったいねえなから」
「え?松田君が……えへへ、嬉しいなあ。松田君が庇ってくれたんだァ…」
「研究サンプルとしてって言ってんだろうが…」
「それでも!…松田君が私の事を気にかけてくれたことが、私にはたまらなくうれしいのです!」
「…あっそ」
晴れやかな笑顔を見せる音無に対し、松田は音無に顔を見られないようにカルテを弄るそぶりを見せながら顔を隠す。
「…ところで、ここに来るまでに誰かに声をかけられたりしなかったか?」
「へ?えーと…うん、今日は…っていうか今日もだけど松田君以外とは話してないよ」
「そうか…ならいいんだ」
「?」
きょとんとする音無を余所に、松田はカルテに目を通しながらつい先日のことを思い出していた。
「…う、おおッ…!?」
『私の姿が見えるな…?どうやら、問題なくスタンドは『適合』したようだな』
焦燥した様子の松田の頭部に『DISC』を埋め込んだのは、以前学園に侵入し苗木によって撃退された筈の『ホワイトスネイク』であった。
「ッハァ…ハァ…。お、俺に…なにしやがった…化け物…ッ!」
『化け物とは心外だな。『彼女』から私のような存在の事は聞いているのだろう?』
「…じゃあ、言い方を変えてやる。俺になにしやがった…『スタンド使い』ッ!」
『…ふむ。その質問に答えるなら…キミを『私と同じ存在』にした。…というのが正しいだろうな』
「何…!?」
『今君に与えたのは『クヌム神』というスタンドのDISCだ。戦闘能力こそないがこと『擬態』に置いてはスタンド能力の中でもかなりのクオリティの高さがある。…まあ、そんなことはどうでもいい。肝心なのは『どんなスタンドを与えたか』ではなく『スタンドを与えた』という事実だ。こうして私と会話をする、ただそれだけの為であればなんでも構わないのだからな…』
「何を…言ってやがる…!?」
『…今現在、『彼女』が置かれている状況は貴様が一番理解しているだろう。そして…貴様が『最も恐れている事態』を引き起こしかねない『存在』のこともな…』
「…!お前、アイツの知り合いか…」
『単刀直入に言おう。…再び私が貴様の前に姿を見せる時まで、『彼女』を苗木誠に接触させるな。どんな手を使おうとも、絶対にヤツを近づけさせてはならない…ッ!』
「…それも、アイツの『計算』の内か?」
『だったらどうだと言うのだ?貴様がどう行動しようが勝手だが、彼女の『計算上』以外で貴様にあの男を欺く策があるとでも言うのか?』
「…クッ」
『…そのスタンドは好きに使うと良い。そいつには明確なスタンドのビジョンは存在しない、公で使った所で他のスタンド使いにすら分からないだろう。…だが忘れるな、苗木誠の前では『表面上の変化』は通用しない。貴様も、『彼女』も、苗木誠の前では丸裸も同然なのだ。そのことを、ゆめゆめ忘れぬことだ…』
「…どういう意味だ?」
『知る必要はない。知ったところで貴様程度にはどうにもならないことだからだ。それほどまでに苗木誠の力は圧倒的で、常人には理解しきれぬものだからだ。『彼女』ですら匙を投げるほどの力を、貴様にどうにかできるのか?』
「…チッ」
『分かったら余計なことは考えないことだ。いずれ『時』が来る、『運命』は既に動き出しているのだ。その時が来るまで…貴様は貴様の『務め』を果たせ。それが神が与えた、お前の『使命』なのだから…』
「…クソが、なんであんな奴に…」
「松田君?どうしたの?」
「…なんでもねえよ、顔が近ぇんだよブス。黙って寝てろ」
「はぁい…」
「…そのまましばらくおとなしくしてろよ。俺が戻ってくるまでな」
「…え?ま、松田君どこか行っちゃうの!?」
「少し用事だ。…勝手にどっか行くんじゃねえぞ」
「ま、待ってよ!もうちょっと一緒に…」
「却下だ。…最近は学校の周りも煩くなってる。ちゃんと戻っては来てやるから大人しくしてろ」
ピシャ!
「あ…ッ!もう、松田君のイケズ…」
間接的には『彼女』の言葉だとはいえ、得体も知れない奴の言いなりになっている自分に悪態をつきながら、松田は音無を残し医務室を後にした。
その頃、希望ヶ峰学園『地下』…希望ヶ峰学園の『評議委員会』と政府関係者及び希望ヶ峰学園の一部教職員にしか知られていないその空間に、苗木誠は潜んでいた。
「…学園長から聞いてはいたけれど、まさか学園の地下にこんな施設があったとはな。あのジジイ共め…ここで一体なにをしていたんだ?」
学園長に退学届を突き出した苗木は、身辺の整理を済ませあたかもしばらく学園から出て行ったという風なアリバイを作ると、こっそり学園に戻り、依然学園長から聞いていたこの施設への侵入を試みていたのである。目的は無論、生徒会役員たちを惨殺したあの男の正体を掴む為である。
コツコツ…
「……行ったか。しかし、この規模の研究施設の割にはさっきから見かける職員の数が少ないな…。もう研究は終わっているのか?」
時折見かける職員の中に自分も何度か世話になった覚えがある教師の姿があるのに複雑な心境になりながらも、苗木はそのことを疑問に思う。
「…まあ考えてもしょうがない。徹底的に調べれば済むこと…おっと」
曲がり角の向こうから人の気配を感じ、苗木はとっさに手近な部屋に身を隠す。
コツコツ…
「チッ…『予備学科』の連中のせいでせっかく完成しかけていた研究がストップだ。あの『試作品』も爺さんたちが匿っちまって音沙汰ないし…あーあ、まったく嫌になるな…。とはいえ、あんまりやり過ぎれば新月の奴みたいにサツに目をつけられかねないし…まったく、世知辛いねえ…」
コツコツ…
「……行ったな。しかし、あの男…妙なことを言っていた。予備学科のせい…ってのは、多分今地上で起きてる『パレード』とやらのことだよな。…となると、やっぱり学園長が言ってた通り予備学科はここの研究資金を集める為だけの制度だったみたいだな。…けどそれ以上に気になるのは…『試作品』、一体なんのことだ?爺さんたちが匿ったということは、あのジジイ共がなにかを隠しているのか……ん?」
ふと苗木が辺りを見渡すと、『偶然』入ったその部屋には沢山の本棚と種類別に分けられているらしい無数のファイルや本が存在していた。
「もしかしてここ…『資料室』だったのか!…こういう時は自分の『幸運』に感謝だな。これであちこち調べる手間が省けるかもしれない…!」
辺りに誰も居ないのを確認すると、苗木は資料室の扉を閉めて鍵をかけ、部屋の監視カメラにトカゲを這わせてカメラを塞ぐと、近くの本棚の書類を手に取った。
「まずはコイツだな。さて、何の資料なんだか…」
苗木が手に取った書類の表紙には、こう書かれていた。
『カムクライズル計画 第1期生研究資料』と…
今月のキラーキラー見ましたけど…いきなり汚い花火とはやるじゃねえか!(ベジータ感)
しかし逆蔵さん、宗像の右腕とはいえあんなこともやるんですねえ。…なかなか改変し甲斐のある内容なので続きが楽しみですね。…月刊だからすげー待ち遠しいのが難点ですけど